あらすじ
第1巻
殺人犯の松沢良子が刑務所で産んだ子供は、殺した男の子供だった。それは、未だ消すことのできない殺した男への恨みをはらす対象を、存在させるための行為だった。良子の心の底を見抜いた刑務所内医の早川は、良子の手の届かないところへ子供を遠ざける。松沢の出所日が間近に迫った日、すでに退官していた早川が松沢に面会に来る。(エピソード「ガラスの靴ははかない」)
海辺の旅館で働く節は、初めて金を貰って客をとった。その男性は、節が愛していた外村という男性で、節が通っていた定時制高校の教師だった。節がこの海辺の町に来て10年間暮らして来たのは、彼を忘れるためだった。外村は旅館に3日間滞在したが、彼女には気づかなかった。節は別れ際、彼との唯一のつながりだったある物を見せるのだった。(エピソード「海の時間」)
女子少年院の教官、野崎洋平は、仮出所した菊島あけみからの便りが途絶えた事に、一抹の不安を覚えていた。あけみは、洋平が受け持った院生の中で、最も哀しい人生を送って来た少女だった。ある日、反抗的だったあけみは脱走。その時、体を張って暴力団事務所からあけみを連れ帰った洋平を信じるようになり、あけみは更生したのだ。あけみを探しに川崎を訪れた洋平だが、同姓同名の風俗嬢も、あけみとは別人だった。気落ちした洋平はラーメン屋に入るが、店を切り盛りする若い夫婦の会話を耳にし、思わず息を呑む。(エピソード「教官の雨」)
子沢山の家に生まれた太地は、鬼土焼の創始者である先生に引き取られ、やがてその家の娘、絹江と恋に落ちる。太一は土に対して純粋すぎるが故、先生と衝突するようになるのだが、ほどなく先生は病死する。残された絹江も、土に没頭する太一に寂しさを感じ始め、自分を殺して土にしてくれと懇願する。(エピソード「ひび割れた土」)
著名な鶴丸清教授の後継者として、その娘の赫子を妻にした橘健吾は、「鳥羽シ―ワールド」の設計で注目を集めていた。だが、那智の滝の山林で白骨死体が発見されるという新聞記事を見た健吾は青ざめ、那智に向かう。健吾は学生時代、風俗嬢のテル子と暮らし、面倒を見てもらっていた。しかし赫子との結婚が持ち上がり、テル子が邪魔になった健吾は、テル子を勝浦旅行に連れ出して殺害したのだ。健吾を勝浦から乗せた高齢のタクシー運転手は、バスの運転手をしていた7年前、バスに写真を忘れた健吾の顔を覚えていた。(エピソード「砂上の設計」)
赤岸源助は警官を二人殺害した死刑囚だった。拘置所の看守だった谷口五郎は、死刑執行直前の源助から、娘のかほるの姿を見て来てほしいと頼まれる。後日、無実の男を処刑したのではないかとの葛藤を抱え、五郎はかほるを引き取った下河地恵介が住む八阪町を訪れる。五郎は事前に、源助逮捕の決め手となる証言をした老人の伊達徳次郎から、下河地を目撃したという供述を得ていたのだった。(エピソード「谷口五郎の退官」)
脱走を繰り返してきた鈴木平吉の仮釈放が迫り、彼を担当した刑事は、なぜ彼が他人の罪をかぶり、時効成立まで服役したかを問いに来た。平吉は、刑務所の15年間が自分の人生の中で一番自由だったと、静かに語り始める。平吉は、間違って生まれた郭(くるわ)の子で、人間扱いされない日々を過ごして来た。しかし、30歳の時に出会った長沼文子と一瞬でお互いをわかり合う経験をし、3日間夫婦として過ごした。だが、文子は何者かに殺害される。平吉は、文子を殺したのが自分でなければ切なすぎるという思いで、時効までがんばったというのだ。(エピソード「黒の牧歌」)
塩見良夫は、世の中の人間はすべて金のために動くと、身をもって知っていた。だが、資金援助と引き換えに結婚した取引先の娘、塩見夏子はあまりにも美しく、醜い自分を愛している筈がないと、疑心暗鬼になっていく。ある日、夏子は家を出て、学生時代の登山仲間の南条と暮らし始めた。偽名を使い、南条をガイドに雇った良夫は、夏子のいる山小屋を目指すのだが、良夫が南条を殺そうとした瞬間、知らせ石が転がり、岩崩れが起きる。(エピソード「暗い傾斜」)
第2巻
田舎の映画スタジオで暮らしながら、台本を書いている小畑のもとに、初めて顔を見る娘の恵子が訪れた。彼女は、自分が現在の父親と母親の幸江から生まれるはずのない血液型である事を知って非行に走り、女子少年院で自殺未遂を起こしたのだ。恵子の強い要望で身元引受人となった小畑だが、捨て鉢な態度を取る恵子を、一組の男女の愛から生まれた事を誇れないのは人間のクズだと、殴ってしまう。(エピソード「遠い抱擁」)
「東都銀行」南大泉支店の出納係、石井優子は、支店長と不倫関係にあった。直に幹部となる彼が優子を不倫相手に選んだのは、彼女が安全で従順な女だと直感したからだった。ある日、出納の残が合わず、支店長立ち合いのもと、優子が残業する事となった。その後、優子は今までの関係を、今日ある所へ持ち出した700万円で精算してほしいと彼を脅す。優子はあせる支店長を建設中のビルの上階に連れ出すが、売れ残りの身体に大金は払えないという支店長の本音を聞き、自ら飛び降りるのだった。(エピソード「従順なる復讐」)
刑事の片田良夫は張り込み中に「ハハキトク」の知らせを受けたが、犯人逮捕まで現場を離れず、母親に思いを巡らせる。女手一つで彼を育ててくれた片田の母は、いつも明るかったが、たった一度だけ悲しい顔を見せた事がある。それは、仕事仲間から手に入れた東京オリンピックの開会式のチケットが、ダフ屋による偽のチケットであると、入場を断られた時の事だった。(エピソード「あの日川を渡って」)
自分の助教授昇進を決議する教授会の結果を待っている大学講師の大山は、女性講師の水野が有利だという途中経過を、奥田教授から聞かされる。大学に留まる事がいかに大変かを見てきた大山は、奥田教授と男女の関係を結んでいた。駐車場の車を移動してほしいとの連絡を受けた大山は、不注意から男性に接触。その男性は、転んだ拍子に頭を打って死亡してしまう。男性を自分の車に隠した大山だったが、奥田教授からの呼び出しで、助教授昇格を告げられる。(エピソード「象牙の罠」)
終電近い電車の中にガソリンを撒いて放火する事件が起きる。犯人の手がかりは全くなかった。警察の面目は丸つぶれで、捜査員たちの焦燥は頂点に。そんな中、刑事の片田良夫は、この放火事件の唯一の生き残り「マンジュウ爺さん」から犯人を聞き出そうとする。しかし「マンジュウ爺さん」は、その目の前で何が起きようと、何の関心も持たないような廃人同然の人物だった。犯人に関する有用な証言は得られなかったが、片田は、彼が「マンジュウ爺さん」と呼ばれるようになったある重要な事実を摑み、放火事件の真相に迫る。(エピソード「消えた国」)
はじめは酒浸りのはじめの父に働かされ、学校に行かせてもらえなかった。そんなはじめの父を説得しようと、家を訪れた小学校教師の佐藤純子は、はじめの父に乱暴されそうになる。既に父親の暴力で朦朧としていたはじめは、斧で頭を割られて死んでいる父親の死体を見つけ、自分がやったと錯覚する。その夜、伊勢湾台風が到来し、はじめの父は家もろとも流される。時が過ぎ、純子の庇護のもと、医者となったはじめは自分が育った村に診療に訪れた。そんな中、工事中に白骨死体が発見され、検屍したはじめは偽りの報告をする。それを知った純子は、はじめの前で、いい加減に私を許してほしいと泣くのだった。(エピソード「流された記憶(前編・後編)」)
新米の刑務官、田村は、収容者の村上優子にからかわれ、衝突を繰り返していた。そんな優子の服役態度は、出所間近ながら悪化していた。ある日、優子は田村を名指しした願箋(相談申込書)を提出。夫と子供が許してくれるなら、出所する3日前の夜11時に、紙ヒコーキを投げ入れてほしい、と手紙を書いたという優子の話が、田村の頭から離れなかった。(エピソード「白い返事(メッセージ)」)
30年前の強盗殺人事件で服役していたラッシュ池沢こと池沢善二から手紙を受け取り、当時その事件を担当した藤井刑事は、ファイター常田を訪ねる。殺人容疑がかかった池沢は、ボクシングの試合に出してくれれば、自分が犯人ではないと証明できると断言し、藤井は周囲の反対を押し切り、ファイター常田とラッシュ池沢の試合を実現させ、池沢が勝利を収める。池沢の主張は、自分のフットワークは殺人を犯した者のそれではないと常田もわかるはずだという、とんでもないものだった。だが、当時池沢の主張を否定した常田に、藤井はもう一度、同じ質問をするのだった。(エピソード「午後のフットワーク」)
営業成績がトップの会社員、谷村健一は、妻が出産する1週間前に休暇を取り、一人旅に出た。父親の谷村健造の骨を引き取りに来てほしいという絵葉書を、健一は10年前に受け取っていた。だらしのない父親を嫌悪していた健一は、差出人が女性だという事もあり、あえて引き取りに行かなかったのだ。絵葉書の住所を訪ねた健一は、渡辺富子の娘、恵子から、富子が健造を殺してしまったという衝撃の事実を知らされる。(エピソード「海のある風景」)
第3巻
能の安西流宗家、安西泰雄から、内弟子の吉岡洋子を殺害した犯人が弟子の中にいると、私立探偵の松本源助は犯人探しを依頼される。泰雄から参考にと渡された能の「定家」という物語からヒントを得た源助は、洋子の恋人で、現在行方不明の川島次郎の捜索願を警察に依頼する、と泰雄に告げる。さらに源助は、生きながらに枯れた人間などいないと、泰雄に詰め寄るのだった。(エピソード「老木の舞」)
ブランドバッグ欲しさに、大学生最後の春休みに託児所でアルバイトする事にした友子は、ある日、自分が帰ったあとの託児所で、熱があった2歳の良夫が亡くなった事を知る。彼の死に相当なショックを受けた友子は、当初は無関係を装ってはいたが、やがて、自分なりの責任の取り方を模索し、良夫の母親でホステスの石川君子に会いに出かける。(エピソード「春の惑い」)
新宿駅付近の連れ込みホテルでコールガールの新井千恵が絞殺死体となり発見された。北海道出身の彼女は、故郷に帰りたくても帰れない事情があった。刑事の片田良夫と岡村は犯人を追うが、ほどなく山崎浩が自首して来た。彼も北海道で姉弟二人で耐え忍んで生きてきた人物だった。上京した浩は、苦しい生活の中、不幸な行き違いが原因で事件を起こしてしまったのだ。だが、そんな浩を待ち受けていたのは、皮肉な運命のいたずらだった。(エピソード「片隅」)
覚醒剤に溺れた過去を持つ岩波由紀子は、理解のある夫の岩波隆夫と結婚し、自然豊かな郊外に越して来た。ある日、由紀子は牛乳配達の男性と顔を近づけて話しているところを、噂好きの巡査の妻、田所房子に見られてしまう。漠然とした不安から、房子と距離を縮める由紀子だったが、彼女の誘いを断ればひどい状況に陥るとの恐怖に苛まれる。そんな中、房子に誘われたジョギングで、妄想が加速した由紀子は、房子を川に突き落としてしまう。(エピソード「腐葉の森」)
見合い結婚が決まった岡村美智子は、愛していた既婚男性への未練を断ち切れず、苦しんでいた。そんな時、父親で刑事の岡村一平から旅行に誘われる。30年前、張り込み中だった父親は、道ならぬ恋に苦しみ、その恋は悲痛な形で終わりを告げる。旅先の旅館の女将から、その話を聞いた美智子は、父親の心中を察するのだった。(エピソード「埋火」)
新聞社で社会部記者のエースだった前田は、田舎の通信部に配属になる。やる気をなくした前田だったが、火災で高齢の夫婦が亡くなるという事件が起こり、両親を介護していた28歳の女性にスクープの匂いを嗅ぎつける。面会謝絶の彼女から強引に自白を引き出し、記事にした前田だったが、女性は自殺。周囲から責められる中、前田の妻が産気づき、彼が病院に駆けつけると、意外な人達が彼を待っていた。(エピソード「左遷」)
出所を控えた受刑者の大塚まゆみは、医務室の落合駿介からスイミングのコーチの仕事を紹介される。かつてまゆみは水泳選手として、モスクワオリンピックで期待を一身に集めていたが、その重圧から逃れようとして妊娠。だが、コーチと恋人からいいくるめられ、まゆみは堕胎する。まゆみのタイムは程なく回復したが、そんな中、日本のモスクワオリンピック不参加が決まった。しかも、まゆみを待つと言っていた恋人の噓が発覚し、彼を刺したまゆみは刑務所に入ったのだった。(エピソード「さかな」)
18歳の山本二郎という男性を探してほしいと、不良少女の中原ユミに依頼された松本源助は、スケッチのような地図を渡される。ある日、その地図を見た嫁の松本たえ子が、自分のマンションの近くだと気づいた事から、源助は聞き込みを開始。ある喫茶店で二郎は3か月前に交通事故で死亡したと聞かされる。ユミの心中を察した源助は、彼女とディスコへ繰り出すのだった。(エピソード「空想地図」)
人々から忘れられたような駅で、悲し気な女性は4日ものあいだ誰かを待っていた。その女性から、昨日で運行が休止した「高原三号」に乗りたいと言われた順二は、彼女を待合室に泊まらせる。のちに順二は彼女が横領犯だと知るが、警察に対し、女性が昨日「高原三号」に乗ったと咄嗟に噓をつく。順二から事情を聞いた順二の姉、理恵は男にだまされた女性に同情し、「高原三号」を本当に走らせてあげたらいいと提案する。(エピソード「夏の跡」)
S県で「つくわ村病」が再び発生した。町の診療所の医者、佐田は、東都医大の助手だった頃、独自に「つくわ村病」の調査をしていたが、築岡教授の方針にそぐわず、大学を追われる。それからも佐田は、つくわ村に移り住んで研究を続けたが、役人に医事法規違反だと研究を阻まれる。以降、彼は職場を転々とし、今の診療所に落ち着いたのだ。ある日、佐田のもとを、再発した「つくわ村病」の拡大防止に協力してほしいと築岡が訪れる。築岡は佐田に、恥を忍んで、10年前に発生した「つくわ村病」は、築岡が東南アジアから取り寄せたサルが原因だったと打ち明ける。(エピソード「遠い唸り」)
サナエ・マルホーランドは、35年振りに日本の地を踏んだ。サナエの相手をするよう父親に頼まれた栗原清美は、サナエについてよい事は聞かされておらず、そっけない態度を取る。清美の友人達も交えての食事の席で、サナエは15歳で子連れの娼婦になり、米兵と結婚してアメリカに行かざるを得なかった当時の状況を語るのだった。(エピソード「八月の空」)
第4巻
台風の上陸と共に女子大学生が殺されるという連続殺人事件が発生した。捜査一課の刑事、片田良夫は、雑誌記者の久美との会話から、犯人はマスコミによる犯行記事が、自分の社会的評価だと錯覚しているのではないかと疑う。そして、ある雑誌で特集されている大学と、その後に殺された被害者の大学がすべて一致している事に気づく。これにより事件は早期解決するが、犯人の犯行動機は、あまりにも身勝手で稚拙なものだった。(エピソード「動機」)
悪徳金融業を営む冴木治美には、10年前に亡くなった夫の冴木とのあいだに順一という子供がいた。治美は16歳の時、父親の借金の肩代わりに冴木に売られて来たのだ。治美は鬼のような冴木を憎んでおり、発作をおこした冴木に薬を渡さなかった事から、冴木は死亡し、その後、治美は順一を施設に預けたのだ。ある日、闇の世界と通じている相沢という男に、治美はその過去を知られ、順一を誘拐される。(エピソード「掌の影」)
新幹線が開通したある北国で、北上県会銀行の行員が心中するという事件が起きた。男性は議員に対する収賄容疑のあった大村支店長であり、女性の戸田信子の首には吉川線(首を絞められた時ヒモをとろうとして、自分の首に手の爪で作った細い傷跡)があった。口封じで殺されたと睨んだ森脇透検事は捜査に乗り出す。検視をやり直し、男女が別々に死んでいたと判明するや否や、透は命を狙われる。その後、透は収賄の容疑で北上銀行の幹部全員を逮捕する。捜査は行き詰まりを見せるが、透は自分を轢き殺そうとした殺人未遂の容疑で、県会議員の太川源治を任意同行する。源治は透の親代わりとなって彼を育ててくれた人物だった。源治は増収賄の事実を自白後、透に裁いてほしかったとの遺書を残し、自殺する。(エピソード「腐敗(前編・後編)」)
ある晩、タクシー運転手は一人の男性を乗せるが、追いかけて来た若い女性を振り切って発車した。その男は戸川啓一という一流商社「四谷商事」の専務で、タクシー運転手にとって因縁の相手でもあった。彼が「四谷商事」に入社した研修期間中に、戸川は老人を車で轢き殺し、彼に身代りを引き受けさせたのだ。翌日、愛人を殺害した容疑が戸川にかかり、タクシー運転手だけが戸川の無実を証明できる存在となる。過去の事件で自分を裏切った親友の安田に呼び出されたタクシー運転手は、苦い再会の時を過ごす。(エピソード「空白の走行」)
当時大学生だった弓子はフリーカメラマンの若林と組み、ビニ本のモデルをしていた。彼女は幼い頃から貧乏だったので、きらびやかな夢を持っていた。山岳写真が専門の若林は、いっしょにこの世界から足を洗って結婚しようと、弓子にプロポーズする。そんな矢先、若林は撮影中に、ヤクザに襲われた弓子を助け、傷害罪で捕まってしまう。若林に別れを告げた弓子だったが、3年経った今も、言葉とは裏腹に彼を待っていたのだ。(エピソード「砂時計」)
新宿歌舞伎町の水溜りで溺死した女性は、その界隈では「添い寝のノブちゃん」と呼ばれていた。だが彼女が掛けていた生命保険にはなぜか「小山あけみ」の名前が使用されており、私立探偵の乾真人は、弁護士の神崎智子とノブの生まれ故郷、琵琶湖へ向かう。そこでノブには戸籍がなかった事が判明するが、保険会社は本物の「小山あけみ」が夫と義理の息子に殺害されたとして、支払いを逃れられたと高笑い。契約時の生存調査がいい加減だったと憤った真人は、ノブを思い、街をさ迷う。泥酔した真人は水溜りに顔を突っ込み、その時はじめて、ノブの気持を理解するのだった。(エピソード「顔のない群れ(前編・後編)」)
妻のかなえが家を出て行くという日、会社員の吉沢の乗った電車が踏切事故に遭遇。自分の将来がかかっている会議を控えた吉沢は、必死で会社に向かおうとするが、そんな中、電話で上司に激しく叱責され、逆切れしてしまう。空しい生存競争に取り憑かれていた事に気づいた吉沢は、踏切事故で死んだ子供に花を供え、自分勝手な生き様を振り返るのだった。(エピソード「踏切り」)
8年前、沖縄支社をつくり、「海洋博」というイベントを成功させた[★清水]は、沖縄支社の業績を回復させるべく、再び沖縄に送り込まれる。当時愛し合っていた美沙が働くスナックに通う清水に、美沙の姉であるママをはじめ美沙までもが、自分を覚えていないと言う。不審に思った清水は、ママの実家がある本部を訪れ、ママの息子だという博という子供に会う。そんな中、清水は、土地の実情を無視したやり方についていけないと、部下から猛反発をくらう。気落ちした清水をホテルで待っていたのは美沙だった。(エピソード「紺碧の宴」)
第5巻
町長選に立候補した大村順一は、この町の人間への復讐心を秘めていた。ぐったりしている新谷の伯父を過酷な選挙運動に追い立てるのも、昔、この町の新参者だった両親が、当時の選挙戦で酷い仕打ちを受けたからだった。病弱だった順一の父親は、新谷の伯父に選挙運動に無理やり参加させられた事が原因で死亡。さらに母親は選挙責任者にされ、選挙違反の罪を被せられたのだ。しかし新谷の伯父が危篤状態となり、順一の正気を疑った順一の妻は、ある決心をする。(エピソード「熱い砂」)
友禅染の図案師として将来を嘱望されていた加藤修は、高校生だった佐知子と恋に落ちた。ある日、ヤクザ風の男に佐知子が襲われ、修はその男を殺害してしまう。だが、金子というヤクザに助けられた事から、やがて二人の運命は狂い始める。東京でヤクザになってしまった修は、佐知子を愛するが故、彼女を突き放す。そんな中、下っ端ヤクザの責任を金子に取らされ、修は自首する。金子が若い女性に銃で撃たれて死亡したと刑事から聞いた修は、逃亡し、あだし野に向かう。(エピソード「あだしの(前編・後編)」)
家出して来た人妻を自分の部屋に滞在させているトラック運転手の黒は、お節介が止まらず、相棒の健太に注意される毎日を送っていた。今度は、ドライブインを作るという老夫婦が気になって、黒は声を掛ける。その後、警察にやっかいになった老夫婦を、黒は部屋に泊める事になる。老夫婦の夫は教師だったが、夢を持たない子供の多さに愕然とし、妻の夢だったドライブインを建てる事を思いついたのだ。長距離の仕事で家を空けた黒達は、帰りの運転中、老夫婦と人妻が大きな木を倒そうとしている姿を目撃する。(エピソード「挽歌」)
課長の石原は、派閥争いの余波を受け、課の縮小を命じられる。子会社へ出向させる候補となった小山は、家庭の事情でしばらく欠勤。その日から、石原は帽子をかぶってサングラスをかけた怪しい男につけまわされる。小山がその男の正体ではないかと疑う石原だったが、小山も参加した課の飲み会で、例の男が店に入って来た。男を追いかけた西田は、その正体が派閥争いに敗れた西田本部長だった事に愕然とする。(エピソード「真昼の漂流」)
何かに追われるように仕事をこなす俳優の緑川道夫は、精神的に余裕がなくなり、旧知の仲であるマネージャーの森山にも当たり散らしていた。森山にせっつかれ、道夫は夜遅くに初産の妻が入院する病院を訪れる。だが、赤ん坊は一声泣いて死んだのだった。帰ろうとした道夫は、その時、赤ん坊の泣き声を耳にする。それを機に、道夫は一瞬でも生きていた自分の子を思い、蝉の様に生き急ぐ必要はないと気づくのだった。(エピソード「冬の蝉」)
夏木麗子は父親の葬儀に顔を出すため、11年振りに実家に戻った。学生運動に身を投じていた麗子は、恋人の俊夫が麗子の母に追い詰められ、自殺した事を決して許してはいなかった。そんな麗子に、麗子の母は、麗子の父親が結婚前に聖橋から身を投げ、心中事件を起こしていた過去を告白する。さらに夏木家の女は、優秀な男を外から迎え入れて生き延びてきたと語るのだった。(エピソード「聖橋」)
新宿ゴールデン街に事務所を持つ弁護士の鶴橋は、訴訟社会、アメリカの現状に疑問を感じ、助教授の座を捨てた変わり種だった。そんな鶴橋は恩師の大川教授から紹介された仕事をフイにしてしまい、娘の京子との結婚を禁じられる。ある日、喫茶店の店員、みどりが鶴橋に、交通事故で亡くなった恋人の両親に子供を奪われたと泣きつく。まじめに働き、25時に幸福になろうと話していた夫婦の在り方に共感した鶴橋は、みどりと共に子供を取り返しにいくのだった。(エピソード「初雪25時」)
西北大学に通う宮田みち子は、大学の中で愛人バンクのような組織を作り、荒稼ぎしていた。みち子の母は日陰者で、そんな母親を見て育ったみち子は、世の中を憎む守銭奴になったのだ。そんな中、みち子は大学教授の鈴木章一に特別な感情を持っていた。入院していた母親を亡くし、独りぼっちになったみち子は、寂しさから章一の家に潜入、帰宅した章一に通報されてしまう。みち子は刑事から、章一の娘、鈴木恵美は、みち子の愛人バンクに登録させられ、自殺に至った事実を聞かされる。(エピソード「面影花」)
刑事の夫がひき逃げされ、妻の細川ゆかりは、犯人と思しき実業家の伊集院とその愛人の有田可奈子に近づくべく、彼らの行きつけのクラブのホステスとして働き始める。細川を愛してさえいなかったゆかりだが、それ故に彼の仇だけは取りたいと誓う。やがて、伊集院の愛人になったゆかりは、可奈子を倉庫に監禁。だが、可奈子はゆかりにシンパシーを感じ、自身の過去を赤裸々に告白。二人のあいだに友情が芽生える。その後、可奈子の証言により、伊集院は逮捕される。ゆかりは可奈子の罪を案じながら、彼女の息子、幹男がいる施設へと向かう。(エピソード「蜃気楼(前編・後編)」)
第6巻
ルポライターの富島周一は、幼い頃、父親代わりとなって自分を育ててくれた富島優次が放った銃声の悪夢に悩まされていた。優次は5年前、自ら命を断っており、その死に様が異様だった事からも、真実を追求するため、優次の故郷、北海道に向かう。優次の好きだった女性の戸倉雪江は、当時農家を直撃した冷害で身売りされており、数年後、警察官と子連れの売春婦として再会したという事が判明。写真に残された雪江の顔は、周一にそっくりだった。(エピソード「銃声」)
体外受精の権威である片岡教授は、患者の卵子を無断で実験に使用した事から、世間の非難を浴びた。しばらく身を隠していた片岡を訪ねた20年来の友人、松江は、故郷の町で人間的な生活を取り戻した片岡の姿に驚き、そして彼に感化されていく。(エピソード「窓」)
「過去を消す仕事」をしている月丘さゆりと白鳥英悟は、一流企業の御曹司と結婚を前提に交際している若い女性から依頼を受ける。彼女は特殊浴場で働いていた過去を消し、「Ⅿ電器」の秘書として働く事になるが、結婚を申し込まれたとの報告を最後に、姿を消す。ある日、その女性が過去を取り戻したいと、再び現れる。相手は結婚詐欺だったのだ。この事を受け、過去を忘れようとした10年こそが自分達のキズだったと、英悟は別れた妻にもう一度プロポーズする。(エピソード「砂の絵」)
血気盛んなディスカウントショップの経営者、鳥居力に惚れこんだ「三富士銀行」のメガネをかけた支店長は、徹夜も辞さない勢いで、力の計画書の手直しに立ち会う。そんな中、女子大生番組に出演していた支店長の娘が暴漢に襲われるのだが、支店長は会議を続けようとする。力は、そんな支店長に、勘当するのは親の無責任だと意見する。そして、力はドロボウだった父親を見て育ったという過去を話し始めるのだった。(エピソード「原色の河」)
テレビ局に勤めてワイドショーを担当する綾は、多忙を理由に息子の稔に向き合わず、恋人の藤本のプロポーズもないがしろにしていた。綾に合わせて生活していた藤本は、綾と別れ、見合いで結婚を決める。藤本に稔から学べと諭されていた綾は、休暇を取って親としての自覚を学ぶ。それを伝えるため綾は藤本に会いに行くが、そこで自分が一足遅かった事を悟るのだった。(エピソード「渦」)
CMの撮影現場で、女性タレントが心臓発作で亡くなってしまう。彼女を抱こうと目論んでいた広告代理店の川村が、無理やり撮影を長引かせたの事が原因だったが、彼は現場の制作監督、吉田とコピーライターの中沢に後始末を押し付けて帰ってしまう。警察に連絡を入れようとした中沢と、それを止めた吉田は取っ組み合いの喧嘩になるが、本音をぶつけ合い、関係は修復。二人は自分達の異常さを痛感し、警察に連絡を入れるのだった。(エピソード「黒の培養」)
バス運転手の白石良平は退職の日、父親がいない小学生の小村京助を乗せ、彼を海に連れて行った。一方、バス会社では良平の娘、春と結婚予定の藤田が支部長となり、ストライキをしていたが、ヤクザ風の男達が事務所に乱入して来た。それが依田専務の仕業であると知った高橋所長は、会社のやり方に激高。そんな中、京助を乗せた良平は、バスでフェリーに乗ったが、誘拐を疑う警察に尾行されていた。噓をつく癖があった京助は、良平に自分が噓をついていた事を正直に話し、バスから降りる。そこへ数台のバスが駆けつけ、良平のバスを囲むように走行するのだった。(エピソード「回送車(前編・後編)」)
大学生の会田陽子は、ロス・オリンピックを観戦するために貯めた300万円を、友人の沢木英二に盗まれたと警察に通報。英二は逮捕されたが、両親が金を返した事で保釈される。だが、病院を経営する父親をはじめ、家族から散々ののしられた英二は自供を翻し、そんな中、真犯人が挙がる。陽子は残りの人生を田舎で生きていくために、なんとしてでもオリンピックに行きたかったのだ。(エピソード「遥かなる」)
青地宵子は内縁の夫、大崎宏を殺害した。宵子は17歳の時に大崎の女にされ、散々いいように使われて来たのだ。そんな中、愛人の昭が自分のために泣いてくれ、大崎さえいなければいっしょになれると言った事から犯行に及んだのである。だが、宵子が昭に助けを求めると、彼に拒否されてしまう。(エピソード「分水嶺」)
江藤、君塚、吉田の三人は貧しい時代に同じアパートに暮らしていた。彼らは社会的に成功し、安定した暮らしを手に入れていた。ある日、彼ら宛てに1通の手紙が届く。差出人は、彼らを兄のように慕い、同じアパートで暮らしていた瑛子だった。瑛子は彼らの生活を助けるために働き、彼らに弄ばれたうえ、捨てられたのだった。罪悪感を持った江藤は、彼女が入院していた病院に向かうが、彼女は既に死亡していた。その後、江藤は瑛子に子供がいた事実を知る。(エピソード「海からの手紙」)
第7巻
若林葉子は、兄に頼み込まれて1か月だけ、葉子の父を預かる事になる。父親に好き勝手され、笑顔のない母親を見て育った葉子は、恋人に結婚を申し込まれるが躊躇してしまう。しばらくして、自分の事を棚に上げ、近所の行儀の悪い子供を叱りつける父親に嫌気がさし、兄の家に向かった葉子だが、そこでは、就職浪人した兄の息子、良夫が家庭内暴力を振るっていた。(エピソード「行方」)
劇団「蒼い風」を主宰する蓮次は、金への執着と力だけを頼りにのし上がった。駆け出しの頃、「東京阿波踊り」というイベントを劇団で盛り上げようと尽力していた蓮次は、主催者サイドからの無理な要求で、パートナーであるちずるを失ったのだ。人が変わってしまった蓮次に、もう一度初心に戻ってほしいと思ったテレビプロデューサーの川本は、蓮次を「東京阿波踊り」に誘う。(エピソード「風の消えた街」)
墓参団として樺太(サハリン)を訪れた清一は、樺太で生き別れた我が子のユリへの誤解を解いてから死にたいと思っていた。ユリを安全に帰そうと、戸籍上で仮の結婚をさせたのが裏目に出て、引上げ船に乗る際に、ユリはソ連軍に連行されたのだった。結局、ユリに会えないまま、帰国しようとした清一は、ワーニャという少女から呼び止められる。(エピソード「海峡」)
週刊誌記者の上原は、かつての大女優、清水まりえに取材を申し込んだ。彼女はプロデューサーだった愛人の森川章一を殺害した過去があった。もう来ないと約束してくれるならと、彼女は森川との愛憎劇を赤裸々と語る。まりえの精神が病んだのかと思った上原だったが、帰りがけ、一人の少年とすれ違い、彼女の真意を理解するのだった。(エピソード「川面」)
会計事務所で働く吉村千代子は、不動産のセールスマンをしている恋人の桑田尚一を愛していた。そんなある日、尚一が顧客の金を持ち逃げしたと、警察が千代子を訪ねて来る。あまりの事に、我を失った千代子は、職場の同僚と一夜の関係を持つ。その後、尚一の他殺体が漁港に浮かんだと警察に知らされた千代子は、お腹の子供と共に死のうと現場に向かう。(エピソード「蒼き果てにて」)
暴力団の裏を知る殺し屋の内藤は、刑務所でガンになり、入院中に脱走する。彼が必ず息子の晴夫に会いに来ると睨んだ阿部は、独断で晴夫を自宅に連れ帰り、内藤が晴夫と行ったという遊園地に、毎日連れ出す。そんなある日、阿部が喫茶店に晴夫を置いて出かけたスキに、内藤が晴夫を連れて行ってしまう。(エピソード「冬の遊園地」)
売れっ子シナリオライターだった佐久間は、もはや過去の人だった。彼の才能に惚れこんでいたテレビ局のプロデューサーの大田が同情で仕事を回すものの、彼は何も書けなかった。そんな中、佐久間は大田が借りてくれたホテルの部屋から、煙が上がる家を見つける。煙突からの煙は、佐久間のデビュー作の象徴だったのだ。(エピソード「煙」)
広告代理店の後押しが決まったファッションデザイナーの植田可奈は、これからという時に結核になって入院する。病院を抜け出し、広告代理店に向かった可奈は、自分のポジションが別の女性デザイナーにとってかわられた事を知り、ビルの屋上から飛び降りようとする。その腕を取ったのは、可奈に対していつもポーカーフェイスだった医者の神崎だった。(エピソード「摩天楼」)
大手商社から出向を言い渡された山脇は、同じ境遇となった入社以来のライバル、横田と初めて打ち解ける。その後、二人は温泉旅行に出かけ、忘れられない思い出をつくる。その1年後、横田の訃報を知らされた山脇は、彼の息子と対面する。父親が嫌いだという彼に、それは自分と似ているからだと言ってしまった山脇だが、帰りの電車の中で、彼の息子に本当に伝えたかった事を思い出す。(エピソード「置き去り」)
三上英夫の明るい笑顔を嫌っていた上司の河合は、三上が吉崎朝美と付き合っていた事から、三上に嫌がらせを開始。やがて三上は北海道に飛ばされ、そのあいだに河合は朝美と結婚する。会社を辞めた三上の人生は転落し、二人への恨みは募る。変装した三上は、毒を入れたカップ酒を河合に差し出すが、殺害は失敗に終わる。再度、河合を襲おうとした三上は、警察に捕まる。三上に同情した刑事は、河合がなぜ三上の仕業だとわかったかを語り、ある人物を三上に会せるのだった。(エピソード「恩讐」)
弁護士の下沢徳一郎は、15年前、連続暴行殺人事件で逮捕された関口という男が犯人ではないとして、検事から弁護士に転向した。記者の渋川は関口逮捕をスクープした張本人だったのだが、信念の人、下沢に傾倒していき、下沢をたびたび訪ねるようになる。下沢は渋川に、報道陣が押しかけて踏みつぶされた自宅の庭の紫陽花は、四代目だと語っていた。下沢が亡くなったあと、下沢の妻は3度目に紫陽花を踏みつぶしたのは自分だと、その理由を渋川に語るのだった。(エピソード「輝きの中で」)
第8巻
借金まみれとなった小坂は、保険金でカタをつけるしか術がなくなり、家族で熱海の錦ヶ浦を訪れる。だが、ようやく返事ができるようになった幼い鉄夫が熱を出す。夫婦は町中の病院を駆けずり回るが、ろくな対応をしてくれない。仕方なく、小坂が鉄夫を道連れに崖から飛び降りようとした時、鉄夫は初めて「ぱぱ」と言葉を発っするのだった。(エピソード「一輪」)
清は、母親がキャバレーで働いている事で、同じ学校の男子にいじめられていた。ある日、身なりのいい老人から、おまえは自分の耳元で、母親はキャバレーで働いているので、いじめられてもしょうがない、とささやいているのだと説教される。老人から誇りを持って生きる事を教えられた清は、母親に老人を紹介するのだが、美人の母親を目の前にし、老人は照れまくる。清はその様子を見て、いじめを解消する糸口を自分で摑むのだった。(エピソード「ささやき」)
広告代理店に勤務していた幸子は、不倫していた上司と別れ、故郷に帰って来た。幸子をずっと思っていた堺信二が同窓会を開き、そのつてで彼女は市役所の観光課での職を得る。だが、幸子が上司の男と東京を見返してやりたい一心で作った故郷の観光パンフレットは、男に嘲笑されてしまう。幸子は鯉を放流し、「コイの里」という名所を作ったのだが、鯉がドブ川でも生きられる事を知らなかったのだ。(エピソード「よどみ川」)
新潟への転勤を言い渡された会社員の男性は、都会の孤独死という新聞記事に目を止める。亡くなった浮浪者のゴンという男は、彼が学生時代に住んでいたアパートの住人、久保田吾一だった。吾一は食べ物を盗み食いする癖があったのだが、アパートの住人達は彼を暖かく見守っていた。そんな吾一には、いっしょに暮らす事のできない美しい母親がいた。火葬場に向かった男性は、吾一の生きていた時の名前で、葬式を出してやりたいと申し出る。(エピソード「凪」)
