あらすじ
第1巻
フィルムカメラが趣味の北村志織は、芸術系の趣味を持つ独身しか入居できない一風変わったマンション「アビタシオン・ゴドー」に引っ越してきた。ほかの住人にあいさつをする中で、志織はとなりに住んでいる平野進と出会う。進は部屋に引きこもり気味で、ほかの住人ともあまり付き合いのない謎のサラリーマンだった。引っ越しからしばらく経ったある日、志織は部屋の壁にあるエアコン穴から謎の声が聞こえてくる。声の主は「1年後の今日、となりの部屋から話しかけている」と言うが、隣人の進が話しかけている様子はなく、志織は混乱しつつも声の主と言葉を交わし続け、やがて志織は声の主を「シラノ」と呼ぶようになる。そんなシラノは志織に対し、毎週水曜日に進を尾行して写真を撮ってほしいと、奇妙な頼み事をしてくる。志織は怪しみながらも、シラノが未来の新聞記事を言い当てたことから、渋々その依頼を引き受けることとなった。そして、尾行中に進の不可解な行動を目撃した志織は彼を疑い、警戒し始める。同時に自分になんらかの危険がせまっていると気づいた志織は怖くなり、尾行を打ち切りたいと申し出るが、シラノは何があっても尾行を続けてほしいと応じる。翌週の水曜日、志織は体調を崩しながらもシラノの指示に従って尾行を終えるが、帰宅した彼女の家は何者かによって荒らされていた。
第2巻
北村志織はシラノの声に従ったことで強盗殺人に遭う運命を回避したが、それ以来シラノからの声は聞こえなくなった。一方、平野進は、志織が助かったことでタイムパラドックスが生じていると気づく。そして進は、もう一度シラノが志織を救う行動に出なければこのタイムパラドックスは断ち切れず、現在の志織の存在は1年後に打ち消されるだろうと推測する。志織を助けるためにシラノの正体を突きとめようと考えた進は、志織と共に行動することが増えるようになる。こうして共通の時間を過ごすうちに二人は惹かれ合っていくが、そんな中、志織はシラノの正体が、昔付き合っていた真鍋真一ではないかと考え始める。それを聞いた進は、奇跡を起こすシラノの強い思いの妨げとならぬよう、志織にただの隣人同士に戻ろうと告げ、彼女と距離を置くのだった。進への恋心を自覚した志織は苦悩しながら、帰国した真一と再会。しかし、真一にはすでに婚約者がいたこともあり、シラノではないことが判明する。そんな中、志織は進への未練を残したまま、本来ならいないはずの自分とかかわった誰かの人生が、変わってしまうのではないかと恐れるようになる。孤独を感じる中で転勤の話を受けた志織はマンション「アビタシオン・ゴドー」を去り、進と離れたまま1年を過ごす。それから時は流れて9月となり、志織にとってタイムリミットとなる日は刻々とせまっていた。
関連作品
本作『九月の恋と出会うまで』は、松尾由美の小説『九月の恋と出会うまで』を原作としている。また、原作の実写劇場版として2019年3月1日に公開された『九月の恋と出会うまで』があり、漫画版である本作は実写劇場版公開に伴い、先駆けてコミカライズされたという経緯がある。実写劇場版では、北村志織を川口春菜が、平野進を高橋一生が演じた。
登場人物・キャラクター
北村 志織 (きたむら しおり)
マンション「アビタシオン・ゴドー」2階B号室に引っ越してきた女性。旅行代理店に勤めている。誕生日は10月13日。フィルムカメラが趣味で、風景などの写真を撮っている。幼少期に父親を亡くし、体が弱かった母親も数年前に亡くなっている。大学生時代は真鍋真一と付き合っていた。新しい部屋で相棒のバンホーと平和な生活を送っていたが、部屋の壁穴からシラノの声が聞こえるようになって以来、いくつもの不思議な体験をするようになる。シラノの指示で隣人の平野進を尾行することになるが、尾行中に彼の不可解な行動をいくつか発見して警戒し、やがて進がなんらかの事件を起こすと疑うようになる。空き巣の被害に遭ってからはシラノとのやり取りが途絶えるが、体調を崩して倒れた際に進に介抱され、いくつかの誤解が解けて彼となかよくなっていく。強盗に殺される悪夢が続いてからは一人で過ごすのが怖くなり、自分の話を信じて心配してくれる進を頼るようになる。シラノの謎を解明するために進と行動することが増え、徐々に惹かれ合っていく。シラノの正体を探る中で、近々帰国する真一がシラノの正体だと推測するが、それを聞いた進の優しさに触れ、進への恋心を自覚する。やがて、本来なら死んでいるはずの自分の存在が、誰かの人生を変えるのではないかと恐れるようになり、アビタシオン・ゴドーを去る。
平野 進 (ひらの すすむ)
