作品の概要
基本情報
眉月じゅんの『恋は雨上がりのように』に次ぐ連載作品。
要旨と舞台設定
舞台は、宇宙空間にもう一つの地球「ジェネリック地球(テラ)」が建設された近未来の、香港の九龍城砦をモチーフにした雑然とした街「九龍」。不動産会社「旺来地産公司」で働く女性、鯨井令子が、同僚の工藤発への思いを抱きながら、自身の記憶の欠如や自分と同一の存在を知り、自らと向き合う過程が描かれる。
ストーリー展開
物語は、令子が自分の過去の記憶がないことに気づくところから始まる。さらに彼女は、自分と同じ姿をした女性を発見し、自身のアイデンティティや九龍という街の謎に直面する。そして、蛇沼みゆきをはじめとする謎めいた人々との交流を通じて、「九龍」の正体や登場人物の関係性が徐々に明らかになっていく。
ジャンル的特徴と位置づけ
本作は、ミステリー要素を盛り込んだSFラブストーリー。記憶操作技術や複製人間といったSF的設定を背景に、大人の恋愛模様が展開される。ノスタルジックな日常空間とハイテクノロジーが融合した独特の世界観が、本作の大きな特徴となっている。
作品固有の表現技法と特徴
作中では、九龍城砦の密集した建築物を精密に再現した世界設定が見どころ。また、時間の流れを感じさせない「永遠の夏」の雰囲気演出や、スイカやタバコなど象徴的な小道具を用いた心理描写など、独自の表現技法が用いられている。東アジア的な街並みと文化要素を随所に取り入れた異国情緒あふれる世界観が形成されており、どこか感じられる「ノスタルジー」が本作の重要なテーマとなっている。
世界観の構築と設定
本作では、実在した九龍城砦(1994年に解体)をベースにしたコンクリート迷宮と、アジア的な雑踏を再現した空間が独自の世界観を構築している。この世界では「404 Not Found」などのコンピュータ用語が壁に貼られたお札に書かれていたりと、現実と仮想の境界が曖昧になっている。
連載状況
集英社「週刊ヤングジャンプ」2019年49号から連載。
受賞
2020年「このマンガがすごい!2021」オトコ編第3位。
メディアミックス情報
テレビアニメ
2025年4月から6月までテレビ東京系列ほかにて放送。アニメーション制作はアルボアニメーション。主人公の鯨井令子を白石晴香、工藤発を杉田智和が演じる。
実写映画
2025年8月29日公開。監督は池田千尋。主人公の鯨井令子を吉岡里帆、工藤発を水上恒司が演じる。
あらすじ
第1巻
東洋の魔窟と呼ばれる九龍城砦。その上空には、人類の新天地と期待されるジェネリック地球(テラ)の建設が進められていた。そんな九龍城砦で不動産店に勤務する鯨井令子は、2歳下の同僚、工藤発に恋をしていた。令子と工藤はノスタルジーあふれる九龍の街を、そしてそこで暮らす人々を、そこで味わえる食を愛していた。ある日、事務所のソファで居眠りしていた工藤を起こそうとした令子は、寝ぼけた工藤に抱きしめられ、キスされる。すると工藤は誰かと間違えたと言って令子に謝り、その場を立ち去る。その後、令子は工藤の机に自分と工藤との撮った覚えのない写真を見つける。戸惑いながらも向かった喫茶店で、店員の男性が令子の持っていたその写真に気づき、声をかける。その写真は令子と工藤の婚約記念として、その店員がその喫茶店で撮った写真だと聞かされ、令子は困惑する。
第2巻
撮った覚えのない、工藤発との婚約記念写真に動揺した鯨井令子は、呆然として九龍の街を歩いているところを、知り合いの楊明に声をかけられる。楊明の自室に招かれた令子は、記憶にない写真のこと、そして写真だけではなく、過去の自分をまったく思い出せないことを話すのだった。楊明はそんな令子を慰めつつ、工藤に直接聞いて確かめることを提案するが、工藤に惚れている令子にはそれができなかった。そして楊明は、工藤が令子の記憶が戻るのを待っているのではないかと仮説を立てる。その後、令子は婚約記念写真を撮ってくれた喫茶店の店員を訪ねるが、店員は既に店を辞めており、話を聞くことはできなかった。そんな中、女性に人気の美容と健康の複合施設「蛇沼総合メディカル」が九龍にオープンする。店の優待券をもらった令子は、施設へと赴き、院長である蛇沼みゆきによる診断を受ける。しかし、なぜか蛇沼は令子に異様な関心を示し、その不気味さにたじろいだ令子は施設を逃げ出すように立ち去るのだった。後日、九龍にクリニックをもう一店舗増やすという名目で、蛇沼は令子が働く不動産店を訪ね、工藤の目の前で令子にキスをする。
