概要・あらすじ
動物と言葉が交わせる少年・俊輔は、鬼が跋扈する戦乱の世で、強い侍を目指し、拙いながらも日々修行を重ねていた。そんな俊輔が住む村に、鬼退治の一族の末裔である稚武章炎とその息子・稚武大吾がやって来た。村を襲う鬼の退治を依頼された章炎は、殺した人間を鬼へと変貌させる大鬼が、敵方にいることを悟り、鬼封じの力を持つ者がいない現状では、勝機が薄いと判断。
村人にこの地を捨てることを提案する。その夜、俊輔の自宅に泊まった章炎と大吾は、突如として村を襲撃した鬼を圧倒的な力で撃退。その強さに感銘を受けた俊輔は、彼らを手伝うために戦闘に参加するが、大鬼・破達羅の登場により、大ピンチを迎えてしまう。動物たちの力と章炎の攻撃でひるんだ破達羅にトドメを刺したものの、死んだ破達羅から湧き出た鬼の魂に取り憑かれ、自らが新たな鬼にされそうになってしまう俊輔。
だが、窮地の中で突如として発動した鬼封じの力により、俊輔は鬼を自らの体に取り込み、その能力を封じ込めることに成功する。しかし、混乱の最中に母親の藤が鬼によってさらわれてしまう。これを知った俊輔は、母親を取り戻すために章炎たちの旅に同行し、鬼封じの力を持つ者として、諸国に蔓延する鬼を倒すことを決意するのだった。
登場人物・キャラクター
俊輔 (しゅんすけ)
紀伊のとある地方に存在する村に住んでいる少年。年齢は12歳。頭頂部の髪が角のようにとがっているのが特徴。やんちゃで明るく、物怖じをしない性格で、鬼を倒すために強い侍になろうと、日々修行を重ねている。動物の言葉を理解できる特別な力を持ち、飼い犬の虎丸や村内を飛ぶ鳥と、頻繁に意思の疎通を図っていた。鬼退治をするために村にやって来た稚武章炎と稚武大吾の力に憧れ、彼らを手伝って、村を襲った鬼との戦闘に参加。 見事、大鬼の破達羅を打ち倒すことに成功する。その際に、鬼の魂を自らの体に封印できる鬼封じの力に目覚める。そして、藤から託された「廿禄紋数珠」を介し、封印した鬼の力を己の力として使えるようになる。その後は、鬼によってさらわれた母親の藤を救出するため、章炎たちに同行して、鬼退治の旅に出る。 道中では、無愛想で百姓嫌いを公言する大吾をライバル視し、ことあるごとに子供じみた衝突を繰り返していた。しかし、旅を続けるうちに、徐々に強い信頼関係を築いていく。のちに碧の新羅から、青葉百鬼丸の血族であることと、本名が「青葉俊輔」であることを知らされる。
稚武 大吾 (わかたけ だいご)
鬼退治の一族の末裔とされる若き侍の男性。強大な鬼・温羅を葬ったとされる伝説の人物「稚武彦吉備津彦命」の子孫。年齢は16歳。稚武章炎の息子であり、弓と剣の達人でもある。無愛想で、あまり感情を表に出さないタイプ。下級の鬼とすら戦おうとしない百姓を嫌っている。章炎には従順だが、口やかましい俊輔に対しては、度々子供じみたイタズラを仕掛け、低レベルな喧嘩を繰り返していた。 端正な顔立ちをしているが、女性は苦手。美人を前にすると極度に緊張して、うまく喋れなくなってしまう。
稚武 章炎 (わかたけ しょうえん)
鬼退治の一族の末裔とされる屈強な侍の男性。強大な鬼・温羅を葬ったとされる伝説の人物「稚武彦吉備津彦命」の子孫。年齢は33歳。ややおっとりした性格だが、通常の人間では到底太刀打ちできない鬼を、一撃で切り伏せられる天下無敵の実力者。息子の稚武大吾とともに諸国を巡り、鬼を退治し続けている。川合の依頼を受け、紀伊の村に鬼退治に来た際に、鬼封じ力を持つ俊輔と出会い、彼の力を見込んでともに旅をすることになった。 頭脳明晰で腕も確かだが、一直線の道であっても迷ってしまうほど、極度の方向音痴。金勘定にも疎く、路銀にはいつも困っている。胸に大きな傷がある。
一磋 (いっさ)
野臥(盗賊)の少女。鬼を滅ぼすために活動している「十二神党・伐折羅」の一員。年齢は14歳。俊輔の幼なじみで、幼い頃から俊輔をよくいじめていた。3年前、兄と山に入った際に、鬼によって兄を殺害され、自らも殺されそうになった。そこを運よく零十郎に助けられ、そのまま「十二神党・伐折羅」に入ることになった。零十郎を師匠と仰いで慕っており、鬼と戦うために日々毒草の研究に励んでいる。 性別は女だが、男を自称しており、俊輔からは「男女」と呼ばれていた。内心では俊輔を憎からず想っているが、いざ彼の前に立つと素直になれない。
