ミステリと言う勿れ

ミステリと言う勿れ

飄々とした性格ながら観察力と弁舌に優れた大学生の久能整が、さまざまな事件に巻き込まれながらも、それを解決に導く様子を描いたミステリー作品。小学館「月刊flowers」2017年1月号に読み切りが掲載され、同誌2018年1月号より連載が開始された。「マンガ大賞2019」第2位、第67回「小学館漫画賞」一般向け部門受賞。2022年1月に実写ドラマ化され、2023年9月には実写映画が公開された。

正式名称
ミステリと言う勿れ
ふりがな
みすてりというなかれ
作者
ジャンル
推理・ミステリー
レーベル
フラワーコミックス α(小学館)
巻数
既刊13巻
関連商品
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あらすじ

寒河江健殺人事件

ある冬の日、一人暮らしの男子大学生、久能整がカレーを作っていると、二人の刑事が自宅に訪ねて来た。近所の公園で殺人事件が起こり、遺体で発見されたのは整の大学の同級生、寒河江健で、刑事たちは整が犯人ではないかと疑いの目を向ける。整は事件の参考人として任意同行を求められ、大隣警察署に到着後も、次々に整の犯行を裏付ける証拠が見つかり、取調室から出られない整は容疑者としてほかの刑事からも責め立てられる。その後も整が犯人として疑われ続け、執拗(しつよう)な取り調べは日をまたいで続くこととなる。だが、厳重な事情聴取の途中で、整は刑事たちのプライベートや仕事で抱える悩みを次々と見抜き、話を脱線させながらも警察の矛盾点を指摘していく。一筋縄ではいかない整の言葉に刑事たちが振り回される中、彼は乙部克憲が娘の反抗期に悩んでいたり、池本優人が夫婦仲に悩んでいることを言い当てたうえに、その観察力で解決法までアドバイスを送るようになり、ついには取り調べに乗じて悩み相談をする署員まで出る事態となる。一方、事件の捜査で整の指紋が付いた凶器が現場の付近で発見される。しかし、整は見つかった証拠の矛盾点にすぐに気づき、自分の無実を証明するだけでなく、この事件の真犯人をも解明するのだった。無事に釈放された整は、その後も警察から事件の捜査に協力を求められる。捜査にはまったく興味がなく、好きな趣味やカレー作りを楽しみたいと願う整だったが、ふとした偶然からいくつもの事件や陰謀に巻き込まれるようになる。

バスジャックと連続殺人事件

久能整は以前から楽しみにしていた印象派展にバスで向かっていたが、バスジャックに巻き込まれてしまう。バスジャック犯の犬堂乙矢は、運転手の煙草森誠や乗客たちを脅しながら、全員に対していくつかの問いかけを始める。乗り合わせていたのは、気が弱く定職に就けない淡路一平、何か不安を抱える柏めぐみ、ジャーナリストを名乗る露木リラ、保険会社の重役を務めていた奈良崎幸仁、祖父の見舞いに向かっていた小林大輔、大学院生の熊田翔、職探し中の強面(こわもて)の坂本正雄だった。整は乙矢の脅しにまったく怯(ひる)むことなく、いつものようにマイペースに振る舞いながら、周囲との会話の中で翔と意気投合する。整がバスジャック犯を混乱させた結果、正雄が乙矢の仲間であったことが判明する。「犬堂ガロ」と名乗る正雄と乙矢によって、整はほかの乗客たちと山奥の豪邸、犬堂家に招待される。乗客たちを犬堂邸に連れ込んだバスジャック犯たちは、食事で全員をもてなすと共に、再びさまざまな問いかけを始める。彼らの話を聞くうちに、整はここに集められた者たちは、とある共通点でつながっていることに気づき始める。それは最近起こった連続生き埋め殺人事件の最初の被害者である、犬堂愛珠という女性の関係者だった。それぞれの過去と今の状況を整理して、整はバスジャックの真の目的と連続殺人の犯人を言い当て、二つの事件を解決に導いていく。

