あらすじ
Vanitas -ラスティ=ホープスの場合-
人間と吸血鬼たちが共存している、19世紀のフランス。吸血鬼の青年・ノエは、自らの故郷を離れてパリへ向かっていた。ノエの目的は、彼の師であり育ての親でもある先生からの手紙に書かれていた、伝説の魔導書「ヴァニタスの書」を見つけ出すことだった。ノエはパリへ向かう飛空船の中で、吸血鬼の女性・アメリアと知り合う。しかし急に顔色の悪くなったアメリアは、呪持ちの症状を発症して暴走し、周囲の人を襲い始める。アメリアを止めようとするノエの前に、ヴァニタスを名乗る謎の青年が現れる。「吸血鬼の専門医」を名乗るヴァニタスの手元には、ノエが探し求めていた「ヴァニタスの書」があった。ヴァニタスは真名を歪められたアメリアを治療し、ノエの目の前であっという間に事件を解決する。ヴァニタスは、このまま呪持ちが増えて滅びゆく運命にあるすべての吸血鬼を、自らの手で救うと宣言する。「ヴァニタスの書」だけでなくヴァニタスにも強い興味を抱いたノエは、彼と行動を共にすることになり、そのまま二人でパリに渡るのだった。こうしてヴァニタスとノエの、吸血鬼や呪持ちを巡る、不思議で残酷な出来事が待ち受ける長い旅が始まる。しかしそれは、ノエが長い旅路の果てにある人物を殺すまでの、悲しい物語の幕開けでもあった。パリに到着早々、侵入者扱いされて牢屋に入れられたヴァニタスとノエは、街の権力を握る異界領主・オルロック伯爵の力で解放され、彼に直接会いに行くことになる。しかし、先日ヴァニタスが助けたアメリアの処分はオルロック伯爵に委ねられることになり、納得がいかないノエは現在事件を起こしている呪持ちを捕まえる代わりに、アメリアを助けてほしいと申し出る。オルロックのもとを離れ、事件の犯人を捕まえるという目的が一致したヴァニタスとノエは、ダンテたちから情報を手に入れ、犯人と思われるトマ・ベルヌーを発見する。しかしトマを追う最中に、「ヴァニタスの書」を求める吸血鬼の少年・ルカと、彼の騎士であるジャンヌが二人の行く手を阻む。ルカは大切な人を救うために「ヴァニタスの書」を、この世から消す必要があると言うが、持ち主であるヴァニタスは固く拒否。これ以上の会話は無意味と判断したジャンヌは、力づくでヴァニタスから奪い取ろうと戦闘態勢に入る。紅いガントレットをあやつるジャンヌの正体が伝説的な「処刑人」だと気づいたヴァニタスは、一筋縄ではいかない彼女に勝つ対策を練るために一時撤退。ノエに作戦内容を告げたヴァニタスは再びジャンヌたちの前に現れ、その場に残ったノエはしばらく時間稼ぎをすることになる。
Bal masqué -仮面が嗤う夜-
謎多き青年・ヴァニタスと世間知らずの吸血鬼・ノエは、互いに翻弄してぶつかり合いながらも、二人で行動を続けていた。狡猾な手段でジャンヌとの戦いを制したヴァニタスは、ノエと共にパリに滞在していた。ノエは再会したアメリアの記憶の中で、吸血鬼の真名を歪める元凶である謎の集団「シャルラタン」と黒い影・ネーニアを目撃し、強い怒りをあらわにする。ネーニアの手がかりを求める中でノエは、オルロック伯爵の屋敷で幼なじみのドミニクと再会を果たす。異界では吸血鬼だけが参加する仮面舞踏会が開かれ、ドミニクからエスコートを頼まれたノエは異界に渡り、無理やりついて行ったヴァニタスも舞踏会に参加することとなる。吸血鬼たちの陰謀が渦巻く舞踏会で、ドミニクに奥の部屋に連れて来られたヴァニタスは会場の中央に姿を現し、自分が「ヴァニタスの書」の持ち主であることを大声で宣言する。一方、ヴァニタスたちとはぐれてしまったノエは、捜す途中でルカと再会する。しかし仮面を付けた謎の男たちに襲われてしまい、さらには会場に来ていた呪持ちが何人も同時に発症し、周囲はパニックに陥る。一方、ルカを見失ったジャンヌは突然の吸血衝動に襲われ、立ち上がることすらできない状態でさまよっていた。ふらつくジャンヌの前に現れたヴァニタスは、自分の血を吸えばいいと言いながら首元を差し出す。その頃、仮面の男たちと対峙するノエの前に、アメリアの記憶で見たネーニアとシャルラタンが姿を現す。その瞬間に幼なじみのルイとの過去を呼び起こされ、ノエはトラウマから動けなくなってしまう。そのままネーニアに飲み込まれて真名を奪われそうになるものの、間一髪のところでヴァニタスが駆けつける。さらにはジャンヌもルカに合流するが、仮面の男たちとネーニアはその場から逃亡。ヴァニタスはノエやドミニクと共に呪持ちを救うために行動するが、手遅れだった呪持ちは救うことができなかった。人間の匂いを嗅ぎつけたベロニカがヴァニタスを襲ったところでルスヴン卿が現れ、ヴァニタスは今回の騒動の犯人だと誤解を受ける。一方、今回の出来事を受けてヴァニタスの言葉に興味を深めたノエは、あらためて彼と行動を共にすることを決意するのだった。
Catacombes -死が眠る場所-
仮面舞踏会での騒動のあと、ヴァニタスとノエはルカ、ジャンヌ、ドミニクと共に異界のカフェや広場を訪れ、つかの間の休息を楽しんでいた。そしてヴァニタスたちはルカの叔父であるルスヴン卿のもとを訪ね、ネーニアや呪持ちに関する情報を得ようとする。呪持ちが出る原因は吸血鬼たちの女王にあると考えるヴァニタスは、女王への謁見をルスヴン卿に求める。無礼な一言でルスヴン卿の怒りに触れたヴァニタスは、ノエたちといっしょにそのまま異界から追放されるが、オルロック伯爵のもとには新たな事件の情報が舞い込んでいた。ヴァニタスたちは吸血鬼の連続誘拐事件を追うことになり、ダンテから得た手がかりを基に戦闘部隊「狩人」のアジトにつながるノートルダム大聖堂に潜入。狩人に扮したヴァニタスたちは、地下に広がる地下納骨堂の迷宮で隊長を務める青年・ローランと出会う。ノエが吸血鬼だとすぐに気づいたローランに襲われ、ノエは必死の説得を試みて激しい攻撃から逃れる。やっとの思いで事情を聞き入れてもらったヴァニタスたちは、ローランや彼の部下たちと行動することになり、迷宮のさらなる深層へと向かって行く。深層にある研究室では、ヴァニタスの過去を知る科学者・モローが、捕らえた吸血鬼を使って新たな実験を企てていた。そこには発症した呪持ちの吸血鬼が封じられており、連続誘拐事件の被害者でもある呪持ちの吸血鬼「影法師(プレダトゥール)」の姿もあった。ヴァニタスたちはローランと協力し、おぞましい化け物と化した影法師を止めようとするものの、苦戦を強いられてしまう。一時はあきらめて撤退を考えるヴァニタスだったが、ノエの言葉で本来の目的を思い出し、彼の協力を得たことで影法師の真名を取り戻すことに成功する。今回の事件を狩人側の責任と考え、あとのことを引き受けてくれたローランの協力もあって、ヴァニタスとノエは無事に地上へ脱出。そして、ホテルに戻って休んでいたヴァニタスのもとへ、ジャンヌから一通の手紙が届く。ジャンヌはヴァニタスに嫌われて縁を切るための策を練った末に、自分が彼に恋をしているように振る舞おうと必死になっていた。ヴァニタスをデートに誘ったジャンヌは、慣れない服装で慣れない演技を繰り返すものの、結局はふつうにデートを楽しんだり、いつものようにヴァニタスに翻弄されたりするばかりだった。一方、ルスヴン卿と再会したノエは、彼に誘われてパリの老舗カフェを訪れていた。
