あらすじ
第1巻
カノー男爵家の四男であるヘルメス・カノーは、一族の落ちこぼれや面汚しと蔑まれてきた。だがある日、兄たちが隕石の落下事故に巻き込まれ、帰らぬ人となってしまったことで環境が一変。怠惰な生活を愛し、まじめに働きたくないヘルメスは、家督を実の姉であるソーラに継がせようと企むが、密かに王家と取り引きしていたソーラによってヘルメスが家督を継ぐばかりか、手続きの関係からソーラの義理の父親となってしまう。そんな中、ヘルメスは思案を巡らせて家臣団にクーデターを起こさせ、自らは失脚して改めてソーラに家督を継がせようと画策する。ある日、カノー男爵家の収入の多くを賄うトリカラ鉱山からトリカラ鋼が産出されなくなったとの報告を受け、これをいい機会とばかりに、家臣団のボス格であるミミス・コーラスにきつく当たり、理不尽に謹慎を申し渡す。これでうまくいったとほくそ笑むヘルメスだったが、家臣団が持ってきた鉱石の現物を見るや否や、態度を一変させ真剣な表情で家臣団を批難する。鉱石には高価な銀が大量に含まれていたのだ。すぐさまトリカラ鋼から銀の精錬へと切り替えるよう申し渡すヘルメスだったが、その様子を見たソーラから、やっぱり本気になったヘルメスは凄いと賞賛されてしまうのだった。
第2巻
ある日、ヘルメス・カノーはソーラから、カノー男爵家に王家直属のエリート集団である監察官が訪れることを知らされる。不正を取り締まる彼らが訪れる理由は、先日、ヘルメスがうっかり本気を出して討伐してしまったスライムロードの件だった。本当にスライムロードを一人で討伐する力が、ヘルメスにあるのかを確認するためにやってきた監察官だが、その中にはあろうことかアイギス王国の王族であるリナ・ミ・アイギナの姿があった。自らも監察官として活動する彼女の前で、モンスターの耐久面を再現する魔道具「ミーミュ」によって実力を確かめられることとなったヘルメスは、手を抜いてゆっくりと5分間かけてスライムロードを焼き尽くした風を装う。その場は一応の納得を得て監察官たちは解散となったが、その晩に行われた歓待のパーティーで二人きりとなったリナから、本気を出していないことはバレバレだと苦言を呈されてしまう。いつか、本当の実力を見せて欲しいと告げるリナを前に、ヘルメスはまた実力を隠すのに失敗してしまったことを痛感するのだった。
関連作品
小説
本作『俺はまだ、本気を出していない』は三木なずなの小説『俺はまだ、本気を出していない』を原作としている。こちらは三木なずなが「小説家になろう」に投稿していた同名の作品に改訂や書き下ろしを加えたもので、ダッシュエックス文庫より刊行されている。
登場人物・キャラクター
ヘルメス・カノー
ピンドスという領地を治めるカノー男爵家の四男。家の資産を頼りに、何もしないだらけた私生活を送る怠惰な男性。ミロス、メロス、コロスという三人の兄にソーラという姉がいる。そのため、家督を継承する順位は低く、貴族としての重責からも遠い位置にいた。しかし、王国主催のパーティーに出席中の兄たちが、隕石の落下事故に遭遇して全員が死亡したことで環境が一変する。家督を継ぐつもりのなかったヘルメスだが、姉のソーラが王国と取り引きをした結果、ソーラはヘルメスの義理の娘という立場になり、ヘルメスが家督を継ぐこととなってしまう。義理の娘となった姉のソーラからは、その曖昧な関係性を表す意味合いで「弟父様」と呼ばれることもある。実は圧倒的な実力を隠しており、それがばれると面倒なので本気を出さずに怠惰な日々を過ごしたいという願望を持っている。現在もそれをあきらめておらず、ことあるごとに手を抜いて自分の信頼を落としては、ソーラに家督を引き継がせようと画策しているが、これまで一度もうまくいっていない。本気を出すと、天災級ともいわれるモンスターのスライムロードを一撃で打ち倒したり、常人が立ち入ることのできない険しい雪山に日帰りしたりと、人間離れした力を発揮する。
ソーラ
カノー男爵家の娘。ヘルメス・カノーの姉で、ヘルメス以外にも三人の兄弟がいる。だらけてばかりいるヘルメスの隠された実力を信じており、ヘルメスが本気を出すよう、常日頃からあれこれ画策している。ある日、家督を継いでいた兄を含め、ソーラ自身とヘルメス以外の兄弟が隕石の落下事故に巻き込まれ、死亡してしまう。ソーラはヘルメスに家督を継がせるため、密かに王家と取り引きして、継承権の低いヘルメスの義理の娘となった。そのため、姉でありながら娘という複雑な立ち場となっている。
リナ・ミ・アイギナ
アイギス王国の王女。王族でありながら監察官を務めており、天災とも称されるスライムロードを討伐したヘルメス・カノーの実力を確かめるため、カノー男爵家を訪れた。まじめな性格で正義感が強く、ヘルメスが魔道具「ミーミュ」を使った検分で実力を隠していることに気づいていた。
オルティア
ピンドスの娼館で働く娼婦の少女。ヘルメス・カノーが贔屓(ひいき)にしている娼婦であり、さまざまな手練手管でヘルメスにおねだりしてはわがままを聞いてもらっている。代わりに娼館で手に入る情報をヘルメスに流しており、銀の製錬技術を持った魔法使いたちを囲い込もうと画策するタダイアスの情報は大いに役に立った。名前の「オルティア」は、遥か昔に存在したとされる「賢者オルティア」に由来するもので、世界各地に同じ名前の女性が存在する。
ミデア
