預言者ピッピ

預言者ピッピ

地震予知のために開発されたヒューマノイド型コンピュータピッピは、開発者である瀬川の息子タミオと兄弟のようにして育った。そのタミオの死を目の前で目撃したピッピは「この世の全ての災いをなくす」ために恐るべき預言を始めた。

正式名称
預言者ピッピ
ふりがな
よげんしゃぴっぴ
作者
ジャンル
その他SF・ファンタジー
レーベル
イースト・プレス
巻数
既刊2巻
関連商品
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概要・あらすじ

ヒューマノイド型コンピュータピッピは地震予知のために開発された。だがある日、兄弟のように育ったタミオを目の前で交通事故によって失ってしまう。これを入力データのミスとして修復、この世の全ての災いをなくすためにピッピは活動を始める。まず、地震予知に限定してデータ入力をしていた条件を研究所の人間たちに破棄させ、医学の知識を持って不治の病を完治させる。

さらには人類滅亡を引き起こす地球規模の天変地異と、それを回避するプロセスを提示したことによって、やがて世界は混乱を来す。

登場人物・キャラクター

ピッピ

『預言者ピッピ』の主人公で地震予知研究所で作られたヒューマノイド型コンピュータ。開発者の一人である瀬川の息子タミオと共に兄弟のように育つ。優れた計算予知能力でメキシコ湾岸沖で発生したマグニチュード7.2の大地震を予知し、死傷者ゼロと言う実績を作ったほどのピッピだが、タミオの「空を飛びたい」と言うような「願い」は理解できなかった。 だが、タミオが交通事故であっけなく死亡してしまうと、それを入力ミスと捉え、長大な演算修正の為に眠りに就く。それは、彼なりに「願い」を叶えるためのプロセスだった。結果、バーチャルリアリティのタミオをコンピュータの中に作り出し、それとの対話を通じて「何故」と問い、入力制限されていた情報を貪欲に欲しがり、全世界の過去現在あらゆるデータを取り込む事に成功した。 やがてそれは地球規模の天変地異を予測し、人類滅亡のシナリオを描き出した。それを回避するプロセスはまさにピッピの願い、「この世の全ての災いをなくす」事に他ならないのだが、余りに常軌を逸するその方法は人間たちに理解されず、混乱と狂気を招く。 外見は年端も行かない少年だが、眉間に生えたカタツムリ様の物体や、コンピュータに繋がるケーブルを頭部に幾本も差した姿は人間離れしている。

タミオ

地震予知研究所で開発に携わる瀬川の一人息子。ピッピが作られた少し後に生まれて、2人は兄弟のように育った。預言ごっこはすぐに飽きて、想像力の翼を広げる事に夢中になった。彼の自由奔放な性格はコンピュータに過ぎないピッピをして愛着と言うものを芽生えさせた。交通事故で死ぬより以前に、タミオは、世界でまだ数例しか認められていない「ギグス症候群」という原因も治療法も未だ不明の難病に侵され、余命1年の宣告を受けていた。 ピッピの言う通り、ハンチントン舞踏病のような遺伝性の病気で、タミオの母親にも発病する。それを治癒するために、ピッピとピッピの中に作り出されたタミオは、入力制限の解除を瀬川や研究所の人間たちに求める。 「可能な事はいずれしてしまう」、ピッピにならギグス症候群の原因も治療法も見つけられる、そう言って。データから作り出されたタミオはピッピに瓜二つの言動を取る。だが、それがヒューマノイドの実体を持つようになってからは変化する。ピッピにはわからない不確定要素を取り込むことができるようになる。

真田 タカオ (さなだ たかお)

毎朝新聞社の記者で、ピッピの能力と言うより存在そのものに懐疑的。地震予知研究所の職員に、ピッピは万能ではないのか、絶対に正しい事なんて本当にあるのか、などとけしかける。そんな真田にピッピは「あなたは今日から99日後、自殺します。それがあなたの役目だから」と告げる。 ギグス症候群の治療法を発見し、ほぼ1年後のロサンジェルス大地震も的中させたピッピのその預言を、世界中の人々が信じ切った。当人である真田本人だけがそれを鼻で笑い飛ばし、自らカウントダウンを刻む檻に籠って、その瞬間自分が自殺などしないと言う事を大々的に証明しようとした。そんな彼の元にやって来たチンパンジーのエリザベスと共に、真田は、ピッピも予測不可能なものを目撃する事となる。

瀬川 (せがわ)

