あらすじ
小学校では人気者だった坂本ケンジは、高校ではクラスメートからはみ出し者扱いをされていた。一方で、幼なじみの範田尚人は貧乏な母子家庭ながらも、その人柄で人気を集めており、同じく幼なじみの沖島りずと三人でなかよく学校生活を送っていた。そんな中、尚人の母親が末期ガンに冒されていることが露見したのをきっかけに、ケンジには血液を対象者に塗布することで、そのケガや病気を完治させる能力が発現。そして尚人は、サイコキネシスのように物体をあやつる能力が発現し、凶暴な暴走族のトップを務める最澄たちを惨殺したあと、行方をくらましてしまう。尚人が大量殺人者として報道されることに憤り、再会を願ったケンジとりずは、芝から悪魔憑きについての簡単な説明と助言を得て、尚人が身を寄せているという尸の本拠地を探すことになる。その頃、尚人は尚人の母親の死がベレトの策略によるものであることを知り、復讐を決意する。
登場人物・キャラクター
坂本 ケンジ (さかもと けんじ)
高校1年生の男子。髪の色素が薄くチリチリとした天然パーマで、平坦な顔立ちで目が小さい。小心者ながらお調子者で、自分が優位に立っているときだけ見えを張った言動を見せる。小学校までは人気者だったが、中学校に入学してからはクラスのはみ出し者扱いされていた。しかし、基本的に正義感が強く優しい性格で、尚人の母親からも信頼を得ている。小学生時代、近くに寄ってきた犬を見た直後の記憶がない。悪魔の王の一人であるパイモンが憑いた悪魔憑きで、ケガ人や病人に血液を塗布することで人間を悪魔憑きとしてよみがえらせることができる能力を持っているが、ケガや病気が完治したように見えるため、長いあいだ治癒能力とカンちがいしていた。範田尚人や沖島りずとは幼なじみで、非常に大切に思っている。また、尚人の善性を確信しており、尚人が大量殺人を犯した快楽殺人者という報道が流れても信じて疑わなかった。そのため、芝の情報を頼りに尚人が所属しているという、尸の本拠地を探している。その髪質から、周囲には「チンゲ」と呼ばれている。
沖島 りず (おきしま りず)
高校1年生の女子で、範田尚人の彼女。黒髪のミディアムボブヘアで、金のメッシュを入れている。長いものに巻かれるタイプで、小学生時代は坂本ケンジ、中学校に入学してからは尚人に好意を抱いている。しかし、いじめや悪ふざけには、毅然とした態度で正義感の強い一面を見せる。一時期はケンジを毛嫌いしていたが、尚人が大量殺人の容疑者となって失踪してからは、ケンジと共に尚人との再会を願って尸の本拠地を探している。田所圭太に負わされたケガをケンジに治してもらったことで、悪魔憑きとなる。
範田 尚人 (はんだ なおと)
高校1年生の男子で、沖島りずの彼氏。黒髪を七三に分けたツーブロックヘアをしている。尚人の母親と二人暮らしで、母子家庭のために金銭面で苦労しているが、日常生活でそれを決して見せることはなく、学校では人気者。悪魔憑きで、小学生時代に近くに寄ってきた犬を見た直後の記憶がない。坂本ケンジには小学校時代はよく助けられており、現在もケンジに感謝している。しかし、尚人の母親が全身末期ガンに冒されていると知らされてからは、悪魔憑きとしての能力が現れるようになる。尚人の母親が残した遺産を最澄に焼かれたことをきっかけに暴走し、ベレトによって尸に連れ去られている。また、尚人の母親のガンがベレトの策略によるものだと知らされてからは、ベレトをはじめとした尸の幹部全員の命を狙っている。ケンジたちからは「ナオ」と呼ばれ、尸では「バエル」と呼ばれている。
空海 (くうかい)
