概要・あらすじ
ベトナム戦争開戦から約4年が経った1965年1月のこと。ヒカル・ミナミは星条旗新聞(スターズ・アンド・ストライプス)の陸軍報道部所属のカメラマンとして、南ベトナムの地を踏む。配属された初日、ヒカルは米兵たちによる犯罪現場に遭遇し、口封じのために殺されそうになる。そこに、三角笠を被った謎の少女お姫さまが突如として現れる。
華麗なナイフ裁きで米兵達を瞬く間に八つ裂きにし、ヒカルを窮地から救った彼女に、ヒカルは敵の立場でありながらも一目惚れをしてしまう。その後ヒカルは、彼女の襲撃からたった一人生き残ったものとして、陸軍特殊部隊・グリーンベレーのはみ出し者からなるチーム野良犬たちと同行することになる。
彼らとの日々の中で、ヒカルは戦争が引き起こす数々の惨劇を目の当たりにしていく。しかし、そんな状況下においても、ヒカルはお姫さまとの再会を心待ちにしているのであった。
登場人物・キャラクター
ヒカル・ミナミ
日系アメリカ人三世の青年。19歳だが、童顔のため子供と間違えられやすい。星条旗新聞(スターズ・アンド・ストライプス)の陸軍報道部でカメラマンをしている。米兵たちによる犯罪現場に遭遇し、口封じに殺されそうになるが、偶然通りがかった可憐なゲリラの少女お姫さまに助けられ、一目惚れする。 その後、お姫さまを誘き出すための“エサ”として、ヤーボ大佐率いる陸軍特殊部隊・グリーンベレー所属の野良犬たちと同行するようになり、人が死ぬ瞬間を幾度となく目撃するようになる。グリーンベレーが全滅し、米軍側の唯一の生き残りとなった後は、クァンガイ省のベトコン集落で生活するようになる。 団体に対する帰属意識が薄く、また人の死に慣れすぎたためか、仲間が殺されても特に悲しむこともなく、お姫さまを一途に追いかけるようになる。自慰癖があり、黒い三連華から「オナニー猿」と呼ばれるほど。野良犬たちの1人、インソムニアは、彼の「無力で軽薄な徹底した部外者」としての性質を見抜き、戦場カメラマンとしての適性があると評価している。
お姫さま (ぷりんせす)
頭上で結んだリング状の髪が特徴の、長い黒髪の11歳の少女。髪飾りや耳飾をつけており、姫と呼ばれているが、未だに出自が不明なため、正体は謎に包まれている。「ンクク」という特徴的な笑い方をするが、台詞を発したことは一度もない。ゲリラ戦士として凄まじい戦闘能力を誇り、たった一人で集団の敵を壊滅させている。 ナイフや罠を使った戦術を得意とする。米兵たちに殺されそうになったヒカルを助けたことがきっかけで、ヒカルに好意を持たれる。また、彼女自身も、グリーンベレーの中でもヒカルだけは決して殺さないため、ヒカルを気に入っているようである。おばあちゃんから「レッスン」と称して戦闘の手ほどきを受けている。 ヤーボ大佐の命を受けた野良犬たちによって、命を狙われるようになるが、逆に返り討ちにしていき、結果的に全滅させる。
バオ
ヒカル・ミナミがサイゴンの街で出会った8歳の少年。ニューの兄。米軍の誤爆で親と自身の右足を亡くしている。8歳とは思えないほど達観した価値観と大人びた口調で話す。子供ながらに愛煙家。妹のために人に言えない仕事をたくさんしていたが、妹が自分で会社を経営し、家計を担うようになると、政治的指導者として行動するようになる。 いつもは気丈に振舞っているが、いざ自分の身に危険が迫ると、年齢相応に心の弱さを見せる。妹に叱られることが多く、妹には頭が上がらない。
ニュー
ヒカル・ミナミがサイゴンの街で出会った6歳の少女。バオの妹。兄と同じく達観した価値観を持っているが、兄よりもしっかり者で礼儀正しい。処世術に長けており、兄よりも2歳幼いにも関わらず、米軍向けのバーガーショップを経営し、家計を支えている。口癖は「メイク・マネ$マネ$」。その類まれなる商才で、店舗を徐々に増やしている。 無茶なことばかりをする考えなしの兄に呆れることも多く、厳しい口調で兄を叱っている。
ウィリアム・ヤーボ
ベレー帽から少しだけ飛び出した髪が特徴の巨漢の男。陸軍特殊部隊(グリーンベレー)第五グループの大佐。チョコレートを良く食べている。常時にこやかな表情をしており、その顔のまま残虐非道なセリフを平然と言ってのけたり、敵を殺害している。その巨体からは想像も出来ないほどのすばやい動きと戦闘術の巧みさで、無敵の強さを誇る。 しかし、高所恐怖症のため、ヘリや飛行機に乗ると、あまりの怖さに失禁してしまうという情けない一面もある。ティムと出会った頃は、今とは似ても似つかないスリムな美形男子だった。野良犬たちにお姫さまの捜索を命ずる。
ティム・ローレンス
陸軍特殊部隊(グリーンベレー)に所属する少年。15歳。長い金髪の、中性的な顔立ちをしている美男子。常に上半身が裸で首輪をつけている。野良犬たちのリーダー的存在で戦闘能力はかなりのものだが、ヤーボ大佐には遠く及ばない。ナイフを使った戦術を得意とする。「脆くて壊れやすい」ため女の子を嫌っている。 切り裂きジャック気取りで通り魔をしていた時、ヤーボ大佐に出会い、その圧倒的強さに惹かれ、彼の部下となる。ヤーボをまるで本当の父親のように慕っている。