危篤状態となった岡田宗介は、世界5位を誇る「日豊自動車」の創始時のメンバーで、最大の功労者だった。彼は役職にはつかず、ずっと骨身を削って努力してきた人物だった。宗介の同期だった社長にも、なぜ彼がそのような生き方をするのかは、わからなかった。戦時中、宗介の母は、男と丘の上で密会していた。兵隊に行った父親への裏切り行為が許せなかった宗介は、男の通る道に落とし穴を掘ったが、落ちて死んだのは母親の方だった。その時から、宗介は本当の自分をその丘に置いて来たのだった。(エピソード「丘」)
汚い安アパートで、一人の若い女性が衰弱した状態で見つかった。彼女は2年前のゴールデンウィークに、友人と東京へ遊びに来て、そのまま居ついてしまったのだ。ももえという偽名で年をごまかし、水商売をしていた彼女は、石田という詐欺師に騙され、500万円もの借金を肩代わりさせられたのだった。皮肉にも、借金の取り立て屋によって、彼女は発見されたのだった。(エピソード「赤い雨」)
60歳の脚本家、丸丘清は、最近、時代感覚のズレを感じていた。そこにファンを名乗る若い女性が現れ、丸丘に自分の体験談を買ってほしいと願い出る。自宅で彼女の話を聞き、その後、先週の丸丘のドラマを見逃したという彼女に、彼はビデオを見せる。丸丘にとってはお気に入りのドラマで、昔自分の前から突然消えた下村ゆう子に似た女優が出演しているものだった。帰り際、彼女の名前が下村ユキと知り、丸丘は言葉を失う。(エピソード「…の後」)
国選弁護人を引き受けた岡司朗は、被告人の中村祐子がなぜ、前科5犯まで罪を重ねるようになったのか、動機を聞き出す。病弱だった祐子は中学生の頃、好きな男性を病室から双眼鏡で見ていたのだが、その男性が事務所荒らしをした姿を見たのが最初のきっかけだったと語る。司朗は当時祐子が住んでいた長崎で、彼女が好きだったという男性の都倉を探し、かつて都倉が祐子に、自社の金庫に大金が入っているという話をうっかりしてしまったという話を聞き出す。さらに、当時祐子の治療費を払っていたのは、バーを経営する叔母で、祐子は退院後、自分の治療費を払うために叔母の店で働く事が決まっていたという事実が明らかになる。(エピソード「夢の破片」)
念願のマイホームを手に入れた津々井太のもとに、太の父親の愛人だったサチが訪ねて来る。サチは少々ボケているようで、そのまま太の家に居座るが、太にとってもサチは、父親の晩年を献身的に世話したもう一人の母親でもあった。だが、太の転勤が決まり、妻の津々井やす子は、実の母親でもないボケ老人の世話はできないと泣く。ホームに帰るというサチを太は送るが、サチは、死ぬまでに一度、家族の味を味わってみたかったと、太に打ち明けるのだった。(エピソード「微笑」)
貧しかった子供時代の体験をもとに制作したテレビCMが評価されている天地豊は、人生の成功者だった。だが、彼はかわいがってくれていた恩師の池沢先生を裏切り、幼なじみと共謀して盗んだ修学旅行の費用で大学を出たのだ。ある日、落ちぶれてアルコール中毒となった池沢を酒場で目撃してから、天地は罪悪感に苛まれる事となる。(エピソード「夕暮れから」)
身寄りのない子供を預かっている、お助け寺の和尚のもとに、チズという女の子が預けられた。和尚は子供達を体よく利用する偽善者で、チズとお兄ちゃんは、辛い環境の中、砂糖を舐め合ってお互いを慰め合っていた。その後、チズは養女にもらわれる。大人になったお兄ちゃんが、和尚からの金の無心を拒むと、200万円用意しろと脅される。破滅を覚悟で強盗し、警察に追われた彼は、ラーメン店に逃げ込み、そこで働く女性を人質に取る。(エピソード「雪」)
第9巻
勉の母は、勉の父の療養のため地方都市に越して来た。勉の父は仕事ができるモーレツ社員だったが、会社に裏切られ、自殺未遂を図り、精神的ショックから言葉を発せなくなっていた。勉は忙しい父親に風船を膨らませてもらう事で、父子の空白を埋めようとしていたが、今の父親は風船も膨らませられないのだ。そんな中、勉の母は昼夜問わず働いていたが、家族で暮らせる幸せを感じていた。ある日、勉の父は勉に手渡された風船を放してしまい、怒った勉に突き飛ばされる。(エピソード「風船」)
ある日、喫茶店のママ、正一の母は、息子の永野正一を置いて男と出て行ってしまう。正一が家に帰ると、常連客の吉岡が店を切り盛りしていた。その日から、正一と吉岡の奇妙な共同生活が始まる。正一の母は、酔ってひき逃げされて死んだ父親を、人生の敗北者だと軽蔑し、店の常連達の事も人生に失敗した人間だ、と正一に言い聞かせていた。そんな中、正一は吉岡が売れっ子漫画家だったという過去を知る。ある日、母親の遺体が見つかったと、正一に連絡が入る。(エピソード「日々」)
赤坂の料亭を切り盛りする女将の松川とよは、中国広州で料亭を出店すべく、料理人の尾崎と共に香港に渡る。とよには、広州に置いてきた息子を探し出したい、という真の目的があった。一方、とよが融資の口利きを頼んだ政治家は、とよの暗殺を香港の周泳漢に依頼。泳漢はとよを車で轢き殺そうとするが、かばった尾崎が重傷を負う。尾崎に背中を押され、とよは広州に向かう。その後、尾崎が亡くなったとの知らせを受けたとよは、息子探しにやっきになる。中国人通訳の周李博は、残された息子にとって、名乗り出る事はいい結果になるかわからないと彼女を諭す。気を持ち直したとよは、息子達を置いていかざるを得なかった中国での辛かった生活を李博に語る。別れ際、李博こそが息子の一人だと気づいたとよだったが、香港に戻ったとよの命を、泳漢が狙っていた。(エピソード「餓鬼(前編・後編)」)
大物代議士に娘の新村照美の素行調査を依頼された松本源助は、9月20日頃に彼女の様子がおかしかった事を知る。その日、土屋庄一という業界紙の記者が殺された事件があり、源助は彼の自宅を訪問し、土屋が書いた小説から、彼の隠された一面を知る。土屋のワイシャツに照美が常用していた口紅が付着していた事が発覚し、源助は照美と土屋が連れだってホテルに行っていた事実を摑む。捜査に上からの圧力がかかる中、源助は、土屋を愛していたのではないかとの仮説を照美にぶつける。(エピソード「皮」)
母親の吉川トキが亡くなり、末弟の吉川純は、悲しさと同時に安堵感を覚える。トキはお節介で、家にはいつも他人が出入りし、トヨは金を貸すのも厭わなかった。ある日、バーテンをしていた純に、長兄が浜松での仕事を紹介する。純は、恋人だった子持ちのユカリというホステスを置いて、浜松に行く事を決めた。2年後、長兄が無断で家を売っていた事が発覚、反発した兄弟は寺で行われたトキの三回忌に出席しなかった。家族がバラバラになり、純はユカリにも新しい男性がいる事を知ってしまう。(エピソード「背中」)
自作のソフトを秋葉原に売りに来る「秋葉原少年隊」と呼ばれていた少年少女達の一人、鶴見妙子は工場の屋上に籠城していた。妙子は高校生の時、ゲームソフト会社の太田にスカウトされたのだ。スカウトされた「秋葉原少年隊」達は、ソフトを作るべく、隔離された環境に置かれ仕事を強いられた。太田を好きになった妙子は、彼のためにソフト作りに熱中し、会社に多大な利益を与えた。しかし数年後、彼女達の頭は摩耗され、他人とのコミュニケーションさえできない状態になる。(エピソード「旗」)
幼なじみの秀美を失った典雄は、クリスマスイブの夜、サンタクロースの恰好でアルバイトしていた。典雄は大金を持った男にぶつかられるが、男はプレゼントを届けなければならないといい残し、立ち去った。その男は脱走犯で、銀行強盗を働き、警察に追われていたのだ。警察内で、典雄は捕まった男から娘に100万円届けてほしいと、合図される。典雄も果たせない約束をしたがため、秀美を殺してしまったという罪悪感に悩まされていた。(エピソード「氷の林檎」)
海辺の町で、ロングヘアの女性は、まさえの祖父に、まさえが自殺した理由を話し始める。友人だった二人は、工場のエンジニアの男性をめぐり、水面下で争っていた。まさえは男性の子供を妊娠した事実を黙っており、一方でロングヘアの女性は自分が妊娠したと偽り、彼との結婚を勝ち取ったのだ。そんなロングヘアの女性への復讐もあってか、まさえは彼女と談笑している時に、屋上から身を投げたのだ。(エピソード「扉」)
検事の森脇透は明け方、「ウルフG」と「タイガーX」という存在が、今夜革命を実行するという無線を聞く。後日、どちらも現実に存在した過激派グループである事が判明。「ウルフG」のリーダーだった水上研一は、今やエリート商社マンになっており、「タイガーX」のサブリーダーだった戸塚道子には一人娘がいた。暗号の示す清水谷公園では、水上が当時の同志と郷愁を語り合いながら雪合戦をしていた。そこに道子が現れ、水上に衝撃的な過去を打ち明ける。(エピソード「雪の革命」)
北海道から家出し、東京タワーにやって来た少年の豪は、大人を信じられなくなっていた。教師の若山先生が暴力を振るっている事実を、大人は信じてくれず、若山のせいで友人が一人、自殺したのだ。おじさんは一人で東京見物に来た豪に、このタワーをいっしょに建てた自分の友人も自殺し、今日が葬式だったと語る。死ぬ位なら嫌いなものは嫌いと言えばいい、というおじさんに共感し、豪は大人なんて大嫌いだと声を上げるのだった。(エピソード「海岸線」)
第10巻
刑事の片田良夫は殺人事件の容疑者を追って福岡に滞在中、高校時代からの親友の矢崎と再会する。矢崎はヤクザに成り下がっていた。その後、片田は高校時代の友人でパイロットになった君原を訪ね、矢崎に何が起こったのかを知る。誰よりも優秀だった矢崎は、高校時代からパイロットになるのが夢だったが、適性がないと判断されてしまう。一方、さほどパイロットに執着していなかった君原はすんなりパイロットになり、二人は初フライトの副機長と航空機誘導員といった形で再会を果たす。それ以降、矢崎は行方知れずになった。君原に、矢崎を東京に連れ戻すと約束した片田は、矢崎が刺されたとの情報を受け、矢崎の女のもとへ向かう。(エピソード「玩具の車輪」)
高齢のラガーマン、小坂は、日に何度も「もういい、早く来い」という友の声が聞こえていた。だが気力を振り絞り、生を全うしようと戦っていた。そんな小坂は、気弱な老人の前田と知り合い、自由な時間が恐いという彼を励まし、ラグビーをいっしょにプレイするほどの仲になる。だが、ほどなく前田は姿を現さなくなり、小坂は彼の息子から、前田が自殺したと告げられる。(エピソード「一月の陽炎」)
臨終間際となった石丸は、息子の石丸実に自分の秘密を語り出す。過酷な家庭環境で育った石丸は何もかもを憎み、犯罪を繰り返すようになっていた。「山形燃料店」に盗みに入った石丸は、実の本当の父親を殺害し、火をつけた。翌朝、貯蔵倉からはい出て来た実を見て、鬼火のように美しいと、生まれて初めての感動を体験する。一方、父親を見守る実は、弱い人間から金をむしり取って財を成し、逮捕寸前だったのだ。(エピソード「鬼火」)
一流会社「トヨサン自動車」の次長を務める男性は、百貨店で、10年前に不倫関係にあった部下の直枝を見かける。彼女は使用人を従える程の、大金持ちの夫人におさまっていた。大食堂に入った直枝のあとをつけた次長は、直枝の後ろの席に座る。すると、直枝は夫が「トヨサン自動車」の大株主だという話を、次長に聞かせるかのように、使用人に向けて口にするのだった。(エピソード「隙間」)
安井は息子の安井昭の結婚式に、昔、安井家でお手伝いをしていた中村サダを招待した。サダは松吉という男性が好きで、幼かった安井は、サダと松吉にもらったおもちゃの兵隊を大事にしていた。だが、サダは別の男性と結婚させられ、安井家を去ったのだ。その後サダの結婚相手は戦死し、それからサダは独り身を通し、5年前に他界していたのだ。(エピソード「距離のない行進」)
ミステリー作家の女性は、週に一度会う娘の言動を案じていたが、その噓に付き合っているだけでもいいと考えていた。だが、ある日、娘は次に会う約束をせずに帰ってしまう。取材旅行中も娘の事が頭からはなれない女性は、旅行を早めに切り上げ、いつもの公園で雨に濡れながら娘を待つのだった。(エピソード「横顔」)
大劇団の主宰の朝川は、金と権力にものを言わせ、流行りそうな演目を小劇団から横取りし、今の地位に上りつめた。彼は「東京タップス」という演目を狙っていたが、それを演出していたのは、昔の演劇仲間の平木だった。平木は、朝川が幼なじみの由紀を、利用して捨てた事を許せないでいた。「東京タップス」の脚本家に拒絶された朝川は、自分の腹心にも去られてしまう。傷心の日々を送る朝川は、一枚の絵画に影響されて演劇に目覚めた幼い頃を、ようやく思い出すのだった。(エピソード「一枚の絵」)
南条浩一は叔父の南条太から危篤だという噓の電報で、たびたび呼び出されていた。太は世界を相手にする南条家の期待の星で、世界経済に対する動向予測には卓越した才能があった。だが、10年前にアフリカから帰国後、千葉の海辺で隠遁生活を送るようになっていた。再び、太に呼び出された浩一だが、今回は本当に太は危篤状態だった。太は、サバンナで自分の子供に出会った事が自分を変えた、と浩一に語り始める。(エピソード「その時から」)
中国で医者をしていた佐藤は、3年前、新聞記者の原に自分が中国残留孤児だと教えられた事から、日本に帰国。しかし日本の受け入れ態勢が整わず、豊かとはいえない暮らしが待っていた。佐藤の実の母親はすぐに亡くなり、中国の養父母も別れの辛さから他界してしまう。原は佐藤と友人として付き合ってきたが、彼に残留孤児だと知らせた事が本当に正しかったのか、悔やむようになる。(エピソード「帰国」)
和子は司法浪人となった典夫と別れ、条件のいい相手と結婚した。しかし、姑との生活に耐えられず離婚し、その後、典夫と典夫の娘といっしょに暮らし始める。そんな中、離婚で精神を病んでいた和子は、被害妄想がエスカレートし、典夫を殺害。その後1年間入院していた和子は、ある日、典夫の娘が向かいのホームから、自分を見つめている事に気がつく。(エピソード「昼に近い午後」)
ある晩、ホームレス同然の丸尾裕二は、浅間悟という子供の手のぬくもりに救われる。子供の頃、裕二はホームレスのおじさんが大好きだったが、父親の丸尾は彼らを毛嫌いしていた。厳しかった父親は、裕二の恋人、靖子が病気になっても、裕二に金を貸さなかった。靖子に続いて父親も亡くなり、裕二には時間と財産が残った。裕二は一度、したたかに酔っ払い、ホームレスを助けていた父親の姿を目撃した事があり、その優しかった父親に会いたいがために、浴びるように酒を飲むようになったのだ。(エピソード「日酒」)
第11巻
高度成長期に、カリント電車が労働者を乗せて走っていた町は、今や廃墟と化していた。刑事の菊田は、その町の女店主が営む食堂の2階で、銃を所持して逃走中の保険金殺人の犯人が現れるのを待っていた。犯人は菊田が製鉄所で働いていた頃の恩人である班長で、順調だった事業が傾き、犯行に及んだという。カリント電車が走っていた頃は、みんな汗を流して働くだけだったが、その頃の自分を求めて、班長もこの地を訪れるのではないかと、菊田は睨んでいたのだ。(エピソード「廃線」)
世界タイトルマッチで4度目の防衛に成功したボクサーの野口明は、ハングリー精神などまったく持ち合わせておらず、ファッション感覚でチャンピオンになった男を演じていた。明の顔には傷があり、その言い訳のために、ボクシングを始めたのだ。その傷は明が幼かった頃、水商売をしていた明の母に傷つけられたものだった。事情を知るジムの会長は、明の知らない母親の一面を伝え、感傷にとらわれているだけだと彼に言い放つ。(エピソード「傷」)
電車の向かい側に座っていた男性が、トンネルを出た瞬間に消えてしまう。32歳の女性は、亡くなった父親に似ているその男性を探してほしいと、私立探偵の松本源助に依頼する。30年前、源助が見合いを勧められた日、息子の松本良夫は、電車の中で母親の百合子の姿をはっきり見たと言っていた。その話を思い出した源助は、女性は父親の幻覚を見たのだと結論づけたが、半年後にトンネルの出口付近の窪地から白骨化した遺体が発見される。(エピソード「過去を持つ愛情」)
町井秀一は階段の踊り場で、秀一の母の帰りを待ち、母親の手を引いてあげるのが一番好きな時間だった。だが高校受験の際、戸籍謄本で彼女が本当の母親でない事を知ってしまう。母親への気持ちは変わらなかった秀一だったが、秀一の母が無理やり招待した実の母親と、秀一は結婚式で再会。その様子を見た秀一の母は、しばらくしてボケはじめたのだった。秀一は、日増しに症状が酷くなる母親を施設に入れるのだが、心は一向に晴れない。(エピソード「踊り場」)
シスターは8年間過ごした函館の修道院をあとにした。食堂で相席となった平松という男性と、青函連絡船に乗ったシスターは、自分には船だけだった、という平松の身の上話を聞く。平松は、シスターとお供できるなら海を渡れる気がしたと打ち明ける。彼女はそんな平松に、私が誰だかわかりませんか、と問いかけるのだった。(エピソード「鞄」)
伊藤は京都五山の送り火を見るために、今年も料亭「田辺」を訪れた。学生だった頃、「田辺」の跡継ぎ、田辺順一と、伊藤は親友で、当時順一の恋人だった田辺松代は、伊藤に心変わりしつつあった。翌年の京都五山送り火の日、伊藤は松代が予約したホテルで初めて彼女と密会する。卒業後、順一は松代と結婚するが、のちに清水の舞台から身を投げて亡くなった。伊藤は、順一の義母を呼び出し、長年抱いていた疑問をぶつけるのだった。(エピソード「送り火」)
「老月会館」の支配人、奥田は、老月流家元の愛人の息子で、幼い頃に家元の家に預けられた。今も昔も、つねに自分の居場所がはっきりしない苛立ちを抱えていた奥田は、電車の中で、「二人の場所」と呼ばれている浮浪者のような夫婦に文句を言うが、周囲のみんなは彼らの味方だった。奥田はそんな二人に興味を持つ。夫は有名ビルのオーナーの息子であり、妻はブティックの店員で、その格差から一度は別れた二人だが、時を経て再会。二人は何も持たない今の生活に行きついたというのだった。(エピソード「二人の場所」)
アメリカでアナリストとして成功した追川浩は、日本でコンサルト業を営む社長となっていた。そんな浩に、花園麗子から連絡が入る。15年前、浩は絡まれたチンピラを撲殺し、フーテンの麗子はそれを目撃していたのだ。浩は麗子と1年ほど同棲したが、逮捕を恐れて渡米し、昼夜問わず働いて大学を出たのだった。昔と変わらない様子の麗子に、浩は拍子抜けするが、後日、麗子の店に呼び出される。麗子は昔の事は忘れていいと、浩に伝えたかったのだ。(エピソード「荒地の温もり」)
若手建築家の吉川秀一がコンペで勝ちそうになると、著名な建築家の山田文博は必ず横やりを入れていた。新聞記者の名取は、吉川と山田には「血」の接点があるのではないかと推測し、彼らの周辺を探る。それに気づいた山田は、その勘はあながち外れていないと、吉川の母親、テル子と自分の関係を名取に聞かせるのだった。(エピソード「売り娘」)
タクシー運転手の詩人は、人生が不幸続きだったせいもあってか、石川啄木に傾倒し、自分は悲しい詩を書くために生まれて来たと思い込んでいた。詩人は監禁されたヤクザの家から子供を誘拐し、さらに同棲していたホステスの節子を刺し、北海道にやって来たのだ。(エピソード「堕ちる」)
会社の資金運用を任され、失敗した主任は、無意識に自殺を考えていたが、ある老人に話し掛けられた事から、会社に戻る。公私共に彼を支えてくれたアシスタントの響子は、今日で退社する事になっていた。今年の夏、響子が会社の木の下にいるサンタクロースの話をした事から、彼はなぜか彼女に嫌悪感を抱くようになる。響子を遠ざけてしまったのは、自分に対する嫌悪感だと理解した主任は、木の下にいる響子と老人を目にするのだった。(エピソード「ツリー」)
第12巻
北国で寒さと空腹に苦しんでいた少年は、実業家の吉村昭也に拾われ、暖かい生活を提供される。以降、がむしゃらに働いて来た。しかし故郷の工場の閉鎖を吉村に言い渡され、大人になった少年は、労働者の前で土下座する。絶望し、自殺を考えていた少年の目の前に現れたのは、寒さに震えていた少年時代の自分だった。僕の労働に何の意味もなかったんだね、と彼は少年だった自分に問い掛ける。(エピソード「南」)
砂場はアトリエと予備校、アパートを行き来するだけの生活を送っており、休みの日は部屋に住み着いた蛾を描くのに時間を費やしていた。そんな彼女に、予備校生の森は優しく接し、二人は体の関係を持つ。しかし森は、彼女から金を無心するようになり、遂には暴力を振るう。その時、蛾に襲われた森は蛾を踏みつぶしてしまう。しばらくして森の目の前に、着飾って美しくなった砂場が現れる。(エピソード「蛾」)
冬の別荘地に、演奏に訪れたチェリストの父親と、その娘の紀子と孫の美樹。運転手をしていた紀子の夫、透が酒を飲んでしまい、四人はホテルに泊まる事になる。かつて透はリサイタルを酷評され、演奏家を辞めた経験のあるバイオリニストだった。その夜、チェリストは自分達を招いた老夫婦が、ホテルで揉めているのを見かける。老夫婦が人生に終止符を打つためにここへやって来た事を見抜いたチェリストは、透と紀子と共に彼らのために演奏する。(エピソード「冬の避暑地」)
東京のハンバーガーショップで働く美子は、1年に1回帰郷し、友人達に自分の生活の華やかさを自慢していた。しかし、東京での生活は地味であり、華やかな他人の生活を自分の事のように語る癖がついただけだった。美子と付き合っていたディスコの黒服、昭も、昇進するにつれて勘違いが甚だしくなり、美子はついていけなくなったのだ。(エピソード「一年」)
「初恋」の相手を捜す男性は、暴力団の組長、角田明に依頼され、中学時代に姿を消した今井凉子を探し出す。角田は凉子の姿を確かめるべく、ベランダに出ていた凉子の階下に立つのだった。1か月後、組事務所が襲われ、角田は瀕死の重傷を負って入院。角田は、彼女は今も眩しかったと、男性に感謝の言葉を口にする。男性は、胸が苦しくなるくらい人を好きになった自分の姿を探していたんだと、瀕死の角田に声を掛けるのだった。(エピソード「初恋」)
隅田川を運行する水上バスの運転手、並木は、橋の上から自分を見つめる男が気になっていた。その男は商社マンで、美味しそうに弁当を食べる並木の姿に感心したというのだ。商社マンは、離婚した妻との復縁を悩んでいるようで、並木のもとをよく訪れるようになる。一方、並木の相棒は自宅が高値で売れ、様子がおかしくなっていく。商社マンは並木のおかげで、無理せず生きていける事が幸せだと悟ったと語り、妻のところへ行ってみると去っていく。(エピソード「今頃」)
15年前、薫の恋人、静江は、男の子を生んで亡くなる。その子供を自分の弟として戸籍に入れて育てたのは、薫が軽蔑していた次兄の次郎だった。次郎はエリート揃いの家族の中では、工場勤めをしている異色の存在だった。子供は幸夫と名付けられたが、危険な大手術のあと、もう頑張らなくてもいいという次郎の言葉に安心したかのように、息を引き取った。(エピソード「弟」)
死んだと聞かされていた知佳の祖父が住む、海辺の丘の上の豪邸に、知佳はしばらく滞在した。画家で財を成した祖父は、徹底した個人主義者を気取っていたが、実は知佳の父である息子の愛し方を間違えたと、息子への思いを手帳にしたためていた。知佳はその手帳を黙って家に持ち帰り、自分を溺愛してくれている父親に手渡すのだった。(エピソード「手帳」)
名脇役だった藤井は、殺人罪で服役中の息子、藤井栄一に、映画の話をいつも聞かせていた。浮世離れしていた藤井は、息子と何の話をしていいかわからず、仕事もなくなった今では、やむを得ず噓の作り話をしていたのだ。だが、息子の出所が近づくものの、藤井は息子とどう接していいかわからず、心中は複雑だった。(エピソード「映画館」)
ノンフィクション作家として頂点に立った前川純一は、編集長に自分をルポタージュするように言われ、木下悦子の葬式を眺めていた。純一は悦子がなぜ、兄の前川清を殺害した罪を甘んじて受けたのかに思いを馳せる。当時、兄はガラス紙で精密機械を磨く職人で、肺をやられ自宅療養していた。姉の策略により、兄は服毒死させられ、工場の経理担当者の木下悦子が犯人として逮捕されたのだ。(エピソード「ガラス紙」)
菊地英次が出世できないのは、入社当時「言いたい事をいえる」組合を作ろうとした事に原因があった。ある日、菊地は駅の構内にいた浮浪者に目を止める。菊地は、彼が大学生相手に仕事を手配していた「最終便」と呼ばれていた男だと気づく。最終便は、きちんと金をくれ、学生達を飲みに連れて行く気のいい男だった。学生が一番騙しやすいと笑っていた最終便が、将来自分を見かけたら酒をおごってくれ、と言っていたのを菊地は思い出す。(エピソード「最終便」)
キヨは19歳の時、働き者だが酒癖の悪い資産家の男性のもとに嫁いで来た。だが、想像以上に悪い事は起こらず、キヨにとっては三人の子供の成長が何よりの楽しみだった。しかし長男は離婚、次男の家は家庭内暴力、娘はヤクザにはらまされたりと、子供達はみな不幸せになっていた。彼らは母親の顔を見れば、金の無心しかしなくなっていたのだ。(エピソード「雨林」)
第13巻
10年間、タイの密林で殺人を請け負っていた江上京太は、6年前に帰国し、暴力団の幹部となっていた。そんな江上は、夏が来るといつも悪夢に悩まされていた。江上はいずれ捨てるとわかっていながら、タイで家族を作っていたのだ。息子は手についたアリを彼に払い取ってほしがったが、彼はやられたらやり返せと、息子にアリ塚を壊させる。そんな思い出にいたたまれなくなり、ある日、京太はタイへ一人旅立つ。(エピソード「アリの巣」)
中年にさしかかった康弘は、酔って使い過ぎた給料をごまかすために、狂言強盗を演じていた父親の姿が頭から離れなかった。悪党でもなく、善良でもなく、臆病でセコい父親に似て来た自分に不安を感じ、父親を訪ねた康弘だが、彼はその時の記憶をまったくなくしていた。(エピソード「電柱」)
欲まみれの福音寺の住職は、寺の敷地内に、亡くなった妻の墓を掘り続ける大川善を疎ましく思っていた。住職は、その土地にリゾートマンションを建てる計画を進めていたのだ。炎天下の中、穴を掘り続ける大川は次第に衰弱していくが、住職はここぞとばかりに、放っておいた。翌日、救急車で運ばれた大川から、妻との時間を思い出させてくれてありがとうと礼を言われた住職は、予想だにしなかった大川の言葉に絶句する。(エピソード「追憶」)
電車の中で痴漢に間違われた花村千広は、父親からの信頼を取り戻そうと、被害に遭った女子大生に自分の無実を証明してほしい訴え、つきまとう。だがそのせいで、彼女は交通事故に遭ってしまう。それ以降、引きこもりとなってしまった千広の前に現れたのは、千広の幼なじみだった。彼女は、幼い頃いじめっこから自分を守ろうとしてくれた千広が、深い孤独の中でもがいている事を知り、訪ねて来たのだった。(エピソード「つばめ」)
出版社に勤める岡崎には、自分への戒めにしている写真があった。それは自分の母親が大勢の女性と共に、汚い恰好をして食事をしている写真だった。その頃、母親のもとに通っていた男性が姿を現さなくなると、岡崎はボロアパートに引っ越す事となった。以降、岡崎は事あるごとにその写真を見て、みじめさを避けるべく自分の気持ちを偽って生きて来たのだ。だが、ある日、彼は写真の中の笑っている母親が大好きだった事に気づく。(エピソード「川辺り(かわあたり)」)
不満気なサラリーマンは、歩行者天国でイマドキの若者、修と言葉を交わすようになる。サラリーマンは離婚した妻のもとにいる娘に会うために、歩行者天国に来るようになったのだが、ある日、娘からこのデートを止めたいと言われてしまう。一方、修はサラリーマンの元妻で売れっ子ヘアデザイナーのジゴロだったが、浮気を疑われ、彼女を殴ってしまう。翌週も歩行者天国のオープンカフェに現れたサラリーマンは、店員に失礼な態度を取られ、反乱を起こす。(エピソード「天国の午後」)
石炭を掘るためだけに存在している島で、関口亜絵美は父親と亜絵美の姉の三人で暮らしていた。炭鉱が閉山になり、労働組合の田端から組合を任された亜絵美の父親は、心労のため死亡。田端と恋仲であった姉と亜絵美は、彼を頼って東京に上京。だが、情熱を失った田端は豹変し、亜絵美の姉に暴力を振るい、亜絵美を犯そうとする。(エピソード「島」)
私立探偵の松本源助は、絵画の勉強に行ったっきり戻ってこない娘の大川ますみを連れ戻してほしいと、彼女の両親から依頼される。日本人旅行者相手にガイドをしているますみを指名した源助は、意地をはるますみに対して、母親がますみを思い、毎日握りしめていた彼女のマスコット人形を見せるのだった。(エピソード「輪立ち」)
かつて新ソフト時代の旗手と呼ばれた女性のイベント・プロデューサーの周りからは、潮が引くように人が去って行った。イベント・プロデューサーに婚約者を否定されたアシスタントは、プロポーズを断りに出かけた際、婚約者の交通事故死に直面する。ある日、イベント・プロデューサーが酔ってアシスタント宅を訪れ、本当は特別な生き方をする必要なんかないと伝えたかった、と語るのだった。(エピソード「花束」)
中学生のゆかりは、祖母のもとを父親の竜一と訪れた。父親の浮気で家を出た母親は、病気になり、祖母の家に世話になっていたのだ。祖母はいつもゆかりに空想の話ばかりする変わった人物だった。父親によると、夫である祖父にいつも相づちを打ちながらも、夫に夢を持っていたという。祖母にとって、空想であろうが現実であろうが、そんな事はどうでもいいものだった。(エピソード「相づち」)
両親に無理やりお嬢様教育を受けさせられたくみ子は、秘書電話会社のオペレーターをしていた。いつも彼女は、幸福という名の砂漠の中で青春を送っているような気がしており、その反動から、売れないロック歌手の関川明と恋に落ちた。だが、両親に結婚を決められたくみ子は、明に別れを告げるのだった。(エピソード「電話」)
企業戦士の姥捨て山と呼ばれる「あけぼの研修所」に送り込まれた大林、小松一平、石田光彦は看守のもと、来る日も来る日も穴を掘らされていた。三人は共同責任を負わされ、やんちゃな小松と、東大出身で堅物の石田はケンカばかりしていた。ある晩、小松と研修所を抜け出して飲みに行った大林は翌日、穴掘り作業中の小松といっしょに英語の歌を歌い出す。(エピソード「穴」)
第14巻
怖い者知らずだった不良の秀司は、今や街で一番の病院の院長となっていた。そんな秀司がグレた息子を警察に迎えに行った際、昔から彼をよく知る梅原署長に、何がきっかけで更生したのかと問われた。秀司を変えたのは、赤ん坊を育てながら男に体を売り、ホームレスをしていたヨシエの存在だった。当時、17歳だった彼女はすべてを捨て、子供を自分の手で育てようとしていたのだ。(エピソード「不良」)
俳優の堤則之の婚約がスクープされ、デザイン事務所で働く女性は彼を呼び出した。則之との青春を精算する意味で、娘の真美を生んだ彼女は、離れて暮らす真美から、もう父親の前に現れないでと告げられたのだ。それが応えた彼女は、則之に嫌味を連発し、喫茶店で殴り飛ばされる。(エピソード「いたみ」)
ますみは物心ついた時から、キャバレーで踊っていたますみの母と共に、全国を旅していた。ある時から、エアロビクスのインストラクターとなったますみは、母親とダンス教室を持ち、一か所に落ち着く。しかし、恋人の石原哲也との仲を母親に反対され、ますみは家を出る。小樽で哲也が亡くなったと知ったますみは、そのままそこに住み着き、ガラス工芸の職人になった。そんなますみのもとを突然、母親が訪ねて来る。(エピソード「雪の手紙」)
子供用自転車を買って帰ったサトシの父は、無感動なサトシに落胆する。1か月前、彼はふと父親が買ってくれた自転車を思い出し、倹約して自転車を買う費用を捻出したのだ。だがある日、彼はサトシの自転車の機種が変わっている事に気づく。そして、働く事しか知らなかった自分の父親を思い出し、そんな父親が約束を守ってくれた事が、子供心に一番うれしかったと気づくのだった。(エピソード「約束」)
老女の梅原スギと「坊ちゃん」と呼ばれる男の子は、ホテルの前で男の子の母親が出て来るのを待っていた。スギに「お嬢さん」と呼ばれるその女性は、浮気相手と逃げようとしていたのだ。16歳で売られたスギは、女郎部屋のオヤジの聞き違いによって、これまで「スギ」という名で通して来たが、戸籍上の名前は「シゲ」であった。この事を根拠にスギは、人生あきらめたり逃げたりすると、ずっとつきまとわれるものがある、と母親を諭すのだった。(エピソード「火の空」)
田舎の垢ぬけない町に不釣り合いな美人の三原千恵は、小学生の江崎徹にとってあこがれであり、都会の象徴だった。それから15年後、千恵が結婚した徹の兄、江崎英二は、若くして亡くなり、その葬式で徹は長兄の江上広一と顔を合わす。広一を思っていた千恵は、何がしかの理由で英二と結婚せざるを得なくなったのではないかと、徹はずっと思っていたのだ。徹は、千恵に当時の疑問を正直にぶつけるのだった。(エピソード「庭」)
竜一は幼い頃、ハバロフスクに呼び寄せられ、スパイだった竜一の父の手伝いをさせられていた。竜一はアムール川で軍艦や船舶の動きを調査させられていたが、ある時から父親を裏切り、ロシア人の男に調査を任せる。そして、その代わりにロシア人の男から商売を譲り受け、ナスターシャというロシア女性と共に働いていた。だが2年後、日本が無条件降伏し、日本に帰国した父親は国に裏切られ、急激にボケてしまう。だが、竜一の父は、二重スパイをしていた竜一を守るため、ボケたふりをしていたと突然語り出す。(エピソード「父」)
幼かった裕子は、自慢だったテレビ局勤務の父と坂道を歩き、父親と同じ目線で歩くゲームを思いつく。だが、あこがれだった父親の目線は、夏服の女性達の身体を執拗に追いまわしていた。その一件のせいで、大人になるにつれ、父親の女性にだらしない性格を知った裕子は、母親が亡くなって以降、父親と距離を置くようになった。金を借りに来た父親をすげなく追い返した裕子だったが、今日が父の日だと知り、父親へ電話を掛けるのだった。(エピソード「坂」)
新興宗教の教祖だった一条きぬを母親に持つ一条豊は、猛女で醜女のきぬをうっとおしく感じており、なぜハンサムな父親の一条が母親を選んだのかを疑問に思っていた。母親が亡くなり、父親から性格も見た目も母親に似ていると言われた豊はショックを受ける。だが、十数年後、亡くなった父親が豊にあてた手紙には、自分がきぬの実子ではなかったと記されていた。(エピソード「猛女」)
