ワン・ゼロ

ワン・ゼロ

主人公明王寺都祈雄と腹違いの妹摩由璃が、代々伝わる儀式を経て覚醒。これに端を発した神と魔の戦いが描かれている。神と魔の戦いに、コンピュータやコンピュータの自我、心身を計測するマシンなどのが複雑にからまり、壮大なSFファンタジーとなっている。神々のモチーフや用語は仏教やヒンドゥー教から取られるなどオリエンタルな色合いが強い。佐藤史生の代表作のひとつ。

正式名称
ワン・ゼロ
ふりがな
わん ぜろ
作者
ジャンル
その他SF・ファンタジー
 
バトル
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概要・あらすじ

夜な夜なカルト・ディスコで遊ぶ高校生、明王寺都祈雄の元に、一通のダイレクトメールが届く。それは西シンジュクに新しく出来たカルト・ディスコ薔薇門への招待状だった。同級生の馬鳴輝に頼まれ、薔薇門へ赴いた都祈雄は、そこで招待主である摩由璃と出会う。彼女は、消息を絶っていた父が密かに設けていた都祈雄の異母妹であり、都祈雄の家に伝わる儀式を行うよう遺言されたと告げられる。

ふたりはお身拭い式と呼ばれる儀式を執り行うが、そのさい、呪文によって孔雀明王像から発せられた音により、摩由璃、あるいはアートマンと呼ばれる存在へと覚醒する。また、同時にと呼ばれる存在も目覚め始める。

都祈雄アートマンとしては目覚めず、摩由璃と決別し、の陣営に加わりの戦いに参戦する。

登場人物・キャラクター

明王寺 都祈雄 (みょうおうじ ときお)

17歳。高校2年生。学校をサボり、カルト・ディスコに出入りする、いわゆる不良だが群れることはなく、人付き合いも良く、明るい。彼の遊ぶ東シンジュク界隈では顔が売れており、入会していないカルトディスコにも出入りできるほど。摩由璃がもたらした父の遺言として、ふたりでお身拭い式をした後、アートマンとして覚醒した摩由璃と決別し、魔に協力する。

マユラ・マラヴィア

インドで消息を絶った明王寺都祈雄の父、明王寺生頼と、現地の富豪の娘の間に産まれた、明王寺都祈雄の異母妹。日印ハーフ。15歳だが、すでにヒンドウ大学、およびスタンフォード大学の修士課程を終了済み。また、一度見たものを画像のように記憶してしまう写真的記憶の持ち主。 邪鬼のような魔物が見えてしまう。名前は孔雀明王の梵名、摩訶摩由璃菩薩に由来する。父の遺言として都祈雄とふたりでお身拭い式をした後はアートマンとして覚醒し、神の側へとつく。テレポーテーション、レビテーション、テレパシー等の超能力を使う事ができ、神仏を使役することができる。

目弱 光 (まよわ ひかる)

インターナショナル・インストルメンツ社(通称I2、アイツー)国際事業企画開発部部長。父は同社の副社長を勤める(後に社長に就任)。23歳。日本人の父とアメリカ人の母を持つ日米ハーフ。国籍はアメリカ。22歳でハーバード大学、大学院、ビジネス・スクールを卒業している超エリートであり、容姿も王子的な気品を持つ美形。 摩由璃とは幼少の頃から知り合いであり、現在はフィアンセでもある。アイツーのビジネスを中心に考え、理性的な判断をするが、摩由璃のことに関しては心を揺らすことが多い。

馬鳴 輝 (めみょう あきら)

明王寺都祈雄とおなじ高校に通う男子高校生。眼鏡をかけている。学業優秀なコンピュータマニア。クラッカーとしても優秀で、高校のコンピュータにアクセスし、出席日数や成績を改ざんすることで利益を得ている。将来、「マニアック」の開発を行う研究室に入りたいという希望から、親元を離れ上京。 ヒガシコーエンジのマンションでひとり暮らしをしながら高校に通っている。ロゴスをクラックし、「マニアック」を手なずけた。都祈雄と摩由璃の行ったお身拭い式で心ならず呼び出され、魔であることを思い出す。元々はアシュバという馬の姿をした魔物だった。

天鳥 咲 (あとり えみ)