Forêt d'argent -邂逅-
ジャンヌからの話でルスヴン卿の不穏な動きを察知したヴァニタスは、ノエを心配してホテルに戻る。ノエの無事を確認して安心するヴァニタスだったが、そんな彼らのもとには18世紀に恐れられた「ジェヴォーダンの獣」、通称「ベート」が再び現れたという情報が舞い込む。ダンテから詳しい話を聞いたヴァニタスとノエは、ベートの正体が呪持ちと関係している可能性を睨み、ジェヴォーダン地方へと向かうことになる。ジェヴォーダンに到着したヴァニタスたちは、ダンテ、ヨハンのコンビと合流して情報収集を試みるものの、村人は恐がって誰も話をしたがらない。ようやく近くに住む子供から情報を得た一行は、古くから魔女が住むと噂される「白銀の森」へ赴く。だが、森に入ってすぐにノエが迷子になってしまったうえに、周囲がいきなり雪景色に変わり、山からは狼の遠吠えが響き渡る。ヴァニタスたちは元いた場所とは時空すら異なる謎の空間に迷い込み、隔絶された世界で巨大な狼のような化け物に襲われる。噂どおりの特徴を持つこの化け物こそがベートだと考えたヴァニタスは対抗するものの、圧倒的な攻撃力に苦戦してしまう。一方、ヴァニタスとはぐれたノエは、戦闘部隊「狩人」の少年・アストルフォに遭遇していた。人間相手ですら容赦なく攻撃するアストルフォに疑問と怒りを覚えて戦おうとするノエだったが、相手が子供であることからうまく力を発揮できずにいた。一方、ベートに襲われたヴァニタスは、危機一髪のところをジャンヌに救われる。ジャンヌは処刑人としてベートを処分するために、一人でジェヴォーダンに来ていたのだ。ようやくノエと合流したヴァニタスは、ベートを容赦なく殺そうとするジャンヌの説得をノエに任せ、自らはアストルフォを挑発しておびき出す。しかし乱戦の中、シャルラタンを引き連れたネーニアが現れ、それぞれのトラウマを掘り返すような幻覚を見せ始める。ネーニアの乱入による混乱の中で負傷し、アストルフォの毒を受けて動けなくなったヴァニタスはジャンヌに保護され、傷が癒えるまで彼女と共に山小屋で休むことになる。一方、雪の中で気絶していたノエは見知らぬ城へ運び込まれており、そこに住むクロエ・ダプシェと、彼女につき従う青年・ジャン=ジャックに出会う。
Oiseau et ciel -ダプシェの吸血鬼-
クロエ・ダプシェの城で、ネーニアと再び相対したノエは怒りが込み上げて激昂するものの、食卓を乱した彼に怒りを覚えたクロエによってその場は収められる。ネーニアとつながりを持っているのを見たノエはクロエの身を案じるが、それはクロエ自身が望んだ関係であり、彼女はある願いを叶えるために自らの真名を捧げて呪持ちになっていた。食事を逃したノエは、ジャン=ジャックから料理の残りを振る舞われ、彼からクロエに関する詳細を聞くことになる。クロエはもともと、人間と吸血鬼が戦争を始めるずっと前にダプシェ侯爵家に生まれたふつうの人間で、混沌の影響で吸血鬼と化した少女であった。クロエを人間に戻すため、彼女の父親をはじめとするダプシェ家の者はあらゆる研究を重ね続け、年を取らなくなった彼女はジェヴォーダンから出ることもなく、一族の研究を見守り続けていた。このダプシェ家と隠された吸血鬼であるクロエこそが、「ジェヴォーダンの獣」事件の中心となる存在であった。吸血鬼になったままのクロエを人間に戻すという悲壮な願いはやがて少しずつ形を変え、さまざまな人物の思いや組織の思惑と重なり合っていき、おぞましい獣の産声へと変わっていった。クロエと自らの過去をノエに聞かせたジャン=ジャックはノエを部屋に閉じ込め、自分たちのことを覚えていてほしいという願いから、自らの血をノエに飲ませる。記憶の海に溺れる中でノエはジャン=ジャックが残した言葉から、クロエではなく彼こそがジェヴォーダンの獣の正体であると確信する。一方、クロエはダプシェ家の研究が残した巨大な改竄(かいざん)装置を起動し、復讐を果たそうとする。クロエたちの動きを察知したノエはヴァニタスに救出され、再びアストルフォと対峙する。足止めをノエに任せたヴァニタスはクロエのもとへ駆けつけるが、彼女があやつる自動人形とネーニアに妨害される。ダンテたちの力を借りて「ヴァニタスの書」を捜すヴァニタスはクロエを説得するが、彼女の復讐の標的はジェヴォーダンではなく、ジャン=ジャックを呪持ちにしたネーニアであった。以前からネーニアの正体を予測していたヴァニタスは、ネーニアの存在を固定することを危険視し、クロエを止めようとする。だが、自らの存在を思い出したネーニアによって、ジェヴォーダンの地に新たな悪夢と厄災が生まれ落ちることとなる。
Mal d'amour -不治の病-
「ジェヴォーダンの獣」事件を解決に導いたヴァニタスとノエは、ジェヴォーダンからパリに戻っていたが、ヴァニタスだけは深刻な悩みを抱えたまま魂が抜けたようになっていた。それが恋の悩みだとヴァニタスが気づくのは、カフェで遭遇したローランとオリヴィエに悩みを相談したあとだった。そんな中、吸血鬼の元老院たちのあいだでは、ジャンヌの処分を巡って議論が交わされていた。ジャンヌの主であるルカの主張によって彼女の処分は見送られたが、裏では一部の吸血鬼と人間たちの陰謀の数々が少しずつ動き出していた。一方、調子を崩したままのヴァニタスを励ましたノエのもとには、謎の人物から一通の手紙が届き、彼は血相を変えて呼び出された場所に急行。それは今まで謎に包まれていたヴァニタスの過去へとつながる、悲劇への招待状でもあった。ノエを呼び出したのはヴァニタスのかつての弟分・ミハイルで、もう1冊の「ヴァニタスの書」の持ち主でもある彼はドミニクを人質に取りながら、自らとヴァニタスの過去の一部をノエに見せる。ミハイルの血を通してノエが見たのは、モローに捕まって実験の被害者となっていたヴァニタスとミハイルの凄惨な過去、そして二人を救い出した蒼月の吸血鬼・ルーナとの幸せな日々であった。だが、ミハイルの記憶は途中で途切れており、彼はヴァニタスがなぜ親のように慕っていたルーナを殺したのか知るために、ノエにヴァニタスの過去を探ってもらうことで欠けた記憶を埋めたいと言う。ドミニクを人質に取られているためにミハイルに逆らうわけにいかないノエは、幼い日々の記憶を思い出しながら、大切な彼女だけは助けたいと決意する。そんなノエとミハイルの前にヴァニタスが駆けつけ、ミハイルと再会したヴァニタスは、彼が謎の人物の手を借りてルーナを蘇らせようともくろんでいることを知る。ノエは事情を説明し、ルーナを殺した日に何があったのか話すように求めるものの、ヴァニタスは自分の過去を明かすことを強く拒絶。ドミニクを蔑ろにするヴァニタスの一言に激怒したノエは彼に襲いかかり、二人は我を忘れたかのように、無邪気に笑うミハイルの目の前で死闘を繰り広げる。