登場人物・キャラクター
鯨井 令子
九龍城砦にある不動産店に勤務する独身女性。九龍城砦のマンションで一人暮らしをしている。年齢は32歳。ショートカットで左の目じりにホクロがある。最近は加齢による目じりのしわを気にしている。以前は眼鏡をかけていたが、視力が2.0まで戻り、眼鏡を外すようになった。九龍の街や人、食をこよなく愛しており、スイカを食べながらタバコを吸うのを好む。もともとは日本支店から九龍支店へ異動してきた工藤発の先輩として、仕事や九龍の街のことを教えた。工藤とは婚約までしたようだが、現在の鯨井令子には過去の記憶がいっさいない。工藤の先輩だった記憶もないため、現在は工藤には敬語で話す。現在も工藤に恋している。楊明からは「レコぽん」「レイぽん」と呼ばれる。
工藤 発 (くどう はじめ)
日本支店から九龍支店へ異動してきた男性。鯨井令子と李支店長の三人で小さな不動産店に勤務している。年齢は30歳。令子と同様、九龍の街や人、食をこよなく愛している。もともとは令子の職場の後輩で、令子と婚約までしたようだが、令子の記憶がまったくないことと関係しているのか、そのことはいっさい話さない。
李支店長 (りーしてんちょう)
九龍城砦にある不動産店に勤務する男性。支店長を務めている。背が低くて太った体型をしている。残業も大切だが、充実したプライベートこそがよい仕事を連れてくるということをモットーとしており、午後6時の定時には必ず退社する。
小黒 (しゃおへい)
九龍の靴屋や映画館など、さまざまな店でアルバイトをしている若い女性。小柄な体型で頭をお団子にしており、かわいらしいチャイナ系のドレスを着ていることが多い。鯨井令子、工藤発とは顔なじみ。
楊明 (ようめい)
九龍城砦で一人暮らしをしている独身女性。「楊明」という名前ながら、見た目は西洋人。ジェネリック地球(テラ)のマスコットである、ジェネテラちゃんのぬいぐるみをミシンで作る内職をしている。しかしノルマがキツく、部屋がジェネテラちゃんのぬいぐるみで一杯になっているところを鯨井令子、工藤発、小黒に救出された。その後、街で令子に偶然出会った際に、令子の記憶がないという話を聞き、以後なかよくなる。全身を整形しており、過去を捨てたと話しているが詳細は不明。
蛇沼 みゆき (へびぬま みゆき)
美容や製薬などを手掛ける巨大企業「蛇沼グループ」の代表取締役を務める男性。リーゼントの髪型にスーツを身にまとい、蛇のような鋭い目と、大きく二つに分かれた舌を持つ。父親の製薬会社を引き継いで蛇沼グループを急成長させ、自らが院長を務める美容カウンセリングは女性に大人気となっている。のちに、九龍にも美容と健康の複合施設「蛇沼総合メディカル」をオープンさせた。優待券でカウンセリングを受けにきた鯨井令子になぜか異様な関心を示し、後日令子の職場を訪ねてきて令子にキスする。
書誌情報
九龍ジェネリックロマンス 11巻 集英社〈ヤングジャンプコミックス〉
第1巻
(2020-02-19発行、978-4088914886)
第2巻
(2020-07-17発行、978-4088915326)
第3巻
(2020-11-19発行、978-4088917283)
第4巻
(2021-02-19発行、978-4088918297)
第5巻
(2021-06-18発行、978-4088920122)
第6巻
(2021-11-19発行、978-4088921310)
第7巻
(2022-05-18発行、978-4088922713)
第8巻
(2022-12-19発行、978-4088924335)
第9巻
(2023-10-19発行、978-4088928630)
第10巻
(2024-10-18発行、978-4088932675)
第11巻
(2025-04-17発行、978-4088937151)







