あらすじ
第1巻
音楽を愛する少女の須佐朱は、伝説のミュージシャンである渡会一意と出会い、彼のプロデュースを受けながら再び音楽の世界に踏み込む。歌手としても女としても成長を遂げた朱は、音と魂で惹かれ合い、強い恋心を寄せていた一意と再会して愛を告げる。しかし、婚約者の東久世貴子を捨てられない一意は、朱と訣別するために過ごした夜を境にお互い二度と会わないと誓い合い、二人の関係は静かに幕を閉じる。それから十数年後、一意の妻となった貴子は不治の病にかかり、彼と三人の子供を残して亡くなる。一方の朱は、世界的に有名なシンガーソングライターとなり、一意への思いを押し殺しながら、順調に音楽活動を続けていた。貴子の死から半年後、朱はスタジオを訪れていた東久世日輪と出会い、彼女が一意と貴子の娘だと知る。後日、朱のライブ中に演奏担当者が負傷するというトラブルが発生するが、自ら助けに入って代わりの演奏を務めたのは一意だった。朱は音を聞いた瞬間、演奏者が一意であるとすぐに気づき、ライブは滞りなく終了。ライブ後に一意と14年ぶりの再会を果たし、久しぶりに言葉を交わす朱だったが、彼から突然のプロポーズを受ける。一意の真意がわからず違和感を覚えて困惑し、プロポーズを断った朱は後日、日輪と一意がケンカしている場面に遭遇する。
第2巻
東久世日輪を突き放すような渡会一意の冷たい言葉を聞いた須佐朱は、昔とは変わってしまった彼に失望して怒りを覚え、自分が日輪を預かると口走ってしまう。勢いで日輪を自宅に連れ帰った朱だったが、反抗的な態度ばかりの日輪はなぜか朱を嫌っている様子だった。日輪の気持ちがわからずに悩む朱は、東久世貴子の死と一意の言葉に苦しむ日輪の姿を見る。日輪と過去の自分を重ねた朱は、かつて貴子がしてくれたように、大人として日輪と正面から向き合おうと決意。朱がさっそく、家にこもりがちな日輪に外へ出かけるか学校に行くようにうながすと、日輪は遊園地に行きたいと答える。そこは日輪が家族とよく行っていた遊園地で、彼女は家族の思い出を語ることで、一意を思う朱を傷つけようともくろんでいた。しかし朱は、日輪や貴子が幸せに生きていたことに安堵し、傷つくどころか嬉しそうな表情を見せるのだった。そんな朱を見た日輪は、嫌味を言いつつも少しずつ彼女に心を開いていく。そんな中、朱もダイジュ・プロも関与していない謎のシークレットライブが開催されるという噂が流れ、当日には実際にライブが敢行されたという報せも入る。驚いて急遽会場に駆けつけた朱たちにはファンやマスコミから激しい非難の声が上がり、朱は何者かの策略でライブをドタキャンしたことになっていた。
第3巻
須佐朱に引き取られ、新しい暮らしにも慣れ始めた東久世日輪だったが、東久世貴子が亡くなる直前に朱にあやまっていたことや、渡会一意と朱の関係が貴子を苦しめていたことから、朱と一意に恨みを抱いていた。一方の朱は何者かの妨害を受け、コンサート前のアクシデントが連続したり、マスコミに批判的な記事を書かれたりすることが増える。黒幕がわからないまま、さらにはバンドメンバーやスタッフが次々とダイジュ・プロを去り、歌う場所を次々となくしていった朱は気力をなくしていく。それでもなんとかしようとする朱と日下部大樹だったが、過去にさまざまな困難を乗り越えられたのは一意がそばにいたからだと気づく。そんな朱を見かねた中川香菜子は彼女と大樹に対し、「朱を助けていた一意はもういない、幻想から目を覚ませ」と強く叱責。香菜子の助けを受けながら一つの仕事を終えるものの、朱はずっと幻想に対して歌っていたことに虚無感と喪失感を覚える。そんな朱を心配した香菜子は、日輪のもとを訪れて朱や貴子の過去を話す。それを聞いた日輪は、貴子が苦しんでいたのは一意への思いや、朱への嫉妬心によるものだったと知る。貴子や朱への認識を大きく誤っていた日輪は、自分の誤解と朱にやって来たことに、激しく混乱して後悔するのだった。そんな中、朱は消えたバンドメンバーたちが、一意のバックバンドになっていることを知る。
第4巻