メディア化
テレビアニメ
2021年7月から、本作『ヴァニタスの手記』のテレビアニメ版『ヴァニタスの手記』が、TOKYO MX、BS11ほかで放送された。監督は板村智幸、総作画監督は伊藤嘉之が務めている。キャストは、ヴァニタスを花江夏樹が、ノエを石川界人が演じている。
舞台
本作『ヴァニタスの手記』の舞台版『ヴァニタスの手記』が、シアター1010 で公演された。公演期間は2022 年1 月21 日から 30 日を予定していたが、公演関係者に新型コロナウイルス感染者が確認されたことなどから、2022 年1 月21 日から 29 日12時公演までは中止、29日の17時公演は代役を立てての上演、30日の14時公演はイベント形式の公演へとそれぞれ変更になった。脚本・演出は山崎彬が務めている。キャストは、ヴァニタスを植田圭輔が、ノエを菊池修司が演じている。
登場人物・キャラクター
ヴァニタス
本名や経歴などがいっさい不明で、謎の多い青年。年齢は18歳。飛空船でノエと出会い、パリに到着したあとも行動を共にするようになる。切りそろえた黒の長髪を一つにまとめ、砂時計型のピアスを左耳に付けている。胸元や腰に水色のリボンを結び、ハンギングスリーブのコートを羽織っている。目的のためであれば手段を選ばない思考の持ち主で、ノエをはじめとする周囲を巻き込んで翻弄しがち。所持している「ヴァニタスの書」の力を使いこなし、呪持ちとなった吸血鬼を治療することが可能で、「吸血鬼の専門医」や「蒼月の眷属」を自称している。ノエと共に呪持ち絡みの事件を追っては、事件の中心となっている呪持ちを治療して救っている。自分自身のことをあまり話さないために過去は謎に包まれているが、余計な詮索を嫌い、ノエがアルシヴィストの能力を使って過去を読み取ることを強く禁じている。生まれてすぐに母親を亡くし、父親や旅芸人仲間と共に旅をしながら生活していた。しかし父親が吸血鬼に殺され、戦闘部隊「狩人」に保護されるものの、モローに捕らわれて実験体となってしまう。当時はNo.69という番号を振られ、弟分のミハイルと共に地獄のような日々を送って命の危険がせまっていたところを、ルーナに救われる。しばらくはルーナ、ミハイルと三人で家族のように暮らしていたが、ある日突然ルーナを殺害し、「ヴァニタスの書」とルーナの呼び名である「ヴァニタス」という名を受け継いだ。ふだんグローブで隠している腕にはルーナの所有印が刻まれているとともに、モローの実験によって注射されたルーナの青い血液が体に流れており、受け継いだ力を引き出すたびに体が少しずつ蝕まれている。他人の事情にお構いなしに踏み込んでくる傲慢さや身勝手さが目立つが、本来は苦しんでいる者を放っておけない実直な性格であり、ルーナからはとても優しい子と評されている。かつては父親を殺した吸血鬼への復讐をもくろんでいたが、モローをはじめとする人間の残虐な行為をいくつも見てきたことから、人間のことも等しく嫌悪している。ふだんは小食で甘い物が苦手だが、牡蠣が好物。寒さが苦手で、長時間寒い所にいると失神するように体が固まってしまう。2月7日生まれの水瓶座で、身長は176センチ。
ノエ
「ヴァニタスの書」を探すために田舎からパリにやって来た吸血鬼の青年。年齢は19歳。淡いベージュの短髪で色黒な肌を持つ。白っぽいコートを着用し、ハットをかぶっている。よくも悪くも自分の感情に正直に行動するタイプで、素直で天然な一面もある。パリへ向かう飛空船でヴァニタスと出会い、彼に興味を持って行動を共にするようになる。アヴェロワーニュという森の奥で幼少期を過ごし、田舎暮らしが長かったために都会のすべてが珍しく、飛空船に乗るのも初めてだった。好奇心旺盛な一方で世間知らずであり、外出するたびに迷子になっているが、迷子という自覚すらないことが多い。「ムル」という名の猫を飼っている。戦闘力が非常に高く、訓練された戦闘部隊「狩人」とも渡り合えるほどのセンスを持つ。フルネームは「ノエ・アルシヴィスト」で、アルシヴィストには「血を暴く牙」という意味がある。初めて吸血した相手の記憶を読み取る力を持った一族の名でもあるが、すでに絶滅したとされている。「ノエ」という名には「方舟の子」という意味がある。人間を嫌う吸血鬼が多い中で、吸血鬼だけでなく人間のことも同じくらい好きで、目の前の相手には種族を問わず手を差し伸べようとする。謎の多いヴァニタスに疑問を覚えたり、呆れたりすることも多い一方で、彼を振り回すことも多い。何かと正反対なヴァニタスとはケンカもよくするが、なんだかんだで助け合うことも多く、彼と共に呪持ちを救って事件を解決に導いている。幼少期は人間の老夫婦に育てられていたが、老夫婦が亡くなって競売に出されていたところを先生に買われ、ルイ、ドミニクといっしょに過ごしながら育った。しかし、呪持ちだったルイが発症して処刑されたのがトラウマとなり、大切な友人を二度と失いたくないと思っている。また、過去に同じ体験をしたドミニクのことを大切に思っており、彼女までルイのようにいなくなってしまうことを何よりも恐れている。パリに来てからは先生の手配でオルロック伯爵の世話になり、ホテル「シュシュ」に寝泊まりしながら、カフェや工場などでアルバイトをしている。寝相が悪く、片付けが苦手。好物はタルトタタン。9月28日生まれの天秤座で、身長は182センチ。
アメリア
ノエが飛空船で出会った吸血鬼。猫好きの穏やかな性格の女性。実は呪い持ちで、ヴァニタスの診察を受けるためにパリに向かっていた。飛空船内で呪いを発症し暴走するが、ヴァニタスに治療されて正気を取り戻す。
オルロック伯爵
パリに住む吸血鬼の男性。人間の世界に混じる吸血鬼達を監視し、人間側との均衡を保つ役割を持っている。頭の大きな傷跡を始め、体のあちこちに傷跡がある。
ルカ
