人生に悩む二人の女性が主人公
本作は、夫婦関係や性自認をテーマにしたヒューマンドラマ。結婚生活に葛藤を抱える主婦・福田あやと、結婚を控えたノンバイナリーの女性・沖けいとが主人公を務める。対照的な生き方をする二人の日常を通して、「結婚」や「夫婦」「女性」といった言葉に象徴される社会通念とのあいだで揺れ動く彼女たちのリアルな姿を描いている。また、行き詰まった日々の中で感じる閉塞感や、周囲からの無言の圧力、そして誰にも打ち明けられない孤独をリアルに表現した心理描写も本作の特徴となっている。
夫婦関係と離婚に悩む、あや
物語は、主人公の一人・あやの視点で始まり、次第にもう一人の主人公・けいとの視点に切り替わりながら、それぞれの物語が展開される。病を患い、手術を受けたことをきっかけに専業主婦となったあやは、夫の高志との関係が冷え切ったまま続いていた。耐えきれなくなった彼女は離婚を切り出すが、高志は離婚に同意しない。世間体や経済力の問題を抱えるあやは、離婚に踏み切れずに家庭内別居という形を選択する。その後も離婚や家族関係に悩み続けるあやは、離婚カウンセラーを通して出会った同年代のゆみこと意気投合し、よき相談相手を得ることになる。
同性愛者と付き合い始めた、けいと
性自認に揺らぎながらも結婚を控えたけいとは、結婚式を挙げず、子供もつくらないと心に決めていた。しかし、婚約者の井上耀司や彼の両親との価値観の違いから諍いが絶えず、憂鬱な日々を送っていた。さらに、耀司からの不穏な発言も目立つようになり、けいとは結婚を見送る決断を下す。その後、同性愛者のはるかと出会い、彼女の温かい両親と家庭に触れたことで、耀司との婚約を破棄することを決める。一方、パートに励みながら少しずつ離婚の準備を進めていたあやは、ゆみこから振り込め詐欺に遭ったと相談を受ける。年代や立場の異なる二人の女性が、それぞれの人生で直面する葛藤や心の傷を通して、ジェンダーやセクシャルマイノリティといったテーマとともに、多様化していく結婚や夫婦のあり方について問いかける。また、複雑な悩みをきっかけに広がる人間関係や、運命を変えるほどの大きな出会いや選択も見どころとなっている。
登場人物・キャラクター
福田 あや (ふくだ あや)
専業主婦の女性。年齢は50代で、夫の福田高志と、一人息子の福田涼と共に暮らしている。島根県出身。母親を亡くし、父親に会うために2か月に一度のペースで帰省している。高志との夫婦関係は冷え切っており、浮気を繰り返す彼に無視されることも増え、離婚を申し出ても拒否され、家庭内別居の状態が続いている。若い頃はキャリアウーマンとして活躍していたが、出産や育児、病気によって体調を崩し、高志との関係にも影響を及ぼした。療養のために長らく無職だったが、最近飲食店でパートを始めた。以前、おでん屋で沖けいとと出会っているが、彼女を男性だとカンちがいしている。
沖 けいと (おき けいと)
デザイン会社に勤務する女性。年齢は30代で、別のデザイン会社に勤める井上耀司と婚約中。職場では「私」という一人称を使っているが、本来の一人称は「僕」。短髪にショートパンツという出で立ちから、男性と間違えられることも少なくない。母親はすでに他界しており、父子家庭で育った。耀司との関係は基本的に良好だが、結婚に関する意見の相違や、古い価値観を持つ彼の両親とのあいだにわだかまりが生じ、すれ違いが続いている。耀司との関係に悩む中、美容師の女性・はるかと親密な関係になり、やがて付き合うようになる。
書誌情報
ボールアンドチェイン 4巻 マガジンハウス
第1巻
(2024-02-29発行、978-4838732630)
第2巻
(2024-08-02発行、978-4838732777)
第3巻
(2025-02-27発行、978-4838733132)
第4巻
(2025-10-03発行、978-4838733521)







