あらすじ
エリート人生からの転落
大手飲料メーカー「カヅキビール」に勤務する設楽紘一は、数々のヒット商品を手掛けるスーパーサラリーマン。少々強引ながら、その手腕は確かなもので、美人で料理上手な妻と高級タワーマンションで暮らす、まさに周囲が羨む順風満帆なエリート人生を送っていた。しかしある日、そんな紘一の強引さが仇となり、常務の反感を買ったことで事実上のリストラを宣言されてしまう。さらに気落ちして自宅に帰ると離婚届が残されたまま妻にも捨てられ、職と家庭を一度に失うこととなる。早速紘一は、転職活動を始めるものの、なかなかうまくいかず、これまで暮らしていたタワーマンションも出て行かざるを得ない状況となってしまう。そんな紘一に救いの手を差し伸べてくれたのは、幼なじみのナオだった。ナオは、下宿「銀星荘」の管理人を務めていた祖母が腕を骨折して入院したため、臨時の管理人になってくれないかと紘一に打診する。紘一は、エリート意識の強さとプライドから、初めはまったく乗り気ではなかったが、再就職が決まるまでとの条件で、転職活動を継続しながら住み込みの管理人として働くことを決める。しかし、銀星荘に初めて訪れた際、一番の古株・西島いつかに対して、紘一はとあるカンちがいから「おれはアンタを抱けそうにない」と最低な言葉を口にしてしまい、初日から険悪なムードになってしまう。紘一は取りあえず当面の身の置き所が決まって安堵するものの、管理人としての仕事は山積み状態だった。しかし、いつまでもサラリーマン気分が抜けない紘一は、マイペースに管理業務をこなしていたが、いつかに突っ込まれて掃除洗濯に買い出しと、多岐にわたる雑務に追われるようになる。初めは気乗りせずに業務をこなしていた紘一だったが、元来の凝り性な性格が功を奏し、慣れない家事も時間と共に着実に上達していく。そんな中、紘一は何かといつかに振り回されるようになるが、次第にいつかを女性として意識するようになる。しかし、いつかはずぼらな性格で部屋にゴミを溜め込み、家の中で所かまわず眠ってしまうほど、だらしない女性だった。
いつかの彼氏
押し倒したくなるのは管理人さんだけという、西島いつかの発言をきっかけに、設楽紘一は彼女を意識するようになる。しかしそれでも紘一は、なんだかんだと理由をつけていつかへの思いを否定しようとする。そんな中、いつかは交際中の彼氏がいるとウソをついてしまったことで、紘一へのもやもやした気持ちを抱えたまま、マッチングアプリで知り合った男性・川島とのデートを重ねていた。三度目となったデートの日、いつかは大人で落ち着きのある会計士・川島との時間を心から楽しんでいた。そしてお酒の話で盛り上がっていると、川島から次はいつかの家でゆっくり酒を飲みたいと提案され、いつかはそこで初めて自分がレトロな一軒家「銀星荘」に下宿していることを明かす。いつかは銀星荘の写真を自慢げに見せながら、お気に入りの下宿暮らしぶりを誇らしげに語り始めるが、川島から「汚くて俺は無理」という否定的な言葉が返ってくる。するといつかは、見た目とは違って内部はきちんとリフォームしてあること、掃除が行き届いていることを説明する。さらに賄い付きであるため、仕事で疲れた日は助かると話すと、川島はいい歳の女性なんだから料理くらい自分でした方がいいと一喝される。そもそもこういう場所はお金がない人が住む場所だから早く出た方がいいと、一方的に自分の価値観を押し付けようとする。そんな川島の心ない言葉に限界を感じたいつかは、用事を思い出したと席を立ち、その場をあとにする。失礼な態度を取ってしまったことを気にしながら帰路についていたいつかは、香取とスマホで仕事の話をしながら歩き始める。すると突然、後ろから肩を叩かれ、いつかが振り向くと、居酒屋で別れたはずの川島の姿があった。すると川島は、自分を部屋に招きたくないために下宿に住んでいるという嘘をついているのだろうと、いつかに言いがかりをつけ始める。そのあまりの最低な言葉に恐怖を感じたいつかは、持っていたかばんで応戦する。すると逆上した川島は、いつかを罵りながら拳を振り上げる。いつかが身の危険を感じたその時、紘一が止めに入ったことで、川島は捨て台詞を吐いてその場を去って事なきを得る。いつかは一気に力が抜け、足元がよろけて紘一に支えられたその瞬間、先程の電話で異変を感じた香取から、紘一は暴漢とカンちがいされて殴りかかられる。
