三歩下がって回れ右

三歩下がって回れ右

仕事人間だった夫の松尾周平が定年退職を迎えたことを機に、松尾詩子は穏やかな第二の人生を楽しもうと考えていたが、夫は詩子をただの世話係としか認識していなかった。これに怒りを覚えた詩子は、自らも専業主婦を定年退職すると宣言。なかなか素直に妻に歩み寄れない頑固親父と、そんな夫についに反旗を翻した詩子の姿を描くホームドラマ。「JOURすてきな主婦たち」2018年9月号から2020年10月号にかけて掲載された作品。

正式名称
三歩下がって回れ右
ふりがな
さんぽさがってまわれみぎ
作者
ジャンル
夫婦
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あらすじ

詩子と周平の定年退職

結婚して以来、仕事人間だった松尾周平が定年退職を迎える日がやって来た。その日の夜、専業主婦の松尾詩子は娘の藤本沙織藤本繁夫婦と「お疲れさま会」を計画するが、周平は会社の仲間に誘われて外食して帰って来る。がっかりした詩子だったが、さらに周平は定年退職後は悠々自適に過ごすつもりで、身の回りの世話はすべて詩子がやって当然だと考えている、衝撃的な事実が判明する。その態度に怒りを覚えた詩子は「専業主婦も定年退職する」と言い放ち、最低限の家事以外は放棄することを宣言。すると最初は機嫌を損ねていた周平も、少しずつ詩子に歩み寄る姿勢を見せるようになるが、なかなか二人は妥協点を見いだせずギクシャクとした空気が流れる。

耕平の交際相手と詩子の家出

ある日、これまで松尾詩子たちに彼女がいる素振りを見せなかった長男の松尾耕平に、2年間交際している相手がいることが判明する。しかし、耕平の彼女である熊坂悠は年上のバツイチ女性で、さらに子供を望んでいないと知り、松尾周平は交際に反対する。それでも悠と会って欲しいと懇願する耕平に、周平は一旦は折れて会う約束をするが、彼女が医師で多忙なことから、何度もキャンセルされてしまう。こうしてやっと詩子と周平の旅行中に時間が取れた悠は、耕平といっしょに宿泊先の温泉旅館を訪れる。そこで悠は耕平との結婚は前向きに考えていないことや子供を望んでいないこと、さらにもし入籍したら自分の母親と同居して欲しいなど、自分の要望を臆することなく二人に伝える。その悠の堂々とした姿を見た詩子は、彼女が耕平に対して自分と本当に結婚したいのであれば、親の反対を乗り越えろとエールを送っているのを察し、頭のよい女性だと好感を抱く。一方の周平は無遠慮な女だと怒りを覚え、耕平と悠の交際を大反対する。詩子と耕平の話にも耳を貸さない周平にいら立ちを覚えた詩子は、いっしょに住んでいられないと家出を決行する。

プライドを傷つけられた周平

松尾周平は地域の小学生の登下校時の見守りスタッフのボランティアを依頼され、引き受けることにする。ある日、周平は登下校の際に顔見知りの篠原ジュンが庭に咲いている花を引き抜いている場面に遭遇し、なぜこんなことをしたのかと咎(とが)める。するとジュンは、ジュンの母のために花をプレゼントしたかったのだと打ち明け、周平が非難しなかったことをきっかけに、その日からジュンは友達と共に松尾家に遊びに来るようになる。周平は自らが作る竹細工に興味を抱くジュンたちの期待に応えようと張り切っていたが、ジュンの母やその周囲の保護者からは、ただのボランティアなのに、おせっかいが過ぎると噂されていることを知る。プライドを傷つけられた周平は、ジュンたちから距離を置くようになるが、夏休みに地域の自治会が子供向けのバーベキュー大会が計画されたことを受け、スタッフとして参加することになる。そして当日、表向きは笑顔で振る舞う保護者たちだったが、裏では休日に面倒な企画をするなと愚痴を言い合っていた。そんな中、保護者が目を離していたスキに、参加していた子供の一人が行方不明になる事件が発生する。