狩集家遺産相続問題

広島に到着して印象派展を無事に見終わったあと、広島観光をしていた久能整は、街中で悪漢に襲われていた女子高校生の狩集汐路と出会う。整のことをずっと尾行していた汐路は、悪漢に絡まれた風を装って整の気を引いたのだ。汐路は知り合いの犬堂我路から、整のことを推薦されたと語る。一見ふつうの少女である汐路は、代々遺産を巡る複雑な争いが起こっている、名家、狩集家の相続人候補の一人でもあった。そんな汐路に頼まれて、いきなり狩集家に連れて行かれた整は、彼女の祖父である幸長の遺言の開示に立ち会うことになり、そのまましばらく狩集家に泊まることとなる。そこには失跡した犬堂我路の思惑も働き、相続争いで命を狙われているから守って欲しいと汐路に頼まれた整は、渋々その依頼を聞き入れ、謎の多い狩集家の遺産相続問題に巻き込まれていく。今回の相続人候補は汐路のほかにも、彼女のいとこである狩集理紀之助、波々壁新音、赤峰ゆらの三人がいた。複雑な遺産相続の形式から、狩集家では昔から相続問題のたびに事件が発生し、当時は事故や病気として片づけられたそれぞれの出来事は警察の捜査不備であり、本当は遺産争いのために殺し合いが起こったと疑う者もいた。幸長の遺言にあった蔵の秘密を解くために、それぞれが行動する中で浮上する疑惑、汐路の父親とそのきょうだいたちが交通事故で亡くなった過去、整にボディーガードを依頼した汐路の思惑、そして自殺した脚本家が書いた芝居「鬼の集」をもとに、整は狩集家の歴史にまつわる謎を次々と解いていく。その結果、問題の蔵の床下からは無数の人骨が発見され、深刻化した遺産相続騒動はますます混迷を深めていく。そして過去をさかのぼるうちに、この騒動を裏であやつる張本人の存在と共に、汐路の父母たちの意外な意思が明らかになる。

天使の連続放火事件

広島から戻った久能整は、坂から転げ落ちて検査入院することになった。体に異常はなかった整は、退院が近づいた頃に立ち寄った温室の近くで、謎の美女、ライカと出会う。整は数字暗号を駆使するライカの不思議な言葉を解明しようとするうちに、不穏な都市伝説「炎の天使」について知る。その都市伝説は、最近起こっている連続放火事件と深く関係しており、池本優人青砥成昭も捜査にあたっていた。ライカとの待ち合わせ場所に来た整は、放火現場にあったマークが病院の外壁にも書かれていたことを彼女に聞かされ、優人にそのことを報告。優人の話によると、現場に残された「火」の象形文字に似たマークは、とあるウェブサイトによって広まったもので、都市伝説の内容はこのマークを書いて炎の天使を呼び出すと、炎によって子供を救ってくれるという。さらに炎の天使が起こした火事では子供が必ず生き残っており、その子供はいずれも親から虐待を受けていたという共通点もあった。炎の天使が子供を救う存在と言われているのも、子供を虐待していた親を焼き殺すことで、被害に遭っていた子供を救っているためだった。炎の天使は、親に虐待を受けている子供に自ら接触して唆(そそのか)し、その子を救うためと称しながら放火を繰り返している可能性が高いのだ。成昭は放火の前科がある井原香音人こそが炎の天使ではないのかとにらんで、捜査を進めていた。事件を追う途中で、整は以前に街中で出会ったサングラスの男性、と再会し、足湯に浸かりながら炎の天使の謎を語り合う。陸の言動に少々の違和感を覚えながらも、また病院を抜け出していたライカとクリスマスプレゼントを交換することになった整は、初めてのプレゼント交換に悩みながらも準備を進める。後日、無事にライカとのプレゼント交換を終えた整は病院で再会した陸を通して、病院に通っている痩せた少女が母親と継父から虐待を受けていることを知る。さらにその少女は、炎の天使を呼び出すマークを、スプレーで壁に書いていた。その夜、病院のボランティアに参加することになった整だったが、倉庫に呼ばれた整は陸によって拘束されてしまう。倉庫の奥には、病院で見た少女の母親と継父相手が閉じ込められていた。

横浜連続殺人事件

今まで遭遇した事件にはそれぞれつながりがある、という可能性に気づいた久能整ライカに相談するが、成り行きで彼女と初詣に出かけることになる。お互いに初詣が初めてだった二人は、くじ引きや食べ歩きを楽しんだあと、近くの焼肉店に入ることになる。整はまたしてもライカによって事件に導かれ、彼女の暗号をヒントに指名手配犯を見抜き、強盗事件を解決するのだった。一方、横浜では女性だけを狙った連続殺人事件が起きていた。被害者は交差点のど真ん中に寝かされた状態で死んでいたという共通点があったが、身元や年齢に関する共通点は見つからず、捜査は難航していた。そんな中、バスジャック事件後に行方をくらませていた犬堂我路は、犬堂甲矢犬堂乙矢と協力しながら、犬堂愛珠が亡くなる前の謎を追っていた。持病持ちにもかかわらず、医者通いをやめて行方をくらませた愛珠の行動を追ううちにたどり着いたのは、香川県の粟島にある漂流郵便局で、死亡する2週間前に彼女が出した遺書に近い手紙には、「ジュート」という謎の人物の名前が書かれていた。我路は愛珠がアルバイトをしていた闇カジノの同僚だった五十嵐に話を聞いたあと、愛珠の部屋にあった寄木細工を通して寄木細工ミュージアムに向かい、学芸員の辻浩増と知り合う。一方、横浜の連続殺人事件では四人目の被害者が出ており、体に「羽喰十斗」という名前が書かれていることから、警察は未解決事件の殺人鬼、羽喰玄斗と関係があると推測したうえで捜査を進める。さらに、事件の聞き込みをしていた女性捜査官の猫田が襲われたことで、犯人は名前に「十」の文字が入っている女性を狙って襲っていたことが判明する。今までの被害者も猫田も、名前に十の文字が入っていた。犯人の正体に気づいた我路たちは猫田に止めを刺そうとしていた犯人を捕らえ、アジト代わりにしている船に連れ込んで話を聞くことになる。

