ホーキーベカコン

ホーキーベカコン

谷崎潤一郎の小説『春琴抄』を原案とする作品。江戸時代末期の船場(せんば)を舞台に、病で失明し音曲の道に進んだ少女の春琴と、彼女に弟子入りした佐助の奇妙な主従関係や師弟関係、恋愛などを耽美的に描く。「電撃G'sコミック」2018年1月号から連載の作品。

正式名称
ホーキーベカコン
ふりがな
ほーきーべかこん
作者
ジャンル
ラブコメ
レーベル
KADOKAWA
巻数
全3巻完結
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あらすじ

第1巻

時は江戸時代末期。大坂の商家、鵙屋の次女に生まれ、天性の舞の才と美貌を持つ春琴は、9歳の頃に病で両目を失明し、やむなく音曲の道に進んだ。音曲においても大坂中にその名を馳せた春琴は、周囲のさまざまな期待や羨望を集めるようになっていく。だがその一方で、気位が高く苛烈な性格の春琴は、鵙屋の女中達から畏怖されるようになっていた。そんな春琴の身の回りの世話をする少年、佐助は、彼女の才能と美しさに心酔し、彼女にとっても信頼の置ける特別な存在となる。春琴の三味線の稽古に同行するようになった佐助は彼女の演奏を真似るようになり、空き時間を使って寝る間も惜しみながら、こっそり三味線の一人稽古を開始。これは鵙屋の番頭達に知られ、一人稽古の禁止を命じられるが、そんな中、佐助はごりょんさんの提案により演奏を披露する事になる。独学にしては上出来だと春琴に興味を覚えられた佐助は、彼女に弟子入りする事となった。弟子としても春琴に尽くすようになった佐助を待っていたのは、「甘美な地獄」ともいえる特別な日々であった。春琴は健気な佐助を下僕のように扱い、三味線の稽古の際はわずかな失敗でも容赦なく暴力を振るい、厳しい稽古は夜遅くまで続いた。それでも佐助は血と涙を流しながら春琴に尽くし続け、やがて二人の関係はただの主従や師弟に留まらない、他人を寄せ付けない独特なものへと発展していく。

第2巻

春琴の弟子兼世話係を続ける佐助はある日、鵙屋安左衛門に呼び出され、春琴が妊娠している事を告げられるが、佐助は春琴との関係を否定。佐助を気に入っている安左衛門に春琴との結婚を提案されるが頑なに断り、あくまで春琴とは主従関係でいたいと願う。一方で春琴も「下男に体を許すなどありえない」と、佐助との関係を強く否定。のちに春琴は佐助そっくりの子供を産むが、佐助の子供だと認める事なく里子に出す。やがて、師の春松検校の死をきっかけに、20歳になった春琴は三味線奏者として独立。鵙屋から引っ越して新居を構えた春琴は佐助と新たな生活を始めるが、二人の関係は師匠と弟子、主人と使用人から変わらないままだった。独立後も音曲で活躍し続ける春琴は、一流の腕を持つ美人三味線奏者として広く知られるようになる。しかし春琴が贅沢な暮らしを続けた事や、鵙屋の経営が苦しくなった事が災いし、実家からの仕送りも減り財政は少しずつ苦しくなっていく。春琴が三十路を迎える頃、彼女の美しさに一瞬で惚れた美濃屋利太郎が、新たに弟子入りする。三味線よりも春琴に近づくのを目的とする利太郎は、時には大金や献上品を用いて積極的に彼女に言い寄る。そんな利太郎はある日、春琴に興味を持つ勧修寺の要請で、春琴を天下茶屋の梅見に誘う事になる。

登場人物・キャラクター

春琴 (しゅんきん)

