概要・あらすじ
青森で祖母と2人貧しく暮らす高校3年生、海鹿耕治(コージ)。歌だけが取り柄の彼は失恋を機に故郷を飛び出し、演歌歌手を目指して東京へ。みれん横丁を根城にするギタリストのオキナワと意気投合し、2人でプロを目指す。コージはまたブローカーに騙されてストリップ劇場で働かされる東南アジア出身の女性・テレサと出会い、熱烈に愛し合う。
テレサをブローカーから救い出し、ヤクザの追っ手から逃れるため青森へ駆け落ちしようとするコージ。だがテレサはコージに歌手の夢を捨てさせまいと、警察に自首して強制送還された。やがてデビューの話が持ち上がるが、仕掛人の戊亥辰巳はオキナワとのコンビ解消を要求。
いっぽうコージをライバル視する注目の若手・羽田清次は、演歌の帝王こと北野波平の弟子となった。戊亥のせいでコージの元を飛び出したオキナワは羽田とコンビを結成し、業界最大手ソミーミュージックから華々しくデビュー。コージも中堅のピンチレコードからデビューするが、地味などさ回りに明け暮れる。
そんななかテレサが来日し、母国で裕福な医者に求愛されて迷う気持ちを告白。そしてコージと気持ちがすれ違ったまま、交通事故で入院してしまう。だが意識を取り戻したテレサは青森で開かれるコージの初リサイタルに駆けつけ、2人はその会場で結ばれた。
登場人物・キャラクター
海鹿 耕治 (あしか こうじ)
青森県出身、強い東北訛りがある。純朴で一途な性格。高校時代は貧乏で冴えない存在だったが、早くから歌で人の胸を打つ天賦の才があった。ただし上がり症で歌えなくなることがしばしばある。歌手になるため高校を中退して上京、ギタリストのオキナワこと南風原太郎とともに流しの演歌師・大野の弟子に。 オーディションイベント・「輝け!! 納涼演歌合戦ドカーン」でフリーの企画屋・戊亥辰巳の目に止まり、紆余曲折の末ピンチレコードから俺節でデビューした。両親はすでに他界。故郷で2人暮らしだった祖母によく手紙を書いている。
テレサ
ブローカーに騙され、日本でストリップ嬢をさせられていた。愛し合うようになったコージがストリップ劇場から助け出すが、2人はヤクザから追われる身に。歌手になるというコージの夢を守るため、不法就労者として警察に自首した。1年後に再来日し、母国でイギリス帰りの医師・ディックに求愛されていることをコージに告げる。 ショックを受けたコージは刹那的に朝霧峰代の元へ。テレサはその間に離れている間も変わらなかったコージの愛を知る。傷心のまま帰国しようとする直前、交通事故にあって1カ月間意識不明の重体に。ディックの真摯な介抱で目覚めた後、青森での初リサイタルに駆けつける。
南風原 太郎 (はえばる たろう)
沖縄県出身で、オキナワの仇名で呼ばれる。沖縄舞踊の芸者をしつつ体を売る母親とともに、内地を転々とする子供時代を過ごす。その間に伴奏のギターを習得した。コージの歌に心酔し、コンビでプロを目指す。だが仕掛人・戊亥辰巳の口出しでコージとの友情に亀裂が入り、後にそのライバルとなる羽田清次のパートナーに。 一時はやさぐれて麻薬密売にも手を染めるが、更生して羽田とともにデビューを果たした。
朝霧 峰代 (あさぎり みねよ)
コージ、羽田清次らが学園祭に出演した大学の女子学生。写真が趣味。仇名はマユ。偶然言葉を交わすようになったコージに惹かれ、学園祭の後もファンとして後を追う。やがてテレサが医者から求愛されていることを知って自暴自棄になったコージと、一夜をともにする。だが2人の固い絆を知って身を引くことにし、交通事故の後で意識が目覚めたテレサに青森でのリサイタルのチケットを手渡す。
大野 (おおの)
新宿を拠点に、ギター1本で夜の盛り場を回る流しの演歌師。コージ、オキナワを弟子にし、デビューするまで何かと面倒を見る。大野、演歌の帝王・北野波平、そして円温泉で小料理ゆきえを営む雪江の3人は、かつて青春時代をともに過ごした旧友同士。
北野 波平 (きたの なみへい)
演歌の帝王と呼ばれる歌手。北野波平プロダクションを有し、大勢の弟子を自宅である豪邸に住まわせている。流しの演歌師・大野の旧友。北野もかつて渋谷を拠点に流しをしていた。コージが上京して間もなく、その才能を見出す。作曲家としても知られ、今賀政美が絶命したため未完だったコージのデビュー曲・俺節の作曲を完成させた。
今賀 政美 (いまが まさみ)
演歌界を代表するベテラン作曲家。戦時中に軍歌を作ることを拒否したため、アカと呼ばれて辛酸を舐めた。コージのデビュー曲を手がけるはずだったが、急病に倒れる。コージは東京で独り暮らしをしていた今賀の初恋の相手・江刺ソ子を見つけ出し、臨終を看取らせた。絶筆となった未完の曲・俺節を北野波平が仕上げ、合作としてクレジットされる。
羽田 清次 (はねだ せいじ)
インディーズの帝王と呼ばれたロックボーカリストだったが、コージの歌を聞いて演歌に転向。以後、コージを乗り越えるため切磋琢磨する。北野波平の弟子となった後、オキナワをパートナーとしてソミーミュージックからデビューした。
唐名 新政 (からな あらまさ)
戊亥企画の新人マネージャー。新卒で就職に失敗したところを身内のつてで戊亥辰巳に雇われた。無気力な若者だったが、コージの歌に感銘を受けてマネージャー業に打ち込むように。
戊亥 辰巳 (いぬい たつみ)
フリーの企画屋。戊亥企画を営む。業界では仕掛人として有名だが、資金力がない。元アイドル・寺泊行代とコージのデュエットを企画するが、実現しなかった。戊亥が雇った新人マネージャー・唐名新政がコージのため奔走し、ピンチレコードでのデビューを掴む。
浜田山 翔 (はまだやま しょう)
ピンチレコードのディレクター。不人気な演歌部門に飛ばされていた。当初は羽田清次を獲得しようと奮闘するが、コージの才能に惚れ込んでそのデビューを後押しする。寺泊行代の元恋人。
場所
みれん横丁 (みれんよこちょう)
『俺節』に登場する場所。戦後昭和の面影を色濃く残す場末の飲屋街。場所は新宿の一角。食い詰めた者が吹き溜まるドヤ街でもある。オキナワがそのスナックの2階に住んでおり、上京したコージも部屋を借りて住み着いた。だがコージはデビューに際してみれん横丁を出ろと言われ、西荻窪のワンルームマンションをあてがわれる。