概要・あらすじ
のどかな田舎にある湊町に住んでいる少年・波浜登(ピント)は思春期真っ只中。日頃から宇宙とカメラと女の子に興味津々なピントの前に、ある日見知らぬ女の子が降って来た。空から降りて来たその少女はピントの父親である波浜海の妹で、ピントの叔母にあたるという。同い年の叔母の登場に混乱するピントだったが、海はさらにピントの祖母が宇宙人であり、ピントにもその血が流れているという衝撃的な事実を告げる。
半信半疑ながら、かつて宇宙に旅立ったという祖父の波浜潮を思い出したピントは、憧れていた未知への冒険に想いを馳せる。
登場人物・キャラクター
波浜 登 (なみはま のぼる)
素朴な表情をした黒髪短髪の男子中学生。波浜海、波浜今日子の息子。年齢は14歳。熱中すると我を忘れるほどに写真撮影が好きなため、友人からは「ピント」と呼ばれている。釣りや昆虫採集、サイクリングとアウトドア方面に趣味を多く持ち、自然を謳歌する能力に長けている。佐倉洋介とは特に仲が良く、悪だくみや小旅行を含め、行動をともにすることが多い。 年上の女性である寿桃音に漠然と惹かれていたが、海猫亭湊との出会いをきっかけに、自分の気持ちを改めて考えるようになった。また潮のカメラを発見してからは度々人格が豹変したり、不思議な体験に巻き込まれたりするが、本人はそれも冒険の1つとして楽しんでいる。
波浜 海 (なみはま かい)
波浜登の父親。日焼けした筋肉質な身体と、短く刈りあげた黒髪の壮年男性。湊町で海の家を経営している。波浜潮と海猫亭三五の息子であるため、正確には宇宙人とのハーフ。かつては潮に影響されて宇宙での暮らしに憧れていたが、洋介の父や寿ウメ、元木太郎、如月健二といった志を同じくする仲間たちと月へ到達できたことを節目とし、地球での生活を選んだ。 現在は彼らとともに、今後の地球がどうやって他の惑星文化と折り合っていくかを協議する役目を負っている。また神職の心得があり、元服の祭りでは子供たちを清める祝詞をあげた。
波浜 今日子 (なみはま きょうこ)
波浜登(ピント)の母親。短い黒髪を後ろで一つ結びにした女性。成長するにつれて徐々に手から離れていくピントを寂しく思いつつも、優しく見守っている。女学生時代、月から帰って来て、目的を失っていた若き日の波浜海を何かと気にかけては世話した。そのことがきっかけとなってプロポーズを受けた。海猫亭湊や寿桃音といったピントをめぐる女性陣の関係に興味津々で、世話を焼こうとすることがある。 姑である海猫亭三五には、家事の手抜かりを指摘されてうろたえるなど、頭が上がらない。
波浜 潮 (なみはま うしお)
波浜登の祖父。禿げた頭頂部と編み込まれたもみあげが特徴の老人。かつて宇宙への旅を渇望するあまり、地球への生還を度外視した旅へと繰り出した。それからおよそ10年後、宇宙船は故障で遭難。そこを別の惑星の皇族である海猫亭三五に救出され、窮地を脱した。老いてなお衰えない行動力と力強い言動で、いつの間にか周囲を巻き込んでしまうカリスマ性の持ち主。 波浜海をはじめ、洋介の父や寿ウメ、元木太郎、如月健二らは、潮に憧れて月面への到達を果たすことになった。妻である三五には頭が上がらず、婿入りして正式に皇族となってからも、理由をつけては逃げ回っている。
海猫亭 湊 (うみねこてい みなと)
海猫亭三五の娘。襟足のカールした髪型で、眼鏡をかけた元気いっぱいの少女。波浜海の妹のため、波浜登(ピント)にとっては叔母にあたるが、年齢はピントと同じ14歳。波浜潮が海猫亭三五の家へ正式に婿入りするにあたって、一時的に地球へ滞在しに来た。地球の景色や文化などさまざまなものに興味を示し、全力で楽しもうとする好奇心旺盛な性格。 それまでいた星との重力差から、地球では非常に身軽に運けてしまうため、普段は薬によってコントロールしている。ピントと出会った当初、叔母と甥という関係から、まるで姉のように振舞っていたが、元服の祭りで寿桃音と一緒にいたピントを見て、自分がピントに惹かれていたことに気がつく。