須佐朱の周囲に起こっていたトラブルの一部は、朱を嫌う東久世日輪の仕業だと知るが、大きな妨害はある人物と手を組んだ渡会一意の仕業であったことが判明。朱は日輪や大樹と共に一意を問い詰めるが、彼のバックには世界的な権力者であるビル・コスナーがいた。朱と意図的に再会した一意は、経営が傾いた三元重工を立て直してもらう代わりに、朱に固執するビルの妨害工作に加担していたのである。再会以来、朱や日下部大樹が一意に対して抱いていた違和感の数々も、彼をビルが裏であやつっていたのが原因だった。すべては東久世貴子と築き上げた家族を守るためにやったことだと告げる一意だったが、一意が自分を裏切った事実を知った朱は強いショックを受け、その場で倒れてしまう。目覚めた朱はさまざまな悪意の罠と一意に裏切られたショックから声を失い、気力もなくして抜け殻のようになっていた。そのまま芸能界を引退し、家にこもったままの朱を心配する日輪は、さまざまな方法で朱を励まそうとする。生きる気力も声も失った朱を救ったのは、日輪の歌声とピアノ演奏、そして世界中で愛されている音楽だった。日輪の奏でる音楽と貴子への思いで声と気力を取り戻した朱は、芸能界を引退したままで、新しい音楽活動を模索し始める。そんな中、朱のファンを名乗る鈴木学が現れ、朱は彼と日輪の協力を受けながら徐々に歌う場所を取り戻していく。
第5巻
芸能界を離れた須佐朱は、鈴木学や東久世日輪の助けを受けながら新しい音楽活動を始める。そんな朱への妨害の手を緩めないビル・コスナーと渡会一意は、何があってもあきらめない彼女の強い気持ちと毅然とした態度に、ますます苛立ちを覚える。一方、朱にあこがれて音楽を始めた日輪は一人で路上に立ち、ストリートライブに挑戦。一意から受け継いだ天才的な才能を持つ日輪だったが、緊張から声が出ずに無言で立ち尽くすのを繰り返していた。落ち込む日輪は学から朱の話を聞いて励まされ、緊張を克服してストリートデビューを果たす。正式にマナブ・コーポレーションに入った日輪は、ストリートミュージシャンに誘われて合同ライブへの出演が決まり、朱や学に見守られながらプロデビューへの第一歩を踏み出す。ステージを見守っていた学は、ライブ会場でビルに遭遇。また、学から日輪のデビューを聞いていた一意も、仕事を抜け出してライブを見に来ていた。後日、一意はサミットの歓迎式典でオーケストラの生演奏に合わせて歌う仕事を朱に依頼。罠だと知りつつも、朱は真っ向からビルたちに立ち向かうために依頼を受ける。だが、当日に朱たちを待ち受けていたのは、オーケストラが一人も来ないというアクシデントだった。一人ではどうにもならず窮地に陥った朱は、学が呼んだ鈴木久の助けを受けてステージを成功させる。
第6巻
仕事先のエレベーターが故障し、その場にいた須佐朱と渡会一意は止まったままのエレベーター内に閉じ込められてしまう。久しぶりに一意と二人きりになった朱は悪態をつきながらも、彼が東久世日輪を託した真意を探ろうとする。一意が朱に大きな信頼を寄せていたこと、音楽への熱意が消えていないことを悟った朱は、理解できないことばかりだった彼への認識を改める。そんな中、朱は光瞭高校の吹奏楽部に音楽指導するというボランティアを依頼される。部長とマネージャーに直接会い、事情を知って快諾した朱はさっそく光瞭高校へと向かう。吹奏楽部は指導の先生が変わったことでチームワークが乱れ、部員たちも自信を失っていた。そんな現状と部員たちの音楽への情熱を悟った朱は、部を立て直そうと決意。演奏を聞いた朱はすぐに細かい指導に取りかかり、次のコンクールに向けての厳しい特訓が開始される。朱の厳しい指導にとまどいながらも、部員たちは互いに励まし合いながら、チームワークと自信を取り戻していく。朱のアドバイスで音を一つにした吹奏楽部は、1週間後のコンクールに向けてさらなる練習に励んでいた。だが、ビル・コスナーの妨害で光瞭高校と別の私立高校の合併が決まり、吹奏楽部が廃部になるという事態が発生。コンクールも出場停止となり、悲しむ部員たちを見た朱は三元重工へ急行し、一意にある依頼をする。
第7巻