零十狼 (れいじゅうろう)
鬼を滅ぼすために活動している「十二神党・伐折羅」の頭領の男性。鋭い目つきをした剣の達人で、長い布で口元から首を覆って顔を隠している。若い頃は人と獣の間に生まれた獣人であると噂され、寺の境内の下でひっそり住む孤独な人生を送っていた。稚武章炎にその実力を見出され、武者修行と称して一緒に鬼退治をしていた。その後に独立し、「十二神党・伐折羅」を作ることになる。 その動きは俊敏で、稚武大吾を圧倒するほどの実力を誇る。鬼封じの力は持たないが、鬼の呪いが効かない特異体質。稚武一族を憎んでいるようなそぶりを見せていたが、その理由を語ることはなかった。
七十狼 (ななじゅうろう)
鬼を滅ぼすために活動している「十二神党・伐折羅」の一員の男性。頭部を頭巾で覆っている。口臭が殺人的な臭さなので、口元を縫って開かなくしている変人。そのため「ンムムムッムンム」など、他人にはほとんど聞き取れない言葉でしか喋れない。食事は水や流動食が主なものとなっており、やせ細った体をしている。緊急事態には糸をちぎって大声を出す。
藤 (ふじ)
紀伊の村に住んでいる女性。俊輔の母親。年齢は28歳。村でも評判の清楚な美人で、家に泊まった稚武大吾をドキマギさせていた。俊輔とは血の繋がりはなく、俊輔本人にも、幼い彼を山で拾って育てた、と伝えている。俊輔からは実の母親のように慕われていたが、村を襲った鬼によってさらわれ、「朱雀城」の女郎廓に幽閉されてしまう。 稚武章炎に、俊輔について何か隠し事をしていることを看破されていた。
虎丸 (とらまる)
紀伊の村に住んでいるオスの子犬。俊輔の飼い犬で、主人思いの優しい性格をしている。小さい頃に親犬とはぐれてしまい、俊輔に拾われて育った。稚武章炎たちと旅に出た俊輔に同行。その道中で、俊輔の封印から逃れた鬼の魂に取り憑かれ、鬼と化してしまう。
櫻 (さくら)
桜井不動の集落にある庵で匿われていた美しい少女。年齢は17歳。とある城の姫だったが、目の前で鬼に両親を殺害され、ショックで言葉が喋れなくなった。「羅生門の扉」を開く「五行の鍵」を守る鍵守の生き残り。五行の鍵を解除する言葉を欲する鬼によって、連日拷問を受けていたが、剣介によって一時的に解放される。
稚与千代 (ちよちよ)
桜井不動の集落に住んでいた、心優しく、気の小さい男の子。年齢は11歳。自分から寺の小間使いを申し出て、手伝っている。鬼によって数の呪いをかけられているため、すっかり憔悴しきっており、俊輔たちに助けを求めていた。剣介とは、村の秘密を共有している。
佐ノ助 (さのすけ)
「伝令神人」の少年。吉備津神社に集められた鬼退治嘆願書を、各地の鬼退治をしている人間に配達する。年齢は17歳。「最速」をモットーにしており、走ること以外にも、食事や女性に手を出すこと、喋る速さなど、すべてにおいて最速を誇る。稚武大吾とは長い付き合いで、互いを信頼し合う無二の親友。
剣介 (けんすけ)
桜井不動の集落に住んでいた少年。年齢は12歳。大好きな櫻を助けるために、やむなく鬼に協力することを約束。1年間の期限付きで、櫻を拷問から解放させた。村人や俊輔にバレないように立ち回っていたが、問い詰められて、すべての企みを白状していた。
碧の新羅 (あおのしんら)
「朱雀城」を根城にしていた、強大な力を持つ儀式鬼にして色鬼の男性。常に左目を長い青髪で隠しているのが特徴。「稚武彦吉備津彦命」によって滅ぼされた温羅に仕えており、生と死をつなぐ「羅生門」を開け、温羅の魂を復活させようと画策していた。恐怖を「言霊」としており、右目に写った言霊を見た者の恐怖を爆発的に膨らませ、最後には死へと導く。 俊輔との決戦では、すさまじい力で俊輔と稚武一族を圧倒する。
破達羅 (はだら)
人間から恐れられる大鬼の一種。忍装束をまとった「大忍」で、性別は不詳。鬼の集団を率いて俊輔の村を襲撃していたが、稚武章炎の攻撃と、俊輔と意思の疎通を図った鳥の攻撃によって、体勢を崩されたスキに、俊輔の刀で頭部を貫かれて敗北する。死後も鬼の魂となって、俊輔を鬼に変えようとするが、鬼封じの力によって俊輔の体内に封じられた。
温羅 (うら)
