概要・あらすじ
大正9年、桜が咲き始めたまだ肌寒い日。東郷貿易の次男、東郷晴臣と子爵令嬢、黒川やまとの婚約が解消された。それは黒川家からの一方的な連絡で、一家はすでに街を出てしまっているという。自分に何も言わずに姿を消すなんて信じられない。そう考えた晴臣は、無人となった黒川家に忍び込む。するとそこには、荷物がたくさん残されていた。まるで夜逃げのように、最低限のものだけを持ち去った感じであった。やまとが姿を消す直前に読んでいたという雑誌の中に、晴臣は「月読の謎」という記事を見つける。それは、夜になると瞳が虹色に光る「月読」と呼ばれる子供たちの記事だった。晴臣には思い当たる節があった。ある夜、「月の光が虹色だ」と言いながら微笑んでいたやまとの瞳は、確かに虹色だったのだ。晴臣は、その記事を書いた元新聞記者の柏木のもとを訪ねた。柏木が言うには、「月読」というのは15歳になると「性」を失う少年少女のことだった。消えた月読は誘拐されたか、保護施設にいるのではという。月読は高額で売れるため、密猟者に狙われているらしい。しかし、やまとの場合は、服が持ち出されているため、おそらく保護施設だろうと柏木は推測した。そして、保護施設で恋をすることによって、月読は再び「性」を得るのだという。それを聞いた晴臣は、やまとが誰かを好きになる前に、必ず彼女を連れ戻すことを心に誓うのであった。
登場人物・キャラクター
東郷 晴臣 (とうごう はるおみ)
19歳の医学部の男子学生。大企業を経営する東郷家の次男。メガネが特徴の秀才だが運動は不得意。正義感が強く、真面目で純粋な性格で、意志も強い。自分の前から突然姿を消した婚約者の黒川やまとを取り戻すために奔走する。
黒川 やまと (くろかわ やまと)
15歳の子爵令嬢。東郷晴臣の婚約者で、長髪が特徴の美少女。気が強く、物事をはっきりという性格。護身術を身に着けている。弱いくせに、身を犠牲にして自分を庇(かば)ってくれた晴臣に好意を抱く。15歳になると性別を失う「月読」という存在であり、ある日突然、月読たちの学園に転校させられる。
その他キーワード
月読 (つきよみ)
15歳から18歳までの間、夜になると瞳が虹色に光る少年少女たちのこと。15歳になると性別を失うが、恋をすることで再び性別を得ることができる。ただし、その性別は元のものとは限らない。性別を得ないまま、19歳の誕生日を迎えると、それ以降は目が光らなくなり、一生性別がないままとなる。月読は1万6000円(現在の約8000万円)という高額で売れるため、彼らを狙う密猟者も存在する。密猟者から月読を守るため、特別保護区が密かに存在し、そこに建てられた学園は、新たな性を得る場所としてと機能している。