おばあちゃん
お姫さまの祖母。党にもベトコンにも縛られず戦争の裏で暗躍する最強の戦士。かなりの老齢であるにも関わらず、その戦闘能力は凄まじく、お姫さまですら決して適わない。また、ソ連製対空ミサイルSA-2ガイドラインに乗って移動するなど、およそ人間には不可能な芸当を平然とやってのける。 語尾に「ド」を付けるのが特徴。お姫さまに「レッスン」と称して戦闘の手ほどきをしている。杖は仕込み刀であり、抜刀したことすら気付かないほどの速さで居合い切りを繰り出す。
ジャスミン
口元を黒い布で覆い、体中に白い包帯を巻いている、長髪の少女。とある理由から女であることと本名を隠している。手裏剣や巻きびし、変わり身の術など、アメリカ人でありながら忍者のような技を得意とする。ティムに好意を抱いており、お姫さまとの戦いでティムが絶体絶命となった際、絶対に敵わないと知りつつも、ティムを守るため勇気を振り絞ってお姫さまに立ち向かう。 忍術でお姫さまを惑わし善戦するも、致命傷を負い、ティムに自分の本当の名を告げながら絶命した。
インソムニア
腰まで伸びたロングヘアの男性で、片目が髪に隠れている。決して眠ることのないスナイパー。昔はエンドレ・フリードマンという人物に憧れ、戦場カメラマンになる夢を持っていたが、戦場における恐怖を完全に消すことができず、スナイパーとしての道を選ぶ。ヒカルを「無力で軽薄な徹底した部外者」と分析し、戦場カメラマンとしての適正の高さを評価している。 カール・ツァイス社のコンタックスⅡというカメラをヒカルに与えた後、お姫さまの襲撃にあい死亡する。
ズオン
隻眼の仏教僧の男性。身長190センチの大男で、目が細い。心穏やかな仏教徒にして勇猛なゲリラ戦士。今でこそ更正して聖人のような生き方をしているが、若い頃は数え切れないほど多くの命を殺めた経験がある。その過去を買われ、おばあちゃんにベトコンの兵士として勧誘される。 戦闘によって自身が修羅と化してしまうのではないかと危惧している。ロン・ノル・ティの孤児三人を拾い、黒い三連華として鍛え上げる。
ヤスクニ
非常に仰々しい喋り方をする褐色肌の高齢男性。八方に広がった長い白髪と眼鏡が特長。ベトナム残留日本兵の一人。大日本帝国の海軍兵だった。かつての敵国、アメリカに報いるため、ベトコン側として参戦する。軍刀を用いた巧みな剣さばきで相手を攻撃する。本人曰く、軍刀は昭和天皇より賜ったという。 生粋の愛国者で、時折和歌を諳んじる。
黒い三連華 (くろいさんれんか)
ズオンが育てた女性戦士3人組。血は繋がってないが姉妹として育てられてきた。長女のロン、次女のノル、三女のティからなる。幼い頃から兵士として訓練されて来たため、恋すること、愛することを知らない。お姫さまがベトナムを離れ中国で修行しているため、三人で革命の砦であるクァンガイ省を守ろうとしてる。 訓練を受けただけあって、戦闘能力は非常に高い。
集団・組織
南ベトナム解放民族戦線 (みなみべとなむかいほうみんぞくせんせん)
『ディエンビエンフー』に登場する組織。1960年12月に発足した反政府、反帝国を目的とした、実在の統一戦線組織。ベトナム北部のキン族を中心に組織されている。なお、ベトコンという略称は元々はアメリカ・南ベトナム側による蔑称である。お姫さまやおばあちゃんが所属している。ゲリラ戦を得意としており、ベトナム式の戦いに慣れていない米軍は非常に苦戦。 それに関してヤーボ大佐は「ここじゃ石器時代のやり方じゃないと勝てない」と語る。ヒカル・ミナミは当初、米軍側の人間として行動するが、グリーンベレーの全滅により彼一人が生き残ったことを受けて、ベトコン側の人間と共に行動するようになる。
野良犬たち (すとれい・どっぐす)
『ディエンビエンフー』に登場する集団。陸軍特殊部隊(グリーンベレー)のはみ出し者を集めたチーム。ティムがリーダーを務める。ヤーボ大佐の命を受け、“エサ”役のヒカルと共に、お姫さまを討伐するために行動する。はみ出し者と言うだけあって個性的なメンバーが揃っており、一人一人の戦闘能力は高い。しかし、お姫さまの圧倒的な強さには敵わず、一人、また一人と殺されていき、最終的にはヤーボ大佐と共に全滅してしまう。
山岳の50人 (もんたにゃーど・ふぃふてぃ)
『ディエンビエンフー』に登場する一家。少数派の山岳民族、チャム族50人からなる大家族で、母親は違えど全員が兄弟である。、第一夫人の長男・ララ、第二夫人の長男・ウップ、第三夫人の双子の長男・テウとレウが中心である。残りの46人は全員彼らの弟。ヤーボ大佐の訓練を経てゲリラ戦のプロフェッショナル集団へと変貌し、ベトコンの拠点を次々と撃破していく。 17世紀末からチャム族を虐げ続けてきたキン族に強い恨みを抱いている。