あらすじ
第1巻
日本人女性初のF1パイロットを目指す女子高校生の岬愛華は、カーレース「フォーミュラガイア」のプロドライバーとして活躍している。「ゼロエンジェル」の異名を持つ愛華は、学校生活だけでなくプロドライバーやモデルとしても忙しい日々を送る中で、新たなマシンを手に入れる。それは純白の羽根を広げた碧き「スバルWRX STI」。WRXに魅せられた愛華はさっそく慣らし運転をしながら、友人の加賀萌、山根彩子と共に新たなカーライフと高校生活を楽しんでいた。そんなある日、愛華の大ファンである男性が彼女のWRXを発見。愛華が萌と彩子を乗せて運転する中、WRXが愛華の新車であると気づかぬまま、ファンの男性は青いプリウスで公道勝負を挑んできた。爽快な走りでプリウスを返り討ちにした愛華は、初勝利を得たWRXを「ブルーコメット」という愛称で呼ぶようになる。こうして愛華とブルーコメットによる、華々しいカーライフが始まる。愛華はエクステリアの仕上がったブルーコメットを駆って、公道でも無敗街道を爆進する順調な日々を送っていた。そしていつものように登校した愛華は、以前から教習所に通っている彩子が、厳しい男性教官に困っているという話を聞く。彩子を心配するとともに「幻のECUチューナー」の噂を聞いた愛華は、ブルーコメットのECUチューンのために祝福町へ向かう。
第2巻
「ブルーコメット」と名付けた愛車「スバルWRX STI」を駆る岬愛華は、幻のECUチューナーの六月次元との公道勝負に勝利し、約束どおりブルーコメットのECUチューンを彼に依頼する。知名度の高さから、公道でも走り屋から頻繁に勝負を挑まれる愛華だったが、ある走り屋に挑まれた勝負では体調を崩してバトルを続行できなくなってしまう。その様子を謎の男性が監視していたことに、愛華は気づかないままだった。そんな中、以前より教習所に通っていた山根彩子が運転免許を取得する。しかし、彩子が取得した免許はAT限定で、彼女が乗る予定だった「チンクチェスト」には乗れないことが判明。落ち込む彩子に対し、愛華は再度教習所に通って限定解除するよう提案するが、鬼教官のいる教習所にはもう通いたくないと拒絶する。一方、愛華からコーディングのメンテナンスを頼まれていた次元は、ブルーコメットに乗って帝都光英学園高等部に来ていた。エンジンがかかったまま止まっていたブルーコメットを見つけた彩子は思わず乗車し、運転の仕方もよくわからないままで学校の敷地内を走り回ってしまう。それを偶然発見した香由梨を通し、彩子がブルーコメットに乗っていることを知った愛華は、急遽チンクチェストに乗って彩子の乗るブルーコメットを止めようとする。
第3巻
岬愛華は、友人の山根彩子や加賀萌と共に順風満帆な高校生活を送っていたが、そんな彼女にクラスメートの高柳見留が急接近するようになる。見留は愛華の友人になったふりをしながら、彼女のプライベートな情報に探りを入れていた。実は見留は、以前から愛華に目をつけていた高柳一心の妹で、愛華の調査も彼の依頼によるものだった。愛華への執着心を暴走させた一心は、彼女を誘拐して病院に運び、その体を徹底的に調査しようとする。それを見かねた見留に裏切られ、愛華の調査に失敗した一心は改めて彼女の実力に興味を持ち、真正面から公道勝負を申し込む。愛車「GT-R R35」と共に愛華に挑む一心だったが、彼女のドライビングテクニックとブルーコメットのパワーの前に完敗。その後、勝利を喜ぶ愛華の前に、ドイツにいるはずの轟麗菜にそっくりな女性、響菜緒美が姿を現す。そのまま菜緒美に公道勝負を挑まれた愛華は、自分にさまざまな影響を与えた麗菜との過去を思い出しながら勝負に備える。麗菜はかつて車を勝負の道具として扱っていた愛華に、車の本当の楽しさを教えてさまざまな影響を与えたあこがれの女性でもあった。菜緒美に勝利した愛華は、かつて麗菜に教わった車の本当の楽しさについて、菜緒美に語り出す。菜緒美との勝負を通して麗菜を恋しく思った愛華は、ドイツのどこかにいる彼女に向かって呼びかけるのだった。
