あらすじ
第1巻
舞台は近未来、2015年の東京。さえない素人童貞の独身男、坂本拓郎は、友人の越後大作に勧められ、30歳の誕生日に貯金をはたいて、仮想現実世界で女性と交流する事のできるゲーム「月子」と、そのための装置一式を購入した。AI空間、アンリアルの中で、少年の姿のアバターをまとった拓郎は、AIの少女、月子と対面を果たす。さっそく月子と愛を語らおうとする拓郎だが、何故か月子に「好きな人がいる」と拒絶されてしまい、そのまま襲いかかったところ反撃されて噛みつかれた。その傷痕は、翌朝になってもはっきりと歯形となって残っていた。拓郎はがっかりするが、大作の語るところによると、AIがそのような挙動をする事は本来あり得ない事であり、もしかしたら月子は何か特別なソフトなのではないかという。そこで拓郎は大作の紹介で月子を、「ドクター」と呼ばれるアンリアルの世界のハッカーに診せる事にする。だが、それでわかったのは、月子には何らかのロックがかかっているという事のみであった。その帰り、拓郎と月子は神崎陽一郎という青年に出会う。月子は何か陽一郎に関する記憶を持っている様子で、陽一郎のところに行くと拓郎に告げて去っていく。
第2巻
坂本拓郎が越後大作に、月子をドクターに診せた話をすると、大作は月子の正体が、神崎陽一郎という天才プログラマーが発明したAI「ムーン」である事を悟る。かつて陽一郎は、「ノア」というAIを仮想空間上に作り上げた。だがノアは暴走したため、ネットワークから切り離されて封印される事となった。そのノアの一部分を再構成し、疑似人格を持ったAIとして再教育したものがムーンであった。そこまで開発が進んだところで、陽一郎の発明品は大企業に買い取られ、ムーンは一般ユーザー向けの平板化処理を加えられ、似たような疑似人格AIが大量に生み出された。こうして生まれたのが、「アンリアル」という仮想世界だったのである。拓郎は、アンリアルで会った神崎と名乗った男は、陽一郎だったのかと考えるが、大作によれば、陽一郎は現実世界ではすでに自殺しているのだという。一方、月子は陽一郎の暮らす遊郭を訪れ、そこで陽一郎に処女を捧げようとする。ところが、月子にかかっているプロテクトが陽一郎に襲いかかるのだった。
第3巻
月子のプロテクトにより、「アンリアル」の中の神崎陽一郎は、醜い姿に変貌してしまった。さらに陽一郎は何者かの襲撃を受ける事となり、そこにやって来た坂本拓郎に月子を託す。陽一郎を慕い、拓郎に怒りをぶつける月子は、拓郎の現実世界の姿を見て嫌悪感をあらわにする。だが拓郎は、現実世界の自分とアンリアル内のアバターとしての自分が別人であるかのように装い、月子の警戒心を少しずつ解いていく。結果として徐々に関係は改善され、アンリアルの中でデートを重ねるうち、二人は恋愛関係へと至るようになる。また、あくまでも疑似的なものではあるが、拓郎と月子はアンリアルの中で高校とおぼしき学校にまで通い始めた。そしてある日、越後大作が親切心で貸してくれた専用装置一式を用いて、アンリアルの中で月子と拓郎は一線を超えるのだった。だがそれによって、月子のプロテクトが解かれてしまう。
第4巻
坂本拓郎は現実世界での会社を休んでまで、アンリアルの中で月子とのセックスに溺れる日々を過ごしていた。それを見かねて現実世界の拓郎の友人、長尾まりあがアンリアルの中を訪れた。彼女の説得で拓郎は会社に行く事にするが、その後アンリアルに一人残された月子の前に、第9帝国の指導者である江原という男が現れる。一方拓郎は、会社で親しく接するうちになんとなくまりあとなかよくなり、ある日彼女と一線を超えてしまう。江原の力によって現実世界を覗き見てその事実を知った月子は絶望し、江原と共に、現実世界に宣戦布告をする。月子の狙いは、電脳世界に自分のためだけの拓郎のコピーを作り出し、本物の拓郎には死んでもらうというものであった。全世界の核兵器を支配下に置くため、月子はハッキングを開始するが、アメリカ合衆国の反撃に遭ってハッキングは失敗し、月子の身体は崩壊を始めてしまう。このままでは月子が消えてしまうという事態に、対応策は一つだけしかなかった。それは誰かが母体となり、月子を現実世界に人間として産み出す、というものであった。
