ハルとアオのお弁当箱

ハルとアオのお弁当箱

大学図書館に勤務する生粋のアニメオタクの木野春葉は、お気に入りのバー「glapple」で出会い、意気投合したオネェの佐藤蒼とルームシェアすることになった。そして二人での新生活を送るにあたり、互いにお弁当を作り合うというルールを設ける。互いを思いやりながら作ったお弁当で元気を補充しながら、温かく、優しい日々を送る二人の姿を描いたほのぼのルームシェアストーリー。各エピソードの最後には、作中に登場する料理の詳しいレシピも掲載されている。「月刊コミックゼノン」2018年5月号から掲載の作品。

正式名称
ハルとアオのお弁当箱
ふりがな
はるとあおのおべんとうばこ
作者
ジャンル
料理
 
日常
関連商品
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あらすじ

二次元オタクの木野春葉は、食に興味がなく、休憩時間にはお気に入りのベンチで一人、ゼリー飲料を飲みながらスマートフォンでアニメに関する情報収集や、ゲームに没頭する日々を送っていた。そんな春葉を寂しくてかわいそうと哀れむ同僚の言葉に打ちのめされ、心に処理しきれない傷を負った春葉は、仕事帰りにバー「glapple」に立ち寄る。そして、この店の遠慮なく甘いボリューミーなケーキとお酒を楽しみながら、店主の好美に世間の理不尽を愚痴っていた春葉は、となりに座った美人から、不意に声をかけられる。「佐藤蒼」と名乗った彼女はオネェで、本当は男性であった。行きつけのバーの常連客同士ということもあり、二人はすぐに意気投合。そして互いの言葉に元気をもらった二人は、酔った勢いでルームシェアによる同居を決める。しかし翌朝、酔いがさめて正気に戻った春葉は、勢いで決めたことを後悔しすぐに撤回。春葉の家に泊めてもらっていた蒼は、彼女の気持ちを尊重して一度引き下がり、泊めてくれたお礼として手作りのお弁当を渡す。仕事の休憩時間にいつものベンチでお弁当を開いた春葉は、そこに蒼から自分への温かな思いを感じ、幸せを覚える。それと同時に、春葉はお礼に蒼のためにお弁当を作ろうと決意し、生まれて初めてのお弁当作りに挑む。そして、悪戦苦闘しながらできあがったぼろぼろのお弁当を蒼に届け、感謝の気持ちを伝えた春葉は、蒼からの強い勧めに絆(ほだ)され、ルームシェアについて改めて考え始める。(第1話「寂しくないご飯」)

ある夜、春葉と蒼が暮らす部屋に春葉の母が訪れる。前日の春葉からの連絡で、娘が他人と同居を始めたことを知った母親は、相手がどんな人なのかはっきり説明しない春葉に業を煮やし、相手に挨拶をするという名目で二人のもとを訪れたのだ。もともと蒼は、同居に際して親の了承を得て欲しいと春葉にしつこく頼んでいたが、なかなかきちんと話をしようとしない春葉にやきもきしていた。それは、自分自身がふつうでないことを理由に実家の母親との確執があるためで、春葉には自分のせいで、実家に帰りづらくなるような状況になってほしくないと考えていたからだった。そんな中、突然やって来た春葉の母に身構えつつも、きちんと挨拶を済ませた蒼は、ちょっとしたことで口喧嘩する春葉親子を見てハラハラし、仲がよさそうな様子を見れば笑顔になって、二人を見守る。そんな蒼の様子に気づいた春葉の母は、深夜、お弁当の下ごしらえをしていた蒼に声をかける。蒼は、自分のような同居相手では不安に思って当然と、春葉の母に心配をかけていることを謝る。しかし春葉の母は、娘の不出来なところについて逆に謝罪し、蒼のことを人の気持ちを思って笑顔になれるいい男性だと褒める。そんなふうに褒められたことがないとこぼした蒼の心中を察した春葉の母は、他人や世間の「価値観の暴力」に打ち負かされないようにと、温かな言葉で蒼にエールを送る。(第8話「ツナとピーマンのチーズ炒め」)

