二人の麻薬取締官が薬物犯罪を追及する
本作は、主に二人の麻薬取締官の視点から薬物犯罪が描かれる。前線での捜査を担当する草壁圭五郎は、ふだんは気だるげな雰囲気を漂わせているが、心の内では妹を奪った麻薬を強く憎悪している。そのため、薬物を売りさばく犯罪者には決して容赦をしないが、一方で誘惑に負けて麻薬に手を出した者には、その危険性と愚かしさを説き、これが被害者の再起をうながすことにもつながっている。草壁の相棒を務める冴貴健一は、つねに冷静沈着で何を考えているかよくわからないところがあるが、草壁が麻薬を憎むべき事情を理解しており、彼の捜査をサポートするために奔走している。この好対照な二人が、麻薬を悪用する犯罪者たちの脅威になると同時に、麻薬に苦しむ人々には手を差し伸べる存在になっている。
薬物がもたらす社会問題
本作では、覚せい剤や大麻は人間にとって百害あって一利なしの毒物でしかないことが、さまざまな事件をとおして語られる。例えば、数学教師の大館幸雄は、校長や生徒との軋轢(あつれき)に苦しんだ結果、生徒が隠し持っていた大麻を服用するも、すぐに体調を崩して教師を続けることが困難になってしまう。リストラをきっかけに夫婦仲が悪化した日向は、覚せい剤による幻覚から妻に殺されると思い込み、ついには「殺される前に殺すべき」という殺人衝動に駆られる。このように、薬物を使用して状況が好転することは一度もなく、総じて薬物に手を出す前より状況は悪くなる。ただし、薬物を使用した者が必ず破滅を迎えるわけではなく、草壁圭五郎たちと出会ったことで麻薬の恐ろしさを思い知り、禁断症状を克服した者もいる。
薬物を蔓延させる売人たちとの戦い
草壁圭五郎と冴貴健一にとって薬物以上に許せないのは、心身が弱った人々に「救済」とうそぶいて薬物を提供する売人たちである。本作に登場する売人たちは、変わった名前にコンプレックスを抱きながら、なまじ有名大学に進学できたことから周囲を見下している三沢小宇宙や、妻子がありながら日常に刺激がないことに満足できない神山慎吾など、現状に不満を抱いている者が多い。しかし、いかなる理由があっても、人を蝕(むしば)む毒物を提供している売人たちは、草壁や冴貴にとって捕らえるべき悪でしかない。
登場人物・キャラクター
草壁 圭五郎 (くさかべ けいごろう)
麻薬取締官の男性で、冴貴健一の相棒。金髪セミショートヘアで、無精髭を生やしている。マトリの問題児で、健一からはスタンドプレーを戒められたり、捜査方法に苦言を呈されたりしている。張り込み調査中も周囲のラーメン屋を必ずチェックするほど、ラーメンが大好物。週刊誌「漫画テンゴ」の大ファンでもあり、毎週金曜日に欠かさず購入している。8年前に妹が麻薬の過剰摂取で死亡したことから、人の心身を蝕む薬物を心から憎み、自分勝手な言い分で薬物を売りさばいている悪党には、暴力を振るうことも辞さない。また、薬物に侵された人々から薬物を遠ざけるために尽力しているが、薬物を断ち切るのは本人の意思次第だとも考えており、極力干渉することを控えている。そのため「自分たちのやっていることで誰かが幸せになるのか?」との疑問をつねに抱いている。しかし情報屋の根津や、自助会に参加している飯田豊光など、かつて草壁圭五郎に検挙されたことで薬物から立ち直った人々からは、心から感謝されている。
冴貴 健一 (さえき けんいち)
麻薬取締官の男性で、草壁圭五郎の相棒。黒髪短髪で、仕事中はサングラスを着用している。草壁より一回り年下で、気性の激しい草壁とは対照的に、つねに冷静沈着でクールに振る舞っている。法律に関する知識が豊富で、法の抜け穴を突いて御託を並べる悪党を、別の法解釈の観点から追い詰めることもある。また、草壁が上層部からの命令に反した行動を取ったり、売人に暴力を振るったりするなどの問題行動を起こしても、それが事件解決につながるなら問題ないと、柔軟な判断を下している。コーヒーやお酒をいっさい飲まないため、草壁からはその嗜好を訝しがられている。草壁とは8年以上の付き合いで、彼の妹が麻薬を過剰摂取して命を落とした時に出会っているため、草壁の麻薬に対する強い憎しみを理解している。