キャンディの甘い香りで開く「パンドラの箱」
ある日、糸崎宝は旧友・夏目エマと偶然再会する。彼女は中学時代の親友で、エマの転校以来20年ぶりの再会だった。宝は、20年間手紙をくれなかった理由を尋ねるが、その原因が自分にあることを忘れていた。しかし、エマが好物のいちごみるくキャンディを舐め始めた時、その香りが引き金となり、すべてを思い出す。14歳の時、いちごみるくキャンディを舐めていたエマに、宝はキスしそうになり、あわてて適当にごまかしたことがあった。その時のエマの傷ついたような顔を見て後ろめたくなった宝は、目も合わせられなくなり、彼女が転校するまで逃げ回ったのだ。エマへの思いは思春期特有の一過性の感情だと決めつけた宝は、記憶に蓋をしていたが、キャンディの甘い香りで「パンドラの箱」が開いたのだ。
「嫉妬」という初めての体験
東京で暮らして15年間、それなりに出会いと別れを繰り返してきた宝だが、別れる時に落ち込むということがなかった。2年間同棲してそろそろ結婚かという彼氏に、突然別れを告げられた時も同じだった。彼は宝がヤキモチを焼かないことで、自分が好かれているかどうか自信がなくなったらしい。そんな宝だったが、エマとその夫との会食で、二人の睦まじい様子に、嫉妬の情を抱いてしまう。「パンドラの箱」が開いて以来、宝はエマのことが気になって仕方がなく、その柔らかい唇にキスしたい衝動に駆られるのだった。
恋心に気づく宝と、ずっと恋をしていたエマ
過去を思い出した宝は、14歳の時の自分がエマに恋していたことを自覚する。そして、ほかの誰にも感じたことがない嫉妬を抱いたり、どんどん彼女への思いが募ったりすることで、33歳の自分もエマを本気で好きだと確信した。しかし、エマは既婚者であり、宝は悶々とした思いを何とか押さえつけようとする。一方、じつはエマも、14歳の時に宝とのキスを望んでいた。一生会えないと思っていた宝と再会した時は、ボロボロと涙をこぼしてしまったほど、彼女のことが大好きだったのだ。お互いへの思いを秘めながら、二人は交流を深めていく。
登場人物・キャラクター
糸崎 宝 (いとさき たから)
セミロングヘアーが特徴の33歳独身女性。熊本県出身。大学進学を機に上京し、現在は不動産会社に勤務している。部屋を探しに来た、中学時代の親友・夏目エマと20年ぶりに再会する。けっこうな数の男性と付き合い、フッたりフラれたりを繰り返すが、別れの時に落ち込んだことがない。また、男性に対してヤキモチを焼いたこともなかった。昔は小説を書いていたが、今はブログやSNSしかやっていない。
夏目 エマ (なつめ えま)
ショートカットが特徴の33歳の女性。熊本県出身。夫が経営する、人気カフェlogグループの常務取締役。糸崎宝とは中学時代の親友で、2年生の時に転校して離れ離れになっていた。自立するために不動産会社を訪ねた際、20年ぶりに宝と再会する。いちごみるくキャンディが好物。旧姓は「野々原」。
書誌情報
冷たくて柔らか 3巻 集英社〈マーガレットコミックス〉
第1巻
(2023-06-23発行、 978-4088447834)
第2巻
(2023-12-25発行、 978-4088448275)
第3巻
(2024-06-25発行、 978-4088430232)