敬愛する兄を亡くした慶子は、兄の後輩で家に出入りしていた小宮英太を執拗にからかい、侮蔑するようになる。祖父の建てた「岩倉ホテル」の経営者となってからも、慶子は支配人となった小宮に悪態をつき続けた。そしてホテルの経営が傾いた時、慶子はホテルから逃げ出して消息を絶った。時が経ち、ホームレスとなった慶子が見つかる。小宮は慶子を再びホテルに住まわせるが、慶子への深い思慕は憎悪に変わっていた。そんな小宮に、慶子の妹の綾子は、経営者だった頃の慶子が小宮への愛を口にしていた事を打ち明ける。(エピソード「薄彩(うすだみ)」)
50歳の女性は、顔を知らない息子を探していた。貧困の大家族で育ち、幼い頃から働き者だった彼女は、16歳で上京。すぐに男性といっしょになったが、そんな彼に浮気され、彼を殺害。以降、彼女は出所後も仕事に安らぎを求め、休日を恐れるようになっていた。彼女が休日の苦しみから逃れるため考え出したのが、刑務所に入る直前に生んだ息子に会いに行く事だった。(エピソード「休日」)
第15巻
海辺の村に住み、漁師の家で育った亜紀は、母親の毎日が、家族の世話をし、その合間に漁網の修理をする、という繰り返しであったせいで、違う人生を東京に求めた。だが、不毛な恋愛を繰り返し、派手になった生活のせいで、生活は破綻する。亜紀は公園のベンチで朦朧としながら、恋人だった漁師や母親の幻を見るのだった。(エピソード「白夜」)
雑誌とラジオで人生相談の回答者をしている美崎瑛子は、作家の美崎亨次の妻だった。彼が亡くなって四十九日を迎える日に、瑛子は人生相談を辞めるつもりだった。亨次は不細工だったがとびきり頭がよく、瑛子はそんな彼といっしょにいるだけで幸せだった。だが、終戦直前に夫婦は非国民として軍人から暴力を受け、その日を境に亨次の人間性が一変する。書斎に閉じこもり、創作だけに没頭するようになったのだ。瑛子が人生相談を引き受け、どんな質問に対しても「頑張んなさい」というワンパターンなエールを送り続けたのは、亨次に対してのメッセージだったのだ。(エピソード「声」)
身寄りのない子供達を引き取っていた溜造のもとで育った隆は、運送会社に出稼ぎに出た。溜造が亡くなり、子供達のために東京へ働きに出ていた一番年長の吉乃が、亡くなってしまったのだ。好人物である同僚の戸塚と仕事に励む中、隆は因縁の相手、赤瀬金一に巡り合う。赤瀬は教育評論家を自称し、子供達を自分が世話しているかのように偽り、テレビを利用して寄付金を横領した人物だった。(エピソード「草原」)
幼い頃、まことはとび職の徳に引き取られ、彼と日本中を流れ歩くうち、徳と同じ仕事に就いた。成長して数年振りに東京に戻ったまことは、昔から徳が行きつけにしていた焼き鳥屋を訪ねた。店は女将の娘、のぞみが切り盛りしていた。まことはこの店の女将と徳の子供であり、女将が別の男性と結婚するために、徳に引き取られたのだ。まことは徳の表情を通して色んな事情を知って行ったのだった。とび職として鉄骨の上で生きていくには、一つくらい暖かいものを背負わなきゃいけないと、身をもって知ったまことは、引退して俺の世話になれ、と徳に告げるのだった。(エピソード「道」)
「少女いたずら事件」を追っていた刑事の片田良夫は、現場付近のT大学でカウンセリングをしている田中から、エリート大学生の自殺が急増しているとの情報を得た。その時、田中の患者である大学生の瀬沼英夫の様子に疑念を抱き、片田は瀬沼をマークする。再び少女がいたずらされ、瀬沼は翌日、田中のもとを訪れた。片田は、彼らのような人間は苦しみ方を知らないので救ってやってほしいと、田中に頼まれるのだった。(エピソード「炎のごとくに」)
ある日、小市民的なサラリーマンの満夫は息子の裕太から、自分は誰の子かと問われる。満夫はAB型で妻はA型、裕太はO型だったのだ。驚くと同時に、満夫は自分が親父の子供ではなかった事を知ってしまう。満夫の親父は成り上がりの土建屋で、欲望のままに生きた男だったが、血筋のいい母親をめとった時は嬉しさに涙したという。だが、後日、満夫は親父の涙の真相を知る。(エピソード「血」)
昭和39年に北海道十勝岳の大爆発を屋根の上で見ていた宏平は、叔母の泣いている姿を目の当たりにした。そのあと、離婚した叔母は、宏平をアパートに招いた直後に姿を消してしまう。妻の大川容子と、故郷にある母親の墓参りに行った宏平は、農作業をしている叔母を見かける。数日後、叔母に会いに行った宏平は、容子から意外な事実を聞かされる。宏平の母親は、宏平が抱く美しい叔母のイメージを壊さぬよう、浮気が理由で離縁された叔母に用立てしていたのだ。(エピソード「紅い花」)
ヤクザとつるむようになった男子生徒に、体を張って殴りかかった女教師は本気だった。彼女の母親が出て行き、グレていた15歳の時、彼女を本気で殴った父は泣いていた。かげろうを見るたびに、女教師はその時の父親を思い出すのだ。女教師の殺気を肌で感じた男子生徒は、彼女の真意をくみ取るのだった。(エピソード「大人」)
サラリーマンの男は25年間続けてきた朝の通勤電車で、女性の胸を触ってしまう。男は職を失い、家族は家を出て行ってしまう。自分が求めて、求めた通りに生きている事がうっとおしくなった男は、親友の菊地の墓に出向いた。優秀だった菊地は、部長昇進競争に敗れた事が引き金となり、スーパーで万引きをしたとサラリーマンの男に打ち明け、その2週間後に自殺したのだ。(エピソード「万引き」)
何かを変えたい女は、川に潜って宝探しをする男と出会い、スキューバ・ダイビングを始める。男と恋愛関係になった女は、水の中の別世界を堪能する。彼女の現実の世界は日々うつろになっていったが、そんなある日、男は宝探しをしなくなった。後日、女は無表情になってしまった男に、宝探しをあきらめないでと懇願する。(エピソード「水の中」)
18年前にパリで芸術家を目指していた佐々間英二は、日本で服飾デザイナーとして成功していた。妻の佐々間美保は変わってしまった彼のもとを去り、パリに行くと告げる。英二なら芸術家としてまだ成功できると言う美保の言葉は、彼には届かなかったのだ。パリの馴染みのレストランでは、意外な人物が美保を待ち構えていた。(エピソード「街」)
一流企業のOL、晴見恭子は、女の自立を特集する女性誌を愛読し、海外旅行に命を賭けていた。入院している同僚の川島を見舞った恭子の頭には海外旅行しかなく、彼女の病状などは気にも留めなかった。ある日、後輩の女性達が、恭子達の世代は、活字になっていればなんでも正しいと思い込む、とバカにしているのを耳にする。(エピソード「今ではなく…」)
第16巻
放火・殺人の罪で逮捕された書店店主の原田の弁護人となった鶴橋は、彼が自分の妻と息子を殺したとは思えなかった。逮捕当初、否認していた原田は、翌日から犯行を自白したのだ。自分の事は放って置いてほしいという原田に、鶴橋は、逮捕された夜に何を考えていたかを問いかけた。鶴橋の妻、大川京子は、家族はもういないんだ、と答えた原田は無実だと確信する。最後の望みを賭け、鶴橋は法廷で原田の結婚生活を彼に向けて語り掛けるのだった。(エピソード「家族」)
息子の英太にせがまれて飼ったハムスターの母親が、子供を食べてしまったところを目撃した黒崎武は、英太に本当の事が言えなかった。武の父は作業現場で働く無骨な人間で、息子への愛情表現は小遣いを渡す事だけだった。そんな父親が武の拾って来た子猫を捨ててしまい、彼は一層父親が嫌いになった。そうした苦い記憶を辿り、英太に本当の事を話した武は、自分の父親が作業現場で墜落死した時に、自分の写真をポケットに入れていた事を思い出していた。(エピソード「写真」)
いつも果たせない約束をしてしまう約束破りの男は、半年前、それが原因で章子の母と別居する事となった。そんな彼は、サーカスやマジックをテントで見せる広場ができたと、年末の仕事が忙しい時期に、妻子を誘うのだった。そんな中、男を待ちくたびれた娘の章子は一人でテントに入ってしまう。(エピソード「広場」)
父親が亡くなり、家の取り壊しを急いでいた母親のタヅ子に、凉子は叔母に関する意外な事実を聞かされる。病弱で臥せっている事が多かった叔母だが、起きている時は優雅な姿で花を活けていた。そんな叔母に凉子はあこがれを抱いていた。だが叔母は子供が生めないせいで離縁された過去があり、子供を持つダヅ子に陰で意地悪をしていたという。叔母はある時、凉子を使った嫌がらせをしたせいで、タヅ子から平手打ちを食らい、自殺したというのだ。(エピソード「あこがれ」)
大企業で働くOLの静香は、流行に敏感で、自分がまるでテレビから生まれて来たような感覚を持っていた。ある日、静香は40代と思しきショッピングバッグレディ(女性ホームレス)を目の当たりにし、ただ流されて生きている自分を顧みるようになる。そして、いつしか彼女の顔が自分の顔と重なるのだった。(エピソード「名前Ⅰ」)
30年振りにニューヨークに戻って来た小室は、昔、秘書のマーサーと過ごした日々を思い出していた。彼女は優秀で美人だったが、有色人種に偏見があり、貧富の差に敏感だった。当初、マーサーは小室をバカにしていたようなところがあったが、徐々に彼をボスとして信頼し、彼が帰国する際には彼を敬愛するまでになっていた。ある日、小室は変わり果てたマーサーの姿を、見覚えのある木の下で見かける。(エピソード「名前Ⅱ」)
天才詩人の広田英悟の娘、広田リサは、父親の苦しい生き方より、父親にまとわりついていた住川隆夫のような生き方を選んだ。父親が死に瀕した冬のある日、父親のためにスイカを探し回ったリサは、父親を訪ねて来ていた住川に助けを求め、父親の死後、住川に引き取られたのだ。若手評論家として売り出し中のリサは、父親のような苦しい生き方を避けたはずだった。しかし老いた住川に、リサは大好きだった父親を憎もうとするあまり、苦しい生き方を選んだと指摘される。(エピソード「冬の西瓜」)
中学時代に喜劇役者の代々木天心にとりつかれた宮田は、小説家になった今、彼が自分にとって人生の師であった事を思い返していた。中学卒業間近に母親が失踪した時、彼は一度目の弟子入りを天心に志願した。二度目は失踪した母親の死を知った大学時代。その時に自分の書いた文章を見せたのだが、自分のために書いたものを人様に読ませるのは失礼だと天心に酷評されたのだ。(エピソード「幕」)
優秀だった自分が手にしたモノはほんのわずかだと悟ったディーラーの男性は、小学校6年生の娘に英才教育を施す。娘が道草をするのも許さなかった彼は、娘がくも膜下出血で亡くなった際も、仕事で側にいてやれなかった。仕事が終わった帰り道、彼はここはどこだとうそぶいているエリート社員と出会い、朝方ビールを飲む事になる。(エピソード「道草」)
付属の幼稚園からエスカレート式に大学まで進んだ仲間達でつるむのが当たり前だった恭平は、仲間の一人の理沙と体の関係を持っていた。その理沙から学者の卵だという恋人を紹介された恭平は、理沙が別の相手と見合い結婚すると聞き、結婚式場に向かう。学者の卵にふられた理沙は、傷つく事に慣れておらず、自暴自棄になって知らない男性達に犯されたのだ。理沙の前に現れた恭平は、あえて試練の道を歩こうと理沙を連れ去るのだった。(エピソード「まどろみ」)
伝言ダイヤルの陽気なネットワークから離れられなくなった京太は、企画した仮面パーティがヒットし、浮かれていた。3年間の浪人生活の末、有名私立大学に入学した京太だが、母親が甘やかして与えたカードの借金は2000万円を超えていた。だが、仮面をつけた京太は、ホテルにいっしょに入った女性に仮面を外され、正気をなくしてしまう。(エピソード「陽気な仮面」)
付き合っていた前野純一を避けるようになった関口みわは、前野の送別会で再び彼に求婚される。父子家庭で育ったみわは、父親に悲し気な顔を見せまいと気丈に振る舞ううち、我慢する事に慣れてしまったのだ。みわの父親は、彼の傘に入ってみるのも悪くないと、そんなみわの背中を押すのだった。(エピソード「雨宿り」)
第17巻
広い屋敷に閉じこもり、父親の残した財産を食いつぶしながら生活している立原達夫のもとに、夏になるとやって来るのが、口が悪く、傍若無人な祖母だった。その時期だけ、達夫は苛立ちまぎれに、外の世界に触れるようになる。ある日、祖母が亡くなり、その遺品は、自殺した叔父の立原光夫と、彼に似ている達夫の写真ばかりだった。自分の日記を読み返してみた達夫は、祖母の真意を知る事になる。(エピソード「誕生日」)
教師という仕事に行き詰った可南子は、気分転換に売れっ子脚本家の水田のもとを訪れる。小学生時代、父親のいとこである水田は可南子の家庭教師だった事もあり、可南子は水田のいい加減で怠惰な面を嫌というほど見て来た。だが、今や水田は膨大な仕事量をこなしている。人によって人生の時間割が違うという水田の言葉が胸に刺ささった可南子だったが、さらに彼の隠された一面を知ってしまう。(エピソード「時間割り」)
工事現場で働く男達の中で育った英悟は、自分が考えた以上に恵まれたコースを歩む事になり、今や大企業の課長となった。だが、春になり、無表情な新入社員の顔を見ると、自分があこがれていたあの男達の輝いた顔を思い出してしまうのだ。ある時、彼らの無表情な顔は、実は自分の顔だと、英悟は気づいてしまう。(エピソード「男達の顔」)
15年前、釜山で出会った少女、金礼智の走る姿に心打たれた角田光夫は、母親が日本人だという礼智兄妹と交流を深める。帰国した光夫は人生というゲームに勝ち続けた。だが、妻子に逃げられ、光夫の人生は再び停滞。そんな中、光夫はソウルオリンピックに出場していた礼智と再会し、再び人生ゲームに光を見出す。だが、礼智と約束した釜山に来たのは彼女の兄であり、光夫は彼から自分のルーツを知らされる。(エピソード「かもめ」)
父親も祖父も42歳で自殺した今泉は、自分もその年に近づき、強迫観念が増していく。自殺する前の父親が眺めていた、水面を流れる紅い花の記憶が、年々強くなっていくのだ。だが、娘が非行に走り、面倒な事に巻き込まれながら、今泉の1年は瞬く間に過ぎてしまう。紅い花が見えなくなった今泉は、父親も祖父も、自分の事しか見ていなかったのだと気づく。(エピソード「水面の華」)
定年退職した男性は、妻と共に田舎の別荘で暮らし始めた。20年前、息子を亡くしてから、夫の言動は両極端に揺れるようになった。妻は夫の言う事につねに同意せず、さからい続けて来た。一方、会社での夫は、一度口にした事は曲げないという性格を通していたという。妻は小さな命を記憶してやれるのは自分達だけだという思いで、そんな夫といっしょに定年後の日々を楽しく過ごそうとしていた。(エピソード「二十年目のトンボ」)
苦学して大学教授になった小山次郎は、ある名物教授との出会いを、自分の子供を付属小学校に入学させてほしいという兄に聞かせる。貧しい工場街で大衆食堂を営んでいた実家で育った次郎は、汗と油にまみれた男達から抜け出したいとの強い思いを抱いていた。大学時代、厳しい事で有名な名物教授の授業を、アルバイトのため受けられなかった次郎の進級は、絶望的になったが、なぜか試験は満点。教授があの時の男達と同じ眼をしていると気づいた次郎は、彼から信じられる大人になれ、とエールを送られたのだ。(エピソード「荘厳な残像」)
色んな男達と遊んでいた若い女性は、ある男のアパートで、男が置いて行った息子を育てる事にした。その子に光太郎と名付けた女性は、何度も彼を捨てようと思いながらも、3年間彼と暮らして来た。だがある日、男が光太郎の母親と共に、彼を連れ戻しにやって来る。(エピソード「海辺の波」)
妻を亡くした幸樹は、再婚した息子の厚から金を無心され、息子が住む田舎町を訪れる。再婚相手の真里絵とはいっしょに暮らしていないという息子に失望し、幸樹は孫達に会わずに帰途につく。息子の履歴書は誇りが持てるようにしてやりたいと思っていた幸樹だったが、空白だらけの自分の履歴書を埋めたかった自分のエゴに気づく。(エピソード「履歴書」)
真美がプレゼントした海外旅行の途中、真美の母は飛行機事故に遭い、帰らぬ人となる。叔父の杉田君夫と現地に向かった真美は、母親の病歴に人工中絶の文字を見つける。過去の記憶を紐解いた真美は、母親と杉田の秘められた関係を確信。女手一つで自分を育ててくれた母親にも青春があったと、真美は安堵を覚える。(エピソード「陽のあたる影」)
よしが教祖だった宗教団体は、月に一度訪ねて来る丸メガネの男性の力で、大きくなっていった。息子の宗介は、男性が自分の父親だと漠然と思っていたが、よしの臨終の際、彼女は田村六介の名前を何度も口にする。六介はよしの家で下働きをしていた男性だった。その言葉を聞いた宗介は、生きているうちに、どうして六介に自分の気持ちを伝えなかったのかと、切ない思いに胸をつまらせる。(エピソード「渇き」)
55歳の岡林は肩叩きにあい、出て行った妻子に思いを馳せる。昨日まで正しかった事が間違いだったと教えられた戦後教育で、岡林は同情する事は騙される事だと思い知らされた。だが、出ていった妻子の後ろ姿に、岡林は同情ではなく愛情を感じていたと気づき、今まで会う事を避けていた息子に連絡を入れるのだった。(エピソード「坂の途中」)
第18巻
息子を放置して死なせ、情事の相手を刺し殺した天野ゆりかを追う刑事の片田良夫と服部は、彼女の故郷、佐渡に降り立った。島民はみんな、島の英雄であるゆりかをかばい、彼女を目撃していないと言う。ゆりかの祖母は、なぜか佐渡の海に裏切られた本間高茂の昔話を片田達に語る。ゆりかは佐渡に死に場所を求め、そんなゆりかを追い返してしまったという胸の重石が、祖母に昔話を語らせたと気づいた片田達は、賽の河原と呼ばれる洞窟に向かう。(エピソード「…一里塚」)
証券取引所で働いていた西田は、葉巻をくゆらせたダンディーな男性、近江に後継者として選ばれ、色々な知識を授けられた。時は経ち、当時の近江と同じ年代になった西田は、なぜ近江が自分に目を掛けてくれたのかを、今でも疑問に思っていた。近江の秘書、水野によると、近江が自分のダンディズムを永遠に残すため、西田が選ばれたというのだ。その言葉に激しく反発した西田に、自分を愛してくれた近江とあなたは別の人だと言い残し、水野は去っていく。(エピソード「午前十時の香り」)
父親と別居している母親は週に一度、子供達を父親に会わせた。悲しい顔をしている母親を喜ばせたく、子供は父親がもう来なくていいと言っていたと、母親に噓をついた。その後、父親は自殺してしまう。時が過ぎ、大手企業の課長となった男性は、息子の噓を厳しく叱る。噓を認めない事こそが、男にとって唯一の贖罪の方法だったのだ。(エピソード「噓」)
学生だった美里は、バス停の前にあったカフェのマスターに恋心を抱いていた。だが、そのカフェは突然閉店してしまう。大人になった美里は、恋人から取引先のお嬢さんと結婚すると告げられ、複雑な思いの中、ふとマスターの姿が頭をよぎる。美里の恋人の結婚相手の父親が、あのマスターだったと知った美里の中ではすべてがつながり、彼女はある行動に出る。(エピソード「バス停」)
テレビのドラマ制作現場で働いていたアキラは、監督とケンカをしたあと、いつも故郷に向かう夜行列車に乗っていた。今や、ゴールデンタイムの売れっ子監督となったアキラだが、監督と会えば、昔の感傷にふけるのだった。そんな中、監督が急死。アキラは評価も名誉も得られない仕事を、テレビでひたすら流し続けた監督の生き様に思いを馳せ、涙する。(エピソード「夜行列車」)
かつては新聞記者だった富岡卓は、地方都市の小さな家で庭を眺めるばかりの生活を送っていた。そんな富岡の家に、町内会から派遣された中年女性の藤田が訪れるようになり、富岡は藤田のおせっかいに辟易する。ある日、藤田は富岡が自分の殻の中に閉じこもっていると彼を叱りつける。妙に納得した富岡は、しばらく姿を見せなくなった藤田を心配し、彼女の家を訪問する。(エピソード「殻の中」)
米川家の三人兄弟の中で、長兄の米川才一と次兄の米川次郎は性格が正反対であり、いつもケンカばかりしていた。才一は野鳥に合わせた巣箱をきっちり測って作る几帳面な性格で、次郎は大雑把だった。才一は一流大学を卒業したのち、地元の工場に就職し、政治的な活動に没頭。一方、次郎は商社に入社し、順調に出世していった。ある日、物書きとなった末っ子の米川三夫のもとに、身元不明の遺体の確認をしてほしいとの連絡が入る。(エピソード「小さな鳥」)
美代菊こと美雪は、中岡という若い男性と恋仲になる。だが彼は、美雪のパトロンの社長に仕える秘書だった。社長は、美雪と中岡の事をすべて承知したうえで、好き勝手にやらせていたのだ。社長にとって芸者遊びの宴席は、すべての到達点なのだ。老いた社長は、美雪が泣くのを見たいがために、彼女と別れた中岡を宴席に座らせるのだった。(エピソード「路地」)
大手広告代理店に勤務し、家族を顧みなかった刈屋は、閑職に追いやられ、ホステスが置いて行った子供を育てていた。別居している娘の奈津に、「博通堂」のチーフプロデューサーとして結婚式に出てほしいと頼まれた刈屋は、娘のしたたかさに意気消沈する。今や孫のような年齢の血のつながらない娘だけが、彼の生きる力となっていた。(エピソード「小さな余韻」)
5年間、東南アジアに単身赴任していた平原は、帰国後何もかもが様変わりしている事に驚く。慕っていた上司の小山博の墓までもが、なくなっていた。小山は平原に豪華な特製弁当の味を教えてくれた人物で、しっかりした仕事をしながらも、出世に縁のなかった人徳者だった。平原は彼を思い出し、新入社員に特製弁当をご馳走するのだが、ありがた迷惑な態度を取られてしまう。(エピソード「弁当」)
両親を交通事故で失い、祖母に育てられた美雪は、入社以来初めて長期休暇を取り、具合の悪い祖母を自宅療養する事になった。祖母の厳しさは尋常ではなく、幼い美雪は強くなるしかなかった。祖母は仕事しか頭にない美雪を嘆かわしく思い、彼女に最後のしつけをするべく、わがままに振る舞うのだった。(エピソード「祖母のしつけ」)
下村明夫は少年時代から、朝日を受けて活気づく操車場に感動の眩暈を覚え、この町を離れずにいた。30年後、学生時代に明夫と淡い恋愛関係にあった江上美津子が、操車場で自殺。今となっては既に死んだようになっている操車場の姿を知っていた明夫は、彼女が死ぬために帰って来たのではなく、発作的に自殺したと確信するのだった。(エピソード「操車場」)
息子のマサシが幼稚園の友達にいじめられているのを目撃し、田之倉恵子はシゲを思い出した。裕福な家に育った恵子は子供の頃にいじめられており、そんな恵子をシゲはいつも守ってくれたのだ。シゲは色んな家の力仕事をして暮らしており、ある年の冬、恵子の父親からオーバーを買えと報酬を受け取っていた。だがシゲは大晦日に凍死。その正月、貧しい子供達の家のポストにはお年玉が入っていたのだ。(エピソード「帰り道」)
第19巻
小学生の息子、雄一に、見知らぬ男であるかのように無視された柴田は、ショックを受ける。マスコミ関係の仕事をする友人から、今や小学生でさえ、金と見た目のよさを基準にしていると聞いた柴田は、苦々しい思いを嚙みしめる。そんな中、柴田は雄一を迎えに行き、雨の中、毅然とした態度で息子と向き合うのだった。(エピソード「傘の家」)
梨子は恋人の岡部を愛していたが、どうしても「結婚」に踏み切れないでいた。土曜日になると、線香花火を無心にしていた梨子の母の姿が頭から離れなかった。母親は裕福な家庭に育ったが、梨子の父親が事業に失敗してから精神が病んでしまったのだ。そんな梨子をトラウマから救ってくれたのは、岡部の温かい言葉だった。(エピソード「土曜日の花火」)
芸能プロダクションの社長として絶頂を極めたイナバは、ある時、倒れて体の自由が効かなくなる。イナバがかつてあこがれたお笑いタレントの霧島は、イナバの会社で経理をしていたが、なぜかイナバの世話を引き受ける。タレント時代にマネージャーだったイナバを奴隷のように扱っていた霧島もまた、倒れてタレント生命が終わったのだ。霧島の挑発的な態度に悪意を感じたイナバは、霧島を絞め殺す事を生きがいにリハビリに励む。(エピソード「疑惑」)
大物政治家を告発すべく、海老沢という男の足取りを摑もうとハワイを訪れた検事の森脇透に、ホノルル警察のバーナード警視は非協力的だった。森脇は自分の上司にハメられたと気づくが、独自で捜査を開始。森脇はバーナードと対立を深めるが、森脇が自分と同じタイプの人間だと知ったバーナードは、帰国命令が出た森脇のために、証拠を集めるべく奔走する。(エピソード「遅れた休日」)
エリート意識が強い三崎は、外交官として赴任する発展途上国で、学生時代の友人、根岸博を見かける。根岸はこの地で凄腕のコーディネーターとして有名人となっていた。当時から好き勝手に生きていた根岸を羨ましく思う反面、彼が堕ちていく事を願っていた三崎だったが、自分の怠惰な経済援助活動を根岸に救われ、彼に感化される。(エピソード「なれの果て」)
律子の亭主が病院に駆けつけ、ようやく一人前になったと、危篤状態の律子の父に報告した。だが、父親はつまらん男になったと吐き捨てる。父親は自分の妻の生活の頼りにはなったが、「生きる頼り」にはならなかったとの寂しさを抱えており、事業に失敗ばかりしている律子の亭主に頼られる事を、生きがいとしていたのだ。それに気づいた律子は父親に、もう一度亭主にお金を借りてほしいと頼む。(エピソード「台風(かぜ)の吹く日」)
水沢は10年振りに学生時代の友人、江田耕平と再会。今は独身だという江田は、子供に嫉妬したせいで出社拒否になり、堕落した生活を送るようになったと語る。江田の言葉が気になっていた水沢もまた、似たような感情を抱く事もあったと気づく。江田の人生がすでに壊れていると知った水沢は、予定調和を約束された時代に甘んじていたが、自分の心が少し変化を求めているのを感じていた。(エピソード「改札口で」)
谷矢と仕事をする事になった作曲家の天野は、谷矢の師である三崎にシンパシーを感じていた。二人が作った曲から、三崎がミュージカルの楽曲を選ぶ事になり、彼は全曲、谷矢の曲を採用する。自分の才能を過大評価していた天野は、三崎から、人生の絶頂を迎えた時、馬鹿になりきれるかどうかが勝負の分かれ道だ、と諭されるのだった。(エピソード「あきらめ」)
今一つ生きている実感が湧かない高校生の小野寺友理恵は、路上に不思議な建物の絵を描く青年が自分の父親、小野寺の息子だと知ってしまう。彼は、カンボジアで特派員をしていた父親と現地の娘とのあいだに生まれた子供だったのだ。クーデターで娘が死んだと思った小野寺は帰国。友理恵の母親と結婚したのちに、子供が目の前に現れ、父親は彼を施設に預けたのだ、と友理恵に告白する。(エピソード「路上日記」)
誰よりも金持ちになりたいとの思いを抱く池田に、戦友の吉村はくだらん生き方をするなと言い残して戦死。吉村こそが、金目当てで結婚する悲哀を知っていたのだ。吉村の妻はほかの女と通じていた彼への復讐のため、池田と結婚。その後、池田の妻となった女性は自殺するが、池田はさらに財を成したのだ。全財産を寄付したと宣言した池田だったが、すべての事務手続きが完了するまでに、自分が不慮の事故で死亡すると財産を取り戻せる、と子供達に告げる。(エピソード「夜空」)
ある朝、駅でOLの女性は、茫然自失となった男性を警察に連れて行く。その際、会社の上役とケンカになった彼女は居直り、暴言を吐く。落とし物として届けられた社員証から、その男性が高橋洋一という一流企業の部長だと判明。その日を境に女性は、会社で過剰なほど自己主張するようになる。しばらくして、高橋からお礼として食事に誘われた女性だったが、高橋はその席で自ら社員証を投げ捨てた事を思い出してしまう。(エピソード「落し物」)
片田良夫刑事の恋人で、闇資金の実体を追っていた雑誌記者の久美がホテルで殺害された。死因は麻薬過剰摂取による事故死とされ、久美は麻薬常習者で、さらに暴力団の情婦だという濡れ衣を着せられて事件は収束した。片田は、彼女の仕事を引き継いだというジャーナリストの同僚、山口の、世間の空気に逆行しても真実を暴くとの言葉を意気に感じ、自らもまた警察組織の中で、真相を追うために闘う事を決意する。(エピソード「朽ちかけた斜塔」)
登場人物・キャラクター
谷口 五郎 (たにぐち ごろう)
エピソード「谷口五郎の退官」に登場する。H拘置所を退職したばかりの男性。35年間看守および死刑執行人を務めていた。死刑囚の赤岸源助に友情に似た気持ちを抱いており、彼は無実ではないかという疑問を抱いている。源助には「タニさん」と呼ばれている。
野崎 洋平 (のざき ようへい)
エピソード「教官の雨」に登場する。女子少年院「K女子学院」の教官を務める既婚の男性。年齢は34歳。この仕事が好きで、誇りと熱意を持っている。受け持った院生の中で、最も悲しい人生を歩んで来た少女の菊島あけみが強く心に残っており、あけみからの手紙が途絶えた事を心配して、彼女の行方を探している。
鈴木 平吉 (すずき へいきち)
エピソード「黒の牧歌」に登場する。殺人罪で懲役10年の刑を受けた男性。年齢は39歳。刑務所に長く留まる事を目的にしており、本気ではない脱走を繰り返している。間違って生まれた郭の子で、生まれた時から人間扱いしてもらえない日々を過ごして来た。30歳の時に長沼文子と出会い、3日間だけの結婚生活を送る。気持ちが通じ合った文子を殺したのが自分でなければ切なすぎると、時効成立まで刑務所にいる事を自分に課している。語尾に「でショウ」と付ける独特の話し方をする。
片田 良夫 (かただ よしお)
エピソード「あの日川を渡って」「消えた国」「動機」「片隅」「玩具の車輪」「炎のごとくに」「…一里塚」「朽ちかけた斜塔」に登場する。警視庁捜査一課に所属する刑事の男性。甘いマスクながら無骨な性格で、事件を解決する事以外は何も目に入らないタイプ。自分でも何を考えて行動しているか把握しておらず、コンビを組んだ相手が振り回される事が多く、付き合いづらい人間だと思われている。女手一つで育ててくれた片田の母が危篤という知らせを受けた時も、犯人逮捕まで母親のもとには帰らなかった。勘が鋭く、犯人が社会的評価を気にするタイプと推測し、久美の会社が発行する雑誌を読んでいる事にたどり着く。高校時代の友人で誰よりも優秀だった矢崎とは、刑事とヤクザという形で、苦々しい対面を果たす。のちに久美と恋人関係になるが、闇資金の流れを追っていた久美が何者かに殺害されてしまう。
ディーラーの男性
エピソード「道草」に登場する。ディーラーの男性。既婚者で、小学校6年生の娘がくも膜下出血で死亡してしまう。優秀だった自分が手にしたものはほんのわずかなモノだと悟り、娘にはもっといいモノを与えたいと英才教育を施し、それが災いして娘を死に追いやってしまった。
アキラ
エピソード「夜行列車」に登場する。テレビのゴールデンタイムの売れっ子監督になった男性。40歳手前で、離婚歴がある。監督のもとで働いていた若い時代は、いつも監督と仕事の事でケンカして、故郷に帰る夜行列車に乗っていた。監督の葬式の帰り、仕事が好きだった彼の人生を称えて涙する。
原
エピソード「帰国」に登場する。新聞記者を務めている男性。中国残留孤児の感動的な社会復帰のルポタージュを狙っていた。自身が残留孤児だと伝えた佐藤と交流を深めるうち、国が同胞である残留孤児に低い予算しか計上せず、佐藤達が酷い扱いを受けた事に罪悪感を覚えるようになる。
神崎
エピソード「摩天楼」に登場する。植田可奈が入院した病院の医者を務める男性。いつもポーカーフェイスだが、命より大事なものはないと、自殺しようとした可奈を助けた。巨大な摩天楼を作った人はそこに住んでおらず、そこに住んでいる人も幸福になっていない、という違和感をつねに持っている。
漁師 (りょうし)
エピソード「白夜」に登場する。海辺の村に住む漁師の男性。亜紀の恋人。海があり、船があり、魚がいてメシが食える、という以上の幸福はないと考えている。シンプルな性格で、男は海に出て、女はそのあいだ家を守るというのが最高の生き方と思っており、東京に出て行こうとする亜紀を理解できなかった。
和子
エピソード「昼に近い午後」に登場する。1年間精神病院に入っていた女性。OLだった頃、典夫と付き合っていたが、彼が司法浪人生となったため、別れた。希望の条件をほぼクリアする相手と結婚するが、半年後、同居する事になった姑にいじめられ、数か月後に離婚。再び連れ子のいる典夫と暮らし始めた。しかし離婚のダメージで精神的に病んでおり、典夫を包丁で殺害してしまう。
吉村
エピソード「夜空」に登場する。池田の戦友だった男性。丸眼鏡をかけ、シニカルな雰囲気を漂わせていた。大金持ちになると宣言していた池田に、くだらん生き方をするなと言い残して戦死する。のちにほかの女性に金を渡すために、資産家の妻と結婚した事実が判明する。
ノブ
エピソード「顔のない群れ」に登場する。「小山あけみ」と名乗っていた女性。新宿歌舞伎町の路上で、泥酔状態で水溜りに顔を突っ込んで溺死。ノブの掛けていた生命保険の受取人が小山あけみだった事から、保険会社から依頼された私立探偵の乾真人が調査を開始。酔うと店の客とホテルに行くために「添い寝のノブちゃん」と呼ばれ、歌舞伎町界隈では有名な存在だった。琵琶湖の近くに住んでいたという手掛かりから、戸籍がない子供で、学校にも通っていなかった事が判明する。
相棒
エピソード「今頃」に登場する。隅田川を運行する水上バスの男性運転手。並木の相棒。自宅の売却価格が上昇し、それにより徐々に様子がおかしくなっていく。売却した金を息子に渡し、浦安に住む息子の世話になってみたものの、居心地の悪さを感じ、毎日並木の水上バスに客として乗り込むようになる。
サチ
エピソード「微笑」に登場する。津々井太の亡くなった父親の愛人だった女性。和菓子屋を営んでいた和菓子作りのプロ。太の義母だと名乗り、新居に居座るようになる。太とは彼が小学校の頃からの付き合いで、当時は感じのいい綺麗な女性だった。献身的で、太の父親の晩年は家財道具を売り払って面倒を見ていた。ボケたふりをしていたが、実は死ぬ間際に家族を持ってみたかったと、家を出て行く際、太に打ち明ける。
下村 ユキ
エピソード「…の後」に登場する。脚本家の丸丘清の前に、ファンを名乗って現れた若い女性。明るく控え目だが、はっきりと物を言う性格。自分の体験談を買ってくれた丸丘に、私生児である事を知ってグレ始め、母親が亡くなってからは、夜間の高校へ通いながらスーパーで働いている事を話した。銀行の口座番号を聞かれ、最後に自分の名前を口にして走り去る。下村ゆう子の娘と思われる人物。
美崎 亨次
エピソード「声」に登場する。膨大な量の作品を残した作家の男性。妻は美崎瑛子。亡くなって四十九日を迎えようとしている。不細工で、分厚い瓶底眼鏡をかけている。とびきり頭がよく、いつも「瑛子、おい大変だぞ」といいながら家に帰って来る落ち着きのない性格。しかし戦争中に非国民として軍人から暴力を受けた事により、終戦後人間性が一変する。人に会う事もなく書斎に閉じこもり、創作だけに没頭するようになった。