アイビーハウスの謎解きミステリー

謎も人の悩みも解きほぐす青年、久能整は、慕っている大学准教授の天達にアルバイトを頼まれ、週末は遠方まで出かけることになる。一方世間では、ストーカーによる殺人事件が発生し、警察署でもピリピリした空気が流れていた。そして週末に天達に連れられて整が訪れたのは、たくさんのツタに包まれた山荘、通称「アイビーハウス」だった。そこでは山荘の主を務めるが主催する謎解き会が開催されており、彼にアルバイトとして雇われた大学生の相良レンや、蔦や天達の友人でもある橘高勝も参加していた。整は同じ大学生のレンをはじめとする参加者と交流を深めながら山荘でくつろいでいたが、楽しいはずの謎解き会には早くも不穏な空気が流れていた。実はこのアイビーハウスは、天達の恋人であり整の恩人でもある三吉喜和が、数年前にストーカーに殺害された殺人現場でもあったのだ。整は喜和が殺された事件の謎と、ある人物の思惑、そして新たに起こる事件に巻き込まれることとなる。

大鬼蓮美術館占領事件

アイビーハウスから帰って来た久能整は、ライカと共に「オニバス」と呼ばれている大鬼蓮美術館に訪れ、束の間の平和と静かなひと時を楽しんでいた。だが、ゆっくり館内を回っていた整とライカは、武器を手に押し入って来た謎の黒マスク男の集団に遭遇。この集団はアルファベットのコードネームで呼び合う男たちの集まりで、訪れた客に「満月」や「星降る夜」といったワードが入った謎の短歌について聞いて回りながら、すべての客を気絶させていた。整はライカや元学芸員の黒松と共に館内に閉じ込められてしまい、妨害電波によって助けを呼ぶこともできなくなる。黒マスクたちは、黒松の同僚と会っていた親方が倒れる前に残した、謎の短歌の下の句を探し求めていた。黒マスクたちの本当の目的は、泥棒稼業の親方がこの美術館で果たすはずだった大仕事の内容を突き止めることだった。ライカの数字暗号による指示で、整は短歌について知っているフリをしながら、短歌の謎を解くこととなる。だが、黒松は短歌を作ったという同僚がすでに亡くなっていると語り、わずかなヒントだけで短歌の謎を解き明かすことは困難だった。解読できなければ命すら危険という窮地の中で、黒マスクたちや黒松との会話、そして美術館の床にある日時計からヒントを得た整は、短歌の謎についてすべて話す代わりに全員の命を助けて欲しいと交渉する。

鳩村家の双子の謎

大学で花の観察をしていた久能整は、以前広島で出会った狩集汐路と再会。いきなり大学まで押しかけて来た汐路は、従兄弟の知り合いである瓜生晃次からの依頼を紹介する。その依頼は、入れ替わりを続けて見分けがつかなくなった双子を見分けて欲しいという奇妙なものだった。汐路の案内を受けて渋々鳩村家にやって来た整は、依頼人の晃次と双子の鳩村有紀子鳩村実都子と出会う。まだ幼い有紀子と美都子の様子を見た整は、本人たちが困っていないなら、大人がわざわざ見分ける必要はないと諭すが、晃次は会社の跡取りでもある二人をどうしても見分けられるようにしたいと言い張る。有紀子たちと本の話をしたり読書感想文を書いてもらったりと、鳩村家の人々と交流を続けながら何日か経ったある日、ライカとの何気ない会話の中で、整は双子に隠された重大な秘密に気づく。そして二人が入れ替わりを繰り返していた理由には、母親である鳩村一葉の願いと、ある人物の危険な陰謀が絡んでいた。鳩村家に急行した整は、有紀子と実都子は双子ではなく本当は三つ子で、何か深刻な事情があって三人目を隠していると推測。それらを使用人の畑中詩に指摘した整は、鳩村家が抱える複雑な事情と、一葉に起こった出来事を聞くことになる。だが、このまま三人目を隠し通すのは難しいと判断した庭師の畑中徹は、晃次に三つ子のことを知らせると共に、三人目の藍糸子を連れて来て見分け方を明かす。ようやく見分けがつくことに安心した晃次は、自分のもとに藍糸子だけを残したうえで秘書の楡崎に命じ、整たちを海岸に連れ出して強制的に船に乗せる。