メディア化
登場人物・キャラクター
設楽 紘一 (したら こういち)
大手飲料メーカー「カヅキビール」に勤務していたエリートサラリーマン。年齢は31歳で、名門K大学卒。商品企画部で商品開発を担当し、数々のヒット商品を生み出している。高級タワーマンションに住み、美人で料理上手な妻・夏美との結婚生活も順調で、まさに周囲が羨むほど順風満帆なエリート人生を送っている。しかし、強引すぎる仕事ぶりから常務の反感を買ったことで、ある日突然、子会社への転籍を勧められることになった。しかし子会社では、商品開発の仕事は続けられないため、自らの意思で退職を決めた。そして紘一は気落ちしたまま帰宅すると、夏美から離婚届一枚を残して出て行かれてしまう。その離婚届の余白に書かれていた、「あなたとのセックスしか好きじゃなかったのかも」という一言に打ちのめされ、一夜にして仕事も家庭も失ってしまう。さらに無職になったことで家賃補助が出ないため、これまで暮らしていたタワーマンションに住むことも困難な状況となり、失意の中で職探しを始めることになった。しかし、プライドの高さから再就職先探しが難航し、ナオの紹介でやっと下宿「銀星荘」の臨時管理人を務めることが決まる。当初は嫌々だった管理業務も、かつてエリートサラリーマンだった自分にならできると前向きに取り組み始め、元来の凝り性に火が付き、いつしか完璧にこなせるようになる。銀星荘の住人・西島いつかには、初対面時のとあるカンちがいから、何かと根に持たれるようになる。しかし、泥酔したいつかを介抱した際、いつかが自分を押し倒したいと思っていることを知り、それ以来いつかを女性として強く意識するようになる。いつかに対する好意を次第に自覚するようになるが、素直になれずにうまくいっていない。設楽紘一自身が行っている管理業務に関しては前職で培ったノウハウもあり、しっかりと書類にまとめている。ちなみに、夏美が置いていった離婚届はまだ役所に提出しておらず、手元に置いたままとなっている。
西島 いつか (にしじま いつか)
Web制作会社「コスモインデックス」の本社に勤務している女性。下宿「銀星荘」の住人の中で一番の古株。年齢は29歳。部屋に大量のゴミを溜め込み、十年以上前のクラスTシャツを部屋着にしていたり、どこでも眠... 関連ページ:西島 いつか
ナオ
下宿「銀星荘」の住人で、設楽紘一の幼なじみの女性。バー「Dolce」を経営している。紘一が無職になったことを知り、銀星荘の管理人を務める祖母が入院したため、代わりに臨時の管理人をやってみないかと紘一に声をかけた。サバサバした性格で、思ったことはすぐに口に出してしまう。
土田 (つちだ)
設楽紘一の友人で、ナオの経営するバー「Dolce」の常連客の男性。紘一がリストラ同然に会社を退職したことや、妻が出て行ったことを知っている。その後、下宿「銀星荘」で管理人をしながら就職先を探していた紘一に、土田自身の大学時代の先輩の会社を紹介した。
増田 すず (ますだ すず)
下宿「銀星荘」の住人で、生物学部の大学院に通う女性。年齢は23歳。同居人のナオや西島いつかと仲がよく、新たな管理人となった設楽紘一とも良好な関係を築いている。紘一が発熱してダウンした際には、学校帰りにスポーツドリンクや果物を買ってきた。銀星荘がお気に入りで、時折友達が遊びに来ている。
小野寺 (おのでら)
下宿「銀星荘」の新たな住人となった男性。横浜に住んでいたが、訳あって下宿することになる。以前はバーテンダーやレストランで働いており、料理の腕は確か。銀星荘に入居後、西島いつかに近所を案内してもらっていた際に、彼女と小野寺の関係を誤解した元彼女が割って入り、いつかがケガを負ってしまう。
香取 (かとり)
