作品誕生のいきさつ
『ベルサイユのばら』を描くきっかけとなったのは、作者・池田理代子が、高校時代にオーストリア人作家シュテファン・ツヴァイクの書いた評伝『マリー・アントワネット』を読んだことにある。この本に大いに感銘を受けた池田は、いつか何らかの形でマリー・アントワネットの物語を描きたいと決意。ちなみに、「ベルサイユのばら」というタイトルは、すでにこの時、頭の中に浮かんでいたという。その後、大学在学中に漫画家としてデビューし、人気作家となっていた池田が、「週刊マーガレット」誌上で長編の連載を打診された時に、提案したのが『ベルサイユのばら』だった。当時の編集部内には「歴史物が少女漫画読者に受けるはずがない」と、連載に難色を示す意見も多かったが、「人気が出なかったら即打ち切りでかまわない」という池田の強い自信にも後押しされて1972年4月に連載がスタートする。すると、編集部の危惧とは裏腹にたちまち人気を獲得。そして、途中で一切の休載もなく、1973年12月に全82回を描ききった。
時代背景
連載が始まった1972年は、沖縄の復帰、日中国交回復など、政治的にも大きな出来事があり、日本という国家にあらためて注目が集まった年でもあった。社会的には、女性の社会進出が話題となりつつあったが、あくまで男性側の視点で語られることがほとんどで、女性の社会的地位は決して高くなかった。そのような時代において、女性主人公が男性相手に一歩も退かず、むしろ男性をぐいぐい引っ張っていく物語を描いたことは、それだけで評価に値するものであった。
あらすじ
1755年、のちに運命的な出逢いを果たすこととなる3人の人物が生まれた。オーストリア女帝マリア・テレジアの第9子マリー・アントワネット、スウェーデン貴族議員の長男ハンス・フォン・アクセル・フェルゼン、そしてフランスの貴族将軍の娘オスカル・フランソワ・ド・ジャルジェである。当時のフランスはブルボン王朝による絶対王政で、王侯貴族たちは華やかな暮らしに明け暮れていた一方、農民や市民などの平民階級は、差別と重税に苦しめられていた。
そんな時代の中、女ばかり6人姉妹の末っ子として生まれたオスカルは、父により男子として厳しく育てられ、やがて男顔負けの立派な女軍人として成長していった。1770年春、マリー・アントワネットがフランスの皇太子(のちのルイ16世)のもとに嫁いでくると、オスカルは皇太子夫妻を護衛する近衛隊隊長に就任。幼馴染みで家族同然に育ってきたアンドレ・グランディエとともに、マリー・アントワネットに仕えることとなる。
1775年、ルイ15世の逝去により、皇太子がルイ16世として即位。18歳の若さで王妃となったマリー・アントワネットは、お気に入りのポリニャック伯夫人や取り巻きの貴族と、派手な王宮暮らしに夢中になっていた。そんなある日、スウェーデンの青年貴族となったフェルゼン が宮廷にやってくる。互いに惹かれ合うマリー・アントワネットとフェルゼンは、いつしか許されぬ愛に心を奪われてゆく。
一方、マリー・アントワネットの浪費癖や宮廷での振る舞いに対して進言するオスカルだったが、同時に知らぬ間に大きくなっていた自らのフェルゼンへの想いに戸惑う。そして国民が窮乏にあえぐ中で起こった、歴史的な詐欺事件として知られる「首飾り事件」をきっかけに、王室、特にマリー・アントワネットに対する国民の憎悪は深まっていくのであった。そんな中、貴族の屋敷ばかり襲撃する「黒い騎士」と名乗る盗賊が世間を騒がし始めた。討伐を命じられたオスカルとアンドレだが、すんでのところで取り逃がし、アンドレは目を負傷してしまう。それでもアンドレは、敵の罠にはまったオスカルを助けるべく黒い騎士のアジトへと向かい、見事オスカルを救出し、黒い騎士を捕らえることにも成功した。しかし、黒い騎士ことベルナールから貧困に苦しむ国民の窮状を聞かされたオスカルはベルナールを見逃し、その責任を取る形で近衛隊を辞す。
