甲冑武闘

甲冑武闘

久慈光久の第二作品集。表題作「甲冑武闘(アーマード・バトル)」を含む三本の中編と、久慈光久の『狼の口 ~ヴォルフスムント~』のキャラクターが登場する「慰安旅行」を含む三本の小編が収録されている。「ハルタ」「スレンダーフェローズ」に掲載された作品。

正式名称
甲冑武闘
ふりがな
あーまーど ばとる
作者
ジャンル
西洋史
 
バトル
関連商品
Amazon 楽天

あらすじ

甲冑武闘(アーマード・バトル)

1460年、ウェイクフィールドの戦いが勃発する。この戦いに参戦した老騎士・ウィリアムは、戦場で出会った敵方の青年騎士・ジョンを捕虜として連れ帰り、これまで培ってきた甲冑武闘の技術を受け継いでほしいと打ち明ける。自らの生きた証を残したいという気持ちを察したジョンはウィリアムの提案を受け入れ、ここに期間限定の奇妙な師弟関係が結ばれた。翌年、タウトンの戦いに参戦したウィリアムは戦場でジョンと再会し、その成長を確かめるべく、一騎討ちを挑む。戦いの中でウィリアムはジョンが逞しく成長したことを感じ取り、すでに自分が挑戦者の側に立っていることを悟るのだった。対するジョンは才能を見いだし、技を教えてくれたウィリアムに恩を感じながらも、殺す気で応じなければ自分が死ぬであろうことを理解し、全力でウィリアムを迎え撃つ覚悟を固めていた。新ヨーク公・エドワードが見守る中、二人の戦いは加熱し、やがて決着の時が訪れる。

新兵ゾフィ

永世中立国・スイスには自衛のための軍隊が必要不可欠であり、兵役の義務があった。女性には兵役の義務が課せられていなかったが、少数ながら志願して軍隊に身を投じた女性も存在し、ゾフィもそんな変わり種の一人である。自らの意思で兵士となったゾフィは厳しい教官に導かれ、過酷な訓練に挑む。

セレネとエンデュミオン

月の女神・セレネは性に奔放な美少年・エンデュミオンに恋をしていた。しかし、エンデュミオンはセレネに養われているヒモの身でありながら、浮気をしても悪びれることすらなかった。業を煮やしたセレネはエンデュミオンを完全に自分のものにするべく、神々の王・ゼウスに直談判を試みる。

慰安旅行

「狼の口」一行は慰安旅行と称して、長野県上諏訪町の旅館を訪れていた。英雄の息子・ヴァルターは仲間たちに見守られる中、宿敵である代官・ヴォルフラムとのババ抜き対決に挑む。

剣闘奴隷アキレイア

舞台は紀元前73年、共和制末期の古代ローマ。美貌の女剣闘奴隷・アキレイアは肌もあらわな出で立ちで10連勝を成し遂げ、民衆から絶大な人気を勝ち取っていた。しかし強すぎたことが災いし、興行師・ウィクトリアの手配により、圧倒的に不利な条件の試合を設定されてしまう。こうして、アキレイアと都をにぎわせるすご腕の獣闘士チーム「四姉妹」との変則マッチの幕が切って落とされる。

剣闘奴隷アマゾニア

舞台は剣闘試合が行われていた時代のローマ。剣闘奴隷へと身を落としたトラキア人の娘・アマゾニアは駆け出しにもかかわらず、無敗の女剣士・アレクサンドラとの格差マッチに挑むことになってしまう。その実力差は絶望的だったが、アマゾニアは捨て身の攻撃を敢行し、番狂わせを成し遂げることに成功する。しかしアマゾニアが試合で負った傷は深く、老医が語るには、生存するには難易度の高い内臓縫合手術に耐える必要があるという。こうして、アマゾニアは手術を受けることになり、想像を絶する激痛との戦いが幕を開ける。

関連作品

エピソード「新兵ゾフィ」は久慈光久の漫画『狼の口 ~ヴォルフスムント~』の後日談と公式に明言されており、スイスが舞台であること、ヴィルヘルム・テル(『狼の口 ~ヴォルフスムント~』の登場人物)の親子像が登場することが両作品のつながりとなっている。また、エピソード「慰安旅行」は『狼の口 ~ヴォルフスムント~』のキャラクターが原作の時代設定を無視して日本の旅館に宿泊するギャグ作品となっている。

