ユカをよぶ海

ユカをよぶ海

フランスへ行った絵描きの父親が帰って来る事を信じて、極貧やいじめに苦しみながら、海辺の町で一人ぼっちで生きる少女の橘ユカが、苦難に挑む姿を描いた少女漫画。「少女クラブ」1959年6月から1960年8月にかけて連載された。

正式名称
ユカをよぶ海
ふりがな
ゆかをよぶうみ
作者
ジャンル
ヒューマンドラマ
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あらすじ

上巻

千葉県の飯岡という海辺の町に、橘ユカという一人の少女がやって来る。養護施設から抜け出して来たユカは、ボロボロのワンピースに裸足という姿で、バスに乗るお金もないため、バスのバンパーにこっそり乗って、やって来たのだった。生まれてすぐに母親を亡くし、父親の友人夫婦の家に預けられていた彼女は、10年前にフランスへ行った絵描きの父親の帰りを待っていたのだという。飯岡にはユカが生まれ育った家があり、今は廃屋となったそこで、ユカは父親との暮らしを夢見ていた。地元の子供達から「親なしっ子」といじめられ、学校へも行けない日々が続いていたが、東京から赴任して来た牧村先生のはからいで小学校へ通えるようになる。また、ユカが偶然出会った「黒いワイシャツのおじさん」は、ユカの父親の知り合いらしく、ユカに手紙をくれたり、陰から見守ってくれていた。父親の事を知りたいユカは、夏休みを利用して、牧村先生といっしょに黒いワイシャツのおじさんに会うため東京へ向かう。住所も知らないため、黒いワイシャツのおじさんに会う事はできなかったが、東京でマドレーヌアベルという姉弟となかよくなる。

中巻

牧村先生のおかげで日々の暮らしを続けていた橘ユカだったが、ある日、牧村先生が肋膜炎で東京の病院に入院してしまう。そんな中、ユカはたまたま見かけた新聞記事で、「黒いワイシャツのおじさん」がニセ札造りの犯人として手配されている事を知る。いてもたってもいられなくなったユカは1人で東京へ向かい、黒いワイシャツのおじさんと再会する。そして黒いワイシャツのおじさんの口から、ニセ札造りの犯人である事を聞かされる。しかも、黒いワイシャツのおじさんが実はユカの父親、橘良一であるという衝撃の事実を知る。その後、冬休みのあいだ、東京で出会ったマドレーヌの家に世話になるために宇佐美家を訪れたユカは、マドレーヌから宇佐美がニセ札造りの主犯である事を聞かされる。激昂した宇佐美がマドレーヌを殴るのを止めようとしたアベルが突き飛ばされ、その拍子でストーブが倒れて屋敷に火が広がる。宇佐美を告発するために現れた良一は、燃え広がる家からマドレーヌを助け出すが、彼女は弟のアベルを残し、息を引き取るのだった。良一は自首したものの、主犯の宇佐美夫婦は逃走し、ユカは一人ぼっちとなったアベルを連れて飯岡へ帰る。

下巻

飯岡では津波によって小学校が破壊されたため、橘ユカはクラスメイトの川上らと共に山側の小学校へ通う事になった。川上の家へアベルと共に居候させてもらう事になったユカは、平穏な日々を過ごす。やがて入院していた牧村先生も復帰し、さらにユカの父親、橘良一が出所して、再会を喜ぶ。しかし、良一は病に侵され、目が見えなくなっており、その治療費もなかった。新担任の桂木典子先生によってその美声を認められたユカは、有名な作曲家である山田正を紹介され、そこの門下生となる。その後、手術によって良一の視力は回復。さらに良一の描いた絵が認められて、二人は飯岡に残る、ユカが生まれ育った崖上の家で、念願の暮らしを始める。しかし、良一の容体は完全には回復しておらず、流れ星を見つめながら、良一はひっそりと息を引き取るのだった。

登場人物・キャラクター

橘 ユカ (たちばな ゆか)

小学5年生の少女で、11歳。養護施設を抜け出して、生まれ育った家のある千葉の飯岡へ1人でやって来た。長い黒髪に大きな瞳を持つ美少女。生まれてすぐに母親を亡くし、10年前にフランスへ行った絵描きの父親の帰りを待っている。優しい性格だが、いじめっ子にはやりかえすぐらいのおてんばなところもある。

橘 良一 (たちばな りょういち)

橘ユカの父親。有望な画家だったが、10年前に妻を亡くし、その悲しみから絵が描けなくなった。そこで、生まれて間もないユカを友人夫婦に預けて、フランスへ絵の修行に旅立った。帰国後はニセ札造りに加担したためユカを迎えにいく事ができず、「黒いワイシャツのおじさん」としてユカを見守ったり、手紙を送ったりしていた。ユカに正体を明かして自首し、服役を終えたあとはユカと2人で暮らすが、その体はすでに病に侵されていた。

牧村先生 (まきむらせんせい)

東京の大学を卒業して、県立東海上小学校へ赴任して来た男性教師。学校へ行けない橘ユカに文房具や服を買ってやり、学校に通えるようにしてくれた優しい人物。ユカの担任となり、ユカの父親探しなど多方面で協力している。

川上 (かわかみ)

橘ユカと同じ県立東海上小学校に通う小学5年生の少年。坊主頭のやんちゃな男の子。グループのリーダー格で、ユカをいじめていた。しかし、海で溺れかけたところをユカに助けられた事から和解する。

マドレーヌ

父親を捜しに東京へやって来た橘ユカが偶然出会った少女。両親とは仲が悪く、迫害されている弟のアベルを連れて家を出たいと思っている。ユカとなかよくなるが、家が火事になった際に命を落とす。

アベル

マドレーヌの弟。幼い時に2階から落ちて頭を打ち、それがもとで障害が残り、館の2階で幽閉されている。マドレーヌや橘ユカからは「アーぼう」と呼ばれ、かわいがられている。ピッコロを吹くのが得意。のちにマドレーヌを亡くして一人ぼっちになり、ユカといっしょに暮らす事になる。

宇佐美 (うさみ)

マドレーヌとアベルの父親だが、マドレーヌの発言によると、本当の親ではないらしい。東京で裕福な暮らしをしており、父親を捜しに東京へやって来た橘ユカと牧村先生に出会った。実はニセ札造りの主犯で、橘良一を利用していた。

倉持 (くらもち)

橘ユカと同じ小学5年生の男の子。裕福な家に生まれ、山側で暮らす自分達を「山っ子」と呼ぶが、海側で暮らすユカや川上達の事は「海っ子」と呼んでばかにしている。ユカ達と敵対していたが、吊り橋から落ちそうになったところをユカに助けられ、和解する。

桂木 典子 (かつらぎ のりこ)

新しく橘ユカや川上達の担任となった女性教師。ショートカットの髪型をした美人。指導がきびしく、怒ると男のように怖い事から、生徒達からは「電気ばばあ」というあだ名を付けられている。

山田 正 (やまだ ただし)

有名な作曲家。東京の大きな屋敷で暮らしている。年齢は50~60代と思われる温厚そうな紳士。桂木典子の紹介で歌手として橘ユカを紹介され、ユカの才能を認めて門下生とする。ユカからお金が必要である事を伝えられると、父親の病の治療費という事情を知らなかったため、単なる金目当てと誤解し、ユカを解雇した。その後、経緯を知ってユカとは和解する。

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