あらすじ
小学生
バリバリのキャリアウーマンである宮本亜希子は、小学生の娘がいる宮本良一と結婚することになった。亜希子は天涯孤独の身の上で、これまで仕事一辺倒で生きてきた。そんな亜希子は恋愛らしい恋愛もしたことがないまま突然結婚し、いきなり母親になることは簡単なことではなかったが、すべてを覚悟して亜希子は良一との結婚を決めた。そこには、早急に再婚相手を見つけなければならない良一の、のっぴきならない事情があった。一方、良一の娘である宮本みゆきは突然の再婚話に反発していた。実母を病気で亡くしてからというもの、すっかり以前の明るさを失ってしまったみゆきは、新しい母親として良一から紹介された亜希子を受け入れることができなかった。しかし三人の同居生活の中で、みゆきは母親になろうと不器用ながら一生懸命立ち回る亜希子の姿を目の当たりにして、考えを改める。亜希子は家族のために命より大切だった仕事も辞め、みゆきとの関係構築に奔走するが、仕事以外のことになるとすべてが不器用で、何をしても失敗ばかり。特に家事は壊滅的で、料理は真っ黒焦げ、買い物ひとつまともにできない状況だった。また、みゆきの通う小学校で果敢にもPTAのボスに立ち向かい、亜希子は人間関係の難しさも痛感する。みゆき自身も学校では人間関係に悩んでいたため、奇(く)しくも同じ悩みを抱くこととなる。しかし、そんな不器用な二人は良一という存在を介しながら、次第に心の距離を縮めて、本当の家族のような関係に変化していく。
高校生
宮本良一が亡くなった悲しみの日から、あっという間に時は過ぎ去り、宮本みゆきは高校生になっていた。一方の宮本亜希子は、みゆきと二人きりになってから7年間を彼女と過ごすための時間に費やし、昔は苦手だった家事も完璧にこなせるようになっていた。そんなある日、亜希子は面接に行く準備をしていた。みゆきが手を離れたことで、再び働きに出ることを決めたのだ。しかし、スーツをビシッと決めた亜希子が面接に行くのは近所のパン屋「フランセ」。似つかわしくない出で立ちの亜希子に、みゆきは一抹の不安を抱えながらも亜希子を見送り、学校へと向かう。高校でのみゆきは、両親を亡くした薄幸の美少女として男子生徒からモテモテの存在だった。数々の男子から告白を受けるも、当のみゆきは最愛の人を失うつらさを知ったことで、恋愛にはまったく興味を持てないでいた。だが、みゆきの良一と結婚したことを後悔していないのかという質問に、まったくしていないと亜希子が笑顔で返したことで、みゆきの中の恋愛欲が芽吹き始める。そこで最初のターゲットになったのは、みゆきに告白してきたクラスメートの相川優人で、みゆきは優人に好きになる努力をすると答えるものの、小学校以来ケンカ別れしたままになっていたヒロキの存在が気になり始めていた。そんな中、亜希子は新しく採用が決まったパン屋で働き始めることになり、店長の麦田章と共に店を再建すべく奔走していた。始めは気が合わず、仲違いすることの多かった章との関係も次第に変化し、章は亜希子に恋心を抱くようになっていく。しかし亜希子はそんな状況に気づくこともなく、ヒロキと親密な様子のみゆきのことが心配で仕方がなかった。
義母
宮本みゆきが宮本亜希子と知り合ってから20年以上の歳月が流れていた。みゆきはヒロキとの結婚を機に亜希子のもとから巣立ち、二人の子供の母親になっていた。そして、夫の母親であるボスとの同居生活を始めたみゆきは、嫁いびりと息子のヒロキをひいきする嫌味な姑(しゅうと)の典型であるボスとの日々に耐え忍んでいた。しかし、そんな中にあってもみゆきは亜希子のことを気にかけていた。電話しても留守電ばかりで話すこともできず、亜希子の忙しさを理由に、最近生まれた赤ん坊の顔も見せられないでいた。結婚して以来数回しか会えていない状況に危機感を覚えたみゆきは、姑とのケンカを理由に家出し、子供たちを連れて里帰りすることを決める。一方の亜希子は、パート勤務していたパン屋の経営立て直しに成功したことをきっかけに、経営コンサルタント会社を設立。