海猫亭 三五 (うみねこてい さんご)
波浜登(ピント)の祖母。ヘアバンドで額を露出させて丸眼鏡をかけており、顔つきが娘の海猫亭湊とそっくりな若い女性。とある太陽系外惑星の皇族で、地球人に比べると非常に年齢の進みが遅い。かつて宇宙で遭難していた波浜潮と恋に落ちたが、父母から理解を得られずに駆け落ちし、地球で波浜海を産んだ。普段は皇族として宇宙で公務に励んでおり、地球に立ち寄ることは稀だが、ピントが元服間近であることを知り、海にピントの宇宙旅行を提案した。 潮を御することができる唯一の人物である。
佐倉 洋介 (さくら ようすけ)
波浜登(ピント)の悪友の男子中学生。茶髪を無造作にまとめた、爽やかな雰囲気をしている。湊町商店街にある花屋の息子。年相応に異性に興味があり、女性陣が風呂や着替えに出掛けると、ピントを誘ってすかさず覗こうとする。町の外の世界に興味があり、元服の祭りを機に、新東京都への旅行をピントに提案。2人だけの自転車旅行へと繰り出した。 異性からの評判は良く、後輩の女子から告白されることもある。しかし、本人は海猫亭湊に想いを寄せており、その気もないのに待たせるのは失礼だとして断っている。
佐倉 チエリ (さくら ちえり)
佐倉洋介の妹。茶髪を一つ結びにした、あどけない顔つきの少女。父親が不在ということもあって、普段は洋介と一緒に母親の花屋を手伝っている。洋介が波浜登と遊びに行く時には、一緒に連れていくようにせがむ。しかし、洋介からは邪魔者扱いされて、なかなか連れて行ってもらえずにいる。湊町に立ち寄る移動図書館をよく利用している。
洋介の父 (ようすけのちち)
佐倉洋介と佐倉チエリの父親。白髪を横に流し、口ひげを生やしている中年男性。湊町外惑星文化交流・交易特命全権大使を担っており、湊町の代表として唯一宇宙で暮らしている。外惑星からの文化や技術の流入を規制している現在の地球を、子供たちの世代に向けてどう変えていくべきか考えている。波浜海らと相談した結果、徐々に規制を緩めていくという結論に至る。
寿 桃音 (ことぶき ももね)
波浜登(ピント)の友人で、寿ウメの娘。豊満な身体つきをした、長い黒髪の女性。ピントに好意を寄せて、積極的にアプローチしている。その度に何かと邪魔が入るため、思ったような結果は出せていない。寿司屋の娘らしく優れた料理の腕前を持つ。波浜今日子が、花嫁修業の一環として海猫亭湊との料理対決を提案した際には、自信満々で臨んだ。 背が高く、ピントの周辺の女性陣の中では唯一年上であり、そのことを突っ込まれると不機嫌になる。
寿 ウメ (ことぶき うめ)
湊町商店街にある寿司屋の主人。寿桃音の父親。角刈り頭と大きな顎、ねじり鉢巻きが特徴の壮年男性。荒っぽい言動が多く、波浜海とはよく口論になるが、決して仲が悪いわけではない。かつて仲間たちと月に降り立った経験を持つが、同時に波浜潮のように、自由に宇宙を旅する選択ができなかったことを口惜しくも思っている。 海猫亭三五が波浜登への宇宙旅行を提案した際には、嫉妬を隠せなかった。
寿 柿音 (ことぶき かきね)
寿桃音の従姉妹で、豊満な身体つきをした長い茶髪の女性。新東京都を目指していた波浜登(ピント)が立ち寄った街で、たこ焼き屋を営んでいた。桃音とそっくりの外見だが、性格は派手で豪快。関西弁のような口調で話す。街で絡まれているところをピントに助けてもらったので、一時的に宿の世話を買って出た。桃音と定期的に文通しているためピントのことも事前に知っていたが、あえて口に出さず、ピントをからかっては面白がる。