護衛であるジャンヌと行動を共にしている吸血鬼の少年。パリの工場地帯でヴァニタスたちと出会った。茶髪の短髪で、左右の髪の一部が獣耳のようにはねている。まだ幼いながらも、非常に礼儀正しくしっかりした性格の持ち主。ジャンヌを家族のように大切に思っており、彼女をたぶらかすヴァニタスのことを快く思っていない。呪持ちの兄・ロキを救うために、「ヴァニタスの書」を求めていたが、ヴァニタス本人には断られてしまう。大規模な世界式の書き換えによって、炎をあやつる能力を持つ。当初は「ヴァニタスの書」が呪持ちの原因と思って消そうとしていたが、ヴァニタスが呪持ちを救うのを目の当たりにしてからは考えを改め、仮面舞踏会でノエと再会した際に和解した。本名は「ルキウス」で、吸血鬼の中では女王に続くオリフラム大公の地位を持っている。しかしまだ幼いため、元老院たちからはお飾り扱いされることが多く、大公の仕事も後見人であり叔父でもあるルスヴン卿にほとんど任せているため、議会などでの発言力も低い。ジャンヌには家族のように優しく接するとともに淡い恋心を抱いており、早く彼女に釣り合う男になるために、一生懸命背伸びしている。7月31日生まれの獅子座。
ジャンヌ
ルカの騎士(シュバリエ)として忠誠を誓う吸血鬼。桃色のショートヘアの美少女で、金色の瞳を持つ。その美しい容姿とは裏腹に、裏切り者の吸血鬼を処刑する「処刑人」として、1000人を超える吸血鬼たちを一人で滅ぼした過去を持つ。高い戦闘力を誇り、大きな紅いガントレット「カルペディエム」を武器に戦う姿から、「業火の魔女」の異名を持つ。ルカと共にパリの工場地帯にいたところで、「九人殺し」の事件を追っていたヴァニタスとノエに出会う。ヴァニタスから力づくで「ヴァニタスの書」を奪おうとするものの、彼の卑怯な作戦によって敗北。この際にヴァニタスにいきなりキスをされて以来、彼に会うたびに一方的に振り回されている。家族のように接してくれるルカへの忠誠心は強く、彼を傷つける者には敵意をあらわにする。仮面舞踏会以降はドミニクから気に入られており、何かと気にかけてくれる彼女のことを慕っている。元はルスヴン卿の教え子でもある両親と暮らしていたが、吸血鬼と人間の戦争で両親が裏切ったために、処刑された両親の罪を背負ってルスヴン卿に従う処刑人となった。両親が犯した大罪の贖(あがな)いとして同族狩りにあたる処刑人をさせられているため、多くの者から嫌悪されてきた。このため、他人の優しさに対する防御力がかなり低く、ドミニクからは「実は相当チョロい子」とまで言われている。幼少期にルスヴン卿に連れられてジェヴォーダンを訪れており、そこで出会ったクロエ・ダプシェからかわいがられていた。しばらくはクロエと会っていなかったが、両親が死んで処刑人となったあとにクロエが「ジェヴォーダンの獣」と疑われたため、彼女の処分を命じられる。しかし、再会したクロエを殺すのをためらって逃がしてしまい、強い後悔や罪悪感を覚えていた。再びベートが現れた際には、処刑人の使命を果たすために一人でジェヴォーダンに向かい、ヴァニタスたちと再会する。当初はヴァニタスたちと対立するものの、最終的に彼のおかげでクロエを救うことに成功し、これをきっかけに彼への恋心を自覚するようになった。当初はヴァニタスを毛嫌いし、彼との縁を切るために試行錯誤していたが、一度信じた相手のことは疑わないタイプで、恋心を自覚したあとは彼のことばかり考えている。4月21日生まれの牡牛座。
ドミニク
吸血鬼の女性で、ノエの幼なじみ。年齢は20歳。吸血鬼の名門貴族である異界領主・サド侯爵家の娘。黒髪ロングヘアに騎士のような格好をした、凛々しい佇まいの麗人。一人称は「僕」。現在は強気で面倒見のいい性格だが、幼少期はおとなしく恥ずかしがり屋で、一人称も「私」だった。ふだんは異界に住んでいるが、世間知らずのノエを心配し、彼を追ってパリにやって来た。お供としてバラの花を飛ばす、自動人形を連れている。得体の知れない人間であるヴァニタスと行動しているノエのことを心配しており、当初はヴァニタスを危険視して二人を引き離そうとすることもあった。ジャンヌのことを気に入っているが、彼女からはやたら信頼されて頼りにされているため、時折り相談に乗っている。社交界を渡り歩いているが好意を寄せてくるのは女性ばかりで、面倒な男性に興味を持たれても姉のベロニカを恐れて、結局は男性が近寄って来ないことが多い。昔からノエに思いを寄せているが、鈍感な彼には気づかれていない。兄のルイとは離れて暮らし、月1回のペースで彼とノエに会いに来ていた。ルイは病気で隔離されていると聞かされていたため、彼が呪持ちであることは知らなかった。発症したルイが首をはねられて死んだのがトラウマになっており、軽率な行動でノエを巻き込んだのを後悔するとともに、ノエまでルイのようにいなくなってしまうことを恐れている。ルイの死後に彼が一つ上の兄ではなく双子の兄であったことや、彼が隔離されていた本当の理由を、ベロニカから聞かされる。ルイの抱える事情や、苦悩を知らずに何気ない一言で傷つけたのを後悔すると同時に、うなされていたノエがドミニクとルイを見間違えたことから、ノエが本当に求めているのは自分ではなくルイだと思い込んでショックを受け、髪を切ってルイのまね事をしていたこともある。これらの過去から、ルイの代わりに自分が死ぬべきだったという苦悩を現在でも引きずっている。サド家での扱いもあまりいい方ではなく、ノエやジャンヌを気にかけることで自尊心を保っていたが、ミハイルと出会ったことでトラウマを掘り起こされ、さらには「ヴァニタスの書」であやつられて人質になってしまう。6月1日生まれの双子座。
ルイ
ノエの初めての友人。ドミニクの兄。故人。物知りで大人っぽい性格の少年だった。生まれつき呪い持ちの吸血鬼で、幼い頃より祖父である先生の城で暮らしている。呪い持ちであるため、妹のドミニク以外の家族からは死人扱いされている。呪いを発症し、先生に首を刎ねられて命を落とした。
ダンテ
吸血鬼と人間の混血児である「ダムピール」の青年。年齢は18歳。赤茶色の短髪で下まつ毛が目立ち、左目の下に泣きボクロがある。主な依頼主であるヴァニタスをヤブ呼ばわりしてからかっているが、彼とは腐れ縁のような関係。情報屋だが金次第であらゆる依頼をこなし、いわゆるなんでも屋に近い仕事をしている。フランスで起こるさまざまな事件、とりわけ呪持ちに関する情報を集めては、ヴァニタスに高値で提供している。小さなコウモリのような使い魔を連れている。吸血鬼・人間を問わず、高く売れそうな情報をつねに集めている。ふだんは同じダムピール仲間のヨハン、リーチェと共に行動している。人間でも吸血鬼でもないダムピールという立場上、周囲に迫害されてきた過去を持つため、ダムピール以外のことは基本的に信用していない。