社長として元キャリアウーマンの力を存分に発揮し、忙しい日々を送っていた。そんな仕事にまい進する日々の中でも、心の中にあるのはいつもみゆきのことで、義母として自分の役目は終わったと口では言いながらも、孫にも会えない寂しさが滲(にじ)んでいた。そんなある日、家出してきたみゆきと二人の孫と共に過ごすことになり、亜希子は複雑な心境を抱えながらも、幸せを実感する。みゆきは久々に帰って来た実家で、亜希子の年老いた姿を目の当たりにすることになり、改めて亜希子と過ごせる時間が限られていることを実感するのだった。
メディアミックス
テレビドラマ
2018年7月に、本作『義母と娘のブルース』のテレビドラマ版『義母と娘のブルース』がTBS系列で放送された。好評を博し、2020年1月には、テレビドラマ版『義母と娘のブルース』の1年後が描かれた『義母と娘のブルース 2020年謹賀新年スペシャル』が放送。さらに2022年1月には、その2020年スペシャル直後からの物語となるスペシャルドラマも放送。いずれも、脚本を森下佳子、演出を平川雄一朗、中前勇児が務めている。キャストは、宮本亜希子を綾瀬はるか、宮本良一を竹野内豊、麦田章を佐藤健、宮本みゆきの小学生時代を横溝菜帆、高校生時代を上白石萌歌が演じた。
登場人物・キャラクター
宮本 亜希子 (みやもと あきこ)
入社してから営業成績トップを誇る凄腕のキャリアウーマン。業界では一目置かれる存在で、年齢は32歳。会社では部長を務めており、仕事は厳しいが上司や部下からの信頼は厚い。生真面目な性格で仕事一筋に生きてきたため、世間一般との常識にずれがあり、日常的なことでも仕事に結びつけて考える癖がある。ライバル会社に勤める宮本良一と出会って結婚し、良一の連れ子である宮本みゆきから好かれたい一心で、三人での同居を開始する。これを機に会社を辞めることを決断して、みゆきの母親として認めてもらうために日々奔走している。仕事は完璧にこなすが意外と不器用で、特に料理や掃除、洗濯をはじめとした家事のたぐいはすべて苦手。料理を焦がしたり、ティッシュペーパーといっしょに洗濯して服が紙くずだらけになってしまうことは日常茶飯事。実は、病気で余命が短いことを知った良一が、幼いみゆきを残して死ぬことに絶望していた時、すべてを打ち明けられ、人恋しかった自分との利害が一致し、結婚することを決めた。そのため、良一との関係は恋愛期間なしで、ある意味仮面夫婦と認識していた。しかしいっしょに暮らすようになり、家族として過ごすうちに、自分が以前から良一に対して恋心を抱いていたことを自覚する。その後、結婚して約1年で良一が他界し、みゆきと二人の共同生活を始めることになる。それから7年間、専業主婦としてみゆきを支えたのち、近所のパン屋「フランセ」にパートに出ることを決め、再び働き始める。店長の麦田章に業績が芳しくない店の具体的な立て直し策を提案し、煙たがられながらも信頼関係を築いていく。のちに、フランセの経営立て直しが成功したことがきっかけで、経営コンサルタント会社を起業。鋭い分析力と主婦としての着眼点で業界一の説得力を持つやり手社長として、その手腕をいかんなく発揮している。旧姓は岩木で、宮本亜希子自身も早くに両親を亡くし、祖母のもとで育てられた。しかし、その祖母も小学生の頃に他界。天涯孤独の身となり、それからは施設で育ったという過去を持つ。
宮本 良一 (みやもと りょういち)