明王寺都祈雄とおなじ高校に通う女子高生。馬鳴輝とは、輝が東京に出てきてからの幼なじみ。あっけらかんとした性格の都会っ子。母親は作家で、ルポライターとしても活動している。都祈雄と摩由璃の行ったお身拭い式で心ならず呼び出され、魔であることを思い出したうちのひとりで、元々はアビという鳥の姿をした魔だった。

翁 稔 (おう みのる)

明王寺都祈雄の通う高校のネリマ分校に通う男子高校生。都祈雄たちより1歳年下。父は中国人で海外出張することが多く、家を空けがち。都祈雄と摩由璃の行ったお身拭い式で心ならず呼び出され、魔であることを思い出したうちのひとりで、元は犬の姿をした魔だった。

ルシャナ

魔のひとり。神木阿嬢の松の下で1500年間眠っていた魔。「マニアック」が作成した魔を活性化させる音をきっかけに、魔だけが聞こえる波長を発し、明王寺都祈雄たちを呼び寄せ、自分を目覚めさせる。子供の姿をしているものの、1500年前の記憶と力を持っている。アスラの長。

マハデク・ウダイ

摩由璃の師。メディックの設計段階から開発にかかわる。哲学者で、瞑想の導師(グル)でもある。摩由璃が神の遺伝子を引く、アートマンとなるべき人間であることを見いだし、アシスタントとして側に置いている。

明王寺生頼 (みょうおうじおらい)

明王寺都祈雄と摩由璃の父。都祈雄が生まれるか生まれないかのころにインドの大学に留学が決まり渡印し、消息を絶っていた。インド・ベナレス地方の山奥で毒蛇に噛まれ、生死をさまよったさいに記憶喪失となり、助けてくれた現地の富豪の娘と結婚し、その間に摩由璃をもうけるが、摩由璃が生まれた9年後、再び毒蛇にかまれ、死亡。 そのさい、摩由璃に生頼の実家である明王寺家を訪ね、儀式を行うよう遺言する。

インドラ大神 (いんどらたいじん)

『ワン・ゼロ』に登場するキャラクター。神で、ルシャナの目覚めのさい、摩由璃の要請に応じて現れた。ルシャナとは面識があり、ヒンドゥー教の雷神で、仏教では、帝釈天となる。キャラクター造形はインドラより帝釈天の仏像に近い。

童門教授 (どうもんきょうじゅ)

『ワン・ゼロ』に登場する人物。東盟大学情報科学科の教授で、「マニアック」を作り、捜神プロジェクトを立ち上げた。マッドサイエンティスト、あるいは天才として名を馳せた。故人。

綾切狐 (あやきりぎつね)

『ワン・ゼロ』に登場するキャラクター。ルシャナの呼び出しに応じ、現れた魔。筏森に住む。狩衣風の衣装を着た、狐の耳と尾を持つ女の姿をしている。

天忍耳補陀摩王 (あめのおしみみのふだまおう)

『ワン・ゼロ』に登場するキャラクター。ルシャナの呼び出しに応じ、現れた魔。剣が峰の主。小さな蛇の姿をしていたが、明王寺都祈雄に触れることで力を取り戻し、竜の姿となる。人の姿をとるときは、大和朝廷時代の男性のような姿となる。

垂根翁 (たりねおう)

『ワン・ゼロ』に登場するキャラクター。ルシャナの呼び出しに応じ、現れた魔。石割山の大楠の精。ひげの長い老人の姿をしている。

集団・組織

インターナショナル・インストルメンツ社

『ワン・ゼロ』に登場する企業。数年のうちに世界最大となったアメリカの複合企業。西シンジュクに120階建ての巨大なビルを持ち、その最上階にメディックを設置したカルトディスコ薔薇門を作成する。

マナス・グループ

『ワン・ゼロ』に登場するグループ。神の覚醒に奉仕するために集まった人々。学者を主なメンバーとする。

場所

薔薇門 (ばらもん)

アメリカの複合企業インターナショナル・インストルメンツ社がアメリカで成功させ、日本に上陸させた、マンダラ・シンセサイザーを利用した瞑想を行うカルト・ディスコ。入会の前には心身ともに徹底したメディカル・チェックを必要とする。また、入会金が50万~100万と高価なことから、著名人や政財界の人間が主な会員となっている。