登場人物・キャラクター

ウィリアム

エピソード「甲冑武闘(アーマード・バトル)」に登場する。老齢の男性騎士で、目付きが鋭く、白髪をツーブロック、髭をショートボックスドベアードに整えている。まじめな性格で高潔だが、それを他人にも強要する悪癖があり、会計官の同僚に「戦えないなら騎士の称号を返上しろ」という旨の暴言を吐いたこともある。甲冑武闘が得意で、10年前まではヘンリーに稽古をつけていたが、実戦を意識した訓練で彼を気絶させてしまい、ノーサンバーランド伯のもとに左遷された。現在はイングランドとスコットランドの境にあるピールタワー(監視塔)で国境警備の任に就いているが、騎士道を貫いた結果として人の輪から外れてしまったことを嘆いており、同じ道を歩む同志と出逢えなかった人生に寂しさを感じている。妻とも既に破局しているが、自分の生きた証を残すことをあきらめてはおらず、若者に生涯を賭して培ってきた甲冑武闘の技術を継承することで、それを果たそうと考えている。ウェイクフィールドの戦いにはランカスター方として参戦し、戦場で出会ったジョンの才能を見込んで捕虜として連れ帰り、マンツーマンで特訓を施した。やがてタウトンの戦いでジョンと再会し、彼の成長を確かめるべく、一騎討ちを仕掛けた。

ゾフィ

エピソード「新兵ゾフィ」に登場する。スイス連邦軍の女性志願兵で、年齢は19歳。眼鏡をかけており、髪は後頭部で束ねている。ヴィルヘルム・テルの伝説で知られるウーリ州の出身で、男女平等に国家と向き合うべきという思想を持っている。そのため、兵役の義務がない女性の身でありながら、徴募に応じて兵士となった。現在は歩兵訓練に励んでおり、実弾射撃の訓練に差し掛かっている。しかし、一列縦隊の全力疾走で転倒したり、300メートル離れたターゲットを狙撃する訓練で18発中2発しか命中させられなかったりと、体力的にも技術的にも未だ発展途上であり、訓練教官から「お嬢ちゃん」と揶揄されている。

セレネ

エピソード「セレネとエンデュミオン」に登場する。ギリシア神話の月の女神で、腰まで届く長髪を三つ編みにしている。エンデュミオンの美しさに惚れ込んでおり、彼の生活の面倒をみている。しかし、性に奔放な彼に対して悋気(りんき)を抱くようになり、登山感覚でオリュンポスを訪ね、いとこのゼウスにある願いを託した。

エンデュミオン

エピソード「セレネとエンデュミオン」に登場する。ギリシア神話の狩人で、羊飼い。女神が見惚れるほどの引き締まった長い脚と小さな臀部を持つ美少年で、セレネに養われている身でありながら、浮気三昧の日々を送っている。セレネに浮気を咎められてもまるで反省の色を見せず、「養われてやっている」と豪語したり、彼女をおばさん呼ばわりしたりと性格破綻者の様相を呈している。こうした言動がセレネの逆鱗に触れてしまい、ゼウスの力で永遠の眠りに落ちることになった。

アキレイア

エピソード「剣闘奴隷アキレイア」に登場する。テッサリア出身の女剣闘奴隷で、グラマーな体型を誇る。暗い色の長髪を茨のようなものでポニーテールにしている。半裸姿での剣闘を好み、防具は大小のマニカとグリーブのみで、急所が剥き出しになっている。剣闘士としてのクラスは裁断闘士(アルベラス)。左手に嵌めた籠手の先端のアルベロス(革製品の裁断に用いる刃)で攻撃を捌き、右手に構えたグラディウスで敵を仕留める立ち回りを得意としている。また驚異的な跳躍力を誇り、判断力にも優れている。特に深く息を吸い、無呼吸状態で発揮される超人的な集中力はアキレイアの最大の強みとなっている。ウィクトリアの抱える女剣闘奴隷の中でも最強との呼び声も高く、10戦全勝という驚異の記録を打ち出して「戦いの女神の申し子」「トゥリィの女王」と囃し立てられるまでになった。しかし、近隣に敵なしの状況となったことで、1対4という不利な状況での試合を強いられる羽目になってしまう。なお、試合前に頰を上気させながらセクシーなパフォーマンスを披露するなどサービス精神旺盛で、布が翻って陰部が露出することも多く、男性のみならず女性からも熱烈な支持を受けているが、一部からは売女と蔑まれている。