宮本みゆきの父親。人はいいがバカ正直すぎるところがあり、出世とは縁遠いサラリーマン。病気で妻を亡くし、みゆきと二人で暮らしていたが、ある時自分も病にかかっていることが発覚し、余命が短いことを知る。このままでは幼い娘を一人遺(のこ)すことになってしまうと絶望していた時、ライバル会社に勤める宮本亜希子と出会い、事情をすべて打ち明けることとなる。みゆきのために母親が必要と考えている自分と、人恋しかったという亜希子の利害が一致したことで再婚を決意し、三人での生活を始める。結婚後、亜希子はみゆきの母親業に専念したいという思いから退職した。これを宮本良一と結婚したことによるものと勘違いした仕事仲間からは、ライバル会社のスーパー部長を退職させたということで、会社の窮地を救った功労者であるという意味合いを込め、「救世主」と呼ばれるようになる。亜希子のことを人として尊敬し、自分のわがままを聞いてもらったことに感謝している。一方で恋愛期間なしで結婚したため、ある意味仮面夫婦として認識していた。しかしいっしょに暮らすようになり、家族として過ごすうちに、亜希子への思いは恋心へと変わっていく。亡くなった前妻のことを今でも愛しており、死ぬことで妻に会えるのなら怖くはないと感じていたが、亜希子への恋心もどんどん募っており、同時に二人を置いて自分だけ死んでしまうことの恐怖心に駆られるようになる。結婚後1年ほど経ったところで亜希子に自分の正直な気持ちを打ち明け、互いの愛を確認するが、その3日後に病状が悪化し帰らぬ人となった。
宮本 みゆき (みやもと みゆき)
宮本良一の娘。小学校に通っている。ちょっと引っ込み思案で、あまのじゃくなところがある。もともとは明るい性格だったが、実母を亡くして以来、何かと後ろ向きな考えをするようになった。良一と二人で暮らしていたが、良一の再婚相手である宮本亜希子と三人で暮らすようになる。しかし、亜希子を新たな母親として認めたくない思いがあり、何かと亜希子に反発してしまう。まだ素直になれないことも多いが、日々一生懸命な亜希子と過ごすうちに心を開き始める。小学時代の好きな科目は図工。将来はパティシエになりたいという夢を持っている。学校では、クラスメートのガキ大将、ヒロキからいじめを受けていたが、亜希子からのアドバイスを実行し、ヒロキに話しかけてからは関係も変化し、仲のいい友達として接するようになった。その後、良一が病で亡くなり、これで自分はひとりぼっちになってしまうと、一人で生きていく覚悟を決めた。しかし、亜希子が母親としていっしょにいてくれることを知り、ようやく亜希子を心から母親として認めることができた。その後、亜希子に厳しく育てられて7年が過ぎ、母親思いでちょっと変わった美しい女子に育つ。高校時代、両親を亡くした薄幸の美少女として男子からは人気を集めているが、大切な人と死に別れた悲しみを知っているため、恋愛にはあまり興味を持てなかった。しかし、クラスメートの相川優人からの告白をきっかけに、人を好きになるという気持ちを知ることとなる。さらに、小学校以来ケンカ別れになっていたヒロキとの仲直りを経て、改めて互いの気持ちを確かめ合ってヒロキと交際を始める。その後は苦手な勉強もなんとかこなし、三流ではあるが大学へと進学した。のちにヒロキと結婚し、長女の希美と長男の大樹という子宝にも恵まれる。結婚後はヒロキの母親であるボスとの同居を開始。日々忙しい亜希子には孫の顔を見せることもできないまま一時的に疎遠になってしまうが、何かと折り合いが悪いボスとのケンカを理由に実家へと里帰りする。その後は再び亜希子との交流を開始するが、いつのまにか年老いた亜希子の姿に時の流れを実感することになる。
ヒロキ
小学生の男子。宮本みゆきのクラスメートで、同級生を束ねるガキ大将だが、面倒見がよく仲間思いな一面を持つ。母親を亡くして以来すっかり暗くなってしまったみゆきのことを心配しているが、みゆきをブスと呼んだり、父子家庭のことを揶揄(やゆ)したりと、みゆきにとってはいじめでしかなく、嫌がられている。しかし、宮本亜希子からのアドバイスを受けたみゆきが、どうして自分をいじめるのかと聞いたことがきっかけで和解し、それ以降みゆきとは仲のいい友達として接するようになった。しかしその後、みゆきの女友達との関係を案じた一言がきっかけでみゆきとケンカになり、絶交状態が続いたまま7年が経過してしまう。高校生になった頃、みゆきから声をかけられたことで無事に仲直りし、7年越しのケンカが終了する。