あらすじ
西暦2167年。人類は70年前に起きた「ルドラ災害」により地球を離れ、月や軌道コロニー内での生活を余儀なくされていた。地球に奇跡的に残された貴重なデータを回収するネットサルベージャーを務める古宮鈴絽は、軌道コロニー「イワフネ」での流行が懸念される月インフルエンザの新薬データの回収を依頼され、祖母の古宮紬と船長の銀河三郎太の3名で、サルベージ業務に挑む。
世界観
題材はSF。小惑星が衝突し、地球からの脱出と文明後退を強いられた世界が舞台。現在すでに実用化されている技術や、懸念視されている問題も交えて近未来世界を描いている。また、非常に緻密な世界観に浸ることで、SFの知識や現代に使用されている科学技術について学べることが作品の特色。コミックス内の用語解説では作中における設定のみならず、そのもとになったということで21世紀の技術にも言及しており、作品を通じて最先端の技術を身近に感じることができるようになっている。
登場人物・キャラクター
古宮 鈴絽 (こみや すずろ)
イワフネ工科大学付属高等学校中等部に通う2年生の女子生徒。水色の長い髪をツインテールにした、沈着冷静な人物。軌道コロニー「イワフネ」内で学生生活を送る傍らネットサルベージャーとしても活動している。サルベージ活動時の担当はダイバーで、ライセンスはB級以上の受験可能年齢に達していないためC級だが、実際の実力はA級に匹敵するといわれるほど優秀。
古宮 紬 (こみや つむぎ)
古宮鈴絽の祖母。ルドラ災害前の地球を知る年長者だが、肉体を擬体化しているため、容姿は若い女性そのもの。アイテムショップ「ティンカーベル」を営む傍らネットサルベージャーとしても活動しており、サルベージ業務時の担当はダイバー。ダイブ時はおかっぱ頭の和服の少女の姿となり、鈴絽のサポートをする。旧姓は「佐伯」。
銀河 三郎太 (ぎんが さぶろうた)
古宮鈴絽、古宮紬とチームを組んで行動するネットサルベージャーの男性。長髪を高い位置で1つに結び、パイナップルのように立てた髪型をしている。年若いが腕は確かで、払い下げられた軍の輸送船を改造した「銀河号」で地球の接続可能な軌道まで2人を運ぶ仕事をしている。VR空間へ同行することはないが、通信を用いて2人に情報を与える。
ジョゼフ・S・タナカ (じょぜふえすたなか)
オーツ製薬第2研究部部長を務める男性。月インフルエンザの流行を危惧し、古宮鈴絽たちにサルベージ業務を依頼した人物。安全なコロニーで結果を待つだけでいい立場にも関わらず、「銀河号」に同乗し鈴絽たちを見守る。はじめこそ鈴絽の実力に懐疑的だったものの、徐々にその力を理解していく。
アンジェラ・A・スミス (あんじぇらえーすみす)
軌道コロニー「イワフネ」第一階層吉崎通りに住む老女。地球出身だがルドラ災害により両親を亡くし、22歳でルノアル理科大学の医学博士号を取得、28歳でバルアルド研究所に入所した。40歳の若さで同研究所所長に就任後は、宇宙被爆症の治療に尽力し、70歳で引退。父親は東雲製薬第3研究所副所長クリストファー・A・スミスで、彼はアンジェラにあるものを残していた。
ロイド
マフィア「古蛇(グーシュエー)」の構成員の男性。軌道コロニー「イワフネ」地下階層に住み、VRネットからサルベージした武器や兵器などを扱う商人として活動している。相棒のクランシェアとのコンビは本部でも評価が高く、「古蛇」が「イワフネ」へ進出する際は最高経営責任者の蔡凛花の直接指揮下に入ることとなった。フロント企業のミダスコーポの部長に就任した際は「ロイド・クレイトン」と名乗っているが、本名かは不明。
クランシェア
軌道コロニー「イワフネ」地下階層に住む、ロイドの相棒を務める少女。眉上にした短い前髪にふんわりした長い髪をポニーテールとお団子にした、幼い口調の人物。年若いがクラッカーとしての腕は本物で、VRテーマパーク「プラネッタ」に不正アクセスした際に古宮鈴絽と知り合い、彼女のライバル的存在になっていく。
黒田 咲 (くろだ さき)
古宮鈴絽の友人で、イワフネ工科大学付属高等学校中等部に通う2年生の女子生徒。ロングヘアにカチューシャをした、勝気な印象の人物。カンニングの疑いをかけられ、真相を探るべく鈴絽と動き出す。両親は月出身だが、軌道コロニー「イワフネ」に移民した。
篠崎 有栖 (しのざき ありす)
