ヒカリとツエのうた

ヒカリとツエのうた

目の見えない少女ゴゼが、一人で自由に生きようと身につけた三味線の技で、苦労して北の地方で暮らしていく。やはり盲目の年下の少年・二太とゴゼとの出会いや、二太自身の板子(イタコ)の少女との出会いも語られる。他人との心の結びつきを認識して大切にしていこうとする人々を描いた、短編連作形式の人間ドラマ漫画。雑誌掲載された4編に、書下ろしを2編加え、物語の厚みが増した。

正式名称
ヒカリとツエのうた
ふりがな
ひかりとつえのうた
作者
ジャンル
ヒューマンドラマ
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概要・あらすじ

盲目の少女ゴゼは、かぞえで6歳のとき親方と「手引き」のトミと三味線の修行の旅に出るが、一人で歩きたいと思ったゴゼは、親方の許しを得て光明女子音楽院へ行く。しかし数年後、さらなる自由を求めたゴゼは学校も飛び出し、一人で門つけをして生きていこうとするが、世間の風は冷たかった。野宿しながら三味線の稽古をする彼女の前に、10歳の盲目の少年・二太が現れ、いろいろないきさつの後にゴゼ二太に三味線を教える。

演奏が身についたころ二太は家族の事故死で一人になってしまうが、ゴゼはあえて彼に一人で生きるように言って別れる。幼い三味線弾きとして名が売れるようになった二太は、路傍で「口寄せ」をやって暮らしていた同じ年の身寄りのない板子(イタコ)の少女と出会い、彼女に「手引き」になってもらう。

二太と少女ツエはやがて人気演奏家となったゴゼと再開する。演奏会場でかつて世話になった親方の消息を聞いたゴゼは、二太と少女ツエと一緒にその話の場所を訪れる。そして物語は人々の結びつきを再確認して終結するのだった。

登場人物・キャラクター

ゴゼ

目の見えない少女。初登場時はかぞえの6歳で、両親は共に亡くなっており三味線の師匠(親方)たちと巡業の旅をしていた。本編は彼女が高校生くらいに成長してから始まる。一人で自由に生きたいと考え学校を飛び出し、身につけた三味線演奏の技で世を渡ろうとするゴゼ。世間の風にさらされくじけかけるが、縁あって盲目の少年二太に三味線を教えることになり、教練の過程で自分も演奏の楽しさを思い出し、人々に感銘を与える演奏を習得する(二太はゴゼのことを先生と呼ぶ)。 二太を独り立ちさせた後、人気演奏家になる。その後様々な人間と出会い、ゴゼは人間としていっそう成長する。最後に昔世話になった「手引き」のトミのつらい現状を終結させたあと、ゴゼはトミの幼い娘ヒカリを「手引き」にして、新しい演奏の旅に出るのだった。 ゴゼという名前は、女性盲人芸能者を表す「瞽女(ごぜ)」からとっていると思われるが、作中で瞽女という漢字は使われていない。

親方 (おやかた)

盲目の三味線引きの女性で、両親を失った幼いゴゼの師匠で親代わりである。プロローグの「一人歩き」と最終話に登場する。「手引き」のトミとゴゼの三人一組で、巡業をして回った(その土地の名家の大座敷などを借りて、集まった人々に演奏と唄を聞かせておひねりをもらう)。優しい性格で、自由を求めるゴゼを許し、光明女子音楽院へ行かせる。

トミ

盲目のゴゼと親方の目の代わりになる「手引き」の若い女性。プロローグの「一人歩き」と最終話に登場する。眼も、一般に比べると良い方ではない。人々に演奏と唄を聞かせて回る巡業の三人一組のメンバーの一人で、「手引き」であると同時に唄も担当している。が、それほど上手いわけでもない。 誘惑に弱く、条件のよい男性に言い寄られると、体を許してしまう。自由を求めるゴゼにつらく当たる。最終話で、借金まみれかつアルコール依存症で不治の病にかかっているという、悲惨な状況に陥っている。夫は逃げており、ヒカリという幼い娘がいる。板子(イタコ)のツエの「口寄せ」で、最後に会いたかった人に会うことができた。

