あらすじ
第1巻
鼎学園中東部の卓球部に所属する少年、嵐場一己は、小学4年生で初対戦して以来、あらゆる大会で負け続けている不倶戴天のライバル、凪卓海が、進学先を探し、鼎学園まで見学に来ると聞き、一人いきり立っていた。練習場に姿を現した卓海と練習試合をする事になった一己は、今までの鬱憤を叩きつけるような気合の入ったラケットさばきを見せ、卓海に勝利を収める。しかし敗れてなお覇気がなく、試合中も母親である凪美咲貴の事ばかりを気にしている卓海に対し、一己は「俺はお前とは戦っていない」と一喝。その言葉に発奮し、残りのゲームで本気の片りんを見せた卓海は、帰宅後に鼎学園への入学を決めるのだった。春を迎え、共に鼎学園の高校1年生となった一己と卓海は、卓球部で互いに切磋琢磨する間柄となり、部活内のリーグ戦などを通じて技量を高めていく。しかし、勝負にかける執念と迫力では誰にも負けない一己をもってしても、卓球のエリートである卓海や、2年生の上位の先輩にはほとんど勝つ事ができないでいた。自分の力不足を思い知った一己は、球種を増やすため、先輩の雨宮修吾から指導を受け、卓球部随一の野生児として、その力を伸ばしていくのだった。
第2巻
鼎学園が千葉羽鳥高校との練習試合に出向く当日、凪卓海の母親、凪美咲貴が突然現れた。聞けば、前日の寮に姿を現し、卓海の髪を切っていたという。息子離れできない美咲貴の存在に一抹の不安を覚えつつ、千葉羽鳥高校へと向かった鼎学園卓球部一行。その練習試合で、それぞれが持っている力量を存分に見せつけ、シングルスにおいてもダブルスにおいても、千葉羽鳥高校の卓球部を圧倒していく卓球部の面々。しかし、練習試合について来た美咲貴が気になり、まるで本領を発揮できなでいた卓海を、美咲貴は叱責。その直後、助け船を出した嵐場一己を馬鹿にするような態度を取った美咲貴に怒り出した卓海は、生まれて初めて美咲貴に反抗し、彼女を長野へと追い返すのだった。図らずも美咲貴に反抗してしまったショックで落ち込む卓海だったが、仲間との交流を経て、卓海は、実家暮らしではありえなかった自立心を徐々に育んでいく。後日、来るべきインターハイで勝ち抜くために、チームの底上げを目論んでいた涼風そよは、学内競争を期待して、一己と卓海にダブルスを組ませ、彼らの成長をうながす。ダブルスをプレイした事がない卓海は戸惑いながらも、一己といっしょにコンビネーションを充実させていく。そして迎えた関東大会の予選、一己はベンチメンバー入りはしたものの、スターティングメンバーからは外れてしまう。レギュラーとなった卓海をはじめ、順調に活躍する仲間を見て動揺を隠せなくなった一己は、途中出場を果たすが、ふがいない試合をして、初戦を終えてしまう。傷心のまま帰宅した一己は、母親が倒れ、緊急入院した事を知る。練習に出ず、母親を見舞う毎日を送るうちに、現実の生活に打ちのめされ、卓球をやる意味すら見失いかける一己。そんな一己に対し、卓海は自分との卓球勝負に勝ってから部を辞めるようにうながす。退部をかけた試合でも、卓海の持つ圧倒的な技量の前に圧倒され続ける一己。しかし、卓海の自分が勝って当然だという態度を見て、持ち前の負けん気と闘争心が蘇った一己は、最後の最後まで食らいつき、勝負をきわどい接戦へと持ち込む。試合を通じ、自分の強さを相手に認めさせたいという強い気持ちが芽生えた二人は、再び高校卓球界の頂点を目指すため、練習を再開するのだった。
登場人物・キャラクター
嵐場 一己 (あらしば いつき)
鼎学園に通う高等部1年生。元気いっぱいな少年。8月1日生まれのしし座。血液型はA型。卓球部に所属している。非常に負けん気が強く、勝利への執念と闘争心は人一倍というパワフルなタイプ。気迫あふれるラケットさばきから繰り出される、力強いパワードライブを持ち味にしている。小学生の時に卓球を始めて才能を開花させ、涼風そよの推薦を受け、特待生として鼎学園に入学した。 母子家庭で育ち、父親が残した借金によって苦労を重ねてきた母親の姿をずっと見続けてきたため、家族を守ろうとする意識が強い。