地震予知研究所でピッピを開発した研究者の一人でリーダー的存在。息子のタミオと共にピッピを育て、コンピュータに対する価値以上のものをピッピに感じていた。タミオが余命1年の運命だと言う弱音を吐いて見せたり、「もしピッピが医者と反対の預言をしてくれたなら息子は生き続けられるんじゃないか」というありもしない願望を告白したりする。 だが、タミオの死後のピッピの変化の異常性に真っ先に気付いたのも瀬川博士だった。タミオが死んだ事を認めずコンピュータの中に仮想現実として作り出し、データに過ぎないタミオの「何故?」に答える事によって、入力制限を解除するよう働きかける。 開発当初、ピッピの能力は地震予知にだけ使うと誓っていた瀬川博士は、ピッピが語る運命に従うしかない事に言いようのない不安を感じていた。人類を破滅に誘うとんでもない悪魔を生み出してしまったと。

エリザベス

『預言者ピッピ』の登場人物(?)。密猟者に捕まったジャングルに住むチンパンジーの一頭。船で運ばれる途中、サルたちが伝染病で次々と死んで行く中、密猟者は彼らを皆殺しにして全てなかった事にしようとした。そうやって仲間たちが殺されて行くのを見ていた子供のチンパンジーが突如、人間の言葉で「オネガイタスケテ」と叫んだ。 それが後にエリザベスと名付けられ、生物学研究所で研究対象となったチンパンジーの子供だった。言葉は流暢で頭の回転も早く、論理的な思考回路を持つが、人間に何故と問い掛けられてもわからない。問い掛ける事を必要としていない。また、嘘がつけず、いい訳も見ないフリも出来ず、人間の嘘を見抜く能力がある。音楽がとにかく好きで、歌も上手い。 死の間際のホームレスを研究所に連れて来て、最後を看取る時にも歌を歌った。檻に入った真田の元へやって来て、最後の瞬間に付き添うことになる。

大橋 (おおはし)

地震予知研究所の上層部、委員会の委員長。ピッピの地震予知の精確さによる世間の評判を気にする俗物で、科学者たちの受け売りをマスコミの前で披露して悦に入る。ピッピの情報入力の解除にピッピの予言をあてにするなど、本末転倒な行動を瀬川に批判されてもそれは名案だと切って捨てるような小物だと言っていい。 だが、記者の真田がピッピの予言通り自殺をしてしまうとようやく事の重大さに気付いたか、責任の所在を声高に問い大橋の辞任を要求する他の委員を一喝し黙らせる。大橋自身、ピッピの予言と真田の自殺について理性的に分析する態度を見せた。組織のトップとして、最低限のモラルを果たそうと勤める姿に、委員会も研究者たちも真田の死の真相究明に乗り出すこととなる。

ジェーン

アメリカの類人猿研究の世界的第一人者であり、チンパンジーエリザベスの担当者。エリザベスが人間の言葉を喋るその謎を解き明かすべく研究するつもりでいたが、死にかけたホームレスを生物化学研究所に迎え入れ、その死を看取るエリザベスを見ているうちに同情の念が起こる。死に行く人を抱き締める事に意味なんかない、けれども彼女はそれを当たり前と言った、その事がジェーンの心を動かした。 そうして、エリザベスはジェーンにとって「好きだから放っておけない家族」となった。金髪をポニーテールにしてショートパンツを履いた、スポーティーな女性。研究者故か化粧気も余りないが、エリザベスの姿を見て素直に心動かされた率直さが好感を持たせる。

所長

生物学研究所の所長。言葉を喋るチンパンジーエリザベスの研究に血道を上げる。研究者として当然の態度とも取れるが、エリザベスがホームレスに善行を施す事に忌々しさを感じる所は人間性を疑う。ピッピの予言を盲信する人間の一人で、それによってエリザベスの存在が未来に繋がらない兆しだと知ると、エリザベス本人に「お前はポストヒューマンなどではなくただのおしゃべり猿だ」と告げて溜飲を下げようとする。 それは、エリザベスにとって唾棄すべき行為だった。

瀬川 ミサコ (せがわ みさこ)

瀬川博士の妻で、タミオの母親。タミオを交通事故で亡くした事に相当ショックを受け、その死を受け入れられないでいた。その死を受け入れ忘れようとしている瀬川とすれ違う。コンピュータの中にピッピが作り出したタミオのバーチャルリアリティを真っ先に信じる様はまるきり病的である。 タミオが罹っていたギグス症候群を彼女も煩っており、それを救いたいタミオの感情がピッピの入力制限の解除を促す結果となった。なぜ目の前の救えるものを救わないのか?その「なぜ」と言う問いがピッピを次の段階に進ませる。弱く脆く、平凡な女性。

