あらすじ
ラファウ編
大学への入学が決まった12歳の少年・ラファウは、合理的に生きることを信条としていた。合理的な選択をし続けることで、この世を快適に生きることができ、それができない者はみんなバカだと見下して生きている。大学では神学を学ぶことが一番合理的だと考えていたラファウは、養父のポトツキからの助言を受け、趣味の天体観測もやめようとしていた。しかしその矢先、異端者として投獄されていたフベルトと知り合う。最初はフベルトに脅迫される形で、フベルトの天体観測に付き合うことになったラファウだったが、フベルトの説いた地動説に心を動かされ、自発的に地動説について考察するようになる。そんな中、ポトツキのもとに異端審問官のノヴァクがやって来る。フベルトの改心後の動向について聴き取りに来たという、ノヴァクに笑顔で応じるラファウだったが、そこでノヴァクが持ち出したのは、ラファウが地動説について考察したノートだった。
オクジー編
ラファウが牢獄内で自死してから10年後、依頼主に変わって決闘を行う代闘士の男性・オクジーは、生きることに希望を持てず、早く天国に行きたいと願いながら生きていた。ある日、ノヴァクやグラスと共に異端者・占星術士の男の輸送業務に携わったオクジーだったが、グラスの提案でノヴァクを裏切り、石箱を探しに行くことになる。だが、石箱の中身について理解できず、さらにグラスが事故死する現場を目撃したオクジーは、グラスがかつて信頼を寄せていた聡明な修道士・バデーニを訪ねる。バデーニは、グラスのつけていた火星の観測記録をオクジーが続けることを条件に、石箱の中身を確認。そして地動説の斬新さに驚愕し、この研究を続けることを決意する。天体の詳細な資料を持っている協力者を探すことにしたバデーニは、掲示板に貼り出した天体観測に関係する難題を、やすやすと解いて見せた少女・ヨレンタと出会う。地動説を通じて強い興味を覚える二人の姿に、オクジーは感動してヨレンタに読み書きを習い、ある本の執筆を始める。
ドゥラカ編
オクジーとバデーニが処刑された25年後、C教の教会の権威は揺らぎ、教会内部のみならず地方の村々でも正統派とそのほかの派閥で分裂、殺し合いが起きるようになっていた。その頃、各地の異端審問所を襲撃しては異端者を解放する組織・異端解放戦線が活発に活動していた。そんな中、つねに金儲けを考えている移動民族の少女・ドゥラカは、ドゥラカの叔父に連れられて行った廃村でアントニと出会い、さらに地動説について書かれた「地球の運動について」を発見する。シュミットたちの襲撃が「地球の運動について」を目的としたものだと察したドゥラカは、この本を燃やしたうえで、本の内容をすべて記憶している自分を異端解放戦線の組織長を務めるヨレンタのもとへ連れて行けと提案する。ヨレンタやシュミットと行動する中で、世界の成り立ちや神についての自分の考え方に変化を感じ始めたドゥラカは、ヨレンタが爆死したあと、ヨレンタの記憶や想いを引き継ぐことを決意する。
アルベルト編
1468年、ポーランド王国の都市部でパン屋に勤めている青年・アルベルトは、パン屋の主人から大学への進学を勧められる。しかし、アルベルトは勉学は害悪であり、好奇心を危険なものだと考えていることを理由に、その提案を断る。その翌日、アルベルトはパンの配達のためにふだんと違う教会を訪ねる。告解室で司祭と会話をする中で、アルベルトは過去に見たある事件と、その事件によってもたらされた自分の変化、そしてこれまでの悩みを告白する。
メディア化
テレビアニメ
2022年6月にテレビアニメ版『チ。 -地球の運動について-』の制作が発表。2024年10月5日からNHK総合にて放送。制作はマッドハウス。主人公のラファウを坂本真綾、フベルトを速水奨、ノヴァクを津田健次郎が演じる。
評価・受賞歴
本作『チ。-地球の運動について-』は、「第26回手塚治虫文化賞」で漫画大賞に選ばれている。また「マンガ大賞」では、2021年に2位、2022年に5位に入賞している。さらに2022年度版「このマンガがすごい!」において、オトコ編の第2位を獲得している。
登場人物・キャラクター
ラファウ