その後オスカルは、フランス衛兵隊の部隊長となるが、荒くれ者揃いの衛兵隊は、オスカルを隊長として認めようとしない。だが、隊長にふさわしい実力を示すと同時に、誠実な態度で接してくるオスカルに隊員たちは次第に心を開いていく。その頃、オスカルの父ジャルジェ将軍は、娘を結婚させようと画策。ショックを受けたアンドレは、衝動的にオスカルに迫るも、身分の差に苦悩する。
1789年、国王ルイ16世はベルサイユにおいて三部会を開会することを布告する。国王、貴族、平民議員が激しく争うこととなるが、やがて国王から一方的に解散が宣言される。市民の不満はますます膨れあがり、国中で続々と義勇軍が作られる。パリ市内は不穏な空気に包まれ、衛兵隊にも出動命令が下された。
出動前夜、アンドレに対する愛に気付いたオスカルは、アンドレを生涯の夫と認め、二人はついに結ばれる。1789年7月13日。兵士の発砲に端を発した暴動から、ついにフランス国民は革命に向けて立ち上がった。そしてオスカルは、国王軍に反旗を翻し人民とともに戦うことを決意、愛するアンドレとともに、革命の砲火の下へとその身を投じていくのであった。
ヒロイン像
主人公のオスカルは、男装こそしているものの、女性であることを隠していたり、ひけめに感じたりすることもなく、性別を超えた、オスカルという一個の存在として、社会に立ち向かっている。その部分が、世の中の女性から圧倒的な支持を受けたともいえる。一方で、フェルゼンやアンドレへの愛に気付いて無垢な少女のように心を惑わせる姿もまた、オスカルの持つ人間的な魅力として、多くのファンの心をつかんでいる。そしてもう一人の主人公ともいえるマリー・アントワネットも、民衆の憎悪を一身に集めた歴史上の悪女としてではなく、愛に生き愛に殉じた強い女性として描かれており、魅力あるヒロインとなっている。
スピンオフ
1974年、『週刊マーガレット』に『外伝・黒衣の伯爵夫人』を掲載(全2回)。1984年には、月刊誌『jam』にて、オスカルの姪にあたる少女ル・ルーを主役にした『ベルサイユのばら外伝・名探偵ル・ルー編』を連載開始(全10回)。さらに2005年から、朝日新聞土曜日別冊朝刊『be』において、デフォルメされたベルばらキャラが登場する4コマ漫画とコラムからなるミニコーナー『ベルばらKids』の連載が始まり、好評を博した。連載は7年を超えるロングヒットとなり、2013年3月30日をもって終了。単行本は7巻まで刊行されている。そのほか、文庫版およびカラーと2色ページを収録した「完全版」も出版されている。また、2014年には新作エピソードで構成された『エピソード編Ⅰ』が刊行された。なお、正統な続編ということで、マーガレットコミックスのナンバリングは11巻となっている。そして2015年には『エピソード編Ⅱ』となる第12巻が刊行されている。
メディアミックス
宝塚歌劇
1974年、宝塚歌劇団月組によって『宝塚グランドロマン ベルサイユのばら』が上演される。もともと、熱心なファンが「面白い漫画があるのでぜひ舞台にしてください」と、宝塚歌劇団の関係者に『ベルサイユのばら』が掲載されていた「週刊マーガレット」を毎週、送り続けたことがきっかけとも言われているが、男装の麗人が主役で、きらびやかな宮廷衣装、ロマンティックな恋愛模様、そしてダイナミックな展開と、まさに宝塚にはうってつけの題材であることを考えれば、至極当然の判断といえよう。こうして幕を開けた舞台は、予想をはるかに上回る大ヒットを記録。低迷期に入っていた宝塚歌劇団の救世主となった。翌1975年には花組によって『宝塚グランドロマン ベルサイユのばら~アンドレとオスカル~』が上演。続けて雪組、星組による上演も行われ、各組でオスカルを演じた榛名由梨、安奈淳、汀夏子らは宝塚トップスターとしての地位を確立し、「ベルばら」は宝塚歌劇団の代表演目となった。さらに平成に入ってからも、「オスカルとアンドレ」のほかに「マリー・アントワネットとフェルゼン」、さらには「フェルゼン編」「オスカル編」という、宝塚ならではの公演も行い、ファンを大いに喜ばせた。2000年代に入っても、看板公演として繰り返し上演されている。宝塚歌劇を観たことがない人でも、「宝塚=ベルサイユのばら」のイメージが定着していることからもわかるように、宝塚歌劇を象徴する作品となっている。