最澄の兄で、親鸞の父親。短く刈り込んだツーブロックヘアで、口ひげと顎ひげを蓄えている。かつて暴走族のトップを務めており、その頃の残虐さはチーム内で語り草になっている。最澄については「救いようのないクズ人間」と評していたが、最澄が範田尚人に惨殺されたという情報を聞き、尚人に復讐すべく居場所を探している。悪魔憑きで、オーラのようなものをあらゆる刃物の形に形成することができる。またその切れ味は鋭く、鉄でも簡単に切断することができる。恐妻家で家族を大切にしており、親鸞を溺愛している。
最澄 (さいちょう)
空海の弟で、凶悪な目つきをした青年。暴走族のトップを務めている。金髪のソフトモヒカンで、左頰と両腕にはタトゥー、口内や体の至る所にピアスをつけている。気に入らないことがあるとナイフで人を切りつけるなど凶暴な性格で、重機に人間をくくりつけて拷問したりと、常軌を逸した暴力的な行動を起こす。チームメンバーのバイクを破壊した犯人が範田尚人だと考えており、報復のために重機からぶら下げ、ボーガンで射った。また、尚人の所持品に尚人の母親が渡した遺産が入っているのを見つけ、容赦なく焼き捨てるなど非道な行為を繰り返し、尚人の超常的な力を引き出すきっかけをつくった。
尚人の母親 (なおとのははおや)
範田尚人の母親で、金髪をショートボブカットにしている。シングルマザーだが尚人だけでなく坂本ケンジ、沖島りずも小学生時代から温かく見守っており、りずの恋愛相談にも乗っていた。非常に明るく優しい性格で、ケンジやりずからも慕われている。しかし全身が末期ガンに冒されており、入院してからは死を覚悟した発言を繰り返すようになった。尚人の今後のためにと、わずかばかりの遺産を渡している。
轟 (とどろき)
坂本ケンジの元クラスメートで、高校1年生の少年。ふくよかな体型で、髪にパーマをあてている。友人思いで明るい性格ながら、最澄がトップを務める暴走族に所属している。範田尚人が、チームメンバーのバイクを破壊した犯人だと疑われた際には、怯えながらも最澄を止めに入った。
親鸞 (しんらん)
最澄の息子で、モヒカン頭をしている。年齢は3歳。幼いながらも正義感が強く、沖島りずのクラスメートがゲームセンターで悪ふざけをしているのを目にした際には物おじせずに注意した。しかしその結果、大切にしているアルミホイルの人形を高所に投げられ、号泣するなど年相応な反応も見せる。助けてくれたりずに、よく懐いている。りずからは「シンちゃん」と呼ばれている。
芝 (しば)
悪魔憑きについて詳しい様子を見せている刑事の男性。ふくよかな体型で髪を逆立てており、右あごに大きなほくろがある。子供の頃に、何かに連れ去られた経験がある者や、過去に記憶喪失経験がある者を探している。また、坂本ケンジと沖島りずに悪魔憑きのことを教え、範田尚人と再会するために田所圭太を生け捕りにして、尸の本拠地をつき止めることを勧めるが、ケンジたちには悪魔憑きについて多くを語ろうとしない。
田所 圭太 (たどころ けいた)
尸に所属している悪魔憑きの中年男性。肥満体で、「プチでびるーん」という変身美少女アニメのコスプレをしている。プチでびるーんのオープニングを歌いながら触れたものすべてを、フルコーラス歌いきったときに爆破させるという能力を持つ。電車の中とライブハウスで、無差別に大量虐殺した。尸では「フールフール」と呼ばれている。
峯尾 アカリ (みねお あかり)
坂本ケンジのアルバイト仲間で、店長の姪の少女。全体的にシャギーの入った暗い赤毛をポニーテールにして、パンクテイストのファッションを好む。看護学生で、東京の病院での就職を目指している。ふだんは明るく振る舞っているが、実は2か月前に両親と妹を事故で亡くしている。ベレトを崇拝する悪魔信奉者の家庭で育ったが、峯尾アカリ自身は定期的に行われるお祈りには熱心ではなかったため、これがベレトの怒りを買い、家族が殺害されたと考えている。ベレトと、ベレトに吸収された家族に指示され、ケンジをベレトのもとへ連れていった。ベレトに負わされたケガをケンジに治してもらったことで、悪魔憑きとなる。