佐知子
エピソード「あだしの」に登場する。立派な家庭のお嬢様。養女であり、家を嫌っている。年齢は25歳で、京都出身。高校生の頃、友禅染の図案師だった加藤修と恋に落ちる。その後、金子に騙されて修と東京に出たが、ヤクザになった修から突き放されるようになる。故郷のあだし野を愛しており、最期は修といっしょにあだし野で死にたいという思いを胸に秘めている。
町医者
エピソード「一輪」に登場する。「唐沢医院」の医者を務める男性。熱を出した小坂の息子、鉄夫の様子を見て、すぐに診療してくれた人間味あふれる人物。東京に帰る小坂に電車賃とタクシー代を渡し、どんな小汚い世の中でも一輪の花は咲いている、と彼らを励ました。
小室
エピソード「名前Ⅱ」に登場する。30年ぶりに常務の立場でニューヨークに戻って来た男性。昨年、娘を嫁に送り出したあと、妻と離婚した。徹底した合理主義と個人主義のアメリカが性に会っている。昔、ニューヨークに滞在していた時は、支社を作るべく秘書のマーサーと二人きりのオフィスだった。そこからよく紙ヒコーキを飛ばしていたので、マーサーとよくケンカになっていた。マーサーからは「ボス」と呼ばれていた。
戸塚 道子
エピソード「雪の革命」に登場する。過激派グループ「タイガーX」のサブリーダーだった女性。独身だが、13歳の娘がいる。水上研一とは男女の関係にあったが、革命実行の日に現れなかった水上のせいで革命は実行されなかった。その後、「タイガーX」のリーダーの平田と暮らし始めたが、お腹の子は水上の子供だった事もあり、平田は純粋すぎるがゆえに自殺する。水上にその一連の出来事を伝えるべく、水上が当時の同志と落ち合った場所に現れた。
細川 ゆかり
エピソード「蜃気楼」に登場する。刑事の細川の妻。左目元にホクロがある女性で、三千代の母親。結婚して田舎から東京へ出て来て7年目で、細川がひき逃げされてしまい、彼が汚職警官であった事を知る。夫を愛してはいなかったが、この仇だけはとってやろうとホステスになり、細川をひき逃げした伊集院と有田可奈子に近づく。
隆
エピソード「草原」に登場する。「岸田運送会社」で働く事になった男性。年齢は17歳。故郷の草原で、身寄りのない子供達を引き取っていた溜造のもとで育てられた。溜造が亡くなり、吉乃という年長の女性が東京に出稼ぎに行くようになったが、体を壊して亡くなってしまう。自分が最後という気持ちで、子供達のために出稼ぎに行き、会社の寮に住む事になる。世間ずれしていないまっすぐな性格で、どこか不思議なところがあると同僚の戸塚に思われている。
ロングヘアの女性
エピソード「扉」に登場する。まさえの友人の女性。彼女と同じ工場で働いていた。ロングヘアの美人。まさえと同じ工場のエンジニアで、まさえも好きだった男性を好きになり、子供ができたと噓をついて彼に結婚を承諾させた。これがまさえが自殺するきっかけとなり、自責の念を抱きつつ、まさえの祖父のもとを訪れる。
岡田 宗介
エピソード「丘」に登場する。エンジニアの男性。世界5位の売上げを誇る「日豊自動車」創始時のメンバーの一人で、最大の功労者である。本人の希望で何の役職にもついていなかった。家族はおらず、中学校を卒業して特別工員として入社した。抜群に頭がよかったが、陽の当たる場所には出たがらなかった。母親を殺してしまった丘に、本当の自分を置いて生きていく、と決心した過去がある。
尾崎
エピソード「餓鬼」に登場する。松川とよが経営する赤坂の料亭で働く男性。とびぬけた腕を持つ料理人。とよの小料理屋で働き出してから、20年ものあいだとよに尽くして来た腹心で、とよを母親のように思っている。とよと広州への視察の途中に訪れた香港で、殺し屋の周泳漢に狙われた彼女をかばって車に轢かれ、亡くなってしまう。
小畑
エピソード「遠い抱擁」に登場する。宣伝映画や教育映画を作る「産業映画会社」に勤める男性。会社が持つ田舎のスタジオ内で寝泊まりしながら一人で台本を書き、東京本社に送っている。酒と仕事で家庭を省みなかったため、妻の幸江からは愛想を尽かされ、捨てられてしまう。初めて顔を見る、女子少年院に入所している娘の恵子の身元引受人となる。
安井 昭
エピソード「距離のない行進」に登場する。「ニッセン電気」に勤める男性。安井の息子。会社の会長の娘と結婚式を挙げる予定になっている。将来出世したいがために結婚を決め、父親の言動も自分の出世に響かぬよう自重してほしいと頼む、出世しか頭になく、良心を持たない人物。
中原 ユミ
エピソード「空想地図」に登場する。高校へ入学したばかりの少女。ある学校で起こった校内事件の主犯格の少女で、警視庁内で松本源助と出会う。その後、山本二郎という男性を探してほしいと「松本探偵社」を訪れ、スケッチのような手書きの地図を渡した。
綾
エピソード「渦」に登場する。テレビ局に勤務し、ワイドショーを担当している女性。稔の母親でシングルマザー。交際している藤本からプロポーズされているが、多忙を理由に断っている。小さい時からわがままに育ったので、耐える事を知らない。
豪
エピソード「海岸線」に登場する。大人を信じられなくなった少年。学校の教師の若山の理由なき暴力のせいで、友人が自殺してしまう。北海道から家出し、東京タワーでおじさんと出会う。若山の暴力を大人達に訴えていたが、誰も聞く耳を持たなかった事にも傷ついている。自分が若山に殴られた際、見張りで来ていた自分の父親が現場に居合わせたため事件が発覚。しかし精神的ショックで体が動かなくなり、学校に通えなくなってしまった。
鈴木 恵美
エピソード「面影花」に登場する。鈴木章一の娘。西北大学の学生だったが、昨年自殺した。宮田みち子から愛人バンクに登録させられ、誰の子かわからない子供を妊娠してしまい、パニック状態になって手首を切った。
前田
エピソード「左遷」に登場する。「毎朝新聞」の記者の男性。本社社会部のエース記者だったが、支局の通信部に左遷された事でくさってしまう。左遷された北丘市の記者クラブでも態度が悪く、スクープを狙って先走った記事を書き、両親を火事で失った28歳の女性を自殺に追い込んでしまう。
池田
エピソード「夜空」に登場する。戦後、一代で財を成した高齢男性。戦時中、金に苦労したので、誰よりも金持ちになると戦友の吉村に語っていた。戦死した吉村の妻から、ほかの女性と通じていた吉村に復讐したいと結婚を持ちかけられ、承諾。半年後に妻は自殺したが、財を築き今に至る。子供達がみんな、財産をほしがっている様子を見て辟易している。
満夫
エピソード「血」に登場する。サラリーマンの男性。既婚者で、長男の裕太と娘の父親。親父の息子で、母親を早くに亡くしている。眼鏡をかけ、もっさりした雰囲気を漂わせた人物。裕太から自分は誰の子かと聞かれ、AB型の自分とA型の妻から、O型の裕太が生まれるのはおかしいと気づく。その時に自身も親父の本当の息子でない事を知ってしまう。
老人
エピソード「ささやき」に登場する。身なりのいい高齢男性。いつもパイプをくわえている。年金生活者だが、自分に誇りを持っており、清に自分に恥じた生き方をするなと教える。若い頃、交通事故で妻と子供を同時に失った過去がある。仕事熱心だったが運に恵まれず、つねに貧乏だったが、心豊かに生きる術を身につけている。美人だという清の母親に興味深々な様子。
亜紀
エピソード「白夜」に登場する。漁師の家に育ち、海辺の村から東京へ出て来た若い女性。朝ご飯を作り、釣り具の手入れや漁網の修理をし、風呂を沸かして夕飯を作るという母親の毎日を見て育ったせいで、違う人生を求める気持ちが強くなり、上京した。しかし不毛な恋愛関係を繰り返し、生活だけが派手になっていく。会社をクビになり、アパートを追い出され、公園のベンチで朦朧としながら、恋人だった漁師の事を思い出し、遂には幻を見るようになる。
デザイン事務所で働く女性 (でざいんじむしょではたらくじょせい)
エピソード「いたみ」に登場する。デザインオフィスで働く女性。年齢は38歳。13年前、俳優の堤則之との青春を精算するために真美という子供を生んだ。子供は自分の仕事を邪魔する悪魔のように思えた時期もあり、1年前から娘と離れて生活している。則之には手を上げられる事もあったが、彼と共に青春時代を送っていた。しかし、則之と婚約者の結婚を邪魔しないように娘に言われた事で、やり場のない思いを抱えてしまう。
順一の妻
エピソード「熱い砂」に登場する。大村順一の妻。修という小さい息子がいる。順一がカバン持ちをしていた大物政治家の娘で、美しい女性。新谷の伯父に対する順一の態度に嫌気がさし、私憤で選挙や政治をするのは間違っていると、投票日に息子を連れて順一のもとを去る。
岡林
エピソード「坂の途中」に登場する。55歳にして、肩叩きにあった部長を務める男性。自身は、重役に昇進して会社に残れるとばかり思っていた。そんな失意の中、出て行った妻子を愛していた事に気づく。昨日まで正しいと教えられていた事が間違いだったと教えられた戦後の教育のせいで、同情を憎むようになった一面があり、出て行った妻子にも極力冷淡な気持ちを装い、自分を守っていた。
石丸 実
エピソード「鬼火」に登場する。無限連鎖講開設罪で逮捕寸前の男性。会長職に就いている。父親である石丸の臨終間際に、自分は石丸の子供ではなく、石丸が殺害した「山形燃料店」の店主の息子だと聞かされる。貧乏でもまじめに一生懸命生きる事ばかりを教える父親を憎んでいたが、彼の死後、弱い人間からお金をむしりとって生きて来た事を懺悔する。
大川 京子
エピソード「家族」「初雪25時」に登場する。鶴橋の恩師の大川教授の娘。ロングヘアの美人。鶴橋との付き合いを親に反対されていたが、家出同然で鶴橋と結婚した。新宿ゴールデン街の「鶴橋法律事務所」を手伝っている。大胆で直観に優れており、鶴橋に的確なアドバイスを与える事が多い。
秀一の母
エピソード「踊り場」に登場する。町井秀一の母親。育ての母であり、実の母親ではない。秀一の結婚式に実の母である「森田節子」という女性を招待してほしいと懇願した張本人だが、秀一と節子の再会を目の当たりにし、半年もたたないうちにボケ始めた。
鳥居 力 (とりい ちから)
エピソード「原色の河」に登場する。激安家電ストア「原点屋」を経営する男性。年齢は24歳。「いい品をより安く」をモットーにしている、行動力のある男らしい性格。まじめで努力家なのに運に恵まれず、ドロボウをしていた父親を見て育った。一生懸命働いても食べていけない社会は間違っているという思いで、スーパーやディスカウントショップを経営するに至った。
戸塚
エピソード「草原」に登場する。「岸田運送会社」に勤めている男性。年齢は30半ば。顔が長く、鼻孔が上を向いて横に広がっている。新入りの隆とペアで働く事になった人物で、とても親切で優しい性格をしている。しかしカードで見栄を張った生活をして、そのうえにバクチにも手を出して借金地獄となり、妻子に逃げられた過去がある。会社の寮に住んでいる。
美里
エピソード「バス停」に登場する。OLの女性。2年間付き合った男性が、取引先の社長の娘と結婚すると言ってふられてしまう。そのせいで充実したと思っていた自分の人生が、急に居心地悪く感じる。学生の頃恋心を抱いていたカフェのマスターが、恋人が結婚するフィアンセの父親だと知り、人生の輪がつながったと、ある行動を起こす。
理沙
エピソード「まどろみ」に登場する。付属の幼稚園からエスカレーター式に大学まで進学した女性。恭平の仲間で、彼と体の関係を持っていた。恋愛関係にあった学者の卵に捨てられ、傷つく事に慣れていなかったせいで自棄自暴となり、知らない男性達に犯されて子供を身ごもってしまう。
西田
エピソード「午前十時の香り」に登場する。近江の秘書となった男性。定時制高校に通う17歳の時、近江に引き抜かれ、彼の後継者として色々な知識を詰め込まれた。人生を切り開いてくれた近江を恩人だと思っている。近江が愛好していた葉巻の蠱惑的な香りを記憶に留めているつもりだったが、のちに秘書の水野の香りだと気づく。
典夫
エピソード「昼に近い午後」に登場する。和子といっしょに暮らしていた男性。黒縁眼鏡をかけている。若い頃に、和子と付き合っていたが、司法浪人生となってしまい和子に別れを告げられた。その後、和子と8年振りに再会、連れ子である典夫の娘といっしょに暮らし始める。だが、離婚で精神的なダメージを負っていた和子に、包丁で殺害されてしまう。
大崎 宏
エピソード「分水嶺」に登場する。ヤクザの男性。青地宵子の内縁の夫。17歳の宵子を無理やり自分の女にし、バー「人来夢」を宵子に任せて貢がせている。日常的に宵子に暴力を振るっている。昭に救いを求めた宵子に刃物で刺され、殺害される。
「初恋」の相手を捜す男性 (はつこいのあいてをさがすだんせい)
エピソード「初恋」に登場する。「初恋」の相手を専門に捜すという商売をしている男性。気が小さく、そのせいで酒を飲むとうっ積していたものを発散して陽気になる。初恋の人を捜す人間は、社会的に成功した自分を見せびらかしたい願望が強いうえ、初恋の人に会った人のほとんどが失望するので、商売を辞めようかと思っている。
佐久間
エピソード「煙」に登場する。シナリオライターを務める男性。年齢は40歳。かつてはヒット作を次々と生み出したが、今は鳴かず飛ばずの状況にある。アルコール中毒に近い状態で、女性とは手あたり次第寝る最低な生活を送っていた。妻の輝子とのあいだに子供が生まれ、これまでにない幸せな気持ちになった矢先、自分が残していたナッツを子供が喉に詰まらせ、死亡してしまう。
親父 (おやじ)
エピソード「血」に登場する。満夫の父親。妻を早くに亡くした。10代で土建屋を始め、時代の波に乗って大金を稼いだ典型的な成金の男性。自分の欲望のままに生きる破天荒な性格だが、幼い満夫を色々な場所に連れて行った子煩悩な一面があった。「人生苦しくて当たり前」という口癖が不釣り合いのようだが、実は満夫は自分の息子でない事を知っていた節がある。血液型はO型。
監督 (かんとく)
エピソード「夜行列車」に登場する。テレビのゴールデンタイムの売れっ子監督だった男性。自分の下で働いていたアキラと、ささいな事からいつもケンカになっていた。テレビは映画の下といわれていた時代に、二級監督といわれながら、数々の作品を作った。
はじめの父
エピソード「流された記憶」に登場する。はじめの父親。酒浸りで暴力を振るうろくでもない男性で、はじめに林業の仕事をさせて生計を立てていた。はじめを学校に行かせてほしいと頼みに来た佐藤純子と小競り合いになり、斧で頭を殴られ死亡。乱暴された佐藤が殺害したのだが、はじめは自分が殺害したと思い込んでいる。周囲からは伊勢湾台風で行方不明になったとされている
祖母
エピソード「誕生日」に登場する。立原達夫の祖母。立原光夫の義母。達夫の祖父の後妻として立原家に入って来たので、達夫と光夫とは血縁関係はない。達夫が大学を卒業する年に突然姿を消し、毎年夏に思い出したようにやって来る。傍若無人に振る舞い、口が悪い偽悪者。実は光夫と彼に似た達夫を愛していた事が死後、判明する。
岡 司朗
エピソード「夢の破片」に登場する。「岡士朗法律事務所」の所長を務める男性。国選弁護人ばかり引き受けている貧乏弁護士だが、東大在学中に弁護士資格を取った頭脳明晰な人物。人情派でいつも明るくにこやかにしている。事務所で働くルミには、いつも憎まれ口を叩かれている。
サラリーマンの男
エピソード「万引き」に登場する。サラリーマンだった男性。妻と二人の子供と暮らしていたが、25年目にして電車で女性の胸を触って失職し、家族も家を出て行ってしまう。心のどこかでそういう事をしてみたいという願望があったと自覚しており、親友の菊地の自殺に大きく影響されている。
菊島 あけみ
エピソード「教官の雨」に登場する。女子少年院「K女子学院」を1年前に仮退院した若い女性。1か月に1度は野崎洋平に便りを届けていたが、3か月前から消息不明になっている。幼い頃、教師をしていた父親を失い、生活に困った母親がキャバレーで働き、数年後に再婚した。その義父に乱暴されるが、母親を悲しませる事を恐れ、中学卒業を待たずに家出して、売春や窃盗を繰り返していた。少年院に入所してからも決して人を信じず、狂暴で利己的な態度を取っていた。しかし、脱走して暴力団事務所に逃げ込んだ自分を迎えに来た洋平が、どれだけ殴られても自分を守ってくれた事で彼を信じるようになり、更生した。
高橋
エピソード「回送車」に登場する。バス会社の川崎営業所の所長を務める男性。川崎営業所のバス運行エリアが原っぱだった時代から、白石良平と30年以上仕事を共にして来た。温厚な性格だが、依田専務がヤクザ風の男達を使ってストライキを止めさせようとした事を知り、激怒する。
娘 (むすめ)
エピソード「横顔」に登場する。ミステリー作家の娘の学生。両親が離婚し、週に1度は母親に会いにやって来る。母親の関心を引きたくて、噓と過激な発言を繰り返すが、しゃべればしゃべるほど、言葉を失いかけるという危うい一面を持っている。離婚前は仕事に集中しすぎる母親に対して不機嫌になる父親に、気を遣って生活していた。
恵子
エピソード「遠い抱擁」に登場する。女子少年院に入所していた少女。院内で自殺未遂した事から父親の小畑が引受人になる事を強く望み、小畑のもとへやって来た。明るく成績もよかったが、自分が父親と母親とのあいだで決して生まれない血液型だと知って、非行に走り、万引きと恐喝を繰り返していた。
佐々間 美保
エピソード「街」に登場する。佐々間英二の妻。成功した夫との生活に不満を抱えている女性。18年前に芸術家を目指す英二とパリにいたが、その時の英二を一生を共にする価値のある男性だと思っていた。だが、日本の服飾業界で成功した英二は、金勘定ばかりして人生の意味を見失っていると、一人パリに旅立つ決意をする。
大山
エピソード「象牙の罠」に登場する。東亜大学で英文科の助手で講師をしている独身女性。年齢は29歳。ショートカットのすっきりした美人で、助教授昇進が決定するかどうかの瀬戸際にいる。結婚したり恵まれた仕事に就いている友人達に、自分の生き方は間違っていないと知らしめたいという意地が強く、女性の武器を使って教授に取り入っている。
サチ
エピソード「手帳」に登場する。港のそばでスナック「人魚」を経営している女性。知佳の祖父の恋人で、自称、中学中退の明るい性格の持ち主。生き方をよく知っていると知佳からは好感を持たれている。
サトシの父
エピソード「約束」に登場する。百貨店に勤めている男性。年齢は30歳。既婚者でサトシという男の子の父親。妻や同僚からオジンくさいといわれており、30歳になって原因不明の無気力さを感じるようになった。自分の父親から初めて自転車を買ってもらった感動を思い出し、サトシに自転車を買ってやろうと思いつく。
大川 ますみ
エピソード「輪立ち」に登場する。ローマで日本人旅行者相手にガイドをしている日本人女性。年齢は35歳。両親の反対を押し切り、絵を勉強しに行ったが挫折。暴力を振るうイタリア人男性と暮らしているが、プライドの高さから帰るに帰れず、意地を張ってローマで暮らしている。私立探偵の松本源助に、母親が自分を思って毎日握りしめていたマスコット人形を見せられ、一時帰国を決意する。
立原 光夫
エピソード「誕生日」に登場する。立原達夫の叔父。祖母の義理の息子。21歳で自殺した。祖母によれば、意気地なしの気取りん坊で自意識過剰であり、女性にふられて死んだ事になっている。
朝川
エピソード「一枚の絵」に登場する。大劇団「橋」を主宰している男性。金に物を言わせ、外国で当たっている演目や小劇団が長い時間をかけて育てた演目を横取りして大きくなった。経済的に貧しく大学に通えなかったため、幼なじみの由紀の通うK大学の演劇部にテンプラ学生として参加していた。由紀を愛していたが、献身的な由紀を利用しつくして捨てた過去がある。平木と再会し、幼い頃美術館で見た絵画との出会いが、その後の演劇人生を決定した事を思い出す。
広田 英悟
エピソード「冬の西瓜」に登場する。天才詩人と評された男性。広田リサの父親。無口だったが、ひとたびお酒が入ると何時間も一人でしゃべり続け、詩にする事が不可能な感動を詩にしようとしていた。
周 李博
エピソード「餓鬼」に登場する。政府から松川とよの案内人を頼まれた通訳の中国人男性。広州で息子探しに躍起になるとよに、置き去りにされた息子にもその後の人生があり、苦しさもあると諭した。実はとよが自分の母親であると、早々に気づいていた。旧姓は「松川真一」。
一条 豊
エピソード「猛女」に登場する。大学教授で既婚者の男性。一条きぬと一条の息子で、 母親似のずんぐりむっくりな体型をしている。疑り深い性格で、新興宗教の教祖だった猛女で醜女のきぬに、ハンサムで良家出身の父親がなぜ惚れたのかをずっと疑問に思っている。きぬが亡くなった時、父親が顔も体も性格も母親に似ていたという言葉にショックを受けた。
小野寺 友理恵
エピソード「路上日記」に登場する。女子高校生。年齢は16歳。父親の小野寺と母親の三人暮らしで、幸福な家庭に育ったと自覚しているが、今一つ生きている実感が湧かず、長生きしたいと思っていない。だが、路上で不思議な絵を描く青年が自分の兄だと知ってから、人生観が一変する。
片岡
エピソード「窓」に登場する。京浜医大付属病院に勤める教授の男性。体外受精の権威でもある。患者の卵子を無断で実験に使用したせいで世間から批判を浴び、帰郷する。医学界きっての合理主義と呼ばれていたが、研究に追われた生活の中で見失っていたものを、金魚すくいの屋台の女性と出会って取り戻していく。
菊田
エピソード「廃線」に登場する。刑事の男性。犯人を追って、女主人の営む食堂の2階で張り込みしている。警察に入る前、集団就職で京浜工業地帯の製鉄所で働いていた。その当時の恩人である班長を追って、刑事のカンを頼りに京浜工業地帯にやって来た。
何かを変えたい女
エピソード「水の中」に登場する。うつろな時間の連続に悩んでいる若い女性。誰でもいい仕事や、空っぽの人間関係等に疲れていた時、川に潜る宝探しをする男に出会い、スキューバ・ダイビングを始める。それと同時に宝探しをする男と恋愛関係になる。
小野寺
エピソード「路上日記」に登場する。新聞記者の男性。小野寺友理恵の父親。プノンペンで特派員をしていた若い頃、カンボジアの村娘と恋に落ちて彼女は妊娠。しかしクーデターが起きて彼女は行方不明となり、日本に帰国して2年後に友理恵の母親と結婚した。それから1年後にその時の息子が目の前に現れ、施設に預けるしかなくて今に至る。
明の母
エピソード「傷」に登場する。野口明の母親。クラブを営む女性。水商売をしている自分に批判的な態度をとった10歳の明を、若気の至りでおもちゃ箱にぶつけてしまい、明の顔に傷をつけてしまう。明を中学卒業と同時にジムの会長に預けて以降は、毎日電話を欠かさず掛けるなど、いつも明の事を案じていた。
水野
エピソード「午前十時の香り」に登場する。近江の秘書だった女性。近江の死後、西田の秘書となった。近江から愛されていたが、他人に対して同情や憐れみを持つような人間ではない彼が、なぜ西田に対して人間味のある面を見せたのかを疑問に思っていた。西田が近江のナルシシズムの犠牲者だと気づき、「近江商事」を去る決意を固める。
真美の母
エピソード「陽のあたる影」に登場する。真美の母親。夫は真美が10歳の時に死亡。その夫から暴力を振るわれていた。女手ひとつで真美を育て上げた苦労人だが、真美がプレゼントした海外旅行の飛行機事故で命を落とす。のちに夫が存命中、杉田君夫と関係があったと判明する。
小山 道夫
エピソード「真昼の漂流」に登場する。石原と同じ会社のサラリーマンの男性。石原の課に所属している。妻が2か月前に病気で亡くなり、3歳になる娘の良美の世話で欠勤が多い。まじめでいつもベストを尽くしているが、営業成績が悪いために、人事異動を命じられるのではないかと気に病んでいる。
花村 千広
エピソード「つばめ」に登場する。電車の中で痴漢に間違われた男子学生。父親に花村家の体面を傷つけたと激怒された事から、被害に遭った女子大生に無実を証明してほしいと追いまわす。だが、彼女を交通事故に遭わせてしまい、家に引きこもるようになる。気が弱く臆病な性格だが、幼い頃にはいじめられていた千広の幼なじみを守ろうとした優しい一面を持つ。
田所 房子
エピソード「腐葉の森」に登場する。派出所の巡査の妻。噂好きのスピーカーと評されている女性。長い髪を後ろで三つ編みにしている。岩波由紀子と親しくなり、趣味のジョギングに由紀子を誘うが、彼女に川に突き落とされてしまう。だが、極度の近視だった事が自身の葬式の際に判明する。
有田 可奈子
エピソード「蜃気楼」に登場する。伊集院の愛人の女性。彼が手掛ける事業の実質的な経営者と目されるやり手。佐渡の金山出身で、明るい場所で死ぬために息子の幹男と上京した過去がある。細川ゆかりにはどこかシンパシーを感じており、監禁されている中、ゆかりに自分の過去を語り出す。
三崎
エピソード「あきらめ」に登場する。谷矢の師匠だった男性。天野とは顔見知りであり、おそらくこれから作曲家として絶頂を迎える天野に、谷矢のように馬鹿になれと助言を与える。燃える時に燃えればこそ、人生にあきらめがつき、人は笑えるという考えの持ち主。
江上 美津子
エピソード「操車場」に登場する。操車場がある町で育った女性。学生時代は下村明夫と淡い恋愛関係にあった。学校を卒業して上京し、30年ぶりに帰郷して操車場で自殺。東京では地位のある人間の愛人として暮らしぶりはよかったという。学生時代、明夫には、生きる気力を失いかけた時、操車場に戻って来ると語っていた。
正一の母
エピソード「日々」に登場する。永野正一の母親。喫茶店「ざぼん」を経営しているシングルマザー。見栄や体裁をつくろうのが好きで、息子を有名私立小学校に通わせている。酒好きでいいかげんな夫は酔っ払ってひき逃げされる。しかし保険も勝手に解約していたため、お金も下りなかった事から、夫を人生の敗北者と軽蔑している。好きになった男性と駆け落ちするが、のちに水死体で見つかる。
知佳の祖父
エピソード「手帳」に登場する。有名な画家だった高齢の男性。海辺の丘の上の豪邸で一人暮らしをしており、スナックを経営するサチと付き合っている。40歳になる前に財を成し、以降は絵を描かなくなった。徹底的な個人主義者で、世間から認められつつあった時期だった事もあり、息子を素直にかわいがる事ができなかった。
一条 きぬ
エピソード「猛女」に登場する。かなりの信者数を持つ新興宗教の教祖だった女性。一条豊の母親で、一条の妻。性格も体型も豪快な猛女で、見た目も美しくない。人間は笑うために生まれて来たんだというのが自身の宗教の教え。一条の家で下女として働いていたが、会社が倒産して妻にも逃げられた一条を献身的に支え、彼と結婚した。豊を実子として育てながら、経済的にも困窮する中、無理にでも明るく振る舞い、周囲の人々から信望を集めるに至った。
新谷の伯父
エピソード「熱い砂」に登場する。大村順一の伯父の高齢男性。体の弱い順一の父親を選挙責任者にし、過酷な選挙運動に借り出して死亡させた張本人。順一が立候補した選挙時に、炎天下の中、選挙運動を強いられて危篤状態となる。
吉川 トキ
エピソード「背中」に登場する。吉川純を含む四人の子供の母親。お人好しで世話好きな性格のため、よく人に利用されてお金を貸していたので、いつも子供達に迷惑をかけていた。家の中にはいつも人が絶えず、まるで町の集会場のようだった。夫がほかの女性の家に入り浸りだったせいで孤独を抱える事となり、多くの他人とのつながりだけを拠り所として生きていた。
落合 駿介
エピソード「さかな」に登場する。女子刑務所の医務室を担当するイケメンの男性医師。受刑者の大塚まゆみにスイミングクラブの指導員の仕事を紹介した。実は自身もオリンピックに出場した陸上選手であり、予選落ちしたが、オリンピックの重圧をよく知っている。
森山
エピソード「冬の蟬」に登場する。緑川道夫のマネージャーを務める男性。かつては道夫と同じ貧乏劇団に所属し、演出家をしていた。小太りで、眼鏡をかけている。道夫に罵倒される事も多いが、陰で彼を支えて、時にはあえてきつい事もいう、思いやりのある人物。
約束破りの男
エピソード「広場」に登場する。大手の広告代理店に勤める男性。章子の母の夫で、章子の父親。仕事が多忙であるにもかかわらず、いつもできない約束を妻子にしてしまう。悪気はないが、それが原因で別居している。
都倉
エピソード「夢の破片」に登場する。会社を経営している男性。海産物を扱う会社で働いていたが、盗難の被害に遭って会社が倒産。失業してから運が好転した。海産物を扱う会社にいた頃、病弱な中学生の中村祐子から手紙をもらい、彼女のもとへたびたび見舞いに行くようになったが、ある日うっかり、彼女の前で会社の金庫に大金が入っている事を口にしてしまう。
戸倉 雪江
エピソード「銃声」に登場する。北海道出身の女性。同郷の富島優次が10代の頃から好意を持っていたが、昭和31年(1956)の冷害で身を売られてしまう。その後、富島周一を産み、売春婦と担当警察官という立場で、優次と皮肉な再会を果たしている。
霧島
エピソード「疑惑」に登場する。イナバが経営する芸能プロダクションで経理の仕事をしている高齢男性。20年前は「霧島ポンチ」という名の売れっ子お笑いタレントで、イナバをマネージャーとして雇っていた。ある時、倒れて今までのように話せなくなり、イナバの吐きすてた言葉をバネに回復したという過去がある。倒れたイナバを挑発するような態度を見せるが、深意は別にある。
住川 隆夫
エピソード「冬の西瓜」に登場する。天才詩人の広田英悟にたかって金儲けをしようとしていた男性。失踪した英悟の居場所をつき止めた。父親の死の間際に、スイカを東京まで買いに出た広田リサを助けた事から、リサと関係を持ち、英悟の晩年を誇張して描いた出版物で有名な賞を獲得した。英悟には心酔していたようで、彼を一番理解していると思っていたが、父親のために真冬にスイカを見つけたリサに嫉妬していた事を、晩年リサに打ち明けた。
神崎
エピソード「腐葉の森」に登場する。田所房子の検屍を担当した医者の高齢男性。いつも女性のお尻を触っているなど、おちゃめなところがある。岩波由紀子のお尻を触った事で、房子といっしょにジョギングした由紀子が殺人者だとつき止める。
谷村 健一
エピソード「海のある風景」に登場する。営業成績がいつもトップのエリート社員の男性。既婚者だが、父親になる自信がなく、子供が生まれる1週間前に、父親の谷村健造が亡くなったという海の近くの温泉街へ旅に出る。自分勝手な理由で借金を背負い、母親を苦しめた父親を憎んでいる。父親の死を知らせる絵葉書を、10年前に渡部富子という人物から受け取っていた。
宗介
エピソード「渇き」に登場する。サラリーマンの男性。宗教団体の教祖、よしの息子で、信者からは「若様」と呼ばれている。月に1度、母親を訪ねて来る丸眼鏡の男性が自分の父親だと思っていたが、のちに母親の最後の言葉により、母親のもとで下働きをしていた田村六介こそが、自分の父親ではないかという思いを強くする。
梨子
エピソード「土曜日の花火」に登場する。出版関係で働く若い女性。父親が事業に失敗し、豊かな家庭で育った母親が精神的におかしくなった事で、結婚に対する不安を持つ。恋人の岡部を愛してはいるが、豊かな時代に貧しい家庭で子供を育てたくない思いが強く、結婚には後ろ向き。
義母
エピソード「送り火」に登場する。京都の料亭「田辺」に後妻として入った女性。今も料亭の仕事を取り仕切っている。和服を着たふくよかな女性で、田辺順一の義母。小さい頃から順一が懐かず、卒業したら「田辺」を捨てて出て行くと言う順一に困り果てていた。自分の立場がなくなるとの思いから、恋人だった田辺松代が順一の嫁に来るよう裏で画策した。
戸川 啓一
エピソード「空白の走行」に登場する。一流商社「四井商事」の専務を務めている男性。部長時代に車で老人をひき殺し、その罪を研修中のタクシー運転手にかぶせた卑劣な人物。タクシー運転手には、将来自分の片腕として優遇するという約束をしていた。のちに愛人を殺害した容疑がかけられ、その時のアリバイを立証するのが、かつて自分が裏切ったタクシー運転手しかいないという窮地に立たされる。
ダヅ子
エピソード「あこがれ」に登場する。凉子の母親。夫は半年前に亡くなった。面長で眼鏡をかけた、芯の強い女性。同居していた夫の妹、凉子の叔母から、陰で意地悪をされており、ほとんどの場合は放って置いたが、凉子を使って意地悪をした時は我慢できず、彼女に平手打ちを食らわした。自分あてに書かれた遺書があったが、怒りのあまり飲み込んでしまった。
清水 まりえ
エピソード「川面」に登場する。ビリヤード屋で働く女性。かつては大女優だった。愛情に恵まれない生活を送っていたせいで、愛している人を失うのが恐くなり、育ての親でもあったプロデューサーの森川章一を殺害した。人間は生きているだけで十分だと、刑務所で生んだ息子と慎ましく暮らしている。
響子
エピソード「ツリー」に登場する。主任を公私にわたりサポートして来た女性。年齢は25歳。主任を愛しているが、資金運用に失敗して以降、魂が抜けたようになってしまった彼をどうする事もできず、職場を去ろうとしている。
蓮次
エピソード「風の消えた街」に登場する。劇団「蒼い風」を主宰している男性。駆け出しの頃、劇団のために「東京阿波踊り」というイベントを盛り上げるべく、パートナーのちずると奮闘していたが、主催者の無理な要求からちずるが死亡。その後性格が一変して、人間は強くならなければ駄目だと、金の話しかしない男になってしまう。
吉村 昭也
エピソード「南」に登場する。北国で倒れそうになっていた少年を育てた実業家の男性。少年を本部長に据え、北国の工場の人員整理をやらせている。生産の主力を東南アジアに移し、国内の生産を大幅に縮小し、生き延びようと尽力している。
和尚
エピソード「雪」に登場する。身寄りのない子供を引き取って世話をしている通称、お助け寺の住職。表の顔は善人だが、その実態は子供達に下働きさせ、チズには性的ないたずらをしていた悪人。お兄ちゃんに金を無心に行った際に決別したいと言われるが、その条件として200万円を要求する。
旅館の女将
エピソード「埋火」に登場する。岡村美智子が父親の岡村一平と泊まった旅館の女将。眼鏡をかけた上品な和服の高齢女性。30年以上前、新米だった岡村が、この旅館の通いの仲居、田中君子と愛し合い、その愛を埋火のように保存した事を知る人物。