幼少期から天才的な舞の才能に恵まれた女性。鵙屋の次女で、本名は「鵙屋琴」、一人称は「妾(わて)」。噂を聞いた帝から舞の上覧を望まれるなど周囲から絶大な期待を寄せられていたが、9歳の頃に眼疾で両目を失明。これらの境遇から苛烈ともいえるほどに気が強く、気難しい性格に育った。一方で才能や美貌に絶対的な自信を持ち、プライドが高く傲慢で潔癖な一面もある。失明してからは音曲の道に進むが、10歳にして難曲を弾きこなすなど、三味線や琴の腕も天才的。これらの才能と美貌、天性の女王様気質から妖しい魅力を放ち、周囲はもちろん行く先々の男性達を魅了している。世話係となった佐助の事は下僕のように扱う一方で信頼しており、特別な感情を抱く。のちに弟子ともなった佐助に暴力を交えた厳しい稽古をするが、いっさいの反発を見せず余計な事を言わない彼をつねに傍に置きながら、主従や師弟関係を超えた特別な関係を築いていく。師の春松検校が亡くなってからは、独立して淀屋橋筋の一戸に琴曲指南の看板を掲げ、佐助以外の門弟にも音曲を教えるようになる。しかし、暴力を交えた厳しい稽古体制は変わらず門下生の多くは脱落し、他人の怨恨を買う機会が増える。趣味は小鳥道楽で、特に天鼓の事は大切にしている。かなりの美食家で、とりわけ鯛の造りが好物。食事風景を他人に見られるのを嫌い、給仕はすべて佐助に任せている。

佐助 (さすけ)

鵙屋で丁稚をしている謙虚でおとなしい少年。もともと鵙屋の奉公人として働いていたが、盲目になった春琴の身の回りの世話を命じられ、彼女を長年支え続けていた。口数が少なく感情表現に乏しかったが、春琴に仕えるうちに彼女の美しさや才能に心酔し、敬愛やあこがれを超えた異様な執着心を抱くようになる。春琴よりも四つ年上だが、失明し一人で生活できなくなった春琴を可哀相に思った事はなく、目耳が自由で年上の自分でもなに一つ敵わない女性として尊敬している。春琴の三味線の稽古に同行する中で、見様見真似でこっそり三味線の練習をするようになる。それを番頭や鵙屋安左衛門に知られたのをきっかけに、春琴に弟子入りする。春琴の暴力的で厳しい稽古に涙するものの、稽古や彼女の世話を辞める事なく耐え続ける。次第に春琴に暴力を受けたり身の回りの世話をする日々を甘美な地獄のように感じるようになり、彼女とは師弟や主従を超えた特別な関係を築いていく。のちに春琴の妊娠が発覚するが関係を否定し、安左衛門に結婚を提案されても断わるなど、あくまで春琴とは夫婦や恋人ではなく主従関係であり続けようとしている。春琴が独立して新居に移ったあとも弟子兼世話係として同行し、佐助自身はボロをまとう質素な生活を続けながら、財の大半を春琴のために費やす。

ごりょんさん

鵙屋の夫人で、春琴の母親。本名は「鵙屋しげ」。鵙屋安左衛門とのあいだに設けた二男四女のうち、とりわけ春琴を偏愛・溺愛している。美しく周囲に慕われる女性だが、期待を寄せながら大切に育てて来た春琴が盲目となってからは、ショックと悲しみで精神状態を乱し、異常な言動が多くなっている。

清松 (きよまつ)

鵙屋で丁稚をしている少年。明るいお調子者で、好奇心旺盛な性格をしている。同僚の佐助が仕える春琴に興味を持つ。興味本位で佐助と春琴の稽古を覗き、佐助に容赦なく暴力を振るう春琴の苛烈さに魅了される。佐助のふりをしながら春琴の部屋に侵入するが、激昂した彼女に陶器を投げつけられて気絶。これをきっかけに鵙屋を去った。

鵙屋 安左衛門 (もずや やすざえもん)

鵙屋の七代目店主で、春琴の父親。大らかな性格で、気難しい春琴が唯一心を許している佐助を気に入り、春琴に弟子入りするのをすぐに認める。当初は佐助との稽古が春琴の気晴らしになればと考えていたが、予想以上に厳しい稽古を受けながら彼女に尽くし続ける佐助を心配するようになる。ゆくゆくは佐助を春琴の婿に迎えるつもりであったが、彼女が妊娠した際に彼に結婚を提案しても断られ、二人の関係性を奇妙に思ったり手を焼いたりしつつも見守っている。

順市 (じゅんいち)

昭和初期を生きる男性。書生風の服装を身にまとっている。大阪にある春琴の墓を訪れ、大礼服の女性やおてる(鴫沢てる)から春琴と佐助の物語を聞く事となる。春琴や佐助が築いた奇妙な関係性や心情を読み解いていく。

大礼服の女性 (たいれいふくのじょせい)

昭和初期を生きる女性。大礼服で男装をしている麗人。友人の順市に春琴と佐助の物語を語る。

春松検校 (しゅんしょうけんぎょう)