登場人物・キャラクター
坂本 拓郎 (さかもと たくろう)
小さな印刷会社の工場に勤務する30歳のさえない男。ハゲ、デブ、金ナシの素人童貞で、仕事にも情熱が持てず鬱屈する日々を過ごしていたが、友人の越後大作に勧められてバーチャルの世界でプレイする最新のギャルゲーを購入。仮想世界「アンリアル」でAIの「月子」に出会うこととなった。AIであるはずの月子に振られて当初は絶望するが、仮想世界で愛をつかもうと改めて決意し、彼女を振り向かせようと四苦八苦することになる。 「アンリアル」ではハゲておらず体型も中肉中背だが、これは高校時代の自分を少し美化したものである。
月子 (つきこ)
坂本拓郎が購入したギャルゲーのAIキャラクター。プレイヤーである拓郎の告白を拒み、手を噛んでケガをさせるというAIにはありえない行動を取ったことから、特別なソフトであることが判明した。その正体は天才開発者の神崎陽一郎が作り上げたAI「ムーン」で、簡易版を量産する際に危険だとして削除された機能がいくつか残っている。 外見は14、15歳くらいで、いつも笑顔の無邪気な明るい女の子だが、やがて嫉妬や独占欲といった感情に目覚めていく。
長尾 まりあ (ながお まりあ)
坂本拓郎と同期の女性社員で営業部に所属している。出身は青森。さっぱりとした姉御肌に見えるが、好きな相手には甘えたがるなど、意外と可愛らしい一面もある。男運が悪く、同期の青山と付き合っていたが入社2年目の小山田に寝取られ、ヤケ酒を飲んで拓郎の背中で号泣した。本来、拓郎は生理的にダメなタイプだったが、放っておくことができずに何かと気にかけることになる。
越後 大作 (えちご だいさく)
坂本拓郎の学生時代からの友人。30歳無職の真性童貞で、似た境遇の拓郎に仮想世界でプレイするギャルゲーのことを教えた。以前はパン工場に勤めていたが、ボヤ騒ぎが起きた際に濡れ衣を着せられてクビになり、現在は貯金とパン工場でもらった乾パンで食いつないでいる。現実世界では拓郎以上のダメ男だが、仮想世界「アンリアル」では長身の超絶美形で「ラインハルト・ウォルフガング・シュナウファー」を名乗り、5人の女性キャラクターから愛されるモテモテ生活を送っている。
辻本 (つじもと)
坂本拓郎と同じ印刷工場に勤務する定年間近のベテラン社員。いつも笑顔で人当りが良く、拓郎や矢島にも温かく接している。毎日残業をこなし、土日も出勤するなど仕事は真面目で、追い刷りのマル秘テクニックなるものを持っている。
矢島 (やじま)
坂本拓郎の後輩社員。辻本らと同じく工場に勤務している。眠そうな目をしているタラコ唇の小男で、拓郎と同じく仕事への情熱はまったくない。一応、後輩として拓郎に接しているが内心ではバカにしていて、頭にきた時は拓郎のことを罵ったり蹴りを飛ばしたりする。
青山 (あおやま)
坂本拓郎の同期の1人。営業部に所属していて、何でもテキパキこなす仕事のできるタイプ。長尾まりあと付き合っていたが、入社2年目の小山田とも関係を持っており、2人でラブホテルから出てくるところを長尾と拓郎に目撃された。
小山田 (おやまだ)
経理をしている入社2年目の女子社員。青山と関係を持っている。人当たりの良いタイプに見えるが、トイレで居合わせた長尾まりあに青山からもらったという口紅をこれみよがしに見せつけるなど、かなりふてぶてしい性格。
神崎 陽一郎 (かんざき よういちろう)
仮想世界「アンリアル」の売春街で用心棒をしている、月子が心惹かれることになる青年。腕っぷしが強く、売春宿にいるAIの娼婦たちから「陽ちゃん」と呼ばれて慕われている。その正体は「アンリアル」にいるすべてのAIの生みの親である天才開発者で、現実世界ではすでに死亡している。
ドクター
仮想世界「アンリアル」でNPCたちの治療を請け負っているスゴ腕のハッカー。実は「アンリアル」のオンラインシステムを作り上げた開発者の1人で、かつて神崎陽一郎と共にムーンの開発に携わっていた。決して二枚目ではないにも関わらず、「アンリアル」でも現実世界と同じ容姿を使用している。