さまざまな困難にも負けずに順調に仕事を増やしていく須佐朱は、鈴木学を通してバリアフリーコンサートの依頼を受ける。そのコンサートに参加する高橋はるは、耳が聞こえない少女だった。さっそくはるの家に赴いた朱だったが、感情のこもっていない演奏を聞いた朱は、はるが楽しそうに弾いていないという理由で依頼を断ろうとする。はるの演奏を再び聞いた朱は、彼女の演奏に込められた音楽への熱意を確信するが、はるは朱に「私は自動演奏器だから」と冷たく答える。それを聞いた朱は、はると衝突を繰り返しながらも彼女の家に通うようになる。しかし、はるに厳しい教育を施してきたはるの母にとっては、ピアノはあくまで教育の延長線でしかなく、耳が聞こえないはるの中に本当の音楽があるわけないと決めつけていた。母親の冷淡な言葉にショックを受けるはるの苦しみを悟った朱は、何度も彼女を励まそうとする。そんな中、東久世日輪のシングルがセールス1位を獲得したという報せが入る。ストリートライブで楽しそうに歌っている日輪を見た朱は、急遽はるを家から連れ出し、日輪のライブを見せる。日輪の弾けるような旋律を全身で感じ取ったはるは、音符が頭の中で鮮明な譜面としてイメージされていく感覚を覚え、自分の中にも音楽があることを悟るのだった。
第8巻
さまざまな妨害を受ける須佐朱は、自らの強い意志と仲間との信頼関係を武器に困難を乗り越え、音楽の持つ愛の力を見せつけていく。その活動の中で、朱の周りには音楽でつながった心強い仲間が増えていく。そんなある日、ラジオで流れていた渡会一意の新曲を聞いた朱たちは、彼の才能に大きな陰りを感じる。長らく一意と会っていない東久世日輪は、父親の曇った音色を聞いて複雑な思いを抱き、朱もショックを隠し切れずにいた。それでもふだんどおりに仕事をこなす朱は、静岡でみっちゃんが倒れてしまい、急遽鈴木学と二人だけで仕事をすることになる。一方、温かく見守ってくれている学に恋心を抱くようになった日輪だったが、彼が朱に片思いしている事実に悩み、告白しないまま思いを封印していた。デビュー後の仕事も順調にこなしていたが、セールス1位を獲得してからは周囲の人たちに冷たくされることも増え、日輪は芸能界の厳しさに直面する。そんな中、ビル・コスナーと遭遇した日輪は「君は一意の力で売れている」と聞かされ、意気消沈してしまう。そのショックから勢いで学に告白するもののふられてしまった日輪は、傷心のまま東久世家を訪れるが、弟妹が家族との思い出を忘れて新しい環境になじんでいることを知り、強い孤独を感じる。自分の居場所も頼る人も失った日輪は、逃げ出すようにある場所へ向かう。
第9巻
東久世日輪が、ビル・コスナーのもとへ向かったと知った須佐朱と渡会一意は、ビルの部屋へ急行して日輪と再会。一意を拒絶する日輪はマナブ・コーポレーションを離れ、ビルのレーベルで新たな音楽活動を始めることを朱に告げる。日輪の決意の固さを知った朱は、マネージャーをみっちゃんにして同居させるという条件を出したうえで、ビルのもとで活動することを許す。それと同時に日輪と同じ最前線に立って彼女を守るために、芸能界への復帰を決意。朱は復帰の準備を進める中で、ビルの真のターゲットが一意であったこと、一意の今までの行動は日輪と朱を守るためだったことを悟る。朱が復活ライブを終えたあと、日輪はビルの開発した最新ホログラムで世界デビューをすることになった。だが、朱のライブに価値観をゆるがされて調子を崩していたビルは、ホログラムのプログラムでミスを犯していた。駆けつけた朱と鈴木学は、ビルを助けながら世界中の知人に呼びかけてプログラムを修正し、日輪の世界デビューは無事に成功する。ビルと過ごす中で彼の過去と孤独を知った日輪は、彼の思い出の地である三重県を訪れる。そこでビルの祖母が遺した日記を発見した日輪は、凍ったビルの心を溶かすべく、急いで東京へ戻るのだった。一方、すべてを失った一意は放浪の身となり、孤独の中で大阪の街をさまよっていた。
登場人物・キャラクター
須佐 朱 (すさ あけみ)
