兄弟のように育った幼なじみとの再会と対立
平民のギデオン・エーメと貴族のジョルジュ・ド・ロワールは、ロワール公爵の邸宅で幼少期を過ごした幼なじみだった。ギデオンが屋敷を出奔して以来、交流は途絶えていたが、パリ近郊で二人は18年ぶりに再会。フランスの現状を憂えていた二人は平民の安寧のために尽力することを誓う。しかし、あくまで平和的な革命を志すギデオンに対して、ジョルジュは暴力も辞さない覚悟を固めていた。やがて、ジョルジュは国家に仇(あだ)なす最悪のテロリストに変貌し、二人の道は完全に分かたれてしまう。
歴史的な事件の裏で暗躍するジョルジュ
バスティーユ襲撃、ヴェルサイユ行進など、フランス革命を語るうえで欠かせない歴史的な出来事が物語の見せ場として用意されている。これらの事件が発生した経緯は史実とは異なり、主人公の一人であるジョルジュ・ド・ロワールの暗躍によって発生したものとして描かれているため、フランス革命の流れを把握した状態で本書を手に取っても新鮮な気持ちで楽しむことができる。
大胆な解釈で描かれる実在の人物たち
メジャーな人物ばかりではなく、ジャン=バティスト・レヴェイヨンのようなマイナーな人物も登場する。また、実在の人物の多くはハッタリのきいたキャラクター造形がなされている。例として、ルイ16世は「肥満体の暗君」という従来のイメージから離れた屈強で聡明な人物として描かれ、ウソを見破る特殊能力を駆使して、物語のクライマックスまで大きな役割を担うことになる。なお、前述のルイ16世はネット界隈でカルト的な人気を博すことになり、ジョルジュ・ド・ロワールの発した「貴族にしてはめずらしい、パワー重視の闘士(ファイター)」という台詞と合わせてインターネット・ミーム化した。
登場人物・キャラクター
ギデオン・エーメ
選挙活動に勤しむ作家の男性。栗色の髪と青い目を持ち、後ろ髪をリボンで束ねている。平民には不相応な金の懐中時計を所持している。14歳になる直前までロワール公爵の屋敷で育てられ、高い教養を身に付けた。公爵家の後継であるジョルジュ・ド・ロワールとは兄弟も同然だったが、彼の左目を傷付けてしまい、屋敷を出奔した。放浪の果てに飯盛女のフローラと結婚するも、彼女は出産後に失踪。男手一つで娘のソランジュを思春期まで育て上げた。争いを好まず、暴力に頼らない革命を標榜(ひょうぼう)している。現在は演説やパンフレット頒布に励む傍ら、匿名で官能小説を書いて糊口を凌(しの)いでいる。フランス王妃と周辺人物をモデルにした代表作「トワネットとニャック夫人」は下品な描写に王室批判が潜んでいるとして、活動家からも評価されている。ある事件をきっかけにジョルジュと18年ぶりに再会。革命のためなら暴力も辞さない彼の制止役を担うようになる。この頃、アルトワ伯の配下に左足を折られて杖を突くようになり、のちに仕込み杖を用いるようになった。やがて三部会の議員となり、ルイ16世と友誼(ゆうぎ)を結ぶも、ジョルジュがテロリスト認定されてしまう。これを受けて、アルトワ伯が組織したテロ対策警備隊の副長に就任する。平和的な革命のため、ジョルジュに帯同する愛娘(まなむすめ)を取り戻すため、彼の行方(ゆくえ)を追うようになった。
ジョルジュ・ド・ロワール
公爵位を持つ男性。またの名を「ジョルジュ6世」。金髪碧眼(へきがん)で、左目の刀傷と失明して濁った瞳を舞踏会風の仮面で隠している。「美の化身」と評されるほど容姿端麗で、入浴を習慣としており、爽やかな匂いを漂わせている。才知に長(た)け、武器の扱いや軍勢の指揮はお手の物。変装も得意で、女装して他者を欺く場面もある。身分制度の崩壊を望んでおり、大男のビッグモーター、美青年のルイ・アントワーヌ・ド・サン=ジュストを従え暗躍している。目的のためなら殺人も躊躇(ちゅうちょ)しない一方、親に愛されなかった子供を前に涙したり、救いの手を差し伸べたりする優しさも持ち合わせている。幼なじみのギデオン・エーメと18年ぶりに再会。「平民の安寧のため」と嘯(うそび)き、革命への協力を申し出た。鳩派のギデオンと意見が衝突することも多かったが、彼がアルトワ伯の配下に捕縛された際には、相手が王族と知っても臆さず立ち向かい、友情に翳(かげ)りがないことを示した。過激な活動の果てに爵位を没収され、テロリストとして指名手配されても暗躍を継続。弁護士、マクシミリアン・ド・ロベスピエールの心の闇を利用し、革命を加速させていく。なお、ギデオンの宝物の懐中時計は、幼少期にジョルジュ・ド・ロワールが与えたものである。また、ギデオンすら知らない二人の出生の秘密を知っている。
クレジット
- 資料提供
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山中 聡