概要・あらすじ
美飛の住む港町には、こんな言い伝えがある。「その昔、人魚が不思議な力を使って、港の船を沈めてしまった」と。以来、人魚は不吉の象徴として恐れられてきた。美飛は人魚を怖がる水泳教室の子供たちに「人魚は優しくてキレイなんだよ」と教えていた。なぜなら7年前、海で溺れた美飛を助けてくれたのは、人魚の男の子だったから。彼はとてもきれいな瞳をしていた。もう一度、彼に会いたいと、海に向かって人魚に呼びかけることを日課にしていた美飛。ある日美飛は、幼なじみの凪からもらった真珠を落とし、拾おうとしたときに足を滑らせ、海に落ちてしまう。波が荒くて沖に流されてしまい、溺れる寸前にあの時の人魚の男の子が助けに来てくれた。人魚の男の子は美飛から呼ばれていることを知っていたが、人間から嫌われている自分が姿を現せば、美飛に迷惑がかかると、美飛を陰ながら見守っていたのだという。人魚は美飛を助け、落とした真珠を一緒に探してくれた。美飛は瞳のキレイな人魚に「シンジュ」と名付け、海に帰ろうとする彼に「ずっと一緒にいたい」と懇願する。そこへ美飛を探していた凪が「両親が心配しているからすぐに連絡して」と美飛に声をかける。美飛が電話をかけに行き、シンジュと二人きりになった時、凪は「人魚と一緒にいれば美飛が迫害される。人間と人魚は一緒には生きられない。いますぐ消えてくれ」とシンジュに話すのだった。「やっぱり人魚(ぼく)じゃダメなんだ」とシンジュは三日月の空を見上げる。その日から彼は姿を現さなくなった。そして、満月の夜。美飛の呼びかけに答え、帰ってきたシンジュ。シンジュは美飛に足を見せた。彼は神様に「どうか人間にしてください」とお願いし、その願いを叶(かな)えてもらったのだという。こうしてまたシンジュに会えたことを喜ぶ美飛だったが、シンジュの瞳がキラキラして見えないのは、夜の闇のせいだけではない気がしていた。
登場人物・キャラクター
美飛 (みとび)
港町に住む女の子。7年前に溺れたところを人魚の男の子に助けてもらった。以来、海に向かって人魚の男の子に呼びかけることを日課にしている。まっすぐな性格でお人よし。一度信じると決めたことは信じぬく信念を持っている。両親は漁師で、飲食店でアルバイトをしている。夏休みは小さな子供たちに水泳を教える。いつもポニーテールにしている。
シンジュ
人魚の男の子。遠い海で家族とはぐれて、美飛たちの住む港町にたどり着く。7年前に溺れている美飛を助けた。美しい瞳と整った顔立ちをしている。「シンジュ」という名は美飛がつけてくれた。人魚が町の人たちから嫌われていることを知り、隠れて美飛を見守る。美飛が自分に呼びかけてくれていることが心の支えだった。
凪 (なぎ)
美飛の幼なじみの男の子。美飛と同じ港町に住み、親と共に漁に出ている。黒髪で少しつり目のぶっきらぼうな男の子。美飛のことが好きで、お嫁さんにしたいと思っている。人間を裏切った種族の人魚を敵対視している。