不動の人気を誇るシンガーソングライターとして活躍する女性。声楽家の加納玄明の娘として生まれ、ピアニストの加納美枝子の英才教育を受けて育った。複雑な生い立ちや事情から高校時代まで音楽を封印していたが、伝説のミュージシャンである渡会一意との出会いをきっかけに音楽の世界に再び踏み込む。一意や日下部大樹に支えられながらさまざまな困難を乗り越え、歌手としても女性としても大きな成長を遂げ、現在は音楽業界のトップとして活動を続けている。一意に思いを伝えたあとは互いに二度と会わないことを誓い、10年以上ものあいだ会うことはなく、仕事での共演も断り続けていた。アパート暮らしだった母親の須佐史子と共に一軒家に引っ越し、二人暮らしをしている。一意のことを今でも愛し続けているが、彼への思いを押し殺しながら仕事に励んでいる。そんな中で東久世日輪と出会い、ライブ前のトラブルで助けに入った一意と再会を果たす。再会後に一意のプロポーズを受けるが違和感を覚えて断り、彼と険悪になっていた日輪を引き取って同居生活を始める。大人として日輪と向き合ううちに心を開かれていく一方、一意に裏切られていた事実を知り、強いショックから声を失う。日輪の励ましや演奏に触れることで東久世貴子の優しさと音楽の無限の可能性を思い出し、声と気力を取り戻す。それ以降は芸能界を離れたまま、日輪と鈴木学の助けを受けながら新しい音楽活動を始める。
渡会 一意 (わたらい かずい)
伝説のミュージシャンで、東久世貴子の婚約者の男性。若い頃はある出来事をきっかけに音楽業界から離れていたが、須佐朱との出会いをきっかけに彼女のプロデュースを務め、再び音楽の世界に踏み込んでいった。音楽でつながった朱には特別な感情を抱いていたが、貴子のことを心から愛していたため、朱を恋人とすることはなく二度と会わないつもりでいた。その後は世界的に有名なミュージシャンとして活躍しながら、三元重工の次期社長となり、貴子と結婚して三人の子供と共に忙しくも幸せな生活を送っていた。三元重工の次期社長としては「東久世一意」を名乗っているが、ミュージシャンとしては本名の「渡会一意」名義で活動している。長らく仕事での共演も断りながら朱と会わなかったが、貴子を亡くした半年後に朱の前に現れて14年ぶりの再会を果たし、プロポーズするが断られる。娘の東久世日輪を寄宿舎に入れようとしていたが、一意の暴言を見かねた朱が日輪を預かることになり、東久世一星と東久世二花は貴子の両親に預け、実家の屋敷に戻って一人暮らしをしている。実は朱を恨むビル・コスナーから傾いた三元重工の経営を立て直す融資の話を受け、貴子と築いた家族を守るために彼の妨害工作に手を貸していた。それらの事実を知って芸能界を去った朱が新しい音楽活動を始めたあともビルに手を貸しているが、彼女や日輪のことは大切に思っている。
東久世 日輪 (ひがしくぜ ひわ)
渡会一意と東久世貴子の長女。貴子によく似た美少女だが、冷淡な表情を浮かべることが多い。慕っていた貴子が不治の病になり、ある事実を知ってからは一意に不信感をつのらせ、反発ばかりしている。貴子の死から半年後に寄宿舎に移る予定だったが、スタジオで偶然須佐朱と出会い、親子ゲンカを見かねた彼女の家に引き取られて同居を始める。実は生前の貴子と一意の会話を偶然立ち聞きしており、一意が朱を愛していたことや、貴子が朱に罪悪感を抱いていたことを知っていた。これ以来、貴子が苦しむ原因となっていた一意と朱に憎しみを抱いている。朱に引き取られてからも冷たい態度を取り続けていたが、正面から向き合おうとするひたむきな彼女に心を開いていく。のちに中川香菜子から朱や貴子の話を聞いて自分の誤解を悟り、声を失った朱を救うと決意し、ピアノ演奏と歌で励まして彼女の声を取り戻すことに成功。鈴木学と共に朱の音楽活動をサポートし、朱にあこがれを抱きながら音楽の世界に踏み込んでいく。ストリートライブに挑戦するものの、人前に出ると緊張から歌えずにいたが、学の励ましや朱へのあこがれから緊張を克服し、マナブ・コーポレーションで本格的な活動を始める。一意の才能を受け継いでおり、天才的な音楽センスと幅広い声域を持つ。また、昔は一意と共に外国を訪れていたため、外国語も得意。活動を見守って励ましてくれる学には、好意を抱いている。
日下部 大樹 (くさかべ ひろき)