先生 (せんせい)
ノエの恩師である吸血鬼の男性。ドミニク、ルイの祖父でもある。頻繁に姿や名前を変えているためにいくつもの名を持つが、ほかの吸血鬼からは「貌持たざる者」と呼ばれ、恐れられている。競売にかけられていた幼いノエを買い取り、弟子のように育ててきた。ノエに手紙を送り、「ヴァニタスの書」を見つけるように指示してパリに送り出す。ただし、「ヴァニタスの書」を見つけてその正体を見極めるように言っているだけで、入手したり壊したりといった具体的な対応は指示していない。ふだんは温厚ながら、ノエを訓練して戦闘を仕込むなど高い戦闘力を誇る。吸血鬼のあいだでも謎の多い人物で、気まぐれに吸血鬼の孤児を引き取っているが、ノエを引き取った本当の目的は不明。孫のルイが呪持ちと知りながら、呪持ちに関する資料を目に付く場所にわざと置くなど、相手の反応や行動とそこから導き出される結果を観察して楽しんでいるところがあり、ルイからは悪趣味と評されている。のちにルイが発症してノエたちを襲った際に、ルイの首をはねた。見た目は若いが、誰よりも早く誰よりも長く女王に仕えており、いつから存在している吸血鬼なのかも不明。要職に就くわけでもなく、地位や爵位を養子に押し付けて悠々自適な田舎暮らしを楽しみながら、いつもあちこちに出かけている。
ルスヴン卿 (るすゔんきょう)
ルカの叔父で、穏健派の吸血鬼。女王の側近を務める元老院の一人でもある。見た目は大柄な中年男性だが、かなり長い時を生きている。赤毛の長髪で右目には大きな眼帯をしている。吸血鬼と人間のあいだで起こった戦争を終結させた和平の立役者として、現在でも英雄と讃える者が多く、人間にとっても吸血鬼の歴史を語る上で欠かせない重要人物となっている。黒い炎をあやつる能力を持ち、その気になれば一瞬で周囲を焼き払える。ふだんはカルブンクルス城で執務をこなしながら、呪持ちに関する研究をしている。また、まだ幼いルカの後見人として、大公の仕事を代行することもある。先生とは知り合いだが、彼からはなぜか嫌われている。仮面舞踏会でヴァニタス、ノエと知り合い、呪持ち騒動で活躍した彼らを客人として迎える。若い頃にジェヴォーダン地方を訪れ、ダプシェ家の研究に興味を持ち、クロエ・ダプシェに会って友人となった。ジャンヌの両親の師でもあり、幼い彼女をクロエのもとへ連れて行ったこともある。戦争が激しくなる前は、ノエと同様に吸血鬼も人間も等しく好きで、両者の争いのない世界になることを願っていた。しかし、和平のために尽力していたところでジャンヌの両親が吸血鬼側を裏切り、多くの教え子たちを失ったことで、体にも心にも深い傷を負った。その後はオリフラム大公家の養子として迎えられて元老院となり、人間との話をまとめて戦争を終結に導いた。吸血した相手に暗示をかけることで、特定の条件下でのみ手下としてあやつれる特殊な能力を持つ。ただし、暗示をかけられた相手はその自覚がなく、吸血された時の記憶すら残らない。この能力を使って目を付けた吸血鬼を何人か手駒としているが、真の目的は不明。多くの吸血鬼から尊敬される一方、ほかの元老院からは煙たがられることが多く、怪しい行動が多いためにマキナ侯をはじめとする一部の者から警戒されている。
ベロニカ
吸血鬼の貴族の女性で、ドミニクの腹違いの姉。女王に仕える「女王の牙(ビスティア)」の一人で、ロングヘアの和服をまとった美女。同じく「女王の牙」であるマキナ候とは親しい関係。気性が荒くドSな性格で、趣味で拷問器具を集めている。人間、特に男性を激しく嫌っている。吸血鬼たちの仮面舞踏会に紛れ込んでいたヴァニタスを抹殺しようとするが、遅れて駆けつけたルスヴン卿に止められる。仮面で視界を遮られたままの状態でも、「世界式」を書き換えて氷や冷気をあやつる能力を持つ。兄のアントワーヌと共に、昔からドミニクを見下したような言動があり、隔離されているルイのことは死んだ者扱いし、弟とすら思っていなかった。
ローラン
戦闘部隊「狩人」の青年。狩人を束ねる隊長である第6の「聖騎士」で、「碧玉」の称号を与えられている。巻き毛の金髪と碧眼を持つ美青年で、ふだんは優しくニコニコしているが、戦いでは驚異的な戦闘力を発揮する。正義感が強く吸血鬼には容赦がないが、感受性が豊かで涙もろい一面もある。まだ聖騎士となって日が浅く、よく迷子になる。パリの地下納骨堂につながる地下通路で、吸血鬼の連続誘拐事件を追っていたヴァニタス、ノエと出会う。当初はヴァニタスを勝手に哀れみ、ノエを抹殺することでヴァニタスを救い出そうとしていたが、ノエやヴァニタスの説得によって和解し、協力するようになる。鞭のように自在に伸縮して内蔵された星碧石から電撃を放つ「不滅なる刃(デュランダル)」という、大きな槍に似た武器で戦う。奔放で予想外の行動に出る性格から、同僚であり付き合いの長い友人でもあるオリヴィエや部下をよく困惑させている。部下たちからは神の狂信者のように思われているがオリヴィエからは、厳密には神を信じているわけではなく、神を信じているローラン自身を信じていると評されている。ふだんの一人称は「僕」だが、オリヴィエと二人でいるときは「俺」になる。
リーチェ
吸血鬼と人間の混血「ダムピール」で、ダンテやヨハンと共に、情報屋をしている女性。事件などの情報だけでなく地下納骨堂などの知識に富んだ博学な人物。
ヨハン
吸血鬼と人間の混血「ダムピール」の青年で、ダンテやリーチェと共に、情報屋をしている。オネエ口調で話すオカマ。リーチェに対しては少々過保護気味に接している。
女王 (じょおう)
吸血鬼達の女王。かつては吸血鬼達をまとめていたが、謎の病にかかって以来、異界の城に篭ったまま姿を現さなくなっている。オルロック伯爵などの領主を通して、人間側との均衡を保とうとしている。
モロー
ヴァニタスの過去を知る謎の科学者の男性。かつては高名な生理学者だったが、スキャンダルによって危険視され学会を追放されたのち、フランスに渡る。狩人の教会に居た頃の少年時代のヴァニタスに目をつけ、彼を実験台にしていた過去を持つ。数々の危険な実験を重ね、人工で吸血鬼を作り出そうとしている。
ムル
ノエがいつも連れているオス猫。尻尾の先までふわふわとした白い体毛で、ピンクと青のオッドアイの瞳を持つ。首元には紫色の大きなリボンを付けている。全身がもふもふしており、飼い主のノエだけでなく多くの人から愛されている。しかし、つねにしかめっ面で不機嫌そうに見える。男性よりは女性に懐く傾向にある。ホテル「シュシュ」で出会ったフルートという黒猫に夢中だが、いつも軽くあしらわれている。
