概要・あらすじ
江戸時代後期、歌舞伎の世界に、武士を捨て囃子方になった綴勝十郎。親兄弟を亡くて五代目市川団十郎の息子徳蔵の付き人として奉公した卯之吉。そして上方から絵師としてやってきた伊三次こと後の東洲斎写楽。その伊三次に魅かれて通いつめる市川団十郎の娘、りは。それぞれの人生が絡み合う歌舞伎を取り巻く人々の生き様を描いていく。
登場人物・キャラクター
東洲斎 写楽 (とうしゅうさい しゃらく)
26歳の時に大阪から絵師として上京。この時の筆名は流光斎如圭(りゅうこうさいじょけい)という。江戸の錦絵に興味を持ち、自分の画風を模索する。男前で気風がよく五代目市川団十郎の娘りはに惚れられる。歴史上の実在の人物、東洲斎写楽がモデル。
りは
五代目市川団十郎の娘。芝居茶屋に嫁ぎ、夫は綴勝十郎。器量良しの娘でありながら男勝りでトラブルが多く二度も伊三次に救われた縁で想いをよせ、素性を偽って伊三次につきまとい世話をする。見かけが幼く伊三次には女性として扱われない。
綴 勝十郎 (つづり かつじゅうろう)
町方役人の子だったが、芝居小屋に通い詰め中村座の囃子方になる。しかし、兄の一馬が殺されたことで再び役人として家に戻る。そこで連続幼女誘拐殺人事件に大きく関わっていく。ムダ口はたたかず静かに事をすすめていく性格。
綴 権八郎 (つづり ごんはちろう)
綴勝十郎の父。兄の一馬を後継ぎとして目をかけ、次男の綴勝十郎には冷たく育てる。その一馬が殺され、命をかけて犯人探しに奔走する。その容姿は田沼意次と瓜二つの事から老中田沼意次の身代わりを務める程である。
鶴屋 南北 (つるや なんぼく)
中村座の演目の芝居を書く。綴勝十郎とコンビのように仲がよかった。勝十郎が役人に戻ってからも手助けし、連続幼女誘拐事件の解決にひと役かう。歴史上の実在の人物、鶴屋南北がモデル。
田沼 意次 (たぬま おきつぐ)
江戸の老中。その政策によって賄賂が横行したと言われる。老中松平定信に敵対され、陰謀によって失墜の危機に陥るが、綴勝十郎の父権八郎の忠誠によって難を逃れる。歴史上の実在の人物、田沼意次がモデル。
卯之吉 (うのきち)
元の名はちぢまつ。大雨の大洪水で両親兄弟を失くし13歳の時に五代目市川団十郎の息子の徳蔵の付き人として雇われる。わがまま放題の徳蔵に耐え難い卯之吉だったが、徳蔵の忌まわしい過去を知り、暴漢に襲われた時に命がけで徳蔵を救ったことから大きな信頼を得るようになる。
市川 徳蔵 (いちかわ とくぞう)
五代目市川団十郎の息子であり、将来の六代目を継ぐ立場にある。呼び名は「小海老」。幼い時に少女と間違えられて誘拐され、陰部に深い傷をつけられた過去がある。父団十郎は後継ぎとして抵抗を感じているが、負けず嫌いの性格で役者としての素質を開花していく。歴史上の実在の人物、市川徳蔵がモデル。
五代目・市川 団十郎 (いちかわ だんじゅうろう)
歌舞伎役者。中村座の座頭。屋号は成田屋。娘は姉のくすと妹のりは。息子は徳蔵。幼女と間違われて傷をおった徳蔵を六代目後継ぎに相応しくないと考えている。 江戸歌舞伎の黄金時代を作り上げた実在の大役者、五代目・市川団十郎がモデル。
西村屋 与八 (にしむらや よはち)
馬喰町にある書肆(本屋)永寿堂西村屋の主人。後の写楽となる伊三次の絵師としての才能に期待し、中村仲蔵の死をきっかけに歌川豊国の錦絵と共に伊三次を江戸でのデビューをさせようとする。歴史上の実在の人物、西村屋与八がモデル。
歌川 豊国 (うたがわ とよくに)
若くしてその才能を高く評価される。西村屋与八のところで錦絵を描く。人気歌舞伎役者中村仲蔵が亡くなった時に中村屋から死絵を頼まれ、伊三次と競い合う。歴史上の実在の人物、歌川豊国がモデル。
場所
中村座 (なかむらざ)
一七八三年、この年の中村座は、八百人をかかえる江戸の歌舞伎劇場。座頭は五代目市川団十郎。綴勝十郎が囃子方として働き、伊三次が役者絵を描くために通い、幼い徳蔵が初の舞台を踏む。
その他キーワード
錦絵 (にしきえ)
『鼻紙写楽』で登場する。浮世絵は江戸で生まれ、独自にに発展し、完成した美術なので「江戸絵」ともいわれた。浮世絵には肉筆画と木版画があり、なかでも多色摺りの木版画は錦のように美しいというので錦絵とよばれた。後の東洲斎写楽となる伊三次はこの錦絵に興味を持ち江戸に来たのである。
死絵 (しにえ)
『鼻紙写楽』で登場する。西村屋が始めたといわれる歌舞伎役者が死去したとき、その訃報と追善を兼ねて、それを錦絵で描いて版行される浮世絵。西村屋与八は伊三次に歌舞伎役者中村仲蔵が亡くなったことで、その死絵で江戸デビューさせようとする。