あらすじ
第1巻
テレクラで言葉巧みに呼び出した男との約束をすっぽかし、遠くの店から双眼鏡で男を観察し続ける、という一風変わった遊びに興じていた少女、林二湖。クリスマスの日にもかかわらず、そんな人間観察に夢中になっていた二湖に、謎のおじいさんが相席を申し出る。スパイを夢見て話術と観察力を磨いている、と嘯(うそぶ)いた二湖の才能に感嘆したおじいさんから、とある誘拐事件の電話録音を聞かされた二湖は、持ち前の観察力で犯人像を推察。おじいさんとの対話はそれきりで終わったが、先ほどの誘拐事件の顛末が気になった二湖は、テレクラで待ち合わせの約束をしていた須藤威一郎を言いくるめて無理やり仲間にし、誘拐事件の解決を図るのだった。(エピソード「セクシーボイスは14歳」)
とあるビルのオーナーの息子で、家を飛び出したよしひこの様子を見てきてほしいと、おじいさんからの依頼を受けた二湖。水族館に勤務していたよしひこは、付き合っている彼女のなぎさに夢中になり、愛におぼれる日々を送っていた。しかし、当のなぎさは複数の男のもとを渡り歩き、決して一人のものにはならないタイプ。思いつめたよしひこは、なぎさが愛する水族館の魚を殺すと脅し、なぎさに結婚を迫る。二湖は威一郎と協力し、よしひこの暴走を食い止めようとする。(エピソード「女は海」)
サッカー日本代表が練習するスタジアムで、威一郎のスポーツカーを使った爆破事件が発生した。容疑者として警察に連行された威一郎を助けるため、犯人を突き止めようと各地を奔走する二湖は、日本代表落ちした真船丈を何者かが代表に返り咲かせるために、エース選手である三鷹貞史の殺害を計画したと推察。日本対フランス戦が行われるスタジアムに入り込み、貞史の殺害を未然に防ごうとする。(エピソード「エースを狙え!」)
次世代の高速携帯電話GOMAを開発する凄腕のエンジニア、相模武夫が、何処かのスパイではないかと疑ったおじいさんの依頼を受け、武夫の調査を開始した二湖。3か月前に武夫とテレクラで会話していた二湖は、その伝(つて)を使って武夫と遭遇。二湖といっしょに過ごすうちに、内に潜む破壊衝動を抑えられなくなった武夫は、自身が作り上げたGOMAのシステムをすべて無に帰すメール爆弾を送るように、二湖に懇願する。(エピソード「タワーの男」)
ニースでバカンス中のおじいさんに、知人の賭場から500万円を盗んだ少年の行方を追うように依頼された二湖。千葉県へと向かった二湖は、所在なげに田舎町をうろついていた少年を発見し、サーカスを見ていた少年の身柄を確保する事に成功する。しかし、この期に及んでも当事者意識がまるでない少年は、ニースまでおじいさんに謝りにいくと二湖に宣言するのだった。(エピソード「日本のバカンス」)
ニース帰りのおじいさんの話を聞くうちに、おじいさんの素性に強い興味を抱いた二湖は、おじいさんの知人と会話するうちに、おじいさんが50年前は「デコ頑」と呼ばれて、近隣に名を轟かせた有名なワルだった事と、多くの女性とねんごろな関係を持つ、モテモテの男だった事を知る。そんな女性の中でも一際大事にされていた、節子という運命の女性の話を聞いた二湖は、二人がなぜいっしょにならなかったのかについて、調査を始めるのだった。(エピソード「指輪とギャングスター」)
第2巻
日曜日の公園で「あおぞら髪切」を開き、格安で散髪をする美容師の丸尾と仲よくなった林二湖。須藤威一郎といっしょに、丸尾がアルバイトをしている美容室を訪れた二湖は、そこでクラッシュしながらバイクで突撃してきたライダーに遭遇。二湖は、メール友達に会うために単車を担いで東京までやって来て、未払いの電話代を稼ぐために強盗をした、というライダーの身の上話を聞くはめになってしまう。(エピソード「さわって青空」)
三日前の出来事をすべて忘れてしまう三日坊主と呼ばれる男といっしょに過ごす事になった二湖。ホテル住まいで、自分が何者なのかもよくわかっていない三日坊主に対し、まるで娘のように振舞い、ともに楽しい時を過ごす二湖。しかし、三日坊主の正体は殺し屋であり、とある人物の依頼によって、おじいさんの命を狙う事になる。(エピソード「三日坊主の天国」)
鹿児島まで出向いた老人から携帯電話を預かり、気ままに過ごしていた二湖。そんなある日、老人の携帯電話に草蛇という男から電話がかかってきた。手当たり次第に電話をかけ、ナンパをしているらしい草蛇に興味を抱いた二湖は、新宿で草蛇と待ち合わせ、彼を密かに観察する。しかし、草蛇の本当の目的は、おじいさんの動向を探る事にあり、二湖に対し、自分が三日坊主を始末した事を宣言する。(エピソード「おじいさんの電話」)
