容疑者と刑事が共に犯人を追う
本作は、ロンドンで発生した殺人事件の真相究明をテーマにしたクライム・サスペンス。主人公のレニー・エリスとアル・アドリーは、刑事と容疑者という関係ながら、最初から互いに信じ合うことを得策と考えるほどにウマが合い、やがて真犯人を見つけるために協力して捜査を開始する。またレニーは黒人系で、アルはアジア系であることから、何かと捜査が不利に働く場面もある。人種や男女の差別など、現代社会が抱えるさまざまな問題が描かれている点も大きな特徴となっている。
ロンドンを震撼(しんかん)させた殺人事件
物語開始直後、地下鉄の列車でロンドン市長のキングが、何者かに刺殺されるという事件が発生する。目撃者は誰もおらず、有力な手掛かりがまったくないまま2日が経過する。事件のあらましをニュースで得ていたアル・アドリーは、殺害されたキングと同じ列車に乗り合わせていたことを知るも、偶然に過ぎないと考えていた。だが、自宅の部屋で上着のポケットに血の付いた刃物を発見し、何者かが自分を陥れようとしている可能性を疑い、訪ねてきた刑事のレニー・エリスに状況を説明する。本作は、真犯人の正体や犯人がアルに罪を着せようとした理由などが、事件を紐解くための重要な要素として機能している。
アル・アドリーとキングの因縁
学生のアル・アドリーは、事件を追う中で自らがキングの息子であることを知る。育ての親を慕っているアルは、その事実を知っても大きく心を乱すことはなかったが、刑事のレニー・エリスは、この親子関係こそがアルが罪を着せられた原因の一つだと推測する。そして、アルに家族のつながりを調べるように指示を出し、自らもキングの正妻であるエマ・キングに対して事情聴取を行う。やがてエリスの目論みは功を奏し、二人は事件の真相にたどり着くことになる。
登場人物・キャラクター
レニー・エリス
ロンドン市警に勤務する黒人系の男性。階級は警部。ある事故でケガを負いながらも、人手不足との理由から現場に駆り出されている。正義感が強い一方で私生活はずぼらで、職務に追われていることもあって自宅はつねに散らかっている。ロンドン市長のキングが殺害された事件を追う中で、アル・アドリーから事情を聴取するが、その際に彼が何者かから罪を着せられているらしいことを知る。そして彼とのつながりを伏せたうえで、協力して新犯人を捕まえようと提案する。自らの直感と、偏見を持たずにあらゆる角度から情報を精査することを信条としている。この姿勢に、同僚のユキ・ハワードからは好感を抱かれているが、同じく同僚のダニエルからは嫌われており、レニー・エリス自身もそのことを自覚している。かつて容疑者の自供に聞く耳を持たず、拘留中に自殺させてしまった過去を持つため、アルの主張を素直に信じ、さらに秘密裏に手を結ぶこととなる。
アル・アドリー
南アジア系の男子大学生。義理の父親が双極性障害と診断され、彼を理解するために心理学を専攻している。頭脳明晰(めいせき)で、親友でルームメイトでもあるカラムに勉強を教えたり、単位取得のための手助けをしている。レニー・エリスのずぼらな私生活を揶揄(やゆ)するなど辛辣な態度を取ることもあるが、本質的には生真面目な性格をしている。ある日、同じ電車に乗っていたロンドン市長のキングが何者かに殺害され、さらにキング殺害に使用した凶器とおぼしき血の付いたナイフを上着のポケットに入れられてしまう。そんな中、事情聴取のため家に訪れたエリスに、素直にそのことを打ち明けると、このままでは容疑者として扱われると告げられ、それを回避するために二人で真犯人を探す提案を受け入れる。そして、警察からの追及を避けるため、エリスの家に身を隠すことを余儀なくされる。のちにキングの実の息子であることが判明し、エリスからはこれが原因でアル・アドリーは真犯人に罪を着せられたのではないかと推測されている。
書誌情報
ロスト・ラッド・ロンドン 全3巻 KADOKAWA〈ビームコミックス〉
第1巻
(2021-01-12発行、 978-4047364844)
第2巻
(2021-01-12発行、 978-4047364851)
第3巻
(2021-06-11発行、 978-4047366886)