古宮鈴絽の友人で、イワフネ工科大学付属高等学校中等部に通う2年生の女子生徒。ボブヘアに眼鏡をかけた、おとなしい雰囲気の人物。多忙な様子で、冬期休暇明け以降付き合いが悪くなっているが、高等部1年の渡部万里に試験対策を教えているらしい。
渡部 万里 (わたべ まり)
イワフネ工科大学付属高等学校に通う1年生の女子生徒。ポニーテールヘアにいくつものピアスを付けた、派手な印象の人物。篠崎有栖に試験対策を教わっているらしいが、不審な点が多い。寝る時はうさぎのぬいぐるみを抱いて眠る。「マジック・ソード・オンライン」というゲームのプレイヤーでもある。
プリルラ
VRテーマパークプラネッタのコントロール業務を務めるA級管理AI。長い髪に花のつぼみが描かれた帽子をかぶり、魔法使いのような格好をしている少女型のAI。長年プラネッタに来客がないのを不審に思っていたが、管理者である三谷健一やマリア・クーデリカが必ずやってくると信じ待ち続けている。
三谷 健一 (みたに けんいち)
VRテーマパークプラネッタを開発した、リーデベルテ社第3開発室所属の室長。地球のニューカンサスシティに住む、額を全開にし、髭を蓄えた中年の男性。ルドラ災害直前に、プリルラとある約束をしていた。プリルラのことを実の娘のように大切に想っており、彼女を置いていけないという理由で、地球を脱出せず残る道を選んだ。
マリア・クーデリカ (まりあくーでりか)
VRテーマパーク「プラネッタ」を開発した、リーデベルテ社第3開発室所属の三谷健一の助手。地球のニューカンサスシティに住む、長い髪を1つに束ねた褐色肌の眼鏡をかけた女性。三谷健一とプリルラとは、3人で親子のような関係にあった。プリルラの作ったアート作品を「カモノハシ」を題材にしたものと勘違いし、彼女を怒らせていた。
フラウ
古宮鈴絽の住むアイテムショップ「ティンカーベル」の隣にある喫茶店「クラムクラム」で働く女性。肩よりも短いボブヘアに、前髪をヘアピンで留めている。ギャンブルが好きで、ネットカジノ「ポセイドン」にもよく出入りしている。そのためギャンブル以外の場でも、2択や3択の場面ではつい賭けに出てしまう癖がある。
桐子 (とうこ)
古宮鈴絽の友人。シニヨンヘアにシニヨンキャップをかぶせ、チャイナ服を着た中華風の幼い少女。鈴絽とはよく一緒にゲームをして遊ぶ仲だが、負かされることの方が多い。フラウとも仲が良く、鈴絽と3人で遊んだり出かけることも。弟が1人いる。
キング
古宮鈴絽がネットカジノ「ポセイドン」で出会った男性。二足歩行でタキシードを着た、長身の猫のアバターで現れる。「ポセイドン」内において「剣と王冠」で異常な勝率を上げており、イカサマが懸念されることから鈴絽のもとに調査依頼が出された。「剣と王冠」の実力者との真剣勝負を熱望しており、鈴絽に勝負を持ちかける。
マイク・ミッチェル (まいくみっちぇる)
月にある超一流大学のヴェロッサ工科大学で宇宙機を研究している男性。初老の、髭を蓄えた上品な雰囲気の人物。現在の研究テーマに「地球への帰還」を掲げており、デブリ層での活動経験が豊富な、有能な研究者になりうる人材を探しており、古宮鈴絽を研究室へスカウトしに現れる。
ペンギン
軌道コロニー「イワフネ」下層ブロックに住む、古宮紬の知り合いの凄腕ハッカー。髪を逆立てた小太りの中年男性で、名前と同じように、ネット上のアバターもペンギンの姿をしている。基本的に居住地から出てくることはないが、様々な方法で紬や古宮鈴絽をサポートする。苦手なことは整理整頓だが、コミュニケ内は片付いているらしい。
蔡凛花 (つぁいりんふぁ)
マフィア「古蛇(グーシュエー)」の幹部を務める若い女性。ストレートロングヘアに、魔女のようなとんがり帽子を好んで被っているのが特徴。笑みを絶やさぬ妖艶な雰囲気だが、思考が読みにくく謎の多い人物。「古蛇」の軌道コロニー「イワフネ」進出に伴い、拠点として立ち上げられた総合商社「朱鳥(しゅちょう)貿易公司」の最高経営責任者に就任した。 「古蛇」のフロント企業である「ミダスコーポレーション」のCEOも務めている。古宮鈴絽との関係はなかったが、意外な形で接触することになる。
溝口 孝明 (みぞぐち たかあき)
軌道コロニー「イワフネ」第3区画をまとめる暴力団「溝口会」の会長を務める男性。髭を長く伸ばした、隻眼の老人。古宮紬とは古くから親交があり、「溝口会」の人間は彼女を「恩人」と呼んでいる。チャイニーズマフィア「黒客(へいくー)」と「溝口会」のもめ事を察した古宮鈴絽の連絡を受け、蔡凛花と交渉を行う。