改めてお互いの存在を認識し合い、みゆきと交際を始める。その後は一流大学へと進学。のちにみゆきと結婚し、長女の希美と長男の大樹という子宝に恵まれることとなった。結婚後はヒロキ自身の母親であるボスとの同居を開始。夫婦仲は悪くないが、母親の性格が強烈であることを理解しつつも、嫁としていびられているみゆきの日常の苦労を軽んじているところがあり、どうしようもない状況が続いていた。その後、母親とのケンカが原因でみゆきが里帰りしたことで、改めて母親の圧力を実感する。それからは、みゆきに心から寄り添おうと努力するようになる。
麦田 章 (むぎた あきら)
パン屋「フランセ」で店長を務める男性。何事も大雑把な性格で、どんぶり勘定の経営を続けている。今が楽しければいいと考える楽天家。近所でも有名な元ヤンキーで、父親の店を継いだものの業績は思わしくない。ある時、パート募集に応募してきた宮本亜希子が、あまりにも輝かしい経歴を持つため、自分の店では手に余ると考え、不採用を決めた。もともと金銭感覚のしっかりした人材を望んでいたため、大企業のお偉いさんには無理だろうと判断してのことだった。しかし面接終了後、買い物をしたいと言った亜希子が、パンの耳を欲しがったために一転採用を決めた。その後、亜希子からは業績が芳しくない店の具体的な立て直し策を提案され、煙たいと感じながらも、仕事になるとなんでも器用にこなす亜希子の手腕を尊敬する気持ちが次第に恋心へと変化していく。
下山 (しもやま)
宮本家のご近所に住む奥さん。ゴミ出しや買い物のついでに宮本亜希子に話しかけては、近隣住民の噂話を中心に長話を続けている。周囲の人からは、亜希子に迷惑をかけているように見えているが、実は負けず劣らず亜希子の方が下山を振り回している節もある。おしゃべりのほかにも近隣スーパーの激安情報などにも詳しく、家計を節約したい亜希子の助けにもなっている。
ボス
ヒロキの母親。小学校では保護者のボス的な存在で、かなりクセの強い性格をしている。いつでも自分が一番偉くないと気が済まないタイプで、自分と違う意見の相手は徹底的に叩き潰そうとする。学校の保護者会で、宮本亜希子と意見が対立して互いに譲らなかったため、会議は2時間以上にも及んだ。その後、亜希子の存在が自分たちの地位を危うくすると感じ、仲間を使って亜希子の悪評を広め、保護者のあいだで亜希子を孤立させようと画策する。しかし、亜希子がもともと誰ともつるむことのないタイプだったため、なんの意味もなさなかった。その作戦が失敗したため、自分たちの仲間に引き入れようとするも、うまくいかずに結局互いの関係性は平行線をたどることとなった。その後、息子のヒロキが宮本みゆきと結婚したため、みゆきの義母となる。同居中のみゆきに、掃除が行き届いていないことを知らしめるため、窓枠を指でなぞってほこりを見せつけるなど、典型的な嫁いびりを日常的に行っている。孫の頭がいいのはヒロキに似たから、ズボラなのは嫁に似たからと孫の悪いところはすべてみゆきのせいにして、何ごとも自分に都合がいいように解釈する傾向にある。ある時、孫の名前を決めようとしたみゆきが、当て字のキラキラネームにしようとしたため、これを全力で阻止。このことに関してだけは、今でもみゆきから感謝されている。
相川 優人 (あいかわ ゆうと)
優しくてしっかり者の男子高校生。高校に進学した宮本みゆきのクラスメートで、みゆきに思いを寄せているため、日々みゆきへのアプローチを繰り返している。しかし、自転車で家まで送ってあげても単に親切な人扱いされるだけだったり、映画のチケットを渡しても「義母と行くから」と2枚要求されたりと、基本的に恋愛対象として見られていない。その後、思い切ってみゆきに告白し、好きになる努力をしてみるという返事をもらうものの、結局みゆきは「人を好きになるということがどういうことなのかがわからないことがわかった」という非情な結論を見出すに至り、残念ながらみゆきとの関係性が変わることはなかった。