テレビアニメ
1979年に日本テレビ系列で放送開始。当時のアニメ界を代表する強力なスタッフによって作られたテレビアニメ版は、原作を忠実に描きながらも、アニメ独自のオリジナリティも加えられ、非常に完成度の高い作品に仕上がっている。第19話から『あしたのジョー』『エースをねらえ!』などを手がけた出崎統氏がチーフディレクターに就任すると、いわゆる「出崎演出」により、さらに高い評価を受けるようになった。多くの視聴者に愛されただけでなく、のちにアニメ界を背負うこととなる、若きクリエイターたちにも多大な影響を与えた伝説的な作品となっている。
映画
1978年には、原作者・プロデューサー・出資者のみが日本人で、スタッフ・キャストがオール外国人、オール海外ロケ、そして英語版という、日本映画史上初の「和製洋画」として、『ベルサイユのばら Lady OSCAR』の制作が発表された。1978年にクランクインすると、フランス政府の協力の下、ベルサイユ宮殿での大々的なロケを敢行したことでも話題となった。同年10月にクランクアップ。翌1979年3月に公開されると、大きな反響を呼んだ。
2025年劇場版アニメ
原作誕生50周年を迎えた2022年9月7日に新作劇場アニメの制作が発表。2025年1月31日より公開。監督は吉村愛、アニメーション制作はMAPPA。主人公のオスカルを沢城みゆきが演じる。
社会現象
連載1回目から反響を呼んだ『ベルサイユのばら』は、単行本が出るとさらに人気となる。単行本は飛ぶように売れ(累計発行部数は1500万部以上)、世の中に「ベルばらブーム」が訪れた。その盛り上がりの中、1974年に、宝塚歌劇団による舞台『宝塚グランドロマン ベルサイユのばら』が上演されると、瞬く間に大人気となり、空前の宝塚ブームを巻き起こした。さらに1979年には、日本映画史上初の「和製洋画」として、『ベルサイユのばら Lady OSCAR』が制作された。さらに同年には、日本テレビ系列でアニメ版『ベルサイユのばら』の放送が開始。大きな人気を博した。その他、ノベルティグッズ、キャクター商品、玩具などの関連グッズも数多く作られ、世代を超えて愛されている。なお、日本人が世界史において、フランス革命だけやたらと詳しいのは『ベルサイユのばら』の影響であると、まことしやかに囁かれているが、あながち間違いでもない。また、『ベルサイユのばら』は少女漫画で初めてベッドシーンを描いた作品としても知られる。革命前夜、オスカルがアンドレを夫として受け入れる名シーンであるが、当時、編集部に来たクレームの電話に対し、編集長が「物語を読んだ上でまだ問題があるというならもう一度お電話ください」と答えたというエピソードは有名。
海外事情
『ベルサイユのばら』の翻訳本は、アジア圏では1987年に香港で『女強人奧斯卡』、1994年に台湾で『凡爾賽玫瑰』のタイトルで出版されている。また、韓国では1991年と2001年に、タイでは1984年、インドネシアでは1987年に出版されている。ヨーロッパではイタリアで1982~1983年に漫画に着色したものが『LE AVVENTURE DI JADY OSCAR』のタイトルで連載されたり、1982年にはアニメを小説化した『IL ROMANZO DI LADY OSCAR』という単行本が出版されている。また、漫画のイタリア語翻訳本として、『LADY OSCAR』が1993年、2001~2002年に出版されている。フランスでも、2002年に『La rose de Versailles-LADY OSCAR』のタイトルでA5版2巻組の翻訳本が出版されており、さらに2011年には作者の来仏を記念して新装版が出版された。そのほか、ドイツ、スペインでも出版されている。
登場人物・キャラクター
オスカル・フランソワ・ド・ジャルジェ