二太 (にた)

10歳の盲目の少年。母はすでに亡く、個人タクシーの運転手をやっている父と暮らしていた。ゴゼに出会う一年前に失明してずっと家にこもっていたが、ゴゼの三味線を聞き、家を出て彼女に演奏をせがむようになる。家のものを持ち出して、ゴゼに渡していたのを父に見つかりとがめられるが、思い直した父は三味線を二太に仕込んでもらうようゴゼに頼む。 二太がある程度引けるようになったとき、父が事故で死去してしまい、二太は一人になってしまう。そして、一人で生きていくようにゴゼに言われた二太は、幼い三味線弾きとして名が売れるようになる。やがて彼は、路傍で「口寄せ」をやって暮らしていた同じ年の身寄りのない板子(イタコ)の少女と出会い、彼女に「手引き」になってもらう。 しばらくしてから彼らはゴゼと再会し、彼女の再出発に立ち会う。

二太の両親 (にたのりょうしん)

ゴゼの三味線の弟子になった、10歳の盲目の少年・二太の父親と母親。双方とも苗字・名前・年齢などは不明。父親は個人タクシーの運転手をやっており、妻が死んだあと男手ひとつで二太を育てていた。二太に芸を身につけさせるため、ゴゼに三味線を仕込んでもらうよう頼む。 しかし、そのあとに車の事故で死んでしまう。母親はずっと前に死んでいたが、霊が見える板子(イタコ)の少女ツエの前に現れ、コミュニケーションをとろうとする。二太が流行り病で死にかけたとき、ツエの「口寄せ」で二太と心を交わすことができた。そのせいか、二太は生き延びる。以後、母は現れなくなる。

ツエ

霊が見える10歳の板子(イタコ)の少女。左目は失明しており、右目もあまり良くはなく、杖を持って歩いている。道端でゴザを敷いて、死んだ人の霊を降ろして話をする「仏おろし」もしくは「口寄せ」を商売にしている。一回3000円。理由は不明だが孤独の身の上で自分の名前を知らず、「ツエ」と名乗る前は名無しだった。 一人で放浪の暮らしをしていて、村からは厄介者扱いされていた。村に来た同じ年齢の人気三味線弾きの二太が杖を壊して困っていたとき、村人が彼女の杖を奪って二太に渡そうとするのを必死で抵抗したため、杖ごと二太に渡される。以後、彼の眼となって「手引き」をする。二太の死んだ母親の姿をいつも見ており、自分の死んだ母親が現れないのを不満に思っていた。 二太が流行り病で死にかけたとき、彼女の看病と「口寄せ」で命を取りとめる。ここで初めて少女は二太に心を許し、二太が彼女を指し「僕の杖です」と言ったのを受け、「ツエ」と名乗るようになった。二太がゴゼと再会し、ゴゼがトミの悲惨な状況に立ちあったとき、同行していた「ツエ」が口寄せでトミに平穏を与えた。 単行本に収録されている、番外編の「お山の少女」には、十代半ばくらいの盲目の少女が板子(イタコ)をしている話で名前もツエだが、『ヒカリとツエのうた』のツエとは同じ人物ではないようである。

オサム

サングラスをかけた作家の若い青年。「黒めがね」に登場する。北の地方の地主の息子で、遊び歩いているとうわさされる。女性に人気があり、連れている女性が毎日変わる。祭りなどで演奏するゴゼの三味線を楽しむ聴衆に混じり、高額の投げ銭(一万円札)をしては去っていく、ということを繰り返す。 ゴゼはこれを嫌がる。実はオサムはゴゼと話がしたくてそのような行為を行っていた。二人だけで会い、一曲つけてくれと個人的にゴゼに頼むが、金じゃ弾かんとはねのけられる。では本を読もうと言い、太宰治の『津軽』を語り始める(『津軽』は青森を舞台にした、太宰の自伝的小説)。ゴゼは語りに合わせて三味線を弾き、小説を賞賛する。 ここでオサムは半年前に失明し、アメリカで手術を受けたが手遅れだったことを告白する。だが、ゴゼは音の世界もまた豊かであることを示し、口述で本を書けばいいと示唆する。