メディア化

テレビドラマ

2022年1月10日から、本作のテレビドラマ版『ミステリと言う勿れ』が、フジテレビの月9枠で放送された。脚本は相沢友子が務めている。キャストは、久能整を菅田将暉、風呂光聖子を伊藤沙莉が演じている。 2023年9月9日には、下記映画版公開を前に『ミステリと言う勿れ特別編』が放映。

実写映画

2023年実写映画化。9月15日より公開。監督は松山博昭が務め、ドラマ版のキャストが続投する。

登場人物・キャラクター

久能 整 (くのう ととのう)

東英大学・教育学部2年生の青年。アフロヘアに近いボリューミーな天然パーマにコンプレックスを持っており、直毛にあこがれを抱いている。恋人や友達といえる相手は一人もおらず、他人の家の布団や風呂を嫌うなど少々潔癖な一面があり、誰に対しても一定の距離を保っている。現代社会で当たり前のように流されがちなことに疑問を持ち、熟考して気づいたことや思っていることを語る。このため自然と独り言が多くなりがちだが、初対面の相手でも臆することなく指摘する。優れた観察力や記憶力に加え、植物・文学・美術を中心に幅広い知識を持ち、博識と独自の価値観を活かした持論をあざやかに展開する。それはたとえ緊急時であってもしゃべらずにはいられずに話が脱線することも多いため、面倒くさがられることもある。しかしその持論や指摘が、人の悩みや事件を解決に導くことも多く、警察からも一目置かれている。既成の概念や価値観に疑問を覚えたり問題視することが多い一方、三吉喜和の影響で占いや花言葉に幅広い知識を持つと同時に、それらを信じて疑わない。ふだんの食事は適当に済ませているが、週末だけはいつもカレーを作り、色々なアレンジを楽しんでいる。しかしあくまで自己流なため、人に振る舞うほど味に自信を持っていない。自宅でカレー作りを楽しんでいたある日、身に覚えのない殺人事件の容疑をかけられ、取り調べ中にさまざまなヒントを得ながら、事件とは関係なく刑事たちの抱える悩みを見抜いていく。推理をしているつもりはないものの、ただ思いついたことをマイペースに話すうちに、刑事たちの心を解きほぐしたうえに、事件の真犯人を突き止めた。これをきっかけにいくつもの事件に巻き込まれ、そのたびに犯人を突き止めて事件を解決している。自分には向いていないと自覚しながらも、教師を目指している。趣味は美術鑑賞で、家ではドラマや野球観戦を楽しんでいる。複雑な家庭で育ち、母親を追い詰めた父親と父方の祖母がトラウマで、幼少期の体験から男親にあまりいい印象を持っていない。ふだんは隠しているが、首から胸にかけて火傷のような傷痕がある。無意識に他人の癖を真似(まね)ることがある。

乙部 克憲 (おとべ かつのり)

大隣警察署の巡査を務める中年男性。妻子持ちだが、最近反抗期を迎えた娘との関係に悩んでいる。久能整を殺人犯と疑っていたが、彼の取り調べ中に悩み事を見抜かれたうえに、子供の反抗期は自然な反応であることを助言されて励まされ、すっかり毒気を抜かれてしまう。ほかの刑事と同様に、整の観察眼の鋭さに注目している。

風呂 光聖子 (ふろみつ せいこ)

大隣警察署の巡査を務める若い女性。捜査チームの紅一点で、男性ばかりに囲まれる自分の立場や存在意義に悩み、捜査においても積極的に動けずにいた。取り調べ中にその悩みを見抜いた久能整から、男性たちの不正を見張る立ち位置であるというアドバイスを受けて励まされ、積極的に捜査に参画するようになった。警察官としてはまだ新米で未熟なところもあるが、整の影響で自信を取り戻し、まじめに職務に取り組んでいる。ほかの刑事と同様に、整の観察眼の鋭さに注目している。

池本 優人 (いけもと ゆうと)

大隣警察署の巡査を務める男性。明るく人懐っこい性格をしている。妊娠中の妻との関係に悩んでおり、取り調べ中にそれを見抜いた久能整からは、子育ての参加は父親の義務ではなく権利と考えるよう、アドバイスを受けた。その後、しばらくは整に悩み相談をするようになり、取り調べに乗じて彼に助言を求めていた。そのまま事件を解決した整の観察眼の鋭さに感心している。事件後に子供が生まれ、彼に言われたとおり、子育ての参加を父親の権利として楽しんでいる。その後も整を頼りにしているが、何かと事件に巻き込まれがちな彼からも頼りにされている。

