無類の映画マニアと幽霊になった脚本家の出会い
映画をこよなく愛する中学3年生のハジメが、映画館で幽霊に取り憑かれたことから物語は始まる。幽霊の名は天幕瀧飛虎。映画の脚本家だという。瀧飛虎は、ある映画監督とタッグを組んで脚本を書いていたが、最終稿を書き上げる前に亡くなってしまった。そのため、成仏できずに映画館で浮遊していたらしい。瀧飛虎の願いは、自分が暗誦する脚本を代筆し、監督に届けてほしいというものだった。しかし、その監督とは、世界に名を轟(とどろ)かせたレジェンド、白河龍であり、すでにこの世を去っていた。なお、18歳という若い年齢で亡くなった瀧飛虎と、世界的名監督との関係は、物語中盤以降、明らかにされる。
中学生の映画制作を描いた青春劇
白河監督に自分の脚本を届けることができないと知った瀧飛虎は、成仏できずにハジメと行動を共にする。そんなある日、瀧飛虎の目に止まったのが、ハジメの同級生である人気女優の倉井雛希(芸名・倉紅井姫希)だった。彼女を見たとたん、創作意欲に火がついた瀧飛虎は、ハジメの体を乗っ取って「渚」という映画脚本を一気に書き上げ、倉井に出演依頼する。脚本を読んだ倉井は、作品の出来に感動して出演を快諾した。こうしてハジメは、映画研究部の仲間たちと共に、初めて映画を制作することになる。目指すは、新人監督の登竜門「あぴあらんす学生フィルムコンクール」。本作は、中学生たちが知恵と情熱で映画を完成させていく青春劇である。
映画用語や制作過程が詳しく描かれる
ハジメは、映像制作の設計図ともいえる「絵コンテ」を書くことから、映画制作をスタートする。しかし、瀧飛虎はまず現場の下見である「ロケハン(ロケーションハンティング)」をするよう進言した。下見なしでも大丈夫だというハジメだったが、実際に撮影予定地の渋谷に行ってみると、人が多すぎて思っていたような画が撮れないことを思い知る。その他、編集の時に役立つ「インサートカット」のことや、被写体を追いかける「ドリー撮影」など、ハジメが映画を撮影する姿を通じて、業界の専門用語や映画の制作過程が詳しく描かれている点が、本作の大きな特徴である。
登場人物・キャラクター
新市 元 (しんいち はじめ)
中学3年生で14歳の男子。成績優秀で生活態度も真面目な優等生で、映画研究部に所属している。幼少期はひどく体が弱く、病床にいることが多かったため、未体験の光景を見せてくれる「映画」に没頭していた。以来、あふれる映画愛とプロ顔負けの映画知識を持つようになった。ある日、映画館で、瀧飛虎という幽霊に取り憑かれたことから、映画制作を行うことになる。
天幕 瀧飛虎 (てんまく たきひこ)
18歳で亡くなった映画脚本家の男性。長髪と白い学帽、学生服が特徴。幽霊になり、ある映画館で浮遊していたところ、ハジメを見つけて憑依(ひょうい)する。生前は、世界的な名監督、白河とタッグを組んでいたらしいが、白河作品に名前はクレジットされていない。ハジメの同級生で人気女優の倉井に感銘を受け、彼女を主演に想定した脚本「渚」を書き上げる。
倉井 雛希 (くらい ひなき)
中学3年生で14歳の女子。ハジメの同級生で女優。芸名は「倉紅井姫希」。幼稚園の時から劇団に入り、子役として活動。2年前に大作映画のサブヒロインに抜擢(ばってき)され、大ブレイクを果たした。瀧飛虎が書いた映画「渚」の脚本に惚(ほ)れ込み、主演を快諾する。
クレジット
- 原作
書誌情報
テンマクキネマ 3巻 集英社〈ジャンプコミックス〉
第1巻
(2023-08-04発行、 978-4088835891)
第2巻
(2023-10-04発行、 978-4088836638)
第3巻
(2023-11-02発行、 978-4088837710)