人間の血を糧に永遠を生きる「血族」
本作に登場する「血族」は、人間の血を糧とする不死の生命体。人間を遥かに凌駕する身体能力と、どんな傷も瞬時に癒す再生能力を持つ。また、定められた領地内では、その力はさらに増幅される。限りなく不死に近い存在だが、太陽の光、飢餓、そして「猟爪(かりづめ)」という三つの弱点があり、状況によっては死に至ることもある。外見は人間と変わらないが、時には異形と化すこともある。その力は「屍牙(しが)」と呼ばれる牙から滴り落ちる体液を介して感染する。感染者が血族として覚醒する前に特殊な処理を施すことで、半覚醒状態を維持することもできる。
「血族」の狩りを代行する「使い魔」
血族は狩場を巡ってほかの血族と争うことがあるが、再生能力のために、その争いはしばしば泥沼化している。そんな不毛な争いを避けるため、狩りを代行するのが「使い魔」の存在。使い魔は半覚醒状態の血族であり、皮膚が崩れた醜悪な外見をしており、能力や弱点の多くは血族と共通している。身体を変形させて血族に再生不可能なダメージを与える猟爪を形成できる点が特徴で、その形状は使い魔ごとに異なる。使い魔は人間の血を飲むことで人間の姿に戻れるが、定期的に血を摂取しないと再び半覚醒状態に戻ってしまう。
美輪子に翻弄される思春期の若者たち
人間の血を糧に生きる美輪子の使い魔となった広田修は、生存に必要な血を得るために夜の街で狩りを始める。しかし、修を悩ませているのは恋人の村瀬ちかとの関係である。真実を打ち明けられない修の態度は、ちかに浮気を疑わせ、二人の関係はぎこちなくなる。さらに、修の苦しむ姿を何よりの娯楽とする美輪子によって、ある人物との三角関係が演出され、若者たちの青春は次第に綻び始める。
登場人物・キャラクター
美輪子 (みわこ)
豪奢な洋館に住む妖艶な女性。黒のロングヘアで、左の口許に黒子がある。チェスや縫い物など、インドア系のものを幅広く嗜(たしな)んでいる。体質のため外出を控えているが、日傘を手に庭木の手入れをすることもあり、日が沈んでからは裏庭でヨガを行うことを日課にしている。外見は淑女然としているが、本性は残忍で嗜虐(しぎゃく)的。その正体は人間の血を糧に生きる「血族」であり、美輪子を崇拝する橘壮一を介して思春期の男子を館に誘い込み、餌食にしていた。ある日、壮一が連れてきた修を気に入り、彼を「使い魔」として人間の心臓を配達させるようになる。修の恋人、ちかが致命傷を負った際には、治癒効果のある血族の体液を提供して命を救った。その後、ちかの肉体をあやつって修の仇敵を誘惑し、彼らの人間関係を混乱させる悪辣な遊戯に耽るようになった。年齢は不明だが、18世紀には海外で貴族のような生活を送っていた。閑(しずか)、朱音(あかね)、環(たまき)という名の姉がいる。
広田 修 (ひろた おさむ)
漫然とした日々を送っていた男子高校生。右腕に「O」のブレスレットを着けている。クラスメイトのちかと交際しているが、手をつないで歩くなどの恋人らしい振る舞いに抵抗を感じている。時にはケンカもするが、ちかへの好意は本物で、絶世の美女に裸で誘惑されても動じることはない。長生きしたくないと嘯(うそぶ)いていたが、壮一の誘いで訪れた洋館で、人間の血を糧に生きる「血族」の美輪子に両脚を切断され、助命を懇願した。その結果、美輪子の体液を流し込まれ、「使い魔」として生きることになった。生存に必要な血を得るための狩りを拒んで自殺を試みるが、美輪子に庇(かば)われ未遂に終わる。その後、美輪子の提案で血族と使い魔を標的にすることに合意し、彼女が用意したマスクを被り、夜な夜な狩りに出かけるようになる。なお、修のマスクの目の部分には釦(ボタン)が縫い付けられている。のちに使い魔たちのあいだで、その「釦の目」が修の象徴として認識されるようになる。
書誌情報
屍牙姫 5巻 ノース・スターズ・ピクチャーズ〈ゼノンコミックス〉
第1巻
(2017-10-01発行、978-4199804434)
第2巻
(2017-12-01発行、978-4199804564)
第3巻
(2018-05-01発行、978-4199804922)
第4巻
(2019-01-01発行、978-4199805424)
第5巻
(2019-06-01発行、978-4199805714)