蒼は、生後5か月になる甥っ子に会うため、姉の織江の住む埼玉へ帰省することになった。蒼の母との関係について気にしている織江は、蒼と母親が万が一にも遭遇することがないように、前もって母親に日帰りバスツアーの旅行をプレゼントし、埼玉から遠ざけるという対処を講じる。しかし蒼は、姉や甥に会えるのが嬉しい反面、分かりあえない母親への苦手意識があり、彼女との遭遇の可能性を考えると、どうしても怯(ひる)んでしまう。そんな複雑な感情を抱く蒼に、春葉は手作りのお弁当を持たせて背中を押す。春葉の思いに応えようと、蒼は勇気を出して埼玉へと向かう。織江と駅で再会した蒼は彼女の自宅を訪れ、いっしょに食事を楽しみながら、昔の思い出話を始める。テーブルの上には、織江が食べたかったデリバリーピザと、蒼が持参した春葉の手作り弁当が並べられた。それを前に織江が語ったのは、学生時代、実家で理不尽な扱いを受け続けた際に、蒼の味方になってあげられなかったことへの謝罪だった。思ってもみなかった言葉に動揺しつつも、蒼は自分を気にかけてくれたことに感謝の言葉を口にする。その後、春葉のお弁当をきっかけに、今の生活について話すことになった蒼は、春葉との距離感がちょうどいいと語り、春葉を織江に会わせることを約束。織江が授乳時期を終えたら、自宅に呼ぶからいっしょに飲もうと盛り上がる。するとそこでインターフォンが鳴り、埼玉にいないはずの春葉の母親が姿を現す。(第12話「セロリとおつまみいかのサラダ前編」、第13話「セロリとおつまみいかのサラダ後編」)

職場の同僚が身につけていたアクセサリーが気になった春葉は、購入した店を聞き、スマートフォンで詳細を調べてみる。だが、それまでファッションには興味が持てず、おしゃれをとことん拒絶し続けてきたこともあり、春葉はアクセサリーに興味を持った自分自身を素直に認めることができないでいた。そんな春葉の様子に気づいた蒼は、彼女の新しい一面が知れたことが嬉しくなり、いっしょにアクセサリーのお店に行こうと買い物に誘う。しかし春葉はそれを頑(かたく)なに拒否し、自分はオタクだからこんなものを身につけても気持ち悪いだけだと、蒼からの誘いを笑顔でかわしてしまう。最初は黙っていたものの、春葉からの視線が、自分が身につけているアクセサリーにも向けられていることに気づいた蒼は、仕事帰りの春葉を食料品の買い出しと噓をついて、強引にショッピングに連れ出すことにした。お目当てのアクセサリーショップにやって来ると、それまで及び腰だった春葉も、かわいいものであふれたきらびやかな空間に、思わずテンションが上がる。一つのネックレスに目を留めた春葉に、蒼は試着を勧めてみるが、春葉はこれを全力で拒絶。自分自身と「かわいい」は相容れないと蒼を突き放し、オタクであることを理由に自分を卑下する言葉を連発する。蒼はそんな春葉を制止し、彼女の言葉をすべて否定したうえで怒り出す。実は蒼は10代の頃、ふつうとは違う自分のことについて思い悩み、自分を卑下し続けていたことがあった。自分に毒の言葉を吐き続け、心が死んでいく経験をした蒼は、自分にとって大切な春葉に同じ経験をして欲しくないと諭す。(第16話「ひじきとピーマンのみそマヨ和え」)

ある日、莉央は家に呼んだ友達にちょっとだけ見栄を張る形で、好美が大事にしていた限定品のお菓子を食べてしまう。数日様子を見るも、特に気づく様子がない好美に、莉央はいっそのこと代わりのものを用意しようかと、デパ地下でお菓子を物色していると、バーの常連客のゆみと遭遇する。莉央に気づいたゆみが声をかけると、莉央は瞬時に涙目になり、事のいきさつを話し始める。なんとかしてごまかそうとする莉央に、ゆみは素直に謝ることを提案し、結局莉央は悩んだ末に手作りクッキーを焼いて好美に謝ろうと決意する。莉央は、ゆみにいっしょにクッキー作りを手伝って欲しいと懇願するが、もともと子供に苦手意識を持っていたゆみは、自分よりも春葉や蒼に頼んではどうかと提案する。しかし、莉央は手伝ってくれる代わりにと、自分にできるありとあらゆるメリットを提示し、ゆみの承諾を得ることに必死となる。そんな莉央の様子に絆されたゆみは、クッキー作りを手伝ってあげることにする。週末、莉央を自宅へと招いたゆみは、降って湧いた子供とのお菓子作りの時間の中で、莉央に対して不思議な感情を抱くことになる。そして今まで、子供は行動が予測できないという固定概念に縛られ、莉央を子供だからとひとくくりにして扱っていたことを反省。ゆみはあらためて一人の人間として莉央と向き合い、友人として莉央を大事に思うのだった。(第21話「ジャムサンドクッキー」)