アマゾニア

エピソード「剣闘奴隷アマゾニア」に登場する。属州からローマ本国へと連行され、剣闘奴隷となったトラキア出身の少女。目つきが鋭く、貧相で未発達な体つきをしている。髪はミディアムヘア程度の長さだが、乱雑に伸びている。丈の短いトゥニカとパンツ型に巻いた腰布だけの軽装で、腹部は露出している。剣闘士としてのクラスはトラキア剣士(トラエクス)。シーカ(湾曲した小ぶりの刀剣)で武装し、防具として小型のスクトゥム、マニカ、グリーブを身につけている。負傷を恐れない攻撃的な戦闘スタイルが持ち味で、前座戦で頭角を現し、飛ぶ鳥を落とす勢いのアレクサンドラに挑戦することになった。入場の際には「トラキア産の雌狼」というキャッチフレーズで紹介されている。観客からすれば無名の新人に等しく、アレクサンドラの星稼ぎに選定された哀れな新人に過ぎなかったが、試合を終える頃には期待の新人として歓声を浴びるようになっていた。しかし、試合中に貫かれた腹部の傷は深く、激痛を伴う命懸けの手術に挑むことになってしまった。

ジョン

エピソード「甲冑武闘(アーマード・バトル)」に登場する。精悍な顔立ちの青年騎士で、ウィリアムと同様にプレートアーマーに身を包み、両手剣を主武装としている。ヨーク方ソールズベリー伯配下の騎士としてウェイクフィールドの戦いに参戦し、ゴッドフリー・ザ・ロックヘッドの敗北にすくみ上がる味方を差し置いて、ウィリアムの相手として進み出た。この際、「ブライスフィールドのジョン」と名乗りを上げている。ウィリアムとの戦闘では甲冑武闘の基本となるハーフソード剣術を使用し、甲冑武闘の達人であるウィリアムをして手練れと言わしめている。また、ウィリアムの「殺撃」(刃をつかんで柄で殴打する技術)を受け止め、鍔を絡ませて武器を奪い取るなど高い技量を示したが、健闘及ばず敗北を喫し、ウィリアムの捕虜となった。当初はジョン自身を軽輩と謙遜し、身代金には期待できない身分であると主張していたが、ウィリアムから技術を継承するに足る若者を探していたことを聞かされると、1か月にわたって甲冑武闘の手解きを受けた。別れ際にはウィリアムに対して、大きな恩を感じていることを伝えている。のちにタウトンの戦いでウィリアムと再会し、一騎討ちをとおして成長を見せつけている。

ヘンリー

エピソード「甲冑武闘(アーマード・バトル)」に登場する。サマーセット公の爵位を持つ男性で、年齢は24歳前後。ランカスター王家の廷臣であり、ウェイクフィールドの戦いにランカスター方の指揮官として参戦し、4万人の軍勢を率いてヨーク方の軍勢に勝利した。大軍の指揮のみならず、ジョンに対して寝技を使用して無防備になっていたウィリアムを子飼いの兵士を用いて救出するなど、局所戦でも活躍している。ウィリアム救出後はヨーク勢の追撃にウィリアムを駆り出そうと考え、ジョンの殺害を命じている。しかし、ウィリアムに「捕虜を得るのは従軍の権利」と反論され、命令を拒否されてしまう。この際、ウィリアムの強情さを責めているが、結果としてウィリアムの命令無視を容認し、戦果に報いている。のちにウィリアムがジョンに甲冑武闘の指導をする場面を目撃するものの、「気遣い無用の遊び相手を求めていた」などと見当外れの推測をしている。タウトンの戦いにも参戦しているが、活躍が描かれることなく敗北し、国王であるヘンリー6世と共に国外へと逃亡した。なお、14歳の頃にウィリアムに師事していたことがある。しかし容赦のない指導を受けて昏倒し、これをきっかけに師弟関係は解消されてしまった。実在の人物、ヘンリー・ボーフォート(第3代サマセット公)がモデル。