代々フランス王家の軍隊を統率してきたジャルジェ伯爵の6女(末娘)で、跡継ぎのいない伯爵家の後継者として、幼い頃から男性として育てられた男装の麗人。近衛士官として王妃アントワネットに仕える。スウェーデン貴族のフェルゼンに想いを寄せるが、子供の頃から生活を共にして来たアンドレへの想いに気づき、相思相愛ののち結ばれた。 その後フランス革命時に爵位を捨て、一市民としてバスティーユ襲撃に参加し、戦死する。
アンドレ・グランディエ
黒髪で黒い瞳を持つ。平民出身で、両親を亡くし祖母マロン・グラッセの働くジャルジェ伯爵家に引き取られ、その娘である主人公オスカルと出会う。オスカルの遊び相手兼護衛として育つが、やがてオスカルを愛するようになる。黒い騎士に鞭で顔の左側を撃たれ、左目を負傷したことから症状が悪化、のちに失明する。 フランス革命の最中、オスカルを庇い落命した。
マリー・アントワネット
フランス国王ルイ16世の王妃。オーストリアの女帝マリア・テレジアの第9子として生まれ、14歳でフランスへ嫁ぎ、2男1女をもうけた。美しく人を引きつける魅力を持つ。オスカルを信頼し、良き親友のような信頼関係を築く。王妃としての重圧や宮殿での生活の寂しさから逃れるため浪費や賭博にふけり、フランス国民の怒りを増長させる。 首飾り事件の後ようやく王妃としての自覚を取り戻すが時すでに遅く、最後は断頭台で処刑された。歴史上の実在人物マリー・アントワネット・ジョゼファ・ジャンヌ・ド・ロレーヌ・ドートリシュがモデルとなっている。
ハンス・アクセル・フォン・フェルゼン
貴族の上院議員の長男として、スウェーデンに生まれる。政略結婚でフランスに嫁いだアントワネットが初めて心から愛した男性。オスカルとは親友。国王一家が国外逃亡をする時にも尽力を惜しまず、一家を助けようとするが、その愛が実ることはなかった。アントワネットの死後、彼女を殺した民衆を憎悪し冷たい権力者となり、スウェーデンの民衆に殺される。 歴史上の実在人物ハンス・アクセル・フォン・フェルセンがモデルとなっている。
ロザリー・ラ・モリエール
愛らしい容姿、優しい心を持ち、オスカルから妹のように可愛がられている。ジャンヌの異母妹で、幼い頃は下町の貧しい家で暮らしていた。養母ニコールを馬車で轢き殺した実母ポリニャック伯夫人への復讐を誓う。ひょんなことからジャルジェ家に居候し、オスカルに恋心を抱くようになるが、後にベルナールと恋に落ち結婚する。 投獄されたアントワネットの死刑直前まで世話を務めた。
レニエ・ド・ジャルジェ将軍 (れにえ・ど・じゃるじぇしょうぐん)
『ベルサイユのばら』の登場人物でオスカルの父。代々フランス王家の軍隊を統率してきたジャルジェ伯爵家当主の将軍。激化していく革命から、オスカルの身を案じ女性として結婚させようとするが断念。フェルゼンと共にアントワネットをシェルジュリー牢獄から脱獄、逃走させようとするなど、最後までフランス王室に中世を尽くした。 脱獄は結局アントワネットから拒否され、外国へ脱出するよう命じられた。
ジャルジェ夫人 (じゃるじぇふじん)
『ベルサイユのばら』の登場人物でオスカルの母。物静かで優しい心の持ち主。アントワネットが、おば達にそそのかされ、彼女をアントワネットの首席侍女としたことでデュ・バリー夫人の怒りを買い、毒殺の罠にかけられる。オスカルが駆けつけ難を逃れた。
マロン・グラッセ・モンブラン
アンドレの母方の祖母でオスカルの祖母、ばあやと呼ばれている。心配性でオスカルを心から愛している。オスカルの父であるジャルジェ将軍がオスカルを男として育てようとするが、女性として生きることを望んでいる。フランス革命直前に病で倒れ、オスカルとアンドレが戦死して数日後、オスカルの肖像画家がプロポーズしようと部屋を訪れたが、既に息を引き取っていた。
ルイ16世 (るいじゅうろくせい)