5021ホノカ (ごーれいにーいちほのか)
古宮鈴絽へ「竜殺し」を依頼した「プロジェクトアタナ」の管理AI。ショートカットにマントを羽織った少女の姿をしている。発信元が地球のアドレスからのため偽装メールの疑いがあったが、駆け付けた鈴絽により、竜のような姿をした自律型殲滅攻撃プログラム「ヴリトラ」の攻撃を受けていたことが発覚する。
集団・組織
東雲製薬 (しののめせいやく)
かつて地球上に存在した製薬会社。月インフルエンザの新薬データを所持しているとされており、古宮鈴絽たちはデータ回収のため東雲製薬北米サーバーにアクセスすることになる。セキュリティは堅牢で、A級ダイバーでも命を奪われるほど危険性が高く、そもそもセキュリティAIが正常な状態でない可能性も危惧されている。
場所
軌道コロニー「イワフネ」 (きどうころにー「いわふね」)
古宮鈴絽たちが暮らすコロニー。軌道高度6500キロの位置を周回している。辺境に位置しているが初めて四季を再現した1Gコロニーで、完成当時は非常に高い人気を誇っていた。鈴絽は第一階層に居住しており、アイテムショップ「ティンカーベル」やアンジェラ・A・スミスの自宅もここに位置する。地下階層も存在するが、こちらは第一階層に比べると家賃が安く、当局の監視も比較的緩いものになっている。
プラネッタ
地上からサルベージしたVRテーマパーク。ルドラ災害前の資料とは違う状態にあり正常稼働できないため、古宮紬のもとにシステムの解析依頼がやってきた。デザイナーがすべてをコントロールするのではなく、オブジェクトに極力自律制御させる仕様になっており、内部は廃墟同然。全体の秩序を管理しているはずの管理AIも動作していないため、正常な状態に戻すにはまず管理AIとのコンタクトが必要となっている。
銀河号 (ぎんがごう)
銀河三郎太が所持する情報回収船のこと。退役して払い下げられた軍の輸送船を改造したもので、船体上部に地上ネット接続用の高出力アンテナがある。そのため、地上ネットに接続する際は背面飛行する形で挑む。なお、船のローンはまだ完済していない。
ダイブルーム
情報回収船内や「ティンカーベル」の地下等にある、VRネット機器が設置されている部屋のこと。更衣室も併設されており、脱衣カゴの底には磁力があるため、金属糸が編み込まれた洋服を無重力下でも収納することができる。着替え完了後はタイプ3の全身の神経系への相互干渉が可能なコミュニケに入り、ダイブを行う。
その他キーワード
ルドラ災害 (るどらさいがい)
2097年に起きた地球規模の大災害のこと。小惑星ルドラが地球へ落下したことで人類は全人口のうち95%を失い、さらに「ケスラーシンドローム」も引き起こされるという未曾有の被害を受けた。生き残った数少ない人類は宇宙に逃れたが、大量のスペースデブリのために地球へ帰還することはできず、月や軌道コロニー内等での生活を余儀なくされ、現在に至っている。
小惑星ルドラ (しょうわくせいるどら)
2097年、地球に衝突した小惑星のこと。直径は約10キロメートル、軌道離心率は0.75、木星軌道の外側から地球軌道の内側までを通る極端な楕円軌道を持っていた。2096年9月にアマチュア天文家が発見し、調査により軌道が地球の衝突コースにあると発覚。その際にインド神話の破壊神の名を取り「ルドラ」と名付けられた。その後軌道変更プロジェクトと粉砕計画が行われるが、相次いで失敗。 2097年1月核ミサイルによる迎撃が行われたが完全破壊はできず、いくつかに分裂したルドラが地表へ落下し、地上に壊滅的な打撃を与えた。
ネットサルベージャー
地球上に現在も奇跡的に存続する貴重なデータにアクセスし、必要な情報を回収する職業のこと。ルドラ災害後、壊滅したと思われていた地球上の汎地球仮想現実ネットワーク「The NET」が奇跡的に稼働していたことで、軌道上から地球のネットに接続し、災害前の技術をサルベージする職業として成立した。サルベージャーは情報回収船に乗り込み、宇宙空間からマイクロパルスの糸を垂らすことで地球上にあるサーバーへ接続するため、常に「スペースデブリ」との衝突の危険性をはらむ命がけの仕事でもある。 サルベージャーはダイバーと船長の2種類の業務内容に分けられ、たいていは3から4名のチームを組んで行動する。古宮鈴絽と古宮紬はダイバー、銀河三郎太は船長に当たる。