須佐朱の所属するダイジュ・プロの社長を務める男性で、渡会一意の親友。現在は中川香菜子と結婚し、妻と息子の一との三人暮らし。ふだんは香菜子のことは呼び捨てにしているが、仕事中は尊敬の意を込めて「中川さん」と呼ぶことがある。かつて朱の音楽の才能を見込んでスカウトし、一意と協力しながらデビュー前から支えてきた。朱が世界的に有名になった現在も彼女を全力でバックアップし続けていたが、一意とビル・コスナーの画策によってスタッフの一部を失い、一意に裏切られたショックで朱が声を失ったことで芸能界から引退。のちに朱が芸能界に復帰したのをきっかけに朱と再会し、仕事を失った一意が失踪したことを告げる。
東久世 貴子 (ひがしくぜ たかこ)
三元重工の一人娘で、渡会一意の婚約者。須佐朱にとっても姉のような存在だったが、彼女への嫉妬心、一意とのすれ違いや葛藤の数々に苦しんで記憶喪失になる。記憶を取り戻したあとは失踪し、海外でボランティア活動をしていた。のちに帰国して一意と結婚し、三人の子供に多くの愛情を注ぎながら幸せな日々を送っていたが、不治の病にかかって亡くなった。一意と結婚後も、彼が朱と魂でつながっていることを悟り、朱に対して最期まで罪悪感を抱き続けていた。
中川 香菜子 (ながかわ かなこ)
須佐朱の高校時代の同級生で、親友の女性シンガーソングライター。気が強く、明るくサバサバした性格をしている。朱と同時期にデビューし、現在は朱と並ぶミュージック界の女王と呼ばれる人気歌手として活躍している。日下部大樹と結婚しており、彼と息子の一と三人暮らしで、仕事もプライベートもともに充実した日々を送っている。朱とは過去に色々あったものの、さまざまな衝突や困難を乗り越え、現在はよきライバルとしてもよき理解者としても助け合いながら交流を続けている。朱が落ち込んだときは叱咤激励したり、背中を押したりできる数少ない存在であり、トラブル続きで歌う気力をなくしていた彼女をサポートした。また、東久世日輪が朱に嫌がらせをしていたことにいち早く気づいて東久世貴子や朱の過去を語り、日輪が貴子と朱に抱き続けていた誤解を解くきっかけをつくった。
ビル・コスナー
須佐朱に一方的な恨みを抱き、固執し続けている赤毛の男性。27歳の若さでAIチップ「ワールド」を開発した天才で、世界中の大企業や芸能界を動かせるほどの膨大な権力と財力を有し、これらを駆使して朱の音楽活動をさまざまな形で妨害している。さらに渡会一意に三元重工への融資を持ちかけ、彼を裏であやつりながら朱への妨害を続けている。しかし、鈴木学たちの助けを受ける朱の強い精神を折ることはできず、大半は失敗に終わっている。実はユキエとアメリカ人の父親とのあいだに生まれ、幼少期は両親の虐待を受けながら、ニューヨークで荒れた生活を送っていた。父親が刑務所入りになったあとは何者かに母親を殺害されて孤児となり、ビルの祖母に引き取られる。祖母の愛情を受けてトラウマを克服しかけるが、カセットテープを買うために外出していた彼女が事故死したことでよりどころを失い、自分の不幸な運命に失望。その後はアメリカの天才数学者に引き取られ、優れた頭脳や恵まれた容姿を駆使しながら権力や財力を手に入れ、偽りの家族を築き上げていった。幼少期はいつも音楽を聞いていたが、祖母の死をきっかけに本当に欲していたのは音楽ではなく愛情だったと気づき、音楽に歪んだ執着を抱くようになる。虐待やいじめのトラウマから人に触れられるのを極端に嫌い、大人になった今でも触れられると嘔吐することがある。
ユキエ
ビル・コスナーの母親で、三重県出身の日本人。ニューヨークで出会ったビルの父親と結婚するが、息子や夫のことは放置してほかの男性と浮気を繰り返し、ビルにもよく暴力を振るっていた。ビルの祖母の娘でもあるが、母親とは正反対に冷酷で身勝手な性格で、広い交友関係を利用していずれニューヨークでのし上がろうと考えていた。夫が刑務所入りになったあとは、痴情のもつれで何者かに殺害された。
ビルの祖母 (びるのそぼ)
ビル・コスナーの母方の祖母で、三重県の田舎町で暮らしている。通称「ババア」。両親を失ったビルを引き取り、彼を苦しめていたユキエのことを謝罪し、ふさぎ込んだ彼を励ましながら多くの愛情を注ぐ。また、ビルを引き取ってからの出来事や彼への思いを、家計簿の日記に細かく記していた。ビルが心を開きかけていることに気づき、音楽好きな彼のために須佐朱のカセットテープを買った帰り道に、事故に遭って命を落とす。
大川 (おおかわ)