『ベルサイユのばら』の登場人物でフランス国王。ルイ15世の孫でマリー・アントワネットの夫。小太りで大人しく優しい性格だが、優柔不断なところがある。国民からは慕われていたが、政治的決断力には欠けていた。妻を愛していたが、自身のコンプレックスから自信が持てずにいた。趣味は狩猟と錠前づくり。ヴァレンヌ事件をきっかけに、国民の信頼を失い処刑される。 歴史上の実在人物ルイ16世がモデルとなっている。
ルイ15世 (るいじゅうごせい)
『ベルサイユのばら』の登場人物で、ルイ16世の祖父。女好きで多くの愛人を作る。アントワネットと愛妾デュ・バリー夫人との対立に頭を痛めている。その後天然痘で崩御する。歴史上の実在人物ルイ15世がモデルとなっている。
デュ・バリー夫人 (でゅ・ばりーふじん)
『ベルサイユのばら』の登場人物で、ルイ15世の愛妾。もとは下級階層の生まれで、下町で娼婦をしていた。ルイ15世の愛妾として権力を利用し贅沢な生活を送っていたがアントワネットと対立し、その地位を脅かされる。ルイ15世の危篤に伴い、司祭の命により宮廷から追放され、後に国家の囚人としてポン・トーダムの修道院に入ることとなる。 歴史上の実在人物デュ・バリーがモデルとなっている。
マリー・テレーズ
フランス王女で、アントワネットの長女。名前は祖母であるマリア・テレジアの名のフランス語形。夫妻の結婚から7年目にしてようやく生まれた子供であった。歴史上の実在人物マリー・テレーズ・シャルロット・ド・フランスがモデルとなっている。
ルイ・ジョゼフ
王太子。アントワネットの長男。聡明でオスカルに憧れている。病弱で、三部会(僧侶、貴族、平民の3つの身分から成る身分制議会)会期中に脊椎カリエスで7歳8ヶ月の若さで死亡する。歴史上の実在人物ルイ=ジョゼフ・ド・フランスがモデルとなっている。
ルイ・シャルル
王太子。アントワネットの次男。兄の死後、王太子となる。父王の処刑後、アントワネットと引き離される。革命後は自分の身分も忘れ、兵士達に混じって革命歌を歌うようになった。歴史上の実在人物ルイ・シャルル(のちのルイ17世)がモデルとなっている。
ポリニャック伯夫人 (ぽりにゃっくはくふじん)
アントワネットに取り入り、寵愛を受ける貴婦人。慎ましく優しい外見とは裏腹に、親族の昇進をねだったり、賭博を勧め大金を巻き上げ、国民がアントワネットを憎むきっかけを与えてしまった張本人。家運を回復するため、生き別れた娘ロザリーをド・ギーシュ公爵の元へ嫁がせようとするが、ロザリーに出て行かれてしまった。 歴史上の実在人物ポリニャック伯夫人がモデルとなっている。
シャルロット・ド・ポリニャック
ポリニャック伯夫人の娘でロザリーの異父妹。美しく華やかな少女だが、母の権力を背景に高飛車に振る舞っている。オスカルに好意を抱いており、母の決めた相手との政略結婚に嫌悪し自殺する。
マリア・テレジア
『ベルサイユのばら』の登場人物でアントワネットの母。オーストリアの女帝。女性でありながら数々の戦争を闘い抜き、様々な改革を行う。フランスとの戦争終結のため、末娘のアントワネットを王太子妃として送り出す。息を引き取る最期の瞬間まで、最愛の娘アントワネットの未来を心配していた。歴史上の実在人物マリア・テレジア・ヴァルブルガ・アマリア・クリスティーナ・フォン・エスターライヒがモデルとなっている。
ジャンヌ・バロア
ロザリーの異母姉。旧王朝バロア王朝の末裔、サン=レミー男爵の落胤。金に異様な執着を見せ、欲しい物を得るためならば殺人をも厭わない。ローアン大司教を利用しアントワネットを巻き込んだ首飾り事件を引き起こす。パリ高等法院で終身禁錮刑の判決を受け投獄されたが脱獄、最終的にはニコラスと共に籠城していたサベルヌの屋敷でオスカルらに追い込まれ転落死した。 歴史上の実在人物ジャンヌ・ド・ヴァロワ=サン=レミがモデルとなっている。
ニコール・ラ・モリエール
ジャンヌ・バロアの母、ロザリーの養母。バロア家の女中をしていた時、当主との間にジャンヌをもうけ、数年後ポリニャック伯夫人の娘ロザリーを引き取っている。当主の死後は下町へ転居する。ポリニャック伯夫人の乗る馬車に轢かれ、ロザリーに自分の実の娘ではないこと、貴族である彼女の実母の名を言い残し死亡する。
