ダンサーから能楽師への新たな挑戦
幼い頃から身体を動かすことが大好きだった琥太朗は、人気ダンスグループ「DAZE」のメンバーとして、その圧巻のパフォーマンスで多くのファンを魅了していた。しかし、ライブ中の事故で仲間の一人、chikaをかばった際に火傷を負い、顔に傷痕が残ってしまう。グループの未来を思い、自らの意思で引退を決意した琥太朗は、自分の進むべき道を見失い、絶望の日々を送っていた。そんな中、祖母の遺品の中から1枚のチケットを見つけ、宝華能楽堂で「清経」を鑑賞する。そこで彼が目にしたのは、宝華至龍が主役を務める、悲劇を背負いながらも力強く舞う姿だった。その圧倒的な演技に心を奪われた琥太朗は、能の世界に強く惹かれ、衝動のままに至龍のもとを訪ねる。元ダンサーである琥太朗の過去を知る至龍は、彼の覚悟を試すが、その類まれな才能を認め、能楽師の大家、丑三泰山へと引き合わせるのだった。
宝華能楽堂の若き能楽師たち
琥太朗が所属する宝華能楽堂には、家元の息子である宝華至龍や、琥太朗の師匠、丑三泰山をはじめ、オタク気質の女流能楽師、卯ノ花璃乃、師の孫であり巨漢の能楽師、丑三北斗など、多彩で優れた能楽師たちが集い、日々修練に励んでいる。琥太朗は、個性豊かな仲間たちの芸からそれぞれの長所を吸収し、自分だけの表現を追求して無心に稽古に打ち込んでいた。そのひたむきな姿勢は次第に周囲の心を動かし、彼らは互いに技術を高め合うよきライバルとなっていく。一見華やかに見える彼らも、内面にはさまざまなコンプレックスを抱えている。至龍は「能の世界では負の感情こそが武器になる」と断言し、苦悩や葛藤さえも芸の糧として肯定的にとらえている。
琥太朗の能楽修行と再起への挑戦
琥太朗は泰山に師事し、まず声楽である「謡」と身体表現の「仕舞」の稽古に取り組んだ。ダンサーとしての経験を活かし、琥太朗は歌と謡、踊りと仕舞の違いと共通点を学びながら、驚異的な速さで技術を吸収していく。泰山の手本を完璧に模倣するその才能は、姉弟子の璃乃からも高く評価された。非凡な成長を認めた泰山は、宝華流の有力者が集う発表会「碧霞会」への出場を推薦する。琥太朗は璃乃や北斗と共に、初めての公式舞台に向けて厳しい稽古に励んだ。そして、かつて自分の未来を奪ったことに罪悪感を抱いていた元メンバーのchikaを舞台に招く。能楽師として再起した姿を見せることで、過去の呪縛から二人で解き放たれようと決意したのだった。
登場人物・キャラクター
葉賀 琥太朗 (はが こたろう)
高校2年生の男子で、宝華流に所属する能楽師。年齢は16歳。周囲からは「コタ」の愛称で親しまれている。かつてはダンスグループ「DAZE」のメンバーとして「kota」の名で活動していたが、ライブ中の事故をきっかけに引退を決意した。その後、祖母の葉賀佳美の影響で能の世界に魅了され、能楽師の道を歩み始める。性格はやや内気ながらも優しく朗らかで、誰からも好かれる人物。ダンサー時代に培った高い身体能力と、見たものを即座に模倣する才能を持ち、努力を惜しまない姿勢も相まって、宝華能楽堂の関係者が驚くほどの技術を地道な稽古で身につけた。一方で、他者のために自らを犠牲にすることも厭(いと)わない、危ういほどの献身性を秘めており、仲間から心配されることも少なくない。
宝華 至龍 (ほうげ しりゅう)
シテ方宝華流、能楽師二十三世宝華宗家の長男で、次代を担う若き能楽師。年齢は17歳。能楽に対する情熱は誰にも負けず、その技量には揺るぎない自信を持っている。また、他者の才能を見抜く鋭い審美眼も兼ね備えている。ふだんは飄々(ひょうひょう)とした紳士的な振る舞いを見せるが、稽古の場では自他共に厳しく、的確な指導で後進を導いている。能楽だけでなく、歌や踊りにも精通し、さまざまな舞台鑑賞を趣味としている。琥太朗が元ダンサーであることを見抜くと、入門を請われた際には「芸は口ではなく身体で示すもの」と返し、演目「清経」を舞わせて彼の真価を試した。そして、琥太朗の中に眠る非凡な才能をいち早く見出し、宝華流に迎え入れた。
書誌情報
シテの花-能楽師・葉賀琥太朗の咲き方- 4巻 小学館〈少年サンデーコミックス〉
第1巻
(2025-03-18発行、978-4098540280)
第2巻
(2025-05-16発行、978-4098541195)
第3巻
(2025-08-18発行、978-4098542130)
第4巻
(2025-11-18発行、978-4098543328)