浅間 悟
エピソード「日酒」に登場する。浅間興業会長の孫。丸尾裕二に近づき、手を触れて来た男の子。つぶらな瞳のかわいらしい幼児で、怖くないよといいながら裕二の手を触れて来た。この手のぬくもりにより、裕二はもう一度人生をやり直そうと決意する。
山田 文博
エピソード「売り娘」に登場する。著名な建築家の男性。吉川秀一という若手の建築家がコンペで決まりそうになると、必ず横やりを入れる。若い頃に同棲していたテル子の想像した建物から大きく影響を受けており、そのせいで、テル子の息子、吉川秀一の建築と共通点がある。
友子
エピソード「春の惑い」に登場する。保母のアルバイトしている女子大学生。大学生最後の春休みに、ベビーホテル「花咲ベビールーム」で働いていた。エルメスのケリーバッグ欲しさにアルバイトを始めたが、ベビールームで良夫という子供が死亡する事故が発生。当初は無関係を装っていたが、自分が俗物である事を自覚しつつも、真正面から自分なりの責任の取り方を模索する真摯なところがある。武彦という恋人がいる。
おじさん
エピソード「海岸線」に登場する。東京タワーの建設に携わった男性。時代の寵児だったが、今では月給泥棒といわれている。新しい技術を身につけようと徹夜で努力し、自殺した友人の高橋の葬式の帰りに、北海道から家出して来た少年、豪と東京タワーで出会う。死んでしまうくらいなら、自分に似合わない場所から降りればいいという考えに到り、暴力教師のせいで友人が自殺した豪と意気投合する。
真美
エピソード「陽のあたる影」に登場する。丸の内の企業で働く女性。10歳の時に父親を亡くし、女手一つで真美の母に育てられた。非常に母親思いだが、自分がプレゼントした旅行の飛行機事故で母親を亡くしてしまう。母親の病歴に人工中絶の文字を発見し、母親と叔父の杉田君夫が秘められた関係だったと知り、母親にも青春があった事に安堵する。
水田
エピソード「時間割り」に登場する。売れっ子脚本家の男性。可南子の父親のいとこ。高校2年生から大学を卒業するまで、可南子の家庭教師をしていた。噓つきで怠惰で、わがままで、いい加減な性格だと小学生の可南子に思われていた。人によって人生の時間割が違う、という持論の持ち主。のちに可南子の名前を書き連ねた原稿用紙を自分の留守中、可南子に見られてしまう。可南子には「オジ様」と呼ばれている。
28歳の女性
エピソード「左遷」に登場する。両親の介護で婚期を逃した女性。年齢は28歳。火事で両親が死亡し、自身も心身共に衰弱して入院している。なんで自分だけ生き残ったのかを悔いている中、前田が強引に取材した記事に傷つき、自殺する。
池沢
エピソード「夕暮れから」に登場する。小学校の教師をしていた男性。天地豊の家庭環境の悪さを知っており、彼が不良にならないようにずっと目をかけていた。だが修学旅行の費用を紛失したとして、学校を辞めざるを得なくなる。後年、アルコール中毒になり、酒場にいるところを天地が見つけるが、彼が誰かもわからないような有様だった。
今井 凉子
エピソード「初恋」に登場する。平凡な家庭の主婦。年齢は45歳。子供は中学生と小学生の男の子が二人。サラリーマンの夫との仲は良好。父親の会社が倒産し、中学2年生の夏休みに夜逃げ同然で田舎に引き上げ、同じ中学だった角田明の前から姿を消した。
横田
エピソード「置き去り」に登場する。大手商社「伊勢崎商事」で山脇と同期のライバルだった男性。名古屋のパルプ専門会社に出向になった事をきっかけに、自分と同じく出向になった山脇と温泉旅行に行くほどなかよくなる。多忙を極めていた頃、お前なんか父親じゃないと食ってかかって来た息子に、首元に傷を付けられた痕がある。出向してから1年後に他界する。
テル子
エピソード「砂上の設計」に登場する。橘健吾が学生時代に付き合っていた風俗嬢の女性。仕送りのない健吾に小遣いを与え、彼が勉強に専念できるよう尽くしていた。貧乏な家に育ち、新婚旅行は勝浦に行くのが夢だったが、勝浦で健吾に殺害される。
追川 浩
エピソード「荒地の温もり」に登場する。コンサルタント業を営む社長の男性。妻は金髪のアメリカ人女性。15年前、通りすがりに絡まれたチンピラを撲殺し、それを目撃していた花園麗子と1年間いっしょに暮らしたが、煙草を買って来ると家を出て、そのままアメリカへ渡った。昼夜問わず働き、その後大学を卒業して高年収のアナリストとなり、日本でコンサルタント業を始めるに至った。
老夫婦
エピソード「挽歌」に登場する。国立公園内でドライブインを建てようとしている老夫婦。夫は長年教師をしていたが、将来なりたい職業アンケートで公務員になりたいと答える子供の多さに突然むなしくなり、妻の夢だったドライブインを建てる事を思いつく。
藤井
エピソード「午後のフットワーク」に登場する。30年前の強盗殺人事件を担当した刑事の男性。犯人として逮捕された池沢善二から手紙をもらった事で、独自に再捜査を行う。当時は周囲や上司の反対を押し切って、殺人容疑者だった池沢を試合に出場させた。
落としの善七
エピソード「皮」に登場する。松本源助の先輩の男性。「落としの善七」と異名をとる名刑事。どんな強情な犯人でも、一晩で吐かすとされる。源助に自白させるのではなく、我々が皮一枚脱いで獣になってすべてを自白し、相手に教えを請いすがるんだ、と教えた。
池沢 善二
エピソード「午後のフットワーク」に登場する。30年前の強盗殺人事件の犯人として服役中、肺炎をこじらせて死亡した男性。当時フェザー級2位のボクサーで、リングネームは「ラッシュ池沢」。30年前、二人暮らしの母娘が殺害され、被害者の娘と付き合っており、さらに娘の胎内の子供が池沢善二の子ではなかった事から容疑をかけられた。試合に出してくれれば無罪という事がわかると担当刑事の藤井に訴え、ファイター常田との試合には勝つ。しかし、常田が自分に不利な証言をしたため、逮捕された。死ぬ前に藤井に送った手紙には、金と名誉のためだけではない、最高の試合だと思える戦いが一度でもできた事を感謝していると記していた。
ファイター常田
エピソード「午後のフットワーク」に登場する。「常田ボクシングジム」を経営する男性。元東洋チャンピオンのボクサー。30年前の試合で殺人容疑のかかった池沢善二に敗れた。ライバルのファイター常田なら、自分のフットワークが殺人を犯した人間のものではない事が分かるはず、という池沢の主張を否定した。その裏には、池沢がいる限り自分がチャンピオンになる事ができないという敗者の気持ちがあった事を、30年後、刑事の藤井に告白する。
英悟
エピソード「男達の顔」に登場する。大企業で課長を務める男性。幼い頃から工事現場で仕事をする肉体労働の男達の中で育ち、粗野で素朴で優しい彼らにあこがれていた。だが、自分が考えていた、より恵まれたエリートコースを歩む事になり、毎年入社して来る新入社員の表情のない顔が自分自身の顔だと気づき、心を病んでしまう。
角田 光夫
エピソード「かもめ」に登場する。大手出版社に勤めている男性。年齢は40歳。人生はゲームだと考えており、順調に進んでいると思っていた矢先、妻子に出て行かれた。ソウルオリンピックでランナーとして出場していた金礼智という女性と出会い、彼女に惹かれていく。実は韓国生まれで、生後1年の時、朝鮮戦争のパニックの中、停泊していた日本船に預けられた過去があり、礼智の兄の昌慶から、自分が本当は「金昌徳」という名前で、礼智の兄である事を知らされる。
南条 浩一 (なんじょう こういち)
エピソード「その時から」に登場する。世界中を相手に事業を展開させている南条一族の男性。南条太の甥。学生の頃は英語や経済に興味がなく、小説や音楽ばかりを好んでいた。だが南条家のホープだった叔父の太に、金がすべての時代になると、厳しく勉強させられた時期もあった。今や人が変わったように隠遁生活を送る太に、たびたび呼び出されるようになる。
章子の母
エピソード「広場」に登場する。小さな広告代理店に勤める女性。5歳の章子という娘がいる。約束破りの男の妻だが、半年前から別居している。多忙な夫がいつも果たせない約束をするため、娘が可哀想になり、別居したという経緯がある。自身も規模は違うが同じ業界で働いているため、夫の仕事を理解しているので、夫に「約束」をしないでほしいと心底思っている。
片田の母
エピソード「あの日川を渡って」に登場する。片田良夫の母親。女手一つで息子を育てて来た女性。子供の前では不安をいっさい見せず、いつも明るく笑っていた気丈な性格の持ち主。東京オリンピックの開会式のチケットを手に入れ、息子を連れて行く事に並々ならぬ喜びを感じていた。しかし、ダフ屋から買ったチケットが偽チケットだと判明した際には初めて悲しい顔を見せた。この時の片田の母の顔が、片田が刑事になると決心する大きなきっかけとなった。
原田
エピソード「家族」に登場する。書店を経営していた小太りの男性。建造物放火と、妻と5歳の息子を殺害した罪で逮捕され、国選弁護人の鶴橋に弁護される事になった。逮捕直後、犯行を否認していたものの、翌日には一転して全面的に犯行を自白。鶴橋に自分の事は放っておいてくれと、投げやりな態度を取る。
祖母
エピソード「祖母のしつけ」に登場する。両親を事故で失った美幸を引き取った女性。その厳しさは尋常ではなく、美雪は両親を失った悲しみより、しつけの厳しさに泣かされた。間違っていようが正しかろうが美雪にとっては絶対的な存在。自分の命をかけて、美幸に人生を生きろと教えた。
吉岡 洋子
エピソード「老木の舞」に登場する。安西流宗家、安西泰雄の内弟子の女性。18歳の時から5年間、泰雄の家で暮らしていた。何者かに殺害され、奥多摩で発見された死体にはつる草がぐるぐるまきにされていた。気立てがよく口数の少ない人物で、能の才能は卓越しており、同じく泰雄の弟子である川島次郎と恋愛関係にあった。
白石 良平
エピソード「回送車」に登場する。川崎営業所でバスの運転手をしていた男性。妻と娘の春の三人暮らしで、春は藤田と結婚を控えている。退職の日に、孤独な少年の小村京助をバスに乗せて海に連れて行くが、誘拐犯として警察にマークされてしまう。職場の仲間から「良さん」と呼ばれ、みんなに慕われている。
赤岸 源助
エピソード「谷口五郎の退官」に登場する。H拘置所に死刑囚として16年間服役している男性。昭和36年(1961)に山口県N川上流の八阪町で警察官二人を殺害したとされている。生活態度もよく、誠実な性格の持ち主。再審請求をあきらめて恩赦の出願に切り替える事は、罪を認める事だと、死刑執行の瞬間まで無実を訴えていた。死刑執行前に谷口五郎に対し、下河地恵介に育てられているかほるという娘の姿を、目に焼き付けてほしいと頼んだ。
稔
エピソード「渦」に登場する。綾の息子。年齢は3歳。父親はおらず、藤本に懐いているが、ほかの同い年の児童よりもやる事が少し遅れている。綾が休みを取っていっしょに過ごした事で、できなかった積み木ができるようになる。
南条
エピソード「暗い傾斜」に登場する。雪山で塩見良夫のガイドを務めたイケメンの男性。S山の附近でガイドや山小屋の番人をしている。塩見夏子の学生時代の登山仲間で、家出した夏子を山小屋に住まわせている。
若い女性 (わかいじょせい)
エピソード「海辺の波」に登場する。男が置いて行った子供の光太郎を育てている若い女性。光太郎とは血のつながりはなく、何度も光太郎を捨てようと思ったが、捨てきれなかった。母親が離婚し、何か寂しい気持ちにイラついていたせいで、昔はいろんな男性と遊んでいた。
恭平
エピソード「まどろみ」に登場する。付属の幼稚園からエスカレーター式に大学まで進学した男性。同じ境遇の仲間とつるみ、結婚する事は生活に疲れ果てるくだらない事だと、馬鹿にしていた。体の関係を持っていた理沙が、学者の卵と恋愛し、その後見合いして結婚すると聞き、居ても立っても居られなくなる。
松本 たえ子
エピソード「空想地図」に登場する。松本源助の息子で東京地検の検事である松本良夫の妻。世話好きな性格で、源助宅に身の回りの世話をするために訪れる事もある。物腰は柔らかいが、天然なところがあり、源助に探偵の素質があると言われ、その気になって助手を志願するようになる。
周 泳漢
エピソード「餓鬼」に登場する。殺し屋として松川とよを殺害するよう頼まれた中国人男性。年齢は40歳。1978年文化大革命の嵐の際、中国本土から香港に泳いで渡った猛者だが、今では裏の世界では何でもやる不良として有名。実は、とよの息子で、周李博の弟。周泳漢本人はとよが自分の母親だとはまったく気づいていない。旧姓は「松川京二」。
女店主 (おんなてんしゅ)
エピソード「廃線」に登場する。食堂を営んでいる女性。年齢は28歳。高度成長期に労働者で栄えたが、今は廃墟となった町で母親が切り盛りしていた食堂を継ぐ事にした。以前は、働き尽くめの母親も、割に合わない商売も嫌っていたが、なぜかこの場所で商売を続けている。
田中 君子
エピソード「埋火」に登場する。30年前、旅館の女将のもとで通いの仲居をしていた美しい女性。夫が人を殺し、新米だった刑事の岡村が田中君子の家で張り込む事になる。やがて岡村と気持ちが通じるようになるが、寝たきりの母親の面倒を見てくれていた岡村が、夫を取り逃がしてしまったため、夫から呼び出された際に、夫を刺して自分も自害した。
米川 三夫
エピソード「小さな鳥」に登場する。長兄の米川才一と次兄の米川次郎の弟。数年のサラリーマン生活ののち、物書きとなった。多忙を極め、すさんだ生活をしている40歳過ぎの独身男性。どちらかというと、次兄に性格が似ており、心のどこかでまじめな長兄を馬鹿にしていた。
宏平
エピソード「紅い花」に登場する。サラリーマンの男性。大川容子の夫で、二人の子供がいる。美しい叔母を昔から慕っていた。女性の心理に疎い面があるものの、姿を消した叔母を心配し、行方を探し当てる。
安井
エピソード「距離のない行進」に登場する。通産省参事官を務めている男性。今春官庁を退官し、城南大学経済学部の教授をするかたわら、経済評論家として活動する予定。幼少の頃、自分の家のお手伝いをしていた中村サダと、サダの恋人だった松吉が大好きで、サダが別の男性と結婚した事に疑問を持っていた。サダを自分の息子の結婚式に招待するが、彼女が既に他界している事を知る。サダには「ぼっちゃん」と呼ばれていた。
三原 千恵
エピソード「庭」に登場する。美しく若い女性。小学生だった江崎徹の向かいの家に母親と暮らしていた。丸の内のOLをしており、会社が終わるとまっすぐ帰り、好きな花に水をやっていた。徹にとっては都会の象徴であこがれの存在だった。お似合いだとみんなからいわれていたインテリの江崎広一ではなく、土木作業員だった江崎英二と結婚した。
大川 容子
エピソード「紅い花」に登場する。宏平の妻。二人の子供がいる。不美人同士という訳ではないが、宏平の母親と仲がよく、宏平の母親の妹である叔母の実情を聞かされていた。
叔母
エピソード「紅い花」に登場する。宏平の叔母。姉である宏平の母親と違い、器量よしで、裕福な家に嫁ぎ、何不自由ない生活を送っているかのように見えていた。しかし、夫に隠れて若い男としょっちゅう浮気し、夫に言えないお金を宏平の母親に用立ててもらっていた。北海道十勝岳の噴火の前日に夫から離縁を言い渡されたのち、華道師範をしながら28年間アパートで一人暮らしをしていたが、宏平をアパートに招いたあとに姿を消した。
石川 君子
エピソード「春の惑い」に登場する。ホステスの女性。息子の良夫を託児所「花咲ベビールーム」に長期滞在児として預けっぱなしにしていながら、良夫が亡くなると裁判を起こした身勝手な人物。
よし
エピソード「渇き」に登場する。2000人ほどの信者を持つ宗教団体の教祖の女性。宗介の母親。信者からは「よし様」と呼ばれている。いくつかの偶然が重なり、自分の持つ力が人を治療したと思い込み、自分が神がかった人間だと錯覚していった。月に1度訪ねて来る丸眼鏡の男性により、教団は大きく成長した。しかし臨終間際に、田村六介への思いをあらわにして亡くなった。
京太
エピソード「陽気な仮面」に登場する。3年間浪人して有名私立大学に入学した男性。伝言ダイヤルにハマってしまい、その陽気なネットワークから抜け出せなくなり、母親が渡してくれたカードで2000万円もの金を使いこんでしまう。
女教師の父
エピソード「大人」に登場する。女教師の父親。理科の教師をしている。髪の毛が多く、眉毛が太い屈強な男性。自分の性に気づき、その誇りに目覚めて初めて大人になれると、グレていた女教師を涙ながらに本気で殴り、更生させた過去がある。その際、かげろうの命はたった3時間だと娘に教えた。
平原
エピソード「弁当」に登場する。単身で5年間の東南アジア駐在員の仕事を終えて帰国した男性。上司だった小山博を慕っていた。妻と二人の子供がいる。帰国してから何もかもが変わってしまった事に驚く。自分に豪華な特製弁当の味を教えてくれた誠実な小山に共感を抱いていた。
サンタクロース
エピソード「ツリー」に登場する。主任が勤める会社のビルの中庭にあるツリーの下のベンチに座っている老人。サンタクロースの服装と、普通の服装をしている時があり、無意識に自殺しようとしていた主任に声を掛け、自殺を回避させた。ベンチに座った人間に対して悩みの核心をつくような助言をする。
天野
エピソード「あきらめ」に登場する。作曲家の若い男性。存在感を主張するものを嫌っており、物事に達観しているところがある。自分の音楽の才能を過大評価しているむきがあり、才能も技術も谷矢より自分が数段上だと確信している。三崎を自分と同じ種類の人間だと判断し、彼の笑顔の正体は、人を軽蔑しながらそれを悟られずに生きていく業だと思い込んでいる。
美雪
エピソード「路地」に登場する。16歳から6年間、花街で芸者をしている女性。自分のパトロンの社長に仕える秘書の中岡と恋に落ちる。卑屈で貧しく、いつかそこから抜け出そうとしている自分と似た目を持つ中岡と深い仲になるが、社長が二人の関係を掌握したうえで、楽しんでいる事も知っていた。源治名は「美代菊」。
宝探しをする男
エピソード「水の中」に登場する。エリートサラリーマンの男性。リッチな生活を送っている。既婚者で、幼稚園に通う子供がいる。自分に行き詰まりを感じ、川に潜って宝探しをしている時に何かを変えたい女と出会い、恋愛関係になった。
ジムの会長
エピソード「傷」に登場する。ボクシングジムの会長を務める男性。野口明にジムを継がそうと思っている。明の明の母に対してのわだかまりをよく知る人物。中学卒業と同時に明を預かっていたため、明が本当の母親の気持ちを理解していない事も知っており、母親が今まで彼をずっと気にかけていた事実を明に伝える。
直枝
エピソード「隙間」に登場する。使用人を従えるほどの大金持ちとなった女性。10年前、次長と不倫関係にあった部下で、生まれつき不幸がしみついている女性だと思われていた。次長と百貨店の大食堂で背中合わせに座り、夫が「トヨサン自動車」の大株主という話を使用人にするのだが、次長に気づいているか否かは、定かでない。
下河地 恵介
エピソード「谷口五郎の退官」に登場する。死刑囚の赤岸源助に手紙を送る、ただ一人の男性。年齢は63歳。上品な老紳士で、源助の縁戚にあたり、彼の娘のかほるを引き取った。かつては町長も務めた地元の名士で、現在は民宿を営んでいる。
大林
エピソード「穴」に登場する。商社で課長を務めている男性。責任者を任されていた課がほかの課と統合され、平社員に戻ってくれと会社から言われる。それを拒否したため、企業戦士の姥捨て山と呼ばれる「あけぼの研修所」に送り込まれた。大学生になる息子から、お父さんの人生はまるでゴキブリだと言われて傷ついている。
32歳の女性
エピソード「過去を持つ愛情」に登場する。落ち着いた雰囲気を漂わせた独身OL。年齢は32歳。電車で前に座った男性が、トンネルを出た時に消えてしまった事実を受け入れられず、その時の男性を探してほしいと私立探偵の松本源助に依頼した。まじめな性格で、婚期が遅れたが、小さい頃に亡くなった父親に似ているその男性に恋をしている。
瑛子
エピソード「海からの手紙」に登場する。貧しかった江藤、君塚、吉田とアパートでいっしょに暮らし、彼らの生活を助け、彼らのいいなりになっていた女性。特に江藤をお兄ちゃんと呼び慕っていた。無垢で疑う事を知らない性格で、最終的にはキャバレーやソープランドで働き、彼らの生活を支えていた。江藤達が出て行ったあとも同じアパートに住み、江藤らとのあいだにできた男の子を育てていた事が、のちに判明する。
班長
エピソード「廃線」に登場する。製鉄所で働いていた男性。国立大学を首席で卒業し、その後大手の銀行に就職したが、組合活動に熱中し、最後には仲間に裏切られてしまう。製鉄所には、過去を隠して高卒の経歴で就職した。夜学に通う菊田が勉強を続けられるよう面倒を見た恩人でもある。製鉄所を辞めたあとに始めた商売が順調に伸び、そのせいで人間が変わってしまう。その後保険金目当ての殺人を犯し、拳銃を所持して逃走。
米川 次郎
エピソード「小さな鳥」に登場する。米川家の次男。米川才一の弟で、米川三夫の兄。長兄の才一と異なり大雑把な性格で、いつも長兄とケンカしていた。大学を卒業して商社に入り、まるで水を得た魚のように出世していった。その後独立して自分の商社を設立し、家族とヨーロッパに移り住んだ。しかし離婚を経て生活は荒れ果て、会社も倒産する。
冴木 治美
エピソード「掌の影」に登場する。有限会社「冴木金融」の社長を務めている女性。16歳の時、父親の借金の肩代わりに無理やり冴木のもとに連れて来られ、金融の知識を社員の塚本に叩き込まれた。時には、塚本の目の前で冴木から凌辱されるような生活を強いられていたため、冴木を憎んでいた。順一という子供が生まれたが愛情を感じなかったため、冴木の死後、施設に預けたという過去がある。
南条 太 (なんじょう ふとし)
エピソード「その時から」に登場する。南条浩一の叔父。世界中を相手に事業を展開させている南条一族のホープだった男性。情熱的で厳しい性格で、世界経済に対する洞察力や動向予測に長けている。しかし10年前にアフリカに行って以降、千葉での隠遁生活を送るようになり、たびたびキトクという電報で浩一を呼び寄せている。
健太
エピソード「挽歌」に登場する。トラック運転手の独身男性。黒の相棒。ガソリンスタンドを持つという夢を持っているため、黒とは違って他人の事には目もくれずに仕事に励んでいる。黒のお節介をいつも注意しているが、いざ黒がお節介を焼かないようになると物足りなさを感じてしまう。
矢崎
エピソード「玩具の車輪」に登場する。ヤクザの男性。片田良夫と君原とは高校時代からの親友。左眼元に大きなホクロがある。高校時代は精神力と体力、頭脳も一番だった人物で、パイロットになるのが夢だった。高校を卒業し警察学校に入った片田の影響もあり、航空学校へ入ったが、教官にパイロットになる適性がないと言われ、空港従業員となった。しかし、パイロットになる事にさほど執着していなかった君原と残酷な再会をしたせいで、会社を辞めてヤクザとなった。
鶴橋
エピソード「初雪25時」「家族」に登場する。新宿ゴールデン街に「鶴橋法律事務所」を構える人情派の男性弁護士。恩師の大川教授の娘、大川京子と付き合っており、のちに結婚した。アメリカ留学で訴訟だらけの管理社会に疑問を持ち、助教授の座をフイにしてしまい、ゴールデン街で事務所を開くに至った。ゴールデン街の小汚い街と小汚い連中を愛している。法律は人間が人間を尊重し合い、愛し合って生きるためにある、というのがモットー。
赤瀬 金一
エピソード「草原」に登場する。豪邸に住む男性。隆が運送の仕事で、その邸に家具を運び入れた。隆の因縁の相手で、当時は売り出し中の教育評論家だった。溜造が身寄りのない子供達を世話する小屋を、あたかも自分が私財を投げ打って経営してるかのようにテレビで流し、集まった寄付金を横領していた。
厚
エピソード「履歴書」に登場する。幸樹の息子。田舎町で真理絵というスナックを経営する女性と再婚したが、同居はしていない。娘と息子を引き取って育てており、真理絵の店のために父親に金を無心した。
梅原 スギ
エピソード「火の空」に登場する。高齢の女性。東北出身で、16歳で売られた時に女部屋のオヤジに胸をつかまれて名前を聞かれ、相手に「スギ」と聞きとられた事から、そう呼ばれるようになった。戸籍の名前は「シゲ」。人生あきらめたりすると一生つきまとわれるものがあると、息子を置いて逃げようとしているお嬢さんを諭した。お嬢さん宅で40代の頃からお手伝いをしていたと思しき人物で、その正体は神様。
小山 あけみ
エピソード「顔のない群れ」に登場する。ノブと同じキャバレーで働いていた女性。悲惨な育ち方をしており、同じ匂いがするノブに、彼女が保険に入る際の名義を貸した。酔っ払いで乱暴な男と結婚しており、18歳の血のつながらない息子がいる。幸せからかけ離れた暮らしをしているが、初めて持った家族を手放したくない思いが強い。
若林
エピソード「砂時計」に登場する。フリーカメラマンの男性。弓子と組んでビニ本の撮影をしている。実は山岳写真が専門で、8年以上ある巨匠のもとで仕事をしていた。砂時計を仕事場においており、ひっくり返せば自分の本当の時間が流れると自己暗示をかけている。この仕事から足を洗って結婚しようと弓子にプロポースした矢先、ヤクザに襲われた弓子を助け、傷害罪で捕まってしまう。
菊地
エピソード「万引き」に登場する。サラリーマンの男の親友だった男性。中学生の頃から頭脳明晰で、自分を見失わずに生きて来たが、数年前、自分が有利と疑わなかった部長昇進競争に負けた事が引き金となり、スーパーで手帳を万引きした。その事実をサラリーマンの男に話した2週間後に自殺した。
月丘 さゆり
エピソード「砂の絵」に登場する。「過去を消す仕事」をしている女性。政財界の人間とのパイプがあってこそ成立する仕事であり、パーティでは、顔を売るため営業活動に励んでいる。好きな男性に対しては、憎まれ口や冗談ばかり言ってしまう性格で、白鳥英悟に好意を寄せているが、彼と元妻との仲を後押ししてしまう。
田村 六介
エピソード「渇き」に登場する。40年程前によしの家で下働きをしていた男性。よしが今際のきわに名前を呼んだ人物。よしと男女の関係があったと思われ、宗介の父親の可能性が高い。よしの葬儀に出席した半年後、横浜のアパートで孤独死する。
小村 京助
エピソード「回送車」に登場する。小学生の男の子。母子家庭で育ち、虚言癖がある。誘拐されたとの手紙を残した事から、バス運転手の白石良平が警察にマークされてしまう。亡くなった父親に逗子海岸に連れて行ってもらった事が一番の思い出であった。良平といっしょに過ごすうちに、徐々に素直な心を取り戻す。
葉子の父
エピソード「行方」に登場する。若林葉子の父親。葉子の兄の家で暮らしていた。兄の息子の良夫が就職浪人で帰って来るため、しばらく葉子の家に滞在する事になる。昔は家に金を入れず、女遊びもひどかったが、そんな自分を棚に上げ、行儀の悪い近所の子供に注意するため、葉子に近所からクレームが入る。
内藤
エピソード「冬の遊園地」に登場する。殺し屋の男性。細身で口が大きく、鋭い目つきをしている。人間のクズだったと自認しているが、息子の事だけは大事に思っている。男だけは捨てたくないと、暴力団「本州組」の裏事情を暴露しないまま、ガン宣告を受けて闘病中に逃亡する。
黒
エピソード「挽歌」に登場する。トラック運転手の独身男性。健太の相棒。人一倍おせっかいな性格であり、困っている人を放っておけない。そのため、健太に借金ばかりしている。行き場のない人妻を自分の家に1か月滞在させている。健太には「黒ちゃん」と呼ばれている
ゆかり
エピソード「相づち」に登場する。多感な女子中学生。竜一の娘。父親の浮気で母親が家を出て行った家庭内でも平気を装っている。病気になった母親が、父方の祖母の家で世話になっており、父親と祖母の家をよく訪ねているが、母親には会わないようにしている。現実というものをこの歳で知っている孤独な少女。
安西 泰雄
エピソード「老木の舞」に登場する。能の安西流宗家の男性。妻には先立たれている。かわいがっていた内弟子の吉岡洋子が殺害され、犯人が弟子の中にいるのではないかと疑って、私立探偵の松本源助に犯人探しを依頼した。人格者で、国の重要無形文化財の技術保持者に指定されている大物。
慶子
エピソード「薄彩(うすだみ)」に登場する。祖父の建てた「岩倉ホテル」の経営者だった女性。綾子の姉。お嬢様気質でプライドが高い美人。敬愛する兄を亡くしてから、何かにつけ家に出入りする小宮英太を侮辱するようになる。だがホテルが人手に渡る寸前、社長を解任され、消息が途絶えた。実は経営者時代、小宮の姿が兄と重なるようになり、小宮を愛し始めた事を酒の勢いを借りて、綾子に告白していた。
若林 葉子
エピソード「行方」に登場する。「東西信用金庫」で主任を務める女性。13年勤めた職場はすべてオンライン化され、居づらさを感じている。嫌いだった葉子の父を兄に押しつけられ、一時的にいっしょに暮らす事になる。5年間付き合っている彼氏にプロポーズされているが、父親に我慢している母親の姿が瞼の裏に焼き付いており、なかなか結婚に踏み切れないでいる。
河合
エピソード「恩讐」に登場する。三上英夫の勤める銀行で係長を務める男性。年齢は33歳。押しつけがましく、蛇のように執念深い性格で、弱い者いじめが大好き。上役にはへつらい、部下には帰り間際に仕事を頼み込み、自分の残業代を稼いでいる。吉崎朝美に好意を持っており、三上と付き合っていると知って、三上を北海道に左遷した。その後、朝美と結婚するが、生まれた子供がB型だったため離婚した。自身の血液型はA型。
三崎
エピソード「なれの果て」に登場する。外交官の男性。外務省に入り、発展途上国での任務に就いている。家族で滞在しているが、自分の昇進の事だけを考えている利己的な性格。学生時代、好き勝手に生きていた根岸博を羨ましく思っていた反面、彼が堕ちていく事を願っていた。当時自分に興味を持っていた女性と根岸が結婚し、今でも幸せそうに笑い合っている様を見て、身の置き所のない羞恥に駆られる。
前川 清
エピソード「ガラス紙」に登場する。肺の病気で工場を辞めた男性。自宅療養をしていたが亡くなった。意地の悪い姉に屋根裏で寝かされ、ひどい扱いを受けていた。前川純一の歳の離れた兄で、ガラス紙で精密機械の部品を研磨する仕事をしていたが、その粉塵で肺をやられてしまう。しかし死因は服毒死だったという事で、姉の策略により、木下悦子が逮捕される。
黒崎 武
エピソード「写真」に登場する。テレビ局で働く男性。既婚者で、英太という息子がいる。粗野で、金を渡す事だけが愛情表現だとしていた父親の黒崎を嫌い、将来は作業現場で働いていた父親と異なり、知的な仕事に就きたいと思っていた。拾って来た猫を父親が捨てた事から、父親をより一層嫌うようになったが、父親が仕事場で墜落死した際に自分の写真をポケットに入れて働いていた事を知り、深い後悔の念を抱くようになる。
テル子
エピソード「売り娘」に登場する。建築学を学ぶ夜学生だった女性。若手建築家の吉川秀一の母親。当時、山田文博と同棲しながら、ヤミ部品の売り娘をしていた。東京の街に想像の建物を建て、文博と熱心に夢を語り合っていた。しかし、働くのが嫌になった文博にバーで働かされ、卒業と同時に捨てられた。秀一を育てながら、当時文博と語り合った想像の建物の話を聞かせていた。
奥田
エピソード「二人の場所」に登場する。「老月会館」の支配人の男性。老月流家元の愛人、奥田秋子の息子。幼少期に、秋子に老月流家元の家に預けられ、つねに居場所のはっきりしていない自分の生き方に苛立ちを抱えている。二人の場所を浮浪者と蔑み、反感を抱いていたが、ある日、この夫婦と話したいという衝動に駆られる。
由紀
エピソード「一枚の絵」に登場する。朝川の幼なじみの女性。経済的に困っていた朝川を自分の通うK大学の演劇部に参加させ、以降も彼を献身的に支えた。しかし朝川に捨てられ、自殺する。
人妻
エピソード「挽歌」に登場する。黒の家に1か月滞在している人妻の若い女性。子供の頃から結婚相手を決められているような裕福な家に育った。結婚後の生活も人妻にとっては地獄のようで、黒に助けられて生まれ変わった事で、ここに置いてほしいと懇願する。黒に好意を抱いている。
高齢のタクシー運転手
エピソード「砂上の設計」に登場する。橘健吾を那智勝浦まで乗せたタクシー運転手の男性。7年前はバスの運転手をしており、バスを運転する最後の日に、写真を忘れた健吾の顔を覚えていた。そのため、発覚を恐れた健吾に殺害されてしまう。
下村 ゆう子
エピソード「…の後」に登場する。丸丘清がよく使っていた旅館に住み込みで働いていた女性。よく気がつき、物静かで、どこか芯が強そうな性格をしている。丸丘と深い関係になったが、半年後、彼の前から姿を消した。
藤田
エピソード「回送車」に登場する。白石良平と同じバス会社に勤める男性。良平の娘の春との結婚を控えている。ストライキを指揮する支部長であり、腕っぷしが強く、ストライキを邪魔しに来たヤクザ風の男達をボコボコにしてしまう。
久美
エピソード「動機」「朽ちかけた斜塔」に登場する。出版社に勤める雑誌記者の若い女性。雑誌の密着取材で片田良夫と行動を共にする事になる。現代において「社会的評価」を得る事が一番重要だと片田に説いた事がきっかけとなり、片田が犯人像に近づく事になる。片田の事件解決に対する熱意に徐々に惹かれていき、のちに片田と恋人関係になる。しかし、政・財・官界に暗躍する闇資金の実体を追っている際、殺害されたうえ、麻薬常習者で暴力団員の情婦だったという濡れ衣を着せられてしまう。本名が「渡辺久美」である事がエピソード「朽ちかけた斜塔」で明らかとなる。
小松 一平
エピソード「穴」に登場する。弱電関係の会社の財務課長を務める関西弁の男性。英語を話せないにもかかわらず会社から海外出張を命じられ、拒否した事から、企業戦士の姥捨て山と呼ばれる「あけぼの研修所」に送り込まれた。よく研修所を抜け出し遊びに行っているやんちゃな性格で、まじめな石田光彦とはいつもケンカになっている。
青地 宵子
エピソード「分水嶺」に登場する。バー「人来夢」のママを務める女性。内縁の夫、大崎宏を殺害して逮捕された。田舎から出て来た17歳の時に、無理やり大崎の女にされ、彼が出資した店で働くようになる。大崎からは10年ものあいだ、日常的に暴力を振るわれていた。そんな中、優しくしてくれた昭の、大崎さえいなければいっしょになれる、との言葉を信じてしまう。
塚本