メディアミックス

テレビドラマ

2020年10月13日から、本作『ハルとアオのお弁当箱』のTVドラマ版『ハルとアオのお弁当箱』がBSテレ東ほかで放送された。キャストは、木野春葉を吉谷彩子、佐藤蒼を井之脇海が演じている。

登場人物・キャラクター

木野 春葉 (きの はるは)

大学の図書館に勤める女性。年齢は27歳で、女児系および美少女系のアニメやゲームが大好きな二次元オタク。ボブヘアで眼鏡をかけたおとなしい印象で、人付き合いはちょっと苦手としている。オシャレや恋愛よりも、趣味に没頭することに時間を費やしたいという考えを持っているため、毎朝何を着るか悩むのを厭(いと)い、服は基本的に白いシャツと紺色のスカートしか持っていない。幼い頃から偏食で小食だったこともあって、食事にも特に関心はなく、仕事の昼休みにはお気に入りのベンチで一人、ゼリー飲料を飲みながらスマートフォンでアニメに関する情報収集やゲームに没頭している。そうすることで、ストレスから解放され、午後を乗り切るための英気を養っている。しかし周囲からは一人で寂しそう、かわいそうな人と思われることが多く、理解されないことに心を痛めている。世間の理不尽から受けるストレスを解消する方法が、バー「glapple」のお酒とケーキ。嫌なことがあった日はバーに寄り、遠慮なく甘いボリューミーなケーキを食べながらお酒を飲み、店主の好美に話を聞いてもらうことで元気を取り戻している。ある時、同じくバーの常連客である佐藤蒼から声をかけられ、意気投合。酔った勢いでルームシェアすることを決めてしまった。正気に戻ったあと、事の大きさに気づいて一旦は断るものの、蒼が作ってくれたお弁当を食べて、人が作ってくれたものを食べることの幸せを実感。蒼からの強い勧めもあって、勢い半分でバーの上にある2LDKの部屋で蒼と猫のぴーちゃんとの共同生活が始まった。同居中は、蒼と木野春葉が互いにお弁当を作り合うことになり、もともと料理が苦手だった春葉も悪戦苦闘しながら弁当作りに奔走する。食への無関心も、蒼の影響で変化し始めて不器用ながらも相手を思い、料理をする日々を送るにつれ、少しづつ弁当作りの腕を上げていく。何かと控えめな蒼だが、春葉にとってはなんでもきちんとしている尊敬できる人物と認めており、蒼の人間性そのものをリスペクトしている。ゆみは、唯一オタクとして話の合うオタク友達。

佐藤 蒼 (さとう あお)

看護師を務めている男性。外見は女性というオネェで、年齢は23歳。ウェービーなショートボブの髪型で、目元と口元にほくろがあり、低くてセクシーな声が魅力的な美人。料理上手で、日々職場には手作りの弁当を持参している。食を大事にしていて、美や健康に対して強いこだわりを持っている。恋愛対象に関してはどちらかといえば男性を好む傾向にあるが、性別に特にこだわりはない。姉の織江の同級生ということで、中学時代から付き合いのあった好美が店主を務めるバー「glapple」には常連客としてよく訪れていて、時おり一人でいる木野春葉のことは以前から気になっていた。ある時、世間の理不尽から受けるストレスについて愚痴る春葉に声をかけ、意気投合。もともと、拾った猫「ぴーちゃん」と暮らすためにペット可の物件を探していたため、春葉とルームシェアする話が浮上。その後酔いがさめ、正気に戻った春葉から一度は断られるものの、手作りのお弁当で彼女の胃袋をつかみ、少々強引にルームシェアを勧めた結果、二の足を踏む春葉との同居が決まった。同居中は、春葉と蒼が互いにお弁当を作り合うことを決め、不器用ながらも努力を続ける春葉を温かく見守っている。中学時代ソフトヤンキーだった好美は、佐藤蒼のあこがれでもあり、彼女のようになりたいと真似たこともあった。実家の家族はきちんとしたタイプの人たちばかりで、世間でいうふつうの男性とはかけ離れたタイプの蒼は、身の置き場がなかった。特に蒼の母からは、ふつうでないことを責められることも多く、蒼自身に強い劣等感を抱かされることになり、針の筵(むしろ)状態だった。そのため、今でも埼玉にある実家に帰ることはなく、特に同居中の春葉が、自分との同居のせいで春葉の母と関係を悪くしたりしないかと心配している。