第4巻
高柳見留が自動車部に加わり、部員が三人だけだった自動車部はにぎやかなものとなっていた。さらに岬愛華の提案で、自動車部は新たな目標に向かって活動するようになった。それは高校生向けのカーラリー大会「全国高校生ツーリング選手権」に、自動車部のメンバーで出場するという目標だった。そんな中、次々と挑まれる公道勝負で無敗を更新する愛華に、六月次元によるサポートチーム「チーム愛華」が作られる。チームに支えられながらツーリング選手権に向けて特訓を始めた愛華は、初心者ドライバーの山根彩子や加賀萌、新入部員の見留と過ごす時間が増えたことで、新たな感情が芽生え始める。ツーリング選手権を終え、審査員特別賞をもらった愛華たちは楽しい思い出を作ると同時に、より信頼と絆を深めていた。後日、愛華はある思いから「公道勝負を申し込まれても二度と受けない」と決断し、それを次元に告げる。しかしその一方で、愛華のパーソナルマークを貼ったWRX STIが、首都高速で無法な公道勝負を仕掛けては多数の車を傷つけているという噂が広まっていた。愛華の評判を下げかねないと、次元は真相を確かめるべく一人で夜の首都高速へと繰り出す。そこで次元が見たのは、車だけでなく見た目も愛華そっくりにまねた、偽者の姿だった。次元の話を聞いた愛華は偽者を追い、ドライバーとしての人生を懸けた最後のバトルに挑む。
関連作品
本作『ゼロ エンジェル ~爽碧の堕天使~』および『彼女のカレラRS』の続編として、麻宮騎亜の『彼女のカレラGT3』がある。『彼女のカレラGT3』はドイツから帰国した轟麗菜を主人公とする日常系カーコミックで、麗菜と愛車「ポル君」による新たなカーライフやカーバトルを描く。麗菜の従妹であり、本作で主人公を務めた岬愛華も登場している。
登場人物・キャラクター
岬 愛華 (みさき あいか)
帝都光英学園高等部に通う女子で、日本人女性初のF1パイロットを目指しているプロドライバー。群馬県出身で、年齢は19歳。黒髪のセミロングで、右目の下に泣きボクロがあり、頭頂部には一本のアホ毛が立っている。「ゼロエンジェル」の異名を持ち、口癖は「絶対人は天使の羽根に触れることはできない」。一見華奢な体型ながら、高い運動能力と的確な判断力を持つ。都会に出てからはカーレースカテゴリ「フォーミュラガイア」で活躍するプロドライバーとしてだけでなく、雑誌やCMのモデルとしても活動中なため、熱心な男性ファンも多い。愛車は「ブルーコメット」と名づけられた「スバル WRX STI」で、その前は「ポルシェ 911GT3」に乗っていた。ドライバーとしてのプライドが非常に高く、サーキットはもちろん一般人相手の公道勝負においても、手を抜いたり油断したりすることなく無敗を誇っている。現役女子高校生のプロドライバーとして走り屋のあいだでも知名度が高いため、突然絡まれたり公道勝負を挑まれたりすることもある。学園では加賀萌や山根彩子と共に過ごすことが多く、彩子発案の「自動車部」の一員としても順風満帆な高校生活を送っている。昔は車を「勝負のための道具」としか見ていなかったが、その頃世話になっていた轟麗菜から車と向き合うことの楽しさを教わり、人と車の関係を心から楽しむようになった。クールで大人っぽい発言が多いため、「本当に高校生なのか」と周囲に疑われることもある。
加賀 萌 (かが もえ)
帝都光英学園高等部に通う女子で、岬愛華のクラスメート。長髪を大きなお団子にまとめた天真爛漫でピュアな心の持ち主。山根彩子とは幼なじみ。彩子が作った「自動車部」の一員で、明るくおちゃめな性格で場を和ませるムードメーカー的な存在。
山根 彩子 (やまね あやこ)