春琴の師匠にあたる老人。目の周りなど顔に複数の傷跡があり、春琴と同様両目を失明している。盲目ながら難曲を弾きこなす弟子の春琴の才能を高く評価し、早くから彼女の独立を認めていた。春琴が成人する頃に病で亡くなった。

おとく

鵙屋の女中として働いている女性。幼い春琴の世話役をしていたが、ほかの女中とのおしゃべりに夢中になり、厠に行きたがっていた春琴を放置してしまい、彼女に大恥をかかせた事がある。この事から成長した春琴からたびたび執拗な嫌がらせを受け、彼女に対し強い罪悪感と恐怖心を抱いている。

お慶 (おけい)

独立した春琴の新居で、女中として働いている少女。佐助の事が気になっている。

お春 (おはる)

独立した春琴の新居で、女中として働いている少女。顔にそばかすがある。素朴な見た目だが、明るく元気な性格をしている。春琴が飼っている雲雀や天鼓の世話をしている。天鼓の美しい鳴き声に感激し、春琴にもあこがれを抱く。音曲を小馬鹿にしながら春琴に近づく美濃屋利太郎の事は、あまりよく思っていない。

おてる

12歳の頃に春琴の屋敷に奉公に出た少女。左目の下に泣きボクロがある。のちに佐助の内弟子となって三味線を学び、彼と春琴の身の回りの世話をしながら、二人の関係を誰よりも近くで最後まで見守っていた。のちに「鴫沢てる」として、佐助の言葉を元に『鵙屋春琴伝』を編纂した。大礼服の女性の紹介で順市と対面し、春琴と佐助の生涯を静かに語る。

美濃屋 利太郎 (みのや りたろう)

大坂の商家、美濃屋の息子。春琴に魅了され弟子入りを志願するが、音曲にはほとんど興味がなく、弟子入りしたのは春琴に近づくためだった。春琴の厳しい稽古に怯える事なく何事もそつなくこなす要領のよさを持つが、佐助からは「鶯に食われる芋虫のような人」と評されている。勧修寺には頭が上がらず、彼の要請で春琴を父親の隠居先である天下茶屋の梅見に誘い、宴会中に佐助から引き離したうえで勧修寺のもとへ春琴を連れ出す。春琴が襲われるのを見かねて佐助と協力して助け出そうとするが、春琴の危機に対し冷静な佐助の不可解な言動に困惑しショックを受ける。さらに春琴が勧修寺の目と鼻を潰したため、証拠隠滅のために勧修寺を建物もろとも焼き払う羽目になり、春琴からも手を引く事となる。春琴にもっとも近しい男性である佐助には対抗心を燃やすが、同時に同じ女性に執着する理解者や同志のようにも思っていた。

勧修寺 (かしゅうじ)

春琴に興味を持つ朝臣の中年男性。無類の女好きで、気に入った女性にはすぐに手出ししようとするため、美濃屋利太郎をよく悩ませている。利太郎に用意させた梅見の宴の場で、春琴に近づこうと目論む。梅見当日に琴の演奏を披露する春琴の美しさに惹かれてからは、さらに異様な執着心を見せるようになる。利太郎が連れて来た春琴に手を出そうとするが、彼女に両目と鼻を潰され、全焼した天下茶屋で焼死した。

天鼓 (てんこ)

小鳥道楽を楽しむ春琴が特に大切にしている鶯。ふだんはお春が世話をしているが、佐助が取って来た蝦蔓の蔦に住まう芋虫をはじめとする、上等な餌を食べている。元は名のない薮鶯の雛だったが、春琴の寵愛を受け上品で美しい名鳥に育った。機嫌がいい時は「ホーキーベカコン」と霊妙な鳴き声できれいに囀る。

場所

鵙屋 (もずや)

大坂・船場の道修町に店を構える薬種商。現店主は鵙屋安左衛門。春琴の実家で、大坂でも有名な老舗であり、裕福な名家。独立した春琴が家を出たあとも高額な仕送りをしていたが、黒船襲来などの影響で経営不振になり、仕送りの金額が減っていった。

クレジット

原案

谷崎 潤一郎『春琴抄』より

監修

Mint

書誌情報

ホーキーベカコン 全3巻 KADOKAWA

第1巻

(2019-03-06発行、 978-4049121681)

第2巻

(2019-03-06発行、 978-4049121698)

第3巻

(2019-11-09発行、 978-4049128826)

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