エドムンド

エピソード「甲冑武闘(アーマード・バトル)」に登場する。ヘンリーの父親で、サマセット公の爵位を持っていた壮年の男性。およそ10年前、訓練中にヘンリーを昏倒させて謝罪しなかったとして、ヘンリーの教官だったウィリアムを解任し、ノーサンバーランド伯のもとで国境警備に励むように言い渡した。この際、ノーサンバーランド伯が剛の者を欲しており、ウィリアムが適任と言い添えているが、事実上の厄介払いに過ぎない。実在の人物、エドムンド・ボーフォート(第2代サマセット公)がモデル。

リチャード

エピソード「甲冑武闘(アーマード・バトル)」に登場する。ヨーク公の爵位を持つ口髭を蓄えた熟年の男性。ヨーク方の軍勢の総大将としてウェイクフィールドの戦いに参戦し、1万人の軍勢を率いてランカスター方の軍勢に戦いを挑んだ。しかし、3万人もの戦力差を覆すことはできず、ソールズベリー伯など多くの名士を失う結果となり、リチャード自身も戦死してしまった。実在の人物、リチャード・プランタジネット(第3代ヨーク公)がモデル。

エドワード

エピソード「甲冑武闘(アーマード・バトル)」に登場する。ウェイクフィールドの戦いで討ち死にしたリチャードの息子。公位を継いで新たなヨーク公となり、仇討ちの兵を挙げた。タウトンの戦いではランカスター方の軍勢を打倒して雪辱を果たし、のちにイングランド王に即位している。なお、敗走する敵兵の追撃をウォーリック伯、ノーフォーク公に託してジョンとウィリアムの一騎討ちを決着まで見届けており、こんなに面白い勝負は初めて見たと感想を語っている。実在の人物、エドワード4世(イングランド王)がモデル。

ゴッドフリー・ザ・ロックヘッド

エピソード「甲冑武闘(アーマード・バトル)」に登場する。リチャードの親衛隊に所属する大柄な男性。プレートアーマーを着込み、ポールアックスで武装している。ウェイクフィールドの戦いでウィリアムの実力に怖気づいた味方を見兼ねて、単身でウィリアムに挑戦した。この際、腕力にものを言わせた力任せの大振りで攻撃するものの、両手剣を用いた足掛けを受けて転倒し、股間と首を突き刺されて絶命した。

ウィリアムの妻 (うぃりあむのつま)

エピソード「甲冑武闘(アーマード・バトル)」に登場する。かつてウィリアムと婚姻関係にあった女性。波打ったロングヘアの持ち主で、睫毛が長く、女性的なスタイルをしている。およそ10年前、ウィリアムが戦場に出掛けているスキを狙って夫婦の寝台に若い男を連れ込み、密通を楽しんでいた。しかし、戦場から帰還したウィリアムに現場を目撃され、追い出されてしまった。なお、連れ込んでいた間男は寝台の上でウィリアムに胸を刺されている。

ゼウス

エピソード「セレネとエンデュミオン」に登場する。ギリシア神話の主神。切れ長の目をした男神で、長髪で顎鬚を生やしている。エンデュミオンに劣らぬ女好きで、下界に降りて人間の美少女を孕ませて歩くことを趣味としており、いとこのセレネからはロリコン呼ばわりされている。オリュンポスにテントを張ってキャンプを楽しんでいたところ、セレネの訪問を受け、二つ返事で彼女の願いを叶えてみせた。この際、ゼウス自身の過去の悪行の数々を棚に上げて、セレネの願いを「神格が暴落するほどの悪趣味」などと揶揄している。