青砥 成昭 (あおと なりあき)

大隣警察署の巡査部長を務める男性。眼鏡をかけている。クールで不愛想だが正義感が強く、まじめで仲間思いな性格をしている。結婚しているが妻とは別居中で、12歳になる娘がいる。以前は大きな部署に所属していたが、冤罪(えんざい)事件を起こしたことが原因で、今の部署に飛ばされた。実直に真実を追い求めているが、整からは警察が調べるべきは真実ではなく事実であると諭される。ほかの刑事とは違って久能整には冷淡に接していたが、彼の観察眼の鋭さは認めている。娘が誘拐事件に巻き込まれ、事件の関係者と遭遇した整に再会し、娘を助けるために彼と行動を共にするようになる。

薮 鑑造 (やぶ かんぞう)

大隣警察署の警部補を務める中年男性。妻と幼い子供を轢(ひ)き逃げで亡くしている。当時は張り込み中だったため、妻子の死に目に会えなかったことを悔やんでおり、仕事とは別に単独で捜査を進めていた。実は整の同級生の寒河江健を殺害した真犯人であり、たまたま拾った彼の家の合鍵を利用して凶器をはじめ偽装工作を行い、彼を犯人に仕立て上げようと目論んでいた。

犬堂 我路 (いぬどう がろ)

大学院生の男性。バスジャックに巻き込まれた乗客の一人。いつもロングコートを着用したクールで理知的な美青年で、家族思いな性格をしている。車内では「熊田翔」を名乗り、近くの席に座っていた久能整と意気投合していた。実はバスジャックの主犯であり、従兄弟の犬堂乙矢、犬堂甲矢と共に今回のバスジャックを計画および実行し、乙矢たちが乗客を犬堂家に導くまでは、たまたま事件に巻き込まれた乗客を装っていた。車内での言動や犬堂家に飾られていた絵画からヒントを得た整に、その正体を見抜かれる。連続生き埋め殺人事件の被害者、犬堂愛珠の弟であり、彼女が死ぬ間際に乗っていたバスの乗客の中に犯人がいると考え、乗客と運転手を一人ずつ尋問するためにバスジャックを計画した。整の推理で真犯人が判明したあとは乗客たちを解放するも、真犯人を殺害して乙矢、甲矢と共に海外に逃亡した。しばらくは日本に戻って来なかったが、ある出来事をきっかけに帰国し、ひそかに愛珠の生前の行動を調査している。整の知識や閃(ひらめ)きを頼りにしており、調査の手がかりになりそうな物を時おり彼に送っている。趣味は絵を描くことで、その作品は犬堂家に飾られている。

犬堂 愛珠 (いぬどう あんじゅ)

犬堂我路の姉。ロングヘアの美人で、生き埋め連続殺人事件の最初の被害者。愛称は「姫」。従兄弟の犬堂甲矢のことを兄のように慕っていた。しっかりとした性格ながら、持病持ちで定職に就いておらず、病院通いの生活が続いていた。のちに我路たちが起こしたバスジャック事件を通して、連続殺人の犯人を察するが、バスの中で持病が悪化して倒れた際に犯人に生き埋めにされて亡くなる。のちに我路たちの調査で、死亡する前に病院通いを止めて闇カジノでアルバイトをしていたことや、亡くなる2週間前に遺書のような手紙を書いていたことが判明するが、生前の行動や人間関係は謎に包まれている。

犬堂 乙矢 (いぬどう おとや)

バスジャック犯の男性。ニット帽をかぶっている。人相が悪く短気な性格ながら、本来は仲間思いな性格をしている。車内にナイフを持ち込み、乗客たちを脅していた。「どうして人を殺してはいけないのか」という質問を中心に、乗客一人ひとりにさまざまな問いかけを行なった。この際に久能整の指摘に腹を立てて襲いかかるが、見かねた犬堂甲矢によって取り押さえられる。実は甲矢の弟で、犬堂我路の従兄弟。兄の甲矢、我路と共に犬堂愛珠を生き埋めにした連続殺人犯を突き止めるべく、今回のバスジャック計画に参加した。愛珠を殺した真犯人を殺害したあとは、甲矢、我路と共に海外に逃亡する。

犬堂 甲矢 (いぬどう はや)