ネーニア
ノエが目撃した謎の化け物。実体がなく、真っ黒な人影のような不気味な姿をしており、目や口は赤く光っている。吸血鬼の真名を奪い呪持ちにする元凶とされているが、その正体や目的は謎に包まれている。ノエがアメリアの記憶の中で謎の集団「シャルラタン」のパレードと共に遭遇して以来、仮面をかぶった謎の男たちと共に、吸血鬼たちの前にたびたび出現している。シャルラタンと共に現れては不気味な音楽を流し、人間・吸血鬼を問わず近くにいる者のトラウマを呼び起こして狂わせる。通常は相手の意思と関係なく真名を奪うことができるが、クロエ・ダプシェやノエのように特別な力を持った吸血鬼には通用せず、吸血鬼本人が自らの意思で真名を差し出す必要がある。このため、ノエの前に現れるたびにトラウマにつけ込んで唆(そそのか)し、真名を差し出すよう仕向けている。その正体は原初の紅月の吸血鬼である女王、ファウスティナの残骸で、ネーニアは「死を囲う者」を意味する禍名(まがつな)である。ふだんは存在が不安定なため自分がファウスティナであることを忘れているが、クロエが改竄(かいざん)装置で存在を固定した際に、一時的に元の姿に戻っていた。
マキナ侯 (まきなこう)
吸血鬼の貴族の男性。元老院の一人で、女王に仕える「女王の牙」の一員でもある。同じく「女王の牙」であるベロニカとは親しい関係。長い時を生きている老人だが、いつもロボットのような姿で本当の姿を人前に見せず、時にはクマや東洋のカラクリ人形の姿で登場しては、周囲を驚かせている。機械が大好きなカラクリ狂いの変わり者で、自動人形の研究もしている。本名は「フランシス・ヴァーニー」。かつてジェヴォーダン地方にクロエ・ダプシェに会いに行ったことがあり、人間と吸血鬼の戦争中には、負傷したルスヴン卿の代理人として彼女を保護しに行ったこともあった。ふだんは飄々(ひょうひょう)として不真面目でやる気がないように見えるが、老獪(ろうかい)な一面を隠し持っており、ルスヴン卿の怪しい動きも察知している。かつてジャンヌが処刑人となった際に、彼女に見合う武器として「カルペディエム」を作って与えた。「ジェヴォーダンの獣」事件では、ダプシェ家の研究が生み出した改竄装置の調査および回収を、ダンテとヨハンに依頼していた。
トマ・ベルヌー
「九人殺し」の異名を持つ呪持ちの吸血鬼。本来は男性の吸血鬼だが呪いを発症して暴走し、黒い狼男の姿になっている。女性を中心にすでに九人もの被害者を出しており、パリで深刻な事件となっている。真名は「牧歌紡ぐ者(ブーコリカス)」で、禍名は「紅を狩る狼(ルー・ガルー)」。ヴァニタスとジャンヌの戦いに乱入する形で出現するが、彼に助けられ元の姿に戻った。しかし、オルロック伯爵に処分されるのを恐れて逃げ出していたところを、何者かに殺害されてしまう。
オリヴィエ
戦闘部隊「狩人」の青年。黒髪ロングヘアで前髪が長い。聖騎士の一人であり、「黒曜石」の称号を持つ。ローランとは同僚であると共に付き合いの長い友人でもあり、元は部下だった彼のことを碧玉の聖騎士に推薦した。聖騎士になってからも時おりとんでもない行動に走るローランの奔放さにはしょっちゅう悩まされており、苦労と頭痛が絶えない。少々怒りっぽいところがあり、ローランを叱責することも多いが、彼の過去や性格をよく知っている理解者でもある。
アストルフォ
戦闘部隊「狩人」の少年。弱冠15歳で歴代最年少の聖騎士となり、「柘榴石」の称号を持つ。切りそろえた桃色の髪で、中性的な容姿を持つためよく美少女に間違われるが、女性に間違われることを嫌っている。ふだんは温厚で礼儀正しい性格だが戦闘狂な一面があり、自分の邪魔をする者はたとえ人間であっても容赦なく殺してしまう。「柘榴石のアストルフォ」と呼ばれていると共に、狩人の問題児としても知られ、オリヴィエたちも手を焼いている。同じ聖騎士ではあるが、ローランのことをやたら嫌っている。有名な貴族の生まれで、両親と妹を殺した吸血鬼を強く憎んでいる。伸縮する槍(やり)のような形状の武器「正義の柱(ルイゼット)」を振るって戦う。「ジェヴォーダンの獣」事件を追って部下と共にジェヴォーダン地方を訪れ、ノエやヴァニタスと対峙(たいじ)する。子供とは思えぬほどの高い戦闘力でノエを驚かせたが、少々短気で挑発に乗りやすいなど年相応の未熟さを持つ。幼少期に家族が吸血鬼に襲われた際に巻き込まれて吸血され、体のあちこちに所有印を残されたことがトラウマになっている。この際にローランに命を救われており、狩人に入ったばかりの頃は彼を尊敬し慕っていた。
クロエ・ダプシェ
ジェヴォーダン地方にある城で暮らす吸血鬼の少女。ウェーブのかかった薄灰色のボブヘアで、水色の瞳と人形のような美しい容姿をしている。ふだんは温厚な性格ながら怒ると非常に恐い。見た目は儚(はかな)げな美少女だが、長い時をジェヴォーダンで過ごしており、村人たちからは白銀の森に住む魔女として恐れられている。元はダプシェ侯爵家に生まれた人間の少女だったが、混沌の影響で吸血鬼となった。現在はジャン=ジャックと二人きりで暮らしており、楽器をもとにした自動人形に歴代当主の名前を付けている。ヴァニタスたちがジェヴォーダンを訪れた際に「ヴァニタスの書」を拾い、雪の中で気絶していたノエを保護した。呪持ちでネーニアともつながっているが、自分の願いと引き換えに真名を差し出し、自分の意思でネーニアといっしょにいる。4歳の頃に吸血鬼化し、11歳の頃には体の成長が止まり、表向きは死んだことにされた。父親をはじめとするダプシェ家の者たちが人間に戻すための研究を始め、ジェヴォーダンから出ることもなく吸血鬼であることを隠し、彼らの研究を見届けながら生き続けていた。しかし、ダプシェ家の者たちがいなくなっていくうちに孤独を感じるようになり、村人からの噂(うわさ)も絶えず、やがて一部の者から魔女として恐れられるようになっていく。ジェヴォーダンでさまざまな事件が起こるようになってからは、ジェヴォーダンの獣の正体として疑われることも増えている。昔、若い頃のルスヴン卿に会ったことがあり、彼が連れて来たジャンヌのことを非常にかわいがっていた。ルスヴン卿やジャンヌとは友人関係だったが、戦争が始まってからは連絡が途絶え、マキナ侯を通して外の情報を得ていた。戦後もマキナ侯の誘いを断りダプシェ家から離れず、孤独や不安が募っていく中で幼いジャン=ジャックと出会った。のちに成長したジャンヌと再会するが、彼女は処刑人になっていた。この際に崖から落ちて死を望むも、ネーニアに唆されて呪持ちとなった。城の書斎にある巨大な楽器のような改竄装置を使って復讐(ふくしゅう)を目論むが、その標的はジェヴォーダンの地や住人ではなく、ジャン=ジャックを呪持ちに変えたネーニアであった。片付けが苦手で部屋が汚く、拾った「ヴァニタスの書」も使えないと判断した途端に放置して忘れていた。