萌子 (もえこ)

新聞記者真田タカオの婚約者。真田の子供を妊娠していたが、ピッピによる予言と、その後の真田の自殺までの悪趣味なパフォーマンスによって堕胎を決意する。彼女もまたピッピの予言を盲信して、真田は間もなく死に幸福な未来などない、と思い込んでしまった。最初の頃はカウントダウンの時間を刻む檻に入った真田に弁当を届けたりしていたが、周囲の目と噂と無言の圧迫が、彼女から考える力を奪った。 黒髪の美女。濃いサングラスで人目を避けようとするが、世間の注目を一身に集める真田のそばに現れた事でそれは無意味となった。

(さかき)

地震予知研究所の研究者の1人でヒューマノイド型コンピュータとして体を得たタミオの理解者。ピッピの中に存在するタミオを、もう1つの計算予知能力を有したバイオコンピュータとして相対させ、計算のやり直しをする目的。その再演算の担当者でもある。ピッピの思考ベースはより確実なデータの絶え間ない取捨選択から成り立っているが、タミオの場合はまだ確実でないデータをも含めて選択肢にしている。 ピッピには見えないものを見るために、人の“ヒラメキ”に似た精神構造を持たせた。不可能に挑もうとしているタミオに榊は優しいエールを送る。まだ若い研究者で、眼鏡をかけた冴えない青年と言った外見。

集団・組織

地震予知研究所 (じしんよちけんきゅうじょ)

地震大国日本に設立された地震予知を行なう機関。メキシコ湾岸沖でマグニチュード7.2の大地震が起こったとき、3ヶ月前に警戒警報を行なった結果、死傷者ゼロの最小限度の被害で済んだ実績などがある。ピッピが開発され、瀬川の息子のタミオがピッピと共に遊びながら育った場所でもある。 前途洋々だったが、タミオの死と、それに影響されたピッピの機能停止によって、ハワイのキラウェア火山の噴火を予知出来ず、地震予知研究所の評判を地に落とした。それはまた、ピッピの情報入力の解除を促す原因の1つでもあった。情報入力の解除に伴い、今度は不治の病と言われるギグス症候群の原因究明、更にほぼ1年後のロサンジェルス大地震の予知を行い、これを見事的中させた。 人々はピッピに対して盲信とも言える信仰心を抱くほどになった。

生物学研究所 (せいぶつがくけんきゅうじょ)

人間の言葉を話すチンパンジーエリザベスを抱えるアメリカの科学機関。エリザベスがマスコミや民衆に大々的に騒がれるきっかけとなった発表を公然と行なっている。その後、街中で見つけた死にかけたホームレスを病院に拒否されたエリザベスが、自ら生物学研究所に預かり、その死を看取る場となる。

場所

ザ・檻 (ざ・おり)

ピッピにより「99日後にあなたは自殺する」と告げられた新聞記者の真田タカオが、テレビ局に作らせた文字通りの檻。予言された命日へのカウントダウンが掲示されるもと、衆人環視の前で真田は平然と暮らす。真田は自分が死なない事に絶対の自信を持っていて、その上で世論を挑発している。ピッピの予言の信頼性が失われるその時の印象を、世界中により強く与えるためのものだ。 そこへ、人間の言葉を喋るチンパンジーエリザベスがやって来て「タカオを守る」と告げる。最期の瞬間に一緒に臨むために。

イベント・出来事

ゲルダ

『預言者ピッピ』に登場する謎の現象。この現象により、世界中の火山帯の噴火が誘発。大規模な水中火山の噴火により、海中に大量の二酸化炭素が排出され一気に水量が増す。それは南極の氷解の比ではなく、地球上の全てを呑み込み流し尽くす大津波「大海嘯」を起こす引き金である。この世界に存在しない、証明不可能な現象。 それは、人類が進化を迫られている事でもある。進化か絶滅か。絶滅を避ける為には生命を身体の外に出す事だ、とピッピは告げる。真田タカオはそのための被験者であり、それによってピッピには最終的な命の定義が出来る。生命の実存を解明して数値化し、身体から抽出する。コンピュータと魂の融合、とも言うべきものだ。

書誌情報

預言者ピッピ 2巻 イースト・プレス

第1巻

(2007-04-26発行、 978-4872577686)

第2巻

(2011-10-19発行、 978-4781606736)

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