好美 (よしみ)

莉央の母親。バー「glapple」の店主を務める。客の話を親身になって聞く、親しみやすい店長として、居心地のいい場所を提供している。お店ではお酒だけでなく、軽食や手作りケーキも用意しており、特に暴力的に甘いボリューミーなケーキが女性客の心をわしづかみにしている。お店の常連客である佐藤蒼は、もともと同級生だった友人の織江の弟という関係で、好美がソフトヤンキーだった中学生の頃に懐かれて以来の付き合い。蒼の実家のことにも詳しく、蒼が現在に至るまでのさまざまな過去についてもよく知るため、人に気を遣いすぎる蒼の様子を心配している。現在はシングルマザーだが、まだ結婚についてはあきらめていない。

春葉の母 (はるはのはは)

木野春葉の母親。おおらかで自由奔放な性格で、少々強引なところはあるが、温かく優しい心根の持ち主。ある時、春葉から他人との同居を始めたことを聞く。相手がバーで知り合った人と知り、どんな人なのか質問するも、明確な答えが得られなかったため、相手に挨拶をするという名目で二人が暮らす部屋を訪れた。春葉とは思ったことを口にし合うことができる良好な関係で、ちょっとした言い合いはするものの、基本的には非常に仲がいい。いっしょに暮らしている佐藤蒼に対しても好意的で、実の母親のように接した。蒼が、自分がふつうではないことに対して後ろめたさを感じていることを察し、人の気持ちを思って笑顔でいられる蒼のいいところを褒め、他人や世間の「価値観の暴力」に打ち負かされないようにとエールを送る。

ゆみ

好美が店主を務めるバー「glapple」の常連客の女性。木野春葉のオタク友達。乙女系のアニメやゲームのほかに、それに付随する2.5次元系の舞台などが大好きで、春葉とはよく互いの得意分野に関するCDやBDなどの貸し借りをしている。最近の悩みは、ここ数年ハマっている2.5次元作品の舞台公演チケットが取れないこと。自分にとって生きる糧となっているのに、息の根を止められようとしているように感じ、辛い思いをしている。「オタクとリア充の人生は流れ方がまったく違っていて、隔絶している」という持論を持っている。よく知りもしない男性と突発的にルームシェアを決めてしまった春葉に、佐藤蒼の素性を聞くなど、本気で心配する様子を見せた。のちに、蒼の日常について熱く語る春葉から、蒼の手作りのお弁当を食べさせてもらい、その味に感動。さらに、蒼が好美の知り合いということを知り、蒼に対する不信感はなくなり、蒼とも親しくなっていく。基本的に子供に対しては苦手意識を持っている。それは子供の行動が予測できずに、嫌いというよりは、どう接したらいいのかわからないという感覚。好美の娘の莉央とは、2度くらいしか会ったことがなかったが、デパ地下で偶然遭遇した際には、迷わず声をかけた。いっしょにクッキーを作って欲しいという莉央からの要求には、最初のうちは困惑するものの、その後承諾。自宅に莉央を呼んでいっしょにクッキー作りを手伝った。その際、莉央と二人だけの時間を過ごすことで、莉央をひとくくりに子供扱いして苦手意識を抱いていたことを反省。一個人としての莉央との関係を大切にしたいと思うようになる。

莉央 (りお)