ジャン=ジャック
クロエ・ダプシェと二人きりで暮らしている吸血鬼の青年。黒の短髪で、前髪で目元が隠れている。幼少期にクロエと出会ってからずっと彼女を慕い、城で暮らしながら身の回りの世話をしているため、料理や裁縫が得意。人間や吸血鬼を問わずクロエ以外の者には慣れておらず、褒められることにも慣れていない。ふだんはおとなしいが、愛情ゆえにクロエを貶(おとし)めたり邪魔をする者への敵対意識が強く、彼女に近づく男性には嫉妬を見せる。クロエと共に保護したノエに、自分と彼女の過去を教えた。実はジェヴォーダンに再出現したジェヴォーダンの獣の正体であり、クロエを怖がったり迫害する者から彼女を守りたいという思いが強まり、自らネーニアに真名を差し出して呪持ちとなっていた。ノエを助けたのは、ベートの姿でいる時にジャンヌの攻撃から助けてもらったためである。幼少期はクロエと同様に隠された吸血鬼として生きていた過去を持ち、母親からは見捨てられ父親からは虐待されていた。これらの孤独から救ってくれたクロエのことが大好きで、何よりも彼女といっしょにいることを願っている。
ミハイル
ドミニクの前に現れた謎の少年。真っ白な短髪と少女のような容姿で、ヴァニタスと同じ青い瞳を持つ。無邪気で愛らしい子供に見えるが、目的のためなら手段を選ばない残酷な性格をしている。愛称は「ミーシャ」。もう1冊の「ヴァニタスの書」を持っており、その力を使いこなせる。昔は娼婦(しょうふ)の母親と二人で暮らしていたが、母親を吸血鬼に殺害され、戦闘部隊「狩人」に保護された。しかしモローに捕まってしまい、地下の研究室で彼の実験体となる。当時はNo.71という番号を振られ、地獄のような日々を送る中でヴァニタスに出会い、過酷な実験から何度か助けてくれた彼を兄のように慕っていた。ほかの実験体が次々と死んでいく中で、ヴァニタスと共に生き残っていたが、モローの実験により死にかけていたところを、研究所を襲撃したルーナに救われる。しばらくはルーナ、ヴァニタスの三人で家族のように暮らしていたが、モローに注射されていたルーナの青い血に体を蝕まれ倒れてしまう。死期が近づいていたところで、親のように慕っているルーナの眷属(けんぞく)となっていっしょに生き続けたいと願ってからの記憶が途切れ、気づいた時にはヴァニタスがルーナを殺害していた。ヴァニタスと離れたあとはある人物に保護され、その人物と共にルーナを蘇(よみがえ)らせようとしている。ヴァニタスがルーナを殺した理由に疑問を持つと共に、彼のことを許せずにいる。ルーナを殺した理由を知るため、吸血相手の記憶を読み取る力を持つノエにヴァニタスの記憶を探らせようと目論む。このためにドミニクをさらい、彼女を人質に取ってノエとヴァニタスを誘い出す。
ルーナ
ヴァニタスとミハイルをモローの研究所から救い出した、謎の吸血鬼。黒っぽい肌と美しいロングヘアで、ふだんはローブをまとっている。中性的な容姿でヴァニタスからは女性、ミハイルからは男性と思われていたが性別不詳で、厳密には吸血鬼とも異なる存在である。その正体は童話や伝説で語り継がれ、多くの吸血鬼から恐れられている蒼月の吸血鬼だが、伝説のイメージとは異なり温厚で優しい性格をしており、人間であるヴァニタスたちにも好意的に接する。呼び名が複数ある中で周囲からは「ヴァニタス」と呼ばれていることが多く、月を意味する「ルーナ」という名は、ヴァニタスによって付けられた。錬金術師や科学者をしている人間の知り合いが複数いる。ヴァニタスとミハイルを保護したあとは三人でいっしょに暮らし、彼らにさまざまなことを教え、本当の家族のように暮らしていた。見かけによらず適当な性格で、料理が下手で掃除などの家事も苦手。ルーナの血を体内に持つ影響で死期が近づいていたヴァニタスとミハイルを救うため、彼らを自らの眷属にするか考えていたところで、ヴァニタスに殺害されて消滅した。持っていた力の一部と呼び名、そして2冊の「ヴァニタスの書」は、ヴァニタスとミハイルに受け継がれている。
集団・組織
狩人 (しゃすーる)
教会によって結成された特殊な戦闘部隊。特別な訓練を受けた人間だけが属する。吸血鬼を「神が創った世界の理を捻じ曲げる異端者」として、排除しようとしている。神に熱い信仰心を抱く信徒で編成されており、吸血鬼を憎んでいる者も多く、すべての吸血鬼の殲滅(せんめつ)を求めたり再度の戦争をもくろんだりする過激派も存在する。吸血鬼との戦闘時は、世界式を視認できる紅い目を潰したり、特殊な薬で身体能力を上昇させたりして戦う。隊を束ねる12人の隊長は「聖騎士(パラディン)」と呼ばれ、それぞれに宝石を基にした称号が与えられている。パリで起こっている吸血鬼失踪事件をはじめ、吸血鬼に関する多くの事件に関与している。パリの地下納骨堂につながる地下通路にアジトがある。
場所
異界 (あるたす)
吸血鬼だけが住まう異世界の総称。世界各地にある境界を渡る事で行けるようになっているが、境界を渡れるのは基本的に吸血鬼のみとなっている。ただし、普通の人間でも吸血鬼の手に触れていれば、境界を渡り異界に辿り着く事ができる。
地下納骨堂 (ちかのうこつどう)
パリの地下にある巨大な納骨堂で、「カタコンブ・ド・パリ」とも呼ばれる。かつての採石場を利用して作られた。約20万人もの遺骨が納められており、「死の帝国」と呼ばれる事もある。観光地化されており、地下迷宮のようになっている。
その他キーワード
ヴァニタスの書 (ゔぁにたすのしょ)
ヴァニタスが持つ、特殊な能力を持った魔導書。葵月の吸血鬼が、紅月の吸血鬼たちに復讐するために作ったとされている。黒いページを持つ機械仕掛けの本になっており、所有者であるヴァニタス以外は開くこともできない。呪い持ちとなった吸血鬼を治療する能力を持つ。
星碧石 (あすとるまいと)
混沌によって各地に生まれた、新しい鉱物の総称。機械や飛空船などのエネルギー源など、さまざまな場面で活用されている。その万能さから「万能石」と呼ばれる事もある。「世界式」と呼ばれる式を書き換える事で、性質を変化させる事もできる。
吸血鬼 (ゔぁんぴーる)