求職中の男性。バスジャックに巻き込まれた乗客の一人。厳(いか)つい見た目で、仲間思いで面倒見のいい性格をしている。車内では「坂本正雄」を名乗っていたが、バスジャック犯の一人であることを明かした際には「犬堂ガロ」を名乗る。しかし本物のガロは「熊田翔」を名乗っていた犬堂我路であり、本名は「犬堂甲矢」。犬堂乙矢の兄で、我路とは従兄弟同士。弟の乙矢、我路と共に犬堂愛珠を生き埋めにした連続殺人犯を突き止めるべく、今回のバスジャック計画に参加した。愛珠を殺した真犯人を殺害したあとは、乙矢、我路と共に海外に逃亡する。

淡路 一平 (あわじ いっぺい)

コンビニでアルバイトをしている青年。バスジャックに巻き込まれた乗客の一人。気弱な性格でいつもおどおどしており、眼鏡をかけている。仕事を転々としており、定職に就けないことに悩んでいる。学生時代にいじめを受けていたことがあり、その頃に万引きを強要されたことから盗癖がついてしまう。アルバイトが続かないのも、店の商品を盗んでしまうため。犬堂愛珠が殺害された事件の当日にいっしょのバスに乗っていたが、彼女のカバンから財布を盗んでしまい、罪の意識を感じていた。

柏 めぐみ (かしわ めぐみ)

専業主婦。バスジャックに巻き込まれた乗客の一人で、いつも不安そうにしている気弱な性格をしている。政略結婚するが結婚前に妊娠が判明し、体裁を気にする夫や義父母に堕胎を勧められからは不妊に悩んでいる。現在は不妊治療を受けており、バスでクリニックに向かう途中だった。犬堂愛珠が殺害された事件の当日に、いっしょのバスに乗っていた。体調が悪化した彼女に服を引っ張られたが、自分のことで精一杯で余裕がなかったために無視したことで、罪悪感を覚えていた。

露木 リラ (つゆき りら)

ジャーナリストを名乗る女性。バスジャックに巻き込まれた乗客の一人。実はジャーナリストではなく工場の事務員で、ウソをついていた。昔から虚言癖があり、誰に対してもよくウソをつく。犬堂愛珠が殺害された事件の当日に、いっしょのバスに乗っていた。

奈良崎 幸仁 (ならさき ゆきひと)

大手保険会社の重役を務める中年男性。バスジャックに巻き込まれた乗客の一人。傲慢な性格で、部下を自殺に追い込んだことがある。定年退職後はボランティア活動をしているが、周囲に煙たがられており、妻にも逃げられてしまう。犬堂愛珠が殺害された事件の当日に、いっしょのバスに乗っていた。

小林 大輔 (こばやし だいすけ)

バスジャックに巻き込まれた乗客の一人。無職の男性。糸目の小太りな体型で、マスクをしている。バスで病気の祖父の見舞いに向かう途中だった。バスジャックで車内がパニックに陥る中、冷静な様子を見せていた。犬堂愛珠が殺害された事件の当日に、いっしょのバスに乗っていた。

煙草森 誠 (たばこもり まこと)

バスジャックに巻き込まれたバスの運転手を務める男性。事件に巻き込まれたフリをしていたが、実は犬堂我路たちに協力を求められ、彼らの目的や事情を知ったうえでバスジャックに協力していた。潔癖性ながら、モノを自分の目に見えない所にしまった時点で片付けたと判断する悪癖がある。ゴミや食べカスをゴミ箱に捨てることなく、見えない箇所に移動させているだけのため、家の中は処分されないままのゴミであふれている。犬堂愛珠が殺害された事件の当日、彼女が乗ったバスを運転していた。

狩集 汐路 (かりあつまり しおじ)

女子高校生。広島の名家、狩集家の前当主である狩集幸長の孫。黒のショートヘアで、眉毛が太め。傍若無人でマイペースな性格をしている。友人の犬堂我路に紹介され、広島旅行中だった久能整に接触する。狩集家の遺産相続候補者の一人だが複雑な相続争い問題に巻き込まれており、幸長の遺言にあった蔵の秘密を探りながら、整にボディーガードを依頼した。父親が居眠り運転事故で亡くなり、同乗していた叔父や叔母も亡くなったが、しっかり者の父親が居眠り運転をするはずがないと疑問を抱いている。ふだんは明るく気丈に振る舞っているものの、大好きな父親を失った悲しみを引きずっている。幼少期から絵を描くのが好きで中学生時代は美術部に所属し、それがきっかけで我路と知り合った。相続問題解決後も時おり整と会っており、逃亡した我路とはメールで連絡を取り合っている。