コミュニケ
古宮鈴絽たちダイバーが、仮想空間への接続の際に使用するもの。その没入度によって、タイプ1から3までの3段階に分けられる。タイプ1は思考入力しかできないタイプで、出力は普通のディスプレイやスピーカーを使って行うPCの周辺機器のようなもの。タイプ2からは脳の感覚野に干渉して、直接脳へ情報を送り込むことができる。タイプ3になると全身の神経系の相互干渉が可能になるが、使用のリスクも高まるため、ネットサルベージャーや軍、研究機関等の専門家、一部VRテーマパーク程度でしか利用されていない。
月インフルエンザ (つきいんふるえんざ)
古宮鈴絽の暮らす軌道コロニー「イワフネ」でも流行の兆しがある病気。現在流行が懸念されるのは強毒性のD型ウィルスで、感染力の強い危険なもの。シミュレーション結果では、「イワフネ」だけでも3万人が感染し、子供とお年寄りを中心に猛威を振るい1000人を越える死者を出す見込み。地球に残る東雲製薬の北米サーバー上に、新薬のデータがあるとされている。
AR
「Augmented Reality」の略で「拡張現実」を意味する言葉。実際の環境に電子情報を合成させる技術のこと。現代では専用のアプリ等を利用して、カメラで撮影した現実の写真・映像に文字や画像等の情報を重ね同時に表示させることができる。
VR
「Virtual Reality」の略で、「仮想現実」を意味する言葉。まるで現実のような人工的な空間を体験する技術のことで「人工現実感」とも呼ばれている。現代では専用の身体に装着する機器や、コンピューターで合成した映像・音響などを利用して3次元空間内に身体を投影し、そこに実際にいるような没入感を感じさせることができる。
スペースデブリ
破損したり使用を終えた人工衛星やロケットの一部が、宇宙空間に「ゴミ」として残っている状態のこと。宇宙ゴミとも呼ばれる。大きさは様々だが、1センチ程度のものでも衝突すると非常に危険なため、宇宙で活動する上での大きな問題となっている。
ケスラーシンドローム
NASAの研究者、ドナルド・J・ケスラーが提唱した、スペースデブリの危険性を説明するシミュレーションモデルのこと。スペースデブリが、別のスペースデブリあるいは人工衛星等に衝突し、新たなデブリを発生させる。それがきっかけで連鎖的に次の衝突が起こり、デブリが自己増殖する現象と危険性を示している。
96式AUVオクトパス (きゅうじゅうろくしきえーゆーぶいおくとぱす)
ルドラ災害直前に造られた、軌道降下強襲型の無人兵器のこと。大気圏突入能力を持ち、軌道上と地上、両方での戦闘を可能とする。分離可能なレーザー砲塔8門と60ミリ耐熱複合装甲を持っており、相手にするには戦車か、最低でも対戦車ミサイルが必要となる。基本的に無人機なため、コクピットは完全なVRシステムとなっている。非常に強力な兵器だがある欠点を抱えており、それが攻略の糸口となる。
グッドスピード
電脳ドラッグの1つ。アッパー系の薬物で、使用すると覚醒剤に似た全能感が得られる。また、その際ハイになって痛みを感じなくなるだけではなく、周囲の者が止まって見えるようになるという特性を持っている。コードが旧日本軍のものに似ていることから元は軍用アプリと考えられ、現在はチャイニーズマフィアの「黒客(へいくー)」がばらまいている。
紫電 (しでん)
「グッドスピード」のもととなった神経加速アプリ。旧日本軍が使用していたもので、そのコードを弄ったものが「グッドスピード」とされている。脳内麻薬の過剰分泌と脳クロックの加速を行う力を持ち、一般的な兵士を一時的に超人に変えるほどの威力がある。接種中の人間は、音速以下の拳銃の弾程度ならたやすく見切ってしまうため、閃光筒等を用いて相手の目と耳をつぶすことで対処できる。
剣と王冠 (けんとおうかん)
古宮鈴絽がサルベージしたゲーム。21世紀末のゲームデザイナーがチェスをアレンジして創作し、当時コンピューターに完全攻略されたチェスを不完全情報ゲームにリデザインしたもの。単純に言えば、お互いに伏せたカードで行うチェスで、勝つためには駒組の巧さ、推理力、ブラフ、運が求められる。ギャンブル向きなゲーム性からチェスプレイヤーのみならずプロのポーカープレイヤーからも人気が高く、高額賞金を懸けた世界大会なども開かれるようになった。