ウィクトリア

エピソード「剣闘奴隷アキレイア」に登場する。アキレイアが所属するウィクトリア剣闘士養成所の責任者にして、剣闘試合を管理する興行師の女性。髪色は明るく鬢(びん)は螺旋状で、長く垂らした後ろ髪の根元に三つ編みが巻かれている。ヒマティオン風の衣服をまとっており、首飾りやブレスレットで身を飾っている。連戦連勝を重ねて敵なしの状況となってしまったアキレイアの試合を盛り上げるべく、彼女に黙って都から連れてきた獣闘士チーム「四姉妹」とのマッチメイクを行った。この所業はアキレイアから底意地が悪いと評されているが、警備兵からは「お嬢様育ちにしてはよい仕事ぶり」と皮肉交じりながら称賛されている。試合中はデシムス・ユニウス・ブルートゥスのそばに控えて話し相手を務めていた。なお、アキレイアの実力をよく理解しており、1対4という不利な状況でも彼女の勝利を信じて疑わず、余裕の笑みさえ浮かべていた。だが、スキュラによる降伏後の奇襲を目の当たりにした際には、表情を険しいものへと変化させている。

クロアキナ

エピソード「剣闘奴隷アキレイア」に登場する。ウィクトリアが管理する奴隷風の女性。腰に届くほどの長さの暗い色の髪をハーフアップにしており、丈の長い簡素なトゥニカを着用している。アンニュイな雰囲気を漂わせながら、試合に向かうアキレイアに声をかけたり、「賞金で自分を買い戻して自由を得たい」という彼女の夢を応援したり、彼女が試合を終えて戻った際に返り血を拭き取ったりと、頻(しき)りにアキレイアを気にかけ、かいがいしく世話を焼いている。また、アキレイアの空元気を見抜くなど優れた洞察力の持ち主でもある。

デシムス・ユニウス・ブルートゥス

エピソード「剣闘奴隷アキレイア」に登場する。トゥリィ市の市長に就任した男性で、彫りの深い顔立ちで垂れ目が特徴。短髪でトーガのような服をまとい、首飾りや腕輪で身を飾っている。デシムス・ユニウス・ブルートゥス自身の就任祝いに託(かこつ)けて剣闘試合を主催し、その差配をウィクトリアに一任した。市民からの支持を得ることを目的とした剣闘試合でありながら、自らも観客と同様にアキレイアの試合に釘付けとなり、ウィクトリアの解説にも熱心に耳を傾けていた。この際、肌もあらわなアキレイアの出で立ちを公序良俗に反していると判断しながらも、観客を盛り上げるための趣向として受け入れ、目こぼしする度量を見せている。また、アキレイアの外見だけではなく剣闘士としての実力にも魅了され、彼女のあざやかな戦いぶりを舞っているようだと評し、その評判は都にも轟くと絶賛している。アキレイアに圧倒されたスキュラが降伏のポーズをした際には、殺害を望む市民の声に応えるように親指を突き上げて処刑を指示し、会場を熱狂させた。実在の人物、デキムス・ユニウス・ブルトゥス(紀元前77年の執政官)がモデル。

カリアッハ

エピソード「剣闘奴隷アキレイア」に登場する。属州を荒らしていたガリア人の盗賊の落とし児という出自の女性で、ポニーテールの髪型をしている。獣闘士チーム「四姉妹」のリーダー格であり、ウィクトリアの手配により、四姉妹の仲間と共にアキレイアと対戦することになった。自信に満ちた性格で、剣闘試合が始まる直前には「雑魚が束になってもアキレイアには敵わない」という旨の下馬評を一喝によって黙らせている。また、田舎者に身のほどを教えると息巻いていたが、味方への連携の指示を担っていたことから、真っ先にアキレイアの標的となった。

ティアマティア

エピソード「剣闘奴隷アキレイア」に登場する。パルティアにルーツを持つ流民の遺児という出自の女性。面長な顔立ちで、切れ長の目をしている。頭髪は引っ詰めてポニーテールの髪型にしており、額の中心と鬢(びん)の部分に後れ毛がある。獣闘士チーム「四姉妹」のメンバーであり、ウィクトリアの指示により、四姉妹の仲間と共にアキレイアと勝負することになった。自信に満ちた表情でアキレイアとの試合に臨んだが、彼女の超低空跳躍に翻弄されて足の甲を切りつけられ、苦戦を強いられることになった。