Web制作会社「コスモインデックス」に勤務している男性。西島いつかとは同期で同じ部署に配属され、日々励まし合ったり愚痴ったりして良好な関係を築いていた。その後は大阪支社に転勤となり、3年勤務して本社に戻ってきた。爽やかな人当たりのいいイケメンで、気遣い上手。同期の中でも頭一つ飛び抜けて優秀で、大きなプロジェクトにもかかわっており、女子社員からの人気も高い。以前から、いつかに思いを寄せていたため、本社に戻ってきたことで彼女との距離を縮めようとしている。その後、横浜にある洋菓子店のサイトリニューアルの仕事をいつかと共に任されることになり、彼女をサポートしている。
友部 ミチコ (ともべ みちこ)
Web制作会社「コスモインデックス」に勤務している女性。西島いつかとは同期で仲がいい。最近、彼女から下宿「銀星荘」の新たな管理人となった設楽紘一の話を聞くようになり、恋愛に発展してほしいと見守っている。しかし、入居者と管理人という微妙な関係であることや、愛人に間違えられたトラブルから、なかなか進展しないことを心配している。そんな中、いつかの気持ちを確認しつつ、そっとアドバイスを送っている。
川島 (かわしま)
会計士を生業とする男性。年齢は32歳。マッチングアプリで西島いつかと知り合った。趣味はボルダリングや旅行、お酒を飲むこと。いつかと三度目のデートの際、次はいつかの部屋で飲もうと提案した。その際、いつかが暮らしている下宿「銀星荘」の写真を見せながら嬉しそうに話す彼女に対し、「汚くて俺は無理」と一蹴。そして賄い付きであることに話が及ぶと、「料理くらい、いい歳の女性なんだから自分でしようよ」と言い放つ。さらに、こういった古い下宿はお金がない人が住む場所だから、早く出て行った方がいいと的外れのアドバイスをした。そのあまりの失礼な言動に、いつかは用事を思い出したとその場をあとにするが、その態度に納得できずに帰路についた彼女を尾行。自分を家に招きたくないから下宿に住んでいるとウソをついたに違いないと、いつかに詰め寄った。
武田 (たけだ)
大手飲料メーカー「カヅキビール」に勤務している男性で、設楽紘一の部下。営業部から商品企画部に異動してきた。紘一から商品企画のノウハウを叩き込まれ、かわいがられていた。紘一を尊敬して目標にしていたが、新商品「潤沢」の開発プロジェクトを担当していた際、紘一が会社を突然退職したため、不満を抱いていた。その後、バー「Dolce」で紘一が女性に顎で使われているという話を聞き、同僚と共にDolceに来店した。その場では、傲慢な紘一が女性に従っているのが面白いとひねくれた発言を繰り返していた。しかしそれは、自分のプライドを捨ててでも会社に残って商品開発を続けてほしかったという気持ちの裏返しでもある。ただプライドを守るためだけに、紘一が自分と共に開発していた新商品を途中で放り投げて逃げ出したことに悔しさと寂しさをあらわにした。そんな武田の思いを知った紘一は、彼に頭を下げて謝罪した際には涙をにじませていた。その後、紘一が妻に逃げられて転職活動もうまくいかず、下宿「銀星荘」の管理人として住み込みで働いていることを知り、驚愕する。
場所
銀星荘 (ぎんせいそう)
ビルの合間の坂の多い町に佇む、庭付きの古い木造の一軒家。ナオの祖母がオーナー兼管理人を務めている。築60年以上が経過しており、風呂はタイル張りで、広い縁側がある昭和レトロな雰囲気を漂わせた下宿。ナオの祖母が住人たちの世話をしていたが、腕を骨折して入院してしまったため、設楽紘一が急きょ臨時の管理人として同居することとなった。銀星荘の入居者はナオをはじめ、一番の古株・西島いつか、大学院生の増田すず、入居したばかりの小野寺の四人。賄い付きを売りとしている。
書誌情報
ハマる男に蹴りたい女 6巻 講談社〈KC KISS〉
第1巻
(2022-01-13発行、 978-4065265109)
第2巻
(2022-06-13発行、 978-4065281512)
第3巻
(2023-01-13発行、 978-4065301135)
第4巻
(2023-06-13発行、 978-4065318362)
第5巻
(2023-12-13発行、 978-4065340554)
第6巻
(2024-04-12発行、 978-4065352991)