海辺のエトランゼ

海辺のエトランゼ

ゲイであることで実家から逃げ出した過去を持つ橋本駿と、両親を失った悲しみを乗り越え、同性ながら愛する人に出会った知花実央。沖縄の離島を舞台に、そんな二人の初々しい恋愛模様を描いた純愛ボーイズラブストーリー。「on BLUE」vol.9 (2013年4月)からvol.13(2014年4月)にかけて掲載された作品。2020年劇場アニメ化。

正式名称
海辺のエトランゼ
ふりがな
うみべのえとらんぜ
作者
ジャンル
BL
 
ヒューマンドラマ
関連商品
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あらすじ

出会い

沖縄の離島で暮らす橋本駿知花実央は3年前、実央がまだ高校生だった頃に出会った。実央は両親を亡くし、知人の家に身を寄せていたが、家では居場所もなく、周囲から無神経に哀れまれていた。そんな日々に耐え切れず、実央は海辺にあるベンチに一人座り、何をするでもなくただ夜遅くまで海を眺め続けていた。そんな実央に興味を抱いた駿は彼に声を掛け、かかわりを持つようになる。だがある日、駿が実央にいつも一人で寂しくならないかと尋ねたことが原因で二人は険悪なムードになり、実央はいつも自分のことを見ている駿の方が気持ち悪いと攻撃する。すると駿はその言葉を聞いて、気を失ってしまう。実は駿はゲイで、かつて結婚式当日に、花嫁を置いて逃げ出したことがあったのだ。両親に性的マイノリティーについてカミングアウトしても理解されず、逃げるように沖縄の離島で暮らし始めた駿の心には、その出来事が未だに暗い影を落としていたのである。一方の実央は、ほかの人同様に軽々しく慰めの言葉を口にした駿に憤りを覚えて怒りをぶつけたものの、駿の言葉に他意はなく、彼が単純に自分を心配しているだけと知り、駿への警戒心を解く。これ以降、駿や宿で暮らす人たちと交流を持つようになった矢先、実央は島を離れることになってしまう。実央は自分だけの思い出の場所に駿を案内すると、親しくなった関係を惜しむように、駿の頰にキスをする。その翌日、実央は島を去っていくのだった。

3年後

知花実央が島を去ってから3年が経過したある日、宿の新しい住人として、すっかり大人になった実央が橋本駿の前に姿を現す。そして実央は、3年のあいだ募らせた思いの丈を駿に打ち明け、駿に自分のことを好きになってほしいと猛烈にアタックする。それからは所かまわず実央は駿にキスしたり、体の関係を求めたりと、なりふり構わないアプローチを繰り返し、駿を困惑させる。実は駿は、男性同士の恋愛関係という険しい道に実央を引きずり込むことで、実央のふつうの幸せを奪ってしまうのではないかと、懸念していたのだ。そのため駿は、実央と距離を取り、時には突き放すことで、なんとか考え直させようとする。そんな中、二人は島から本島へ船に乗って出掛けることになる。そこで駿は、実央に彼女でもつくれと言葉を掛け、実央を傷つけてとうとう怒らせてしまう。本島でそれぞれの用事を済ませた二人は、島に帰るために合流するが、機嫌の直らない実央は、自分の思いを再び駿にぶつける。そして二人は言い争いになり、帰りの船がなくなってしまう。仕方なく泊まる場所を探し始めた駿は、実央と二人で一泊できる場所を見つけると、部屋に入るなり動揺する実央にかまわず情熱的にキスをする。そして、胸にしまっていた実央への思いを吐露する。