エピソード「掌の影」に登場する。冴木治美が経営する有限会社「冴木金融」の男性社員。治美の腹心の部下で、以前は冴木に仕えていた。治美に金融の知識を教え、塚本に酷い扱いを受けていた治美を支え、寄り添って来た。治美だけではなく冴木にも忠誠心を持っていたが、治美が冴木に薬を渡さなかった事に関しては、見て見ぬふりをしていた。
田辺 順一
エピソード「送り火」に登場する。京都の料亭「田辺」の跡継ぎだった男性。小太りで眼鏡をかけている。大学時代、親友の伊藤が自分の恋人の田辺松代と惹かれ合っている事に感づいていた。その後、卒業して強引に松代と結婚するが、ほどなく義母が仕組んだすべての裏事情を知り、清水の舞台から身を投げて亡くなった。
藤井
エピソード「映画館」に登場する。名脇役といわれた高齢男性。楽しい事は映画しかないといった時代の映画俳優だった事もあり、日常生活では人への接し方がわからない役者馬鹿なところがある。息子が殺人事件を起こしたが、困った事になったというだけの浮世離れした態度を見て、妻の和子に別れを切り出された。それからは毎日映画館に通い、接見日には息子に映画の話をするようになった。しかし役者の仕事がなくなり、生活に貧するようになったので、映画の作り話を息子に聞かせるようになる。
津々井 やす子
エピソード「微笑」に登場する。津々井太の妻。4歳の息子、しげるの母親。念願のマイホームに居座るサチに戸惑いを隠せない。夫の転勤が決まり、サチの面倒を見たくないとキレるものの、最終的には息子も懐いているサチを受け入れる事を決意する優しい性格。
節
エピソード「海の時間」に登場する。海沿いにある旅館「大黒ホテル」で仲居として働く女性。東京の工場で働きながら定時制高校に通っていた頃、教師だった外村に恋をしており、体の関係もあった。しかし、彼がほかの女性と付き合っている事を知り、失意のまま東京を飛び出し、大黒ホテルで働くようになった。ホテルに客としてやって来た外村と10年ぶりに再会し、正体を明かさずに体の関係を持った。
透
エピソード「冬の避暑地」に登場する。紀子の夫。美樹の父親。チェリストの義理の息子。短髪で口ひげをたくわえている男性。バイオリニストだったが、たった1回のリサイタルを酷評されただけで、バイオリンを弾かなくなり、酒浸りになった。
宗介の母
エピソード「丘」に登場する。岡田宗介の母親。夫が兵隊になり、その留守のあいだに、町内会の会長である国防服の男性と丘で密会していた。B29が通過した際、宗介が間男を落とそうと掘った穴に落ちて亡くなってしまう。
看護師
エピソード「遠い唸り」に登場する。「梅田診療所」の看護師の女性。おせっかいな性格で、口うるさいが、佐田の世話を焼かずにはいられない気のいい人物。佐田にはこの診療所にずっと残ってほしいと思っている。
天野 ゆりか
エピソード「…一里塚」に登場する。オリンピックでの女性メダリスト。佐渡出身で、離婚で人生につまづき、最終的には場末のクラブで働くようになり、犯罪者となった。子供を放ったらかしにして殺したうえに情事の相手を刺し殺し、刑事の片田良夫と服部に追われている。
根岸 博
エピソード「なれの果て」に登場する。発展途上国で現地コーディネーターとして活躍している男性。学生時代から自由奔放で、当時、外交官を目指す三崎に興味を持っていた女性となかよくなり、結婚した。コーディネーターとしての腕は秀逸で、雑誌記者に経済援助活動をつつかれてピンチに陥った三崎を助けた。先の事を考えず、今を楽しんで生きるタイプ。
藤田
エピソード「殻の中」に登場する。少しぽっちゃりした中年女性。町内会から派遣されて老人の世話をしている。頑固で自分の殻に閉じこもっている富岡卓に干渉するお節介な性格で、気は優しい。若い頃、寝たきりの母親を介護していたため、婚期を逃しており独身。
服部
エピソード「…一里塚」に登場する。片田良夫刑事とコンビを組んでいる後輩刑事の男性。片田の捜査のやり方に不満を抱いており、彼のあまりのマイペースさに辟易している。しかし、次第に彼の人となりや捜査方法を理解していく。歴史に詳しい。
次郎
エピソード「弟」に登場する。薫の兄。工場に勤めている男性。工場の食堂で働いていたアキと結婚した。エリートばかりの家族の中では異色の存在で、薫が学生時代に恋人に生ませた子供の幸夫を勝手に自分の弟として戸籍に入れ、引き取って育てた器の大きな人物。陽気な性格で、よく「クックック」と笑う。
一条
エピソード「猛女」に登場する。一条豊の父親。一条きぬの夫。ハンサムで家系もよく金持ちで、きぬといっしょになった時は500人以上の従業員を使って工場を経営していた。19歳の時にきぬに一目惚れして結婚。きぬが亡くなってからは、たまに豊に連絡を寄越し、酒を飲む間柄だった。亡くなった時に渡された豊あての手紙には、きぬと自分のなれそめや、豊がきぬの実子でない事などが記されていた。
中村 サダ
エピソード「距離のない行進」に登場する。安井の家で5年間お手伝いとして暮らした女性。松吉という男性に思いを寄せていたが、別の男性と結婚してしまう。安井には好きな人と結婚できるような世の中を作ってもらいたいとお願いし、安井家を去って行った。すぐに夫を戦争で亡くし、晩年は一人でアパート暮らしをしており、5年前に他界した。死んだ際、松吉からの、結婚して幸せに暮らしているとのハガキを懐に忍ばせていた。
渋川
エピソード「輝きの中で」に登場する。合同通信の記者を務めている男性。15年前、連続婦女暴行事件の犯人が逮捕されるというスクープ記事をものにした。だが、その事件の担当だった下沢徳一郎検事が検察庁を辞めて弁護士となり、連続婦女暴行殺人事件の犯人、関岡を弁護すると知り、下沢の信念に感化されていく。それと同時に、サラリーマンとしては出世に縁がなくなってしまう。
黒崎
エピソード「写真」に登場する。黒崎武の父親。作業現場で働いていた男性。たまに家に早く帰って来ると、酒を飲んでいた粗野で無骨な人物。息子への愛情表現が金を渡す事だった。幼い頃に武が拾って来た猫を、うるさくて眠れないからと捨ててしまうが、それは何よりも睡眠が大事な重労働をしていたがためであった。作業現場で墜落死した際、作業服のポケットに息子の写真を入れていた子煩悩な一面があった。
ももえ
エピソード「赤い雨」に登場する。水商売をしていた女性。年齢は17歳。汚い安アパートの一室で、衰弱しているところを借金の取り立て屋に発見された。2年前のゴールデンウィークに大阪から遊びに来て、そのまま居つき、クラブでは「ももえ」という偽名を使い、年齢を偽って働いていた。詐欺師の石田に騙され、借金を背負わされて大阪に帰る事もできなくなっていた。
OLの女性
エピソード「落し物」に登場する。会社の人間関係にストレスを抱えるOLの女性。駅で失禁し、茫然自失となっていた高橋洋一を警察に連れて行った際、職場の上司と電話口で口論となり、以降は過剰なほど自己主張するようになる。
近江
エピソード「午前十時の香り」に登場する。「近江商事」の社長を務める男性。貿易の仕事で得た資金で為替や株を運用し、資産をふくらませていた。葉巻をくゆらせたダンディーな人物で、17歳の西田の面倒を見て、自分の後継者として育て上げた。異常なナルシシズムの持ち主で、5年前に飛行機事故で死亡する。
山口
エピソード「朽ちかけた斜塔」に登場する。久美の同僚の雑誌記者の男性。ジャーナリストとして、民主国家の下僕(しもべ)としての誇りを持って仕事をしている。久美の死因究明も含め、彼女の最後の仕事を引き継いだ。
君原
エピソード「玩具の車輪」に登場する。パイロットの男性。片田良夫と矢崎とは、高校時代からの親友。約6年間、矢崎と航空学校と航空会社の訓練所に通っていた。自分より優秀だった矢崎がパイロットの適性がないと教官に判断され、自分の初フライトを終えた時に、航空機誘導員をしていた矢崎と残酷な再会をしてしまう。矢崎の行く末を誰よりも案じている。
下村 明夫
エピソード「操車場」に登場する。地元で英語教師をしている独身男性。少年の頃から操車場がある町で育ち、陽が昇って光の中に浮き上がって行く操車場の光景に感動を覚え、この町を離れる事ができなかった。学生時代、同じクラスの江上美津子と淡い恋愛関係にあった。
商社マン
エピソード「今頃」に登場する。一流商社の人事部に勤めている男性。海外赴任の経験もあり、それが原因かは定かではないが、離婚した。水上バスを運転する並木が、美味そうに弁当を食べる姿を隅田川の橋の上からいつも眺めていた。その姿を見て、無理をしないで生きていくのが一番幸せだと気づく。妻との復縁をずっと悩んでいたが、並木と交流するうちに、気持ちが固まっていく。
凉子
エピソード「あこがれ」に登場する。証券取引所で働く独身のキャリアウーマン。ダヅ子の娘で、父親は半年前に亡くなった。病弱だが優雅だった叔母と同居しており、美しかった叔母にあこがれを抱いていた。一方、身ぎれいにせず、お手伝いさんといっしょに真っ黒になって掃除する母親を見て、当時は母親をあまり頭がいい人ではないと思っていた。
江崎 徹
エピソード「庭」に登場する。大手銀行に就職した男性。昔は工場の町だった田舎のあか抜けない町に、両親と兄弟三人で暮らしていた。長兄の江崎広一と次兄の江崎英二の弟。小学生の頃、まだ見ぬ都会の象徴として、向いに住んでいる美しい女性の三原千恵をあこがれの眼差しで見ていた。
村上 優子
エピソード「白い返事(メッセージ)」に登場する。女性服役囚。年齢は31歳。出所日が近くなり、急に服役態度が悪くなった。美人で一流大学を卒業後、一流商社に入社して、同じ会社のエリート社員と結婚した。夫が海外赴任時にふとしたきっかけで知り合った男性と関係を持ち、その男性の勤める銀行の横領事件の幇助で逮捕された。夫と子供と生活基盤を失ったが、服役中、もう一度家族とやり直したいという思いを強くする。
幸子
エピソード「よどみ川」に登場する。東京の女子大学を卒業して、大手の広告代理店に勤務する女性。不倫関係だった上司と別れ、帰郷。同じ高校だった男性の伝で市役所に就職し、観光課のチーフに抜擢される。東京と男に対する執着が強く、男を見返してやろうとパンフレットを作るが、大失敗してしまう。
可南子
エピソード「時間割り」に登場する。小学校の教師をしている女性。1年前から仕事に行き詰まり、気分転換を兼ねて売れっ子脚本家の父親のいとこ、水田を訪ねた。神経質な性格であり、水田の事を人に迷惑をかけるのをなんとも思わない人間と思っていたが、この訪問で水田との距離を縮めていく。
妻
エピソード「二十年目のトンボ」に登場する。定年退職した男性の妻。どことなくおかしみのある夫とは妙に呼吸が合う。20年前に息子を失い、それ以降、言動が両極に揺れるようになった夫につねに逆らい、同意する事なく過ごしている。定年間近になった夫を気遣い、別荘での暮らしを提案する。
森脇 透
エピソード「腐敗」「雪の革命」「遅れた休日」に登場する。東大を主席で卒業した優秀な検察官の男性。既婚者で、三人の子持ち。圧力に屈しない頑強な性格で、気になった事案は自分で捜査しないと気が済まない。幼い頃、母親がほかの男性と心中した過去があり、以降地元の名士の太川源治に育てられ、源治を本当の親として慕っている。心中した戸田信子が事務服を着ていた事から他殺の可能性が高いと判断し、捜査に乗り出す。
はじめ
エピソード「流された記憶」に登場する。医者として自分が育った僻地の深谷村に毎月診療に来ている男性。はじめの父が酒浸りだったため、学校に行かせてもらえず、林業の仕事を無理やりやらされていた。自分を迎えに来た佐藤純子を父親が乱暴した事から、自分が斧で父親を殺害したと思い込んで成長した。
下沢 徳一郎
エピソード「輝きの中で」に登場する。弁護士の男性。自分が検事として担当した連続暴行殺人事件の犯人とされていた関岡が無実であると考えており、弁護士に転向。その後、関岡の弁護を買って出た、信念に満ちあふれている人物。生き方は他人と比べるものではなく、信念を持って生きればその人間の一生は輝いているとの考えの持ち主。一つ一つの小さな花が輝きを持ち、大きな美しい花に見える紫陽花を愛していた。
宮田
エピソード「幕」に登場する。小説家の男性。30年近く役者の代々木天心にとりつかれ、生涯で2度も弟子入りを断られているが、彼を人生の師と慕っている。1度目は中学卒業を控えた春で、母親が父親の暴力に耐えかねて失踪した時。以降は、暴力に明け暮れるようになる。2度目は、失踪した母親に男がいたとの疑いを抱き、父親が亡くなり、母親の死を知らされた大学生の時。天心に自分の書いたモノを見せたが、酷評され、自分のために書いた文章を人様に見せるのは失礼だと諭された。
裕子の父
エピソード「坂」に登場する。テレビ局の制作の仕事をしていた男性。裕子の父親。ハンサムだが女性にだらしなく、妻が亡くなって3か月も経つと、ほかの女性と暮らし始めた。現在はしょぼくれた老人となり、自分と暮らす女性の病気の治療費を裕子に借りに来ている。
みどり
エピソード「初雪25時」に登場する。鶴橋が行きつけの喫茶店「カップル」で働く女性。年齢は16歳。彼がバイク事故で亡くなり、籍も入れていなかった事から、子供を恋人の親に取られてしまう。法律的には夫婦でなくとも、これからも夫婦として暮らし、子供は自分が育てたいと鶴橋に相談する。24時間仕事があるこの街で、25時に幸福になろうと夫婦で語り合っていた。
お嬢さん
エピソード「火の空」に登場する。既婚の美しい女性。息子を持つ。40代だった梅原スギがお手伝いとして住んでいたとおぼしき家の娘。夫に暴力を振るわれており、息子を置いてほかの男性と逃げようとしていた。
藤井 栄一
エピソード「映画館」に登場する。藤井の息子。大学生だった12年前、新宿のラブホテルで恋人といっしょにいた男を刺し、殺人罪で12年間刑務所に入っていた。幼い頃から遊んでもらった記憶のない父親の事がなぜか大好きだった。父親に内緒で、別れた母親に家に戻ってもらおうと、秘かに母親に連絡を取っていた。
タクシー運転手
エピソード「空白の走行」に登場する。タクシー運転手の男性。口ひげをたくわえ、渋い容姿をしている。客には自分なりのサービスを心掛けており、売り上げはいい。一流商社「四井商事」に入社したが、研修中に戸川啓一が起こした交通事故の犯人の身代りにされてしまう。小学校時代からの友人、安田にも裏切られるが、その後タクシー運転手として生活を送っている。のちに、戸川をタクシーに乗せた事から、愛人を殺した容疑がかかっている戸川の無実を証明できるのが、自分一人という状況になる。
少年
エピソード「南」に登場する。吉村昭也の会社で本部長を務める男性。北国で空腹と寒さで朦朧としているところを実業家の昭也に拾われて、暖かい生活をあてがわれ、十数年間がむしゃらに働いて来た。飲んだくれの父親と、癇癪持ちで家出した母親がいたが、消息は不明。
詩人
エピソード「堕ちる」に登場する。タクシー運転手をしている男性。生まれてからずっと不幸続きであった事から、石川啄木に傾倒している。ホステスの節子と同棲していたが、捨てられそうになり、彼女を刺してしまう。精神を病んでいるようで、啄木が故郷を離れて漂泊の旅に出た北海道で、悲しい詩を残すのが自分の使命だと思い込み、誘拐した子供と共に北海道へ向かう。
修
エピソード「天国の午後」に登場する。歩行者天国にいる若い男性。リーゼント頭で黒いサングラスをかけている。毎週、歩行者天国を訪れる不満気なサラリーマンに興味を持ち、交流を深めていく。サラリーマンの元妻と付き合っており、毎週お手当てをもらっている。ちなみにサラリーマンとサラリーマンの元妻が、夫婦だったという事はまったく知らない。
松川 とよ
エピソード「餓鬼」に登場する。赤坂の料亭で女将を務める女性。年齢は65歳。右アゴにほくろがある。40年前、中国の広州に息子二人を置いて来た過去があり、広州に料亭を出すべく、尾崎を伴って視察に行く事になる。もともとは日本から中国に売られて来た女性。身ごもった子供を産みたいがために、娼婦宿から抜け出し、中国でイギリス軍中尉のマイケル・ルイスの愛人となった。だが、彼が戦死してから筆舌に尽くしがたい苦労をしたため、子供達を置いていく方が彼らが生き延びる可能性が高いと判断し、泣く泣く日本に引き揚げた。以降は料理屋の仲居として死にもの狂いで働いた。のちに料理人の尾崎と開いた小料理屋が成功し、料亭を開くまで上りつめ、「赤坂の怪物」と呼ばれるほどの資産を成した。中国に置いて来た子供の名前は「真一」と「京二」。
梨子の母
エピソード「土曜日の花火」に登場する。梨子の母親。貧しい時代に豊かな家庭で育った女性で、夫が事業に失敗。貧しい生活を送るうち、精神に異常をきたすようになり、土曜日になると線香花火を止めようとしなくなった。
勉の母
エピソード「風船」に登場する。勉の父の妻。勉の母親。8年前に結婚したが、モーレツ社員だった夫が仕事でつまづいて自殺未遂して以降、精神を病んでしまう。スーパーのパートで働き、夫の面倒を見ているが、生きている充実感を感じている。精神的にもタフな女性で、家族で暮らしてさえいれば、生活はなんとかなると思っている。
前野 純一
エピソード「雨宿り」に登場する。関西支社に転勤する事になった会社員の男性。関口みわの同僚。みわに好意を持っており、みわの父親にも会い、結婚も考えていた。明るく話し上手で、誠実な性格。
乾 真人
エピソード「顔のない群れ」に登場する。法律事務所から依頼を受けている私立探偵の男性。年齢は38歳。数年前は上級職に合格して警視庁に入り、地方で捜査課長をしていたエリート。だが今は金が入れば大酒を飲む、といういい加減な生活を送っている。両親を20年前に事故で亡くし、神崎智子の父親・神崎総一郎に生活の面倒を見てもらっている。暴力団を追い詰めていた際、暴力団から嫌がらせを受けてノイローゼ気味になった妻の秋子と子供を琵琶湖で亡くしている。
カフェのマスター
エピソード「バス停」に登場する。「バスストップカフェ」のマスターの中年男性。学生の美里が恋心を抱いていた。噂では父親の経営する大会社の跡を継いだが、突然投げ出してカフェをはじめ、何かを取り戻して元の世界へ戻って行ったとされている。
江崎 広一
エピソード「庭」に登場する。大学教授となった男性。工場の町だった田舎のあか抜けない町に、両親と兄弟三人で暮らしている。江崎徹と江崎英二の兄。大学に通っていたインテリで、みんなから三原千恵と結婚するにふさわしい人物と目されていた。千恵とのあいだに何があったかは定かでない。
岡村 美智子
エピソード「埋火」「片隅」に登場する。刑事の岡村の娘。結婚を間近に控えた若い女性。父親の相棒の片田良夫とは面識がある。表面上は明るいが、妻子ある男性への未練をなかなか断ち切れず苦しんでいる中、父親が勧めた見合い相手と結婚する事が決まり、それに従う事こそがむなしい復讐のような気持ちだと感じている。母親の臨終の際にも仕事漬けだった父親にわだかまりを持っているものの、父親と旅行に行った事で、馴染みの宿の女将から父親の昔の話を聞き、意外な父親の一面を知る事になる。
中村 祐子
エピソード「夢の破片」に登場する。前科五犯という犯罪歴を持つ女性。年齢は25歳。事務所荒らしで捕まったが、犯罪を重ねてしまうに至った動機を、弁護士の岡司朗に尋ねられる。入院していた中学生の頃、病室から好きだった人を双眼鏡で見ていたが、その人が事務所荒らしをしていた事を話す。身寄りがなく、バーを経営する叔母が治療代を支払い、退院すると一生涯そのバーで働く約束をさせられていた。
理恵
エピソード「夏の跡」に登場する。順二の姉。薄幸そうな若い女性。春まで東京で2年間男性と暮らしていたが、突然この駅に帰って来て、今は順二と暮らしている。横領犯である悲し気な女性に自分を重ね、彼女を自首させようと奔走する。
緑川 道夫
エピソード「冬の蟬」に登場する。売れっ子の役者となった男性。里美の夫で、妻は出産のため入院中。昔は貧乏劇団に所属する役者で、マネージャーの森山とはその時からの間柄。自分の子供が一泣きして死んでしまった事で、どれだけ仕事をこなしたとか、いくら稼いだとかは、人間として生きる事と何も関係がない事を悟る。
お兄ちゃん
エピソード「雪」に登場する。工場勤めをしている男性。幼少の頃、お助け寺の和尚に預けられたが、和尚からたびたびせっかんを受けていた。チズの兄的存在で、つらい環境の中、二人で砂糖を舐め合って慰め合っていた。大人になってからも金をたかりに来る和尚に決別したいと申し出たが、手切れ金として200万円要求され、半ば破滅を望んで銀行強盗を思いついた。
黒田
エピソード「雪の革命」に登場する。眉毛が太い刑事の男性。森脇透の捜査に突き合わされ、デートもロクにできずにいつも文句を言いつつも、仕事には真剣に向き合うまじめさを持つ。
マンジュウ爺さん (まんじゅうじいさん)
エピソード「消えた国」に登場する。ガソリンで電車が燃やされた事件の目撃者の高齢の男性。事件の起こった車輌でただ一人生き残った。自身も火傷を負って警察病院に入院。有楽町駅周辺を寝所にしている浮浪者で、周りで何が起ころうと我関せずで生きている。廃人同然におとなしいが、片田良夫が、マンジュウという言葉に反応すると気づく。実は満州で凄惨な戦争経験をしており、その時に妻を亡くしている。さらに満州から日本に向かう最後の列車から娘の林優子を落としてしまい、置き去りにせざるを得なかった過去が明らかになる。
角田 明
エピソード「初恋」に登場する。暴力団の組長をしている男性。「初恋」の相手を捜す男性に中学時代の初恋の相手、今井凉子を捜してほしいと依頼する。人生の半分を刑務所で暮らし、人も殺めている。獣のような勘で生きて来たため、無意識で自分の死期を感じ取っている節がある。凉子に会えたあと、事務所が襲撃されて瀕死の重傷を負い、しばらくして亡くなる。
柴田
エピソード「傘の家」に登場する。妻と息子の雄一と娘と暮らすサラリーマンの男性。「東立電産」で商品のクレーム処理の仕事をしている。小太りで人がよく、事務服を着て仕事をしている事から部下に馬鹿にされ、仕事を押し付けられていた。世の中は金と見た目のよさがすべての基準になっていると、マスコミ関係の仕事をする友人に教えられ、毅然とした態度で部下や雄一に向き合う。
中岡
エピソード「路地」に登場する。美雪のパトロンの男性の秘書を務める青年。社長の個人的な秘書であり、自分の父親の借金の返済や入院中の母親の費用を払ってもらっている。しかし美雪と恋仲になり、社長の手の平で遊ばされ、卑屈な思いを味わわされる。
加藤 修
エピソード「あだしの」に登場する。「藤金商事」の社長を務める男性。裏の顔はヤクザ。年齢は35歳。京都で将来を期待された友禅染の図案師だった頃、当時高校生だった佐知子と恋におちる。まじめで妥協を許さない性格だったが、7年前に京都で佐知子を襲ったヤクザを殺してしまう。その際、ヤクザの金子に助けられ、東京に出てヤクザになる。このままでは佐知子がダメになってしまうと、何度も彼女を突き放す。
富島 周一
エピソード「銃声」に登場する。フリーのルポライターの男性。5年前に「オヤジ」と呼ぶ父親代わりの富島優次を亡くしている。25年前、多摩川の河原で優次に拾われた時、銃声を聞いており、その時の情景に若い女性が出て来る悪夢に悩まされている。取材で組員に間違われて撃たれかけた時、幼少の頃の記憶がよみがえった事で、父親の身の上に起こった真実を追求すべく父親の故郷、北海道へ向かう。
典夫の娘
エピソード「昼に近い午後」に登場する。典夫の娘。母親は生まれてすぐいなくなった。小学校に入ったばかり頃に2年間いっしょに暮らした和子を慕っていた。典夫が精神を病んだ和子に殺害され、今は養護院に入っているが、幼いながらも精神病院を退院した和子を案じている。
若山
エピソード「海岸線」に登場する。豪の学校の教師の男性。生徒の中の一人を、はっきりした理由もないのに殴る暴力教師で、生徒は不安になって不登校や自殺者まで出た。豪を殴る現場を、見張りに来ていた豪の父親に目撃され、暴力行為が明るみになる。もともと子供が大嫌いで、苛立つと殴ってしまうという性癖の持ち主。
谷矢
エピソード「あきらめ」に登場する。売れっ子の作曲家の男性。天野とミュージカルの仕事をいっしょにする事になった。傲慢を絵に描いたような性格だが、人生の頂点の時期に立ち、才能のきらめきを放っている。
竜一の父
エピソード「父」に登場する。国家のためにスパイ活動をしていた軍人男性。現在は車椅子で生活している。シベリアの木材を買い付ける商人と身分を偽り、東京から竜一を呼び寄せ、アムール川で軍艦や船舶の動きを調査させていた。戦後、国家に裏切られ、息子を二重スパイの罪から守るべく、帰国してからずっとボケたふりをしている。
のぞみ
エピソード「道」に登場する。徳が行きつけにしていた東京の焼き鳥屋の女将の娘。女将が亡くなり、あとを継いだ。まことが5歳の時に初めて焼き鳥屋に来た時からの知り合いで、お互いを異性として意識していた時期もある。
小山 博
エピソード「弁当」に登場する。平原の上司の男性。平原が入社した当時3000円の特製弁当をご馳走してくれた人物。しっかりした仕事をしながらも出世せず、目立った評価もされなかった。定年後、半年で他界する。
定年退職した男性 (ていねんたいしょくしただんせい)
エピソード「二十年目のトンボ」に登場する。会社を定年退職し、別荘に移り住んだ男性。妻の夫。どことなく薄っぺらさを感じさせる人物。20年前に息子を失い、それ以降は言動が両極に揺れるようになる。逆に会社では、一度口にした事は絶対曲げなかった。
秀美
エピソード「氷の林檎」に登場する。典雄の幼なじみの女性。ずっと典雄の事が好きだったが、娼婦となって札幌で典雄と再会。典雄が自分を脅していたヤクザを殺害したために、さらに精神的に追い込まれて生きる事が辛くなり、クリスマスイブの日、一人で自殺してしまう。
康弘
エピソード「電柱」に登場する。主任を務めるサラリーマンの男性。暗くて気が小さくセコいと部下に陰口を言われており、それを妻にも肯定されている。悪党でもなく、善良でもなく、臆病でセコかった昔の父親に、今の自分を重ねている。
綾子
エピソード「薄彩(うすだみ)」に登場する。祖父の建てた「岩倉ホテル」で働く女性。慶子の妹で、両親は亡くなっている。兄を敬愛していた慶子と、小宮英太の愛憎劇を間近で見ていた人物で、慶子が実は小宮を愛しているのを知っていた。
岡崎
エピソード「川辺り(かわあたり)」に登場する。出版社に勤める男性。既婚者で子持ち。母子家庭で育ち、母親に男性が訪ねて来なくなってからは暮らし向きが悪くなった事もあり、貧乏に対して異常な恐れを抱いている。大勢の女性と汚い恰好で写っている母親の写真を、自分に対する戒めとして肌身離さず持っている。貧しく生きる事の怖さを思い知らせてくれるものとしてその写真を眺めていたが、実はこの写真の母親が一番好きだった事に気づく。
地方記者 (ちほうきしゃ)
エピソード「左遷」に登場する。北丘市の記者クラブに出入りする地方記者の男性。先走った前田の出した記事で、一人の女性が自殺した事を受け、自分達の仕事は報道する事で、人の罪を暴く事でも制裁を加える事でもないと諭した人格者。誇りを持って仕事をする限り、記者に栄転も左遷もないと前田に告げ、彼を記者仲間として暖かく迎える。
輝子
エピソード「煙」に登場する。佐久間を支え続けて来た妻。娘を亡くして家を出て行ってしまう。佐久間の才能に惚れているというより、佐久間のシナリオにある人間の本当の温かさを愛していた。小さい時から頭がよく、みんなからちやほやされて裕福な家庭で育つが、佐久間と出会ってから人生が劇変する。しかし、それをも楽しむ心の強さを持っている。
田端
エピソード「島」に登場する。東京から関口亜絵美達が住む島へやって来た労働組合の男性。眼鏡をかけた実直そうな人物で、閉山後の組合を亜絵美の父親に託して東京に戻った。亜絵美の姉と恋仲であり、島を出た亜絵美と姉といっしょに暮らすようになるが、情熱を失ってしまい、酒やギャンブルに溺れるようになる。のちに亜絵美を犯そうとし、亜絵美の姉に包丁で刺される。
社長
エピソード「丘」に登場する。日豊自動車の社長を務める男性。年齢は66歳。岡田宗介とは同期で、宗介が何らかの原罪を背負い、ひっそり生きている事を理解していたが、その理由までは知らされていない。
松本 良夫
エピソード「過去を持つ愛情」に登場する。松本源助と松本百合子の息子。東京地検の検事を務める男性。松本たえ子の夫。男手一つで源助に育てられた。30年以上前、父親が義姉に再婚を勧められた日、電車の中で母親の百合子をはっきり目撃した記憶がある。まじめな性格で、角ばった輪郭が源助に似ている。
米川 才一
エピソード「小さな鳥」に登場する。米川家の長男。米川次郎と米川三夫の兄。まじめで几帳面であり、完璧さを求めて生きていた。東京の一流大学を卒業したが、地元の工場に就職し、政治的な道を歩いていった。職場で知り合った女性と結婚、給料の大半を所属する政治団体にカンパし、家計は苦しかったが、暖かい鳥の巣のような家庭を作った。
ますみの母 (ますみのはは)
エピソード「雪の手紙」に登場する。各地のキャバレーでダンサーとして踊っていた女性。ますみの母親。バレエダンサーだったますみの父親を捜すかのように、色々な場所をますみと共に旅していた。ジャズダンスが専門のダンサーで、バレエダンサー崩れの石原哲也とますみが付き合うのをよく思っていない。
ヨシエ
エピソード「不良」に登場する。赤ん坊を背中に背負っていたホームレスの女性。「おさせのヨシエ」と呼ばれ、男に体を売って生活していた。当時は17歳。工場で働いていたが、男に捨てられたのがきっかけで頭がおかしくなったとされていた。実際は正常で、子供が物心つくまで自分の手で育てようと、すべてを捨て去った。秀司にもっと人生を大切にするよう諭し、彼が更生する一因を担った。
最終便
エピソード「最終便」に登場する。肉体仕事を斡旋する手配師の男性。大学生を相手にしていた。悪人のような風貌だが、学生にはきっちり金は払い、仕事が終わると学生達を飲みに連れて行った気のいい性格。学生時代の菊地英次が慕っていた人物。ピンハネした金でおごる自分はいい人間ではない、学生が一番騙しやすい、と英次に語っていた偽悪者的な面がある。
山脇
エピソード「置き去り」に登場する。大手商社「伊勢崎商事」で部長にまで昇進した男性。ある日、静岡にある小さな部品工場に出向する事になった。それがきっかけとなり、自分と同じく出向になった同期のライバル、横田と温泉旅行に行くほどなかよくなる。戦後の焼け野原で、大人達に置き去りにされた自分の姿がいつも頭から離れない。
太田
エピソード「旗」に登場する。「T.G.E.」というゲーム開発会社の男性社員。高校生だった鶴見妙子をスカウトした。独身と偽って妙子に接するよう会社から命令され、妙子が自分のために頑張れば頑張るほど辛くなり、異動届を出す。数年後、妙子が工場の屋上に籠城したため、事件沈静化のために呼び出される。
美子
エピソード「一年」に登場する。東京のハンバーガーショップで働いている女性。年に1度、東京での生活を友人に報告するために帰郷している。しかし他人の華やかな生活を自分の事のように錯覚するのに慣れてしまい、友人には芸能人と遊びに行っているなどの噓をついている。ディスコで働く黒服の昭と付き合っている。
ユリ
エピソード「海峡」に登場する。清一の娘。昭和22年(1947)、函館へ帰る船に乗る際、ソ連軍に連行され、樺太(サハリン)に残された。左目元にホクロがある。墓参団で父親の姿を確認して、娘のワーニャに、お父さんを恨んでいない、ただ戦争を恨んでいるという手紙を託した。
チェリスト
エピソード「冬の避暑地」に登場する。昔は名チェリストといわれていた高齢男性。娘の紀子はピアニストで、孫の美樹はバイオリニスト。三人で演奏家として活動している。名ピアニストと呼ばれた娘が、1000万円以上するバイオリンをバイオリニストの夫に買い与えようと働いている姿を見て、娘が不憫になり、家を売ってしまう。
森
エピソード「蛾」に登場する。予備校に通う男性。砂場にちょくちょく声を掛けるが、金の無心をする事が多い。体の関係を持ってからは彼女だけを働かせ、暴力を振るうようになる。見栄っ張りで、口先だけのつまらない人物。
佐藤
エピソード「帰国」に登場する。中国の病院で医者をしていた男性。新聞記者の原に自分が日本人である事を教えられ、日本で本当の母親と再会した。日本に滞在してからもロクな仕事がなく、本当の母親も亡くなり、中国の両親も亡くなるという不幸に見舞われる。しかし原に対しては、感謝の念しか持っていないという善良な人物。
新村 照美
エピソード「皮」に登場する。大物代議士の娘。土屋庄一からゆすられていたと思われる若い女性。新村照美の様子がおかしいと心配した両親から松本源助が素行調査を頼まれた。土屋のワイシャツに照美の口紅が付着していた事から、一見なんの接点もないような土屋殺害の容疑者として、源助から疑われる。土屋を愛していたのではないかとの仮説を、源助につき付けられたのち、ホテルから投身自殺する。
富岡 卓
エピソード「殻の中」に登場する。新聞社「札幌タイムス」を定年退職したのち、小さな出版社で働いていた男性。ジャーナリストとして本も出版している。まだ働きたい気持ちはあるものの、肩叩きにあい、地方都市の古い一戸建に移り住んだ。町内会から派遣されて老人の世話をする藤田のお節介に苛立ち、いつもケンカばかりしている。
久保田 吾一
エピソード「凪」に登場する。浮浪者の男性。山手線日暮里駅構内で、食中毒により孤独死した。年齢は40歳前後。20年前に会社員の男性と同じアパートに住み、みんなから「ゴン」と呼ばれて親しまれていた。何らかの事情があり、いっしょに暮らす事のできない、芸者上がりのような美しい母親がいた。
マーサー
エピソード「名前Ⅱ」に登場する。30年前、ニューヨークで小室の秘書を務めていたアメリカ人女性。優秀で美しいが、有色人種に偏見を持ち、貧富の差に敏感で、小室とよくつまらない事でケンカしていた。だが仕事を通じて小室に対する信頼を深めていき、彼を誰よりも敬愛するようになる。幼い頃、貧困の激しかったグリニッジビレッジで暮らし、母親が有色人種ばかりと付き合っていた過去がある。いつかは自分が暮らした家があった木の下に自分が戻るような気がする、と小室に語っていた。
田之倉 恵子
エピソード「帰り道」に登場する。幼稚園に通うマサシの母親。サラリーマンの妻。土地を持つ資産家の家で育ち、幼い頃はそれが原因でいじめに遭う事も多く、いつもシゲに助けられていた。今は息子のマサシがいじめられており、シゲの事を思い出すうち、なぜ息子と自分がいじめられていたかに思い当たり、解決策を思いつく。
名物教授