混沌によって世界に生まれた異種族。見た目は人間とほとんど変わらないが、口に鋭い牙を持ち、感情が昂ると紅い目に変わるという特徴を持つ。紅い目を通して見ることができる「世界式」という式を書き換えて干渉することで、己の肉体強化をはじめとして氷や炎を生み出すなど、魔法のような能力を使える者も多い。耐久力や回復力は人間より高めだが、死亡すると心臓を中心に灰化が始まり、時間経過とともに灰になってしまう。まだ謎の多い種族ではあるが、混沌によって人間を構成する式が書き換えられ、吸血鬼が誕生したと考えられている。大半は異界に住んでいるが、一部の吸血鬼は人間の世界に溶け込んで生活している。重要なことは、女王に仕える貴族を中心とする「元老院」による議会で取り決められている。かつての戦争によって人間と対立していたため、現在でも人間をよく思わない者も多く、一部の人間にとっても畏怖や差別の対象となっている。ダンテをはじめとする人間と吸血鬼の混血児は、「ダムピール」と呼ばれている。物語や伝承などに登場する吸血鬼とは異なり、日中に行動することが可能で十字架に弱いという弱点もなく、血液を摂取しなくても死ぬことはない。吸血行為も本来は血液そのものを求める行為ではなく、血を介して相手の体から生気を吸い取る行為である。現在の吸血鬼にとっての血液はタバコや酒のような嗜好品に近いが、まれに血液の味や吸血行為そのものに依存してしまう者もいる。牙から媚薬のような成分が流れ込むため、吸血された側は快楽を感じることもある。このため、吸血行為はコミュニケーションの一種となっているとともに、相手の同意がない吸血行為は禁じられている。ふだんは吸血衝動を容易に抑えられるが、呪持ちが発症すると抑えられなくなり、暴走して周囲を無差別に襲うようになる。
蒼月の吸血鬼 (そうげつのきゅうけつき)
蒼い月の夜に生まれた吸血鬼。古くから不吉の象徴とされており、紅い月の夜に生まれた紅月の吸血鬼たちから迫害されてきた。このため、紅月の吸血鬼には強い恨みを持っており、「ヴァニタスの書」を作って呪いを振りまこうとする。
呪持ち (のろいもち)
何者かに命同然の真名を奪われ、汚された吸血鬼。吸血鬼の間では治療法が見つかっておらず、特殊な薬で症状を抑えることしかできない。呪いを発症すると、普段は抑えることができる吸血衝動が起こり、我を忘れたように、周囲の人間や吸血鬼を襲うようになる。
真名 (しんめい)
吸血鬼が持つ真の名前。吸血鬼の存在を形作る構成式とされる。すべての吸血鬼にとって命そのものといえる名前で、これを他人に奪われて歪められてしまうと、呪い持ちとなってしまう。「ヴァニタスの書」はこの真名に干渉し、呪いを排除して正常な状態に戻すことができる。
処刑人 (ぶろー)
裏切って人間側についた吸血鬼を処刑する、同族殺しの吸血鬼。人間と吸血鬼が戦争していた時代の、ジャンヌの肩書きでもある。また呪い持ちとなった吸血鬼の首を刎ねて、処刑する役割も担っている。ジャンヌをはじめ、皆が高い戦闘力を持っている。
境界 (きょうかい)
混沌によって世界各地に発生した、現実の世界と異界をつなぐ、空間の歪み。パリのあちこちにも存在するが、吸血鬼以外は簡単に入れないようになっている。
混沌 (ばべる)
過去に起きた実験事故による事件や、数々の天変地異の総称。この事件により世界に吸血鬼が生まれ、世界各地に境界と呼ばれる空間の歪みが発生した。また「星碧石」と呼ばれる新しい鉱物なども生まれており、世界の理を書き換えるほどの大きな出来事であったとされる。
自動人形 (くらいすらー)
星碧石を動力源とする機械。電化製品のような物からロボットのような物まで見た目や機能はさまざまあり、名前どおり自動的に動く。戦闘部隊「狩人」のアジトでは、侵入者捕縛用のロボットして活用されている。
ジェヴォーダンの獣 (じぇゔぉーだんのべーと)
18世紀のオーヴェルニュ・ジェヴォーダン地方に現れたとされる、謎の獣。100人以上の女子供を無残に切り裂いたと人々に恐れられており、巨大な狼に似た姿をしている。単に「ベート」と呼ばれていることが多い。その正体については諸説ある中で、表向きは野生の狼の仕業とされたが、当時の教会と吸血鬼たちはその正体を呪持ちの吸血鬼としていた。事件は多くの謎を孕(はら)んだままで幕を下ろしていたが、再びジェヴォーダン地方に巨大な紅い体毛の獣が出現するようになった。
所有印 (まーきんぐ)
吸血鬼が吸血相手の体に残す目印。吸血鬼が己の力の一部を相手に埋め込むことで、アザや刺青(いれずみ)のように皮膚に出現する。見るだけで吸血鬼の力を知ることができるため、「この餌は自分のものである」という意思を強く示し、ほかの吸血鬼を牽制(けんせい)するための示威行為として使われている。
世界式理論 (せかいしきりろん)
錬金術師のパラケルススによって提唱された理論。人間が住んでいる世界の向こう側に、あらゆるものが特殊な構成式によって置き換えられて違う存在になった領域が存在する、という内容。パラケルススは、この世界の構成式である「世界式」を自由に書き換えることができれば、あらゆる病と苦しみを消去し、人々を幸福へ導くことができると説いていた。しかし、パラケルススの研究は規模を広げいくと同時に危険性を増していき、大規模な干渉実験の末に混沌という実験事故を起こして世界にあらゆる天変地異をもたらした。
改竄式 (びょうま)
吸血鬼の真名を歪め、「呪持ち」へと変貌させる原因。これによって歪められた真名の成れの果てを「禍名(まがつな)」と呼ぶ。真名を歪(ゆが)められた吸血鬼は、通常は容易に抑えられる吸血衝動に抗(あらが)えなくなるなどの症状が現れる。発症した呪持ちを救う方法はなく首を刎(は)ねるしかないとされていたが、「ヴァニタスの書」の力で禍名に干渉する「逆演算」によって、改竄式を取り除き真名を取り戻すことができる。
書誌情報
ヴァニタスの手記 11巻 スクウェア・エニックス〈ガンガンコミックスJOKER〉
第1巻
(2016-04-22発行、 978-4757549616)
第2巻
(2016-10-22発行、 978-4757551053)
第3巻
(2017-04-22発行、 978-4757553293)
第4巻
(2017-11-22発行、 978-4757555051)
第5巻
(2018-07-21発行、 978-4757557581)
第6巻
(2019-02-22発行、 978-4757559967)
第7巻
(2019-10-21発行、 978-4757562691)
第8巻
(2020-06-22発行、 978-4757566354)
第9巻
(2021-06-22発行、 978-4757572317)
第10巻
(2022-05-20発行、 978-4757578265)
第11巻
(2024-04-22発行、 978-4757582262)