須佐朱のチーフマネージャーを務める男性。朱にとっても信頼の置けるマネージャーだったが、ビル・コスナーと渡会一意の策略により、ほかのスタッフやバンドメンバーと共にダイジュ・プロを去った。
東久世 一星 (ひがしくぜ いっせい)
渡会一意と東久世貴子の息子で、東久世日輪の弟。日輪が須佐朱に引き取られてからは貴子の実家に引き取られ、一意や日輪と離れて暮らしている。離れてしまったものの日輪を心から慕い、彼女の帰りを待っている。
東久世 二花 (ひがしくぜ にか)
渡会一意と東久世貴子の娘で、東久世日輪の妹。日輪が須佐朱に引き取られてからは貴子の実家に引き取られ、一意や日輪と離れて暮らしている。離れてしまったものの日輪を心から慕い、彼女の帰りを待っている。
鈴木 学 (すずき まなぶ)
音楽事務所「マナブ・コーポレーション」を設立したばかりの新卒の男性。須佐朱の大ファンで、ビル・コスナーと渡会一意の策略で仕事を失った朱をスカウトし、彼女の音楽活動を支える。朱といっしょにいる東久世日輪のことは朱の従妹だと思い、一意の娘であることも知らなかった。技術や才能を持たない素人なために頼りないものの、音楽への愛情や熱意は人一倍強く、明るく前向きでがんばり屋な性格をしている。声を取り戻した朱の新しい音楽活動を日輪と共にサポートし、さまざまな形でバックアップしている。朱にあこがれて音楽の世界に踏み込んだ日輪のこともサポートして見守り、彼女をマナブ・コーポレーションの歌手としてデビューさせ、専属マネージャーとして支える。実はオーストリア生まれのクオーターで、イギリスからの帰国子女なために外国語が得意。また、指揮者をしている父親の鈴木久に連れられて海外を転々としていたため、音楽関係者をはじめとする海外の友人をたくさん持つ。鈴木学本人は気づいていないが、国境を超える豊富な人脈や、人同士をつなぐアナログのネットワークを自然に築き上げており、朱にもその才能を高く評価されている。実は朱にひそかに思いを寄せていると同時に、日輪から片思いされている。朱をサポートするうちにビルの新たなターゲットとなり、親しい友人も被害を受けるようになる。
鈴木 久 (すずき ひさし)
鈴木学の父親で、指揮者をしている。いつもにこやかで優しい性格で、音楽を心から愛している。仕事で各国の楽団に招かれて世界中を飛び回っており、昔から息子の学を連れてさまざまな国を転々としていた。また、落ちぶれかけたあらゆる楽団を魔法のように立て直す指揮者として、世界的に有名。日本に帰国してからは大学教授をしながら、各地の学校の吹奏楽部で音楽指導をしていたため、OBから現役学生まで多数の教え子がいる。ビル・コスナーの策略による式典中のアクシデントの際、学に呼び出されて教え子と共にオーケストラの代理を務め、須佐朱を助けた。若い頃はオーストリアの楽団の指揮者として活躍し、日本人とオーストリア人のハーフの女性、マリエと出会って結婚。マリエと共に学を大切に育てていたが、アメリカの楽団を立て直す仕事に失敗し、学が幼い頃にマリエが重病にかかってしまった。マリエの死後にアフリカのボランティア演奏ツアーの依頼を受け、妻を失った悲しみが癒えぬまま、学を連れてアフリカを訪れる。アフリカの惨状を見て意気消沈するとともに音楽への自信をなくしていたが、ラミンや彼の兄との出会いを経て、マリエが生前によく言っていた「メディアは愛」という言葉を思い出し、音楽への情熱を取り戻した。これ以来、学にも「メディアは愛だ」と説き続けている。
ラミン
鈴木学の親友で、アフリカ人の男性。鈴木久に連れられてアフリカを訪れた7歳の学と出会い、悲しみに暮れていた彼に食べ物を渡して励ましたことで親しくなった。重病にかかっていた兄を失うが、音楽好きだった兄が作った打楽器を渡し、久が音楽への情熱を取り戻すきっかけをつくった。これらの出来事を経て、学とは国境や言語を超えた強い絆で結ばれるようになり、大人になってからも時折日本を訪れて交流を続けている。ビル・コスナーからの支援金に貧しい故郷を支えられていたが、学のネットワークを壊そうともくろんだビルが突然支援を打ち切り、故郷の危機に悩むようになる。それを知った学がラミンの故郷を守るためにビルの要求を聞き入れたため、支援は再開されたものの学との交友関係を失う。のちに学を心配して手書きのハガキを送るなど、彼との友情を信じ続けている。
