天使たちの進化論

天使たちの進化論

『メタルと花嫁』から続く、清水玲子の「ジャック&エレナ」シリーズの一編。「繁殖」をテーマに、人型ロボットの苦悩を描いたSFファンタジー。1990年「ララAUTUMN CLUB」に掲載された。

正式名称
天使たちの進化論
ふりがな
てんしたちのしんかろん
作者
ジャンル
アンドロイド・人造人間
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概要・あらすじ

24世紀のニューヨーク。人型ロボットであるエレナ・クリモヴァジャック・ナイジェルは、探偵事務所を営んでいた。性別を持たない自分自身に、強いコンプレックスを抱いていたエレナは、あるとき、ずっと変わらずにいると信じていた友人のルイス・メーヴェに加え、オランウータンのアイコまでもが、妊娠していることを知る。

エレナはそんな周囲の慌ただしい変化に戸惑い、苛立ちを隠せずにいた。そんななか、ジャックとエレナは、幻の植物「媚薬のラン」を採取する仕事を依頼される。だが、そのランが生息する惑星タランダへ行くには、特別な資格を持つ者の同行が必要であった。ルイスがその資格を持っていることを知った2人は、彼女に協力を要請。

妊娠中だったルイスとアイコの出産を待ち、彼女たちの子供と共に、惑星タランダに赴くことになる。

登場人物・キャラクター

エレナ・クリモヴァ (えれなくりもゔぁ)

超高性能人型ロボット。美しい容姿と抜きんでた知力、体力を持ち、透視能力などのさまざまな能力を備えている。ジャック・ナイジェルと生活を共にしており、2人で「J・N探偵事務所」を営んでいる。動物の言葉を操ることが可能で、オランウータンのアイコや、自宅にたくさんいる猫は、すべて彼が拾ってきた。一方で、人間に対しては冷酷な一面を持つドライな性格で、キツイ言葉も平気で口にする。 病気や死とも無縁だが、性別がなく、子供を作ることもできない。子孫を増やす能力のない機械であることに、強いコンプレックスを抱いている。そのため、毎年さまざまな生物の発情・出産のシーズンになると、鬱状態になる。これらが理由で、女性と子供に苦手意識を持っている。仕事も生活も共にしているジャックを、とても大切に思っている。 ルイス・メーヴェに対しては、人間ながらジャックを愛することに一定の敬意を抱いているものの、犬猿の仲。

ジャック・ナイジェル (じゃっくないじぇる)

男性人型ロボット。「天竜」という人間の男性をモデルに造られた。エレナ・クリモヴァと生活を共にしており、2人で「J・N探偵事務所」を営んでいる。長身で、サングラスがトレードマーク。ロボットらしからぬ人間臭さが特徴で、怒ったり涙したり傷ついたり、すぐうろたえたりする。寡黙で照れ屋なお人好し。古いタイプのロボットのため、部品が手に入りにくく、修理が非常にしにくい状態にある。 そのため、うっかり怪我をすると、なかなか元の生活に戻れない。

ルイス・メーヴェ (るいすめーゔぇ)

「E・L・G(環境庁自然保護局)」の資格を保有している人間の女性。以前はジャック・ナイジェルの恋人だった。その後、友達となり、現在も付き合いは続いている。ジャックとの子供を熱望。ジャックのモデルとなった「天竜」という人物の子孫に承諾を得て、冷凍保存されていた彼の精子を用い、人工授精で、ジャックによく似た男児ジャック・ニーナ・メーヴェを出産する。 マイペースな性格だが、歯に衣着せぬ物言いのエレナ・クリモヴァにひるまず、対等にやり合える人物。

アイコ

雌のオランウータン。エレナ・クリモヴァが拾ってきた。エレナとジャック・ナイジェルと、たくさんの猫と共に生活している。現在妊娠中で、のちに雌の赤ちゃんを出産。育児には意外と無頓着で、子供が自分の手の内から転がり落ちても気にしない。