貧しい家の娘 (まずしいいえのむすめ)

山中のほとんど廃村のような場所に建つボロボロの家に、寝たきりの祖父と住む若い娘。「つぎはぎの夜」に登場する。名前・年齢は不明。廃屋かと思って演奏の練習をしていたゴゼに怒って石をぶつける。しかし、そのあとゴゼが連れてきた、古い家を探していたフィールドワーク中の男子大学生を受け入れて、家や家具の写真を撮らせる。 男子大学生を泊めて一夜を過ごすが、次の朝彼は迎えに来た同じゼミの女子と帰ってしまい、貧しい家の娘は切なさに打ち震えるのだった。

男子大学生 (だんしだいがくせい)

北の地方の寒村にフィールドワーク調査に訪れた男子大学生。「つぎはぎの夜」に登場する。名前・年齢は不明。眼鏡をかけた、さわやかで都会的な印象を受ける青年。ゴゼの紹介で、廃村のような場所に建つボロボロの家と、そこに住む娘を訪ねる。家に置かれた歴史のある古い家具などを賞賛し、写真を撮りまくる。 家の娘と一夜を過ごすが、次の朝に迎えに来た同じゼミの女子と帰ってしまう。

教師 (きょうし)

「目の見えないもののための訓練校」である光明女子音楽院の教師。「ゴゼと二太」と最終話に一人ずつ登場する。二人とも目が見えない。「ゴゼと二太」に登場するのは、自由を求めて反抗的だったゴゼをしかりつけ、彼女の中退のもととなってしまう厳しい女性教師。これに対し最終話「春のヒカリ」に登場する光明女子音楽院の女性教師は、文化祭にゴゼを呼んで演奏させ、活躍した先輩は生徒たちの目標になると言って彼女を賞賛する。 そして、かつてゴゼが世話になった親方の消息も伝える。

ヒカリ

かつてゴゼが世話になった「手引き」のトミのまだ幼い娘。最終話「春のヒカリ」に登場する。苗字と年齢は不明。借金と飲酒を繰り返し、男出入りの激しい母親に絶望気味であったが、ゴゼと二太とツエの検診のおかげで、母を見送ることができ、明日への希望も生まれた。ヒカリはゴゼから唄を教わり、彼女の新しい「手引き」となって二人で巡業の旅に出るのだった。

集団・組織

光明女子音楽院 (こうみょうじょしおんがくいん)

『ヒカリとツエのうた』に登場する集団。ゴゼが親方とトミと別れ、通った学校。目の見えないもののための訓練校で、目の不自由な人たちに衣食住を保障し、国が給料を払っている。ゴゼはそれを嫌い、自分の力で人生を切り開くため、学校を飛び出した。

その他キーワード

ゴゼ式目 (ごぜしきもく)

『ヒカリとツエのうた』に登場する架空規則。光明女子音楽院で、目の見えない生徒たちが唱和する、盲人芸能者たちの規則。一、年数40年を積んだものを頭(かしら)とする。一、不行届、色事は年数落としの罪とする。一、名主や庄屋は旅一座に宿を貸すこと。作品に出てくるのはこの三つである。

仏おろし (ほとけおろし)

『ヒカリとツエのうた』に登場する術。板子(イタコ)の少女ツエが用いる降霊術で、依頼者が会いたい人の霊を自分に憑依させ、依頼者と会話するというもの。「口寄せ」も同じような術(こちらは恐山のイタコがよく用いる)だが、作中では並列されている。単行本に収録されている番外編の「お山の少女」にも板子(イタコ)のツエという娘が登場して類似の術を使うが、こちらは「神おろし」になっている。

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