元木 幸子 (もとき さちこ)
波浜登(ピント)の友人で、元木太郎の娘。二つ結びにした黒髪の、生真面目な女子中学生。ピントに想いを寄せているが、同じく彼に想いを寄せる寿桃音には勝ち目がないと、消極的だった。そこに、海猫亭湊まで現れてしまい、なかなか関係を進展させられずにいる。放課後は本屋の手伝いをしていることが多く、ピントや佐倉洋介が有害図書をこっそりと購入していたことも把握していた。
元木 太郎 (もとき たろう)
湊町商店街にある本屋の店主。元木幸子の父親。薄い頭髪をした中年男性。洋介の父を中心に、波浜海らと今後の外惑星交流について意見交換した際は、商店街の発展のため規制緩和に理解を示した。昔はやんちゃな性格だったようで、海猫亭湊によれば、警察の世話になったことも一度や二度ではないとのこと。
如月 梢 (きさらぎ こずえ)
波浜登(ピント)の友人で、如月健二の娘。金髪をポニーテールにした、人懐こい性格の女子中学生。ピントや佐倉洋介、海猫亭湊らが起こす騒動には常に飄々と対応し、潮のカメラで豹変したピントを見た際にも、慌てずにその場を収めようとするなど対応力が高い。元木幸子とは特に仲が良く、寿桃音や湊の登場で消極的になっていた幸子に、ピントに思い切って迫るようにアドバイスした。
如月 健二 (きさらぎ けんじ)
湊町商店街にある写真屋の店主。白髪に丸眼鏡をかけた、温和な表情の中年男性。波浜登(ピント)のカメラの師匠で、ピントが見つけた潮のカメラを見て、波浜潮の思い出話を伝えた。若い頃は体力がなく、家で寝込んでいることが多かった。その度に見舞いに訪れてくれた潮に憧れ、やがて波浜海や洋介の父、寿ウメ、元木太郎らと月への到達を果たすことになったと語る。
ミカン
波浜登(ピント)たちが通う中学校で担任を務める若い女性教師。元服の祭りでは子供たちを清める神職も担う。長い茶髪で、額を露出させて前髪を髪留めで留めている。自由奔放かつあまり物事を深く考えない性格で、夏休み直前に訪れた海猫亭湊を、終業式の日に転校生として紹介した。湊が、終業式に転校して来たため、一切授業を受けることができないと嘆くと、急遽短縮授業を企画。 その際には缶ビールを飲んで酔っぱらったり、寿桃音に寿司を出前させたりとはしゃいでいた。ちなみに独身。
カノコ
湊町の県境に架かっている大橋の橋先案内人。二つ結びにしたおさげの少女。代々続くシェルパの家系で、県外へ自転車旅行に向かう波浜登(ピント)と佐倉洋介の案内を行った。両親は都心に住んでおり、現在は祖父との二人暮らし。橋を渡るにあたって、ピントたちよりも恐る恐る足を進めたり、橋の途中での宿泊を拒否したりと、重度の高所恐怖症。 案内の途中で自分の危機を救ってくれたピントに懐き、慕うようになる。
姫子 (ひめこ)
白髪で儚げな雰囲気が漂う若い女性の幽霊。佐倉洋介と途中で別れ、別々の道で新東京都へ向かった波浜登(ピント)が、波浜今日子の実家の旅館に立ち寄った際に姿を現した。かつて波浜潮に好意を抱きながら、想いを叶えられず怨霊化していたが、潮と同じ雰囲気をまとったピントに出会って落ち着きを取り戻す。
マミヤ
新東京都の最下層地区であるユメノシマに住んでいる女性。黒髪のくせっ毛で、浅黒い肌をしている。自身の出生についての記憶がなく、唯一残された手がかりのペンダントを頼りに、真相を調べたいと考えていたが、その機会を得られずにいた。ある日、観光に訪れた波浜登のビザを盗んで、上層部に侵入する計画を立てたが失敗。山の手の住民との騒動に巻き込まれてしまった。 父親は新都知事候補の魔宮・セサル・渡来だが、マミヤの存在を疎ましく思っていた母親によって、秘密裏にユメノシマに落とされていた。