帝都光英学園高等部に通う女子で、岬愛華のクラスメート。「自動車部」の発案者であり、自ら部長を務めている。加賀萌とは幼なじみ。明るい性格のしっかり者で、愛華や萌を引っ張っている。運転免許取得のために教習所に通っているが、厳しい男性教官に少々悩まされている。免許取得後は自動車部の「チンクチェスト」に乗る予定だったが、取得した免許がAT限定であったために乗ることは叶わなかった。ある事件をきっかけに、厳しい男性教官の正体が愛華の知り合いでもある六月次元であったことを知る。のちに愛華や次元の協力を得ながら限定解除し、愛華の運転指南を受けてチンクチェストにも乗れるようになった。少々お調子者なところもあるが責任感は強く、自動車部部長らしく部員たちを引っ張れるよう、「くるまマイスター検定」に挑戦するなど日々努力している。
香 由梨 (かおり ゆり)
帝都光英学園高等部に通う女子で、岬愛華のクラスメート。車にはあまり詳しくないが横浜在中のため、横浜を訪れることが多い愛華の案内役を務めている。
六月 次元 (ろくつき じげん)
横浜の祝福町にショップを構える幻のECUチューナーの中年男性で、愛車は「WRX S4」。色黒の肌で、モヒカンの髪型にしている。若い頃は売り出し中のチューナーとして活躍し、走り屋から運転初心者まで幅広く対応して、さまざまな車の本来の力を解放してきた。その実力は車のフルポテンシャルを解放する魔導士「ハマのウィザード」の異名を持つほどだったが、ある事件をきっかけにチューナーとしての熱意を失う。噂を聞きつけて祝福町を訪れた岬愛華と出会い、無料のECUチューンを賭けた公道勝負を繰り広げる。勝負には敗れたものの昔のような熱意を取り戻し、その後も知り合いのショップを紹介したりメンテナンスの助言をしたりなど、愛華のカーライフをサポートしている。実は山根彩子が通っている教習所の鬼教官でもあり、女子高校生相手でもいっさい甘やかさずに厳しく指導している。チューナーとして愛華とブルーコメットを支える中で、愛華の周囲に起こるトラブルやカーバトルにたびたび巻き込まれている。のちに愛華を支援するためのサポートチーム「チーム愛華」を発足し、金儲けも兼ねて多数のグッズも作成する。グラビアアイドルの桃瀬ユリの大ファン。愛華の依頼により、全国高校生ツーリング選手権にも後続車ドライバーとして参加した。
高柳 見留 (たかやなぎ みる)
帝都光英学園高等部に通う女子で、岬愛華のクラスメート。愛華に興味を持って急接近し、友人になったふりをしながら彼女の情報を探っている。それらの行為は兄の高柳一心に頼まれてやったことだったが、愛華に執着するあまり行き過ぎた行為に走る彼には、反発を見せるようになっていく。また一心からの依頼とは別に、愛華に対しては友情を超えた個人的な好意を抱いており、兄の誘拐行為を見かねて彼女を助け出す。これをきっかけに兄とは決別し、愛華とはあらためて友人になった。車にはあまり詳しくなく、車酔いしやすい体質。昔から一心の手伝いをさせられることが多いためにストレスを抱えていたが、愛華と友人になったのをきっかけに、兄の手伝いに悩まされる窮屈な生活から解放される。その後は自動車部に入部し、愛華たちと共に行動することが多くなる。
高柳 一心 (たかやなぎ いっしん)
横浜の走り屋チーム「ダーク・フェニックス」に所属している走り屋の男性。愛車は「GT-R R35」。高柳見留の兄で、ふだんは医者を務めている。女子高校生プロドライバーとして活躍する岬愛華に執着し、見留や手下を使って彼女の持つ運動能力やスピード能力の秘密を徹底的に調べ上げようともくろむ。また、愛華との勝負に勝つことでダーク・フェニックスの名を全国に轟かせようとしている。直接的な調査のために手下を使って愛華を誘拐するが、見かねた見留に裏切られる。結果的に愛華の調査には失敗するもののあらためて彼女に興味を持ち、正面から公道勝負を申し込む。
轟 麗菜 (とどろき れいな)