スカディア

エピソード「剣闘奴隷アキレイア」に登場する。ゲルマニアの蛮族の娘という出自を持つ女性で、明るい色の髪をクラウンブレイドにしている。獣闘士チーム「四姉妹」のメンバーであり、ウィクトリアの指図により、四姉妹の仲間と共にアキレイアに挑戦することになった。ティアマティアとの連携でアキレイアに立ち向かうものの、攻撃の悉(ことごと)くを回避され、疲労を蓄積させる結果となってしまった。その後もスキを突くように攻撃を仕掛けているが、頭頂部を割かれるなど、試合をとおしてアキレイアに翻弄されている。

スキュラ

エピソード「剣闘奴隷アキレイア」に登場する。シキリア島で反乱した奴隷の孫という出自の女性。髪色は暗く、後ろ髪をリボンで束ねている。獣闘士チーム「四姉妹」のメンバーであり、ウィクトリアの命令により、四姉妹の仲間と共にアキレイアと戦う羽目になってしまう。不敵な笑みを浮かべて試合に臨んだ仲間たちとは対照的に、悲愴な表情を浮かべての参戦となった。試合の序盤こそ仲間との連携に参加していたが、早い段階でアキレイアの常軌を逸した強さに恐怖し、それ以降は棒立ちとなってしまう。やがてアキレイアに狙われると命を惜しんで武装を解除し、人差し指を掲げる降伏のポーズを取って主催者に慈悲を求めた。しかし、この行為によって観衆の反感を買い、処刑を望む声を助長させてしまった。その後、デシムス・ユニウス・ブルートゥスの判断によって処刑が決定すると、自暴自棄に陥って短剣によるアキレイアへの不意打ちを敢行した。この際、スキュラが発した「奴隷の殺し合いに沸き立つ世の中は狂っている」という旨の主張はアキレイアに後味の悪さを感じさせ、心のしこりとして残ることになった。

親方 (おやかた)

エピソード「剣闘奴隷アキレイア」に登場する。幼いアキレイアをこき使っていた老齢の男性。禿頭だが側頭部と後頭部に白髪が目立ち、口髭を蓄えている。真珠漁を生業としており、アキレイアに対して「一度でも海に潜ったら必ず真珠貝を採って戻る」「守れなければ食事は与えない」という厳しいルールを強要していた。また、口答えをした際に棒で突くなど、ぞんざいな扱いをして彼女を泣かせていたが、この厳しい生活が結果的にアキレイアの肺活量を鍛えることになった。無呼吸状態になったアキレイアが発揮する驚異的な集中力も、親方にこき使われていた経験の賜物である。

アレクサンドラ

エピソード「剣闘奴隷アマゾニア」に登場する。デビューから負けなしで5連勝している剣闘士の女性。端正な顔立ちで、腰に届くほどの長さの暗い色の髪をポニーテールにしている。剣闘士としてのクラスは魚人剣士(ミュルミロー)。グラディウスで武装し、魚の背びれのような飾りのある兜、乳房と筋肉を模した意匠の胴鎧、スクトゥム、マニカ、グリーブで身を守っている。強さと美しさを兼ね備えた女剣士の理想像と持て囃されており、「マケドニア生まれの雌獅子」のキャッチフレーズとともに入場し、新人のアマゾニアを迎え撃つことになった。試合開始と同時に盾を捨てて突撃してきたアマゾニアに困惑しながらも、盾で跳ね返して腹部を貫くなど、咄嗟の判断力にも優れている。しかし、右腕をつかまれて身動きを封じられたうえに、そのまま右腕を切断され、一転して窮地に陥った。

アマゾニアの父 (あまぞにあのちち)

エピソード「剣闘奴隷アマゾニア」に登場する。アマゾニアの父親で、壮年のトラキア人の男性。背が高く、髪は長く暗い色で口髭を蓄えており、揉み上げと顎髭がつながっている。反ローマの扇動者として活動していたが、ローマ軍に捕縛され、属州の秩序を乱した罪でアマゾニアの目の前で処刑されてしまった。この際、「トラキア人の戦士は死ぬまで戦う」「たとえ死んでも、その意思を受け継いだ者が戦う」という旨の言葉を遺しており、アマゾニアの戦闘スタイルに大きな影響を与えることになった。また、負傷したアマゾニアが死んで楽になる道を選ばず、激痛を伴う難易度の高い手術を受ける決断に至ったのも、父親の教えの影響である。

