虚構と現実が交錯するミステリー
主人公、山内海の中学時代のクラスメート、鈴木と川瀬が連続して殺害される事件が発生した。海の恋人で文芸書の新人編集者の八木沢珠緖は、自社の公募小説の落選作『ザシス』の内容が、二つの事件に酷似していることに気がつく。『ザシス』の作者名は佐伯遥人。遥人もまた、海の中学時代のクラスメートで、鈴木や川瀬らにいじめられていた人物であった。そしてその後も、小説に書かれている通りのことが起こり、遥人をいじめていた元クラスメートに魔の手が迫る。本作は、虚構と現実が交錯するミステリーであり、物語が進むにつれ、海や遥人たちのクラスの「過去」も明らかになっていく。
セミドキュメンタリー小説『ザシス』
『ザシス』は中学時代にいじめられた遥人が、淡々と加害者たちに復讐(ふくしゅう)する様子が描かれた、セミドキュメンタリー小説である。校舎3階のバルコニーから遥人を吊り出した鈴木はビルの屋上から突き落とされ、死んだネズミを遥人のシャツに入れた川瀬は複数のネズミに腹を食い破られる、という復讐方法が描写されており、実際にその通りの事件が起きる。小説ではその後、遥人からクラスメート全員に同窓会の案内状が届くのだが、それも現実のものとなった。しかし、小説のその後の展開は、珠緒が原稿を紛失してしまっていてわからない。遥人をいじめていたのは、他に重松や児玉がおり、彼らも犠牲者になるかもしれない。珠緒は、公募作の選考で『ザシス』を下読みした小説家の本屋敷に物語の後半を教えてもらおうと奔走する。
海が恐れる1年前の事件
いじめを受けていた遥人が書いた『ザシス』という小説通りに事件が起きている。その事実を知った海の元クラスメートで、現在も親しい田宮晋太郎は、遥人による復讐ではないかと推測する。しかし、それはありえないことであった。1年前、遥人はいじめっ子の児玉と重松に偶然再会した。そして、児玉に殴られて逃げ出したところを、海が運転する車にひき逃げされ死んでしまったのだ。その後海は、児玉と重松が遥人を山奥に埋めた現場を目撃していた。その話を聞いた珠緒と田宮は、海とともに遥人が埋められた場所へと向かう。しかし、そこに遥人の遺体はなく、掘り起こされた跡があるのみだった。遥人は本当に死んだのか、死んだとしたら誰が小説通りの殺人を行っているのか。謎が深まる中、淡々と凶行は行われていく。
登場人物・キャラクター
山内 海 (やまうち かい)
中学教師になったばかりの24歳の青年。スティーブン・キングをはじめ、ホラー小説を読むのが趣味。出版社で文芸書の新人編集者をしている八木沢珠緖という恋人がいる。中学時代のクラスメートの田宮晋太郎が近所に住んでおり、親しくしている。かつて佐伯遥人を虐めていた元クラスメートたちが、『ザシス』という小説通りに殺されていく事件が起こり、その真相を追うことになる。
八木沢 珠緒 (やぎさわ たまお)
出版社に勤務する「小説つばさ編集部」の新人編集者の女性。髪型はポニーテールで、ドジなところがある。山内海の恋人。担当している小説家の本屋敷が、盗作騒ぎで炎上する中、海の同級生が殺された事件が、自社で公募した新人賞の落選作『ザシス』の内容に似ていることに気がつく。『ザシス』の原稿の後半部分を紛失してしまっており、内容を知っていると思われる本屋敷に接触する。
田宮 晋太郎
山内海の中学時代のクラスメートの青年。24歳で、実家が裕福で定職にはついておらず、バンドをやっている。海の近所に住んでおり、親しくしている。『ザシス』という小説通りに、元クラスメートたちが殺されていることを知り、海や八木沢珠緒と事件を追う。
佐伯 遥人
山内海の中学時代のクラスメートの青年。すでに死亡していると思われる。天然パーマで、小説を書くことが趣味だった。上唇から左目の下まで、皮を剥がされた細い傷跡が特徴。中学3年生のある日から、四人のクラスメートからいじめられるようになった。八木沢珠緒が勤務する出版社主催の新人賞に、『ザシス』という小説が応募されており、その作者名が佐伯遥人だった。
書誌情報
ザシス 3巻 集英社〈ヤングジャンプコミックス〉
第1巻
(2023-04-18発行、 978-4088927305)
第2巻
(2024-01-18発行、 978-4088928739)
第3巻
(2024-05-17発行、 978-4088931753)