エリック・トンプソン
イギリスの有名ジャズシンガーとして活躍中の中年男性。東久世日輪の本格デビューとなる歌番組でいっしょになった際、応援セッションとしてバックのギター演奏に参加し、日輪とも親しくなった。
みっちゃん
須佐朱の中国楽団の仕事で通訳を務めた女性で、鈴木学の友人。頰にそばかすがある。明るく仕事熱心で、朱や東久世日輪とも仲がいい。のちにマナブ・コーポレーションに入り、朱の新たなマネージャーとなり、日輪がマナブ・コーポレーションを離れてビル・コスナーのもとへ移った際は、朱の依頼でビルを監視しながら、日輪のマネージャー兼保護者を務めるようになる。朱だけでなく日輪にとってもよき理解者となり、成長を見守りながら親身になってサポートし続けている。
高橋 はる (たかはし はる)
有名な資産家の娘で、生まれつき耳の聞こえない天才ピアニストの少女。バリアフリーコンサートへの出演が決まったのをきっかけに、須佐朱と出会う。はるの母によって、手話ではなく読話と口語で会話できるように教育されており、ピアノ演奏の実力も高い。冷淡な態度や表情を浮かべることが多いが、ピアノ演奏には音楽への熱意と並々ならぬ努力が詰まっている。幼少期から音楽を愛し、楽しむ一方で、母親の言うとおり旋律を知らない自分の中には音楽がなく、音楽への熱意も片思いでしかないと悩み苦しんでいる。朱とは衝突を繰り返すが、苦しみや本音を打ち明けたり励まされたりするうちに、少しずつ彼女と打ち解けていく。朱に連れ出されて東久世日輪のストリートライブを見たのをきっかけに、聴覚以外でも全身で音楽を感じ取れること、高橋はる自身の中にも音楽があることを悟る。同時に本音では朱に助けを求めていたと告げ、彼女や日輪の励ましを受けながら笑顔を取り戻していく。母親に本音を告げたあとは実家を離れ、朱と共にバリアフリーコンサートに向けた特訓を始める。当日はビル・コスナーの妨害を受けるものの、予測していた朱と共に乗り切ってコンサートを成功させ、それを見て感動した母親とも和解する。その後は離婚した母親と二人でアパートに引っ越し、鈴木学の紹介でアルバイトをしながら、朱たちと共に音楽を楽しんでいる。
はるの母 (はるのはは)
高橋はるの母親。耳が聞こえないはるのことを甘やかさずに厳しく育て上げ、手話がなくても口語で会話ができるように教育や訓練を施してきた。しかしピアノに関してはそれらの教育の延長線で、「聞こえなくても正確に弾ける」以上のことは望んでいない。また、耳が聞こえないはるの中に音楽はなく、あくまで自動演奏器でいるべきだと決めつけている。世間体を気にする夫からは、先天性の聴覚障害を持つはるを産んだ責任を押し付けられており、はるに手話をやめさせていたのも夫の指示によるものだった。はると衝突を繰り返して家出されるが、彼女の「本当は通じ合っていなかった」という言葉を聞き、実の娘と心を通わせられていなかったことを自覚する。はるが朱と共にバリアフリーコンサートを成功させたのを見て感動し、夫と別れてはると二人で暮らすことを決意。朱たちの協力を借りながらはると和解し、アパートで二人暮らしを始める。
ジョン・ケンウッド
ニューヨークでハード会社を起業した男性。ビル・コスナーが作ったAIチップ「ワールド」の購入を希望し、ビルのもとを訪れる。実は刑務所に入っていた頃に、麻薬疑惑で捕まっていたビルの父親から、ビルの幼少期のことを聞いていた。それらを基にビルのトラウマをえぐってゆすり、彼からワールドの全権利を奪おうともくろむが、偶然話を聞いていた東久世日輪に追い返された。
となりのおばさん
ビルの祖母のとなりに住んでいる中年女性。聴覚障害者の孫を持つ。ビルの祖母とは昔から仲がよく、彼女が引き取ったビル・コスナーのことも「ビルちゃん」と呼んでかわいがっていた。アメリカへ戻ったビルを心配しながら、いつか彼が戻ってきたときのために、無人になったビルの祖母の家を引き取って守り続けていた。高橋はると須佐朱のバリアフリーコンサートに訪れていた際に、偶然ビルと再会を果たす。のちに、ビルの心を救うために三重県を訪れた東久世日輪と出会う。日輪と共にビルの祖母が遺していた家計簿の日記を発見し、日輪に感謝しながらビルのことを託す。