元婚約者

橋本駿知花実央と気持ちを共有するようになってもなお、実央と肉体関係を持つことには消極的だった。それとは逆に、積極的に関係を発展させようと振る舞う実央は、ある時、かつての駿の婚約者について言及し始める。そして、結婚が破談になったことを、婚約者がかわいそうだと口走ってしまう。するとそこに、かつて駿と婚約していた桜子が姿を現す。突然のことに動揺した実央は、アルバイト中も顔面蒼白で、始終上の空で仕事などまったく手につかない状態に陥る。その後、あらためて桜子と顔を合わせた実央は、自分が駿の恋人と紹介されたことに複雑な思いを抱き、よりいっそう体の関係に踏み込みたい気持ちを強めていく。翌日、桜子は島を案内してほしいと実央を誘い、二人だけで島を散策する。そして桜子は、実央に今回の訪問は駿の父親の体調が思わしくないため、駿を実家に連れて帰ることが目的であると告げる。その後、桜子と駿のあいだで激しい言い争いになるが、駿は実央がいることを理由に、帰ることを拒否。しかし自分の存在を言い訳にして、ただ逃げているだけと感じた実央は、自分はいいから一度実家に帰ってあげてほしいと駿に懇願するのだった。

関連作品

春風のエトランゼ

本作『海辺のエトランゼ』の続編に紀伊カンナの『春風のエトランゼ』がある。祥伝社から刊行されており、作中では、本作から5年後のストーリーが描かれている。

queue -Kanna Kii artbook-

本作『海辺のエトランゼ』の作者である紀伊カンナ初の画集となる『queue -Kanna Kii artbook-』が、2020年8月25日に祥伝社より刊行された。「エトランゼ」シリーズの単行本や雑誌表紙のほか、グッズに使用されたイラスト、イベントなどのレアイラスト、大型絵のカバーラフ、描き下ろしイラストなどが収録されている。

メディアミックス

劇場版アニメ

2020年9月、本作『海辺のエトランゼ』の劇場版アニメ『海辺のエトランゼ』が公開された。制作は「海辺のエトランゼ製作委員会」が担当し、監督・脚本は大橋明代、キャラクターデザインは紀伊カンナが務めた。キャストは、橋本駿を村田太志が、知花実央を松岡禎丞が演じている。

登場人物・キャラクター

橋本 駿 (はしもと しゅん)

沖縄の離島で暮らすゲイの男性。親戚のおばちゃんが営んでいる宿に部屋を借り、パンの配達やおつかい、家の修理など、雑用を手伝いながら小説を執筆している。ある時、宿の前にある海辺のベンチで、毎日夜遅くまでたそがれている知花実央に興味を持ち、声を掛けた。初めは冷たくあしらわれていたが、徐々に距離が縮まっていき、親しくなった矢先に実央が島を離れることとなり、実央の連絡先も知らないまま離れ離れになってしまう。その際、実央の方から電話すると告げられるが、その約束は一度も果たされることはなかった。その後、自分が執筆した小説が入賞し、実央からお祝いの言葉だけが記されたハガキが一通届いたが、その後はなんの連絡も取れないまま3年が過ぎた。そんなある日、宿の新しい住人となった実央と再会。実央から好きだと告白を受けるが、ゲイという険しい道に実央を引き込むようなことを簡単に受け入れられず、実央への気持ちはあるものの、一定の距離感を置こうとしている。しかし、そんなことはお構いなしに関係をせまる実央との関係性に悩みながらも、時間を掛けて互いの気持ちを通わせるようになり、実央と恋人同士となる。だが、それでも肉体関係に発展させることには慎重で、その後もしばらく進展を見せないままの状態が続く。そんな中、橋本駿を訪ねて元婚約者の桜子が島にやって来たことで、状況が変化する。実は過去に桜子と結婚を破談にした経験がある。婚約相手も、その結婚自体もすべて両親が勝手に決めたものだったが、結婚式の当日、花嫁の桜子を置いて逃げ出し、自分の性的マイノリティーについて両親にカミングアウトした。しかし、両親がその事実を知ってもなお受け入れようとしなかったため、家を出ることを決めた。このことが、今でも自分の中に暗い影を落としており、何かの拍子に当時のことがフラッシュバックして倒れてしまうときもある。物心ついた時から恋愛対象は男性だったが、傷つくことを恐れ、好きな相手に告白したことはなく、両思いになったこともないため、男性と肉体関係を持った経験はこれまで一度もない。

知花 実央 (ちばな みお)

