デフォルメされた登場人物が特徴の戦争漫画
大東亜戦争(太平洋戦争)末期の昭和19年(1994年)夏、パラオ諸島ペリリュー島を舞台にした戦争漫画。サンゴ礁の海に囲まれ、美しい森に覆われた楽園での死闘の様子や、主人公の田丸均をはじめとする若き日本兵たちの過酷な現実を描いたヒューマンドラマ。リアルなタッチの戦争漫画が多い中、本作の登場人物は三頭身のデフォルメしたかわいらしい姿ながら、悲惨な戦争を凄まじい説得力でみごとに描き切っている。
激化していく米軍との死闘を描く
大東亜戦争(太平洋戦争)最大の激戦地の一つ「ペリリューの戦い」を基に物語が展開される。東洋一と謳われた飛行場奪取を目的に襲い掛かるアメリカ軍4万に対して、日本軍守備隊は1万で迎え撃つ。ペリリュー島は最高気温が45度にもなる高温多湿な島で、兵士たちは敵兵からの激しい攻撃だけでなく、酷暑や深刻な水不足・食糧不足にも苦しめられることになる。そんな南島の戦場に派兵された主人公の均は漫画家を志す青年。どんくさくて気弱ながら明るい性格の一等兵。ほかの兵士たちも20代前半の若者が多く、均は同期の吉敷や泉をはじめとする仲間と親しくなる。生還した暁にはペリリュー島の風景や体験を題材にした漫画を描こうと考えていた均は、その日の出来事や島の風景を描いては手帳に記録していた。上官からその画力を見込まれた均は、味方の最期の勇姿を記録する「功績係」を任され、失われた命の名誉が少しでも保たれることを願って、彼らの死を記録し続ける。
日本軍の劣悪な環境と残酷な現実
過酷な戦闘、飢えと渇き、病との戦いで美しいペリリュー島は地獄と化していた。戦いは徹底した持久戦によって長期化を余儀なくされ、多数の死傷者を出し、食糧や武器などの物資を絶たれたことで守備隊本部は、ついに玉砕を決意。均たちが楽園と呼んだペリリュー島の美しい風景は見る影もなく、玉砕戦とその後のゲリラ戦、潜伏戦で兵士たちが次々と疲弊していく。その後、ペリリュー島は陥落するものの司令部が機能せず、組織的戦闘が終結したにもかかわらず、その事実を知らない均たちは、水や食料を求めて島中をさまよい続けていた。戦争の過酷さだけでなく、この時代を生きた若者たちが祖国から遠く離れた美しい島でなんのために戦い、何を思って生きたのかを問う真実の記録がここにある。
登場人物・キャラクター
田丸 均 (たまる ひとし)
ペリリュー島に派兵された一等兵。目鏡をかけている。漫画を描くことを趣味にしており、戦争が始まる前は雑誌にも載ったことがある。島田少尉から物語を創作できる特性を見込まれ、死亡した隊員の最期の勇姿を内地の遺族に手紙で伝える「功績係」に任命された。派兵当初は、ペリリュー島を楽園のような場所だと感じており、日本に生還した暁には島での出来事を描いたロマンあふれる冒険漫画を描きたいと考えていた。しかし、ペリリュー島が日米軍の壮絶な戦場となり、多数の戦死者が出るにつれて戦争の恐ろしさや、自分がいつ死んでもおかしくないという実感を持つようになる。
吉敷 (よしき)
ペリリュー島に派兵された上等兵。田丸と同じく初年兵ながら、訓練時に優秀だったために飛び級で上等兵となった。勇猛果敢で判断力にも長け、射撃の腕も秀でている。しかし本来の性質は、戦争に向いていない優しい性格の持ち主。同期の初年兵を鼓舞して精神的に引っぱっていたが、ペリリュー島での攻防が米軍の撃破を目的としたものではなく、玉砕を前提としていることを知り、強く動揺する。そんな中、銃撃を主に担う片倉分隊に配属され、負傷兵たちをおとりにした作戦を目の当たりにして、人間の命を物のように扱う上層部に反感を抱くようになる。
クレジット
- 原案協力
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平塚 柾緒(太平洋戦争研究会)
書誌情報
ペリリュー ―楽園のゲルニカ― 全11巻 白泉社〈ヤングアニマルコミックス〉
第1巻
(2016-07-29発行、 978-4592141877)
第11巻
(2021-07-29発行、 978-4592163657)