冴えない雰囲気を漂わせた若いサラリーマン。マンション「アビタシオン・ゴドー」2階A号室に住んでおり、北村志織の隣人。寝癖のある黒髪短髪で眼鏡をかけており、口数が少なく猫背気味。仕事以外ではあまり外出せずに、ほかの住人ともあまり付き合いはない。小説家を目指しており、部屋には大量の本や原稿があるが、机の周辺以外はしっかり整理整頓している。自宅でも外出先でも不可解な行動が見られ、周囲から怪しまれることが多い。あまり女性慣れしておらず、志織に対してもへどもどした態度を取ることが多い。シラノの依頼を受けた志織に尾行されるが、怪しい行動を発見した志織からは、なんらかの事件を起こすのではないかと警戒されていた。空き巣の被害に遭った志織を介抱したのをきっかけに誤解が解け、彼女となかよくなる。小説家志望ということもあり、好奇心旺盛で、志織から聞いたシラノの話もすぐに受け入れ、冷静に分析しながらさまざまな仮説を立てる。志織の尾行を知った際は怒りをあらわにしたものの、その後も志織を心配して助けるようになり、謎を解くために彼女と過ごすうちに思いを寄せるようになる。謎を解明する中で、志織が強盗殺人から逃れたことでタイムパラドックスが生じていることに気づく。志織を守るためにシラノの正体を探りつつ、志織を救うシラノの正体が未来の自分であってほしいとひそかに願っていた。
シラノ
北村志織の部屋にある壁穴から、志織に話しかけてきた謎の男性。「1年後の今日にとなりの部屋から話しかけている」と言うが姿を見せることはなく、志織とは壁穴を通した声だけでやり取りしている。当初は志織に疑われていたが、未来の新聞の見出しをすべて言い当てたため、目的は不明であるものの少しずつ彼女に信用されるようになる。志織の休日である水曜日限定で、彼女に平野進を尾行してほしいと依頼する。しかし、志織が空き巣の被害に遭ってからは話しかけることがなくなり、志織とのやり取りが途絶える。のちに進の分析により、志織の命を助けるために未来から行動していたことや、志織のことを大切に思っている人物であることが判明する。これにより、志織には一時的に、その正体がかつての彼氏である真鍋真一だと考えられていた。
バンホー
北村志織が子供の頃から大切にしている、クマのぬいぐるみ。首元には赤いリボンが結ばれている。一人暮らしの志織の大切な話し相手でもある。見た目はふつうのぬいぐるみだが、志織にとって最も身近な存在で、彼女の運命に生じたタイムパラドックスにも深く関係している。志織が空き巣の被害に遭ってからは、触れることで暗示やフラッシュバックを見せる存在となる。
権藤 (ごんどう)
マンション「アビタシオン・ゴドー」のオーナーである、画家の男性。優しく穏やかな性格の人あたりのいい老人で、住人たちからの評判も良好。数年前に亡くなった妻が大切にしていた木々や花を敷地のあちこちに植え、毎日大切に育てている。空き巣の被害に遭った北村志織を心配している。
倉 (くら)
マンション「アビタシオン・ゴドー」1階A号室の住人。イタリア帰りの小太りな中年男性で、チェロ奏者を生業としている。隣人の祖父江のことが気に入っており、よく口説いているが、いつも軽くあしらわれている。
祖父江 (そふえ)
マンション「アビタシオン・ゴドー」1階B号室の住人。黒髪長髪のクールな性格の女性で、雑誌のモデルを務めている。隣人の倉から気に入られて口説かれているが、いつも軽くあしらっている。
真鍋 真一 (まなべ しんいち)
権藤の孫の青年。仕事でしばらく海外に行っていたが帰国することとなった。愛称は「真ちゃん」。北村志織の大学の同期生で、短期間ながら付き合っていた恋人でもある。街の一番のレストランを探しては、気に入ったレストランに志織を連れて訪れていた。昔から海外で仕事をするのが夢で、帰国後に、祖父の食事会に招かれた志織と再会する。一時期は志織からシラノの正体であると推測されていたが、実はすでに真一の婚約者と婚約が決まっている。
真一の婚約者 (しんいちのこんやくしゃ)
真鍋真一と婚約している明るい性格の女性。真一とは海外で知り合い、彼との婚約が決まったため、いっしょに帰国した。
場所
アビタシオン・ゴドー
北村志織が引っ越した2階建てのマンション。建物は小さく、部屋が四つしかない。オーナーは権藤が務めている。独身で芸術活動をしている人だけが借りられるなど、少々変わった取り決めがある。建物や設備はかなり細かく設計されており、部屋の中に風が集まって通り抜けていくようになっている。
白樺の木 (しらかばのき)
マンション「アビタシオン・ゴドー」の庭に生えている白樺の木。手紙や物を根本に埋めることで、未来にいるシラノに届けることができる。北村志織にとって、シラノと物のやり取りができる唯一の場所となっているが、シラノから志織に物を送ることはできない。
クレジット
- 原作
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松尾 由美