ラファウ編の主人公の少年。年齢は12歳。金髪をツーブロックヘアにしている。孤児だったが、ポトツキの養子として引き取られた。合理的に生きることを信条としており、愛に代表される無為な感情や欲望に惑わされることなく、合理的な選択をし続けることで、この世を快適に生きることができると考えていた。清廉で聡明、謙虚な人物だと思われているが、実は自分以外のみんなのことはバカだと見下している。趣味の範囲で天文学を学んでいたが、12歳で大学に合格し、神学を専攻することとなったため、ポトツキからは天体観測をやめるように言い渡された。しかし、フベルトに協力して天体観測を行ったことで地動説を知ってから、地動説が正しいのではないかと考えるようになり、太陽を中心とした天体図を書き上げた。石箱を託され、フベルトの死後は燃やすように依頼されたが、燃やさず保持している。また、フベルトから渡されたオリオン座の三連星が刻まれたペンダントやラファウ自身の研究結果を、フベルトの資料とともに石箱に隠している。
ポトツキ
ラファウの養父で、C教の神学者をしている男性。内巻き癖のある黒髪を肩まで伸ばしており、口ひげを蓄えている。フベルトが改心して出所すると知り、別邸を貸し出している。子供たちに神学について教えている教師でもある。ラファウが天文学を学びたいと申し出た時には非常に困惑し、強く引き止めていた。過剰に天文学を拒絶しているものの、自宅内には天文の資料が多く保存されている。かつて地動説を研究していたが拷問を受けて改心し、神学へと進んだという過去がある。
フベルト
ポトツキの教え子であり、異端者として投獄されていた男性。かなりの長身で、唇の右端が裂かれて縫われており、顔の左下がケロイドになっている。地動説を研究していたために異端者扱いされ、拷問を受けていた。改心したとウソをついて出所したが、ラファウが趣味で天文学を学んでおり、六等星まで見える鋭眼の持ち主だと知ると、天体観測の手伝いをするように脅迫した。また、ラファウが聡明であることを理解し、地動説について詳しく解説している。石箱を作った人物でもある。ラファウの部屋から太陽を中心にした天体図が発見された際、自分が書いたものだと証言したために火刑に処された。連行される直前、ラファウにオリオン座の三連星が刻まれたペンダントを渡している。右目が斜視になっている。
ノヴァク
C教の異端審問官を務めている男性。金髪を逆立て、顎ひげを蓄えている。司教に腕を買われた元傭兵で、特例で出家せずに存俗したまま聖職をこなしているため、ほかの僧たちからも距離を置かれている。物腰が柔らかで子供に対して親切だが、教義に反する異端な研究をしている人間にはひょうひょうとした態度で拷問を行う。異端者の輸送や新人の実習担当などもこなしているが、基本的には仕事を面倒なものだと思っており、楽に仕事をこなして出世するための効率的なやり方なども考案している。ヨレンタの父親だが、ヨレンタには異端審問官であることを伏せていた。フベルト、ラファウ、オクジー、バデーニの拷問と処刑、自死に立ち会っており、特にラファウのことは印象深く覚えていた。アントニのウソによって、ヨレンタが火刑に処されたと思い込んで以来、異端審問官としての仕事を退いていた。ヨレンタを奪ったのは地動説そのものであると考え、地動説を憎んでいる。異端審問官としての仕事から退いている中、ダミアンとアッシュから、異端解放戦線が地動説について書かれた「地球の運動について」を出版しようとしていることを知らされ、捜査に協力する。
書誌情報
チ。―地球の運動について― 8巻 小学館〈ビッグ コミックス〉
第1巻
(2020-12-11発行、 978-4098607785)
第2巻
(2021-01-12発行、 978-4098608010)
第3巻
(2021-03-30発行、 978-4098608782)
第4巻
(2021-06-30発行、 978-4098610716)
第5巻
(2021-09-30発行、 978-4098611461)
第6巻
(2021-12-28発行、 978-4098612062)
第7巻
(2022-03-30発行、 978-4098612604)
第8巻
(2022-06-30発行、 978-4098613175)