ライカ

久能整が病院の温室で出会った謎の美女。明るい茶髪のロングヘアで、右目の下に二つのホクロがある。いつも冷静沈着で、ミステリアスな雰囲気をまとっている。脳の病気を患って入院中だが、度々病室を抜け出して外出し、よく医者に怒られている。『自省録』をもとに作った数字暗号を自在にあやつり、トラブルに巻き込まれた際には、整との秘密の会話にも活用している。感情表現が乏しいが、整のことは面白いと評して気に入っており、彼の前では笑顔を見せる。整に興味を持ち、暗号を使って待ち合わせをした際に都市伝説「炎の天使」の事件に彼を導いた。過去に親の虐待に逢ったことがあり、マークを書くことで炎の天使を呼び出した過去を持つ。炎の天使の事件が解決したあとも、時おり整と会ってはいっしょに初詣や美術館に出かけている。整と行く先々で事件に巻き込まれているが、目の前で事件が起こったり犯人に脅されたりしても、毅然と対応できる度胸の持ち主。妹の千夜子の話をよくしている。

井原 香音人 (いはら かねと)

都市伝説「炎の天使」の現場をうろついていた謎の美青年。猫好きで、「シシ」という名の変わった模様の猫を連れている。少年時代に放火で捕まり、自供したのは3件のみだったが、青砥成昭からはそれ以外の犯行があったと疑われている。炎の天使の正体であり、昔救った陸と共に、虐待を受けている子供たちを救うと称してその親を焼殺させている。幼少期に美人な母親と暮らしていたが、やがて母親に溺愛されると共に苛(さいな)まれるようになり、たびたび虐待を受けて殺されかけることがある。そんな中で偶然、香炉から漏れた火で家が火事になり、母親は亡くなり生き残った過去がある。これ以来、炎に救われたと思い込み、自分は炎をあやつれる申し子だという歪(ゆが)んだ信念を抱くようになり、放火を繰り返していた。のちに父親に引き取られたが、すぐに蒸発した父親の豪邸に住むようになる。

(ろく)

久能整が街中で出会った青年。小柄な体型をしている。都市伝説「炎の天使」について調べている。昔から赤色を見ると体の一部が痛むため、リンゴなどの赤い物を避け、いつも丸いサングラスをかけている。あだ名は「カエル」。本名は「下戸陸太」で、井原香音人と共に放火殺人を繰り返していた「炎の天使」の片割れ。幼少期からカエルのような醜い容姿を周囲に罵られ、兄が亡くなってからは母親から虐待を受けていた過去を持つ。食事すら満足に与えられず命の危険さらされていたが、香音人に救われる。それ以来、香音人に心酔するようになり、彼と同居しながら虐待を受けている子供に声をかけ、放火殺人に加担していた。

(つた)

長髪の中年男性。山荘「アイビーハウス」の主を務める。通称「アイビー」。友人やインターネットで知り合った知人などをアイビーハウスに招いて、ミステリー好きが集う「謎解き会」を催した。子供っぽい性格ながら、友人思いのところがある。パンには強いこだわりを持つ。役者で物書きでもあるものの、著書は1冊しか刊行されていない。親の遺産で贅沢(ぜいたく)な生活を送っている。

天達 (あまたつ)

久能整が通っている東英大学の准教授を務める男性。おだやかで優しい性格で、友人の少ない整のよき理解者でもあり、何かと観察眼の鋭い彼を高く評価している。専門は心理学で、愛称は「達ちゃん」。三吉喜和という恋人がいたがすでに亡くなっており、命日には欠かさず墓参りをしている。友人の蔦の山荘「アイビーハウス」でのアルバイトを整と相良レンに依頼し、彼らと共に謎解き会に参加した。占いや花言葉のような根拠のないものは信じていない。

相良 レン (さがら れん)

久能整と同じ東映大学に通っている青年。短髪で前髪をカチューシャで上げている。明るく快活な性格で、誰に対してもすぐに打ち解ける。天達に山荘「アイビーハウス」のアルバイトを依頼され、謎解き会に参加する。整とはゼミでいっしょになったことはあるが、言葉は交わしたことはない。少々せっかちながら、天達からは目端の利く頭の回転の速い人物だと評されている。人の名前と容姿を覚えるのが苦手で、初対面の人にわかりやすいあだ名を付けることで覚えようとしている。

橘高 勝 (きつたか まさる)

役所勤めの男性。蔦と天達の友人で、山荘「アイビーハウス」の謎解き会に参加した。ニット帽をかぶり、クールで寡黙な性格をしている。天達の恋人だった三吉喜和の友人で、彼女がストーカーに殺された事件を今でも悔いており、その事件をもとに謎解きゲームを作成した蔦に怒りをあらわにしていた。他人と同じ部屋で寝るのが苦手で、アイビーハウスでもガレージにテントを張って寝ていた。キャンプや山登りなどアウトドアが趣味で、最近は適当に電車に乗って知らない場所を探索する「ミニ旅」を楽しんでいる。認知症になった親の世話で最近は趣味を満喫できず、退職も考えている。

三吉 喜和 (みよし きわ)