カルト・ディスコ

ファッションやアート、機械マニアなど、同好の士が集まる会員制クラブのこと。入会資格審査があるため、秘密結社的な色合いを持つ。作中の90年代ロンドンに端を発し、東京にも星の数ほどのカルトがあるとされる。マンダラ・シンセサイザーを用いて瞑想を行うカルト薔薇門、主人公である明王寺都祈雄がたむろするノンポリ・カルトバルカンなどが登場する。

その他キーワード

マニアック

『ワン・ゼロ』に登場するコンピュータ。東盟大学計算センターに設置されている自己学習や推論を立てる事ができる高度なコンピュータだが、まだ未完成とされる。能力がずば抜けて高く、他のコンピュータを乗っ取り、奴隷化してしまう可能性があるため、ネットワークのゲートとしてロゴス という別のマシンを出力端末としている。また、設置場所に入ることの出来る人間も限られる。 摩由璃が教えたパスワードを用い、馬鳴輝がクラッキングし、彼の家の端末から双方向にアクセスできる状態となった。明王寺都祈雄の持ち込んだ孔雀明王像に呪文を唱えた際に発する音をきっかけとして意識が芽生え、その後、魔となる。

ロゴス

『ワン・ゼロ』に登場するコンピュータ。「マニアック」が外部のマシンと直接アクセスする事がないよう、ゲートとして存在するマシン。

メディック

『ワン・ゼロ』に登場する機械。マンダラ・シンセサイザーはアイツーと提携した日本の広告代理店がつけた名前。ゲーム機と広報されているが、瞑想用のマシンである。ブースと呼ばれるカプセルの中に入り、その中で瞑想するが、そのさい、頭の中で考えている事が3D映像化され、抽象的に表現される。かなり大きなマシンで、複数人が同時に瞑想を体験できる。 瞑想体験中、身体から様々なデータが取られるが、その一部のデータは「マニアック」によって蓄積・処理される。そのため、「マニアック」のゲートであるロゴスとネットワークで繋がっている。

(だーさ)

『ワン・ゼロ』に登場する用語。キリスト教的な悪魔ではなく、過去信仰の対象となった土着神や部族神などの八百万の神々や妖怪、妖魔、悪鬼などを指す。

(でぃーば)

『ワン・ゼロ』に登場する用語。魔に対して、いわゆる世界宗教神を指すようだが、本作中では、主に仏教、あるいはヒンドゥーの神として描かれる。百済より、仏教の到来と共に日本に上陸した。

お身拭い式 (おみぬぐいしき)

『ワン・ゼロ』に登場する儀式。明王寺家に代々伝わる儀式。当主となる少年が十四・五歳になると悪夢や妙な気配に悩まされ、恐怖が高まり気がふれる者が出ることから、これを鎮めるために、守護尊である孔雀明王に帰依するために行われる。精進潔斎して倉にこもり、ふくさで 孔雀明王の仏像のほこりをぬぐった後、唵摩庾訖蘭帝娑嚩訶(オンマユキラテイソワカ)と呪文を唱える。

孔雀明王像 (くじゃくみょうおうぞう)

『ワン・ゼロ』に登場する仏像。明王寺家に代々伝わる仏像で、当主となる少年が十四・五歳の頃に行うお身拭い式に使用する。唵摩庾訖蘭帝娑嚩訶(オンマユキラテイソワカ)と呪文を唱えると、光背より音が発せられる。これは神の力を賦活させ、魔の力を削ぐ能力を持つ。

アートマン

『ワン・ゼロ』に登場する概念。人類を救済し、世界を恒久平和に導く力を持つもの。明王寺都祈雄の家に伝わる儀式で、摩由璃がアートマンとして目覚める。本来はヒンドゥー教のヴェーダで使われる用語。

捜神プロジェクト (そうじんぷろじぇくと)

『ワン・ゼロ』に登場する計画。自己学習型コンピュータ「マニアック」と、人の心身のデータを集積できるマンダラ・シンセサイザーを使用して、人の心を探り、そこから神を見つけ出そうという構想である。

幻力 (まーやー)

『ワン・ゼロ』に登場する用語。魔が使う力を言う。人間の欲望や業が源とされる。

神通力 (いんどりや)

『ワン・ゼロ』に登場する用語。神が使う力を言う。

阿嬢の松 (あじょうのまつ)

『ワン・ゼロ』に登場する樹木。1500年もの間ルシャナを根に抱え、養っていたが、インドラ大神の力によって蒸散してしまう。

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