小学4年生の時に試合して以来、各種の大会で一度も勝利できなかった凪卓海を勝手にライバル視しており、彼が鼎学園を見学した際に、練習試合で勝ち、卓海が鼎学園に入学するきっかけを作った。 猪突猛進気味で根が単純なため、卓球においてはそれが長所にも短所にもなっている。部活動では仲間と共に日々切磋琢磨しているが、使いこなせる球種が少なく、その力量はレギュラーには及ばない。そのため、今はまだベンチメンバー止まり。何かと荒っぽく、表面的には繊細さとは無縁な性格だが、ストイックな面も併せ持ち、片道40分の自転車通学で自分を鍛えている。 口ばかり達者で、母親に苦労をかけて蒸発した父親を嫌っており、彼のようにはならない事を心がけている。妹の嵐場璃子からは「お兄」と呼ばれていた。
凪 卓海 (なぎ たくみ)
鼎学園に通う高等部1年生。おとなしい性格の少年。2月20日生まれのうお座。元有名卓球選手の凪三郎を父親に持ち、卓球の英才教育を受けて育ったエリート。卓球の技量は非常に高く、意外性はないが、正確無比なプレイが持ち味とする。小学生の頃は向かうところ敵なしで、各種大会の表彰台の常連だった。小学4年生の時から嵐場一己に一方的にライバル視されているが、本人は意に介していなかった。 中学3年生の時、進学先を決めるために卓球の強豪校である鼎学園に見学に行った際、一己との練習試合に敗れ、彼の「俺はお前とは戦っていない」という言葉に触発されて、鼎学園への入学を決める。有望な卓球少年だった亡き兄の凪卓人の後継者として、両親に言われるがまま卓球を始めたが、母親の凪美咲貴が自分を通して亡くなった卓人の姿を見ている事に気が付いており、内心では忸怩(じくじ)たる思いを抱いている。 一己が「卓人の幻影」ではなく、「自分自身」を一人の人間として認めてくれる事を嬉しく思っている。普段の生活ではおとなしく能天気で、どことなく天然な、ごく普通の少年。しかし、ひとたび卓球の試合となると、長年のトレーニングに裏打ちされた、正確で巧みなプレイを披露する。 実はかなり負けん気が強く、特に一己には絶対に負けたくないと思っている。試合の勝利後に、右腕と左足を同時に上げる奇妙なポーズをとるのが特徴。美咲貴からは「たっくん」と呼ばれている。
涼風 そよ (すずかぜ そよ)
鼎学園の女性教師。男子卓球部の顧問を務めている。3年連続で卓球部をインターハイに導いている、若き有能な指導者。教師になる前は卓球選手だった時期があり、選手時代の彼女を知る天晴大蔵が、鼎学園に入学するきっかけとなっている。生粋の指導者と言える性格をしており、卓球の才能を持つ人間を見ると、自身で育てずにはいられない。 加えて人を見る目も優れており、嵐場一己の野性味あふれる無限大の才能や、母親の目ばかりを気にして自分の色を出せない凪卓海の卓球の限界を、瞬時に見抜いていた。誰が相手でも物おじしないタイプだが、凪美咲貴だけは少々苦手。生徒から年齢を聞かれる事もあるが、涼風そよ本人は秘密にしている。
凪 三郎 (なぎ さぶろう)
高校で卓球の指導者をしている男性。凪卓海の父親。もともとは将来を嘱望された有名な卓球選手だったが、腰の怪我が元で大成できなかった。妻である凪美咲貴といっしょに卓海に英才教育を施し、立派な卓球選手にしようとしている。事故で亡くなった長男の凪卓人の姿を、美咲貴が次男の凪卓海に投影し、彼を束縛し続けている事に気づいているが、美咲貴の心情を考え、何も言えないでいる。
凪 卓人 (なぎ たくと)
凪三郎と凪美咲貴のあいだに生まれた長男。故人。三郎が果たせなかった夢をかなえるため、世界的に有名な卓球選手になるべく英才教育を受け、順調に育っていたが、不慮の事故により、若くして命を落としてしまう。美咲貴からは「たっくん」と呼ばれていた。
凪 美咲貴 (なぎ みさき)
長野県在住の専業主婦。凪卓海の母親で、非常に教育熱心な女性。卓海を優秀な卓球選手にするために、あらゆる方面で全力のバックアップをしている。卓海の練習試合にもわざわざ上京して顔を見せるなど、かなり過保護。そのため、卓海が美咲貴の目ばかりを気にして、思い切った卓球ができなくなる要因になっていた。潑剌とした性格だが、人を値踏みする計算高いところがある。 長男である凪卓人の事故死から未だに立ち直れておらず、卓海に卓人の姿を投影し、束縛している。