好美の娘。見た目どおりの幼さと、多くの大人に囲まれて育っていることでの大人っぽさが共存した性格をしている。佐藤蒼のことが大好きで、蒼が木野春葉とルームシェアを始めたことを知り、妬(や)いている。幼いながらも、一人前の女性のように、つねに蒼への気持ちを全開させている。蒼が一人で暮らしていた時は、時おり泊まりに行っていたが、春葉と同居を始めたと知って以来、拒絶していた。もともと自分が大人になったら、蒼といっしょに暮らすことを夢見ていたため、春葉が苦手な食べ物を残したり、アニメばかり見ていることを知っていたため、蒼と同居するに値する女性ではないと認識している。二人の部屋に泊まりに行き、自分の方がちゃんとした大人であることを見せつけようと画策する。しかし、素直になりたいのに素直になれず、心のどこかで突っぱねようとする自分自身とぶつかることになり、自分の気持ちを処理しきれずふてくされてしまう。だが、春葉がそんな自分の心に寄り添ってくれようとする優しさを見せたため、それまで敵視していた春葉に対しての気持ちが変化していく。ゆみとは、バーの常連客ということで知り合い、蒼や春葉といっしょに出かける計画を立てたことがあった。ゆみとは特に仲がよかったわけではないが、好美が大事にしていた限定品のお菓子を食べてしまい、困っていた時に偶然目の前に現れた彼女に助けを求めた。手作りクッキーで母親に謝罪することを決め、ゆみに協力をお願いした際には、自分にできる最大限のメリットを必死に提示し、ゆみの協力を得ることができた。それ以来、ゆみとも友人としての関係を築く。

同僚 (どうりょう)

女性の二人組。年齢は19歳。木野春葉と同じ職場の同僚で、オシャレや恋愛に全力を注ぐ女子力高めの二人。自分の考えを人に押し付けがちなところがあり、地味な外見の春葉に、ファッションやメイクに時間を費やすように勧めたり、日頃一人でランチをとる春葉を、寂しくてかわいそうと哀れんでいた。春葉に断られてもなにかと声をかけ続け、彼女をランチに誘うことに成功した時に、春葉に彼氏がいないことを知ると、以前話していた芸能人のことを持ち出し、年下の王子様系が好きと勝手に判断。春葉だって彼氏が欲しいだろうと決めつけ、後輩によさげな男子がいたらセッティングするからと、本人をまったく無視したやる気を見せた。その後、春葉とは時おりスイーツを食べに行ったり、ランチを食べたりすることが増え、春葉の性格や趣味などについても、理解はできないものの、ある程度認識するようになった。

葉村 (はむら)

大学の学生課に勤める男性。いつもニコニコとした温和な性格をしている。昼休憩の時に、木野春葉と知り合った。現在実家で暮らしているが、春から祖母との同居が始まり、洗濯や掃除、食事と張り切って世話をしたがる祖母をけん制する日々を送っている。いい大人が祖母に世話を焼かれることを恥ずかしく感じていて、毎日弁当を作ろうとする祖母に、なんとかやめてもらおうと交渉。週に2回弁当を作ることで譲歩してもらった。そのため、お弁当の日は人気のないところで一人で休憩時間を過ごしていて、お弁当の中身は人に見られないように隠して食べている。春葉とは、お昼に会った時には同席し、いっしょにランチを楽しむようになる。その後、春葉がよく話題にするバー「glapple」にも顔を出すようになり、互いに気遣いのいらない性別を超えた友人関係となる。好きなものは、前日の晩ご飯で余った刺身を焼いたもの。これがお弁当に入っていると、笑顔になる。暴君な姉がおり、使い走りにされたり、風呂が長いと文句を言うとローキックをされたり、友達が家に来るからと出て行かされたりと、何かと理不尽な扱いを多く受けている。だが、ニコニコしているとよいことがあるという祖母からの助言を守り続け、今ではそれが癖になっている。元彼女からは、そのニコニコした笑顔が原因で、へらへら、のらくら、あなたには心がないと言われてフラれた。

織江 (おりえ)