魔宮・セサル・渡来 (まみやせさるとらい)
新東京都の新都知事候補。白髪を後ろに流し、精悍な顔つきをした中年男性。街をより良い環境にしようと尽力している。波浜登に告げられるまで、最下層地区であるユメノシマに人が住んでいることを認知していなかったなど、格差社会の文化に染まってしまっていた。その背後には上昇志向が強い妻の存在があり、マミヤが生まれながらにユメノシマに捨てられたのも、この妻の入れ知恵によるもの。 マミヤと再会してからは考えを改め、ユメノシマを含めた新しい都市の実現をピントに約束する。
空 (くう)
額に星形の傷がある犬。かつて波浜潮に飼われていた。性別はメスで、正確には狼と犬のハーフ。自在に人語を使いこなし、変身することもできる。神無社から旅立つことのできる不思議な小島で、潮の遺産を守りながら継承する資格のある人間を長年待っている。訪れた波浜登(ピント)に、試練と称してさまざまな幻覚を見せた。ピントに遺産を渡した後は小島を離れ、波浜家で一緒に暮らすようになった。 当初はピントと2人きりでない限り、普通の犬のように振舞っていたが、ひょんなことから意気投合した如月梢とは人語でしゃべることがある。
場所
湊町 (みなとまち)
日本のとある地域にある、商店街を中心に山と海に挟まれた自然豊かな小さな町。新東京都から離れているために水や作物への汚染がなく、生産物は都市部で高値で取引されている。また波浜潮の出身地ということもあって、外宇宙との交流における特区に指定されており、今後の地球の外交方針を協議する場となっている。
神無社 (かんなやしろ)
湊町にある神社。波浜登らが遊ぶ際に使われる集合場所の1つ。一見何の変哲もない神社だが、実は特異点となっており、潮のカメラで社のお札を撮影すると、謎の小島がある浜辺に旅立つことができる。その小島と浜辺には絶滅したはずの動植物が数多く生存しており、潮は時々ここを訪れては写真を撮影していた。また小島にある小屋では、空が潮の遺産を守りながら暮らしていた。
新東京都 (しんとうきょうと)
波浜登と佐倉洋介が元服の祭り後に、自転車で目指した街。この世界における日本の首都。「山の手」と呼ばれる巨大な塔の居住区に、ランク分けされた住人たちが振り分けられて生活しているという完全な格差社会。そのため新東京都に生まれた子供は、DNAレベルであらゆる素質と能力を測定されることになっている。またその測定で数値が著しく乏しかった子供は、最下層地区のユメノシマで暮らすことになり、戸籍も与えられない。 自然がまったく残っておらず、空気や水は湊町に比べて相当に汚染されている。
イベント・出来事
元服の祭り (げんぷくのまつり)
毎年8月の第2土曜日に湊町で開催される夏祭りの通称。町の出身者は、数えで15歳を迎えると、大人として認められるという風習がある。その節目として夏祭りが用いられるため、このような通称が広まった。元服後は各種免許の取得や結婚が可能となることに加え、県外への旅行も認められるようになる。祭りの後、流れ星に向かって約束事をすると叶うという言い伝えがあり、こちらに期待を寄せる男女も多い。
その他キーワード
潮のカメラ (うしおのかめら)
波浜登(ピント)の部屋の屋上に隠してあったカメラ。波浜潮が使用していたもの。CanonのIXYD5というモデルで、防水性。潮によれば、このカメラには「我」を解放する能力が秘められており、使用者は性格が豹変して大胆な行動を取るようになるという。また隠された場所や時空に接触する鍵の役割も果たしており、神無社への扉を開くなど、ピントに不思議な体験をさせることがしばしばある。