アメノトリ社によって医療革命がもたらされた世界
『スモーキン’パレヱド』の世界はクローニング技術が発展しており、患者の細胞を部分的に複製することで、あらゆる部位の補完が可能となっている。たとえば、角上美来は膝から下の部位がなく、車椅子での生活を強いられていたが、前述の技術で用意された特殊生体義肢で両脚を補い、自由に歩き回れるようになった。その技術レベルは事故に遭ったサッカー選手が、移植手術を受けた当日に試合へ出場できるほどに極まっている。この技術の進歩は医療革命と呼ばれ、立役者のアメノトリ社は10年で弱小製薬会社からトップ企業にまで成長した。特殊生体義肢を運搬する自動車が最優先緊急車両として扱われるなど、その影響力は計り知れない。アメノトリ社は紛争地域に医薬品を届けるなどの慈善活動も行っており、同社の若き社長は時代の寵児として持て囃されている。しかし、同社が躍進する一方で、人身売買などの闇ビジネスは減少するどころか増加の一途をたどっており、その事実にきな臭いものを感じて、独自の調査を進める記者も存在する。従業員のあいだでも商品の出所について悪い噂が流れているが、移植後に拒絶反応が出ないこともあって、噂の域は出ていない。
報道されない人型のバケモノ「8∞8(スパイダー)」
世間には伏せられているが、アメノトリ社の特殊生体義肢を移植された患者の0.2パーセントは「8∞8」というバケモノに変貌してしまう。8∞8は人型で、キグルミのような頭部が特徴で、個体ごとに頭部のデザインが異なる。また、額に六つの点のような模様があり、「八ッ目」とも呼ばれている。8∞8化した者は、身体能力の向上と引き換えに理性を失って欲望を抑えきれなくなり、人間に仇なす存在となってしまう。朗らかな性格だった美来も8∞8化したことで豹変し、凄惨な殺人事件を巻き起こした。のちに特訓によって自我を保った状態で、8∞8としての力を発揮できるようになった個体が登場。彼らは「死神楽衆(シカグラ)」として区別され、特殊金属製の「超義肢(ギアーズ)」を装着した「ジャカロープ」たちと死闘を繰り広げることになった。なお、キグルミ風の頭部はアメノトリ社で技監を任されている間暗曲(はざまくらま)の趣味である。
「8∞8(スパイダー)」退治に奔走する「ジャカロープ」たち
「ジャカロープ」はスラム街にある時計台「クロックロック」を拠点とする秘密組織で、人に仇なす「8∞8(スパイダー)」の駆除を任務としている。黒衣をまとった構成員が多く、「耳角(ジカク)」と呼ばれる通信機を頭に装着して任務に赴く。その外見から、「黒鬼」とも呼ばれている。黒鬼たちは技術担当の間白曲(はざましらま)が開発した特殊金属製の「超義肢(ギアーズ)」で欠損部位を補っている。これは人体と金属の融和とも表現される技術の結晶で、使用者の意のままに動かせるのはもちろん、有事には戦闘形態に変形し、8∞8に立ち向かうための武器として機能する。右腕から銃に変形する超義肢、背骨から刀に変形する超義肢、胃袋から吸音機に変形する超義肢など、さまざまな種類が存在する。ただし、超義肢の運用は人体への影響も大きく、記憶障害や味覚障害などの異常に悩まされている黒鬼も少なくない。なお、頭目(ボス)のレディ・エンマは滅多に人前に姿を見せないことから、実在を疑う声もあり、都市伝説のように扱われている。
登場人物・キャラクター
角上 陽光 (かくじょう ようこう)
義妹の角上美来と暮らす少年。赤髪短髪で、二つ葉のクローバーをペンダントにして身につけている。大食いチャレンジの店から出入り禁止を通達されるほどの大食漢。養護施設「たいよう園」の出身で、美来といっしょに角上家に引き取られて兄妹になった。養父から、第1条「人にやさしく」を筆頭に数々の家訓を叩き込まれて育った。その内容は「普通(まっとう)な人間」であるために守るべきことをまとめたもので、第一話の時点で少なくとも119条まで存在し、今もって増え続けている。15歳の誕生日に狂った美来に両腕と左足をもがれるも、「8∞8(スパイダー)」と呼ばれるバケモノの退治を任務とする「ジャカロープ」(通称・黒鬼)たちに救われた。この際、妹を殺そうとした黒鬼・芥の前に立ちはだかって心臓を貫かれているが、黒鬼の拠点「クロックロック」で治療を施され、息を吹き返した。一度は黒鬼たちに別れを告げるも、住民を気遣い本気を出せない黒鬼たちを見兼ねて、無断で可変機構を備えた左腕の「超義肢(ギアーズ)」を持ち出し、8∞8を殴殺。妹のような者を増やさないため、8∞8と戦う道を選んだ。しかし、黒鬼としての活動を続けるうちに異常性が次々と明らかになり、家訓を守ることで人間らしくあろうとするバケモノであることが示唆された。なお、左腕の超義肢は無名だったが、角上陽光によって「拳骨(ゲンコツ)」と名付けられた。
角上 美来 (かくじょう みらい)
義兄の角上陽光と暮らす14歳の少女。ミディアムショートヘアで、幼少期に兄が見つけた二つ葉のクローバーをペンダントにして身につけている。養護施設「たいよう園」の出身で、兄のように慕っていた陽光と共に角上家に引き取られた。現在も兄への好意を隠そうともせず、友人からはブラコンと揶揄されている。世話になった相手に料理を振る舞うことを好んでいるが、カレーに人参を丸ごと入れるなど、腕前には疑問が残る。膝から先が欠損しており、幼少期から車椅子での生活を強いられていたが、兄の誕生日の10日前にアメノトリ社の特殊生体義肢をつなげる手術を受けて、歩けるようになった。兄の誕生日を祝うサプライズパーティーを企画するも、準備中に発狂。帰宅した兄を襲い、気絶しているあいだに両腕と左足を切断して食材として利用した。ほどなく「8∞8(スパイダー)」と呼ばれるバケモノに変貌し、8∞8狩りを任務とする「ジャカロープ」(通称・黒鬼)の芥に撃ち抜かれて死亡した。しかし、アメノトリ社の「屍摘み」と呼ばれる部隊に回収され、AR-TYPE八ッ目「長足の月読兎」として復活。その後は「死神楽衆(シカグラ)」の一員としてアメノトリ社の技監・間暗曲(はざまくらま)に従い、アメノトリ社の暗部にせまろうとする記者の口封じなどを行っていたが、兄のことを思い出して脱走した。なお、死神楽衆になってからはクローバーを封じたペンダントをヘアピンにして身につけるようになった。
書誌情報
スモーキン’パレヱド 9巻 KADOKAWA〈角川コミックス・エース〉
第2巻
(2016-08-26発行、 978-4041040874)
第3巻
(2017-03-25発行、 978-4041054413)
第4巻
(2017-10-26発行、 978-4041062012)
第5巻
(2018-05-26発行、 978-4041067192)
第6巻
(2018-12-25発行、 978-4041076071)
第7巻
(2019-07-26発行、 978-4041084809)
第8巻
(2020-02-25発行、 978-4041090978)
第9巻
(2020-09-26発行、 978-4041090985)
スモーキン’パレヱド 1巻 KADOKAWA〈カドカワコミックス・エース〉
第1巻
(2016-03-23発行、 978-4041040867)