店長 (てんちょう)
坂本ケンジがアルバイトをしていた弁当屋の店長を務める初老の男性で、峯尾アカリの叔父。瘦せた体型の同性愛者で、ケンジに思いを寄せている。アカリの家庭が悪魔信奉者であることを知っており、その事実を嫌悪して距離を置いている。しかし、アカリとアカリの妹には愛情があり、両親から二人を引き離そうと考えていた。
ベレト
尸に所属している悪魔憑きの青年。尸のNo.2であり、尸の中でも特別視されている。ベレトがターゲットにした人物の「一番大切な人」をターゲットから奪うことで、ターゲットを取り込む能力を持つ。峯尾アカリの家族が信奉していた悪魔が憑いており、アカリの妹を殺害することでアカリの家族全員の魂を吸収した。両肩からアカリの両親の顔、胸の中央にはアカリの妹の顔が生えている。坂本ケンジの能力を欲しているため、アカリにはケンジの一番大切な人間になるように指示し、そのうえでアカリを殺害することでケンジを吸収しようとしていた。
アスタロト
悪魔憑きの中年男性で、空海と沖島りずを襲撃した。黒髪のストレートロングヘアで、前髪を眉の高さで切りそろえて姫カットにし、サングラスを掛けている。溶解性の霧を噴出し、人間を溶かすことができる。人間が溶けた残骸を「ジャム」と称して愛でており、特に女子供を溶かすことに快楽を感じている。また、アスタロトの肉体そのものも水蒸気で形成されているため、空海の鋭い刃でも太刀打ちできない。
佐久間 海斗 (さくま かいと)
尸に所属している悪魔憑きの少年。金髪のベリーショートヘアで、耳と口のピアスをチェーンでつないでいる。バグが大量発生している場所の討伐に、範田尚人やユイと共に派遣された。尚人を悪魔、バエルの憑いた悪魔憑きだと信じておらず、佐久間海斗自身の方が有能だと考えている。
ユイ
ベレトが作り出した、尚人の母親の複製。長い金髪のワンレンで、尚人の母親が高校生だった頃の姿をしている。心臓が範田尚人の心臓と連動しており、尚人の心臓が止まればユイの心臓が小型爆弾によって破裂する。また、尚人と15メートル以上離れると尚人といっしょに心臓が破裂する仕掛けになっているため、つねに彼と行動を共にしている。ベレトは尚人を取り込むため、ユイが尚人にとって一番大切な存在になることを望んでいる。
集団・組織
尸 (かたしろ)
範田尚人やベレトが所属している団体。「教団」とも呼ばれている。ベリアルと呼ばれる悪魔憑きが教団のトップに君臨しており、ベリアルをはじめとした「王」と呼ばれる悪魔憑きたちが、力の弱い悪魔たちを統べている。バグの駆除や、無差別テロを引き起こして大量の血を流させるサバトを行い、悪魔を地上に降臨させようとしている。
その他キーワード
悪魔憑き (ぞあ)
悪魔が取り憑いた人間の総称。取り憑いた悪魔と契約することで、人間の体でも悪魔化することができるようになる。また、悪魔と契約するための部屋への入り口は、器となっている人間が死の淵に立つことで開かれる。
バグ
この世界に出てくることに失敗した悪魔のなれの果て。サバトで大量の血液が流されることによって人間の体が悪魔の器となるが、取り憑いた悪魔にとってその器が不完全なものだった場合、悪魔の憑依に耐えきれずに器が異形に変じ、言葉を話すこともできなくなる。バグは基になった悪魔の意識すら持たずに同族の悪魔に襲いかかるため、尸では駆除隊が組織されている。
サバト
人間の血を流すことで、悪魔憑きが発現しやすい状況を作り出す儀式。尸では下級の悪魔が儀式を執り行っている。しかし、人間が悪魔の器になれる確率は低く、大量の血液を流しても器が作られないことも多いため、効率が悪いとされている。