剣聖と呼ばれるペルセウスの孫娘。猪突猛進な性格の少女で、ペルセウスが剣を封印する原因となった者たちを襲っているうちにヘルメス・カノーのもとへたどり着いた。ペルセウスが剣を封印したことでただのスケベオヤジとなっており、セクハラの被害を受けた被害者でもある。
ミミス・コーラス
カノー男爵家に長年仕えている家臣。口髭を生やした初老の男性で、右目に片眼鏡を装着している。長年、働きもせずにだらけた生活を送っているヘルメス・カノーのことを軽蔑しており、見下すような態度を取っていた。しかし、鉱山問題の際に製錬の技術を持った魔法使いを確保できないばかりか、領内の商人に利権を牛耳られそうになったことを見抜けなかったという失態を犯す。また、ソーラの縁談候補者のリストを持ってきた際には、素性を調べきれておらず、カノー男爵家の乗っ取りを企てていた男の名前を見逃してしまうというミスを犯した。その数多くの問題を、ヘルメスが容易(たやす)く解決するのを目の当たりにし、徐々にだが態度を軟化させていく。
モーロ・コロコス
カノー男爵家を訪れた監察官の男性。長身のため、馬車から降りる際にはいつも頭を天井にぶつけてしまう。監察官としての階級は二等監察官で、王族でありながら監察官を務めるリナ・ミ・アイギナと共に、スライムロードを討伐したというヘルメス・カノーの実力の真偽を確かめるため、カノー男爵家を訪れた。
ペルセウス
剣聖と呼ばれる老齢の男性。市井にもその名を広く知られる剣術の達人で、老人ながら街道に落下した隕石を容易く斬り刻むほどの実力を誇る。その一方で、女性にだらしないスケベオヤジで、茶屋で給仕をしていた女性の尻を撫で回すなどのセクハラ行為を日常的に行っている。ミデアという孫娘がいる。
タダイアス
ピンドス領内で活動する商人の男性。カノー男爵家が領内の主要な産業をトリカラ鋼の精錬から銀の精錬へ切り替えようとしていることをいち早く察知し、領内の銀製錬技術を持った魔法使いたちを囲い込もうと画策した。あと一歩のところまでいくものの、魔法使いたちが娼館を利用したことで、娼婦であるオルティアを通して領主のヘルメス・カノーに計画が露見することとなった。
場所
ピンドス
カノー男爵家の所領。錆びない金属として有名なトリカラ鋼が産出するトリカラ鉱山を持つ。近年に入ってトリカラ鋼の産出量が減ってきており、経済的に斜陽を迎えつつあった。カノー男爵家の長男から三男までが隕石に巻き込まれる事故に遭って死亡したことにより、ヘルメス・カノーがカノー男爵家の家督と同時にこの所領を継ぐこととなった。現在は、鉱石から新たに発見された銀を主要にした産業の転換を図っている。
アイギス王国 (あいぎすおうこく)
ヘルメス・カノーが暮らす国。カノー男爵家の所領であるピンドスもこの国の一部である。王国主催のパーティーやピンドスにも頻繁に隕石が落ちるため、度重なる隕石の事故に見舞われている。カノー男爵家を監察に訪れたリナ・ミ・アイギナは、アイギス王国の王女でもある。
その他キーワード
スライム
モンスターの中でも屈指の弱さを誇ることで有名な存在。その弱さ故に滅多なことでは人的被害は出ないが、高い再生能力を誇り、一気に倒さなければ殲滅できないという特性を持つ。また、基本的には雑食であるもののなぜか人間の女性を捕まえては、その衣服だけを溶かして食べるという習性を持ち、それによってトラウマを刻まれた女性たちも少なくない。スライムは消化に悪い芋や動物の脂身といった食物を与えることで、その場に一定時間留めることができる。そういった対処法が可能なことも、人的被害が少ない要因となっている。
スライムロード
弱いモンスターとして有名なスライムの中では別格の強さを誇る、「スライムの王」と評される存在。本来は本能のままに食料を探して彷徨(さまよ)うスライムだが、スライムロードがいる場合は群れを成す習性がある。見た目はほかのスライムと変わらないが、その生命力や再生力は桁違いで、特に繁殖力は群を抜いている。そのため、1か月ばかりも放置すれば街を覆い尽くすほどに繁殖し、天災に等しい被害を人里へもたらすため、迅速な対処が必要とされる。
ミーミュ
魔道具の一種。指定したモンスターの耐久面を設定すれば、それを完全再現することが可能。冒険者ギルドなどでその人物の実力を測るために使用されている。スライムロードを討伐したとされるヘルメス・カノーの実力を測るためにミーミュを用いた。
スノードラゴンフルーツ
カノー男爵家の領内にあるケリンス山の山頂付近にある万年雪でしか取れない果物。ケリンス山は天然要塞にも例えられるほどに峻厳な山で、立ち入るにはしっかりとした装備と知識を備えた探索隊の編成が必要となる。そのため、スノードラゴンフルーツは取得自体が難しい幻の果物とされる。
トリカラ鋼 (とりからこう)
絶対に錆びないという金属。カノー男爵家の所領内に存在するトリカラ鉱山から産出する鉱石で、カノー家にとっての打ち出の小槌と揶揄されている。近年に入りトリカラ鋼の産出量が激減しており、鉱脈が尽きかけていると推測されていた。
クレジット
- 原作
-
三木 なずな
- キャラクター原案
-
さくらねこ
書誌情報
俺はまだ、本気を出していない 9巻 スクウェア・エニックス〈ガンガンコミックスUP!〉
第1巻
(2019-11-12発行、 978-4757563858)
第9巻
(2022-12-07発行、 978-4757582903)
関連リンク
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