エピソード「荘厳な残像」に登場する。小山次郎が通っていた大学の名物教授の男性。名物教授の授業を選択した3分の1の生徒が卒業できないといわれているほど学生に厳しかった人物。もじゃもじゃの髪の毛で、頭頂部が禿げており、丸眼鏡をかけている。自分も苦学生だった過去があり、信じられる大人になれと次郎にエールを送った。
今泉
エピソード「水面の華」に登場する。大企業の部長職にある男性。妻と長女・長男の四人家族。自分の父親、祖父が42歳の時に自殺している事から、自分も同じ歳になったら自殺するという強迫観念にとらわれている。父親が自殺する前に眺めていた川面を流れる紅い花の記憶が、自分の中に鮮明に残っている。
会田 陽子
エピソード「遥かなる」に登場する。大学生の女性。風俗で働いて貯めた300万円で、ロス・オリンピックを観戦する予定だった。大学を卒業したら田舎に戻り、小さな町で結婚するという人生が見えているため、精力的に大学生活を謳歌している。とにかくオリンピックを観戦したいという思いが強く、盗まれてしまったお金は裕福な友人の沢木英二が盗んだと警察に噓をつく。
沢木 英二
エピソード「遥かなる」に登場する。浪人生の男性。会田陽子の友人。「沢木病院」の院長の息子ながら、二浪しても医大に入れないと、両親や兄弟からバカにされている。陽子のお金を盗んだ犯人にされた際も、自分の意見をいっさい聞いてもらえなかった事で、主体性のない自分を実感して家を出る決意を固めた。実は陽子に思いを寄せており、いつかプロポーズするつもりでいた。
絹江
エピソード「ひび割れた土」に登場する。土焼の創始者の娘。太地のパートナー的な存在。土への情熱を燃やして、太地と共に暮らして来たが、土しか見えていない太地との生活に次第に寂しさを感じるようになる。自分から太地を奪ったのは土だと考え、土を憎み始め、自分を殺して土に還らせてほしいと彼に懇願する。
知佳の父
エピソード「手帳」に登場する。知佳の父親。「女房に逃げられちゃったもんで、ハハハ」というのが口グセ。世間体を気にしているが、だらしなくいつも生活は不安定。知佳を溺愛しており、知佳からも非常に愛されている。
静香
エピソード「名前Ⅰ」に登場する。大企業に勤めるOLの女性。友人達には「静香」と名乗っているが、テレビから拝借した名前で本名ではない。テレビや流行に毒され、自分を見失っている事を、40代位のショッピングバッグレディ(女性ホームレス)を見て気づいていく。
佐田
エピソード「遠い唸り」に登場する。「梅田診療所」の医師を務めている男性。口が悪いが正義感が強く、昼間から酒を飲みながら診療している。東都医大の助手だった頃、10年前にS県のつくわ村で発生した「つくわ村病」を一人で研究していた。その時は築岡教授に時期尚早だと言われ、大学を追われてしまう。つくわ村の診療所でも研究を続けていたが、またしても築岡に阻まれ、職場を転々として今に至る。
キヨ
エピソード「雨林」に登場する。土地持ちの資産家の高齢女性。たばこ屋を営んでいる。息子二人と娘がいる。働き者だが酒癖が悪いと評判の男に19歳で嫁いで来た。想像以上のひどい事は夫婦のあいだでは起こらず、子供の成長に胸をときめかせて生きて来た。しかし三人の子供は、金の無心しかしないだらしない大人になってしまった事に胸を痛めている。
田辺 松代
エピソード「送り火」に登場する。京都の料亭「田辺」の女将を務める女性。田辺順一の妻で、20年程前、恋人だった順一よりも、伊藤に惹かれるようになった。順一と結婚する代わりに、伊藤との時間を持ちたいと義母に申し出て、翌年の大文字五山送り火の日にホテルで伊藤と密会した。今は女将として身だしなみを整え、部屋を回るだけの生活を空しく感じている。
麗子の母
エピソード「聖橋」に登場する。夏木麗子の母親。小粋な高齢女性。夏木家を継ぐため、麗子の父親と結婚した。夫が結婚前に聖橋から飛び込むという心中事件を起こしていたため、夫を愛せず、自分は家のためだけに犠牲になったと考えている。麗子と俊夫の仲を裂くために、俊夫を死に追いやった過去があるが、家を離れて自由に生きようとする麗子を最後は応援する。
晴見 恭子
エピソード「今ではなく…」に登場する。一流企業に勤める女性。女の自立を特集する女性誌を愛読し、海外旅行が趣味。病気になった同僚の川島という女性を週に1度見舞いに行っているが、彼女と海外旅行に行く事しか考えておらず、病状の深刻さをくみ取ろうとしない無神経な面がある。
イナバ
エピソード「疑惑」に登場する。芸能プロダクション「イナバコーポレーション」の社長を務める男性。お笑いタレントだった霧島に憧れ、彼のマネージャーとなったが、酷い扱いを受け、次第に彼を殺したいほど憎むようになる。だが、霧島が倒れて以降は、別のタレントのマネージャーとなり、独立。霧島を雇う立場となったが、ある時倒れて体の自由がきかなくなり、言葉を話せなくなってしまう。
亭主
エピソード「台風(かぜ)の吹く日」に登場する。律子の夫で、淳という男の子の父親。何をやっても失敗し、反省せず、自己中心的な性格の男性。台風が近づくと必ず帰って来て、律子の父に金の無心するのをつねとしていた。
山田
エピソード「炎のごとくに」に登場する。精神科の診療をしている男性医師。片田良夫刑事が鑑識で世話になっている。勉強ができればすべてよしと育てられた瀬沼英夫のような人間は苦しみ方を知らないので、片田に彼を救ってやってほしいと頼む。
並木
エピソード「今頃」に登場する。隅田川を運行する水上バスの男性運転手。妻を5年前に亡くしており、自由気ままな一人暮らしを満喫している。娘は結婚して九州に住んでいる。お陽様と川の流れは変わらない、という考えの持ち主。自分の作ったお弁当を毎日美味しそうに食べている。
塩見 良夫
エピソード「暗い傾斜」に登場する。人生のどん底から社長まで上りつめた男性。塩見夏子の夫。すべての人間が金のために働いている、という事を身をもって学んだ苦労人。妻が自分に尽くせば尽くすほど、完璧であればあるほど、自分のように下品で学歴もなく、醜い中年男が愛されるはずがないと疑惑を募らせていく。家出した夏子と山小屋で暮らす南条に、「北村」という偽名でガイドを頼んだ。
小宮 英太
エピソード「薄彩(うすだみ)」に登場する。「岩倉ホテル」の現在の経営者となった男性。慶子の兄の後輩で、慶子を思慕しており、どんなに侮辱を受けても家に出入りし、のちにホテルの支配人となる。だが、慶子から余りにも屈辱的的な仕打ちを受けた事により、慶子がホテルを出て行ってからは、彼女に対して深い憎悪を募らせていった。
美崎 瑛子
エピソード「声」に登場する。雑誌とラジオの人生相談の回答者をしている高齢女性。作家の美崎亨次の妻。不細工でとびきり頭のいい夫が大好きで、彼さえいれば幸せだった。しかし、非国民呼ばわりされた夫は終戦を境に変わってしまい、書斎から出ずに創作に没頭するようになる。そんな彼に届けたいという思いだけで、人生相談を引き受け、「頑張んなさい」というワンパターンなエールを送り続けた。
西田
エピソード「真昼の漂流」に登場する。石原と同じ会社で本部長を務めていたダンディーな男性。石原をこっそり尾行していた人物。派閥争いに敗れて会社を去った。出世だけを生きがいにしていたので、半年間でめっきり老け込み、妻とは離婚した。やる事もなく、毎日ベンチに座って自分の人生は一体何だったのかと考えていた時、石原を見かけて尾行してみる事を思いつく。
石田
エピソード「赤い雨」に登場する。ももえと付き合っていた男性。スマートな優男。彼女にきらびやかな世界を見せるが、その正体は詐欺師。青山にブティックを開いて店長にしてやるとうそぶき、ももえにサラ金で500万円を借りさせた。
知佳
エピソード「手帳」に登場する。知佳の父と東京のマンションで二人暮らしをしている女子学生。大人びた性格で、みっともない父親のいいところを誰よりも理解している。父親から死んだと聞かされていた知佳の祖父が生きている事を知り、祖父の家に滞在する事になる。
小坂
エピソード「一月の陽炎」に登場する。ラガーマンである高齢な男性。自由に快活に生きているように見えるが、実は妻に先立たれて子供もなくし、孤独な身の上にある。なかよくなった前田には、娘夫婦と孫と暮らしていると噓をついている。天の声を聞いてしまうと、死にたい願望に駆られてしまうので、気力を振り絞り、必死に生をまっとうしようとしている。
山崎 浩
エピソード「片隅」に登場する。東京に出稼ぎに来た青年。北海道の最北端の深美という小さな町出身。些細な行き違いから、コールガールの新井千恵を殺害してしまう。根は純朴な青年。父親が他界して5歳の時に姉弟二人きりになってしまう。姉の良江からは絶対に欲をはらず、いつも社会の片隅で生きていこうと言われていた。化学工場の臨時雇い中に体を壊し、16年間の蓄えが底をついた時、誰かと話したいと入った旅館で千恵に出会う。のちに、姉が被害者の兄、善吉と結婚している事実を知り、刑務所内で首を吊る。
谷村 健造
エピソード「海のある風景」に登場する。谷村健一の父親。妻と息子の事は省みず自分の好きなように生き、多大な借金を背負って家族を苦しめて来た。気が弱く、噓だけはつかない性格。幼い健一に家を追い出されて消息不明となる。
木下 悦子
エピソード「ガラス紙」に登場する。前川純一の兄である前川清と同じ工場で、経理を担当していた女性。清の死後、1か月して焼香に訪れた。清の姉の策略で、清を殺害した犯人として逮捕される。貧しい実家に仕送りするため、工場の社長と肉体関係を続けていたが、心の中では清を愛していた。
築岡
エピソード「遠い唸り」に登場する。東都医大の教授の男性。父親は医学界の大物で、親の七光りで今の地位を得た。薬品会社から頼まれた緊急性のない研究を優先している。死者も出て、緊急を要する「つくわ村病」については静観する方針だったため、独自に調査していた佐田を大学から追い出した。後年、佐田の研究を自分の名で無断発表し、「つくわ村病」は下火になったと、役人を動かして佐田の研究を圧力をかけた。しかし、「つくわ村病」感染者が再び現れた事を受け、佐田に拡大防止への協力を求める事になる。実は10年前、東南アジアから「つくわ村病」のウイルスを持ったサルを持ち込み、S県にある個人の研究室で研究していたところ、そのサルが逃げ出し、S県のサルに感染し「つくわ村病」が拡がったと佐田に告白する。今の地位にふさわしい仕事を何一つ残していないと自戒しており、能力のなさを痛感しながら生きて来た。
中沢
エピソード「黒の培養」に登場する。コピーライターをしている男性。10年前に吉田の事務所の門を叩いて以降、彼と組んで仕事をこなして来た。CMの撮影現場で、女性タレントが心臓発作でなくなった際には、警察に通報しようとして、吉田と取っ組み合いの喧嘩になる。
シゲ
エピソード「帰り道」に登場する。いろんな家に行っては力仕事をして、その日暮らしをしていた大柄の男性。仕事の報酬は大抵の場合、冷たいご飯に味噌汁をかけたもので、それで満足していた。ランニングシャツに半ズボンスタイルで、子供だった田之倉恵子をいつもいじめっ子から守ってくれた。恵子へのいじめは貧しい家の子供達による苦い感情だと知っており、恵子の父親からオーバーを買えともらった金で、貧しい子供の家に500円ずつお年玉を送付し、自分は大晦日に凍死した。
太川 源治
エピソード「腐敗」に登場する。土地の有力者で、県会議員を務める高齢の男性。昔から身寄りのない子供の面倒を見て来た人徳のある人物で、森脇透の親代わりでもあった。唯一の楽しみが酒であり、自宅で酔いつぶれていた際、面倒を見ていた戸田信子との情事の写真をヤクザと組んだ北上銀行の支店長に撮られた事がきっかけで、自暴自棄となる。のちに信子からグルだったと聞かされ、カッとなり信子を殺害してしまう。森脇や信子からは「おやじさん」と呼ばれている。
高橋 洋一
エピソード「落し物」に登場する。駅で茫然自失状態で失禁していた男性。OLの女性が警察に連れて行った。一流企業「丸忠商事」の部長だと判明し、1か月後にお礼としてOLの女性を食事に誘うが、その席で自分が社員証を投げ捨てた事を思い出してしまう。
福音寺の住職
エピソード「追憶」に登場する。福音寺の住職を務める男性。欲深い金の亡者。寺の敷地内で賃貸リゾートマンションを計画しており、そこに妻の骨を埋めようと深い穴を掘り始めた大川善を疎ましく思っている。穴の中で大川が倒れているのを知りながら放って置いた。しかし大川の妻に対する深い愛に触れ、改心する。
宮田 みち子
エピソード「面影花」に登場する。西北大学に通う学生の女性。守銭奴で、愛人バンクのような組織を作って荒稼ぎしている。日陰者だったみち子の母のせいで世の中を憎むようになった。人に頼らず生きて来たという自負を持ち、教授の鈴木章一に父親の面影を見たような気がして、初めて恋というものを知る。
大川 善
エピソード「追憶」に登場する。福音寺の敷地を掘り続ける男性。亡くなった妻の美佐子に土地の権利がある事から、海の見える場所に墓を掘ってあげたいと、炎天下の中、10日間も穴を掘り続けている。穴の中で倒れてしまうが、妻と生きた時間を思い出す事ができたと福音寺の住職にお礼を言った事で、彼を改心させた。
律子の父
エピソード「台風(かぜ)の吹く日」に登場する。律子の父親。危篤状態の高齢男性。資産家に生まれ、貧乏人の娘だから体よく使えると、自分の母親が連れて来た女性を妻に迎えた。彼女に好きな男がいた事で、妻の生活の頼りにはなったが、「生きる頼り」にはなっていなかったという寂しさを抱える事になる。頼られる事が好きで、律子の亭主を馬鹿だと思いながらも憎からず思っており、彼から金を無心されるのを生きがいとしていた。
勉
エピソード「風船」に登場する。勉の母と勉の父の息子。父親が元気な頃から風船を膨らませてと頼むと父親が喜ぶのを知っており、仕事で忙しい父親とは風船でつながっているようなものだった。自殺未遂後に話せなくなった父親が、自分の渡した風船を手放してしまい、悲しい気持ちから思わず父親を突き飛ばしてしまう。
塩見 夏子
エピソード「暗い傾斜」に登場する。若く容姿端麗な塩見良夫の妻。良夫の取引先の男性の娘で、父親が取引と資金援助目当てで見合いを持ちかけた事から、良夫と結婚した。良夫の瞳に一生懸命に生きて来た人だけが持っている光を見て、胸が一杯になった事から結婚を決意した。3年間の結婚生活では良夫に尽くしたが、彼が心を開いてくれない事から、思うところがあって雪山で暮らす南条を頼って家を出た。
会社員の男性
エピソード「凪」に登場する。一流企業に勤めている会社員の男性。急に新潟への転勤を命じられ、自分のサラリーマン人生に疑問を抱くようになる。安アパートで暮らしていたT大学の学生だった頃、久保田吾一と知り合う。駅構内で孤独死した40歳前後の浮浪者が吾一だと知り、自分が会社からゴミのように扱われた事で、初めて吾一の気持ちを理解し、彼の葬式を出そうと奔走する。
吉崎 朝美
エピソード「恩讐」に登場する。三上英夫の勤める銀行の同僚の女性。三上と付き合っていた。河合に好意を寄せられている。三上の転勤後、彼には女がいると河合に騙され、自暴自棄になって河合と結婚した。だが、1年前に生まれた子供がB型だったため、半年前に河合と離婚している。血液型はO型。
阿部
エピソード「冬の遊園地」に登場する。退職間近の男性刑事。暴力団「本州組」の裏を知っている殺し屋の内藤を捕まえれば、幹部を根こそぎ逮捕できると、彼を10年間追っている。脱走した内藤をおびき寄せて捕まえるため、彼の子供を毎日遊園地に連れて行っている。
清一
エピソード「海峡」に登場する。終戦後、樺太(サハリン)から函館に帰る船に乗る際、娘のユリをソ連軍に拘束されてしまった男性。乗る予定だった引上げ船は、国籍不明の潜水艦の魚雷を受けて沈没し、自身と息子の幸夫は、ユリに命を救われる事となった。近所のおばあさんが樺太へ行った際、ユリに似ている女性が写っていたため、墓参団として樺太へ向かった。
大塚 まゆみ
エピソード「さかな」に登場する。女子刑務所の受刑者の女性。出所を間近に控えている。モスクワオリンピックでメダル獲得を期待された水泳選手だった。オリンピックの重圧に押しつぶされそうになっていた時、妊娠が発覚し、コーチや恋人から堕胎を勧められる。しかしオリンピックへの不参加が決定し、恋人の裏切りが発覚した事で、恋人を刺してしまい、刑務所に入る事になった。
天地 豊
エピソード「夕暮れから」に登場する。テレビCMの制作をしている男性。世間一般には成功者と称えられ、女優を愛人にしている。幼い頃、貧乏で家庭環境が悪かったが、小学校の教師、池沢にかわいがられていた。しかし中学生の頃に、池沢が預かっていた修学旅行の費用を友人と共謀して盗み、そのお金で大学まで進学した過去がある。
シスター
エピソード「鞄」に登場する。函館の修道院で8年間過ごしたシスターの女性。函館の食堂で平松と言葉を交わし、青森函館間の船にいっしょに乗る。シスターになる前、失恋で船から飛び降りようとしたところを平松に助けられた過去がある。
松沢 良子
エピソード「ガラスの靴ははかない」に登場する。殺人罪で服役していた女性。出所時は30代。左目元にホクロがある。スナックで働いていた時、客として来ていた木村実と同棲するが、木村が態度を一変させた事から殺害に至った。初めて自分が好きになった男に裏切られた愛憎から、当初は生んだ子供も殺そうとしていたが、長い獄中生活で心境が変化する。
橘 健吾
エピソード「砂上の設計」に登場する。「橘健吾設計事務所」を経営している男性。濃い顔立で、左目の下にホクロがある。著名な鶴丸清教授の後継者としてその娘の赫子を妻とし、めぐみという娘をもうけた。早稲田大学の学生だった頃、風俗嬢のテル子に生活の面倒を見てもらっていたが、赫子との縁談が持ち上がり、邪魔になったテル子を殺害。那智滝の山林で白骨死体が発見された事から、人生の歯車が狂っていく。
次長
エピソード「隙間」に登場する。一流会社「トヨサン自動車」の次長を務める男性。郊外に家を持ち、息子を私立高校に通わせている。人生にはどうしようもない格差がつきまとうという意識が強い人物で、10年前に不倫していた部下の直枝も貧しい暮らしをしていると信じて疑わなかった。しかしある日、自分の会社の大株主の妻となった直枝を百貨店で目撃。直枝にセックスを教えたのは自分で、彼女が自分を忘れていないと高を括っている。
バーナード
エピソード「遅れた休日」に登場する。ハワイのホノルル警察で警視を務めるアメリカ人男性。なんでも金で解決できると思っている無礼な日本人を嫌っており、大物政治家を告発しようと捜査に来た検事の森脇透と対立を深める。だが、森脇が自分と同じタイプの人間だと感じ、森脇が集めようとしていた証拠を彼に手渡すべく奔走する。
石井 優子
エピソード「従順なる復讐」に登場する。「東都銀行」南大泉支店に勤める女性。出納係を担当している。年齢は31歳。婚期を逃してしまい、役職につくあてもなく、行内での仲間付き合いもない。すべてに控えめなところを見込まれ、支店長と不倫関係になる。頭がよく、本当は大学へ行きたかったが、家庭の事情で商業高校にしか進学できなかった。
堺 信二
エピソード「よどみ川」に登場する。警察官の男性。幸子と同じ高校だった。幸子の帰郷を大歓迎している気のいい人物で、昔からずっと幸子の事が好きだった。
三上 英夫
エピソード「恩讐」に登場する。銀行に勤めている男性。河合の部下。明るい笑顔がすがすがしいと評判の人物で、執念深い河合に吉崎朝美との付き合いを根に持たれ、嫌がらせを受ける。そして渋谷支店から北海道に飛ばされてしまう。3か月後、朝美と河合が結婚したと知って会社を辞めるが、それからは人生が転落し、二人への恨みを募らせていた。血液型はB型。
前川 純一
エピソード「ガラス紙」に登場する。ノンフィクション作家として頂点に立った男性。前川清の弟で、意地の悪い姉がいた。少年の頃、兄の恋人のような木下悦子に恋し、なぜ彼女が姉に仕組まれた罠にはまり、甘んじて清殺害の罪を受け入れたのかを、ノンフィクションとして書こうとする。
アシスタント
エピソード「花束」に登場する。イベント・プロデューサーの部下の女性。彼女を尊敬し、多忙な彼女をアシストしていた。自分の婚約者を彼女に否定され、プロポーズを断りに行った際、彼が交通事故死したという過去がある。バラが好きで、無性に買いたくなる時があり、自身にとってバラの花束は華やかな生活の象徴だったと考えている。
50歳の女性
エピソード「休日」に登場する。20歳の時に生んだ、顔も知らない息子を捜している女性。年齢は50歳。大家族で貧困の家に育ち、仕事と時間に急き立てられながら、子供時代から苦役が当たり前のような生活を送っていた。これからは安易に生きると決意し、16歳の時に上京。食堂で働いていた時に知り合った男性と結婚。だが、平凡だと思っていた男性に浮気された事が許せず、彼を殺害してしまう。以降は仕事に安らぎを見出し、出所後は休日を恐れるようになる。その解決策として、刑務所に入る前に生んだ息子を休日に捜す事を思いつく。息子の顔は見たいが、自分は知られたくないという複雑な思いを抱えており、これからの休日を不安なく過ごすため、息子は見つからないでほしいとの思いが強い。息子の名前は「川田丈二」で、静岡の化学工場に勤務している。
丸尾 裕二
エピソード「日酒」に登場する。ホームレス同然の暮らしをしている中年男性。丸尾の息子で、若い頃に靖子という女性と恋に落ちるが、靖子は病死。その後すぐに父親も亡くした。父親が大好きだった事もあり、それ以来、酒に溺れるようになった。かつて酔っ払った父親が、嫌いだったはずのホームレスを優しく介抱し、連れ帰る姿を目撃している。
千広の幼なじみ
エピソード「つばめ」に登場する。花村千広の幼なじみの女性。同じ学校に通っている。痴漢に間違われた事から家に引きこもるようになった千広を、どうにか立ち直らせたいと彼を訪ねた。幼い頃、いじめられていた自分を必死で守ろうとしてくれた千広の優しい性格を知っている。
大手企業の課長 (おおてきぎょうのかちょう)
エピソード「噓」に登場する。大手企業の課長を務める男性。既婚者で息子の翔太がいる。息子が自分の事を会社の社長だと噓をついた事に激怒。幼い頃、別居中の父親が自分のついた噓から自殺した過去があり、噓を認めない事が自分の人生に残された唯一の贖罪の方法だと思っている。
前田
エピソード「一月の陽炎」に登場する。陰気でおとなしい性格の高齢男性。妻を昨年亡くし、息子夫婦と暮らしている。人の言うがままに生きている方が楽だと感じており、自由な時間は何をしていいかわからなくなる。小坂と出会い、1週間ほどいっしょにラグビーをしたりして楽しい時間を過ごすが、ある日突然自殺してしまう。
竜一
エピソード「父」に登場する。戦後、商売で財を成した男性。戦争中、まだ少年だった頃にスパイの手伝いをさせられるために、竜一の父に東京からハバロフスクに呼び寄せられ、アムール川で軍艦や船舶の動きを調査していた。しかし自ら進んで二重スパイとなり、ロシア人の男性から毎日山でイチゴを採って売りさばく権利をもらった。その時に知り合ったナスターシャというロシア人女性と恋に落ちた。当時、母親は父親とは事実上別れており、別の男性と暮らしていたので、父親が自分を守ってくれないなら自分で自分を守るしかないという気持ちが強かった。
角田
エピソード「遥かなる」に登場する。刑事の男性。元東京オリンピックの柔道代表選手だった。300万円を沢木英二に盗まれたという会田陽子の事件を担当した。ロス・オリンピックの会場で、犯人にされた沢木の苦しみを説き、陽子を説得した。
勉の父
エピソード「風船」に登場する。会社員だった男性。勉の母の夫で、勉の父親。仕事をバリバリこなし、出世も早かったが、社内外に敵が多く、結局仕事にも職場にも裏切られ、自殺を図る。その後、徐々に肉体的には回復を見せるが、精神的ショックから話す事ができない。手渡された風船を手放した事で、勉に突き飛ばされてから、回復の兆しを見せた。
吉川 純
エピソード「背中」に登場する。オールドスタイルのパブでバーテンダーをしている男性。吉川トキの息子で、四人兄弟の一番下。子持ちのホステス、ユカリと付き合っているが、母親が亡くなったあと、兄に浜松の会社を紹介され、彼女と別れた。のちに自身が孤独な状況に陥り、母親がなぜ他人におせっかいばかり焼いていたのかを理解するようになる。
神崎 智子
エピソード「顔のない群れ」に登場する。弁護士の女性。弁護士の神崎総一郎の娘。乾真人とは20年も前から兄妹同然に暮らしていた仲。結婚を間近に控えているが、小さい頃からずっといっしょだった真人に好意を持っている。
岩波 隆夫
エピソード「腐葉の森」に登場する。地方の工場で工場長を務める男性。岩波由紀子の夫。インテリで、アメリカの大学に留学していたが、その3年間で恋人だった由紀子が覚醒剤に溺れ、責任を感じて彼女にプロポーズする。大学の助教授になるより、工場で就職した方が生きた勉強ができると、夫婦で郊外の町に引っ越す事になった。
野口 明
エピソード「傷」に登場する。ボクサーの男性。世界J・W級タイトルマッチ4度目の防衛に成功した。水商売をしている明の母の息子で、母子家庭で育った。何不自由ない暮らしを送っており、ハングリー精神のかけらもなくチャンピオンになったとインタビューで答えている。しかし、これはマスコミが喜びそうな人間を装っているだけで、実は必死で努力している。ややひねくれたところがあり、自分の顔に傷をつけた母親を恥じ、その母親を許せないでいる。
白鳥 英悟
エピソード「砂の絵」に登場する。私立探偵だった男性。ある日突然すべてが嫌になり、月丘さゆりのもとで「過去を消す仕事」をするようになった。外見や態度とは裏腹に情に厚い性格の持ち主。刑事だった頃、妻がヤクザに犯された過去があり、妻とは離婚したが、1年に1度、同じ店で食事している。過去を捨てようとした10年こそが自分達夫婦の過ちだった事に気づき、元妻にプロポーズする。
俊夫
エピソード「聖橋」に登場する。夏木麗子の恋人だった男性。優し気な見た目をしている。詩人で、将来は小説家志望だった。学生運動で負傷した麗子をかばって重傷を負う。視力が戻らない事を麗子の母から聞かされ、自殺してしまう。
松江
エピソード「窓」に登場する。京浜医大付属病院に勤める教授の男性。片岡の20年来の友人。世間から批判を浴びて身を隠していた片岡を訪ねたところ、彼のあまりの変貌に驚き、次第に感化されていく。退官後、片岡と共に薬品会社の研究所長になる予定だったが、片岡同様、自身も町医者になる道を選択する。
幸樹
エピソード「履歴書」に登場する。妻を亡くした高齢男性。厚の父親。厚に金を無心され、再婚した厚の住む田舎町を訪れる。息子をどこに出しても恥ずかしくないよう、履歴書を書くたびに自分に誇りが持てるように、と育てたつもりだったが、履歴書にこだわりすぎていた自分の間違いに気づく。
金魚すくいの屋台の女性
エピソード「窓」に登場する。金魚すくいの屋台を出している若い女性。片岡と暮らしている。暴走族崩れの半端者だと自認している。どれが一番いい金魚かという質問に答えるために、3か月間も屋台に通い続けた片岡に惚れてしまう。
関川 明
エピソード「電話」に登場する。売れないロック歌手の男性。くみ子の会社にセクレタリーサービスを頼んでおり、それが縁でくみ子と恋に落ちる。
田村
エピソード「白い返事(メッセージ)」に登場する。新米の刑務官の女性。粗雑で感情的な性格で、服役する村上優子にからかわれ、騒動になる事がたびたびある。短期大学を卒業して経済的にも恵まれた暮らしをしているので、優子からは嫉妬されていると思い込んでいる。小説家志望で、服役囚の面白い話が聞けると思って刑務官になった。
律子
エピソード「台風(かぜ)の吹く日」に登場する。亭主の妻で、淳という男の子の母親。何をやっても失敗し、台風が近づくと必ず帰って来て、律子の父に金の無心を頼む夫に振り回されて生きて来た。最低な男と思っているのに別れないのは、亭主が「生きる頼り」になっているからだと父親に指摘される。
江藤
エピソード「海からの手紙」に登場する。一流企業に勤めている会社員の男性。既婚者だが子供はいない。貧しかった頃、友人達と共に瑛子という女性に世話になるが、彼女をいいように弄んでいた。そして現在、瑛子から手紙を受け取り、彼女の入院していた病院を突き止める。みんなでいっしょに暮らしていたアパートを出て行く際、必ず迎えに行くと瑛子に言った事から、瑛子に対する罪悪感に押しつぶされそうになっている。
桑田 尚一
エピソード「蒼き果てにて」に登場する。不動産屋に勤めている20代の男性。吉村千代子の恋人で、彼女と同じ夜学に通っている。彼女の前では恰好つけており、何でも知ったかぶりし、人を小ばかにするような口を聞く。顧客のお金を盗んで逃亡したと警察に疑われていたが、実は上司に現金を持ち逃げしたかのように見せかけられ、殺害された事が判明する。
みち子の母
エピソード「面影花」に登場する。宮田みち子の母親。日陰者で、男のいいなりになって来た生き方をみち子に軽蔑されている。しかし守銭奴でおかしな商売をしているみち子に、憎しみから始めた事は必ず憎しみを生むと叱責し、入院後ほどなくして亡くなった。
支店長
エピソード「従順なる復讐」に登場する。「東都銀行」南大泉支店長を務める男性。いずれは本店勤務となり、幹部になる事を約束されている。40歳過ぎの妻子持ちで、出納係の石井優子と不倫関係にある。彼女を従順で安全な女性と見くびっていたが、手切れ金として彼女に700万円要求される。その際、売れ残りの身体に大金を払えないとの本音をのぞかせてしまい、優子に独特の方法で復讐される。
平松
エピソード「鞄」に登場する。一等航海士だった男性。父親は船長で、25年前に父親と函館に渡って来た。生きる事に不器用で、13年間働いた船が無用化してしまい、船を愛するあまり停泊した船で1年間暮らしていた。船が売れたのちも、移動する決心がつかず、近辺を鞄一つでさまよっていた。食堂でシスターに出会った事から、函館を離れる決意を固める。
上原
エピソード「川面」に登場する。週刊誌の記者の男性。既婚者で、妻を毎週ディナーショーや映画に連れていったりしているが、愛妻家というよりは「くれない族」の反乱を恐れている。「なつかしのあのスター」という特集記事で清水まりえに取材するうち、彼女が息子との慎ましい暮らしを何よりも大事にしている事を知る。
町井 秀一
エピソード「踊り場」に登場する。秀一の母に育てられた男性。父親は小学校に入る前に亡くなった。母親が大好きで、いつも踊り場で母親の帰りを待ち、手を引いてあげる瞬間が1日で一番好きな時間だった。高校受験の際に、戸籍謄本で今の母親が実の母親ではないと知ってしまう。
石丸
エピソード「鬼火」に登場する。石丸実の父親。消防団員だった男性。母親はダムの工事人目当てのにわか飲み屋を渡り歩く女で、しょっちゅう違う男がオヤジとなり、よく暴力を振るわれていた。そのせいで、何もかもを憎み、裏で色々な犯罪に手を染めるようになる。火を見ると孤独な心が落ちつき、放火を繰り返すようになり、火が見たいがために消防団員になった。実の本当の親を殺して放火したが、現場で貯蔵倉の中からでて来た実を、鬼火のように美しいと感動し、善良な人間に生まれ変わった。
まさえ
エピソード「扉」に登場する。ロングヘアの女性と同じ工場で働いていた女性。ショートカットの髪型で気性が激しく、人の迷惑を考えないところがあるが、つねに強く正しくあろうとした人物。友人だったロングヘアの女性と同じ工場のエンジニアの男性を好きになり、妊娠して流産した事を誰にも言わずにいた。ロングヘアの女性が子供ができたと噓をついて彼を奪ったせいで、飛び降り自殺する。
大田
エピソード「煙」に登場する。テレビ局のプロデューサーを務めている男性。佐久間とは15年来の仲で、佐久間の能力を高く評価している。恰好をつけた独特の話し方をするが、根は優しい性格。昔から佐久間の才能を一番に理解していた輝子を好ましく思っており、彼女と協力し、なんとか佐久間を立ち直らせようと尽力する。
堤 則之
エピソード「いたみ」に登場する。俳優をしている男性。真美の父親。デザイン事務所で働く女性と青春時代をいっしょに過ごし、真美が生まれた。現在は別れて、1年前から真美を引き取って暮らしている。交際をスクープされた婚約者と結婚するつもりでいる。若い頃は真美の母親に手を上げる事もあった。
小坂
エピソード「一輪」に登場する。小さい会社を経営していた男性。黒縁の眼鏡をかけ、口ひげをたくわえている。妻の幸代とのあいだに1歳の息子、鉄夫がいる。会社を潰せば自分の10年間がすべてがなくなってしまうと、破滅を承知で無理をした結果、負債を生命保険で支払う事になる。
瀬沼 英夫
エピソード「炎のごとくに」に登場する。T大学の男子学生。片田良夫刑事が追っている「少女いたずら事件」の犯人で、躁鬱病の患者。「少女いたずら事件」があった翌日に、山田のカウンセリングを受けており、片田から尾行される事になる。勉強ができればすべてよしと育てられ、友人とも表面的な会話しかしないので、悩み方がわからないという孤独を抱えている。
吉田
エピソード「黒の培養」に登場する。TVCM制作の監督を務める男性。鬼才といわれている。CMの撮影現場で、女性タレントが心臓発作で倒れた際には、川村の言葉を忖度し、スポンサーや代理店に迷惑がかからないよう処置しようとした事で、警察に通報しようとした中沢と取っ組み合いの喧嘩になる。
代々木 天心
エピソード「幕」に登場する。有名な喜劇役者の男性。年齢は65歳。中学時代から彼にとりつかれていた小説家の宮田が師と仰ぐ人物。大学生の頃、自分の書いた文章を持って来た宮田に、自分のために書いた文章を人様に見せるのは失礼だと諭した事がある。
富島 優次
エピソード「銃声」に登場する。警察官だった男性。富島周一を自分の子供として育てたが、5年前に自殺した。その死は電車のレールに顔を乗せるという異様なものだった。北海道出身の、まじめ一徹の性格で、同郷の戸倉雪江を愛していた。しかし売春婦と警察官という立場で再会、その後なんらかの理由で彼女を殺してしまう。そのつぐないとして周一を育て、彼が大学を卒業したと同時に命を断った事が、のちに判明する。
佐藤 純子
エピソード「流された記憶」に登場する。東京梅沢短期大学を卒業してはじめが通う深谷小学校の教師となった女性。頭のいいはじめを学校に来させようと尽力したが、はじめの父に乱暴され、斧で殺害してしまう。彼の死後ははじめを一人で育て上げ、大学入学時は奨学金や援助金集めのため奔走した。22年間、はじめの父の頭蓋骨を他人に見つけられまいと、考古学に熱中したふりをしていた。頭のいいはじめから、無言の責め苦にあっているような気持ちで今まで生きて来た。