悠の妊娠と詩子の入院

ある日、松尾家を熊坂悠の母親が訪ねて来る。出迎えた松尾詩子松尾周平に対して、悠の母親は悠が双子を妊娠していることを告げる。こうして松尾耕平と悠は入籍することになり、高齢出産と双子というハイリスクを乗り越え、無事出産する。出産後の病院を訪れた詩子たちは、耕平が悠のキャリアや収入面を考え、耕平自身が専業主夫になろうかと検討していることを知る。しかし、周平は耕平から仕事を奪うなど言語道断だと激怒し、悠にその旨を伝えてしまう。こうして詩子と周平は、本来はめでたい日なのに仲違いをし、詩子は退院後の悠のサポートをするため、このまま耕平たちの新居で過ごすこととなる。しかし、その道中で詩子は自動車に衝突され、骨を折る重傷を負い、そのまま入院してしまう。そこで周平は、入院中の詩子と孫の面倒を見るため、詩子の代わりにしばらく耕平たちの新居で生活することになるのだった。

登場人物・キャラクター

松尾 詩子 (まつお うたこ)

松尾周平の妻。結婚してから35年になる専業主婦で、年齢は60歳。周平が銀行員として激務な日々を過ごし、定年退職した周平を労(ねぎら)おうとしていたものの、今後も身の回りの世話はすべて詩子がやって当然だと考えていることを知り、怒りに任せて専業主婦の定年退職を宣言する。周平の現役時代は家事も育児も精力的にこなしていたが、現在は最低限の家事だけを行い、自由気ままに過ごしている。ただし、周平と穏やかに第二の人生を過ごしたい気持ちもあり、自分から歩み寄ることも少なくない。趣味は絵手紙で、地域の集会所の教室に通っている。社交的な性格で、相手に合わせて柔軟な考え方もできるが、言いたいことをはっきりと口にせず、相手に察して欲しいと思っている。

松尾 周平 (まつお しゅうへい)

松尾詩子の夫。現在は長年勤めていた銀行を定年退職している。年齢は65歳。現役時代は日々激務をこなしており、家庭を顧みる時間がほとんどなかった。家庭内のことは詩子に任せっきりで、松尾周平自身が退職してからも身の回りの世話はすべて妻がやって当然だと考えている。詩子が専業主婦の定年退職を宣言してからは何かと衝突しているが、彼女のことを疎ましく感じているわけではなく、これまで家庭を守ってくれたことに感謝の気持ちを抱いている。頑固かつ不愛想で、自分の意志を曲げようとしない偏屈な性格をしている。ただし、素直になれないだけで、情が厚く思いやりもある。詩子と娘の藤本沙織からは「典型的な頑固親父」「昭和の男」などと影口を叩(たた)かれている。

松尾 耕平 (まつお こうへい)

松尾詩子と松尾周平の息子。工業機械メーカーに勤務している。年齢は32歳。実家に住んでおり、詩子の愚痴を聞かされたり、周平の晩酌の相手をしたりと、何かと二人のあいだで板挟みになることが多いものの、うまく立ち回っている。2年ほど交際している彼女の熊坂悠がいるが、悠にはあまり結婚願望がないことから、今後の関係について悩んでいる。

藤本 沙織 (ふじもと さおり)

松尾詩子と松尾周平の娘。年齢は30歳で、夫の藤本繁と結婚して2年目。詩子たちが暮らす街で保育士として働いている。詩子とは良好な関係を築いており、頻繁に実家へ遊びに来ている。周平のことは頑固親父などと毒を吐くこともあるが、これまで忙しく働いてきたぶん、定年後はゆっくり過ごして欲しいとも思っている。サバサバとした性格で、言いたいことははっきり口にするタイプ。ただし、詩子には打ち明けていないものの原因不明の不妊症で、繁の義理両親からプレッシャーをかけられることに悩んでいる。旧姓は「松尾」。

藤本 繁 (ふじもと しげる)

松尾詩子と松尾周平の義理の息子。年齢は30歳。妻の藤本沙織と結婚して2年目で、詩子たちが住む街の市役所に勤務している公務員。義理母の詩子からは好意的に受け入れられているが、義理父の松尾周平からは「ヘラヘラした頼りない男」だと嫌われている。ただし、そんな周平とも適度な距離を取りつつ、うまく付き合う器用さを持つ。いつも笑顔を絶やさない穏やかな性格で、沙織からは「シゲちゃん」と呼ばれている。

熊坂 悠 (くまさか ゆう)

