概要・あらすじ
猟奇殺人犯の田野井正一に、15歳になるまで犬と一緒に幽閉されて育った少年トト。彼は女子高生の真琴と出会い、人間の世界、言葉の世界へと導かれていくが、田野井がトトを解放する時に言い放った「言葉の世界で地獄を見ろ」という呪詛には恐ろしい秘密が隠されていた。何者かがトトの命を狙い、トトを匿う真琴や筆吉らにも危険は及んでいく。
田野井事件の謎を追い続ける新聞記者の山形が辿り着いたのは、「ヒカタクダリ」という謎の言葉だった。
登場人物・キャラクター
真琴 (まこと)
ショートヘアの女子高生。芸術家の父親が誤報でスキャンダル報道をされ、家庭が崩壊し、学校もまともに行かず、自由奔放な生活を送っている。偶然、15年間犬と一緒に育った少年と出会い、昔飼っていた「トト」という犬の名前をつけて匿うようになる。
トト
猟奇殺人犯の田野井正一に15歳になるまで犬と共に幽閉されて育つ。田野井正一が逮捕されて解放され、真琴との運命の出会いにより、多くの困難を経て、言葉と共に人間としての存在を獲得していく。
山形 (やまがた)
毎朝新聞の記者。猟奇殺人犯の田野井正一が逮捕された後も、犬男・トトの謎を探ろうと奔走する。かつて誤報スキャンダルで真琴の家庭を崩壊させた経緯があるが、唯一事件の真相に迫る記者魂を持った中年男性。
筆吉 (ふでよし)
書籍の校正の仕事をしている中年男性。真琴と交際している。人あたりの好い性格で、トトの事件に巻き込まれるが、真琴を守るために信太らと共に奔走する。
信太 (のぶた)
真琴の同級生。高校では、真琴を苛める新子の手下のような存在だったが、寝返って真琴につく。世間知らずなお金持ちの坊ちゃんである。
田野井 正一 (たのい しょういち)
猟奇殺人事件の犯人。48歳。3人の女性を殺し、その人肉を食べていたと思われる。かっては真面目なよく働く男だったが、ある女性を好きになったことから鬼畜の道に踏み出すことになった。
タツオ
真琴の父親で彫刻家。美術大学の教授だったが、誤報スキャンダルで大学を追われ、家族とも別居しひとり暮らしをしている。世間的な評価には振り回されず正直に生きる芸術家。トトの事件で真琴と再会し、親子の関係を取り戻す。
ハナエ
真琴の母親。元美術大学の教授である夫のスキャンダルで夫と別居し、娘の真琴と二人暮らしをしている。スキャンダル以来、いつもイライラして笑うことのない生活に疲れている。トトが来て迷惑しながらもじょじょに明るさを取り戻していく。
津島 南風 (つしま なんぷう)
政治家。香道の津島流の師匠でもある。党派に属さず清廉潔白な人物とされ、日本のトップに立つ男として有望視されている。前に立つだけで多くの人が平伏してしまうその秘密には、「香」の力があるようだった。
本間 栄 (ほんま さかえ)
光世堂化粧品会社の会長であり、津島南風後援会会長。10年前に香道の会で津島南風に出会い、それ以来献身的に津島南風に尽くし、彼を日本のトップにして世界に送り出すことを念願にしている老人。
山岡 松美 (やまおか まつみ)
田野井正一の元妻。視覚障害があり、トトの母親であるとワイドショーで告白するが、その手記を書いて発表する間際に、スナックで死体となって発見される。
甘利 利彦 (あまり としひこ)
東明大学の認知心理学の教授。長年、障害児研究にたずさわっており、筆吉が殺されたショックで言葉を失った真琴の代わりにトトを預かって育てることになる。
新子 (しんこ)
真琴と同級生。高慢な性格。スキャンダルで噂になった真琴を敵視している。はじめは自分に好意を持っていた信太を手下のように使って真琴を苛めることに利用していたが、結局信太には寝返られてしまう。
数寄屋橋先生 (すきやばしせんせい)
ホームレスの生活をしている年老いた男性だが、元は著名な書道家だったらしい。男性の書いた文字は、不思議にも具体的にその字の効果を発揮する。その力でトトや真琴たちを追っ手から守る。