かつて日本に住んでいた鬼の始祖。性別は不詳。「稚武彦吉備津彦命」によって討たれ、死に際に地獄から鬼を呼び覚ましたとされている。その身は滅びたが魂は滅びず、記憶を残しながら現世を漂っていた。「朱雀城」を居城として碧の新羅を始めとする配下の鬼を使役し、「羅生門」を開けて復活を果たそうとしていた。
剛羅延堅固 (ごうらえんけんご)
大太刀を構えた大鬼の一種。性別は不詳。旅に出た俊輔の村を襲撃して村民を全滅させ、仇討ちに来た俊輔たちを迎え撃った。温羅にも認められたという、数百年の月日を無傷で生き延びた強固な甲冑を着込んでおり、俊輔の攻撃もたやすく弾き返していた。
魔醯修羅 (まけいしゅら)
「陰陽師」を務めている儀式鬼の一種。性別は不詳だが、女性のような言葉遣いで喋り、不気味な化粧をしている。「舞」を「言霊」としており、近づくものすべてを舞わせる能力を持つ。そのため、弓矢や刀といった物理攻撃はまったく通用しない。軍茶利明王の力を受け取った俊輔と死闘を繰り広げる。
軍茶利明王 (ぐんだりみょうおう)
「羅生門」を開ける「五行の鍵」の1つ。鬼のような姿をした巨人で、性別は不詳。古に神仏とされた人間が死ぬ時に残した「力」や「記憶」が幾重にも重なってできた、善でも悪でもない塊。その力を手にした者は、鬼神にすらなれるとされている。
百鬼丸 (ひゃっきまる)
鬼封じの能力を持っていた男性。故人。かつて稚武章炎と旅をしていた侍で、1日で100匹の鬼を封じたこともあるほどの猛者だった。本名は「青葉百鬼丸」といい、碧の新羅は、百鬼丸と俊輔の関係性を示唆していた。
川合 (かわい)
紀伊の村に住んでいる老人。村を束ねている男性で、近隣で出現する鬼を退治するために、稚武章炎に鬼退治を依頼した。旅に出ることになった俊輔に、藤から預かった「廿禄紋数珠」を手渡す。
虚成 (きょじょう)
桜井不動の集落に住んでいた住職の老人。目が不自由な男性で、他の大人がすべて鬼によってさらわれてしまったため、残った子供たちの面倒を見ていた。非常に穏やかな性格をしており、恐怖に怯える子供たちを読経で落ち着かせていた。
桃子 (ももこ)
桜井不動の集落に住んでいるメスの犬。櫻の愛犬。とても大人しく、言葉が喋れない櫻に寄り添っていた。櫻の心の声を拾うことができる能力を持つため、櫻は桃子を通じて俊輔と会話することになった。
その他キーワード
鬼封じ (おにふうじ)
死んだ大鬼から湧き出る鬼の魂を、己の体内に封じる能力。またはその能力の使い手を指す言葉。鬼封じの使い手がいないと、大鬼を倒した者が鬼の魂に取り憑かれ、次の大鬼と化してしまうため、鬼との戦いでは極めて重要な役割を果たす。鬼を封じた者は、鬼の戦いの記憶と能力を己のものにできるため、封じるごとに戦闘能力が向上していく。
鬼 (おに)
人を襲って喰らう妖魔。千年前から存在していたが、ここ20年で数が急増し、人間に大きな被害を与えている。男は餌として喰らい、女は奴隷とするために、居城へとさらっていく。さまざまな種類が存在するが、上位の鬼に操られている「下手鬼」といわれる最下級の小さな鬼が、そのほとんどを占めている。
大鬼 (おおおに)
より強力な自我を持つ鬼。通常の鬼よりも大型で、戦闘力も非常に高い。死後に魂となり、人に取り憑いて大鬼にしてしまうという、恐ろしい呪いをかける能力を持つ。そのため鬼封じの力を持つものがいないと、太刀打ちが難しい強敵。
儀式鬼 (ぎしきおに)
大鬼の上に立つ強力な鬼。生きた人間が、刀で体中に温羅経を掘り込み、四十九日の間断食をしつつ不眠不休で経を唱え続ける、という「死の儀式」を乗り越えることにより儀式鬼へと変貌を遂げる。儀式鬼となった者は、良心を犠牲にして恐怖を消し去り、愛を犠牲にして人間を超越した力を得るとされ、温羅から力を具現化できる「言霊」を授かることができる。
色鬼 (しきおに)
温羅から「色」を与えられた最高峰の位を持った鬼。数ある鬼の中でもほんのわずかしかおらず、その力は数万人の兵を単騎で全滅させられるほどに強大。碧の新羅は色鬼の象徴的な存在として、温羅復活のために各地を転戦していた。
数の呪い (かずののろい)
桜井不動の集落に住む子供たちが逃げないように、鬼がかけた呪いの一種。鬼が吹いた針が体に刺さると、この呪いにかかる。呪いを受けた者は左手の甲に、1日に一度減る数字が現れ、数字が零になると鬼に変化してしまう。