沖縄の離島で暮らす男子高校生。父親が海で遭難して帰らぬ人となり、母子家庭で育ったが最近母親を亡くし、知人の家で世話になることとなった。その家で何不自由のない生活を送らせてもらっていたが、家では自分の居場所がないように感じ、周囲が無神経に自分を哀れむことに耐え切れず、海辺にあるベンチに座り、夜遅くまで海を眺める日々を送るようになる。ある時、橋本駿から声を掛けられたことがきっかけで親しくなるが、その後自分が島を離れなければならなくなり、駿と連絡先も交換しないまま離れ離れになってしまう。その際、電話することを駿に約束したが、一度宿にかけた電話は絵理につながり、彼女からは、駿がゲイであることを理由に今後の関係について考え直すように忠告される。それが原因で、駿に電話をかけることができないまま3年が経過した頃、絵理からの勧めで駿が暮らす宿の新しい住人として島に戻ることになり、3年ぶりに駿との再会を果たす。その際、大人になったから全部自分で決められると嬉々として語ると、駿のことが好きだと知花実央自身の気持ちを正直に打ち明けた。すぐにでも駿と関係を持ちたがり、いっしょに寝ようとしたり、ところかまわずキスしようとしたりと積極的に立ち振る舞うが、それがかえって駿との距離を生むことになってしまう。駿からは、彼女をつくればと突き放されてしまうが、あらためて自分の決意や駿への気持ちを伝えたことで、ようやく恋人として気持ちを通わせることができた。しかし、その後いつまでたっても肉体関係を持とうとしないままの駿に悶々としていた時、駿の元婚約者の桜子と出会い、複雑な感情を抱くことになる。人見知りな性格で、知らない人と目を合わせたり、話したりすることが苦手。自分がゲイだという感覚はなく、あくまでも駿のことが好きだというだけで、基本的な恋愛対象が女性であることには変わりない。

絵理 (えり)

沖縄の離島にある宿に部屋を借りているレズビアンの女性。同様に宿の住人として暮らしている鈴や橋本駿と生活を共にしており、鈴とは恋人同士。宿の前にあるベンチに座ってたそがれている知花実央を美少年と茶化して気に掛けていたが、その後駿を通じて宿に出入りするようになった実央にも、食事を振る舞うなど、家族のようにかかわりを持つようになる。その後、実央が島を出て3年経過した頃、恋人の鈴と新たに部屋を借り、宿を出て二人での生活を開始することとなった。そのため、宿の人手が足りなくなってしまうことから、実央と連絡を取り、宿の住人として島に戻ってくるように手配した。実は、実央が島を離れたあと、一度だけ宿にかかってきた実央からの電話を取ったことがあった。本当は駿にかかってきた電話だったが、その際、駿がゲイであることを勝手に暴露し、実央にその気がないならやめた方がいいと伝え、今後の関係性についてきちんと考えるように忠告した。勝気な明るい性格で、世話焼きのお姉さんタイプ。恋人の鈴とはつねにケンカをしている。

桜子 (さくらこ)

橋本駿の婚約者だった女性。駿とは学生時代からの友人で、駿がゲイであるという事実を知ったうえで婚約を承諾し、結婚しようとした。だが駿に対して恋愛感情を持っており、自分の好きという気持ちがあれば、それですべてを許すことができると考えていた。しかし、結局結婚式当日、駿に本当にこのまま結婚してしまっていいのかと疑問を投げ掛けたことがきっかけとなり、駿が両親にすべてを暴露するという形で結婚は破談となった。それ以来、駿の所在を確認しつつ、個人的に駿の両親へのフォローも続けてきた。ある時、沖縄の離島に駿を訪ねて来て、駿の父親の具合が悪いことを伝え、駿に実家に戻ることを勧めた。だが、予想以上に駿から強い反発を受け、さらに思いがけず知花実央という男性の恋人を紹介され、内心動揺しつつも、冷静を装おうとする。物静かで気が強く芯のある古風なタイプながら、心の奥底に熱い気持ちを秘めている。

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