天達の恋人だった女性。蔦と橘高勝の友人。おだやかな性格で、理知的な雰囲気を漂わせている。久能整の恩人でもあり、幼い彼にさまざまなことを教え、多くの影響を与えている。ストーカー被害に悩んでおり、蔦の山荘「アイビーハウス」に逃げ込むも、なんらかの方法で居場所を突き止めたストーカーに殺害された。

瓜生 晃次 (うりゅう こうじ)

大企業P・ビジョンの東京支社長を務める男性。狩集汐路の従兄弟、理紀之助の知り合いで、理紀之助と汐路を通して久能整に姪の鳩村有紀子と鳩村実都子を見分けて欲しいと依頼する。姪の二人を、いずれは会社の跡取りにしたいと考えている。前社長の鳩村一葉が亡くなる前は、P・ビジョンの経理部長を務めていた。

鳩村 一葉 (はとむら いちは)

大企業P・ビジョンの社長を務めていた女性。岐阜県中津川市の実戸出身。自家用機や船などを所有しており、さまざまな乗り物を大好きな柿色に塗っている。若くして飛行機事故で亡くなっている。瓜生晃次の兄、洸一と結ばれて幸せな結婚生活を送り、娘の鳩村有紀子と鳩村実都子を大切に育てていた。容姿がよく似ている有紀子と実都子を見分けることができた。三姉妹の長女として生まれたが、幼少期に風呂場の事故で一番下の妹、万実を死なせてしまって以来、母親の槙絵とのあいだに確執が生まれ、双子の妹、百花はギスギスした家族関係を嫌って渡米した。成長してからも家族をバラバラにしてしまったことがトラウマとなり、精神的に追い詰められていく。しかし、ある出来事をきっかけに立ち直って明るくなり、急逝した父親に代わって会社経営を成功させた。娘たちが生まれる前に病死した洸一の死から7年経った頃、晃次から再婚を誘われたが、訳あって彼を警戒して断る。娘たちには、自分の星座である双子座の星座石、アレキサンドライトをもとに名前を付けた。

鳩村 有紀子 (はとむら ゆきこ)

鳩村一葉の娘。ウェーブのかかったロングヘアにしている。妹の実都子とは容姿が瓜二つで、母親の一葉にしか見分けることができない。ある日を境に鳩村実都子と入れ替わるようになり、一葉の死後も入れ替わりを繰り返しているため、叔父の瓜生晃次はまったく見分けられずにいる。見た目はそっくりだが、癖や好みなどは実都子と微妙に違っている。鳩村家で飼っている伝書鳩の世話をしており、柿目が特徴のアイコという鳩をかわいがっている。名前の由来は、双子座の星座石であるアレキサンドライトの「アレキ」。

鳩村 実都子 (はとむら みつこ)

鳩村一葉の娘。ウェーブのかかったロングヘアにしている。姉の有紀子とは容姿が瓜二つで、母親の一葉にしか見分けることができない。ある日を境に鳩村有紀子と入れ替わるようになり、一葉の死後も入れ替わりを繰り返しているため、叔父の瓜生晃次はまったく見分けられずにいる。見た目はそっくりだが、癖や好みなどは有紀子と微妙に違っている。名前の由来は、双子座の星座石であるアレキサンドライトの「サンド」で、一葉の地元である実戸を「さんと」と読むことから。

畑中 詩 (はたなか うた)

鳩村家の使用人を務める女性。庭師の夫、畑中徹と共に家政婦として働いており、鳩村有紀子と鳩村実都子の世話もしている。旧姓は丸山で、生前の鳩村一葉の世話もしていた。実は有紀子と実都子が入れ替わりを続けている理由や鳩村家の抱える事情を知っており、一葉に頼まれて徹と協力しながらその秘密を隠し続けてきた。

書誌情報

ミステリと言う勿れ 13巻 小学館〈フラワーコミックス α〉

10 ミニカレンダー2022付き限定版

(2021-12-10発行、 978-4099430979)

第1巻

(2018-01-10発行、 978-4098700295)

第2巻

(2018-05-10発行、 978-4098701209)

第3巻

(2018-10-10発行、 978-4098702046)

第4巻

(2019-02-08発行、 978-4098704064)

第5巻

(2019-09-10発行、 978-4098705429)

第6巻

(2020-02-10発行、 978-4098708611)

第7巻

(2020-09-10発行、 978-4098711031)

第8巻

(2021-03-10発行、 978-4098712779)

第9巻

(2021-07-09発行、 978-4098714001)

第10巻

(2021-12-10発行、 978-4098714971)

第11巻

(2022-06-10発行、 978-4098716906)

第12巻

(2023-01-10発行、 978-4098718849)

第13巻

(2023-09-08発行、 978-4098722143)

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