悲し気な女性
エピソード「夏の跡」に登場する。駅で4日ものあいだ誰かを待っていた女性。悲し気な雰囲気を漂わせ、順二に待合室に泊めてほしいと頼んだ。実は横領犯であり、自分の好きな男のためにやった事だが、男に裏切られてしまう。なぜそんな事をしてしまったのか、自分自身がわからなくなっている。
典雄 (のりお)
エピソード「氷の林檎」に登場する。クリスマスイブの日、サンタクロースの恰好をしてアルバイトしていた男性。5年前に幼なじみの秀美を脅していたヤクザを殺害し、正当防衛で懲役2年の判決を受ける。しかし、精神的に参ってしまった秀美のため、クリスマスイブに故郷で会おうと約束して脱走したが、イブに間に合わず秀美が自殺してしまったという過去がある。
清水
エピソード「紺碧の宴」に登場する。広告代理店「博王広告」で本部長を務める男性。専務を務める義父がいる。8年前、沖縄で支社を作り、「海洋博」というイベントを成功させた。小さい頃からお祭りが大好きで、お祭りだけを楽しみに生きて来たようなところがある。沖縄支社の業績を回復させるべく、半年という条件で沖縄に転勤する。しかし8年前に愛し合っていた美沙が、自分の事を知らないふりをするのが解せず、彼女の周辺を嗅ぎまわる。
ゆりかの祖母
エピソード「…一里塚」に登場する。天野ゆりかの祖母。ゆりかがオリンピックメダリストとして、故郷の英雄になってしまったせいで、失意で帰郷する事さえも許されなかった事が、彼女を犯罪者たらしめたという自責の念を抱いている。厳しい性格で、犯罪を犯して片田良夫刑事に追われ、一度実家に戻って来たゆりかを追い返してしまう。
ミステリー作家 (みすてりーさっか)
エピソード「横顔」に登場する。売れっ子のミステリー作家の女性。娘の母親。仕事に追われて日常生活がおろそかになり、夫に離婚を言い渡された。仕事に集中すると何も見えなくなるタイプだが、作風は至って軽く、物語の辻褄が合わない事も多い。
土屋 庄一
エピソード「皮」に登場する。業界紙の記者を務めている男性。刺殺体で見つかるが、評判はすこぶる悪く、誰に殺されても不思議ではないとされる人物だった。新村照美の素行を追っていた松本源助が、土屋庄一刺殺の事件に行きあたった。自宅には自分の青春記のような稚拙な小説が残されており、いつか作家になりたいという夢を持っていた。
二人の場所
エピソード「二人の場所」に登場する。「青山通りビル」で清掃係をいている夫婦。いつも仲睦まじい様子であり、周囲に「二人の場所」というニックネームで呼ばれている。夫は「青山通りビル」オーナーの息子で、妻は元ブティックの店員だった。一度はお互いの格差のために別れたが電車で偶然再会し、お互いがすぐ側にいる場所が必要だと気づき、何も持たない生活に行きついた。
昭
エピソード「分水嶺」に登場する。バー「人来夢」の客である男性。内縁の夫、大崎宏の金づるにされ、日常的に暴力を振るわれている青地宵子に同情し、男女の仲になる。大崎さえいなければいっしょになれると言った事から、宵子が大崎を殺害するが、最終的には自分は関係ないと、宵子をつき放してしまう。
イベント・プロデューサー
エピソード「花束」に登場する。イベント・プロデューサーの女性。かつて新ソフト時代の旗手として、マスコミ等に引っ張りだこだった人物で、ややぽっちゃりした体型をしている。3年前は女性の心理を的確に捉えていたが、絶頂期が過ぎてしまい、自信を失っている。イベント屋はイベントを打ち続けないとダメになる、という悲哀を身をもって知っている。アシスタントからは、「社長」と呼ばれている。
新井 千恵
エピソード「片隅」に登場する。コールガールをしていた女性。年齢は25歳。北海道の最北端の深美という小さな町出身で、新宿駅付近の連れ込みホテルで絞殺死体となって発見される。いつでも故郷に帰れるよう、500万円以上の預金を持っていた。15歳の時に集団就職で東京に出て来て、工場で働いていたが、班長とデキてしまい妊娠。故郷に帰ったが、勘当されてしまう。のちに遺体の確認に訪れた兄の善吉が、加害者の山崎浩の姉、良江と結婚している事が判明する。
外村
エピソード「海の時間」に登場する。定時制高校で英語を教えていた男性教師。小説家志望だった。生徒である節と体の関係を持っていたが、ほかにも恋人がいた。当時、節に自分の腕時計をプレゼントした事がある。のちに物書きで生活できるようになり、旅館「大黒ホテル」を訪れる。その際、節の体を金で買ったが、彼女が節だと気づかなかった。
平木
エピソード「一枚の絵」に登場する。小劇団を主宰している男性。大当たりしている「東京タップス」という演目をロングランで上演している。K大学の演劇部だった時代、由紀が連れて来た幼なじみの朝川を受け入れ、彼の才能を認めていた。由紀を利用して捨てた朝川を許してはいないが、彼の目を覚まさせるべく、自分の舞台を見せるなど、朝川の再起に協力する。
大村 順一
エピソード「熱い砂」に登場する。田中町の町長選に立候補した男性。順一の妻とのあいだに修という小さい息子がいる。8歳の頃、この町に越して来て、実家は小さな雑貨商を営んでいた。体の弱い父親が新谷の伯父に選挙運動に借り出されて死亡。母親は選挙責任者にされ、総ての選挙違反の罪を着せられて逮捕されたという過去があり、伯父と町の人間への復讐心をたぎらせている。中学を卒業すると同時に東京へ出て、苦学して大学の夜間を卒業。大物政治家のカバン持ちとなり、その娘と結婚した。
名取
エピソード「売り娘」に登場する。東海新聞の記者を務めている男性。非常に鋭い勘の持ち主。吉川秀一という若手の建築家に過剰反応する著名な建築家の山田文博の謎を探っており、吉川と山田には「血」の接点があると推測している。
関口 亜絵美
エピソード「島」に登場する。石炭を掘るためだけに存在している小さい島に住む女子学生。父親と亜絵美の姉と暮らしている。東京へのあこがれが強く、組合を引き受けた父親が心労で亡くなったのち、田端を頼って姉と共に上京する。
植田 可奈
エピソード「摩天楼」に登場する。ファッションデザイナーの若い女性。夢だったオフィスを代々木に構え、広告代理店と組んで自らのブランドを売り出そうとしていた矢先、結核で入院する。以前は師匠の杉山の愛人だった。
岡村
エピソード「あの日川を渡って」「消えた国」「片隅」「埋火」「朽ちかけた斜塔」に登場する。片田良夫の相棒のベテラン刑事。岡村美智子の父親。足を使って捜査する事を信条としており、刑事という職業に生きがいを感じている片田を頼もしく思い、暖かく見守っている。かつて妻が危篤に陥った際も事件を追っていたため、美智子からは憎まれていた時期があった。のちに、報われない恋に苦しむ結婚前の美智子を案じ、自らが田中君子と悲しい恋を経験した旅館へと旅行に誘う。フルネームが「岡村一平」である事がエピソード「埋火」で明らかになる。
安田
エピソード「空白の走行」に登場する。一流商社「四井商事」の社員の男性。タクシー運転手の男性とは小学校時代から同じ学校に通い、同じ会社に入社してからも、変わらぬ友情を温めて来た。だが、タクシー運転手が戸川啓一が起こした交通事故の身代わりで逮捕された際には、彼に不利な証言をして、その後疎遠になった。出世にしか興味がなく、負けず嫌いで視野が狭い。
徳
エピソード「道」に登場する。みんなから「徳さん」と呼ばれているとび職の男性。幼いまことを引き取り、自分との関係は明かさずに、日本中を流れ歩いている。やきとり屋の女将といい仲だったが、自身が結婚を望まず、彼女の結婚のために女将とのあいだにできたまことを引き取った。
立原 達夫
エピソード「誕生日」に登場する。40代の男性。立原光夫の甥で、祖母の血のつながらない孫。広い屋敷に住み、父親が残した財産を食いつぶして生活している。いつもは庭の木々を眺め、本を読むという生活を送っている。好き勝手を言う祖母が家にやって来ると、苛立ちまぎれに普段と違う生活を送り、外の世界に触れる。のちに彼女が血のつながらない光夫と自分を愛し、無気力な自分を救おうとしてくれた祖母の真意を知る。
森川 章一
エピソード「川面」に登場する。プロデューサーの男性。大女優だった清水まりえの育ての親であり、愛人だった。侮蔑的な言葉を吐くのが、独自の愛情表現で、優しい言葉を口にするようになった事で、愛がないと敏感に察知したまりえに殺害される。
順二
エピソード「夏の跡」に登場する。廃線が噂される田舎の駅の駅員の男性。姉の理恵と暮らしている。優しい性格で、東京から帰って来た理恵をつねに気遣っている。姉と同じように哀し気な笑顔を浮かべる悲し気な女性が気になっており、待合室に泊める事になる。女性が横領犯だと知り、警察には咄嗟に「高原三号」に乗ったと噓をついてしまう。
石田 光彦
エピソード「穴」に登場する。大手銀行の部長職にいる男性。東大出身でまじめな性格の持ち主。企業戦士の姥捨て山と呼ばれる「あけぼの研修所」に送り込まれたが、最後まで自分が会社に見捨てられたと認めたくないため、命じられた穴掘りをまっとうしようとする。
弓子
エピソード「砂時計」に登場する。百貨店の販売員をしている女性。大学生だった3年前、フリーカメラマンの若林と組んでビニ本モデルのアルバイトをしていた。当時の夢は世界旅行と一流会社に就職して、エリート男性と結婚する事だった。小さい頃からずっと貧乏だったので、贅沢のためならなんでもやるつもりで生きている。若林が刑務所に入ってから、職場のエリート男性に求婚されたが受け入れずに退社し、仕事を転々としている。
清
エピソード「ささやき」に登場する。中学生の男の子。父親が借金を作って女と逃げ、母親はキャバレーで働いて借金を返している。その事でクラスメイトからいじめに遭っていた。老人と知り合い、自分を侮辱するような奴はいじめられてもしょうがないと言われた事で、目が覚める。
まこと
エピソード「道」に登場する。幼い頃、徳に引き取られた男性。徳と生活を共にし、いつしか彼と同じ建設現場でとび職の仕事をするようになった。成長してからは徳の表情を通して、彼の背負っているものを感じるようになっていき、自分が、徳とのぞみの母親である焼き鳥屋の女将との息子だと、おのずと知るようになる。仕事がない日は、プールで泳いでいるハンサムでクールな人物。のぞみを女性として意識していた時期がある。
川村
エピソード「黒の培養」に登場する。広告代理店の男性プロデューサー。業界のガンと呼ばれて悪名高く、ロリコン趣味がある。CMの撮影現場ではわざと撮影を長引かせ、女性タレントを毒牙にかけようと画策している。タレントが心臓発作で亡くなった際には、中沢と吉田に後始末を押しつけて帰って行った。
不満気なサラリーマン
エピソード「天国の午後」に登場する。しがないサラリーマンの男性。サラリーマンの元妻とは週に1度、中学生の娘に会うために、歩行者天国のオープンカフェで待ち合わせをしている。待ち合わせ前に、イマドキの若者、修と言葉を交わすようになり、失敗者の慎みがなく、それでいてどこか男っぽいと、彼に好感を持たれている。
栗原 清美
エピソード「八月の空」に登場する。サナエ・マルホーランドの孫娘。父親から詳細は知らされておらず、サナエの相手をするよう頼まれた。アルバイト感覚で東京見物に付き合っているだけで、サナエには反抗的な態度を取っていた。サナエの思い出話を聞いた自分の友人達が、サナエを快く受け入れた事で、最終的には栗原清美もサナエを祖母として受け入れる事になる。
花園 麗子
エピソード「荒地の温もり」に登場する。15年前に追川浩がチンピラを撲殺するのを目撃していた女性。その後浩と1年間同棲していた。現在は、新宿ゴールデン街で「レイコ」という店を営んでいる。気のいい性格で、決まった仕事や住所を持たないフーテンのような雰囲気を今も漂わせている。実は15年前に、浩が家を出る前に言った一言を寝ぼけていたので聞き逃し、なんと言ったかずっと気にかかっていた。
冴木
エピソード「掌の影」に登場する。冴木治美の夫。10年前に他界。治美に社員の塚本から金融の知識を学ばせたが、鬼のように冷酷なところがあり、治美から憎まれていた。心臓に持病があり、発作時に治美が薬を渡さなかったため、死亡した。人を信じるなと治美に教えていたが、自身は治美を信じていた。
関口 みわ
エピソード「雨宿り」に登場する。父子家庭で育った女性。前野純一と同じ会社で働き、彼と付き合っていた。父親に決して悲し気な顔を見せずにがんばって来た気丈な性格。強くなりすぎ、我慢する事に慣れてしまった。前野と結婚を意識するようになり、彼を避けるようになった。
吉岡
エピソード「日々」に登場する。正一の母が経営する喫茶店「ざぼん」の常連の男性。眼鏡をかけた売れない漫画家で、陰で正一の母から、人生に失敗した人だと言われているが、彼女と愛し合っていた過去がある。正一の母が男と駆け落ちした際には、喫茶店の臨時マスターとなり、永野正一の面倒を見るようになる。数年前まで月300ページを量産していた売れっ子漫画家だった。多忙過ぎる生活を経て、一日一日の事をちゃんと覚えている事が人生だという持論を有するに至った。
美幸
エピソード「祖母のしつけ」に登場する。仕事一筋に生きて来た独身女性。5歳の時に両親が交通事故死し、祖母に育てられた。厳しい祖母に対抗するには強くなるしかなく、仕事に没頭するようになる。入社以来初めて長期休暇を取り、具合の悪くなった祖母を自宅介護するが、祖母の死後、彼女の真意を知る。
丸尾
エピソード「日酒」に登場する。丸尾裕二の父親。貧乏でだらしなく、いつも飲んだくれていた父親を嫌い、その反動から一代で財をなした。金を持っていない貧乏人は正義や恋愛など存在しないものにすべてを賭けると、貧乏人やホームレスを毛嫌いしていた。
くみ子
エピソード「電話」に登場する。秘書電話会社のオペレーターをしていた女性。両親が無理をして有名私立幼稚園に入園させ、大学まで出したため、いつも生活環境の違う友達の中で、素直な感情を殺す術を覚えた。幸福という名の砂漠の中で青春を送っていたような気がしており、その反動で、関川明という売れないロック歌手のファンになり、彼と恋に落ちた。
丸丘 清
エピソード「…の後」に登場する。脚本家の男性。年齢は60歳。最近書く脚本が妙にチグハグになってきており、時代感覚のズレを自覚している。昔、自分の前から突然姿を消した下村ゆう子に似ている女優を、自分の脚本のドラマによく使っている。
亜絵美の姉
エピソード「島」に登場する。石炭を掘るためだけに存在している小さい島に住む女性。父親と妹の関口亜絵美と暮らしている。役所で働いているが、世間知らずで頼りない。すべて父親のいいなりで、自分では何も決められない。父親の死後、亜絵美と共に田端を頼り、東京で暮らすようになる。変わってしまった田端のせいで、水商売に身を落とした。田端が亜絵美を犯そうとした際、彼を包丁で刺してしまう。
太地
エピソード「ひび割れた土」に登場する。鬼土焼を継いだ男性。鬼土焼の創始者の娘、絹江と愛し合っていたが、彼女に自分を殺してほしいと頼まれて殺人の罪で服役している。土に対して異常な純粋さを持っており、この子には鬼がついていると言わしめるほど。
吉沢
エピソード「踏切り」に登場する。会社員の男性。かなえの夫で、自分の母親と一軒家で同居している。結婚して6年目だが、妻が家を出て行く事になったその日、踏切事故に遭遇し、自分の生き様を振り返る事になる。同期の中ではトップの出世頭で、そこそこ稼いでいるため、妻が何の不満を持っているのかをわかろうともしなかった。2年前に妻が子供を流産したという過去がある。
水上 研一
エピソード「雪の革命」に登場する。大手商社「丸忠商事」で課長を務める男性。既婚者で二人の子持ち。「ウルフG」という実在した学生の過激派グループのリーダーだった過去がある。昔の同志と「革命実行」を合図に落ち合った日、かつて男女の関係にあった戸塚道子が現れ意外な事実を聞かされる。
ますみ
エピソード「雪の手紙」に登場する。小樽の「大津ガラス工芸」で職人として働く女性。父親はおらず、ジャズダンスを専門とするダンサーの母親と、物心ついた時から各地を転々としていた。18歳の時、エアロビクスのインストラクターとなり、母親と教室を開き、落ち着いた生活を手に入れた。恋人だった石原哲也との仲を母親に反対され、彼を探して放浪するが、彼の死を小樽で知る事になる。
江崎 英二
エピソード「庭」に登場する。土木関係の作業員をしていた男性。中学を出て工場に勤めていたが、酒好きが高じてクビになった。田舎のあか抜けない町に両親と兄弟三人で暮らしている。江崎徹の兄で、江崎広一の弟。三原千恵と結婚し、地元で暮らしていたが、父親に似て大酒飲みであり、若くして亡くなった。江崎英二の葬式で、町を出て行った広一と徹が、千恵と顔を会せる事になった。
サラリーマンの元妻
エピソード「天国の午後」に登場する。売れっ子のヘアデザイナーの美しい女性。美容院を経営している。不満気なサラリーマンとは元夫婦。中学生の娘を父親に会わせるために、毎週歩行者天国のオープンカフェで待ち合わせをしている。男性関係が派手で、現在は修と付き合っており、お手当てを渡している。
女教師
エピソード「大人」に登場する。公立学校の若い女教師。ヤクザとつるむようになった男子生徒に、「男」に脱皮しろと命懸けで殴りかかる根性が据わった人物。幼い頃、母親が家を出て行き、父親と暮らしていた。グレていた15歳の時に、女教師の父に死ぬほど殴られた過去がある。
伊集院
エピソード「蜃気楼」に登場する。細川ゆかりの夫をひき逃げした男性。事業家だが裏で汚い仕事に手を染めており、愛人の有田可奈子に極秘書類を持たせている。可奈子が失踪したのちは、ゆかりを愛人にする。
長沼 文子
エピソード「黒の牧歌」に登場する。飯場の食堂で働く女性。年齢は19歳。鈴木平吉と3日間だけ暮らし、何者かに殺害された。裁判では異常性欲の持ち主で、毎日のように男をとっかえひっかえしていたと証言される。しかし実際は、平吉と気持ちが通じ合った事から、木賃宿の主人からの体の要求を拒んで逆上され、殺害された。
鶴見 妙子
エピソード「旗」に登場する。新しいゲームのソフトを作り出す天才少女。「秋葉原少年隊」と呼ばれていた少年少女建の一人で、太田がスカウトした。コンピューターと話している時が一番の幸福で、新しいソフトを作り出すと太田に褒めてもらえるのが嬉しく、仕事に没頭するようになる。何年ものあいだ、社会から隔絶されたスタッフルームで暮らしたせいで、次第に他人とまともに会話できないほど頭を摩耗させられてしまう。結果、多摩エレクトロニクス工業の埼玉工場の屋上に籠城してしまう。
広田 リサ
エピソード「冬の西瓜」に登場する。売り出し中の若手評論家の女性。天才詩人の広田英悟の娘で、父親の死後、住川隆夫に拾われた。出版関係を中心としていた活動をしていたが、大手広告代理店と組み、年を5歳ごまかして、テレビ界に進出する事になった。無駄に苦しむ父親のような人生より、住川のように人にまとわりついて生きる人生を選んだ。
松本 源助
エピソード「老木の舞」「空想地図」「皮」「過去を持つ愛情」「輪立ち」に登場する。私立探偵をしている高齢男性。元警視庁の刑事で、課長を務めていた。退職金と年金で悠々自適の生活が送れると思っていたが、孫が医大に入ったために退職金を持っていかれてしまい、「松本探偵事務所」を開業した。息子の松本良夫は東京地検の検事で、いっしょに暮らそうと言われているが、年寄り扱いされて暮らすのが嫌で、頑として断っている。松本たえ子は息子の嫁。良夫が幼い頃に妻の百合子を亡くしており、妻の生前に素直に愛情を示す事ができなかった事を後悔している。お金にならない仕事ばかり引き受けており、気遣った息子からの小遣いも拒否するなど頑固なところがあるが、中原ユミに付き合ってディスコで腰を痛めたりと、茶目っ気もある。事件の裏に隠された依頼人や対象者の思いを深く読み取る能力に長けている。
伊藤
エピソード「送り火」に登場する。東京の商社に勤めている男性。京都の大学に通っていた頃、親友の田辺順一の恋人だった田辺松代と、惹かれ合うようになる。翌年の大文字五山送り火の日に、松代とホテルで初めて密会した過去があるが、彼女とはそれきりで別れてしまう。発展途上国の援助事業の汚職にかかわり、警察にマークされている中、当時なぜ名門ホテルで松代と密会できたのかを疑問に思って京都を訪れる。
戸田 信子
エピソード「腐敗」に登場する。北上銀行の行員の若い女性。身寄りがなく、太川源治に育てられた。北上銀行の支店長やヤクザと組み、源治の弱味を握るために一役買った恩知らずな人物。自分と寝たのではないかと悩んでいた源治を一笑に付した事で、源治の怒りに火がつき殺害された。
秀司
エピソード「不良」に登場する。病院の院長をしている男性。ヤクザ相手でも平気でケンカしていた札付きの不良だったが、ある事がきっかけとなり、大検を受けて医大に入学し、医者になった。昔から世話になっている警察の梅原署長に、感受性が強すぎて不良になったと言われている。赤ん坊を育てながらホームレスをしていたヨシエと出会い、その壮絶な生き様に触れ、更生するに至った。のちにヨシエが背負っていた赤ん坊を探し出し、医者として育て上げた。
祖母 (そぼ)
エピソード「相づち」に登場する。ゆかりの父方の祖母。竜一の母親。谷で暮らし、病気になったゆかりの母親の世話をしている。夫の言う事に相づちばかり打っていた人生だが、夫にいつも夢を見ていた。現実であろうが空想であろうが、それはどうでもよく、今もゆかり相手に空想の話をよくする。すべてに達観しているような、人生に長けている人物。
永野 正一
エピソード「日々」に登場する。有名私立小学校に通っている男の子。学校の中で自分の家が一番貧乏である事を恥じ、いつも全速力で走って家に帰っている。正一の母が経営している喫茶店の常連客は人生に失敗した大人だ、と母親から吹き込まれている。母親が失踪し、常連客の一人、吉岡と共同生活を始める事になる。
夏木 麗子
エピソード「聖橋」に登場する。名家である夏木家の長女。田舎の病院で働いている。頭脳明晰な美女。恋人の俊夫と暮らすため、家を出たが、学生運動で負傷。自分をかばった俊夫の視力はほとんど奪われてしまう。麗子の母が俊夫を自殺に追い込んだ事から、母親とは距離を置くようになった。
若い女性
エピソード「砂の絵」に登場する。月丘さゆりと白鳥英悟に過去を消す仕事を依頼した女性。一流企業の御曹司と結婚を前提として交際しており、特殊浴場で働いていた過去を消し、「M電器」の秘書をしていたという過去にすり替えた。結婚を申し込まれたとさゆり達に連絡を入れたあと、姿を消す。後日相手が結婚詐欺だった事が判明して、自分の過去を取り戻すべく特殊浴場で働き、再びさゆり達のもとを訪れる。
美沙
エピソード「紺碧の宴」に登場する。沖縄の那覇市にあるスナック「バーディ」のホステスの女性。ママの妹。漁師の夫がいる。8年前に「海洋博」のイベントのために滞在していた清水の助手としてアルバイトし、彼と男女の仲になる。その後、博という子供を生んだが、戸籍上は姉の子供として育てている。
金子
エピソード「あだしの」に登場する。「藤金商事」の会長の男性。ヤクザの親分。顔の長い痩せた老人で、眼鏡をかけている。加藤修がヤクザ風の男を殺害したところを助け、修と佐知子をうまく騙して東京に連れて行った。弱味を握った人間を手下においておくのが常套手段だが、最後は佐知子に銃で射殺される。
まさえの祖父
エピソード「扉」に登場する。まさえの祖父。まさえの弟の静一と海辺の町で暮らす、偏屈で変わり者の高齢男性。訪ねて来たロングヘアの女性を家に滞在させ、まさえに対して罪悪感を抱えている女性に、「生きるちゅうのはズルズルズルズル引きずる事です」と伝えた。
小山 次郎
エピソード「荘厳な残像」に登場する。ミッション系の大学の教授を務めている男性。工場街の大衆食堂を切り盛りする家で育ち、焼き鳥屋を経営している兄がいる。汗と油の混ざった男達のいる世界から逃げ出したくて、苦学して大学に通っていた。ある名物教授の授業で、絶望的な状況に陥る。しかし教授から信じられる大人になれとのエールを送られ、考え方を一変させる。
江田 耕平
エピソード「改札口で」に登場する。エリートサラリーマンだったハンサムな男性。口ひげをたくわえている。離婚歴があり、子供もいる。学生時代からの友人だった水沢に、出社拒否になり堕落生活に至った要因が子供への嫉妬だと語った。のちに、寸借詐欺で逮捕される。
主任
エピソード「ツリー」に登場する。会社の資金運用を任され、株式投資で実績を上げた主任の男性。しかし株価は暴落し、無意識に自殺しようとするほど精神的に追い詰められている。公私にわたりアシスタントとしてサポートしてくれた響子が、真夏に毎年ベンチに座っているサンタクロースの話をした時に、なぜだかわからないが、彼女に生理的嫌悪感を抱くようになった。
石原
エピソード「真昼の漂流」に登場する。課長職にあるサラリーマンの男性。年齢は30代。派閥争いにあまり興味はなく、自分が西田派に属していたという事も知らなかったほど。西田本部長が失墜し、課の人間を子会社に出向させる事を部長に命じられるが、ある時から何者かに尾行されるようになる。
ルミ
エピソード「夢の破片」に登場する。「岡士朗法律事務所」の女性事務員。保護観察に付された元不良で、口が悪い。安い仕事ばかり引き受ける岡司朗をあんた呼ばわりしているが、態度とは裏腹に司朗を慕っている。
昭
エピソード「一年」に登場する。東京のディスコで働く黒服の男性。頰が削げており、鋭い目つきをしている。店長になるのが夢で、客である芸能人の事を美子と共に、自分の事のように語り合っているうちに、美子と付き合うようになる。自意識が高く、自分も一流芸能人と同格の人間であるような錯覚をしている。
チズ
エピソード「雪」に登場する。お助け寺の和尚に預けられた女の子。お兄ちゃんを慕っていた。いつも砂糖をくすね、つらい環境の中、二人で舐めて慰め合っていた。実は和尚に性的ないたずらをされていたが、我慢して耐えていた。1年後、養女にもらわれる。現在はラーメン店で働いていており、銀行強盗をして逃げ込んだお兄ちゃんと再会する。
津々井 太
エピソード「微笑」に登場する。会社員の男性。やす子の夫で、4歳の息子、しげるの父親。郊外のベッドタウンに念願のマイホームを無理して購入したばかり。父親は7年前、母親は2年前に亡くなっている。自分の父親を最後まで愛してくれたサチには情愛を感じており、ある意味、自分の母親だと認めている部分がある。
メガネをかけた支店長
エピソード「原色の河」に登場する。三富士銀行の支店長を務めている男性。若さを信用していなかったが、ディスカウトショップを経営している鳥居力の情熱にインスパイアされ、計画書の手直しを自ら手伝うほど彼に惚れこんでしまう。女子大生番組に出演している娘の理果に対して忸怩(じくじ)たる思いを抱いている。
叔母
エピソード「あこがれ」に登場する。凉子の家に同居していた女性。凉子の父親の妹。病弱だが美しく、ほとんど布団の中にいたが、気分のいい時には花を活け、お茶をたてていた。起きている時はいつもきれいにしており、兄からは大切にされていた。実は意地悪な性格であり、子供が生めずに離縁されたせいで、子供を持つダヅ子を嫌っており、タヅ子が夫から怒られるよう、陰で嫌がらせをしていた。ダヅ子からその事で平手打ちを受け、あてつけに自殺した。実は病弱ではなく身体は丈夫だった。
杉田 君夫
エピソード「陽のあたる影」に登場する。真美の叔父。真美の母に好意を持っていた男性。独身を貫いていたが、真美が就職した頃に見合いで結婚した。のちに真美の母親と秘められた仲だった事が判明する。
菊地 英次
エピソード「最終便」に登場する。出世できないサラリーマンの男性。もうすぐ43歳になる。既婚者で、大学受験生の息子の英太の父親。入社当時に「言いたい事が言える」組合を作ろうとした事で、サラリーマンとして十字架を背負わされる事になり、以降は駄目サラリーマンとして甘んじている。しかし妻と息子には、その辺りの事情を理解されている。
サナエ・マルホーランド
エピソード「八月の空」に登場する。35年ぶりにアメリカから日本に帰国した女性。空襲の中、助けられた日本兵に強姦され、15歳の時に子連れの娼婦となるが、のちにジミーという米兵に出会う。その後、アメリカで暮らす事になり、ジミーの両親の承諾を得て子供を呼び寄せるはずだったが、朝鮮戦争でジミーが戦死して状況は一変。子供に仕送りしながら、死に物狂いで働いた。癌で余命数か月の命だと宣告されている。
佐々間 英二
エピソード「街」に登場する。服飾業界で成功している男性。佐々間美保の夫。年齢は37歳。短髪で口ひげをたくわえたダンディーな雰囲気を漂わせた人物。かつてパリで芸術家を目指し、美保と暮らしていた。日本で成功してからは、金勘定ばかりで多忙になり、人生の意味を見失っていく。
岩波 由紀子
エピソード「腐葉の森」に登場する。社宅に住んでいる美しい主婦。工場長の岩波隆夫の妻。喘息持ちで体が弱い。恋人だった隆夫がアメリカに留学した際、覚醒剤に溺れた過去があり、強迫観念が強い。噂好きの田所房子に、悪い噂を広められるのではないかとの思い込みから、次第に自分で自分を追い詰めていく。
吉村 千代子
エピソード「蒼き果てにて」に登場する。「阿部会計事務所」に勤める若い女性。夜学に通っている。欠点が多い桑田尚一を愛しており、彼さえいれば幸せだと感じている。尚一が顧客のお金を持ち逃げしたと聞いて自暴自棄になり、職場の同僚と一夜の関係を持って妊娠してしまう。その後、尚一に罪をかぶせようとした上司に尚一が殺害されたと知り、お腹の子供と共に死を決意する。
水沢
エピソード「改札口で」に登場する。サラリーマンの男性。妻と子供の三人家族。10年ぶりに会った友人の江田耕平が、子供への嫉妬から出社拒否になって堕落したと聞き、それが心に重くのしかかる。人生を踏み外さないよう、想像した通りの現実を生きているが、江田が人生を踏み外したと知り、何かしらの変化が心に起きる。
江上 京太
エピソード「アリの巣」に登場する。暴力団の幹部を務めている男性。タイの密林を利用し、一人200万円で殺人を請け負っていた。自分で手を下す事もあったが、多くは現地の手駒のプロに殺害させていた。10年間タイで暮らし、幸せになれないとわかっていながら家族も持っており、息子が一人いた。6年前にタイから帰国し、今も夏になるとタイでの悪夢に悩まされている。
渡部 富子
エピソード「海のある風景」に登場する。渡部恵子の母親。温泉街の芸者をしていた中年女性。心臓が悪く、倒れた際、谷村健造の世話になった。のちに芸者に復帰するが、家に連れ帰った客に乗せられ、酒席の座興を引きずっていたせいもあり、健造を刺してしまう。
鈴木 章一
エピソード「面影花」に登場する。西北大学の英文学教授を務める男性。昨年自殺した鈴木恵美の父親で、年齢は50歳。眼鏡をかけた実直な人物。大恋愛で学生結婚し、妻は5年前に亡くなる。娘を自殺に追い込んだ宮田みち子を警察に引き渡すが、それは復讐心からではなく、今ならみち子はやり直しがきくと思っての事だった。
溜造
エピソード「草原」に登場する。山小屋を経営し、親に捨てられた子供達の面倒を見ている高齢男性。純真な性格で、身寄りのない子供達をただ不憫に思って世話していた。3年前に亡くなった際には、赤瀬金一からは一銭も金をも受け取っていないので、赤瀬に頭を下げる必要はないと隆に打ち明けていた。
川本
エピソード「風の消えた街」に登場する。NHBテレビのプロデューサーの男性。劇団「蒼い風」が「東京阿波踊り」で盛り上げる姿を傍で見ていた人物。輝いていた頃の蓮次をもう一度取り戻してほしいと、彼を「東京阿波踊り」に誘う。
薫 (かおる)
エピソード「弟」に登場する。弁護士の男性。次郎の弟。エリートばかりの家族の中で、浮いた存在の次郎を軽蔑していた。しかし学生時代、ウエイトレスをしていた恋人の静江に子供が生まれるが、静江は死亡。その子供の幸夫を次郎が引き取って育ててくれた事により、次郎を尊敬するようになる。頭がよく、在学中に司法試験に合格している。
砂場
エピソード「蛾」に登場する。阿佐ヶ谷にあるアトリエや予備校、アパートのあいだを行き来するだけの生活を送っている女性。休みの日は、一日中アパートにこもり、部屋に住み着いた「蛾」を描く事に費やしている一風変わった人物。宮崎の銀行家の娘で、高校生の頃、財産目当てで悪い男に騙された事がある。お洒落や遊びに興味がなく、優しくしてくれる森に利用されている。
犯人
エピソード「動機」に登場する。都内の有名大学を卒業し、大手保険会社に就職したばかりの男性。女子大生連続殺人事件の犯人。自分をエリートと自覚するものの、研修で戸別訪問のセールスをさせられ、上司から叱責された怒りが頂点に達していた時、訪問先の女子大学生にすげなくあしらわれて第一の犯行に及んだ。その後、マスコミの記事を自分の社会的評価だと錯覚し、自分にふさわしい注目を集めていると満足していた。
ちずる
エピソード「風の消えた街」に登場する。劇団「蒼い風」を蓮次と共に立ち上げた女性。蓮次を支えて来たが、「東京阿波踊り」での毎日の舞台に加え、激しい特訓で体調を崩してしまい、過労による心不全で亡くなった。
裕子
エピソード「坂」に登場する。独身のキャリアウーマン。年齢は34歳。大学3年生の時に母親が他界し、裕子の父がほかの女性と暮らし始めたので、大学卒業後は鎌倉のマンションで一人暮らしをしている。何人かの男性と付き合ったが、女性にだらしなかった父親の姿と重なり、結婚には至っていない。幼い頃は、ハンサムでテレビ局勤務の父親を自慢していた。
藤本
エピソード「渦」に登場する。情報産業の会社を経営する男性。綾にプロポーズするが、多忙を理由に断られている。働き詰めなのに加えて、綾に合わせて生活する事に疲れ、見合いで結婚する事を決意する。
刈屋
エピソード「小さな余韻」に登場する。大手広告代理店「博通堂」に勤めている男性。刈屋奈津の父親で、妻とは別居中。数年前から閑職に追いやられ、妻が世間体だけのために籍を動かしていないと知り、性悪のホステスと同居するようになる。だが3年前、ホステスが小さい娘を置いて逃げ、その子供を育てている。
竜一
エピソード「相づち」に登場する。会社社長の男性。ゆかりの父親で、祖母の息子。妻は自分の浮気で家出し、祖母の家で病気の療養をしている。谷に生まれ、早くここを出たいと、物心ついた時から思っていたが、祖母が暮らすこの谷に夢を置いて来たような気がしている。いつも父親の言う事に静かにうなずいてばかりの母親を、小さい頃は馬鹿にしていた。しかし今は夫に対して夢を抱き続ける素晴らしい女性だと思うようになった。
クレジット
- 原作