佐藤蒼の姉。現在は結婚し、埼玉の実家近くの川越で夫と生後5か月の息子の光と暮らしている。半年ぶりに蒼と会えることになり、川越まで来てくれた蒼を歓迎。当日、母親には日帰りツアーをプレゼントし、蒼と確執のある母親とは遭遇しないように最大限の配慮をした。まだいっしょに暮らしていた頃、蒼がふつうの男性と違うことで母親から責められていたのを知っていながら、ちゃんと味方をしてあげられなかった。しかし、蒼が高校入学にあたって祖母の家から通いたいと言ったことで、母親から叱責を受けていた時には、ついにキレて蒼の気持ちを代弁し、蒼の身方についた。実は自分も、本当に受けたかった大学を母親の意見に従ってあきらめたことを後悔しており、母親に対して思うところがあった。そのため、もっと早く蒼のことを助けてあげればよかったと今でも後悔している。

蒼の母 (あおのはは)

佐藤蒼と織江の母親。埼玉で暮らしている。最近は、織江が産んだ孫の光がかわいくて仕方なく、ほぼ毎日顔を見に通っている。明るくてさっぱりした性格だが、何事も自分の理想が正解という偏った考えの持ち主で、そこから外れた物事に関してはいっさい許容できない。そのため、世間でいうふつうの男性とはかけ離れてしまった蒼を認めることができず、ため息をついたり、蒼の人格そのものを否定するなど、多感な時期の蒼を傷つけ続けた。そのせいで、蒼が中学生の頃からの悪化した確執を解消できないまま、疎遠になり、現在に至る。蒼が女性と同居していることや、蒼と同居する木野春葉、それを許している春葉の母に対しても、負の感情を抱いており、理解もしていない。織江に対しても、もともと本人が受けたがった大学よりも、女子にとって体裁がいいと言うだけの理由で別の大学を勧めて受験させた経緯があり、織江の心の引っ掛かりとなっている。蒼の高校入学に際し、祖母の家から通いたいと言った蒼を強く反対したが、思いがけず織江から反論されることとなり、大喧嘩になった。

真冬 (まふゆ)

佐藤蒼の友人の女性。年齢は23歳で、キャバ嬢として働いている蒼とは小学生の時に知り合い、高校時代になかよくなって以来の付き合いで、今でも時々会って、食事やお酒を楽しんでいる。数少ない蒼の理解者で、高校時代に蒼が祖母の家で暮らしていたため、しょっちゅう入り浸って祖母とも仲がよかった。当時、ちょっとしたことで言い合いになり、自分の八つ当たりだったにもかかわらず、蒼が謝って話を終わらせようとした。そのため、蒼は優しそうに見えて本当は冷たいと気持ちをぶつけたことがあった。それが、それまで人と真っ直ぐ向き合うことができなかった蒼を変えたきっかけとなった。今でも互いを大切な存在として認識しており、蒼が木野春葉と共同生活を始めたことで、居心地のいい場所を作ったことが嬉しいと感じている。最近まで交際していた彼氏がいたが、仕事が原因で嫌味を言われたために別れたばかり。夢は、30歳くらいまでに自分の店を出すこと。しばらくはオーナー兼ママとして理想の店づくりをして、40代半ばくらいには、店を女の子に任せ、自分は母親と共に小料理屋をメインにしたいと考えている。

梅里 律花 (うめざと りつか)

看護師1年目の女性。佐藤蒼と同じ病院の病棟に勤める蒼の後輩で、蒼に淡い恋心を抱いていたが、年上の女性と同棲していると聞き、落胆している。以前は蒼の恋愛対象が男性なのか女性なのかわからずに悩んだ時もあったが、同棲相手が女性なら、すっぱりあきらめると腹をくくった。仕事中、何をしても毎日必ず叱られる状況が続き、努力を続けても心が折れそうになる中、めげずに取り続けたメモと、それをまとめたノートのおかげで、努力が認められる瞬間が訪れる。それは、人知れず蒼が梅里律花の努力を看護副師長に知らせてくれていたからで、蒼のひそかなバックアップが律花のやる気を維持させる手助けになった。その後、同棲に関する噂の真相を聞き、蒼本人に恋愛対象が女性か男性かを確認した。性別は関係ないと言われたことで、再び淡い希望を抱くことになる。のちに、職場に弁当を届けに訪れた木野春葉と顔を合わせ、彼女が蒼の同棲相手であることを知る。春葉が自分が思い描いていたような色気のあるタイプではなかったために拍子抜けするが、その後偶然にもお気に入りのケーキ店で蒼と春葉に遭遇。それ以来、春葉とも親しくなっていく。

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