市内の病院で医師として勤務している女性。年齢は40歳で、過去に一度結婚経験のあるバツイチ。松尾詩子の息子の松尾耕平と交際している。耕平から紹介されて詩子と知り合いになり、彼女からは聡明な女性だと好感を抱かれている。その一方で、松尾周平からは無遠慮な女だと、交際を認められていない。一見クールなしっかり者に見えるが、打たれ弱い一面も秘めている。その弱い部分をさらけ出せる相手が耕平であり、彼と再婚したいという気持ちはありつつも、過去の結婚でモラルハラスメントを受けたトラウマから、前に進めずにいる。また子供を望んでおらず、将来的には苦労して自分を育ててくれた母親と同居したい希望もあり、耕平を自分の人生に巻き込んでよいものかと悩んでいる。

詩子の母 (うたこのはは)

松尾詩子の実母。元小学校教師。厳格な性格で、年齢を重ねて若い頃よりは丸くなったとはいえ、いまだに詩子に説教することもある。また頼りがいのある女性で、たびたび詩子から相談を受けている。現役の教員時代にまだ小学生だった松尾周平の担任を受け持ったことがあり、少なからず周平の気性は理解している。夫を癌で亡くし、詩子の自宅から少し離れた場所で一人暮らしをしている。

谷川 洋人 (たにがわ ひろと)

松尾詩子の弟。年齢は58歳。長く転勤族の銀行員として働いており、関連会社に出向になったことから、ベッドタウンにマンションを購入して妻の谷川聡子、息子の谷川誠と三人で暮らしている。谷川洋人自身の父親を癌で亡くしていることがトラウマになり、聡子が突然子宮の全摘出手術を受けることで、ほかにも病気が見つかるのではないかと不安を覚えている。誠ほどではないが料理も得意で、ふだんから家事にも協力的な姿勢を見せている。

谷川 聡子 (たにがわ さとこ)

松尾詩子の義理の妹で、谷川洋人の妻。一人息子の谷川誠と共にベッドタウンにマンションを購入して住んでいる。これまで健康にはなんの問題もなかったものの、ある日突然子宮筋腫が見つかり、そのまま子宮の全摘出手術を受けることとなる。詩子とは良好な関係を築いており、谷川聡子自身が入院しているあいだも、自宅への出入りを許している。

谷川 誠 (たにがわ まこと)

松尾詩子の甥。年齢は22歳で、春から社会人になる。父親の谷川洋人、母親の谷川聡子と共にベッドタウンのマンションで暮らしている。ふだんから聡子の指導を受けていることもあり、家事全般を得意としている。特に料理は圧力鍋を使いこなし、簡単なアルコールのつまみ類を手早く作るほど手際がよく、詩子にも腕を振るっている。キャリア志向の女性と交際しており、彼女と結婚したら、家事は平等に分担してこなそうと決めているしっかり者。

篠原 ジュン (しのはら じゅん)

松尾詩子が住む地域の公立小学校に通う4年生の少年。松尾周平が登下校時の見守りスタッフのボランティアをしていた縁で顔見知りになり、その後、周平の家だと知らずに花壇に咲いていた花を引き抜こうとしたことで親しくなる。周平が作る竹細工のおもちゃが好きで、篠原ジュン自身も作ってみたいとリクエストをし、頻繁に松尾家に出入りするようになる。その一方でジュンの母からは、周平と必要以上に親しくすることを快く思われていないが、ジュン本人は気づいていない。母子家庭で育ったため、ジュンの母のことを大切にしている。幼稚園生の時、藤本沙織が担任を受け持つクラスに在籍したことがある。

ジュンの母 (じゅんのはは)

篠原ジュンの母親。松尾詩子が住む地域に住んでいる女性。周囲に頼れる人がいない中、シングルマザーとして必死にジュンを育てている。ジュンが登下校時の見守りスタッフのボランティアをしている松尾周平に懐いていることに対して、最初は気にしていなかったが、次第に負担に感じるようになる。さらにジュンからのリクエストを受けた周平が、自宅に竹細工のおもちゃを届けに来たことで、私生活に干渉しすぎだと周囲に吹聴するようになる。周平の前では感謝をしている素振りを見せているが、ジュンの母の本心を知っている藤本沙織からは距離を置かれている。

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