作品が描かれた背景
2018年のゴールデンウイーク頃、作者のハセガワMは自らのTwitterアカウントに「人体図」というB5サイズ用紙40枚から構成される奇怪な雰囲気のイラストを公開した。それを目にした「月刊コミックビーム」の編集長が、ホラーを描いてみてはどうかと声を掛けたことが本作『マリアの棲む家』を描くきっかけとなった。ハセガワMは、本作『マリアの棲む家』を発表するまでは「鮪オーケストラ」というペンネームで活動しており、ギャグ作品しか描いていなかった。
あらすじ
旧小野邸は住宅地にありながら、周囲は草っぱらの空き地の中に建っていた。そんな旧小野邸の中で、小野リベルタ社の社長令嬢である小野真理愛が5年間も行方不明となっていた。日当13万円、成功報酬3000万円という高額の捜索依頼を受けてやって来た私立探偵の日村は、小野邸の真理愛の私室の中を覗いた瞬間、命の危機を感じるものの、果敢に部屋の中へと入っていく。その頃、旧小野邸のはす向かいに暮らす引きこもりの女性の星野遥香は、私室のドアに出現した人間大の黒いシミから、眼球や内臓に似たグロテスクなものがあふれ出すという怪現象に襲われていた。遥香の母親は、有名な霊能力者である斉木景子に除霊を依頼するが、景子が遥香の私室を目にした瞬間、景子の左目までもがグロテスクに変貌してしまう。
登場人物・キャラクター
星野 遥香 (ほしの はるか)
引きこもりの女性で、年齢は19歳。黒髪のショートボブヘアで、黒ぶち眼鏡を掛けている。旧小野邸のはす向かいに住んでおり、10年以上前に旧小野邸に宿泊し、小野真理愛と共に遊んだ経験がある。私室のドアに突然人間大の黒いシミが浮かび上がり、数日後にはそこから、目や内臓に似たグロテスクなものがあふれ出し、やがて廊下にまで浸食してきたことで、星野遥香の母親が霊能者の斉木景子に除霊を依頼した。
アカリ
女子小学生で、強力な霊能力の持ち主。黒髪をおかっぱにしてヒョウ柄の猫耳パーカーを身につけ、大人に対しても堂々とした態度を見せる。斉木景子の姪で、星野遥香の私室にかかわる依頼を受ける前から、旧小野邸のイメージが脳内に浮かんでいた。小野真理愛が大人に対して憎悪の感情を持っていることを察しており、遥香の私室には大人は近づかないようにと警告した。遥香の私室のドアに広がった闇から、遥香と共に真理愛の私室の中に飛び込んでいく。
小野 真理愛 (おの まりあ)
小野リベルタ社の社長令嬢で、黒髪をロングストレートにした美しい少女。13年間にわたって旧小野邸にある私室に引きこもっているとされているが、実は5年前から旧小野邸宅内で行方不明となっている。真理愛の捜索に当たった人間には成否にかかわらず13万円の日当が支払われ、見つけることに成功した場合は3000万円の成功報酬が約束されている。星野遥香といっしょに遊んだことがあり、物静かで人形遊びや読書を好んでいた。幼少期から、実父による性的虐待を受けており、旧小野邸のリビングには、小野真理愛をモデルとした裸婦画が飾られている。
日村 (ひむら)
私立探偵を生業とする男性で、左頰に刀傷がある。無精ひげを生やし、レザージャケットを身につけている。懐事情が逼迫(ひっぱく)しており、日当13万円、成功報酬3000万円という破格の報酬を提示されたために小野真理愛の捜索を請け負った。命の危険があることを本能的に察知したうえで、真理愛の私室の中に侵入した。
大下 (おおした)
小野リベルタ社に勤める初老の男性で、小野真理愛の父親の秘書を務めている。瘦せた体型で額が広く、丸眼鏡を掛けている。金銭的に困窮している探偵に真理愛の捜索依頼を行っており、日村にも依頼した。真理愛が旧小野邸にいることを確信している様子で、「真理愛を自分の目の前に連れてこなければ成功報酬は渡せない」と、頑なな態度を見せる。
斉木 景子 (さいき けいこ)
有名な霊能力者の女性。ふくよかな体型で、肩までの髪を下ろし、複数の数珠を身につけている。星野遥香の母親に、遥香の私室の除霊を依頼された。星野家の前に到着した時点で旧小野邸からよくないものを感じ取り、警戒していた。
場所
旧小野邸 (きゅうおのてい)
小野リベルタ社の社長が4年前まで暮らしていた家。3LDKのシンプルな間取りの一軒家で、一階には六畳の和室と20畳ほどのリビングダイニング、二階の廊下の突き当たりに小野真理愛の私室があり、真理愛が13年間引きこもっているといわれている。真理愛の部屋のドアには大きく書かれた×印のほか、「殺ス」「シネ」などの言葉が所狭しと書き殴られている。また、旧小野邸の周りは五軒分の敷地が空き地となっており、近所の子供たちは「この空き地に入ると病気になる」と母親たちから聞かされている。
真理愛の私室の中 (まりあのししつのなか)
旧小野邸の二階にある、小野真理愛の私室。扉には大きく書かれた×印のほか、「殺ス」「シネ」などの言葉が所狭しと書き殴られている。中は懐中電灯の光も飲み込む深い闇が広がっており、そこを抜けると、これまで真理愛を捜索するために旧小野邸に足を踏み入れた大人たちの死体がつり下げられた森をはじめとする、真理愛の心象風景が実体となって広がっている。