幕末の京都を舞台にした夢の異流派バトル
元治元年(1864年)、京都の治安維持を担う新選組の隊士たちが酒の肴(さかな)に、かつて刃を交えたツワモノについて語り合い、「最強の剣客」を決めようとする異色のバトル漫画。コンセプトに沿って描かれる対戦カードは「一の段 天然理心流・沖田総司 対 神道無念流・芹沢鴨」「二の段 北辰一刀流・藤堂平助 対 薬丸自顕流・田中新兵衛」「三の段 種田宝蔵院流槍術・原田左之助 対 柳生新陰流・高杉晋作」「四の段 一刀流・斎藤一 対 我流・河上彦斎」「五の段 天然理心流・土方歳三 対 北辰一刀流・坂本龍馬」と史実では実現しなかったドリームマッチばかりで、歴史ファンの興味をそそる対決になっている。酒宴パートが終わると、物語は「本段 池田屋事件」へ移行し、新たに三つの異流派バトルが描かれる。また、最強議論の発起人である近藤勇も満を持して出陣し、志士たちと死闘を繰り広げる。
リアルな剣戟(けんげき)と外連味(けれんみ)のある演出
本作は強さに一番リアルな新選組漫画を標榜(ひょうぼう)しており、監修に『新選組!』をはじめとするNHK大河ドラマで時代考証を担当した山村竜也を迎えて描かれている。剣戟シーンについては各流派への綿密な取材を経て描かれたことが明かされており、作中に登場する技術や心構えは真にせまったものになっている。一方、技術解説のナレーションやツワモノたちの会話は軽妙洒脱(しゅだつ)で、「超危険技(ハイリスクアート)」「十中八九蜻蛉(おまえはこれだろ)」など、俗にルビ芸と呼ばれるような振り仮名を用いた遊びも随所に盛り込まれている。また、近藤勇の振った竹刀(しない)が大木として描かれるなど、過剰な演出も見どころとなっている。
ツワモノたちの歴史が死闘を盛り上げる
リアルな異流派バトルを主軸としながらも、戦いだけに終始せず、ツワモノたちの生い立ちや流派との出会いなど、死闘の前段階が濃密に描かれている点も本作の特徴となっている。たとえば、原田左之助の戦いを描くにあたっては彼が「種田宝蔵院流槍術」という存在しない流派の使い手を名乗るようになった経緯が、斎藤一の戦いを描くにあたっては彼が実践していた「常時警戒生活」の様子が描かれている。
登場人物・キャラクター
沖田 総司 (おきた そうじ)
新選組副長助勤を務める男性。長身ながら少年のような容貌で、前髪だけが白く、長髪を首の後ろで括(くく)っている。無邪気に見えて好戦的な性格で、強者との戦いを楽しむ悪癖がある。幼少期に父親を亡くし、口減らしのために天然理心流の道場「試衛館」の内弟子となった。天然理心流は相打ち覚悟の苛烈な流派で、その教えは沖田総司自身の好みと合致している。免許皆伝を取得しており、試衛館の仲間である山南敬助からは「電光の閃(はや)さと獄炎の烈(はげ)しさを併せ持つ」と絶賛されているが、近藤勇には稽古で力負けしている。純粋に剣の道へ真摯に向き合い、主義主張とは無縁。隊内の派閥争いにも興味がなく、近藤派に属しながらも敵対する芹沢鴨とも平然と交流していた。元治元年に行われた新選組の酒宴に飛び入りで参加し、「これまで戦った最も強い相手」として、前年に斬った芹沢の名を挙げた。この芹沢との戦いで沖田は「三段突き」を披露し、一進一退の攻防を経て、天然理心流「天地人」の構えに活路を見出し、剣客として新たな境地に達している。後ろ髪を指で弄ぶ癖がある。実在の人物、沖田総司がモデル。
近藤 勇 (こんどう いさみ)
新選組の局長を務める男性。総合武術・天然理心流の四代目宗家にして、沖田総司が腕を磨いた「試衛館」の道場主でもある。背丈は総司よりも低いが、無骨で屈強な肉体を持つ。総髪で、拳骨(げんこつ)が余裕で入るほど口が大きい。豪放磊落(らいらく)で肝が据わっており、人望が厚い。成人男性を放り投げるほどの膂力(りょりょく)で、その踏み込みは床を踏み抜くほど力強い。また、理想を追求した美しい太刀筋を誇る。まさに力と技を兼ね備えた剣豪で、一門で最強の剣客と評判の沖田も近藤にあこがれている。元治元年に行われた新選組の酒宴の席で、酒の肴(さかな)に「これまで戦った最も強い相手」について語り合うことを提案した。のちに、ある剣豪と斬り結ぶことになる。実在の人物、近藤勇がモデル。
クレジット
- 監修
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山村 竜也
書誌情報
ツワモノガタリ 8巻 講談社〈ヤンマガKCスペシャル〉
第1巻
(2022-05-06発行、 978-4065270219)
第2巻
(2022-07-06発行、 978-4065284193)
第3巻
(2022-09-20発行、 978-4065290699)
第4巻
(2022-11-04発行、 978-4065298091)
第5巻
(2023-01-19発行、 978-4065304204)
第6巻
(2023-04-20発行、 978-4065313855)
第7巻
(2023-06-20発行、 978-4065320570)
第8巻
(2023-09-20発行、 978-4065330364)