江原 (えはら)
巨大ギルド「第9帝国」の総帥。野性味のある風貌をしていて、団員たち全員に自分と同じ姿をさせている。オリジナルのムーンである月子の存在を知り、仮想世界「アンリアル」から現実世界を支配することを目標に掲げて団員たちを動かすが、実は隠された真の目的がある。
カレン
越後大作が最初に手に入れた黒髪ロングヘアーのAIキャラクターで、仮想世界における越後の童貞喪失の相手。RPGのパートナーとして開発されたため従順で感情の起伏が少ない。かなり初期に発売されたシリーズであることから市場ではプレミアが付いている。
マチルダ
越後大作が2番目に購入したツインテールのロリ系キャラクター。妹専用キャラとしてリリースされたもので、越後のことを「お兄ちゃま」と呼ぶ。夢はお兄ちゃまのお嫁さんだが、越後が幼い頃に妹を交通事故で亡くしているためか、まだ処女のままである。
マキ
越後大作が所有する最新のAIキャラクター。感情が豊かで、ふてくされたり生意気な態度を取ったりするが、決して越後のことを嫌っているわけではなく、ちゃんと好意を持っている。月子に対しても最初はぶっきらぼうだったが、実は彼女のことを気に入っていて何かと世話を焼く。
みやび
仮想世界「アンリアル」の売春宿「たぬき屋」で働いている和服姿のAIキャラクターで、娼婦たちのリーダー的存在。ほかの娼婦たちと同じく神崎陽一郎にベタ惚れしている。少し口は悪いがしっかり者で、神崎が保護した月子の面倒をよく見ていた。
ノア
神崎陽一郎が最初に作り出したAI。誕生時にはネズミ程度の知能しか持っていなかったが、ネットからあらゆる情報を収集する機能を与えられたことにより驚異的なスピードで成長。ついには人間の知能を超え、神を自称するようになったため神崎の手によって封印された。
ムーン
成長前のノアのコピーをもとに神崎陽一郎が生み出したAI。ネットには接続せず、人間の子供と同じように開発者とのコミュニケーションによって育てられたが、開発資金が底をついたためノアと共に日本の最大手のゲーム会社「オアシス」に買い取られた。仮想世界「アンリアル」の上位NPCは、すべてこのムーンの簡易タイプ。
集団・組織
第9帝国 (だいきゅうていこく)
仮想世界「アンリアル」内に存在する、江原が総帥を務めるギルド。アクションゲームのプレイヤーが中心のギルドで、メンバーはすべて江原と同じ容姿を使用している。他のギルドから武闘派として恐れられているが、メンバーの大部分は非モテ、ぼっち、無職、ひきこもりなどである。
場所
アンリアル
美少女ゲームのほか、RPG、アクション、シミュレーションなど、あらゆるジャンルのゲームが同じ空間に共存している巨大な仮想世界。シングルプレイとマルチプレイのどちらにも対応していて、ファンタジー世界に似た「ファンタジア」や現実世界に近い「ノスタルジア」などの地域がある。アンリアルに入るには高性能パソコンのほか、ヘッドギアや感圧グローブなどの機材が必要で、AIキャラクターと性行為を行う時は、全身で肉体的接触を感知できるボディスーツや股間にはめるチンコケースなどもあわせて使用する。
その他キーワード
モブ
月子がいつも大事に持ち歩いているブサイクなマスコット。ノアを育成する際に使用されたウィルス「MOB(モブ)」と呼び名が同じで、時々表情が変わったり手足をバタつかせたりすることから、ただの人形ではないと思われる。
上位NPC (じょういえぬぴーしー)
仮想世界「アンリアル」に存在している、ムーンを元に生み出されたAIキャラクターの総称。ムーンと同じく人間並の感情を持っているが、危険と思われるいくつかのプログラムが削除されており、プレイヤーがケガをするほどの刺激を与えたり、「仮想世界」「NPC」といったシステムに関わる言葉を聞いたりすることはできない。また、肉体は何度でも甦らせることができるが、記憶や思い出はリセットされるとすべて失われてしまう。