概要・あらすじ
かつては天才と呼ばれ、自らバレエ団の経営もしているバレリーナの東山礼奈は43歳。もう若くはないが、努力を重ね、現役で踊り続ける。未婚で生んだ16歳の娘・東山舞には、いずれバレエ団をつがせるつもりでいる。IT企業社長の高遠和也という強力な出資者を得て、大規模な発表会を企画する礼奈は、精神的にも経済的にも充実し、ダンサーとしてさらなる高みを目指しつつ、高遠との結婚をひそかに夢見ている。
しかし、高遠からのプロポーズを期待して臨んだ席で打ち明けられたのは、娘の舞との関係と、舞の妊娠だった。信じてきたものが崩れ、自分の愚かさを思い知った礼奈は、自分の踊りを見失う。迷いの中で下見に出かけた劇場で、礼奈は、人ではない何かに誘われるようにして、舞台の奈落に落ちてしまう。
礼奈を失った発表会で、何人かの観客たちは、舞台の上の十字架の前に立つバレリーナらしき霊を見る。
登場人物・キャラクター
東山 礼奈 (ひがしやま れな)
かつては天才と呼ばれた美貌のバレリーナ。43歳。両親から受け継いだバレエ団の経営を担うと同時に、団の中心ダンサーとして踊り続ける。結婚の経験はないが、海外留学中に授かった16歳の一人娘・東山舞がいる。バレエ団のスポンサーについたIT企業社長の高遠和也に好意を抱いている。自他ともに認める「バレエばか」で、人生のすべてをバレエに捧げてきたという自負を持つ。
東山 舞 (ひがしやま まい)
東山礼奈の一人娘。16歳。バレエ団の跡継ぎとして、礼奈に厳しく育てられるが、本心では宝塚歌劇団に入りたいと思っている。太りやすい体質なのを気にしてダイエットをし過ぎた結果、摂食障害になり、栄養失調に近い状態が続いて成長が止まってしまった。高校に入ってから、身長もバレエも伸び悩んでいる。母が好意を寄せているのを知りながら、高遠和也とひそかに付き合い、妊娠する。
高遠 和也 (たかとお かずや)
IT企業「アイヴォリィ」の社長。40歳。 東山礼奈と知り合ってからバレエの魅力に目覚め、東山バレエ団のスポンサーとなる。3年前に前妻と別れ、独身。絵に描いたような紳士として礼奈をエスコートする。礼奈に初めて紹介された時から、娘の東山舞に惹かれ、ひそかに付き合い始める。舞が妊娠したことをきっかけに、礼奈に結婚の許しを請う。
宮木 円 (みやぎ まどか)
東山礼奈の主宰するバレエ団のスタッフ。高校までバレエを習っていたが、自分の才能のなさに見切りをつけ、大学に入ってフランス語を専攻。しかし、やはりバレエが好きで、礼奈のバレエ団の手伝いをしているうちに、正式なスタッフになる。語学力を生かし、海外からパリ・オペラ座級のゲストを呼んでくると評判。東山礼奈の大ファン。
中川原 征 (なかがわら まさき)
演出家、舞台監督。東山礼奈が若い頃から一緒に仕事をしてきた男性で、友人でもある。礼奈にほのかな好意を感じているが、仲間意識のほうが強い。高遠和也に心酔する礼奈の姿を客観的に見ている。
三船 (みふね)
東山礼奈のバレエ団に所属するベテラン女性ダンサー。ヴィリの女王・ミルタ役を振りつけられたが、ドイツから帰ってきた内永真実が稽古場でミルタの踊りを披露したのを見てから、スランプにおちいる。かつては主役を張れるレベルの実力があったが、常に礼奈の陰に隠れ、二番手として舞台を支え続けた。礼奈が奈落に落ちてからは、教師の側に回ってバレエ団を支える。
内永 真実 (うちなが まみ)
かつて東山礼奈のバレエ団に所属していたダンサー。礼奈よりも10歳若いが、礼奈がいる限り主役になれないため、5年前にドイツに渡った。現地のバレエ団で第一ソリストにまで上りつめたが、人種の壁にぶち当たり、礼奈に許しを請い、また東山バレエ団に戻る。礼奈が奈落に落ちてからは、バレエ団の中心ダンサーをつとめる。