加納 玄明 (かのう はるあき)
須佐朱の父親で、天才声楽家。大学時代に須佐史子と同棲し、娘の朱が生まれた。しかし妻の史子とは別れて加納美枝子と再婚し、美枝子と共に朱に音楽の英才教育をしていた。のちに美枝子と共に、交通事故で亡くなった。若い頃は音楽好きの貧乏学生で、楽譜を買うために通っていた本屋に勤めていた史子と出会い、付き合うようになった。
加納 美枝子 (かのう みえこ)
須佐朱の育ての母親で、いつもクールに振る舞う天才ピアニスト。須佐史子と別れた加納玄明の再婚相手であり、朱にとっては音楽の師でもある。朱からは「美枝子ママ」と呼ばれていた。玄明と共に朱に音楽の英才教育をしていたが、交通事故で彼と共に亡くなった。幼い朱と玄明を奪った女性として、史子からは恨まれている。実は渡会一意、鷹木與一とは腹違いのきょうだいで、一意の幼少期にピアノを教えていた。鷹木会長の娘でもあるが、鷹木家には愛想を尽かして早くから縁を切っていた。しかし幼少期に父親が掛けてくれた励ましの言葉は大人になってからも大切にしており、幼い一意や朱にも同じ言葉を掛けて励ましていた。
須佐 史子 (すさ ふみこ)
須佐朱の実の母親で、スナックで働いている。幼少期の朱とは離れていたが、加納美枝子の死後は朱を引き取って一人で育ててきた。朱を大切に思う一方で、自分から朱と加納玄明を奪った美枝子と音楽を憎んでいる。また、朱が美枝子に奪われる最大のきっかけとなった、朱の持つ音楽の才能を恐れている。このため朱を引き取ってからは音楽を禁じていたが、彼女がこっそり音楽を続けていたことには気づいていた。職場のスナックで朱とケンカしていたところ、偶然店に来ていた渡会一意に、大金と引き換えに朱を引き渡す。この際に朱に憎まれ口を叩いていたが、本音では朱が音楽の道に進んで幸せになることを願っている。一意の前で朱とケンカしたのも、伝説的なミュージシャンである彼に、朱を託すための芝居だった。朱と離れてからは彼女の活動を見守りながら一人暮らしをしていたが、酒に溺れて職場も放り出し、荒れた生活を送っていた。朱が「世界ポップス祭」予選に出た際にタカギ・プロの襲撃を受け、彼らの脅しに乗って朱の邪魔になるのを防ぐため、自ら腹を刺して倒れる。同僚に助けられ、入院した際に朱と再会を果たした。両親を早くに亡くして叔父のもとで育ち、18歳の頃に山形に出て本屋で働いて暮らしていた。本屋に楽譜を買いに来ていた貧乏学生の玄明と出会い、お茶をおごってあげたのをきっかけに交際を始めた。
貴子の父 (たかこのちち)
東久世貴子の父親で、三元重工の社長を務めている。三元重工に勤めている渡会一意の上司でもある。貴子の婚約者であり三元重工の次期社長である一意のことを、とても気に入っている。しかしライバル企業が協賛しているアニメ映画の仕事を一意が受けたと知ってからは、厳しい態度を取るようになる。
場所
ダイジュ・プロ
須佐朱がデビュー前から所属している芸能プロダクション。日下部大樹が社長を務めている。さまざまな出来事を経て、現在は業界一の大手プロダクションに成長している。
マナブ・コーポレーション
鈴木学によって新設されたばかりの小さな音楽事務所。芸能界を離れた須佐朱と、プロデビューを目指す東久世日輪が所属している。
三元重工 (みつもとじゅうこう)
貴子の父が経営している大企業で、渡会一意が次期社長を務める予定。頑固な貴子の父の古い経営方針によって破綻寸前まで傾いており、取締役となった一意が立て直そうとしている。立て直しのために一意がひそかに進めていたあるプロジェクトの成功によって持ち直すが、その後、一意は音楽の道を選び、自ら別れを告げて三元重工を去った。
前作
ピアニシモでささやいて
音楽や芸能界をテーマにした少女漫画。音楽を封印していた女子高校生の須佐朱が、渡会一意との出会いをきっかけに再び音楽の世界で活躍する様子や、恋愛模様を描く。小学館「プチコミック」1985年11月号から連... 関連ページ:ピアニシモでささやいて