老医 (ろうい)

エピソード「剣闘奴隷アマゾニア」に登場する。剣闘試合の負傷者を治療する立場にある老齢の男性医師。白髪頭で、前頭部から頭頂部にかけて禿げ上がっている。アレクサンドラとの死闘で腹部を貫かれたアマゾニアの治療を担当することになり、傷を放置すれば確実に死ぬこと、腹部に手を差し入れて内臓を縫合する荒療治になるが、実行しても助かるとは限らないことを告げた。また、迷うことなく手術を受ける選択をしたアマゾニアに対して、その決断を後悔するほどの激痛を味わうことになると念押しするなど、厳しい現実をつきつけている。しかし、肉を切らせて骨を断つようなアマゾニアの戦法を呆れながらも評価したり、死んでしまっては身も蓋もないと忠告したり、公用語のラテン語を学ぶようにアドバイスしたりと、その発言の多くが彼女の将来に期待を寄せたものになっている。

集団・組織

四姉妹 (よんしまい)

エピソード「剣闘奴隷アキレイア」に登場する。イタリア半島の東部にある大都市・ブルンディシウムの闘技場で活躍する獣闘士(ヴェスティアリウス)のチーム。メンバーは全員が若い女性で、カリアッハ、ティアマティア、スカディア、スキュラの四人一組で構成されている。装備は共通しており、ピルム(刺突後に折れ曲がる機構を備えた投槍)とグラディウスで武装し、サブウエポンとしてプギオに似た短剣を所持している。また、胴を前後から挟むようにプレート型の防具で覆い、スクトゥム、マニカ、グリーブで身を守っている。罪人の処刑に利用されたライオンなどの猛獣にトドメを刺すのが主な役割であり、リーダー格のカリアッハは自分たちを「筋金入りの狩人」と評している。アキレイアの試合を盛り上げたいウィクトリアの差配により、トゥリィの闘技場に呼び出され、連戦連勝を重ねていたアキレイアと4対1の変則マッチをすることになった。人間であるアキレイアとの戦いにおいても、猛獣を相手にする際に用いる十字方向からのピルムによる遠距離攻撃を駆使するなど、持ち前の技術を生かして立ち回った。

その他キーワード

甲冑武闘 (あーまーどばとる)

エピソード「甲冑武闘(アーマード・バトル)」に登場する。全身を鎧で覆った兵士同士の戦いを指す言葉。また、装甲兵を殺傷するための戦法を指す場合もある。ウィリアムは一つの道を極めれば幸せになれるという信念に基づいて騎士道を歩み、甲冑武闘を極めるに至った。両手剣の柄と刃をにぎって、切っ先を相手に向けるハーフソードの構えから甲冑の隙間を狙うのが基本で、相手を転ばせて脇や股を刺すのがウィリアムの必勝パターンとなっている。また、刺突せず寝技に移行することもあり、ウェイクフィールドの戦いでジョンを相手取った際には、この技術でジョンを制し、捕虜にしている。また、刃をにぎって柄をハンマーに見立てて殴りつける「殺撃」という技も存在する。なお、ウィリアムは自分の生きた証として甲冑武闘の技術継承を望んでいたが、最初の弟子は戦場で再会した際に成長を実感できず、止むを得ず討ち取ることになってしまった。また、二人目の弟子とは再会できず、ウィリアムとの対決を避けて逃げていると予想されている。三人目の弟子となったジョンは1か月の猛特訓によってウィリアムの技を継承し、戦場で再び相見えるまでに体術を練り上げ、タウトンの戦いでウィリアムの人生における最強の敵として立ちはだかることになった。

関連

狼の口 ~ヴォルフスムント~ (ゔぉるふすむんと)

14世紀初頭のアルプス地方を舞台に、圧政への叛乱軍と支配者の関所との闘いを描く歴史アクション作品。 関連ページ:狼の口 ~ヴォルフスムント~

SHARE
EC
Amazon
logo