三日坊主が殺された事実を知り、怒りに打ち震える二湖。仇を討つために草蛇をおびき寄せようと決意した二湖は、威一郎に見張りを頼み、草蛇と遭遇。言葉巧みに草蛇の思考を誘導した二湖は、彼の所持品であるスタンガンを使い、草蛇を昏倒させるのだった。(エピソード「一夜で豪遊」)
良枝という老女に預けた鍵を返してもらうという依頼を、おじいさんから受けた二湖。良枝の屋敷に出向いた二湖は、無害な老女を演じる良枝の裏の姿を読み取り、彼女が過去にスパイ稼業をしていた事を見抜く。良枝は二湖に対し、人生には「意思ではなく、才能が行く道を選ぶ」場合がある事を告げる。(エピソード「鍵」)
良枝から返してもらった鍵で開けた箱には、「マーチン中尉の時計」と呼ばれる、とあるアメリカ兵が残した懐中時計が入っていた。幸運のお守りとして長らく「マーチン中尉の時計」を所持していたおじいさんは、良枝が認めた証として、二湖にその懐中時計を渡す。後日、友人と遊び歩いていた二湖の前に、カタコトの日本語を話す妙な外国人、ニコラが現れるのだった。(エピソード「伝言ゲーム」)
ニコラから、方々のホテルに残された不思議な手紙の数々を手渡された二湖。その謎を解くために、調査を始めた二湖は、残されていた電話番号にホテルから電話をかけ、手紙を残したのがみほという謎めいた女性である事を突き止める。待ち合わせの約束をした二湖だったが、肝心のみほは、行きずりの男性とラブホテルへ行ってしまう。(エピソード「伝言ゲームは続く」)
登場人物・キャラクター
林 二湖 (はやし にこ)
快活な女子中学生。年齢は14歳。人並みはずれて好奇心が強く、洞察力や観察力にも長けたショートヘアの才女。将来の夢はスパイや占い師、または交渉人で、愛称は「ニコ」。テレクラで言葉巧みに男を呼び出しては、別の場所から双眼鏡で観察するという、話術や観察眼を養う訓練を兼ねた遊びに興じていた。謎のおじいさんに、その類まれなる才能を見出され、スパイ活動じみた数々の依頼を持ち込まれるようになる。事件を無事解決した後、おじいさんから様々な依頼を受けることになる。相棒はテレクラでサクラに引っかかった男、須藤威一郎(ロボ)。人ごみの中でも他人の声を正確に聞き分けられる特異な能力の持ち主で、電話口では声色を巧みに使い分けて、大人の女性を演じられる演技派。スパイとしてのコードネームは、自称「セクシーボイス」。他人の行動原理や思考に対しては、尽きぬ好奇心と探究心を発揮するが、自身の色恋沙汰にはあまり興味がない。なお、友達の前ではごく普通の中学生として、楽しく平凡に過ごしている。
須藤 威一郎 (すどう いいちろう)
メガネをかけた短髪の男性。年齢は25歳。背が高く、顎が少し長いのが特徴。テレクラで林二湖と会話した事が縁となり、二湖にお願いされて、なし崩し的に数々の依頼に狩りだされるようになる。普段はボーっとしており、強く頼まれると断れない善良な小市民。子供の頃からヒーローもののロボットに強いあこがれを抱いており、自室にはたくさんのロボットのフィギュアを飾っている。二湖と初めて出会った際に、輸入品の「マックスロボ」のフィギュアを購入してもらっており、それ以来、二湖からは「ロボ」というあだ名で呼ばれている。二湖と行動を共にするようになってからは、愛車を爆破されたり、名梨に極め技を食らうなど、ロクな目に遭っていないが、若干鈍い面があるため、それほど気にしてはいない。少々寂しがり屋で、ヒマができるとテレクラに通って女性と会話している。ただし、女性に会えたためしはほとんどない。
おじいさん
頭頂部が禿げ上がった男性。かつて「デコ頑」と呼ばれ、進駐軍に対しても容赦しない凄腕の男として、近隣に名を轟かすワルのリーダーだった。現役を引退してすでに久しいが、若い頃に作った貸しが方々にあるため、金に困らない悠々自適の生活を送っている。とある店で人間観察をしていた林二湖の存在を面白がり、自身に持ち込まれる知人からのさまざまな相談を、二湖に回して解決させていた。二湖からは親しみを込めて「おじいさん」と呼ばれている。
三日坊主 (みっかぼうず)
めだたない容姿をした中年男性。本業は殺し屋。本名は不詳。三日前の出来事を忘れてしまう特異体質で、人を殺めたとしても、罪悪感を含めすべてを忘れてしまう事から、三日坊主と呼ばれている。鹿児島にいるオーナーに使われていたが、草蛇によって都内のホテルに連れ去られ、おじいさんを殺害するためのヒットマンとして利用される。記憶はないが、殺しの腕前自体は確かなものがあり、これまでに十数人を殺害した実績を持つ。うなぎが好物で、その事を忘れないように、定期的にうなぎを食べている。