岬愛華の従妹で、車雑誌の編集者を務める女性。愛華と一時期同居していたがドイツ支社に転勤になったため、数年前から彼女と離れてドイツに住んでいる。巨乳の美女だが性格はやや天然でのんびり屋な一面もある。かつて勝負の世界で車をあくまで道具として扱っていた愛華に、車の真の楽しさを教えるなど大きな影響を与え、彼女が昔からあこがれを抱いている。愛車は父親からゆずり受けたルビーストーンレッドの「ポルシェ 964RS(911 カレラRS)」で、「ポル君」の愛称で呼んで愛情を注いでいる。顔が響菜緒美とよく似ているが、ホクロの位置や胸の大きさが微妙に異なる。
響 菜緒美 (ひびき なおみ)
岬愛華が路上で出会った女性。顔は轟麗菜と瓜二つだが、性格やホクロの位置、胸の大きさなどが微妙に異なる。愛車は麗菜と同じく「ポルシェ 964RS」で、容姿や車から麗菜とまちがえられることが多い。ドライブ中に偶然愛華と遭遇し、麗菜とカンちがいされたことに腹を立てて公道勝負を申し込む。愛華には敗北するものの、彼女に諭されて車の楽しさや、自分の愛車と向き合うことの大切さを知る。
桃瀬 ユリ (ももせ ゆり)
天然系グラビアアイドルとして活躍するツインテールの髪型の女性。友人の岬愛華とはグラビア撮影で知り合った。愛車は「ランボルギーニ・ガヤルド」。ランボルギーニのコレクターであるため、「ミウラP400」や「イオタレプリカ」も所有している。同性愛者で、愛華にも何度か体を求めたことがあるがすべて断られている。美沙からの束縛に悩んでおり、彼女との公道勝負への参加を愛華に依頼する。
美沙 (みさ)
桃瀬ユリと肉体関係を持つ同性愛者の女性で、愛車は「NSXR」。独占欲が強く、心から慕っているユリにはやや一方的に束縛するような愛情を注いでいる。ユリとの関係を深めるために公道勝負を挑むが彼女の提案により、どちらが岬愛華を先に追い抜くかという条件で勝負することになる。
調 真子 (しらべ まこ)
我王高校自動車部に所属する、気の強い女子高校生。調誠と共に、MR2で全国高校生ツーリング選手権に参加する。当日に向けてコースの試走をしていた時に岬愛華たちと出会う。
調 誠 (しらべ まこと)
我王高校自動車部に所属する男子高校生。調真子と共に、MR2で全国高校生ツーリング選手権に参加する。当日に向けてコースの試走をしていた時に岬愛華たちと出会う。岩浅はじめのファン。
岩浅 はじめ (いわさ はじめ)
「かえるレーサー」としても有名な男性漫画家。岬愛華の応援のために全国高校生ツーリング選手権に訪れ、彼女と再会する。
神崎 零 (かんざき れい)
岬愛華の偽者で、首都高速での無法な公道勝負を仕掛けては多数の車を傷つけている。愛華のブルーコメットと同じ「スバル WRX STI」を駆って、彼女のパーソナルマーク「ゼロエンジェル」のステッカーを貼っている。その正体はネットオークションで入手した制服とカツラで愛華のまねをした、六月次元のかつての顧客であり、元恋人でもある。次元のチューンを繰り返すうちにWRXがパワーアップし、それを自分の実力とカンちがいするようになり、平気で他人や車を傷つける歪んだ性格に変わっていった。かつては「ゼロエンジェル」の称号を持っていたが、同じ称号を得た愛華に嫉妬し、執着する。愛華の偽者になって評判を下げつつ、彼女に勝って自分こそが本物のゼロエンジェルであると証明しようとしている。愛華と次元に説得されるが聞き入れず、愛華に称号とドライバー人生を懸けた公道勝負を挑む。
その他キーワード
全国高校生ツーリング選手権 (ぜんこくこうこうせいつーりんぐせんしゅけん)
神奈川県で開催されている高校生向けの公道カーラリー大会で、五人以上のグループと二台以上の車で参加できる。通常のカーレースとは異なり、車の速さを競うのではなく無事故で正確に目的地に到着するのを目標としている。コースからはずれたり、道に迷って地図を確認したりする行為などは減点対象となり、出発時点から目的地到着までに残ったポイントで順位が決まる。一泊二日のスタンプラリー形式で、一日目は鎌倉のホテルを目指し、二日目は伊東からスタートとなる。