あらすじ
父が借金を作って蒸発し、母は昼夜問わず働いている母子家庭の空賀カケル。母を助けるためバイトに精を出すが、しだいに高校の授業にはついていけなくなり、落ちこぼれ仲間とつるむように。将来には夢も希望もなく、死んだようなつまらない日々を過ごしていた。家賃の支払いも遅れている中、母が修学旅行の資金を用立ててくれた。行き先は長崎。遠慮するカケルに、母は「私のためにも長崎に行って楽しんできて欲しい。ちゃんぽんも絶対食べてきな」と言う。カケルは飛行機に乗るのは初めてで「飛行機は落ちないの?」と妃という客室乗務員(CA)に質問する。彼女から落ちる確率はとても低いと聞いていたが、飛行機の揺れは尋常じゃない。恐くなったカケルは妃の方を見ると、目を潤ませ、神妙な面持ちで首を横にふっている。それを見てパニックに陥ったカケルは「ちゃんぽん食うまで死にたくねぇ~」とつい本音を大声で叫んでしまう。しかしその揺れは危機的状況などではなく、CAの妃にからかわれただけだった。謝りながら、ちゃんぽんの美味しい店を教えてくれた妃は、乗客の非日常に立ち会えるCAの仕事は自分にとって天職だと語る。そしてあなたを生かしてくれる仕事もなにかきっとあるはずとカケルに空の仕事を勧めた。
修学旅行を終え、家に戻ったカケルはパイロットなる方法を調べた。学歴も能力も費用もないカケルは途方にくれるが、妃がくれたちゃんぽん店のメモは、名刺の裏だったことに気づく。名刺には日本エアラインサービス本社人事部高殿という男性の名前が書かれていた。カケルは藁にもすがる思いで、高殿に電話をしてみた。高殿は高卒ではパイロットにはなれないと軽くあしらわれるが、カケルは借金をして大学に行く余裕はないという自分の置かれた環境を赤裸々に告白し、それでも空の世界で働きたいのだと熱く語る。すると熱意に押された高殿は、子会社に高卒でもCAに応募できる会社が一つだけあることを教えてくれ、最終面接の手前までは話をつけてくれるという。日本のCAの男女比は1対99でド級の女社会。男には過酷な世界かもしれないと高殿は心配するが、空の世界で働きたいと情熱を燃やすカケルにはそれは大した問題ではなかった。
こうして日本アイランド航空の最終面接を受けることになったカケル。面接官に自社が2~3年後、全面撤退する恐れがあること、高卒では本社に移ることは難しいことを告げられる。ここでも大学へ行ったほうがいいと勧められるが、カケルは1年でもいいから雇って欲しいと死にもの狂いの訴えで面接官の心を打つ。こうして日本アイランド航空に採用されたカケル。彼がCAになるための訓練の日々が始まろうとしている。
登場人物・キャラクター
空賀 カケル (くが かける)
男子高校生。初めて乗った飛行機で妃という客室乗務員(CA)と出会い、自分も空の世界で働きたいとCAを目指すことになる。幼い頃、父が借金を作って蒸発し、母は昼夜問わず働くが、家賃の支払いも遅れるほど貧乏な家庭で育つ。母の苦労を分かっているため、バイトで家計を助けようとする優しい少年。性格は素直で単純な猪突猛進タイプ。 いままで将来には希望が持てず、いつ死んでもいいとさえ思っていた。学校の授業をちゃんと受けておらず、難しい言葉や英語はほとんどわからない。まったく泳げないかなづちでもある。
高殿 (たかどの)
日本エアラインサービス本社人事部兼羽田客室部客室統括チーフ。無精ひげを生やし眉毛の濃い中年の男性。たまたま自分の名刺が空賀カケルの手に渡り、カケルがCAになるための手助けをする。もがく若者をはたから眺めて楽しむ趣味の悪いおっさんだと自称するが、カケルに発破をかけたり、さまざまなアドバイスをしてくれる。子会社日本アイランド航空にカケルを推してくれた人物。 策士で口は悪いが照れ屋でかわいいところもある。
山本 正義 (やまもと まさよし)
空賀カケルの同級生で友人。前髪を横分けにしている男子高校生。カケルと仲が良く、修学旅行の長崎も一緒にまわった。地元を出る勇気がなく、高校を卒業したらカケルと一緒に先輩の叔父さんの工場で働くつもりでいた。CAになるために懸命なカケルを見て、自分も手に職をつけ、職を選べる人間になるため、機械系の学校に進学することにした。 カケルよりは賢く、よくカケルの間違いを指摘する。
八雲 はな (やくも はな)
日本アイランド航空の新入社員。空賀カケルと同期のボブカットの女性。20歳。周りのCAも一目を置く美人。幼い頃、八丈島の祖母の家に預けられており、3~4か月に一度、両親に会いに日本アイランド航空の飛行機で東京に来ていた。その時のCAに良くしてもらい、自分も日本アイランド航空のCAを目指すことに。そのため、人一倍、日本アイランド航空に思い入れがある。 いきなり教官に噛みつく発言をしたりと気の強いところもある。カケルと違い、かなりの優等生。
妃 (きさき)
日本エアラインサービスの客室乗務員(CA)の女性。空賀カケルが修学旅行の際に乗務し、飛行機が揺れた際、落ちることを想像させる迫真の演技でカケルをからかった。カケルのいつ死んでもいいという発言に対し、「自分は素敵な景色と人々の非日常に出会えるCAという仕事に出会えた。今がつまらないなら、その世界から飛び出して自分を生かしてくれる仕事を探すといい」とカケルに空の仕事を勧めた。
場所
日本アイランド航空 (にほんあいらんどこうくう)
日本エアラインサービスのグループで子会社。空賀カケルや八雲はながCAとして入社した。羽田と東京近郊の離島に就航しているエアライン。ボンバルディアという74席ほどの小さな飛行機で飛ぶことが多い。地方路線は乗客が少なくても公共交通機関の役割を担っているため、赤字のまま飛ばしている路線も多い。日本アイランド航空も赤字のため、2~3年後に全面撤退し、会社がなくなってしまう可能性がある。