ニコラス・ド・ラ・モット大尉 (にこらす・ど・ら・もっとたいい)
平民の軍人でジャンヌ・バロアの夫。ジャンヌに惚れ込み彼女の計画する数々の悪事に加担する。首飾り事件では、宝石商のべメールから騙し取ったダイヤモンドの首飾りを切り取り、イギリスで売りさばく。事件発覚後は欠席裁判で終身漕役刑の判決を受ける。最後はジャンヌとともに籠城していたサベルヌの屋敷で、アンドレの剣が刺さり死亡。 歴史上の実在人物マルク・アントワーヌ・ニコラ・ド・ラ・モット伯爵がモデルとなっている。
ローアン大司教 (ろーあんだいしきょう)
フランス最高の地位にある僧侶。オーストリア駐在大使の経歴があり、あまりにも女遊びが派手でマリア・テレジアとマリー・アントワネットに嫌われていた。アントワネットに恋心を抱いていたためジャンヌ・バロアに付け込まれ財産を搾取され続ける。ジャンヌからアントワネットの購入するダイヤの首飾りの保証人になって欲しいと騙され、首飾り事件で濡れ衣を着せられるが無罪の判決を言い渡された。 歴史上の実在人物ルイ=ルネ=エドゥアール・ド・ロアン=ゲメネーがモデルとなっている。
ベルナール・シャトレ
パリの新聞記者。生い立ちから貴族を恨み、義賊「黒い騎士」として盗みを働いていた。オスカルに捕らえられ、ロザリーと出会い盗賊をやめ結婚する。歴史上の実在人物ルシー・シンプリス・カミーユ・ブノワ・デムーランがモデルとなっている。
マクシミリアン・ド・ロベスピエール
弁護士。三部会(僧侶、貴族、平民の3つの身分から成る身分制議会)では平民議員として選出される。貧しい平民の味方として、国王や貴族たちと戦う。歴史上の実在人物マクシミリアン・フランソワ・マリー・イジドール・ド・ロベスピエールがモデルとなっている。
フロレル・ド・サン・ジュスト
弁護士ベルナールの遠縁にあたる青年。ロベスピエールを限りなく尊敬している。女性に間違われるような美貌の持ち主。エロティックな風刺歌「オルガン」が発禁処分にされるた。国民公会での討議でルイ16世の刑をめぐり討論になった際、彼の死刑を決定付けるスピーチをした。歴史上の実在人物ルイ・アントワーヌ・レオン・ド・サン=ジュストがモデルとなっている。
ヴィクトール・クレマン・ド・ジェローデル
貴族の次男で、近衛隊でのオスカルの副官。オスカルがフランス衛兵隊へ去った後、近衛騎兵隊先頭指揮官を拝命される。後日、オスカルの求婚者として現れるが、彼女の心情を察して身を引いた。
アラン・ド・ソワソン
貴族出身でフランス衛兵隊のB中隊班長。はじめは対立していたが、しだいにオスカルに惹かれて行く。妹ディアンヌを溺愛していたが、妹が婚約者に捨てられ自殺してしまったショックで半ば廃人状態になっていたのを、家へ訪ねて来たオスカルによって正気に戻される。
ディアンヌ・ド・ソワソン
アランの妹。兄に似ず愛らしく、衛兵隊の兵士達からの人気が高い。「名ばかりの貴族で貧乏だから」という理由で婚約者に捨てられ、首を吊って自殺する。
ジャック・ネッケル
スイス生まれの銀行家で初めての平民出身の大蔵大臣。三部会(僧侶、貴族、平民の3つの身分から成る身分制議会)の開催を提案する。しかその後アントワネットに罷免され、王室の財政赤字を書類に認め、市井に暴露した。これがバスティーユ襲撃のきっかけとなる。歴史上の実在人物ジャック・ネッケルがモデルとなっている。
ナポレオン・ボナパルト
ラ・フェール砲兵連隊付き少尉。オスカルとは一言挨拶を交わす程度だったが、「あれは鷲の目、帝王の目だ」とオスカルに畏怖の念を与えた。のちにフランス皇帝となる。歴史上の実在人物ナポレオン・ボナパルトがモデルとなっている。
ローズ・ベルタン嬢 (ろーず・べるたんじょう)
アントワネットの御用達服飾デザイナー。豊富なアイデアとデザインで、流行の最先端を作り出していった。首飾り事件後、慎ましく生活することになったアントワネットによって解雇された。歴史上の実在人物マリー=ジャンヌ・ベルタン(ローズ・ベルタン)がモデルとなっている。