アレクセイ ムサートフ

ルイス・メーヴェの大学時代からの友人。ランの原種の収集家のハンサムな青年。ランやチューリップの生態に詳しく、植物の生態に関する話になると、情熱的に語る。

S・Y・カナエ

アデレード星で保護された8歳の少女。男勝りで、IQ300の天才。特に記憶力に優れており、使用中の銃の残弾数も明確に記憶しているほど。エレナ・クリモヴァがヘルパーとなって生活をしていた。のちに心臓がとても弱い虚弱体質であることが判明し、強制的に医療施設「クパントセンター」に入所させられる。15歳まで生きればよい方、と診断されたが、その後10歳にならないうちに死亡した。

ジェームス・フィデリオ (じぇーむすふぃでりお)

研究所のエクスプローラー部門に在籍する24歳の美少年。IQ300の天才。さらにトライアスロンの選手権にも出場した、という文武両道のスーパーマン。アデレード星の医療施設「クパントセンター」の出身。5歳の頃に、兄であるジェローム・フィデリオと共に保護されたが、その後兄は死亡した。知らないはずのエレナ・クリモヴァの記憶を持っていたり、無意識で自殺を図ったことが何度もあったりと、不審な点が多い。

R・D・アマンダ

業界一の美人で、業界一扱いづらいと評判のトップモデル。自身の体に保険をかけている、気位が高い女性。朝食にはサプリメントを摂取し、太極拳やヨガ、バレエなど、常に美を意識した生活を心がけている。半月くらい前から命を狙われていることを自覚。身の危険を感じてジャック・ナイジェルにボディガードを依頼した。エレナ・クリモヴァがロボットであることを知らず、彼の美しさに嫉妬し、敵意をむき出しにする。 ジョージ・ベイリーと婚約しており、彼の美しさと優しさに惚れ込んでいる。

ニコル・ノアール (にこるのあーる)

駆け出しの新人女性ファッションモデル。業界人が選んだNo.1モデルに選出された。頭は良い方ではないが、可愛らしさに定評があり、高い人気を誇っている。年上のR・D・アマンダからは毛嫌いされており、命を狙っているのではないか、と疑われている。

ジョージ・ベイリー (じょーじべいりー)

R・D・アマンダの婚約者。オールバックでスーツを着こなす美青年。アマンダがまだ駆け出しのファッションモデルだった頃からの付き合いで、いつも優しくアマンダを気遣っている。

キャロル

R・D・アマンダの自宅に出入りしているメイドの女性。アマンダの家に届いた花束を譲り受け、自宅に持ち帰った後に昏睡状態となって発見される。原因は、花の棘に大量に塗られていた「ガロン」という猛毒だった。

場所

惑星タランダ (わくせいたらんだ)

未開の星。いたるところに巨大な毒虫や肉食獣が存在し、外気温は50度で霧に包まれ、霧の中にいると中枢神経がおかしくなる。人間なら宇宙服なしではいられない環境。星の資源や生物を持ち出したり、危険な生物を移したりして、むやみにこの星の環境を壊さないようにするため、惑星タランダに入るには、「E・L・G(環境庁自然保護局)」の資格を持った者の同行が、義務付けられている。 これを破った宇宙船は、罰金のうえ、船の没収もされるといわれている。

アデレード星 (あでれーどせい)

危険性が極めて高い未開の星。この星に生まれた子供のうち、無事に成人できるのは10人に1人と言われている。両親のいない子供となると確率はさらに低く、99%が1年以内に死亡するとされている。そのため、4歳から16歳までの孤児を対象に、彼らが成人するまでの間援助をする、「ヘルパー」と呼ばれる大人が派遣されるようになった。S・Y・カナエやジェームス・フィデリオが入所していた医療施設「クパントセンター」を擁する。

その他キーワード

媚薬のラン (びやくのらん)

幻の花。麻酔や幻覚を引き起こす作用のある成分を出す。惑星タランダに原種のまま生息しているらしい、ということしか分かっていない。未だ地球に持って帰った者がいないため、正式な記録はない。そのため、花の姿すら知る者はいない。

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