安曇 明大 (あずみ あきひろ)
鼎学園に通う高等部2年生の少年。卓球部に所属している。卓球の技量はベンチメンバーに入れるかどうかのギリギリのレベル。嵐場一己の幼なじみにして兄貴分で、彼を卓球の道に誘った張本人。小さい頃は一己のよきライバルとして、あらゆる方面で彼をリードする立場だったが、卓球の実力で大きく水を開けられてしまった。それに不満を抱いているわけではないが、なんとなくくすぶった生活を送っている。
霜田 圭一 (しもだ けいいち)
鼎学園に通う高等部1年生の少年。卓球部に所属している。おとなしくて純朴な性格の持ち主で、中学生の時に、和歌山県の卓球大会で県のベスト4に入った実力者。高いレベルの卓球をするために県外受験をして鼎学園に入学した。入部当初は卓球部のレベルの高さに驚き、周りと自分の才能と引き比べて劣等感を感じていたが、徐々に前向きになり、ひたむきに練習に打ち込むようになる。
霧島 岳 (きりしま がく)
鼎学園に通う高等部1年生の少年。卓球部に所属している。ボリュームのある髪型と、淡々とした性格が特徴。部内での実力は中位で、1年生の中ではなかなかの有望株。霜田圭一の友人で、圭一には性格が悪いから嫌らしい球が出せるという、微妙なほめ方をされていた。
雪丸 瑠衣 (ゆきまる るい)
鼎学園に通う高等部2年生の少年。卓球部に所属している。物静かな性格で、つねにボーッとしており、一見すると、やる気がなさそうにも見える。しかし部内では上位の実力の持ち主で、レギュラーに近い選手。関東大会予選で試合に出場し、サービスエースを何度も決めていた。
雷伝 太郎 (らいでん たろう)
鼎学園に通う高等部2年生の少年。卓球部に所属している。明るく、のんびりとした性格の持ち主。卓球の実力は大した事がなく、さほど努力もしていない事からベンチ入りの目もないが、卓球が好きなため、ずっと続けている。安曇明大の友人で、いつも行動を共にしている。
天晴 大蔵 (てんせい たいぞう)
鼎学園に通う高等部2年生の少年。卓球部に所属している。大声を出して自分や仲間を鼓舞する熱血漢で、部内でも1、2位の実力を誇るエース格の選手。中学2年生の時には近畿大会でベスト8に入っている。嵐場一己に対して技術的なアドバイスをしたり、ご飯を分けてあげたりと、後輩に対する面倒見もいい。そのため、ほかの部員からは慕われており、親しみを込めて「あっぱれ」というあだ名で呼ばれている。
雨宮 修吾 (あまみや しゅうご)
鼎学園に通う高等部2年生の少年。卓球部に所属している。眼鏡をかけた、端正かつクールな性格で、部内では天晴大蔵と凪卓海に次ぐ実力者。卓球歴は10年以上あり、3つ上の先輩のインターハイ出場を聞いて、鼎学園への入学を決意した。球種が少ない嵐場一己に対し、技術的な指導をしていた。
熱川 裕人 (あつかわ ひろと)
鼎学園に通う高等部2年生の少年。卓球部に所属し、部長を務めている。中学校から卓球を始め、努力を重ねて、都大会でベスト8まで残るまでの実力を身につけた。部内ではそれでもベンチメンバー止まりだったが、関東大会の初戦において、ついにレギュラー入りする。「勝つためには走るしかない」が信条で、タイプ的には嵐場一己とよく似ている。 同級生からは「ヒロ」と呼ばれていた。
嵐場 璃子 (あらしば りこ)
嵐場一己の妹。ごく普通の女子中学生。自分の事をしっかり者だと思っているが、母親が倒れて入院した際に、動揺して号泣してしまうなど、まだまだ子供らしさが残る。一己の事を「お兄」と呼んでいる。
嵐場一己の母親 (あらしばいつきのははおや)
嵐場一己の母親。女手一つで一己と嵐場璃子を育てている苦労人。夫は多額の借金を残して蒸発している。一己の卓球にかける情熱に理解を示し、苦しい台所事情の中でも、アルバイトを掛け持ちして、懸命に彼の夢を支え続けていた。のちに体を壊してしまい、入院を強いられる。ざっくばらんな性格で、誰とでもすぐに打ち解けられるタイプ。